弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人佐藤善博,同北原雄二,同星名優の上告趣意は,憲法違反,判例違反をい
う点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であり,被告人本人の上告趣
意は,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらな
い。
なお,所論に鑑み,証人尋問中に被害再現写真を示すことを許可してこれを訴訟
記録に添付するなどした第1審の訴訟手続の適否について職権で判断する。
1原判決及び記録によれば,本件訴訟の経過等は,次のとおりである。
(1)本件は,電車内における痴漢行為(強制わいせつ)の事案であるところ,
第1審の期日間整理手続において,検察官は,立証趣旨を「被害の再現状況等」と
する捜査報告書(甲7号証)及び立証趣旨を「被害再現状況等」とする実況見分調
書(甲13号証)の証拠調べを請求したが,弁護人は,これらの証拠について,い
ずれも証拠とすることに同意しないとの意見を述べた。
検察官は,これを受けて立証趣旨を「被害者立会による犯行再現時の写真につい
て」とする捜査報告書2通(甲24,25号証。甲7,13号証の写真部分をまと
めたもの)の証拠調べを請求したが,弁護人は,これらの証拠についても証拠とす
ることに同意しないとの意見を述べた。その後,検察官は,上記捜査報告書2通に
添付された写真を証拠物として証拠請求する意向を示したが,これに対し弁護人
は,再現写真は供述証拠であるから,証拠物として請求することには反対であり,
証人尋問において示すことも同意できない旨の意見を述べた。
(2)第1審第3回公判期日において,被害者の証人尋問が実施され,検察官
は,痴漢被害の具体的状況,痴漢犯人を捕まえた際の具体的状況,犯人と被告人の
同一性等について尋問を行い,動作を交えた証言を得た後,被害状況等を明確にす
るために必要であるとして,捜査段階で撮影していた被害再現写真(甲24,25
号証の写真部分。犯人を検挙した状況を再現した写真も含む。)を示して尋問する
ことの許可を求めた。
弁護人は,その際,写真によって証言のどの部分が明確になるかということが分
かるように尋問することを求めたが,写真を示すこと自体には反対せず,裁判官
は,再現写真を示して被害者尋問を行うことを許可した。
そこで,検察官は,被害再現写真を示しながら,個々の場面ごとにそれらの写真
が被害者の証言した被害状況等を再現したものであるかを問う尋問を行い,その結
果,被害者は,被害の状況等について具体的に述べた各供述内容は,再現写真のと
おりである旨の供述をした。
上記公判期日終了後,裁判所は,尋問に用いられた写真の写しを被害者証人尋問
調書の末尾に添付する措置をとったが,添付することに同意するかどうかを当事者
に明示的に確認しておらず,その後もこれらの写真は証拠として採用されていな
い。
(3)第1審判決は,主として被害者の証言により,被告人の電車内での強制わ
いせつ行為を認定した。
(4)原判決は,本件被害再現写真は,供述を明確にするにとどまらず,犯行当
時の状況に関して,独自の証明力を持つものであり,独立した証拠として扱うかど
うかを明確にすることなく,これを漫然と調書に添付することは,当該写真の証拠
としての位置付けに疑義を招くおそれがあって相当ではないとした上で,第1審判
決が写真を独立の証拠として扱い,実質判断に用いたというような事情は認められ
ず,また,被害者供述は,上記写真の調書添付に左右されずに,十分信用に値する
ものであるから,第1審の措置に,判決に影響を及ぼすような訴訟手続の法令違反
はないと判断した。
2所論は,検察官が示した被害再現写真は伝聞法則の例外の要件を具備せず,
証拠として採用することができない証拠であって,このような写真を尋問に用いて
記録の一部とすることは,伝聞証拠について厳格な要件を定めていることを潜脱す
る違法な措置であり,これが事実認定に影響を及ぼすことは明らかであると主張す
る。
(1)本件において,検察官は,証人(被害者)から被害状況等に関する具体的
な供述が十分にされた後に,その供述を明確化するために証人が過去に被害状況等
を再現した被害再現写真を示そうとしており,示す予定の被害再現写真の内容は既
にされた供述と同趣旨のものであったと認められ,これらの事情によれば,被害再
現写真を示すことは供述内容を視覚的に明確化するためであって,証人に不当な影
響を与えるものであったとはいえないから,第1審裁判所が,刑訴規則199条の
12を根拠に被害再現写真を示して尋問することを許可したことに違法はない。
また,本件証人は,供述の明確化のために被害再現写真を示されたところ,被害
状況等に関し具体的に証言した内容がその被害再現写真のとおりである旨供述して
おり,その証言経過や証言内容によれば,証人に示した被害再現写真を参照するこ
とは,証人の証言内容を的確に把握するために資するところが大きいというべきで
あるから,第1審裁判所が,証言の経過,内容を明らかにするため,証人に示した
写真を刑訴規則49条に基づいて証人尋問調書に添付したことは適切な措置であっ
たというべきである。この措置は,訴訟記録に添付された被害再現写真を独立した
証拠として扱う趣旨のものではないから,この措置を決するに当たり,当事者の同
意が必要であるとはいえない。
そして,本件において証人に示した被害再現写真は,独立した証拠として採用さ
れたものではないから,証言内容を離れて写真自体から事実認定を行うことはでき
ないが,本件証人は証人尋問中に示された被害再現写真の内容を実質的に引用しな
がら上記のとおり証言しているのであって,引用された限度において被害再現写真
の内容は証言の一部となっていると認められるから,そのような証言全体を事実認
定の用に供することができるというべきである。このことは,被害再現写真を独立
した供述証拠として取り扱うものではないから,伝聞証拠に関する刑訴法の規定を
潜脱するものではない。
(2)以上によれば,本件において被害再現写真を示して尋問を行うことを許可
し,その写真を訴訟記録に添付した上で,被害再現写真の内容がその一部となって
いる証言を事実認定の用に供した第1審の訴訟手続は正当であるから,伝聞法則に
関する法令違反の論旨を採用しなかった原判決は結論において是認できる。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官金築誠志裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官
横田尤孝裁判官白木勇)

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