弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中六十日を本刑に通算する。
     当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人山下豊上告趣意第一点について。
 第一審判決が所論A(第一審相被告人)に対する検察事務官の第一回供述調書の
記載を、被告人に対する事実認定の資料としていることは、論旨の指摘するとおり
である。しかし、右調書記載のAの供述が強制又は拷問によるものたることを窺う
に足る証跡は記録上存在しないのである。論旨は右供述は同人が警察署において巡
査に毆打された結果、自白したものをそのまま供述したに過ぎないものであるから、
結局強制又は拷問による供述といわなければならないと主張する。しかし、仮りに
警察署において所論のような取調があつたとしても、その取調の際における供述と
同趣旨であるとの一事から、前示検察事務官の面前における供述まで、強制又は拷
問による供述であると即断することはできない。のみならず右Aが警察署において
所論のような取調を受けたということ自体については、唯同人が第一審第五回公判
において、「警察の取調の時巡査に毆打されカツトなつてCと二人でやつたといつ
た」と供述しているだけであつて、他にこれを裏書するに足る証左は記録上あらわ
れていない。そして第一審裁判所は勿論原審もまた同人の右公判における供述はこ
れを措信しなかつたものと認められるのである。されば前示検察事務官の供述調書
中のAの供述が強制又は拷問によるものたることを前提とする所論は既にこの点に
おいてその理由なきこと明白であり、論旨は憲法違反を云爲するけれども、存在し
ない事実を前提とするものであり上告適法の理由とならない。
 同第二点について。
 しかし、原審は所論の略図そのものを事実認定の資料としたものではなく、被告
人が警察署における取調に際し詳細に窃盗の事実を述べた上、犯行当時における被
告人及び第一審相被告人Aの位置などを明確にするため所論の略図を書いたという
事実を証人Bの証言によつて認定し、この事実を考慮に入れて他の証拠と相俟つて
被告人が
Aと共謀の上第一審判決判示第二の窃盗を敢行したものたることを推断したに外な
らないのである。この事は原判決の理由説示を一読して容易に了解し得るのである。
されば、原判決が所論の略図そのものを、事実認定の資料としたことを前提とする
所論は、その前提たる事実を欠き、單なる訴訟法違反の主張としても採用し難いも
のであるから明らかに刑訴四〇五條所定の上告適法の理由とならない。
 よつて刑訴四一四條三八六條一項三号、一八一條一項、刑法二一條に従い主文の
とおり決定する。この決定は裁判官全員の一致した意見である。
昭和二六年一月二五日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔

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