弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告A,同E,同B及び同Dは,原告に対し,連帯して,10億円及びこれに対す
る平成11年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告A,同E,同B,同F及び同Dは,原告に対し,連帯して,20億円及びこれ
に対する平成11年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
(3) 被告G,同C及び同Aは,原告に対し,連帯して,10億円及びこれに対する平
成11年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(5) 仮執行宣言
2 本案前の答弁
(1) 本件訴えを却下する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
3 請求の趣旨に対する答弁
 主文と同旨
第2 事案の概要
本件は,経営破綻した株式会社北海道拓殖銀行から債権の譲渡を受けた原告
が,同銀行の取締役であった被告らに対し,被告らが取締役の負う善管注意義務・
忠実義務に違反する融資を実行したことによって同銀行が多額の損害を被ったと
主張して,商法266条1項5号に基づき,損害金及びこれに対する訴状送達の日
の翌日以後の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められ
る事実。認定に用いた証拠は各項に記載した。なお,以下,号証番号のもとに枝番
号のある書証について,号証番号のみを示して枝番号を明示しない場合には,そ
の号証番号のもとにある枝番号の書証すべてを含むものとして表記する。)
(1) 当事者など
ア 原告
株式会社住宅金融債権管理機構は,平成11年4月1日,本件訴え提起当
時の原告であった株式会社整理回収銀行を合併し,商号を現在の原告の商
号に変更した。
イ 株式会社北海道拓殖銀行(以下「拓銀」という。)
拓銀は,明治33年2月16日,北海道拓殖銀行法に基づき設立され,昭和
25年,普通銀行に転換し,昭和30年,都市銀行に加入し,昭和50年代に
は,国内外に200を超える本店・支店などの拠点網を有していたが,平成9年
11月17日,経営が破綻した。
ウ 被告A(以下「被告A」という。)
被告Aは,平成元年4月1日から平成6年6月28日まで拓銀の代表取締役
頭取であった。
エ 被告E(以下「被告E」という。)及び被告B(以下「被告B」という。)
被告E及び同Bは,平成元年4月1日から平成5年6月28日まで,拓銀の
代表取締役副頭取であった。
オ 被告D(以下「被告D」という。)
被告Dは,平成元年4月1日から平成4年6月25日まで拓銀の常務取締
役,同月26日から平成5年6月28日まで拓銀の専務取締役,同月29日から
平成6年6月28日まで拓銀の代表取締役副頭取,同月29日から平成9年11
月20日まで拓銀の代表取締役頭取であった。なお,平成元年4月1日から平
成2年6月28日まで業務本部長を兼任していた。
カ 被告F(以下「被告F」という。)
被告Fは,平成3年6月27日から平成6年6月28日まで拓銀の代表取締役
副頭取であった。
キ 被告G(以下「被告G」という。)
被告Gは,昭和52年10月から昭和58年3月31日まで拓銀の代表取締役
副頭取,同年4月1日から平成元年3月31日まで拓銀の代表取締役頭取で
あった。
ク 被告C(以下「被告C」という。)
被告Cは,昭和58年6月29日から昭和59年5月31日まで拓銀の専務取
締役,同年6月1日から昭和63年3月31日まで拓銀の代表取締役副頭取で
あった。
ケ 株式会社エスコリース(以下「エスコリース」という。)
エスコリースは,昭和41年3月5日に設立され,その主な営業を当初は,機
械及び車両などのリースとしていたが,昭和50年,土地投機に失敗したことな
どから経営が破綻し,拓銀と日本リース株式会社の支援の下で再建すること
になった。
拓銀は,そのころ,エスコリースに対し,資本参加をするとともに,昭和50
年1月29日,エスコリースに人材を送り込むこととし,エスコリースの代表取締
役社長として拓銀OBであるH(以下「H」という。)を,エスコリースの取締役と
して拓銀の行員であったI(以下「I」という。)を派遣し,同月31日,エスコリース
との間で銀行取引約定書を交わした。
コ 株式会社イージーキャピタルアンドコンサルタンツ(以下「ECC」という。)
ECCは,昭和58年2月23日,中小企業向けの金融と企業経営コンサルタ
ントをうたい文句として設立された株式会社である。
ECCの代表者であるJ(通称はK。以下,証拠中で通称が使用されているこ
とが多いので,「K」という。)は,当時,大阪難波で焼鳥屋チェーン店である
「五えんや」を経営していた。
ECCの中小企業に対する貸付原資は,エスコリースが融資していた。
(甲B第20号証)
サ 日伯株式会社(以下「日伯」という。)
日伯は,昭和25年4月11日に設立され(なお,設立時から昭和63年2月5
日までの商号は「日伯貿易株式会社」であった。),その主な営業目的を飲食
店や旅館の経営とする株式会社である。
かつてKが日伯の経営する料亭で板前として勤務していた経緯から,Kの
紹介により,拓銀は,昭和56年から日伯の代表者L個人と与信取引を始め,
昭和58年11月から,日伯と与信取引を始めた。
(甲C第1号証,第54号証,第68号証)
(2) 拓銀における融資手続
ア 授信権限の範囲
拓銀では,昭和59年7月1日から平成8年3月15日までの間,権限規程に
おいて,一般取引先について次のとおり授信権限の区分を定めていた。
(ア) 頭取,副頭取と担当取締役(又は担当本部長)の合議
融資残高30億円超
(イ) 担当本部長又は担当取締役   融資残高20億円超30億円以下
(ウ) 本部部長           融資残高6億円超20億円以下
(エ) 審査役            融資残高6億円以下
(甲A第4,第5号証)
イ 投融資会議
 拓銀では,「投融資会議について」と題する規程(昭和59年8月14日制定・
実施)により,担当本部長の権限(同日から平成8年3月15日の規程改正ま
では同一人に対する授信残高30億円である。)を超える案件は,頭取,副頭
取,担当本部長により構成される投融資会議において決定することとされてい
た。
(甲A第4号証)
(3) 本件融資①
ア 拓銀は,平成3年4月30日,エスコリースに対し,エスコリースの外国銀行に
対する約定弁済金及び国内銀行に対する利息金の支払のための資金(いわ
ゆる肩代わり資金)として,37億円を融資した(以下「本件融資①」という。)。
(甲B第4ないし第7号証)
イ 被告A,同E,同B及び同Dは,本件融資①を承認する旨の決裁をした投融
資会議の構成員であった。
ウ 原告の請求の趣旨(1)は,本件融資①によって拓銀が被ったとされる損害金
の一部の支払を上記イの被告らに対して求めるものである。
(4) 本件融資②ないし④
ア 拓銀は,エスコリースに対し,エスコリースの運転資金として,平成3年6月2
8日,22億8700万円を融資し(以下「本件融資②」という。なお,同年7月24
日に2億8700万円の返済を受けた。),同年7月31日,7億円を融資した(以
下「本件融資③」という。)。
(甲B第8ないし第12号証)
拓銀は,平成4年3月31日,エスコリースに対し,エスコリースの国内銀行
に対する弁済金の支払のための資金(いわゆる肩代わり資金)として,80億6
500万円を融資した(以下「本件融資④」という。)。
(甲B第15,第16号証)
イ 被告A,同E,同B,同F及び同Dは,本件融資②ないし④の融資を承認する
旨の決裁をした投融資会議の構成員であった。
ウ 原告の請求の趣旨(2)は,本件融資②ないし④によって拓銀が被ったとされ
る損害金の一部の支払を上記イの被告らに対して求めるものである。
(5) 本件融資⑤
ア 日伯は,ECCから,昭和62年7月3日ころ,35億円を借り入れて,ゴルフ場
建設計画に着手した。
イ 拓銀は,昭和62年12月10日,日伯に対し,日伯のECCに対する上記借入
金などの支払のための資金(いわゆる肩代わり資金)として,39億2000万円
を融資した(以下「本件融資⑤」という)。
(甲C第2号証,第5号証)
ウ 被告G,同C及び同Aは,本件融資⑤を承認する旨の決裁をした投融資会議
の構成員であった。
エ 原告の請求の趣旨(3)は,本件融資⑤によって拓銀が被ったとされる損害金
の一部の支払を上記ウの被告らに対して求めるものである。
(6) 債権譲渡
拓銀の代表取締役は,平成10年11月11日,原告との間で,効力発生日を
同月16日とする「資産買取契約書」を交わして資産売買契約を締結し,もって,
拓銀の被告らに対する債務不履行に基づく損害賠償債権を原告に対して譲渡し
(以下「本件債権譲渡」という。),同年12月3日ないし同月14日ころ,被告らに
対し,その旨を通知した。
(甲A第2,第3号証)
(7) 追認
拓銀の監査役は,平成12年2月8日,拓銀の代表取締役のした本件債権譲
渡及びそれに付随する一切の行為を追認し,同月10日ないし12日ころ,被告ら
に対し,その旨を通知した。
(甲A第6ないし第13号証)
2 争点
(1) 拓銀の代表取締役によってされた本件債権譲渡は,有効か。株式会社がその
取締役に対する損害賠償債権を譲渡する場合に,その権限は,代表取締役に
あるか,それとも,監査役にあるか。
(2) 銀行の取締役の融資に関する注意義務の内容について,銀行の一般的な特
性からどのようなものと考えられるか。
(3) 被告A,同E,同B及び同Dは,本件融資①を承認する旨の決裁をしたことにつ
いて,商法254条3項,民法644条の定める善管注意義務及び商法254条の
3の定める忠実義務(以下,上記善管注意義務及び忠実義務をまとめて「善管
注意義務等」ということがある。)に違反したとして,商法266条1項5号に基づく
損害賠償義務を負うか。
(4) 被告A,同E,同B,同F及び同Dは,本件融資②ないし④を承認する旨の決裁
をしたことについて,善管注意義務等に違反したとして,商法266条1項5号に
基づく損害賠償義務を負うか。
(5) 被告A,同G及び同Cは,本件融資⑤を承認する旨の決裁をしたことについ
て,善管注意義務等に違反したとして,商法266条1項5号に基づく損害賠償義
務を負うか。
(6) 本件融資⑤に係る貸付金の弁済(貸替え又は切替)によって損害賠償債務が
消滅したものといえるか。
(7) 本件融資⑤についての善管注意義務等違反行為と損害との間に因果関係が
あるか。
(8) 本件融資⑤に関する損害賠償債権は,消滅時効期間の経過によって消滅した
か。
3 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)(本件債権譲渡の有効性など)について
(被告らの主張)
株式会社が取締役に対して訴えを提起する場合,監査役が株式会社を代
表する(商法275条の4)。取締役と株式会社とのなれ合いの防止という同条
の趣旨を全うするためには,監査役が訴えを提起するかどうかを判断する権
限を有する以上,株式会社の取締役に対する債権を処分する権限もまた監査
役が有すると解すべきである。本件では,拓銀の監査役が原告に対して債権
を譲渡した事実はないから,原告は,原告適格を有しない,又はいまだ損害賠
償債権を取得していない。
(原告の主張)
ア 商法275条の4の立法趣旨は,取締役と株式会社との間の利益の衝突
及びなれ合い的な訴訟追行の防止にあるところ,株式会社の取締役に対す
る損害賠償債権が第三者に譲渡された場合には,利益の衝突やなれ合い
的な訴訟追行は起こらない。また,同条の4が,本件のような裁判外の債権
譲渡について,代表取締役の代表権を排除した規定とは解されない。
イ 仮に,本件債権譲渡が権限のない拓銀の代表取締役によってされたこと
によって無効であるとされるとしても,それは,無権代理行為であることにな
るところ,拓銀の監査役は,平成12年2月8日,拓銀の代表取締役のした
本件債権譲渡及びこれに付随する一切の行為を追認し,同月12日までに
被告らにその旨を通知したから,本件債権譲渡及びこれに付随する一切の
行為は,この追認によって有効となった。
(2) 争点(2)(銀行の取締役の融資に関する注意義務)について
(原告の主張)
ア 銀行の健全性,安全性と取締役の注意義務の内容
被告らは,拓銀の取締役として,善管注意義務(商法254条3項,民法6
44条)及び忠実義務(商法254条の3)を負う。
銀行は,我が国の金融システムの中核に位置しており,銀行の行う預金
又は定期積金の受入れ,資金の貸付け,為替取引などの業務は,経済活
動において重要な役割を担っている。このような銀行の機能と社会における
役割を重視し,銀行法は,銀行業務の公共性を規定しており,同法によれ
ば,銀行は,信用の維持,預金者の保護,金融の円滑のために,銀行の業
務の健全かつ適正な運営をすることが期待されている。したがって,銀行の
運営に当たっては,銀行の健全性,安全性の維持が最高の使命とされなけ
ればならない。
そして,商法266条1項5号の「法令」には銀行法も含まれると解される
から,同法の要請する銀行の健全性,安全性維持の原則に反する行為をし
た取締役は,法令違反行為をしたものとして,商法266条1項5号に基づき
株式会社に対する責任を問われることになる。
イ 銀行の取締役の経営判断における裁量
銀行の取締役の経営判断における裁量は,銀行の健全性,安全性の維
持の観点から,一般の営利企業に比べて限定されるべきである。
(被告らの主張)
原告の主張は争う。
銀行の取締役が一般の営利企業の取締役に比べて重い注意義務を負担
すると解するべきではない。
(3) 争点(3)(本件融資①)について
(原告の主張)
被告A,同E,同B及び同Dには,次のとおり,本件融資①を承認する旨の
決裁をしたことについて,善管注意義務等の違反があり,これにより,拓銀に
対し,エスコリースから30億0441万5258円の貸付債権を回収できないとい
う損害を被らせた。
ア 業況が悪化した企業に対する融資においては,当該企業の再建可能性,
融資の回収可能性,短期的な損失を上回る中長期的な利益について十分
検討をする必要がある。
しかし,エスコリースの再建可能性は,主として,エスコリースが約2000
億円を貸し付けているECCからの貸付金の回収可能性にかかるところ,E
CCの業務実態などに照らすと,エスコリースがECCからの貸付金を回収で
きる可能性は低く,結局,エスコリースの再建可能性はなかった。
また,本件融資①の資金使途は,エスコリースの他の金融機関への約定
弁済金及び利息金の返済(いわゆる肩代わり弁済)であり,融資金の返済
原資は全く予想されていなかったもので,融資金の回収可能性はなかっ
た。
そして,本件融資①の資金のうちの23億円は,エスコリースの外国銀行
に対する約定弁済金の支払を肩代わりすることを目的としていたが,外国
銀行のみに対して,約定弁済金の支払を肩代わりする理由はなかった。
さらに,拓銀がエスコリースから本件融資①に係る貸付金37億円を回収
できないとしても得られる中長期的な利益はなかった。
イ 本件融資①に際しては,拓銀はエスコリースから不動産について極度額4
0億円の根抵当権の設定を受け,また,リース債権のうち金額25億円相当
のものについて譲渡担保権を設定することとされていたが,上記根抵当権
の対象となる不動産の実効担保価格は融資時の申請書によれば7億円
(後の調査によれば11億3100万円)であり,上記リース債権についても債
務者に対する譲渡通知を留保することとしたため,いずれも,担保として十
分ではなかった。
ウ 本件融資①の目的は,エスコリースを形式上つぶさないこと,他の金融機
関への返済資金を補給することで他の金融機関が独自の債権保全に動く
ことを防止し,さらに,エスコリースの破綻により被告らの責任問題が明らか
になることを避けて自らの地位の保全を図ることにあった。
エ したがって,原告は,被告A,同E,同B及び同Dに対し,商法266条1項5
号に基づく損害賠償請求として,連帯して,本件融資①によって生じた損害
金30億0441万5258円のうちの10億円及びこれに対する訴状送達の日
の翌日以後の日である平成11年2月4日から支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告A,同E,同B及び同Dの主張)
本件融資①ないし④(以下「本件各融資」という。)は,次のとおり合理的なも
のであり,この判断に関与した被告A,同E,同B及び同Dには何ら善管注意義
務等の違反はない。
ア 本件各融資は,既に実質的に破綻状態にあったエスコリースを直ちに実際
に破綻させること(いわゆるハードランディング)によるデメリットが大きいた
め,諸々の方策を講じながらエスコリースを手順を踏んで清算させること(いわ
ゆるソフトランディング)を目的としてされた拓銀のエスコリースに対する金融
支援策の内容の一つであり,本件各融資によって,拓銀に次のとおりの利益
がもたらされた。
(ア) 拓銀が系列ノンバンクであるエスコリースに対して本件各融資をしないで
その時点で直ちにエスコリースを実際に破綻させた場合には,大きくいえば
2つの問題があった。
その一つは,エスコリースの営業内容の一つであるリース業部門は,特
に問題のない部門であったところ,エスコリースを破綻させた場合には,エ
スコリースがこのリース業部門について有する資産価値が無価値になると
ともに,リース関係者に混乱をもたらすことになることである。これを回避す
るには,エスコリースのリース業部門の受け皿会社を設立し,エスコリース
がリース業部門について有する資産をこの受け皿会社に譲渡し,これによ
って,エスコリースがリース業部門について有する資産価値に相当する売
買代金を取得することができるし,また,リース関係者に混乱をもたらすこと
もない。
もう一つは,国内金融機関から,エスコリースが拓銀の系列ノンバンクで
あると見られていたことから,拓銀がエスコリースを破綻させた場合には,
金融界や資金調達市場における拓銀の信用力は極めて低下し,拓銀は,
資金調達に困難を来たし,また,調達する資金の金利が上昇し,その損失
は年間数百億円規模に及んでしまうおそれがあり,また,たくぎん抵当証券
株式会社などの拓銀の系列ノンバンク3社も破綻するおそれがあったことで
ある。これを回避するには,本件融資①ないし④を実行するしかなかった。
(イ) 本件融資①のうちの23億円の資金使途は,エスコリースの外国銀行4
行に対する約定弁済金の支払に充てるものであって,いわゆる肩代わり弁
済に相当するものであるが,外国銀行は,銀行団による協調支援などには
一切応じることがなく,エスコリースから約定弁済金の支払を受けられなけ
ればエスコリースに対して直ちに法的手続をとることが予想された。
また,本件融資①のうちの14億円の資金使途は,エスコリースの国内銀
行(ただし,拓銀を除く。)及び生命保険会社などの金融機関に対する平成
3年4月末日の利息金の支払に充てるものであって,これもいわゆる肩代
わり弁済に相当するものであるが,これはエスコリース,拓銀及びエスコリ
ースに融資していた国内金融機関との間で,エスコリースに関する金融支
援協定を成立させるために必要なものであった。
(ウ) エスコリースは,ECCから十分な担保を取得しないままECCに対する融
資をしていたが,エスコリースを直ちに破綻させた場合にはECCからの債
権の回収が困難になることが予想された。そこで,エスコリースを直ちに破
綻させず,ECCから担保を徴するなどさせることが必要であった。
そして,エスコリースが直ちに破綻することを回避することにより,358億
円の債権回収が可能となった。
イ 本件融資①に関して,拓銀は,エスコリースから不動産について極度額40
億円の根抵当権の設定を受け,リース債権25億円相当分について譲渡担保
権の設定を受け,本件融資①の金額以上の担保手形を取得している。
ウ 拓銀は,弁護士,大蔵省,日本銀行にも相談して,慎重にエスコリースに関
する金融支援策を検討し,その内容の一つとして本件各融資があったもので
あるから,本件各融資は,合理的であった。
(4) 争点(4)(本件融資②ないし④)について
(原告の主張)
被告A,同E,同B,同F及び同Dには,次のとおり,本件融資②ないし④を
承認する旨の決裁をしたことについて,善管注意義務等の違反があり,これに
より,拓銀に対し,エスコリースから107億6500万円の貸付債権を回収でき
ないという損害を被らせた。
ア 本件融資②ないし④は,拓銀が平成3年5月ころに作成した金融支援策に
基づくものであるが,それは,支援目標設定の合理性も支援目標として掲
げられた事項(ECCの所有不動産の売却)の実現可能性もなく,損失を顕
在化させることを先送りするものであった。
イ 本件融資融②ないし④は,融資金の返済原資が全く予想されていないう
え,いずれも無担保であって,回収可能性が全くなかった。
ウ 上記金融支援策は,エスコリースに融資していた国内金融機関全部の同
意が必要であるところ,本件融資②ないし④は,その同意がないにもかか
わらずされた。
エ 本件融資④は,エスコリースに融資していた国内金融機関の一部に対す
る元利金の返済の肩代わりであって,法的には何らの義務なき負担であ
り,損失となることが明らかなものであった。
オ したがって,原告は,被告A,同E,同B,同F及び同Dに対し,商法266条
1項5号に基づく損害賠償請求として,連帯して,本件融資②ないし④によ
って生じた損害金107億6500万円のうちの20億円及びこれに対する訴
状送達の日の翌日以後の日である平成11年2月4日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告A,同E,同B,同F及び同Dの主張)
ア 前記争点(3)についての被告A,同E,同B及び同Dの主張と同じ。
イ 本件融資②及び③について
本件融資②及び③は,拓銀がエスコリースの運転資金として最低限必要
であると認めた40億円の一部である。拓銀は,エスコリースに関する金融
支援協定が成立するまでの間,エスコリースに対して最低限の運転資金を
手当てしなければならなかった。そこで,拓銀は,エスコリースに対し,40億
円の運転資金枠を設定したが,実際には,拓銀がエスコリースに融資した
運転資金は,27億円にとどまった。
ウ 本件融資④について
本件融資④は,金融機関の支援協定書に基づく各行融資の一部肩代わ
り資金であって,拓銀の策定した金融支援策を実施するための負担であっ
た。
(5) 争点(5)(本件融資⑤)について
被告G,同C及び同Aは,次のとおり,本件融資⑤を承認する旨の決裁をした
ことについて,善管注意義務等の違反があり,これにより,拓銀に対し,日伯か
ら本件融資⑤について27億5317万6340円の貸付債権を回収することができ
ないという損害を被らせた。
ア 本件融資⑤は,ゴルフ場開発資金として日伯がECCから受けた融資金の返
済肩代わり目的で日伯に対してしたものであった。
イ 銀行の融資案件の中でもゴルフ場開発は少なくとも総額70億円程度が必要
である反面,計画から完成まで数年を要し,一度融資を開始すると計画完成
まで追加支援を余儀なくされる危険性を有するため,安全性の観点から一般
融資に比し,より厳格な審査が必要である。特にバブル期はゴルフ場開発が
乱立し,他方自然保護運動の高まりもあり,自治体からの許認可取得の時間
的目処が立てにくく許認可が下りなければ莫大な資金が水泡に帰するおそれ
があるため,ゴルフ場開発融資においては何よりも開業の見通しが立つこと
が融資決定の必須条件であり,許認可の前提である自治体との事前協議が
終了するまで銀行融資は行われないのが通常である。
ところが,本件融資においては融資当時許認可のみならず行政への事前
協議書すら提出されておらず,この点に関する検討が不十分であった。
ウ 本件融資⑤の当時,本件ゴルフ場開発の許認可がないのみならず,日伯は
その前提条件である事前協議のための書類すら地元自治体(神戸市)に提出
していなかった。その理由は,当該ゴルフ場予定用地(神戸市北区道場町)が
神戸市が昭和48年に条例で定めた「近郊緑地」地域(神戸市近郊の緑を守る
ため緑地帯の開発が制限された地域)に含まれており,当該地域周辺の「近
郊緑地」の指定が神戸市により解除されなければそもそも本件用地にゴルフ
場を建設することは許されなかったからである。
そして,指定解除の客観的見通しはおろか「近郊緑地」の地域の十分な調
査・検討が具体的に行われないまま,本件融資は決裁・実行され,「近郊緑
地」指定解除の具体的見通しも立たないまま時間だけが経過し,ゴルフ場開
発に厳しい規制をかけたゴルフ場開発指導要項(平成3年9月20日施行)を
神戸市が最終的にまとめたことを受け,日伯はゴルフ場開発を断念した。
エ ゴルフ場経営は日々の収益があまり期待できず,高額商品である会員権販
売による投下資本の回収が期待されるが,その販売にはかなりのノウハウが
必要であることから,会員権販売計画の具体性・実現可能性が非常に重要で
ある。加えて,ゴルフ場開発は計画から完成まで長期間を要するプロジェクト
であるとともに,会員権の購入希望者にとっても事業運営主体の事業遂行能
力が重要な購入意思決定のポイントとなることから,事業運営主体のノウハ
ウ,体力,経験が極めて重要であり,資金調達力を含めた事業主体の企業信
用力がゴルフ場開発関連融資の必須の条件である。
ところが,日伯は料理店を経営していたに過ぎず,ゴルフ場開発のノウハウ
を全く持っておらず,代表者のLが積年の夢であるゴルフ場経営に手を出した
に過ぎないというものであった。しかも,日伯は本件融資当時本業の業績不振
で経常赤字が拡大している状況であって,昭和62年4月にL一族で保有して
いたオリンピア本店土地売却により,拓銀は,債権の全額を回収し,今後の与
信取引を解消しようとしていた。このように,日伯にはゴルフ場の事業運営主
体としての体力はなく,ゴルフ場開発案件で最も重要な事業運営主体の業務
遂行性に問題があった。
加えて,ゴルフ場開発プロジェクトの骨格となる資金計画に明確なものがな
く,およそ最終的に必要な融資額(運転資金も含む。)の調達方法も予測がつ
かない状態であった。
オ 本件融資⑤に伴って日伯から拓銀に対して提供された担保不動産の評価に
つき,拓銀はいわゆる呼び値(鑑定評価額ではなく相手の言い値,売買価格
等)をそのまま時価とした上,担保掛目についても建付地(建物等の用に供さ
れている敷地で,建物等とその敷地が同一の所有者である土地)については
掛目65%として評価すべきところを掛目80%として評価し,宅地以外の更地
である山林(ゴルフ場予定地)については掛目40%として評価すべきところを
掛目50%として評価をしており,当時の適正な担保評価に基づけば20億円
にも達しない担保物件を,さも35億円程度あるかのようにして担保評価を行
ったものである。
カ したがって,原告は,被告G,同C及び同Aに対し,商法266条1項5号に基
づく損害賠償請求として,連帯して,本件融資⑤によって生じた損害金27億5
317万6340円のうちの10億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以後
の日である平成11年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支払を求める。
(被告C及び同Aの主張)
ア 本件融資⑤については,所有不動産40億円,根抵当実効価格14億円,リ
ース債権25億円,ゴルフ場予定地に根抵当20億円,有価証券40億円,ゴ
ルフ会員権,入居保証金などを担保としているのであって,相応の保全措置を
した。
イ 本件融資⑤の実行時の担保不足分4億4700万円については,保証人とし
てLを立て,その資産である「若竹」の入担念書を申し受け,十分な状況であっ
た。
(被告Gの主張)
ア 拓銀のような都市銀行では,多数の業務を効率的に処理するために組織が
作られており,代表取締役の権限も内部規程によって従業員に委譲されてい
るし,また,上位の者が決裁する場合下位の者が調査した事実について特に
疑問とすべき点がない限り,信頼を置くことが許される。
ゴルフ場開発許可の見通しについては,難波支店,東京第1支店部で見通
しがあるということで担当本部長を通じて投融資会議に稟議書が上げられて
おり,投融資会議ではそれを信頼して決裁をしたものである。
イ バブルの時代多くの会社がゴルフ場経営に乗り出したことから分かるように
ゴルフ場経営には特に難しいノウハウは必要なく,ゴルフ場運営の実務を担
当する従業員も容易に集めることができたのである。また,ゴルフ場の会員権
の販売も特に他の商品の販売と異なることはない。バブルのころは金融商品
としてゴルフの会員権を購入するものも多数いたが,まさに,その営業は保
険,証券の営業と大差はなかった。したがって,日伯がゴルフ場を初めて経営
するとしてもそれは無謀な行為ではなかった。
ウ ゴルフ場の開発が許可されれば,土地の担保価値が上がること,許可にな
らないときは他の担保を取り付けることが検討され,融資に当たってもそのよ
うな指示がなされていることから担保評価が杜撰であったとはいえない。
(6) 争点(6)(本件融資⑤に係る貸付金の弁済(貸替え又は切替)による損害賠償債
務の消滅)について
(被告C及び同Gの主張)
被告C及び同Gは,昭和62年12月,本件融資⑤の融資を承認する旨の決裁
をした。本件融資⑤に係る貸付金は,昭和63年12月に返済された上,新たに
担当本部長決裁で46億3900万円に貸し替えられ,平成元年12月に担当本部
長の決裁で45億6000万円に貸し替えられ,平成2年12月に投融資会議の決
裁で51億円に貸し替えられ,平成3年12月に担当本部長の決裁で貸し替えら
れた。被告G及び同Cの決裁した本件融資⑤に係る貸付金は弁済されているも
ので,拓銀には本件融資⑤による損害は発生していない。
(原告の主張)
金融機関の行う融資の「切替」は準消費貸借とするか更改とするかは当事者
の合理的意思解釈によるところ,特段の意思表示がされない限り準消費貸借と
解すべきである。
そして,本件融資⑤についても,切替は実質的には従前の融資の更新,期限
の延長であって,準消費貸借と解すべきであって,本件融資⑤が回収不能にな
ったことによる損害は存在する。
(7) 争点(7)(本件融資⑤に関する善管注意義務等違反行為と損害との間の因果関
係)について
(被告Gの主張)
本件融資⑤の履行期に担保権の実行その他の法的手段を執ることができた
にもかかわらずこれを怠ったため回収不能になった部分は,被告Gの善管注意
義務等の違反との間に相当因果関係がない。
すなわち,平成3年時点で日伯の所有していた本件ゴルフ場用地の価格は6
0億円程度であり,転売可能であった。拓銀は,平成12年8月23日,本件ゴル
フ場の競売により1億5827万8000円を回収したのみであるが,その差額は拓
銀の不作為による損害の拡大であって,その部分については,被告Gは責任を
負わない。
(原告の主張)
被告Gの上記主張は争う。
(8) 争点(8)(本件融資⑤に関する損害賠償債権の消滅時効)について
(被告G,同C及び同Aの主張)
本件融資⑤は,昭和62年12月10日に実行されたが,それから10年後の平
成9年12月10日が経過した。
被告G,同C及び同Aは,原告に対し,平成11年2月19日の本件口頭弁論期
日において,消滅時効期間の経過による消滅時効を援用するとの意思表示をし
た。
(被告Gの主張)
ア 消滅時効期間
拓銀の被告Gに対する債務不履行に基づく損害賠償債権は,消滅時効期
間を5年とする商事消滅時効の適用を受ける。
平成3年12月10日が経過したので,商事消滅時効の期間が経過した。
イ 時効中断の効果
本件債権譲渡は拓銀の代表取締役がしたものであって監査役がしたもの
ではないから,本件債権譲渡は無効であり,本件債権譲渡が有効であること
を前提とする本件訴えの提起には時効中断の効果はない。仮に,本件訴えの
提起に時効中断効を認めるとしても,本件においては,その時効中断効が発
生する日は,拓銀の代表取締役がした本件債権譲渡について監査役が追認
した日である平成12年12月8日である。
(原告の主張)
ア 消滅時効期間
株式会社と取締役との間の委任契約は商行為と見るべきではない。したが
って,拓銀(ひいては拓銀から債権譲渡を受けた原告)の被告らに対する損害
賠償債権の消滅時効期間は,民法167条により10年である。
イ 消滅時効の起算点
株式会社の取締役に対する善管注意義務等の違反を理由とする損害賠償
債権は,①損害が発生し,かつ,②当該取締役に対する責任追及が現実に期
待できる態勢となって,初めて,権利行使が現実に期待できるものといえるか
ら,そのときから消滅時効を起算することとなる。
それは,(a)損害が発生するまでは,株式会社が権利を行使することが不可
能であるからであり,また,(b)当該取締役の在任中には,当該取締役が善管
注意義務等に違反してした行為が隠蔽されていたり,あるいは明らかとなら
ず,また,仮にこれが明らかになっていたとしても,当該取締役による事実上
の人事権の行使などの諸事情によって当該取締役の意向を排してまで,株式
会社が当該取締役に対する責任追及をすることが現実に期待できないからで
ある。
本件融資⑤は,その貸付金の返済期限が昭和63年12月9日(一括払い)
であったが,融資当初から,昭和65年(平成2年)3月(ゴルフ場オープン予
定)までは,継続扱いとすることが定められており,昭和63年12月及び平成
元年12月には新たな投融資会議の決裁を経ずに返済期限が延長され,その
後,3回にわたり返済期限が延長され,結局,平成3年12月に日伯の延滞が
現実化したこと,本件融資⑤を含む拓銀の違法融資についての原因究明が
現実にされたのは,平成9年11月17日(拓銀破綻)以降であることから,本
件融資⑤に係る損害賠償債権の消滅時効の起算日は,昭和62年12月10
日ではなく,早くとも,日伯の延滞が現実化した平成3年12月である。
ウ 時効中断の効果
(ア) 拓銀の代表取締役による本件債権譲渡は有効であり,本件訴えの提起
の時点で時効中断の効果が発生する。
(イ) 監査役が本件債権譲渡及びそれに付随する一切の行為を追認したこと
によって,本件債権譲渡は本件債権譲渡時に遡って有効になるから,本件
訴えの提起によって時効中断の効果が生じている。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(本件債権譲渡の有効性など)について
商法(平成13年法律第128号による改正前のもの。以下,同じ。)275条の4
は,株式会社が取締役に対して又は取締役が株式会社に対して訴えを提起する場
合においては,その訴えについては監査役が株式会社を代表し,また,株式会社
が商法267条1項の定める株主の取締役の責任追及の訴えの提起の請求を受け
る場合についても,同様とする旨を定めている。
商法275条の4の前段の趣旨は,株式会社と取締役との間の訴訟において,そ
の両者間の利益の衝突を調整し,いわゆるなれ合い訴訟を防止する必要があるこ
とから,これらの訴えの提起・追行の権限を監査役に与えたものと解される。また,
この規定の後段の趣旨は,株式会社が取締役に対して責任追及の訴えを提起す
る場合にその訴えの提起の権限がこの規定の前段によって監査役にあるとされる
ことから,株式会社が商法267条1項の定める株主の取締役の責任追及の訴え
の請求を受ける場合も,その請求を受ける権限を監査役に与えたものと解される。
被告らは,商法275条の4の規定の趣旨を全うするためには,株式会社の取締
役に対する債権を処分する権限もまた監査役にあると解すべきであり,そうする
と,拓銀の代表取締役がした本件債権譲渡は,無効である旨主張する。
しかし,商法は,代表取締役について,株式会社の営業に関する一切の裁判上
又は裁判外の行為をなす権限を有するものと定めて(261条3項,78条1項),代
表取締役に広範な職務執行権限を与えている一方,監査役については,取締役の
職務執行の監査権限を与えているものの(274条1項),職務執行権限を与えてい
ない。また,商法275条の4は,代表取締役のその広範な職務執行権限を制限す
る法律上の例外規定であるが,その適用場面を「株式会社が取締役に対して又は
取締役が株式会社に対して訴えを提起する場合」及び「株式会社が商法267条1
項の定める株主の取締役の責任追及の訴えの提起の請求を受ける場合」であるこ
とのみを定めている。そして,株式会社と取締役との間の債権債務関係に関する
株式会社のする行為には,株式会社の取締役に対する債権に限定してみても,そ
の債権の存在に関する調査・審査・判断,取締役との間の交渉,取締役に対する
請求・提訴,本件で問題となっている債権の処分など種々の場面における種々の
行為があり得る。以上のような商法の上記各規定の文言及び趣旨並びに株式会
社と取締役との間の債権債務に関する株式会社のする行為の多様性などにかん
がみると,商法275条の4が,株式会社の取締役に対する債権の譲渡についてま
でも,監査役に権限を与えたものと解することはできない。
以上によれば,商法275条の4についての被告らの上記主張をにわかに採用
することはできない。
そうすると,拓銀の代表取締役がした本件債権譲渡には,被告らの主張する上
記無効事由はなく,有効であるというべきである。
また,仮に,被告らの上記主張のとおり,株式会社の取締役に対する債権を処
分する権限が監査役にあると解するとしても,本件債権譲渡は,拓銀の代表取締
役が拓銀を代表してした無権代理行為ということになるところ,前記第2の1の(7)
のとおり,拓銀の監査役は平成12年2月8日に拓銀の代表取締役のした本件債
権譲渡及びそれに付随する一切の行為を追認しているので,これによって,本件
債権譲渡は,本件債権譲渡をした時点に遡って有効となるものであるから(民法1
16条本文),いずれにせよ,拓銀の代表取締役がした本件債権譲渡は,有効であ
るというべきである。
2 争点(2)(銀行の取締役の融資に関する注意義務)について
(1) 銀行の健全性,安全性と取締役の注意義務の内容
取締役は,株式会社と取締役との間の関係が委任に関する規定に従うもので
あるから,株式会社に対して善管注意義務を負い(商法254条3項,民法644
条),また,法令及び定款の定め並びに総会の決議を遵守し,株式会社のため
に忠実にその職務を遂行する義務(すなわち,これまでに述べてきた「忠実義
務」)を負う(商法254条の3)。そして,商法266条1項5号は,法令に違反する
行為をした取締役はそれによって株式会社の被った損害を賠償する責めに任じ
る旨を規定するところ,この規定にいう「法令」には,取締役を名宛人とした規定
(善管注意義務・忠実義務を定める上記各規定を含む。)のみならず,株式会社
を名宛人とし,株式会社がその業務を行うに際して遵守すべき商法その他の法
令中の規定も含まれるものと解される。
銀行法(平成4年法律第87号による改正前のもの。以下,同じ。)は,同法に
いう銀行(以下,争点(2)においては,同法にいう銀行[なお,この銀行には,商号
に単なる「銀行」という名称を含むもの及び「信託銀行」という名称を含むものが
ある。]を「銀行」といい,この銀行には,本件で問題となる昭和62年ころから平
成4年ころまでにかけて施行されていた長期信用銀行法及び外国為替銀行法の
適用のある各銀行[本件において登場するものとして,具体的には,株式会社日
本興業銀行,株式会社日本長期信用銀行,株式会社日本債券信用銀行及び株
式会社東京銀行がある。]並びに日本銀行法に基づいて設立された日本銀行を
含まない。)を株式会社でなければならないものとしているから(2条1項,5条1
項),銀行の取締役は,同法において取締役を名宛人として定めた規定(例え
ば,7条)はもちろんのこと,銀行を名宛人とし,銀行がその業務を行うに際して
遵守すべきことを定めた規定(例えば,12条ないし14条。なお,14条は,銀行
及びその取締役をともに名宛人にするものと解される。)についても,これを遵守
しなければならず,故意又は過失によってこれらの規定に違反する行為をしたと
きは,商法266条1項5号に基づいて銀行に対する損害賠償義務を負うことが
あり得るものである。
ところで,銀行法1条1項は,「この法律は,銀行の業務の公共性にかんが
み,信用を維持し,預金者等の保護を確保するとともに金融の円滑を図るため,
銀行の業務の健全かつ適切な運営を期し,もって国民経済の健全な発展に資す
ることを目的とする。」と定めているところ,同項は,銀行法の目的を定めている
ものであって,銀行の取締役を名宛人としたものでも,銀行を名宛人としたもの
でもないから,同項が商法266条1項5号にいう「法令」に該当するものではな
い。
そうすると,商法266条1項5号の「法令」には銀行法も含まれるものではある
が,「同法の要請する銀行の健全性,安全性維持の原則に反する行為をした取
締役は,法令違反行為をしたものとして,商法266条1項5号に基づき株式会社
に対する責任を問われることになる。」旨の原告の主張は,これをにわかに採用
することができない。
もっとも,銀行が,我が国の金融システムの中核に位置し,銀行が多数の個
人や企業などから預金その他の形で資金を吸収し,かつ,この資金に他の方法
で調達した資金をも合わせて,資金を求める個人や企業などに資金を供給する
業務を行い,また,手形の割引,為替取引,債務の保証,その他の金融に関す
る諸々の業務を行っていることは,公知の事実であるところ,このような銀行の
金融システムに占める地位やその業務の内容及び性質並びにその業務の社
会・経済全体に対する影響などにかんがみると,銀行の取締役は,銀行の経営
が健全なものであることを保持し,かつ,融資に係る貸付金が安全確実に回収
できるようにすることなどに留意しなければならないことも否定できないものと解
される。
したがって,原告の上記主張は,銀行法の規定からではなく,銀行についての
社会的な事実にかんがみて銀行の取締役が上記のことなどに留意しなければ
ならないという意味においては,是認できる。
しかし,銀行の取締役が上記のことなどに留意しなければならないからといっ
て,このような抽象的・一般的な理解から直ちに,具体的な融資に関する銀行の
取締役の注意義務の違反の有無を導き出すことができるものではない。
(2) 銀行の取締役の経営判断における裁量
取締役は株式会社の経営に関して善良な管理者の注意をもつて忠実にその
任務を果たすべきものであるが,企業の経営に関する判断は,その判断時点に
おいて入手できる過去,現在及び将来の複雑多様な諸事実(この事実には,そ
の判断対象事項そのものに関するもののみならず,当該株式会社及びこれに関
連する諸々の事実,そして,社会・経済の全般にわたる事実をも含むことがあり
得るものである。そして,この事実には,その性質上,不確実又は流動的なもの
があり得ることは,避けられない。)を基礎としてする総合的判断であるから,そ
の裁量の幅はおのずと広いものとなる。したがって,取締役の経営判断が結果
的に株式会社に損失をもたらしたとしても,それだけで取締役が必要な注意を怠
ったと断定することはできない。株式会社は,株主総会で選任された取締役に経
営を委ねて利益を追及しようとするのであるから,適法に選任された取締役がそ
の権限の範囲内で株式会社のために最良であると判断した場合には,基本的に
はその判断を尊重して結果を受容すべきであり,このように考えることによって,
はじめて,取締役を萎縮させることなく経営に専念させることができ,その結果,
株式会社ひいては株主が利益を得ることが期待できるものである。
このような取締役の経営判断の性質に照らすと,取締役の経営判断は,その
判断をした時点において通常入手できる情報に照らしてその判断の前提となっ
た事実に著しい誤りがあり,又は意思決定の過程若しくは結果が著しく不合理で
あった場合には,許容される裁量の範囲を逸脱したものとして,善管注意義務又
は忠実義務に違反するものとなり,その取締役に免責事由(故意又は過失がな
いこと)がないものでない限り,その取締役は,株式会社に対し,取締役の経営
判断によって生じた損害について賠償すべき義務を負うものと解される。
原告は,銀行の取締役の経営判断における裁量は,銀行の健全性,安全性
の維持の観点から,一般の営利企業に比べて限定されるべきである旨主張す
る。
しかし,前説示の銀行の金融システムに占める地位やその業務の内容及び
性質並びにその業務の社会・経済全体に対する影響などにかんがみると,銀行
の取締役は,銀行の経営が健全なものであることを保持し,かつ,融資に係る貸
付金が安全確実に回収できるようにすることに留意しなければならないとしても,
ときには,金融システム全体を維持する観点や社会・経済全体に対する影響の
観点などから,当該銀行の短期的な利益の確保にとらわれない経営判断をしな
ければならないこともあり得るものであって,銀行の取締役の経営判断における
裁量の範囲は,個々の問題とされる具体的な案件に応じて,広くも狭くもあり得
るものと考えられる。また,原告が「銀行」と対比して主張する「一般の営利企業」
という概念は,不明確である。そうすると,「銀行の取締役の経営判断における
裁量は,銀行の健全性,安全性の維持の観点から,一般の営利企業に比べて
限定されるべきである。」旨の原告の上記主張は,銀行の取締役の経営判断に
おける裁量の範囲を検討するに当たって考慮しなければならない多様な観点の
うちの一部の観点のみをもって考慮すべき観点とし,かつ,その裁量の範囲の
広狭の対比をする対象となるものの概念が不明確である立論であるから,これ
をにわかに採用することができない。
3 争点(3),(4)(エスコリースに対する本件各融資)について
(1) 前記第2の1の前提事実に加えて,証拠(各項目の下欄に示すもの)及び弁論
の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア エスコリース設立から昭和57年ころまでの経緯
(ア) エスコリースは,昭和41年3月5日に設立され,その主な営業を当初
は,機械及び車両などのリースとしていたが,昭和50年,土地投機に失敗
したことなどから経営が破綻し,拓銀と日本リース株式会社の支援の下で
再建することになった。
拓銀は,そのころ,エスコリースに対し,資本参加をするとともに,昭和5
0年1月29日,エスコリースに人材を送り込むこととし,エスコリースの代表
取締役社長として拓銀OBであるHを,エスコリースの取締役として拓銀の
行員であったIを派遣し,同月31日,エスコリースとの間で銀行取引約定書
を交わした。
(前提事実)
(イ) エスコリースの主要株主は,平成3年3月ころに作成された資料では,別
紙「(株)エスコリース主要株主」に記載のとおり,筆頭株主が日本リース株
式会社であってその出資比率は6%であり,拓銀は,株式会社日本長期信
用銀行,株式会社日本債券信用銀行,三菱信託銀行株式会社,安田信託
銀行株式会社,住友信託銀行株式会社,株式会社札幌銀行と並んでその
出資比率が5%であったが,拓銀の系列会社といえる北海道土地株式会
社,株式会社エイチ・シー・ビー,たくぎんファイナンス株式会社及びたくぎ
ん保証株式会社の出資比率をも合わせると,拓銀を含むたくぎんグループ
としての出資比率は12%となるものであった(なお,以下においては,銀
行,生命保険会社,損害保険会社などの金融機関を表示する場合に,株式
会社又は相互会社などの会社の種別を示す記載を省略することとする。)。
(甲B第31号証の添付資料№6)
(ウ) エスコリースは,昭和50年以後,リストラなどの再建努力をしたほか,拓
銀の支援を受けて経営が軌道に乗り,また,株式会社武富士などのサラ金
業者に対する融資をすること(なお,その貸付額は,最も多い時期には約5
00億円に達した。)などによって,リース業部門のみならず金融部門でも高
収益をあげることができるようになり,再建を果たすことができた。
しかしながら,昭和57年ころ,サラ金業者の債権回収方法などが社会的
な問題となったことから,大蔵省銀行局から拓銀などの都市銀行などに対
し,銀行系列のノンバンクのサラ金業者に対する融資についての抑制の指
導があり,拓銀は,これを受けて,エスコリースに対し,サラ金業者に対する
融資の回収を要請した。
エスコリースは,拓銀に対し,当初,「エスコリースは,銀行法でいう拓銀
の関係会社ではないし,また,他の大手銀行の系列ノンバンクのように拓銀
の100%出資による子会社でもないのであるから,行政当局のいいなりに
ならず,拓銀がその点を強く主張して抵抗すべきである。」旨主張したが,拓
銀から,「エスコリースは,世間的に拓銀の系列ノンバンクと認知されてい
る。」などと言われて,やむなく,株式会社武富士などのサラ金業者に対す
る融資の回収をすることになった。
(甲B第111号証,乙イ第19号証,弁論の全趣旨)
イ 昭和58年ころの経緯
(ア) エスコリースは,株式会社武富士などのサラ金業者に対する融資に代わ
って,昭和58年ころから,ECCに対する融資をすることになった。
(甲B第111号証)
(イ) ECCは,昭和58年2月23日,中小企業向けの金融と企業経営コンサル
タントをうたい文句として設立された株式会社である。ECCの代表者である
Kは,当時,大阪難波で焼き鳥屋チェーン店である「五えんや」を経営してい
た。ECCの中小企業に対する貸付原資は,エスコリースが融資していた。
(前提事実)
(ウ) ECC設立の経緯は,次のとおりであった。
K(昭和11年5月生)は,料亭「若竹」で板前修業をした後,昭和46年に
「五えんや」という名称の焼鳥屋を始めて独立し,以後,その名称での焼鳥
屋チェーン店を展開していたところ,昭和53年2月ころから,拓銀難波支店
との間で,取引を始めた。
Kは,各界に顔の広い人物であり,拓銀難波支店に対し,多くの取引先を
紹介し,これにより,実際にも,拓銀難波支店は,近畿大学,常盤薬品及び
大阪歯科医師会などの取引先を得ることができた。
拓銀難波支店は,エスコリースに対して積極的に商材斡旋をしていた
が,この商材斡旋の対象となる企業には,自店取引先のみならず,拓銀難
波支店がKに依頼し,Kがエスコリースに紹介した企業も多かった。
そして,エスコリースの大阪支店が,昭和56年10月に開設され,これに
よって,エスコリースとKとの関係は,さらに緊密になった。
このようなエスコリースとKとの関係から,昭和58年2月23日,貸付原資
をエスコリースが提供し,中小企業に対する貸付けをする企業としてECC
が設立されることになった。
(甲B第18号証,第20号証)
(エ) ECCの中小企業融資の仕方は,おおむね次のとおりであった。
(a) 中小企業を対象に「経営合理化資金」と銘打って融資をする。
(b) 信用金庫,信用組合などからの既存借入を全面的に肩代わりする。
(c) 仕入先に対する手形支払債務を肩代わりし,その代わりに,値引交渉
をする。
(d) 融資先は,M公認会計士の関与企業となることを条件とする。
融資先に対しては,徹底した経営指導をする。
(e) 利息は,12%から15%とする。
(f) 原則として不動産担保融資とし,融資先の不動産について根抵当権に
加えて所有権移転仮登記又は賃借権を並列的に設定する。
(g) ECCの貸付原資は,全額エスコリースから調達する。
(h) 融資先は,拓銀難波支店に預金口座を開設する。
(i) ECCが融資先の企業内容を良好と認めたときは,拓銀に紹介し,拓銀
の直接融資に切り替える。
(甲B第18号証,第20号証)
(オ) ECCは,設立当初,ECCの事務を行う事務所がなく,拓銀難波支店の
支店長室を事務所代わりに使用することがあった。また,ECCは,上記(エ)
の(i)の方針に則ってECCが優良企業と認めた企業を拓銀難波支店に紹介
するようになった。
(甲B第18ないし第20号証)
(カ) しかし,拓銀東京融資部は,昭和58年夏ころから,ECCが拓銀難波支
店の支店長室をECCの事務所代わりに使用していることや優良企業と認
めた企業を拓銀難波支店に紹介することについて問題視した。
拓銀東京融資部は,前者については,ECCの融資先に対してECCと拓
銀とが一体であるとの印象を与えるし,一般の取引先に対しても異常な印
象を与えるし,さらに,拓銀難波支店の執務体制にも悪影響を与えることが
問題であるとし,また,後者については,ECCが優良企業と認めたからとい
って,拓銀難波支店がECCの言いなりに融資をするのでは同支店が主体
性を持って融資の審査をすることができなくなることが問題であるとした。
さらに,拓銀東京融資部は,ECCの総融資額が急伸していることについ
ても,注意しなければならない旨を指摘した。
(甲B第18ないし第20号証)
ウ 昭和58年から平成2年までのエスコリース,ECCの経営指標など
(ア) エスコリースの金融機関からの総借入金残高は,別紙「(株)エスコリー
ス銀行別借入残高表」に記載のとおり,昭和58年3月末時点で約1100億
円,昭和59年3月末時点で約2000億円,昭和60年3月末時点で約280
0億円,昭和61年3月末時点で約3200億円,昭和62年3月末時点で約3
400億円,昭和63年3月末時点で約3400億円,平成元年3月末時点で
約3500億円,平成2年3月末時点で約3600億円(以上,上位二桁未満
は四捨五入)と推移した。
(甲B第218号証)
(イ) エスコリースのECCに対する総貸付金残高は,昭和58年3月末時点で
約40億円,昭和59年3月末時点で約630億円,昭和60年3月末時点で
約920億円,昭和61年3月末時点で約1300億円,昭和62年3月末時点
で約1700億円,昭和63年3月末時点で約2000億円,平成元年3月末時
点で約2000億円,平成2年3月末時点で約2000億円(以上,上位二桁
未満は四捨五入)と推移した。
(甲B第111号証)
(ウ) エスコリースの平成2年3月末時点での負債・資産の概要は,負債の部
については,金融機関からの借入金が約3600億円であり,資産の部につ
いては,現金・預貯金が約670億円,リース債権及びリース資産が約570
億円,営業貸付金が約2300億円であり,この営業貸付金のうちの約200
0億円がECCに対する貸付金というものであった(以上,上位二桁未満は
四捨五入)。
(甲B第31号証の添付資料の№1)
(エ) ECCは,上記(イ)のとおり,エスコリースからの借入金を急速に増やして
いったが,平成2年9月末時点での資産の概要は,営業貸付金が約1700
億円,固定資産(主に土地)が約430億円であり,営業貸付金の内訳は,
約580億円がグリーンハイツ株式会社に対するもの,約580億円がKの関
連会社である株式会社関西ファクタリング及び株式会社五えんやなどに対
するもの,約380億円が一般先に対するもの,約150億円が前受収益と分
類されるものであった(以上,上位二桁未満は四捨五入)。
(甲B第31号証の添付資料の№1)
(オ) ECCの貸付金のうち,その最も大きな金額を占めるものは,平成2年9
月末時点で,前記のとおり,グリーンハイツ株式会社に対するものであった
が,その内容は,次のとおりのものであった。
グリーンハイツ株式会社は,その前身が奥別府ニュータウン株式会社で
あり,同社は,昭和58年から,ECCからの融資を受けて,奥別府及び国東
半島などにおける宅地分譲事業及びゴルフ場の開発などの事業(以下「奥
別府事業」という。)を展開することになった。
奥別府ニュータウン株式会社又はグリーンハイツ株式会社のECCから
の借入金の推移は,昭和59年3月末時点で116億円,昭和60年3月末時
点で82億円,昭和61年3月末時点で214億円,昭和62年3月末時点で3
91億円,昭和63年3月末時点で508億円,平成元年3月末時点で551億
円,そして,平成2年9月末時点で,前記のとおり約580億円と急増した。
奥別府ニュータウン株式会社及びその代表取締役であったNは,昭和6
1年11月,国土法などに違反したとして刑事事件が立件され,このため,奥
別府事業は,一時頓挫した。そこで,ECCは,昭和62年7月1日付けで,奥
別府ニュータウン株式会社の代表取締役として,ECCの従業員であるOを
送り込むなどして,奥別府事業の継続を支援することとした。上記刑事事件
についての一審判決は,昭和62年12月17日に言い渡されたところ,その
内容は,奥別府ニュータウン株式会社に対しては罰金30万円,上記Nに対
しては懲役8月・執行猶予2年というものであった。
以上のような経緯もあって,奥別府事業は思うように進展せず,奥別府ニ
ュータウン株式会社又はグリーンハイツ株式会社は,昭和61年11月から
平成2年4月までの間,ECCに対する利息の支払をしなかった。
(甲B第47号証,第78ないし第91号証,第111号証)
エ 昭和58年から平成2年7月ころまでのその他の経緯
(ア) 拓銀の被告Cなどは,昭和59年3月ころ,エスコリースのECCに対する
貸付金が前記のとおりECCの設立からわずか約1年後の同月末時点で約
630億円と急増していることを受けて,エスコリースのI専務に対し,「ECC
については,他の金融機関も危惧の念を抱いているようである。拓銀に対
するヒアリングも相次いでいる。今後の資金調達面について影響の出ること
も考えられる。エスコリースもECCに対する融資抑制の意向があるやに伺
っているが,同感である。ECCの個別融資先の内容についても,拓銀なり
に勉強したいので,調査の機会を与えていただきたい。大蔵省銀行局の拓
銀に対する検査も,近いことであるし,慎重な対応が望ましいと考える。」な
どと申し入れ,要するに,エスコリースのECCに対する融資に関して,厳重
な管理をするように注文を付けた。
(甲B第35号証)
(イ) 拓銀は,昭和59年9月14日ころ,エスコリースに対し,拓銀頭取被告G
名のエスコリース代表取締役H宛の同日付け文書をもって,次のとおりの要
旨の文書を交付して,エスコリースのECCに対する融資について厳重な管
理をするように注文を付けた。
「貴社のファイナンス業務の積極的急展開については,過去幾度となく当行
より改善要望を申し入れてきたところ,貴社の現状は,当行の希求している
姿から大きく乖離している。
特にECCについては,貴社が実態把握不十分なまま,1000億円にも及
ぶ融資をし,しかも保全も不十分である。
そこで,次のとおりの改善要望をする。
① ECCに対する融資は,現在残高の953億円以上に増加させず,むし
ろ,残高圧縮に務めること。
② ECCの経営実態を把握すること。
③ ECCに対する債権保全措置の強化を至急にすること。」
(甲B第21号証)
(ウ) 拓銀は,昭和60年1月から3月にかけて,大蔵省銀行局銀行課から,
「大阪3区選出の社会党のP衆議院議員が,国会で,拓銀の株式会社興隆
富士商に対する不正融資問題について質問すると言っている。」との情報を
得て,同課に株式会社興隆富士商についての情報を提供するなどの対応
をした。
拓銀は,このような動きは,拓銀がエスコリースを通じてECCに対する融
資抑制策を採用したことに対するECCのKの拓銀に対する揺さぶり攻撃で
あると判断した。
拓銀は,この間の昭和60年2月,日銀による定例考査を受け,その際,
日銀の定例考査担当者から,「① ECCの経営理念とするところは理解す
るが,あまりにも融資のテンポが速く融資額が大きくなりすぎている。② E
CCの会員企業には経営体質の弱い問題企業が相当あるのではないか。
③ エスコリースに対する融資残高の大小にかかわらず,エスコリースのメ
イン銀行は拓銀であり,世間でもそのように見ているから責任感を持ってほ
しい。」旨の指摘を受けた。
そこで,被告Bは,昭和60年3月26日,当時拓銀旭川支店長であったQ
(元拓銀難波支店長であって,Kと面識があった。)を伴って,大阪に赴き,
ECCのK,M公認会計士などと直接に面談し,Kに対し,「①興隆富士商を
ネタに代議士を使い大蔵省経由で脅しをかけるような手法は,ヤクザのす
ることであり,内部調査の結果,全く問題がないと大蔵省に報告してある
が,拓銀を甘くみるな。②ECCの理念は結構だが,今や地方の信用金庫並
みの規模であり,社会的責任を十分に自覚して経営に当たるべきであり,
経営情報の開示も適切に行うべきである。③ECCの今後について,拓銀・
エスコリース・ECCの三者が協調して健全な発展を図る意図があるのか。」
などと主張し,Kから,「ECCの発展のために,上記三者が協調する意向を
もっており,拓銀ともよい関係を望みたい。」旨の回答を得た。
(甲B第22号証,第63ないし第66号証,乙イ第19号証,被告B本人尋問)
(エ) 拓銀の被告G及び同Bなどは,昭和60年3月29日,エスコリースのH代
表取締役などに対し,次のとおり,申し向けた。
被告Gは,「ECCの問題は,対応を誤るとエスコリースはもちろん,拓銀
にとっても大きな問題となりかねない。大蔵,日銀とも,非常に厳しい目でみ
ており,金融秩序を乱すものとして,もし失敗したら拓銀が責任をとれと言わ
れている。当行は,融資や資本関係では他行より下にあり,いきさつから言
えば,当行は何度となくエスコリースに対してECCへの貸出抑制をお願いし
たのに,エスコリースがこれを無視してECCへの貸増しを強行したのであ
り,当行は責任はないと思っているが,それにもかかわらず責任を取らされ
ることを決して忘れないでほしい。(中略)今なら,拓銀・エスコリース・ECC
の三者が協力すれば,解決の策はあると思う。当行も入り込んで手を貸す
から,協力してもらいたい。」旨などを申し向けた。
被告Bは,直前にあった日銀考査の際の担当者からの指摘やKなどとの
直接の面談結果を踏まえて,「①ECCの資金使途を確認した上で,エスコリ
ースからECCへの融資をすること,②ECCの融資先の企業実態を把握す
ること,③エスコリースのECCに対する債権の保全措置をしっかりとするこ
と」などを申し向けた。
そして,エスコリースのH代表取締役は,これらの申入れに理解を示し,
ECCの融資の実態の把握が不十分であったことや債権保全措置が不十分
であったことを反省し,改善する旨の回答をした。
このような経緯を経て,拓銀は,エスコリースに対する前記(イ)の①のEC
C融資残高抑制方針を撤回した。
(甲B第22号証,乙イ第19号証,被告B本人尋問)
(オ) 被告Bは,平成元年3月ころ,当時拓銀本店長としてエスコリースを担当
していたQから,「安田信託銀行,三井信託銀行,三菱信託銀行,住友信託
銀行,東洋信託銀行及び中央信託銀行の信託銀行6行の会合において,
エスコリース取引撤退の話が出たようだ。理由は,奥別府事業はもちろんエ
スコリースの経営実態がよく分からず不安だということのようだ。仮にそのよ
うな動きが出ると,金融取引の崩壊につながりかねないので,何とか説得
工作をしてもらえないか。」との情報及び要請を受けた。
そこで,被告Bは,そのころ,拓銀の施設である北一条クラブにおいて,
上記信託銀行6行の札幌などの支店長を招待し,同支店長らに対し,当時
進行していた奥別府事業の一括売却プロジェクトの進捗状況などを話すと
ともに,「拓銀とエスコリースとの関係は,拓銀のエスコリースに対する融資
残高のランクからいって拓銀がメイン銀行とはいえないし,また,エスコリー
スが拓銀の関係会社であるともいえないが,拓銀は,エスコリースの再建に
協力した経緯から道義的メイン銀行の役割を自覚して今後もやっていくの
で,協力をお願いしたい。」旨を述べた。
(甲B第32号証,乙イ第19号証)
(カ) 被告Bが上記信託銀行6行に話した奥別府事業の一括売却プロジェクト
というのは,次のとおりのものであった。
ECCのエスコリースからの借入金残高は,前記ウの(イ)のとおり,昭和6
3年3月末時点で約2000億円,平成元年3月末時点でも約2000億円と
なり,また,奥別府ニュータウン株式会社又はグリーンハイツ株式会社(以
下においては,両社をまとめて「グリーンハイツ株式会社」という。)のECC
からの借入金残高は,前記ウの(オ)のとおり,昭和63年3月末時点で508
億円,平成元年3月末時点で551億円となっていた。そして,奥別府事業
は,前記ウの(オ)のとおりの経緯もあって,思うように進展せず,グリーンハ
イツ株式会社は,昭和61年11月から平成2年4月まで,ECCに対する利
息の支払をしていなかった。
被告Bは,昭和63年ころ,エスコリースのECCに対する貸付金残高が約
2000億円にもなっていることから,ここら辺がピークであると考え,また,
国土法違反問題などで経営にかげりが出ているグリーンハイツ株式会社の
奥別府事業を一括処分し,この売却代金をそのまま,グリーンハイツ株式
会社のECCに対する債務の弁済に充て,さらに,ECCのエスコリースに対
する債務の弁済に充て,ひいては,エスコリースの金融機関に対する債務
の弁済に充てることが相当であると考えた。
そこで,被告Bは,昭和63年後半ころ,拓銀本店長になっていたQに対
し,奥別府事業の一括売却プロジェクト(売却目標価額1000億円,売却期
限目途1年)を進めるように指示した。Qは,この指示に従い,昭和61年2
月18日からHと交替してエスコリースの代表取締役になっていたI及びECC
のKにも,被告Bの案を話してこれを了承させた。
そして,平成2年初めころには,奥別府事業を一括して購入する者として
東証一部上場の有力企業が名乗りを挙げ,同有力企業が奥別府事業を約
500億円で一括購入することがまとまりかけた。
(甲B第3号証の10,第38,第39号証,乙イ第19号証,被告B本人尋問)
(キ) しかし,Kは,平成2年2月ころ,「奥別府事業の売却額500億円のうち,
200億円は,エスコリースに対する債務の返済に充てるが,300億円は,
ECCが使う。」などと言い出し,奥別府事業の一括売却プロジェクトを進め
ていたQと対立するに至った。
そして,その後間もなく,いわゆる右翼の街宣車と思われるものが,拓銀
本店の前で,Qの名前を挙げて拓銀を攻撃する街宣活動をするという事態
が発生し,結局,奥別府事業の一括売却プロジェクト及びECCのエスコリー
スに対する債務返済計画は,ECCのKの協調が得られないことから,実現
しないことになった。
(甲B第38,第39号証,乙イ第19号証,被告B本人尋問)
オ 平成2年7月ころから平成3年3月ころまでの経緯
(ア) 前記のような状況から,平成2年7月ころには,グリーンハイツ株式会社
は,奥別府事業が思うように進展せず,ECCは,グリーンハイツ株式会社
から債務の弁済を受けなければ経営が成り立たない状況であり,エスコリ
ースは,ECCから債務の弁済を受けなければ経営が成り立たない状況に
なっていた。
そして,エスコリースが金融機関に対して支払わなければならない約定
弁済金は,平成2年8月には約50億円,同年9月から平成3年3月までに
は約488億円(以上,億未満は四捨五入)であり,エスコリースがこれらの
支払をすることが困難であること,そして,何らかの金融支援措置をとらな
ければ,エスコリースが破綻することが上記計数上からも明らかであり,拓
銀のエスコリースに対する融資の担当者にも,この事態が明らかに認識さ
れていた。
(前記認定の諸事実,甲B第93号証の2の「2必要理由」)
エスコリースに融資している金融機関は,平成2年3月末時点で,①拓
銀,日本長期信用銀行,日本債権信用銀行,日本興業銀行,東京銀行及
び札幌銀行の銀行6行,②安田信託銀行,三井信託銀行,三菱信託銀行,
住友信託銀行,東洋信託銀行及び中央信託銀行の信託銀行6行,③札幌
信用金庫,苫小牧信用金庫,北海信用金庫,旭川信用金庫,帯広信用金
庫の北海道内の信用金庫5金庫,④千代田生命保険,第一生命保険,明
治生命保険,協栄火災海上保険,興亜火災海上保険,住友海上火災保
険,三井海上火災保険(平成2年当時の社名は,大正海上火災保険),千
代田火災海上保険,東京海上火災保険,日動火災海上保険,安田火災海
上保険及び大東京火災海上保険の生命保険又は損害保険各会社12社,
⑤農林中央金庫及び北海道信用農業協同組合連合会の農林系2機関,⑥
商工組合中央金庫及び日本開発銀行の政府系2機関,⑦北海道総合リー
ス事業協同組合及び株式会社日貿信の国内企業2社,⑧外国銀行数社と
いうものであって,国内金融機関についてみても,以上のとおり,多様なも
のがあり,また,その数は合計35にのぼるものであった。
また,エスコリースに融資している金融機関の貸付額は,平成2年3月時
点で,総額約3600億円であり,貸付金残高の多い上位5金融機関は,日
本長期信用銀行(約540億円),日本債券信用銀行(約460億円),拓銀
(約380億円),安田信託銀行(約270億円),三井信託銀行(約240億
円)であり,札幌銀行は,他の銀行に比べて貸付金残高が約5億円と少なく
(以上,上位二桁未満は四捨五入),札幌銀行を除く銀行5行及び信託銀行
6行の貸付金残高の合計額が,エスコリースに融資している金融機関の貸
付額の約75%を占めるものであった。
(甲B第17号証,第31号証の添付資料の№7)
そこで,被告B及びエスコリースを担当していた拓銀本店長のQは,これ
までの経緯,とりわけECCのKの態度・行動などから,もはや,従前のよう
に拓銀・エスコリース・ECCが協調する方法でECC及びエスコリースの抱え
ている問題(ECCひいてはエスコリースの多額の債務の弁済)を解決するこ
とが困難であると考え,エスコリースに対する貸付金残高の約75%を占め
る銀行5行及び信託銀行6行の合計11行(拓銀,日本長期信用銀行,日本
債権信用銀行,日本興業銀行,東京銀行,安田信託銀行,三井信託銀行,
三菱信託銀行,住友信託銀行,東洋信託銀行,中央信託銀行,以下「主要
取引銀行11行」という。)が一致団結してエスコリースに圧力をかけ,これを
受けてエスコリースがECCに対処する(債務の弁済を促すとともに,担保物
件を提供させる)という方法で上記問題を解決するとともに,拓銀を除く他の
10行には,エスコリースが支払うことになっている平成2年8月以降の約定
弁済金についての折り返し融資(実質的な債務の弁済の延長)を依頼する
こととし,拓銀が主宰者となって主要取引銀行11行を構成員とする銀行団
の打合会(以下「銀行団打合会」という。)を持つこととした。
(乙イ第19号証,被告B本人尋問,証人R証言5頁)
(イ) 銀行団打合会は,第1回が平成2年7月11日,第2回が同月25日,第3
回が同年8月10日,第4回が同年10月5日,第5回が平成3年1月25日,
第6回が同年3月13日に開催された。
(甲B第38号証,第39号証,第107号証,第114号証,第116号証)
(ウ) 平成2年7月11日に開催された第1回銀行団打合会においては,拓銀
本店長であるQが,他の10行の担当者に対し,これまでのECCに対する
交渉などの経緯を説明し,これまでの方法とは異なり,主要取引銀行11行
がエスコリースに対して要求し,その要求を背景としてエスコリースがECC
に対して交渉していく方針を提案した。
平成2年7月25日に開催された第2回銀行団打合会においては,拓銀
本店長であるQが,他の10行の担当者に対し,ECCが土地売却等によっ
てエスコリースに対して1000億円を返済してもらうことを提案し,他の10
行の担当者からは,主要取引銀行11行が銀行団としてエスコリースに対処
していくことを了承する旨の回答が得られ,また,主要取引銀行11行の大
筋の考え方として,今後2年間内にECCからエスコリースに対して1000億
円を返済してもらうこととする旨の方針がまとまった。
平成2年8月10日に開催された第3回銀行団打合会においては,エスコ
リースは,主要取引銀行11行に対し,「今後のECC向け貸付金圧縮策」に
ついての説明をするとともに,金融支援の要請,すなわち,同月分以降の
約定弁済金の折り返し融資の要請をし,また,主要取引銀行11行は,エス
コリースに対する要請内容をほぼ確定した。
(甲B第34号証,第38号証,第39号証,第106号証,乙イ第19号証,被告
B本人尋問)
(エ) 主要取引銀行11行は,平成2年9月10日ころ,エスコリースに対し,次
のとおりの内容の「銀行団要請事項について」と題する文書を交付して,債
務を弁済すること及びエスコリースがECCに対して債権保全措置をとること
を要請した。
「貴社の取引に関し,銀行団として下記事項要請致します。

1 平成4年3月迄に,1000億円返済願いたい。
(1) 平成3年3月迄に500億円返済願いたい。
(2) 平成4年3月迄に500億円返済願いたい。
2 平成3年3月迄に返済する500億円の返済原資となる売却物件(ECC
所有)リストを提出願いたい。
3 500億円返済迄の間,貴社が売却物件の権利書を預かり,いつでも担
保設定出来る状態で管理願いたい。万が一平成3年3月末日迄に売却
出来なかった場合には,正式に登記し,いつでも転抵当権を設定できる
ように準備願いたい。」
(甲B第33号証)
(オ) エスコリースは,平成2年9月12日,主要取引銀行11行に対し,「取引
金融機関の要請事項に対する回答及び当社支援のお願い」と題する文書
をもって,銀行団要請事項については了承するので,平成2年8月以降の
約定弁済金の折り返し融資をお願いしたい旨の回答及び要請をした。
(甲B第34号証)
(カ) 平成2年10月5日に開催された第4回銀行団打合会(拓銀側の出席者
は,副頭取である被告B,常務取締役であるQ,本店長であるS,副本店長
であるRなど)においては,被告Bが,他の10行の担当者に対し,これまで
のECCに対する交渉などの経緯を説明した上,「拓銀は,エスコリースに関
して,融資の残高ではメイン銀行ではないが,道義的なメイン銀行という立
場で支援するつもりである。」,「エスコリースの約定弁済金については,折
り返し融資をお願いしたい。」,「折り返し融資分については,ECCの物件売
却代金をエスコリースが回収し,これを返済原資に充てる。」旨の話をし,拓
銀のR副本店長が,主要取引銀行11行の折り返し融資状況などについて
の実務的な報告をし,質疑応答がされた。
(甲B第39号証,第107号証,乙イ第2号証,第19号証,証人R証言,被告
B本人尋問)
(キ) 拓銀の投融資会議が,平成2年12月28日に開催され,エスコリース問
題について,事務方から,これまでの経緯及び関連計数が報告され,投融
資会議のメンバーは,対処方法について討議した。
事務方の意見は,①平成3年3月までに,ECCがその所有物件の売却
によって500億円を得てこれをエスコリースに対する債務の返済に充てる
ことは,極めて困難な状況である,②しかし,平成3年3月末時点でECC所
有物件の売却がわずかしかできなかった場合であっても,主要取引銀行1
1行の結束を維持して,エスコリースに対する約定弁済金の折り返し融資を
実行してもらう,③エスコリースは,ECC所有物件に抵当権設定登記をし,
銀行は,これに転抵当設定登記をするなど債権保全措置を強化するという
ものであった。
投融資会議のメンバーの意見は,(a)エスコリース問題は,平成3年1月
以降に正念場を迎えるであろう,特に同年4月以降は銀行団の足並みにも
乱れが生じると思われるので,何としても銀行団の結束を図るように方策を
考える,(b)平成3年年明け早々に,拓銀本店長を交えて今後の方針を打ち
合わせるというものであった。
(甲B第111号証)
(ク) 平成3年1月11日に開催された第5回銀行団打合会(拓銀側の出席者
は,平成2年10月からエスコリースの担当となった常務取締役である被告
D,本店長であるSなど)においては,被告Dが,他の10行の担当者に対
し,エスコリースがECCから500億円相当の担保の提供を受けたこと(権
利証を預かったこと)を報告するとともに,エスコリースのECCに対する債権
保全措置を強化するので大局的な見地からの支援(直接的には,約定弁済
金の折り返し融資)をお願いしたい旨を話し,S本店長も,他の10行の担当
者に対し,ECC所有物件が売却できるまでは,約定弁済金の折り返し融資
に協力して欲しい旨の要請をし,その後,質疑応答があった。
その質疑応答の過程で,拓銀側は,他の10行の担当者に対し,平成3
年3月末までにECC所有物件の売却目途はない旨を報告した。
(甲B第114号証,乙イ第22号証,被告D本人尋問)
(ケ) 拓銀の投融資会議が平成3年3月11日に開催され,エスコリース問題
の今後の対処方針について討議検討された。この投融資会議には,頭取で
ある被告A,副頭取である被告B,常務取締役である被告D,本店長である
Sのほか,副本店長であるR,本部審査第1部長であるTなどが出席した。
この投融資会議での討議検討は,多岐にわたったが,被告Dが,エスコリ
ース問題の平成3年4月から同年9月までの基本方針として,①拓銀は,エ
スコリースの外国銀行に対する約定弁済金については,肩代わり融資をす
るが,他の金融機関に対する約定弁済金については肩代わり融資をしな
い,②拓銀は,エスコリースのリース業部門などの正業に関する融資はす
る,③エスコリースに融資をしている外国銀行を除く全取引金融機関に対
し,平成3年3月末以降の約定弁済金について延期書替えを依頼する,④
エスコリースは,ECCからの利息の支払が続く限り,全取引金融機関に対
して利息を支払うこととし,平成3年10月以降の基本方針としても,事態が
大幅に好転しない限り同様とするという説明がされ,これがおおむね了承さ
れた。
上記①及び③は,エスコリースに融資している外国銀行及び主要取引銀
行11行を除く他の金融機関に対する平成3年4月から同年9月までの約定
弁済金が,155億円であるところ,この155億円について,拓銀が肩代わ
り融資をしないことを意味し,そうすると,平成3年4月ころには,エスコリー
スに対する金融支援について,主要取引銀行11行だけではなく,外国銀行
を除く全取引金融機関の了解を取り付けなければならないことを意味する
ものであり,平成3年4月以降には,主要取引銀行11行のみでエスコリー
スを金融支援する体制では,もはや,エスコリースの存続を図ることができ
ないことを意味していた。
また,上記②に関連して,被告B及び同Dから,エスコリースのリース業
部門を仮称「たくぎんリース」に移転することを検討したい旨の意見も出た。
そして,エスコリースは,この投融資会議までに,ECCから,ECC関連所
有物件(ECC所有物件のみならず,KなどECCに関連する者の所有物件を
含むもの。以下,同じ。)についての権利証の交付を受けていたが,その物
件価額は,ECC評価で約920億円,拓銀評価で約480億円であると報告
された。
(甲B第40号証,第115号証)
なお,この時点のころまでにエスコリースがECCから権利証の交付を受
けたECC関連所有物件の価額は,上記投融資会議提出資料では,上記の
とおり拓銀評価で約480億円とされ(甲B第40号証の2の「№2の5」),後
述の(コ)で触れる拓銀作成の平成3年3月18日付け「(株)エスコリース殿
に対する支援依頼について」と題する文書(甲B第119号証)の添付資料で
は,拓銀評価のもの約200億円,エスコリース評価のもの約110億円,EC
C評価のもの約90億円の以上合計約400億円であるとされているが,上
記投融資会議提出資料においては,ECC関連所有物件として,大阪市北
区神山町所在の物件を拓銀評価で約92億円として含みながら,上記
「(株)エスコリース殿に対する支援依頼について」と題する文書の添付資料
においては,ECC関連所有物件として,上記大阪市北区神山町所在の物
件を含んでいないために,このような相違が生じている。
そして,被告Bは,平成2年末から平成3年初めころにかけて,Kから,上
記大阪市北区神山町所在の物件の権利証の交付を受けていたから,上記
投融資会議提出資料でのECC関連所有物件に上記大阪市北区神山町所
在の物件が含まれていたことは,間違いではなく,また,上記評価額である
480億円は,後に拓銀からエスコリースに出向したUが平成3年12月末日
時点で作成した資料(甲B第147号証)に照らして,根拠のある価額であっ
た(甲B第119号証添付の担保評価内訳の№1ないし9の物件は,甲B第1
47号証中の物件№18,17,9,40,41,88,89,91及び84の物件に
該当し,甲B第119号証添付の担保評価内訳の№1ないし9の物件につい
ての同号証記載の評価額は,これらの物件についての甲B第147号証中
のタクト評価額とほとんど一致する。また,上記大阪市北区神山町所在の
物件の評価額も,甲B第147号証中のタクト評価額で約92億円とされてい
るもので,上記投融資会議提出資料における拓銀評価額と一致する。な
お,上記「タクト」とは,甲B第147号証及び弁論の全趣旨によれば,拓銀
の関係会社であって,不動産関係の営業を主な目的とする会社であると認
められるものである。)。
(甲B第40号証の2の「№2の5」,第119号証,第147号証,第211号証,
乙イ第19号証の38頁)
(コ) 上記投融資会議の決定に基づいて,平成3年3月中に,エスコリースに
融資している国内金融機関に対して,次のとおりの対応がされた。
平成3年3月13日に開催された第6回銀行団打合会(拓銀側の出席者
は,常務取締役である被告D,本店長であるSなど)においては,被告D及
び拓銀本店長Sが,他の10行の担当者に対し,状況報告をするとともに,
平成3年3月以降も,6か月間,エスコリースの約定弁済金について延期書
換又は折り返し融資をすることを要請した。
(甲B第116号証)
平成3年3月14日には,エスコリース及び拓銀が共同して,エスコリース
に融資している農林中央金庫,商工組合中央金庫,北海道信用農業協同
組合連合会,株式会社日貿信,安田火災海上保険,大正海上火災保険及
び明治生命保険の7金融機関に対し,これまでの状況説明をするとともに,
今後の約定弁済金について折り返し融資をするように要請した。
(甲B第117号証)
平成3年3月18日ころには,拓銀が,エスコリースに融資している国内全
取引金融機関に対し,同日付け「(株)エスコリース殿に対する支援依頼に
ついて」と題する文書をもって,主要取引銀行11行がエスコリースに対し,
エスコリースがECC関連所有物件に根抵当権を設定するように要請したの
で,貴金融機関においては平成3年9月末日までに弁済期の到来するエス
コリースの約定弁済金については折り返し融資(なお,ほぼ同旨ではある
が,短期資金については書替継続)をお願いしたい旨を要請した。
(甲B第119号証)
そして,同日ころ,エスコリースが,エスコリースに融資している国内全取
引金融機関に対し,同日付け「当社支援のお願い」と題する文書をもって,
エスコリースがECCから交付を受けたECC関連所有物件に根抵当権を設
定するようにしたので,貴金融機関においては平成3年3月以降に弁済期
の到来するエスコリースの約定弁済金については折り返し融資(なお,ほぼ
同旨ではあるが,短期資金については書替継続)をお願いしたい旨を要請
した。
(甲B第118号証)
カ 平成3年4月ころの経過及び本件融資①
(ア) 拓銀は,平成3年4月中に,ECCがエスコリースに対する同月末以降の
利息の支払を停止する旨の情報を得た。
その当時のECCのエスコリースからの借入金残高は約2000億円であ
り,ECCのエスコリースに対する支払利息は1年当たり約200億円であり,
ECCがエスコリースに対して平成3年4月末日に支払うべき利息は,約16
億円であった。
(甲B第31号証,第115号証の2頁目の「2 今後の進め方」の(3))
被告Bは,これを受けて,エスコリース専門担当チームを編成することと
し,このチームに,副本店長であったR,本部審査第1部審査役であったV,
本店営業部行員であったWの3名を充てた。
副本店長であったRは,平成3年5月1日付けで本部審査第1部付部長
になったが,実際には,同年4月から,上記V及びWとともに,エスコリース
専門担当チームとしての活動を始めた。
(甲B第209,第210号証,乙イ第2号証,証人R証言)
(イ) Rは,エスコリース専門担当チームの取り纏めを担当するに先立ち,被
告Bから,「ECCからエスコリース宛の利息の支払がストップした。主要取
引銀行11行には,そのような予測情報を提供していない。いずれエスコリ
ースに融資している全取引金融機関がこれを知ることになれば,パニックと
なり,大混乱になりかねない。ついては,5月中に,対応策をまとめ,エスコ
リースに融資している国内取引金融機関に提示しなければならない。時間
の制約があるので,専門担当チームが必要だ。君を含め,3人の人事措置
をとる。」と言われた。
また,Rは,同じころ,被告Dから,エスコリース問題の対応策の基本方針
として,「エスコリースについては,任意整理で臨む。エスコリースのリース
業部門は,受け皿として,『たくぎんリース』を新設して切り離し,エスコリー
スは,ECC向け債権の管理と回収に専念する。ECCは,その出方が不明
なので和戦両面から対策を講じていく。」との説明を受け,また,当面する4
月末日のエスコリースの資金繰りについての融資方針として,「エスコリース
の国内全取引金融機関に対する約定弁済金のストップは,既に3月中に予
告済みである。しかし,利息支払停止は,予定外であり,各金融機関のショ
ックは大きく,混乱が生じるおそれがある。少なくとも,4月末はこれを避け
たい。したがって,4月末は,拓銀がエスコリースに対して40億円の支援融
資を実施する。この融資金の保全のため,エスコリースの手持ちリース債権
25億円の担保提供を受け,また,エスコリース所有不動産に極度額40億
円の根抵当権を設定する。」と指示された。
(乙イ第2号証,証人Rの証言)
(ウ) R,V及びWの3名のエスコリース専門担当チームは,平成3年4月か
ら,エスコリース問題の処理方策について検討した。
Wは,当初,エスコリースは任意整理が可能であるとしても,ECCは破産
させるしかないと考えたが,被告Bがエスコリース専門担当チームに対して
折りに触れて,「ECCには相当の資産があるので任意整理する方が得策で
ある。」旨の示唆をしたことなどから,ECCについても任意整理の方策を検
討するようになった。
Vは,エスコリース及びECCの整理方法の想定できる組合せを表にして
まとめた。
その表には,①エスコリースは任意整理,ECCも任意整理,②エスコリー
スは任意整理,ECCは破産,③エスコリースは和議,ECCは破産,④エス
コリースは会社更生,ECCは破産,⑤エスコリースも破産,ECCも破産とい
う5つの組合せの想定整理方法が記載され,それぞれの整理方法の長所
及び問題点が記載されていた。
また,その表には,(a)エスコリースを任意整理にする場合には,長所は,
穏便に処理でき,他の金融機関に対する関係でも,世評の関係でも,最も
影響が少ないこと,問題点は,他の金融機関の反対を拘束できないことや
中下位行(資金力や経営体力などが中下位にある金融機関を意味すると
推察される。)が拓銀において肩代わり弁済をすることなどを要求し,拓銀
のアンカバー(回収できない負担を意味すると推察される。)が拡大するこ
と,(b)エスコリースを破産させる場合には,長所は,拓銀の実損を最小限に
抑えられること,問題点は,他の金融機関から最大の非難を浴びること,(c)
ECCを任意整理にする場合には,長所は,穏便に整理できること,問題点
は,ECCが整理に非協力又は妨害する可能性があり,整理に超長期を要
することなど,(d)ECCを破産させる場合は,長所は,不動産の隠匿及び反
対金融機関の仮差押えなどを防ぐことができ,また,計画的な処分が可能
であること,問題点は,Kのリアクションが極めて大きいことが記載されてい
た。
(甲B第31号証の添付資料の№5,第206号証,第210号証)
(エ) 被告Dは,平成3年4月末日の直前ころ,エスコリース専門担当チームの
協力を得て,また,弁護士の意見も聴いた上,エスコリース問題に関する総
括的な文書をまとめた。その文書の概要は,次のとおりのものであった。
「1 エスコリース,ECCの現況
ECCは,エスコリースに対し,4月末の利息を支払わない公算が大
きく,その後の利息の支払についても,見込みが立たない状況になっ
ている。現時点で,もはやECCは,「死に体」であると判断せざるを得
ない。
エスコリースの資金繰り並びに収支は,ECCの利息の支払に全面
的に依存しており,ECCからの利息支払の停止は,即,エスコリース
の機能の全面停止につながるものであり,我々が最も懸念していた事
態がいよいよ現実のものとなって到来したといえる。
2 エスコリースの当面の資金繰りと対応策
エスコリースは,4月末のECCの利息支払がないことを前提にする
と,約40億円の資金不足となる(これは,エスコリースが国内全取引
金融機関に対して約定弁済金の支払をしないが,利息の支払をするこ
とを前提とする。)。
エスコリースが国内全取引金融機関に対する約定弁済金の支払を
停止することは,既に3月中に予告済みであるが,利息の支払の停止
は,予告していないため,4月末の利息の支払の停止は,各金融機関
に対するショックが大きく,混乱を生ずるおそれがあり,少なくとも4月
末は,これを避けたい。
当行のエスコリースに対する4月末の40億円の支援融資は,その
債権保全措置がとれるが,5月末には当行の債権保全措置の限度を
超え,これ以上の支援の実行は困難である。
5月下旬までには,エスコリースの国内全取引金融機関に対し,当
行がエスコリースに対してこれ以上の支援をすることが困難であるこ
と,エスコリースの経営が最終局面に至ったことを告知し,エスコリース
の再建の見通し・方法等について協議をする必要がある。
3 エスコリース,ECCへの今後の対応策
当行は,エスコリースのメイン銀行として,今後の対応策を整理し,
これを明確に打ち出す必要がある。
現在のところ,特にECC側の出方が不明なところが多く,和戦両面
から対策を講じておく必要がある。
ECCを任意整理する場合には,第1にECCの経営実態を明らかに
すること,第2にECCの経営の全権をエスコリース(実態上は拓銀)に
委譲することが必要である。これらの前提条件が具備しない限り,EC
Cの任意整理は不可能であり,エスコリースの国内全取引金融機関に
対して説得し,同金融機関からの協力を得ることは不可能であろう。
ECCを法的整理に持っていく場合は,ECC側(K)が上記の前提条
件を受け入れない場合である。この場合,和議,会社更生,破産という
手段はあるが,ECCの実態からみて,和議,会社更生は,まず認めら
れないと予想される。したがって,ECCの法的整理は,エスコリースか
らECCに対して破産の申立てをすることが唯一の方法であろう。この
場合,ECCのみならず,K個人ほか保証書記載の個人もすべて破産
申立ての対象とする。
エスコリースの整理方針は,任意整理とすることが望ましい。その理
由は,第1に,エスコリースの債務のほとんどが金融債務であり,債権
者数が少なく,かつ,その債権者が金融機関のみであり,説得次第で
は,協力の取付が可能であること,第2に,エスコリースの正常債権
を,後に設立する「たくぎんリース」が任意に買い取るためにも,裁量の
余地の多い任意整理の方が望ましいこと,第3に,マスコミ等の社会的
な影響を考慮すると,任意整理がマイルドであることである。
4 エスコリースの再建策
エスコリースの正常なリース債権,割賦債権及び営業貸付金債権
は,この受け皿として「たくぎんリース」を設立し,「たくぎんリース」に上
記債権のほか,不動産,有価証券なども移転し,従業員も,移転する
(従業員の動揺を防ぎ,雇用を確保する。)。そして,エスコリースに融
資している各金融機関の貸付金について,以上の移転資産に見合う
金額のものを「たくぎんリース」に移転する。
以上の措置によって,エスコリースは,ECC関連貸付金のみを資産
として有し,この貸付金の回収に専念させる会社として存続させる。こ
の貸付金の回収には,長期間を要するため,エスコリースに融資して
いる各金融機関の「たくぎんリース」に移転されない残りの貸付金につ
いては,利息棚上げの支援を得ることとする。
5 今後のエスコリース問題を進めるに当たっての留意点
ECC対策としては,エスコリースがECCからECC関連所有物件及
び債権を譲渡担保として取得できるかどうかであり,Kがこれを応諾す
るかどうかが最大のヤマとなろう。
エスコリースの国内全取引金融機関対策としては,その金融機関の
数が34もあり,協調融資体制ではなかったため,取引形態がまちまち
で,相互の利害が大きく対立しているため,エスコリースの国内全取引
金融機関を包摂できる再建案を提示すること,同金融機関に対して任
意整理の方が良策であることを説得することが必要になる。
エスコリース再建案の鍵を握るのは,「たくぎんリース」がエスコリー
スから移転を受ける資産及び引き取り可能な金融債務の範囲及び金
額である。この点については,エスコリースの3月末決算の内容を把握
した上で,早急に検討しておきたい。
6 当面のスケジュール
対ECC工作は,5月中旬までにする。
「たくぎんリース」の設立は,できれば,5月中旬までに,大蔵省の内
諾を得て欲しい。
エスコリースの国内全取引金融機関については,上記作業が進ん
だ前提で,5月中旬に,日本長期信用銀行及び日本債券信用銀行と
協議し,5月下旬のできるだけ早い時期に,銀行団打合会を開催して,
主要取引銀行11行に対し,事態の説明をし,エスコリース再建案の提
案をし,協力を要請し,5月下旬には,エスコリースの国内全取引金融
機関に対し,エスコリース側から,お詫びと上記同様の説明及び協力
依頼をする。
大蔵省及び日本銀行に対しては,銀行団打合会の前に,説明して
おくことが必要である。」
(甲B第31号証,被告D本人尋問)
(オ) 拓銀の投融資会議の構成員であり,頭取である被告A,副頭取である被
告E及び同B,エスコリース担当常務取締役である被告Dは,平成3年4月
30日,拓銀本店がエスコリースに対して40億円の融資をすることを承認
し,同融資に係る権限外諸貸出申請書の決裁印欄に押印してこれを決裁し
た(本件融資①に関する決裁)。
上記権限外諸貸出申請書及びその添付書類には,①融資金40億円の
資金使途のうち,約23億円は,エスコリースの外国銀行に対する約定弁済
金の肩代わり弁済のためのものであり,このような肩代わり弁済のための
融資をすることは,従前から決められており,また,国内金融機関にもその
旨告知してあったものであること,約17億円は,エスコリースの運転資金で
あり,ECCがエスコリースに対して平成3年4月末日に支払うべき利息金約
16億円の支払がされないことから必要になったものであること,②エスコリ
ースから徴求する担保として,エスコリース所有不動産に極度額40億円の
根抵当権を設定し(従前の不動産の実効担保価額約47億円,追加不動産
の実効担保価額約7億円,未登記だが登記予定のものの実効担保価額約
9億円),かつ,エスコリースの保有しているリース債権のうちの25億円相
当額のもの(実効担保価額20億円)について担保として譲渡を受けるが,
譲渡通知は留保すること,③拓銀のエスコリースに対する本件取扱後の貸
付残高が約474億円になり,本件取扱後のエスコリースから徴求した担保
(不動産,有価証券,リース債権)の実効担保価額は,登記していない不動
産に係るものの実効担保価額約9億円及び債権譲渡通知をしないリース債
権に係るものの実効担保価額20億円を考慮しないと,約94億円(不動産
約54億円,有価証券40億円)となり,差引約380億円の債権保全不足が
発生することが記載されていた(以上,億円未満は四捨五入)。
(前提事実,甲B第4号証の1,第209,第210号証,証人W証言)
(カ) 拓銀本店は,平成3年4月30日,エスコリースに対し,37億円の融資を
実行した(本件融資①の実行)。
(前提事実,甲B第5号証,第7号証)
キ 平成3年5月ころの経過
(ア) 拓銀の首脳部は,平成3年5月21日にエスコリースに対する金融支援
策をまとめあげるが,その前後には,①ECCのKに接触して,拓銀のエスコ
リース及びECCに対する方針を話して,Kの感触を探り,できれば協力を得
る,②エスコリースに対する金融支援策の案を作成する,③エスコリースに
対する貸付金残高の最も大きい日本長期信用銀行,日本債券信用銀行と
協議をする(他の金融機関とは異なり,拓銀からの肩代わり弁済を受けな
いことに同意してもらう。),④大蔵省,日本銀行に対し,エスコリースに対す
る金融支援策の案を示して,了承を取り付ける,⑤エスコリースに対する金
融支援策を,まずは,主要取引銀行11行に対し,次に,エスコリースの国
内全取引金融機関に対し,それぞれ提示する,⑥新聞などマスコミ関係に
発表するという作業が必要であった。
(前記カの(エ)の事実,後記認定事実)
(イ) 拓銀では,平成3年当時には,札幌及び東京に分散して勤務している常
務以上の役員が,毎週月曜日の午前8時30分から約1時間,電話会議の
方法で,各自の担当業務の中から重要と思われる事項を互いに報告するこ
ととされていた(以下「月曜経営会議」という。)。
拓銀の平成3年5月7日の月曜経営会議において,被告B及び同Dか
ら,エスコリースの平成3年3月末時点での資産及び負債の現状及びエス
コリースがECCから取得した,又は将来取得できる見込みの担保不動産の
価額についての報告のほかに,タイム・スケジュールについて,次のような
報告があった。
「 5月7日には,拓銀のX本部次長とエスコリースのI代表取締役がECCの
Kに会う。
5月8日には,被告BがECCのKに会う。
5月10日には,被告Dが,大蔵省の課長補佐(銀行局の課長補佐と思
われる。)に会う。
5月15日には,拓銀のYが,大蔵省銀行局長に会う。同日,拓銀の然
るべき担当者が,大蔵省北海道財務局,日本銀行札幌支店に説明に行
く。
5月16日には,被告Aと同Dとが,大蔵省銀行局の課長,審議官,局
長,検査部長に会う。さらに,被告Aと同Dが,日本銀行の2人の局長と
会う。
同日ころ,被告Bが,日本長期信用銀行及び日本債券信用銀行と協
議する。
5月20日,主要取引銀行11行に対し,エスコリースに対する金融支
援策を提示して説明する。
5月21日,エスコリースに融資している国内全取引金融機関に対し,
エスコリースに対する金融支援策を提示して説明する。」
(甲B第23号証,乙ロ第7号証の1,2,第8号証)
(ウ) 被告Bは,平成3年5月8日,大阪に赴き,ECCのKと面談し,次のとおり
の要旨の話をした。
エスコリースは,法的整理ではなく,任意整理することになる。そのため
には,エスコリースの全取引金融機関を説得する必要がある。そのために
は,ECCがエスコリースからの借入金債務約2000億円に見合う担保をエ
スコリースに提供しなければならない。この担保は,ECC関連所有不動産
及びECCの貸付債権であるが,この合計金額が2000億円プラスアルファ
(これは,200億から300億とすることが望ましい。)となれば,金融機関を
安心させることができる。そうしないと,金融機関の中には,ECCやKに対
し,破産の申立てをしたり,特別背任としての刑事告訴をするものが出てく
る可能性がある。今後の債権回収に協力して欲しい。
(甲B第23号証,乙イ第19号証,被告B本人尋問)
(エ) 被告Dは,平成3年5月10日又は同月15日の前ころに,エスコリースに
対する金融支援策として,次のとおりの概要の案(以下「D第1次案」とい
う。)を作成し,頭取である被告A及び副頭取である被告Bの了解を得て,
経営会議での了承も得た。
① 全金融機関は,エスコリースへの元利金を一定期間棚上げする。
② 「たくぎんリース」を新規に設立し,エスコリースは,「たくぎんリース」に
対してリース債権を売却し,この売却代金をエスコリースの金融機関に対
する債務の返済金に充当する。
③ エスコリースは,対ECCの折衝窓口として,全力をあげて,ECCの実態
解明をし,特にECC関連所有不動産を担保として提供させるように努力
する。
④ 拓銀は,エスコリースに対し,4月末に実行した運転資金融資のほか
に,40億円を上限とする運転資金を提供して支援する。
(乙ロ第22号証,被告D本人尋問)
(オ) 被告A及び同Dは,平成3年5月10日及び同月16日,前記(イ)のタイ
ム・スケジュールに沿って,大蔵省,日本銀行の担当者などと会って,これ
までの経緯及びエスコリースに対する金融支援策についてD第1次案に基
づいて説明をした。大蔵省,日本銀行からは,拓銀に対し,特段の異議も,
具体的な指示もなかった。
しかし,被告Dは,その後,大蔵省担当の拓銀常務取締役であるZから,
「大蔵省側の意向として,これほど多くの金融機関をまとめるには,金融支
援策の内容をもう少し考えてはどうか。具体的には,もっと拓銀の負担を増
やす案でないと,エスコリースに対する金融支援策について他の金融機関
の同意が得られないのではないかとの趣旨の示唆があった。」旨の連絡を
受けた。
そこで,被告Dは,頭取である被告A,副頭取である被告Bなど,常務取
締役であるZなどと協議した上,拓銀のエスコリースに対する支援金額につ
いて,既にD第1次案にあった運転資金40億円に加えて,他の金融機関の
肩代わり弁済資金約80億円を加えた合計約120億円とするエスコリース
に対する金融支援策の案を作成した。
(乙ロ第22号証,被告D本人尋問)
(カ) エスコリースに対する金融支援策の案には,種々のものがあった。
Tが作成した案(甲B第217号証),被告Dが作成して経営会議に提出し
た案(甲B第212号証),被告Dが作成した最終案直前の案(甲B第207号
証)があった。そして,平成3年5月21日には,拓銀のエスコリースに対する
金融支援策(甲B第122号証。甲B第238号証も,書込部分を除いて同じ
もの。)が最終的に確定した。
その最終的なエスコリースに対する金融支援策は,次のとおりの内容の
ものであった。
「1 全取引金融機関はエスコリースに対する全貸出金について,平成3年
5月末から元金の返済猶予ならびに金利棚上の措置をとる。
2 全貸出金のうちエスコリースより差し入れられた不動産,有価証券等
で担保されている貸出金については,各行任意で当該担保物件を処
分し回収する。
3 リース・割賦債権ならびにECC及びECC関連先(含むECC融資先)
以外への営業貸付金に係わる手形債権により担保されている貸出金
については,近い将来発足予定の「たくぎんリース株式会社」(仮称)
が,平成4年3月末をもって75%相当額(元本部分)を,平成5年3月
末をもって残り25%相当額を買い取ることにより,その代金により回
収する。
4 ネット貸出金から第2項ならびに第3項の貸出金を差し引いた残余の
貸出金についてはECCならびにECC関連先依存貸出として,ECC等
の所有不動産の売却代金ならびにグリーンハイツ等への営業貸付金
の回収代金により3年を目途に回収する。
5 ECCならびにECC関連先依存貸出金のうち,回収が長期化すると思
われるものについては,このうち81億円を限度として当行が平成3年
12月末をもって肩代りする。なお,当行による肩代りについては諸般
の事情を考慮し,長銀・日債銀を除き平成3年4月末のECCならびにE
CC関連依存貸出残高を基準に次の比率で実施する。
安田・三井・三菱・住友・東洋・中央の各信託銀行ならびに興銀・東
銀の8行に対しては3%,その他の金融機関(13行)に対しては15%
とする。
6 当行をはじめとする11行の申し合わせ事項により,平成2年8月より
平成3年4月1日まで約定弁済金の折返し支援を行った貸出金293億
円については,ECCからエスコリースが取得した担保物件の処分代金
により他の貸出金に優先して回収する。
7 第3項記載の貸出金については,当該担保物件を「たくぎんリース株
式会社」が買取り実行するまで,担保債権について対抗要件措置(ユ
ーザーに対する譲渡通知)を講ぜず,取立代金はエスコリースに開放
する。
8 エスコリースの当面の必要資金については,当行が40億円を上限と
して融資することとする。
なお,本項ならびに5項に係わる当行の貸出金は4項に係わる貸出
金と同様の扱いをもって回収する。
9 担保手形については交換呈示の方法によらず,差し換え方式とする。
10 本支援措置は全金融機関が合意した場合に限り効力を有する。
なお,不測の事態が生じた場合は全金融機関で改めて協議する。」
(甲B第122号証,第207号証,第212号証,第217号証)
(キ) なお,拓銀のエスコリースに対する直接的な金融支援としての約120億
円の負担については,種々の観点からの説明が可能なものであった。
例えば,経営会議提出資料とされているエスコリースに対する金融支援
策(甲B第212号証)では,その添付資料の№14として「当行の肩代り金額
算定根拠」と題する文書があり,同文書においては,エスコリースのECC及
びECC関連先に対する貸付金額2020億円のうち,早期に回収できるもの
101億円を減算して,長期間に亘って回収しなければならない貸付金額を
1919億円とし,この回収財源として,ECC関連所有不動産から回収でき
るものを1019億円,ECCの融資先であるグリーンハイツ株式会社から回
収できるものを520億円,ECCの融資先である他の企業から回収できるも
のを258億円とし,これらの合計額1797億円をさらに減算すると,122億
円となり,これが,ECC及びECC関連先からの回収が長期間固定化すると
見込まれる額(実際には,回収不能額の意味)であり,この122億円が,拓
銀の肩代りする金額であるとしている。しかし,上記の回収できる金額179
7億円というのは,その当時の状況からみても,その後の経緯に照らして
も,多分に不確定要素を含むものであった。
また,被告Dが平成3年5月17日ころ作成したものと窺われる「E社金融
支援策修正試案」と題する文書(甲B第207号証)中には,「ECC並びにE
CC関連先への貸出金2063億円のうち回収が長期化すると思われる284
億円のうち50%相当の140億円」という記載もあるが,この記載に係る算
定も,多分に不確定要素を含むものであった。また,同文書中には,肩代り
弁済金について「安田・三井・三菱・住友・東洋・中央の各信託銀行ならびに
興銀・東銀の8行に対しては6%,その他の金融機関(13行)に対しては20
%とする。」として,「8行分が715億円×6%=43億円,13行分が397億
円×20%=79億円で,合計すると,122億円」とする旨の記載があるが,
「8行分が715億円×9%=64億円,13行分が397億円×15%=60億
円で,合計すると,124億円」とする旨の記載もある。
そして,最終的に決定された拓銀のエスコリースに対する支援策(甲B第
122号証)における拓銀の負担額約120億円は,一応,運転資金の支援
額が40億円,肩代わり資金が約81億円とされているものの,要するに,大
蔵省からの示唆を受けて,拓銀が約120億円ほど負担しないと他の金融
機関の同意が得られないであろうということで出された数値であり,その算
定根拠及び割付根拠が明確にあるというものでもなく,拓銀の負担能力と
他の金融機関との要求との調整として出された数値と窺われるものであっ
た。
(甲B第122号証,第212号証,第238号証,被告D本人尋問,弁論の全趣
旨)
(ク) 拓銀は,平成3年5月21日,常務取締役である被告Dが挨拶・説明をし
て,主要取引銀行11行のうちの他の10行に対し,エスコリースに対する金
融支援策を提示した,
(甲B第123号証,第125,第126号証)
(ケ) 拓銀は,平成3年5月22日,副頭取である被告Bが挨拶・説明をして,エ
スコリースの全取引金融機関32行(以下,他の金融機関について,まとめ
て表記するときには,銀行以外のものを含むときでも,「行」ということとす
る。)に対し,エスコリースに対する金融支援策を提示した。
(甲B第124号証)
ク 平成3年6月から平成4年4月までの経過及び本件融資②ないし④
(ア) 拓銀は,他の金融機関に対し,エスコリースに対する金融支援策に対す
る同意・不同意の回答期限を平成3年6月17日までとしていたが,大半の
金融機関は,同日までの正式回答を見送った。
(甲B第128号証)
その理由は,各行によって異なり,多岐にわたるが,①エスコリースに対
する金融支援策の第1項について,金利棚上げの措置をとることに反対す
るもの,②エスコリースに対する金融支援策の第3項について,(a)たくぎん
リース株式会社がエスコリースから引き継ぐ債権からECC関連債権全部が
除かれていることに反対し,ECC関連債権の一部も引き継がせるべきであ
るとするもの,(b)たくぎんリース株式会社が,平成4年3月末をもって75%
相当額(元本部分)を,平成5年3月末をもって残り25%相当額を買い取る
こととすることに不満をいうもの,③エスコリースに対する金融支援策の第4
項ついて,(a)ECCならびにECC関連先依存貸出につき3年を目途に回収
するとされている根拠を示すことを求めるもの,(b)3年後に回収できないと
きは,拓銀が肩代わり弁済することを求めるもの,④エスコリースに対する
金融支援策の第5項について,(a)拓銀の肩代わり融資の金額が81億円で
はなく,260億円とすることが合理的ではないかとの疑問を投げ掛けるも
の,(b)主要取引銀行11行のうちの8行が3%,その他の13行が15%の
負担をしてもらうということが不均衡であるというもの,(c)そもそも,拓銀が
全額肩代わりすべきであるとするもの,⑤ECCの実態の明確化を求めるも
の,⑥信託銀行からの意見として,平成元年3月に当時専務取締役であっ
た被告Bが,信託銀行6行の支店長を集めて,「拓銀は,貸出残高4,5番
手ではあるが,エスコリースは拓銀の関連会社であり,拓銀が主力であると
認識しており,大蔵省・日本銀行にも拓銀の頭取をとおしてこれをはっきり
表明している。」などと言っていることなどから,拓銀がエスコリースのメイン
銀行としての責任をとることを求めるもの,⑦商工組合中央金庫からの意
見として,拓銀は,日本開発銀行及び外国銀行に対しては「特殊性のある
銀行」として全額の肩代わり弁済をしているところ,当金庫も,日本開発銀
行と同様に政府系金融機関であること及び当金庫のエスコリースに対する
融資は,中小企業等協同組合を通じた転貸資金という特殊性を有すること
などを考慮して,日本開発銀行と同様の取扱いをするように求めるものなど
があり,各行の対応には,その立場(金融機関の性格,経営体力,エスコリ
ースに対する貸付金残高,エスコリースからの担保取得状況,エスコリース
とのこれまでの関係など)に応じて種々の意見があり,拓銀は,他の金融機
関からエスコリースに対する金融支援策について,すんなりと同意を得るこ
とはできなかった。
(甲B第129ないし第142号証)
(イ) 拓銀の投融資会議の構成員であり,頭取である被告A,副頭取である被
告E,同B及び同F,エスコリース担当常務取締役である被告Dは,平成3年
6月28日,拓銀本店がエスコリースに対して40億円の融資をすることを承
認し,同融資に係る権限外諸貸出申請書の決裁印欄に押印してこれを決
裁した(本件融資②及び③に関する決裁)。
上記権限外諸貸出申請書及びその添付書類には,①拓銀のエスコリー
スに対する金融支援策の第8項に基づく運転資金の融資であり,同金融支
援策を推進する上で,不可欠なものであること,②エスコリースから徴求す
る担保はないこと,③拓銀のエスコリースに対する本件取扱後の貸付残高
が約513億円になり,本件取扱後のエスコリースから徴求した担保(不動
産,有価証券,リース債権)の実効担保価額は,債権譲渡通知をしていない
リース債権に係るものの実効担保価額20億円を考慮しないと,約102億
円(不動産約62億円,有価証券40億円)となり,差引約411億円の債権
保全不足が発生すること(以上,億円未満は四捨五入),④エスコリースに
対する金融支援策について,無条件で同意するものが18行,条件付きで
同意するものが2行,回答を保留するものが11行,拒否するものが1行(大
東京海上火災保険)であることが記載されていた。
(前提事実,甲B第8号証の1,2)
(ウ) 拓銀本店は,エスコリースに対し,エスコリースの運転資金として,平成3
年6月28日,22億8700万円の融資を実行し,同年7月31日,7億円の
融資を実行した(本件融資②及び③の実行)。
(前提事実,甲B第12号証)
(エ) 拓銀は,平成3年6月,仙台支店長であったUを本店審査第1部付とする
とともに,エスコリース常務取締役・関連事業本部長として出向させ,以後,
同人をECC関連所有不動産の調査,担保設定,処分,債権回収の業務に
当たらせることとした。
Uは,平成3年12月末日までには,131か所に及ぶECC関連所有不動
産の調査を終えたが,同不動産の同月時点での実勢価額は,合計822億
円であった。
(甲B第147号証,第211号証,被告A本人尋問平成14年7月16日分39
頁)
(オ) たくぎんリース株式会社は,平成3年12月6日,エスコリースに対する金
融支援策を実施するための同社の受け皿会社として,設立された。
(甲B第211号証の2頁)
(カ) 拓銀の経営会議が,平成4年3月16日に開催された。
同会議には,事務方(本部審査第三部)作成の資料が提出された。
同資料には,同日までには,拓銀の提示したエスコリースに対する金融
支援策に同意するものが25行,回答を留保するものが6行(東京銀行,商
工組合中央金庫,安田信託銀行,三井信託銀行,住友信託銀行,中央信
託銀行),独自回収をするものが1行(大東京火災海上保険)となった旨が
記載されていた。
また,同資料には,拓銀が平成3年5月22日にエスコリースに融資して
いる全取引金融機関に提示したエスコリースに対する金融支援策につい
て,その後の状況などを踏まえて若干の修正をするが,基本は,変わらな
いものとしてよい旨が記載されていた。
(甲B第46号証,弁論の全趣旨)
(キ) 拓銀の投融資会議の構成員であり,頭取である被告A,副頭取である被
告E,同B及び同F,エスコリース担当常務取締役である被告Dは,平成4年
3月31日,拓銀本店がエスコリースに対して80億6500万円の融資をする
ことを承認し,同融資に係る権限外諸貸出申請書の決裁印欄に押印してこ
れを決裁した(本件融資④に関する決裁)。
上記権限外諸貸出申請書及びその添付書類には,①拓銀のエスコリー
スに対する金融支援策に基づく肩代わり資金の融資であり,同金融支援策
を基本としたエスコリース関係金融機関が調印する「基本協定書」の締結の
ために,不可欠なものであること,②エスコリースから徴求する担保はない
こと,③エスコリースに対する金融支援策について,未だ同意していないも
のが6行(東京銀行,安田信託銀行,三井信託銀行,住友信託銀行,中央
信託銀行,商工組合中央金庫)あるが,融資実行日までには,同意あるい
は内諾が得られる見込みであることが記載されていた。
また,上記権限外諸貸出申請書には,エスコリース関係金融機関が融資
予定日に調印する予定である「基本協定書」の案が添付されていた。
(前提事実,甲B第15号証の1,2,6)
(ク) 拓銀本店は,平成4年3月31日,エスコリースに対し,エスコリースに融
資している他行に対する弁済金の肩代わり融資金として,80億6500万円
の融資を実行した(本件融資④の実行)。
(前提事実,甲B第16号証)
(ケ) 拓銀を含む32行は,平成4年3月31日,エスコリースとの間で,平成3
年5月に拓銀が提示したエスコリースに対する金融支援策と基本的に同旨
で若干の修正を加えた基本協定書に調印した。
(甲B第25号証)
(2) 以上の事実に基づき,被告A,同E,同B,同F及び同Dが本件各融資を承認
する旨の決裁をしたこと(ただし,被告Fについては,本件融資②ないし④を承認
する旨の決裁をしたこと)が,取締役の善管注意義務等に違反するものであるか
否かについて,検討する。
ア 銀行の融資の適否の判断基準について
銀行のする融資は,具体的な案件ごとに事実関係を異にするものであるか
ら,当該融資の適否は,具体的な事実関係に即して判断することを要する。し
かし,新規融資,追加融資,再建支援のための融資などのように融資を類型
的に区分することも一応可能であり,その類型によっては,融資の適否につい
ての一応の判断基準がある場合もある。本件においても,甲A第15号証及び
弁論の全趣旨によれば,拓銀の本部は,主に,新規融資,追加融資を念頭に
置いて,融資の適否についての判断基準を示した文書を作成し,拓銀の本支
店などの融資担当者に対し,この判断基準に基づいてあるいは参考にして融
資の適否の判断をすることを指示しているものと認められる。
原告は,本件各融資について,エスコリースの再建支援のための融資であ
る,あるいは,あるべきであると主張し,再建支援のための融資としての適否
の観点から,本件各融資が不適切であった旨主張する。
これに対し,被告らは,本件各融資について,エスコリースのソフトランディ
ングの方法による清算のための融資であると主張し,ソフトランディングの方
法を採用したことの適否の観点から,本件各融資が不適切ではなかった旨主
張する。
以上のとおり,本件においては,拓銀がエスコリースに対してした本件各融
資がいかなる類型のものであるかについて,原告及び被告らの主張が異なっ
ているものである。
そうすると,本件においては,まず,本件各融資の類型の判断をしておくこ
とが相当であると考えられる。もちろん,本件各融資の類型を判断したからと
いって,それだけで,本件各融資の適否の判断ができるものではないが,この
類型の判断をすることによって,その類型に応じた一応の判断基準がある場
合には,その判断基準に従って判断を進めていくことが可能になるからであ
る。
イ 本件各融資の類型及びその判断基準(あるいはその有無)
(ア) 本件各融資の類型
前記(1)のオで認定した事実によれば,エスコリースが金融機関に対して
支払わなければならない約定弁済金は,平成2年8月には約50億円,同年
9月から平成3年3月までには約488億円であり,エスコリースがこれらの
支払をすることが困難であること,そして,何らかの金融支援措置をとらな
ければ,エスコリースが破綻することが上記計数上からも明らかであったも
のである。要するに,エスコリースは,既に平成2年8月ころに,金融機関の
支援措置がなければ,破綻していたものである。
そして,前記(1)で認定したその後の事実によれば,拓銀のエスコリース
問題についての基本的な方針の一つは,エスコリースの資産のうちの正常
債権部分(リース業部門の債権及びファイナンス業部門の債権のうちのEC
C関連債権でないもの)は,たくぎんリース株式会社に移転し,正常債権と
は認められないECC関連債権部分は,エスコリースが保有し,エスコリース
をECC関連債権の回収に専念させるというものであったことが明らかであ
る。このような方針は,被告Dが本件融資①の実行直前にまとめたエスコリ
ース問題に関する総括的な文書において明確になっているし((1)のカの(エ)
の事実),また,平成3年3月11日に開催された拓銀の投融資会議におけ
る被告B及び同Dの発言にも,その萌芽が顕れている((1)のオの(ケ)の事
実)。さらに,拓銀が平成3年5月21日ころに作成して,他の金融機関に提
示したエスコリースに対する金融支援策(甲B第122号証)においては,こ
の基本的な方針が,他の金融機関に対しても,大蔵省及び日本銀行に対し
ても,また,新聞などのマスコミに対しても明らかにされている((1)のキ)。
以上によれば,拓銀には,エスコリースを再建する意図がなく,エスコリー
スの正常債権部分をたくぎんリースに移転させるとともに,エスコリースをE
CC関連債権の回収業務に専念させようとする意図があったものであるか
ら,拓銀がエスコリースに対してした本件各融資は,エスコリースの再建支
援のためのものではないものと認めるのが相当である。
なお,前記(1)のカの(エ)で認定したとおり,被告Dが本件融資①の実行
直前にまとめたエスコリース問題に関する総括的な文書(甲B第31号証)
中の第4項の標題が「エスコリースの再建策」となっているものの,同項の
内容には,エスコリースの資産のうちの正常債権部分は,たくぎんリース株
式会社に移転し,正常債権とは認められないECC関連債権部分は,エスコ
リースが保有し,エスコリースをECC関連債権の回収に専念させるもので
あることが明記されている。
そこで,進んで,本件各融資は,被告らの主張するように,エスコリース
のソフトランディングの方法による清算のための融資であったのかどうかに
ついて検討する。
前記(1)のカの(ウ)で認定した事実によれば,エスコリース専門担当チー
ムの一員となったVは,平成3年4月末日直前ころに,エスコリース及びEC
Cの整理方法の想定できる組合せを表にしてまとめているところ,その表に
は,エスコリースについて,①任意整理,②和議,③会社更生,④破産の4
つの整理方法がある旨が記載されていたものである。また,甲B第31号証
の添付資料の№5によれば,上記4つの整理方法の長所と問題点のそれ
ぞれが記載されていることが認められる。
そして,上記事実に加えて,前記(1)のオないしクで認定した事実及び被
告D本人尋問の結果によれば,平成3年4月30日に実行された金額37億
円の本件融資①は,その融資金のうちの約23億円は,エスコリースの清算
方法について任意整理が否定されないようにするための予定された融資
(すなわち,エスコリースに融資している金融機関として外国銀行がある場
合には,任意整理の方法を選択することが困難になることを考慮して,エス
コリースに融資している金融機関から外国銀行を除くためにした融資)であ
り,また,残りの約14億円は,エスコリースの清算方法を検討するための
緊急の融資(すなわち,この融資をしないと,エスコリースの国内全取引金
融機関が,平成3年4月末のエスコリースからの利息の支払がないことによ
って,予定外又はエスコリース若しくは拓銀などから予告されていない事態
が発生したとして,混乱に陥り,エスコリースのみならず,拓銀も,その対応
に追われることになるから,これを避けるための融資)であり,本件融資②
ないし④は,エスコリースを任意整理の方法で清算する方向に全取引金融
機関を導くための融資であるものと認められる。
本件各融資は,以上のような類型のものであり,総じていえば,被告らの
主張するように,エスコリースのソフトランディングの方法による清算のため
の融資であったといっても差し支えないものといえる。
(イ) 本件各融資の適否についての判断基準(あるいはその有無)
新規融資や追加融資の類型に属する融資の適否については,その一応
の判断基準があり得ること,そして,拓銀にも,この類型に属する融資の適
否についての判断基準を示した文書があることは,前説示のとおりである。
また,再建支援のための融資の類型に属する融資の適否については,
その一応の判断要素として,原告の主張するとおり,融資先企業の再建可
能性,融資の回収可能性,短期的な損失を上回る中長期的な利益の有無
及び程度が考慮されるべきことは是認できる。
しかし,本件各融資は,上記(ア)のような類型のものであるところ,このよ
うな類型の融資の適否については,必ずしも定式化された判断基準がある
とは,窺われない。
そうすると,本件各融資の適否については,本件の具体的な事実関係に
即して判断するほかないことになる。
ウ 本件融資①の適否について
(ア) 前記(1)のオ,カで認定した事実に加えて,甲B第210号証(8頁)によれ
ば,①エスコリースは,平成2年8月ころには,エスコリースに融資している
取引金融機関に対する約定弁済金の支払をすることが困難になり,少なく
とも,エスコリースに対する貸付金残高の約75%を占める主要取引銀行1
1行が約定弁済金の折返し融資という金融支援をしなけなければ,破綻し
ていたこと,②エスコリースは,平成3年4月からは,エスコリースの全取引
金融機関が約定弁済金の折返し融資という金融支援をしなければ,破綻し
ていたこと,③外国銀行は,約定弁済金の折返し融資に応ずる見込みがな
く,エスコリースが約定弁済金の支払をしなければ,エスコリースを破綻させ
ることも意に介さないという態度をとってくることが予想されたこと,④このた
め,拓銀は,平成3年3月11日に開催された投融資会議において,エスコリ
ースの外国銀行に対する約定弁済金について肩代わり融資をすることを決
定していたこと,⑤また,拓銀及びエスコリースは,平成3年3月中に,文書
をもって,エスコリースに融資している国内全取引金融機関に対し,平成3
年3月以降に弁済期の到来する約定弁済金について折返し融資をしてもら
いたい旨を要請したこと,⑥上記要請は,エスコリースがその国内全取引金
融機関に対し,利息金の支払をすることを前提としていたこと,⑦しかし,拓
銀は,平成3年4月中に,ECCがエスコリースに対して同月末以降の利息
の支払を停止する旨の情報を得たところ,ECCがエスコリースに対して利
息の支払をしない場合には,エスコリースがその国内全取引金融機関に対
して利息の支払をすることができなくなることをもたらすものであり,エスコリ
ース又は拓銀は,このような情報をエスコリースの国内全取引金融機関に
予め告知していないため,エスコリースの国内全取引金融機関は,平成3
年4月末のエスコリースからの利息の支払がないことによって,予定外又は
エスコリース若しくは拓銀などから予告されていない事態が発生したとして,
混乱に陥り,エスコリースのみならず,拓銀も,その対応に追われることに
なることが強く予想されたこと,⑧そこで,拓銀は,平成3年5月中に関係各
方面と協議するなどした上でエスコリースの処理方針を作成し,これをエス
コリースの国内全取引金融機関に示すこととして,エスコリースの国内全金
融機関に対する同年4月末の利息金の支払については拓銀が肩代わり融
資することにしたこと,⑨こうして,被告A,同E,同B及び同Dは,平成3年4
月30日,融資金40億円のうち,約23億円は,エスコリースの外国銀行に
対する約定弁済金の肩代わり弁済のためのものであり,約17億円は,エス
コリースの運転資金とする内容の同日実行の融資を承認する旨の決裁をし
たことが認められる。
(イ) 原告は,業況が悪化した企業に対する融資においては,当該企業の再
建可能性,融資の回収可能性,短期的な損失を上回る中長期的な利益に
ついて十分検討をする必要がある旨主張する。しかし,上記主張は,本件
融資①がエスコリースの再建のための融資であることを前提とする主張で
あって,前記認定のとおり,本件融資①は,エスコリースの再建のための融
資ではないのであるから,上記のような判断要素から,本件融資①の適否
を検討するのは,相当ではない。ちなみに,上記判断要素から検討すれ
ば,エスコリースの再建可能性はなかったし,本件融資①に係る貸付金の
回収可能性はないに等しかったということになる。しかし,前記(1)認定の事
実によれば,本件融資①は,直接的には,(a)エスコリースに融資している
金融機関から外国銀行を除外し,エスコリースの全取引金融機関において
平成3年4月以降の約定弁済金の折り返し融資を実行してもらう環境整備
をすることを目的とし,また,(b)エスコリースの国内全取引金融機関が平成
3年4月末にエスコリースからの利息の支払がないという予定外の事態に
直面することによって混乱に陥り,エスコリースのみならず,拓銀も,その対
応に追われることになることを避けることができ,それが,ひいては,今後に
拓銀が作成するエスコリースに対する金融支援策を円滑に進めるための環
境整備にもなることを目的としたものであり,その後の経過に照らすと実際
にその目的に沿った効果を発生させたものと認めることができる。本件融資
①のこの効果が,拓銀にとって,どのような利益になり,その金額をいくらと
算定するのかは,難しい問題である。それは,本件融資①がなく,エスコリ
ースが平成3年4月末に破綻した場合に,拓銀に発生する不利益及びその
金額を算定することによってすることが相当であるが,この点は,後述す
る。
原告は,エスコリースの外国銀行に対する約定弁済金23億円について
拓銀が肩代わり弁済する理由がなかった旨主張するが,直接的には,上記
(a)のとおりの環境整備という理由があったものである。
また,原告は,本件融資①の際に,拓銀がエスコリースから徴した担保
が不十分・不徹底である旨主張するところ,その主張は,確かに一応正当
なものがある。例えば,本件融資①の実行に際して,拓銀はエスコリースか
ら25億円のリース債権を担保として譲渡を受けることとしているところ,この
リース債権について譲渡通知をしないとしたことの問題はさておき,そもそ
も,拓銀のエスコリースに対する金融支援策においては,リース債権は,エ
スコリースからたくぎんリース株式会社に売却され,その売却代金が,エス
コリースの取引金融機関に対する債務の弁済のための重要な原資になる
とされているのであるから(被告Dが本件融資①を実行する前に作成した総
括的な文書においても同じ。),拓銀がエスコリースからリース債権を担保と
して徴することは,より大きな基本計画からすると,許されない行為であっ
て,自己矛盾にほかならないものであった。要するに,拓銀は,本件融資①
の実行に際して,25億円のリース債権を担保として取得する真意がなかっ
たのである。しかし,本件融資①は,新規融資や追加融資の場合と異なる
類型であって,新規融資や追加融資にあっては,融資を受ける者から,融
資に係る貸付金額に見合う担保を徴する必要があるが,本件融資①は,前
説示のとおり,もともと,上記(a),(b)を目的としたものであって,回収可能性
を放棄したものであるから,担保が不十分・不徹底であることを論ずる意味
がないものである。
(ウ) そこで,拓銀がエスコリースに本件融資①を実行せず,エスコリースを平
成3年4月末に破綻させた場合の拓銀に発生する不利益及びその金額を
算定する。
拓銀に発生する不利益は,結論的にいえば,おおむね,被告の主張する
とおりである。
すなわち,①前記(1)で認定したとおり,拓銀のエスコリースに対する出資
比率は,平成3年3月ころの時点において,拓銀そのものでは5%であり,
拓銀グループとしても12%であったうえ,甲B第218号証によれば,別紙
「㈱エスコリース銀行別借入残高表」に記載のとおり,昭和57年3月時点に
おいては,エスコリースに対する貸付金残高でみれば,拓銀の占める順位
は,主要取引銀行11行の中の6位であって,決して上の順位ではなかった
ことが認められ,このような出資比率及び貸付金残高順位などに照らすと,
エスコリースは,拓銀の系列ノンバンクということはできないものの,前記(1)
で認定したとおり,エスコリースが昭和50年に再建される際に,拓銀が,エ
スコリースの代表取締役社長として拓銀OBのHを,エスコリースの取締役
として拓銀の行員であったIを派遣し,その後,昭和61年2月18日には,エ
スコリースの代表取締役としてIが就任し,また,拓銀がエスコリースに種々
の支援をしていたこともあって,拓銀は,折に触れて,大蔵省,日本銀行か
ら,エスコリースを拓銀の系列ノンバンクとして責任を取って指導するように
言われ,また,他の金融機関も,被告Bの言動があったとはいえ,エスコリ
ースを拓銀の系列ノンバンクと見ていたものであるところ,②乙ロ第16,第
17号証,第26号証の10によれば,平成8,9年ころまで,大手銀行の系列
ノンバンクの債務については,大手銀行が責任を持つという暗黙の掟があ
り,これを一般に母体行主義と呼んでいたものであり,平成11年版の経済
白書においても,「母体行主義とは,一般に,金融機関系列のノンバンクの
経営状態が悪化した際に,設立母体である金融機関が,融資額を超えても
他の金融機関の融資を事実上肩代わりする,というこれまでの慣行を指
す。そのため,金融機関系列のノンバンクは,倒産の形をとらなかった。し
かし,95年以降,銀行本体の経営悪化に伴い,金融機関系列のノンバンク
も倒産するようになり,これまでの「母体行主義」が崩れた。」と説明されて
いることが認められ,③甲B第120号証,乙ロ第2ないし第4号証,第14な
いし第18号証,第27,第28号証によれば,拓銀は,平成3年当時,資金
量が約49兆円であり,そのうち,約3兆円をインターバンク市場などで調達
していたものであり,調達金利と貸付金利との差がわずか0.2%ほどであ
ったところ,日本債券信用銀行が平成9年に系列ノンバンク3社に自己破産
宣告を申請させた際には,調達金利が4~5%も上昇し,経営困難に陥った
ように,拓銀がエスコリースを破綻させた場合には,調達金利の上昇が発
生し,それが仮に1%であっても,約3兆円のインターバンク市場などでの
調達額に限定してみても,1年間当たり約300億円の損失が発生し,場合
によれば,平成9年の日本債券信用銀行の場合と同様に経営困難に陥る
可能性もあり得たものと認められ,④乙ロ第27ないし第29号証によれば,
平成4年3月時点で,拓銀の系列ノンバンクとして,たくぎん抵当証券,たく
ぎんファイナンス,たくぎんキャピタルという3社があったところ,これらの系
列ノンバンクの資金は,拓銀からの融資額が約1300億円,他の金融機関
からの融資額が約6200億円であり(以上,上位二桁未満四捨五入),仮
に,拓銀がエスコリースを見放す形で破綻させた場合には,他の金融機関
が,前記(1)のクの(ア)で認定したとおりの不満をはるかに超える不満を抱
き,上記拓銀系列のノンバンク3社から資金を引き揚げるという報復手段を
採用する可能性もあって,そのような場合には,上記拓銀系列ノンバンクも
経営が破綻することが明らかであったと認められる。
以上のとおり,拓銀がエスコリースに本件融資①を実行せず,エスコリー
スを平成3年4月末に破綻させた場合の拓銀に発生する不利益は,調達金
利の上昇による不利益,そして,場合によっては経営困難に陥る可能性,
拓銀の系列ノンバンク3社の経営が破綻する可能性があったものであり,そ
の金額は,インターバンク市場などからの資金調達に限定しても1年間当た
り約300億円の損失が発生する可能性があり,その他の不利益について
は金銭に換算し難いほど大きなものであったと認められる。
(エ) また,前記(1)で認定した事実に加え,甲B第31号証,被告D本人尋問の
結果によれば,エスコリースの営業内容の一つであるリース業部門は,特
に問題のない部門であったところ,エスコリースを平成3年4月末に破綻さ
せた場合には,エスコリースがこのリース業部門について有する資産価値
が低下するとともに,リース関係者に混乱をもたらすことになり,これを回避
するには,エスコリースのリース業部門の受け皿会社を設立し,エスコリー
スがリース業部門について有する資産をこの受け皿会社に譲渡し,これに
よって,エスコリースがリース業部門について有する資産価値に相当する売
買代金を取得し,エスコリースの取引金融機関に対する債務の弁済に充て
ることができることになるところ,このような受け皿会社をつくることは,直ち
にできるものではなく,実際にも,たくぎんリース株式会社は,平成3年12
月6日に設立されているものであるから,平成3年4月末にエスコリースを
破綻させることは,エスコリースにとっても,また,エスコリースの取引金融
機関にとっても,必ずしも得策であるとはいえないものがあったものと認めら
れる。
(オ) 以上によれば,本件融資①は,エスコリースのソフトランディングの方法
による清算の道を開くための環境整備を目的とした融資であり,本件融資
①を実行しないでエスコリースを平成3年4月末に破綻させた場合には,拓
銀については,調達金利の上昇,経営困難に陥る可能性,系列ノンバンク
が経営困難に陥る可能性などの不利益があり,これらの不利益の金額は,
金銭に換算し得るものに限定してみても1年間当たり約300億円である
が,金銭に換算し難い大きなものがあり,また,エスコリースについては,リ
ース業部門の資産価値が低下するなどの不利益が発生したものであるとこ
ろ,本件融資①は,これらの不利益を回避するためにされたものと認めるの
が相当である。
そうすると,被告A,同E,同B及び同Dが平成3年4月30日に本件融資
①を承認する旨の決裁をしたことは,その判断をした時点において通常入
手できる情報に照らしてその判断の前提となった事実に著しい誤りがあり,
又は意思決定の過程若しくは結果が著しく不合理であったとまでは認める
に足りず,これが善管注意義務等に違反したものであったとはいい難い。
もちろん,上記被告らにおいて,本件融資①を承認する旨の決裁をしな
い選択肢があり得なかったわけではない。すなわち,本件融資①を実行し
ないでエスコリースを平成3年4月末に破綻させた場合に拓銀に発生する
不利益は,あくまでも可能性であって現実化しないこともあり得るから,上記
被告らにおいて本件融資①を承認する旨の決裁をしないことも一つの選択
肢として許容し得ないものでもない。しかし,前記認定の諸事実に照らすと,
上記被告らが本件融資①を承認する旨の決裁をしたことは,それが最善で
あったかどうかはともかくとして,拓銀の取締役としての経営判断における
裁量の範囲内の選択であったというべきである。
エ 本件融資②ないし④の適否について
(ア) 前記(1)のキ,クで認定したとおり,①拓銀の首脳部は,平成3年5月21
日にエスコリースに対する金融支援策をまとめあげるが,その前後には,
(a)ECCのKとの折衝,(b)金融支援策案の作成,(c)エスコリースに対する
貸付金残高の最も大きい日本長期信用銀行,日本債券信用銀行との協
議,(d)大蔵省,日本銀行からの了承の取付け,(e)エスコリースの取引金融
機関への金融支援策の提示という作業を,わずか1か月弱の期間内したも
のであるところ,②拓銀のエスコリースに対する直接的な金融支援額は,被
告Dの作成したD第1次案では,40億円とされたが,大蔵省からの示唆も
あって,120億円に増額し,③それにもかかわらず,各行からは,多くの不
満があり,すんなりと同意を得ることはできなかったが,④被告A,同E,同
B,同F及び同Dが平成3年6月28日に本件融資②及び③に関する決裁を
したときには,エスコリースに対する金融支援策について,無条件で同意す
るものが18行,条件付きで同意するものが2行,回答を保留するものが11
行,拒否するものが1行(大東京海上火災保険)となり,⑤被告A,同E,同
B,同F及び同Dが平成4年3月31日に本件融資④に関する決裁をしたとき
には,エスコリースに対する金融支援策について,他の金融機関31行の同
意が得られ,同日,拓銀を含む32行は,エスコリースとの間で,平成3年5
月に拓銀が提示したエスコリースに対する金融支援策と基本的に同旨で若
干の修正を加えた基本協定書に調印したものである。
(イ) 原告は,本件融資②ないし④は,拓銀が平成3年5月ころに作成した金
融支援策に基づくものであるが,それは,支援目標設定の合理性も支援目
標として掲げられた事項(ECCの所有不動産の売却)の実現可能性もなく,
損失を顕在化させることを先送りするものであった旨主張する。
しかし,前説示のとおり,拓銀のエスコリースに対する金融支援策は,エ
スコリースの再建を目的としたものではなく,エスコリースの資産のうちの正
常債権部分は,たくぎんリース株式会社に移転し,正常債権とは認められ
ないECC関連債権部分は,エスコリースが保有し,エスコリースをECC関
連債権の回収に専念させるというものである。そして,前記(1)で認定した事
実及び弁論の全趣旨によれば,ECC関連債権の回収は,ECCのKを相手
方としなければならないため,和戦両様の交渉をしなければならないととも
に,長期戦を覚悟しなければならないものであり,拓銀の作成したエスコリ
ースに対する金融支援策は,万全なものとはいえないとしても,大蔵省,日
本銀行の意見も聴きながら,関係者の利害の調整の結果として打ち出され
たものであることが認められ,原告の上記の主張のような評価は,これを直
ちに採用することはできない。
また,原告は,本件融資②ないし④は,融資金の返済原資が全く予想さ
れていないうえ,いずれも無担保であって,回収可能性が全くなかった旨主
張するが,前記イで認定したとおり,本件融資②ないし④は,エスコリースを
任意整理の方法で清算する方向に全取引金融機関を導くための融資であ
って,もともと,回収可能性を放棄したものであり,この融資をしなかった場
合の拓銀の被る不利益を避けるためにやむをえない側面があったことは,
前記ウで説示したとおりである。
また,原告は,上記金融支援策が,エスコリースに融資していた国内金
融機関全部の同意が必要であるところ,本件融資②ないし④は,その同意
がないにもかかわらずされた旨主張するが,前説示のとおり,本件融資②
ないし④は,エスコリースを任意整理の方法で清算する方向に全取引金融
機関を導くための融資であったものであるから,国内金融機関全部の同意
を得ることを待たずして実行することも是認し得るものであり,また,本件融
資④を承認する旨の決裁がされた日と同日の平成4年3月31日には,実
際にも,拓銀を含む32行が,エスコリースとの間で,平成3年5月に拓銀が
提示したエスコリースに対する金融支援策と基本的に同旨で若干の修正を
加えた基本協定書に調印したものであることは,前認定のとおりである。
また,原告は,本件融資④は,エスコリースに融資していた国内金融機
関の一部に対する元利金の返済の肩代わりであって,法的には何らの義
務なき負担であり,損失となることが明らかなものであった旨主張するとこ
ろ,その主張はまさに正当ではあるが,本件融資④が,エスコリースを任意
整理の方法で清算する方向に全取引金融機関を導くための融資であって,
この融資をしなかった場合の拓銀の被る不利益を避けるためにやむをえな
い側面があったことは,前記ウで説示したとおりである。
(ウ) 以上によれば,本件融資②ないし④は,拓銀が平成3年5月21日ころに
作成したエスコリースに対する金融支援策に基づき,エスコリースのソフトラ
ンディングの方法による清算の方向に全取引金融機関を導くことを目的とし
た融資であるところ,前記認定事実によれば,上記エスコリースに対する金
融支援策は,未だ母体行主義の観念が強く支配していた金融環境の下に
おいて,大蔵省,日本銀行などの監督官庁の意見を聴きながら,他の金融
機関の動向をも考慮して,拓銀の負担できる限度と他の金融機関が不満を
抱きながらも同意し得る限度を考量しながら策定されたものであるというべ
きであり,また,本件融資②ないし④を実行しないでエスコリースを平成3年
6月末又は平成4年3月末に破綻させた場合には,前説示のとおり,拓銀に
ついては,調達金利の上昇,経営困難に陥る可能性,系列ノンバンクが経
営困難に陥る可能性などの不利益があり,これらの不利益の金額は,金銭
に換算し得るものに限定してみても1年間当たり約300億円であるが,金
銭に換算し難い大きなものがあり,また,エスコリースについては,リース業
部門の資産価値が低下するなどの不利益が発生したものであるところ,本
件融資②ないし④は,これらの不利益を回避するためにされたものと認め
るのが相当である。
そうすると,被告A,同E,同B,同F及び同Dが平成3年6月28日に本件
融資②及び③に関する融資を承認する旨の決裁をしたこと及び平成4年3
月31日に本件融資④に関する融資を承認する旨の決裁をしたことは,そ
の判断をした時点において通常入手できる情報に照らしてその判断の前提
となった事実に著しい誤りがあり,又は意思決定の過程若しくは結果が著し
く不合理であったとまでは認めるに足りず,これが善管注意義務等に違反し
たものであったとはいい難い。
(3) 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告A,同E,
同B,同F及び同Dに対する本件各融資によって拓銀が損害を被った旨の主張
を前提とする請求は,理由がないことに帰する。
4 争点(8)(本件融資⑤に関する損害賠償債権の消滅時効)について
(1) 本件融資⑤が,昭和62年12月10日に実行されたことは,前記第2の1の(5)
のとおりである。
原告は,被告G,同C及び同Aが善管注意義務等に違反して承認した本件融
資⑤によって拓銀が損害を被った旨主張するところ,仮に原告が主張するとおり
の原告の同被告らに対する損害賠償債権が発生したとしても,その損害賠償債
権は,次のとおり,消滅時効期間の経過によって消滅しているものというべきで
ある。
ア 株式会社の取締役に対する善管注意義務等違反を理由とする商法266条
1項5号に基づく損害賠償債権は,取締役と株式会社との法律関係が民法上
の委任に基づくものであるとされるから,民法上の債務不履行に基づく損害賠
償債権として,民法167条1項によって,10年の期間の消滅時効に服するも
のと解される。
イ 民法166条1項は,消滅時効は,権利を行使することができる時から進行す
る旨を定めている。
原告は,株式会社の取締役に対する善管注意義務等の違反を理由とする
損害賠償債権は,①損害が発生し,かつ,②当該取締役に対する責任追及
が現実に期待できる態勢となって,初めて,権利行使が現実に期待できるも
のといえるから,そのときから消滅時効を起算することとなる旨主張し,その理
由として,(a)損害が発生するまでは,株式会社が権利を行使することが不可
能であるからであり,また,(b)当該取締役の在任中には,当該取締役が善管
注意義務等に違反してした行為が隠蔽されていたり,あるいは明らかとなら
ず,また,仮にこれが明らかになっていたとしても,当該取締役による事実上
の人事権の行使などの諸事情によって当該取締役の意向を排してまで,株式
会社が当該取締役に対する責任追及をすることが現実に期待できないからで
ある旨主張し,そして,本件においては,本件融資⑤は,その貸付金の返済
期限が昭和63年12月9日(一括払い)であったが,融資当初から,昭和65
年(平成2年)3月(ゴルフ場オープン予定)までは,継続扱いとすることが定め
られており,昭和63年12月及び平成元年12月には新たな投融資会議の決
裁を経ずに返済期限が延長され,その後,3回にわたり返済期限が延長さ
れ,結局,平成3年12月に日伯の延滞が現実化したこと,本件融資⑤を含む
拓銀の違法融資についての原因究明が現実にされたのは,平成9年11月1
7日(拓銀破綻)以降であることから,本件融資⑤に係る損害賠償債権の消滅
時効の起算日は,昭和62年12月10日ではなく,早くとも,日伯の延滞が現
実化した平成3年12月である旨主張する。
しかし,銀行の取締役が善管注意義務等に違反して融資を承認する旨の
決裁をし,その融資が実行されたときは,その融資が実行された時に,銀行に
その融資に係る貸付金額と同額の損害が発生したものということができ,その
融資に係る貸付金の弁済期が到来して延滞が発生することやその融資に際
して銀行が徴した担保権が実行されることを待たなければ損害が発生しない
というものではない。銀行が,その融資に係る貸付金の弁済期において貸付
金の一部の弁済を受けたり,上記担保権の実行によってその融資に係る貸付
金の一部の弁済を受けることができたときには,融資実行時に発生した損害
の一部が填補されて,損害額が減少することになるに過ぎない。
そして,商法は,株主総会によって選任される監査役に対し,取締役の職
務執行の監査権限を与え(280条1項,254条1項,274条1項),取締役に
対する訴えの提起・追行の権限を与えているほか(275条の4),一定の要件
を満たす株主に取締役の責任を追及する訴えの提起を請求する権限を与え
ている(267条1項)。これらの商法の規定によれば,取締役に善管注意義務
等の違反があって株式会社に損害が発生した場合には,監査役は,取締役
に対して訴えの提起をすることをもって損害賠償債権を行使することができ,
また,一定の要件を満たす株主には,株式会社が取締役に対する損害賠償
債権を行使する端緒を与えられていることが明らかである。もっとも,取締役
に善管注意義務等の違反があって株式会社に損害が発生した場合に,監査
役又は一定の要件を満たす株主がこれを知るに至るには,通常,調査・判断
などに一定の日時を要するものと考えられるが,これは,事実上の問題である
(例えば,甲B第125,第126号証,第238号証及び弁論の全趣旨によれ
ば,拓銀の監査役は,北海道新聞に拓銀のエスコリースに対する金融支援策
に関する記事が掲載された平成3年5月21日,同月22日時点で同支援策に
ついての具体的な内容についての調査をすれば,エスコリースに対する本件
融資②ないし④が実行される前から,本件融資②ないし④が近い将来に実行
される予定であることを知った上で,これらの融資を承認することが善管注意
義務等に違反するものかどうかを検討し得たものと推認されるところであっ
て,このように取締役に善管注意義務等の違反があって株式会社に損害が発
生するかどうかを事前に予見し,検討することができることもある。)。また,原
告は,当該取締役の在任中には,当該取締役が善管注意義務等に違反して
した行為が隠蔽されていたり,あるいは明らかとならず,また,仮にこれが明ら
かになっていたとしても,当該取締役による事実上の人事権の行使などの諸
事情によって当該取締役の意向を排してまで,株式会社が当該取締役に対す
る責任追及をすることが現実に期待できない旨主張するが,商法の定める株
式会社制度においては,取締役の職務執行の監査権限を有する監査役は,
株式会社の最高意思決定機関である株主総会によって選任されるものとさ
れ,取締役から独立してその権限を行使するものとされているから,原告の上
記指摘に係る事項は,事実上の問題であって,株式会社が取締役に対する
損害賠償債権を行使することのできない法律上の障碍事由でないことはもち
ろん,その行使を現実に期待できない事由であるとまではいえない。
そうすると,仮に原告の主張する被告G,同C及び同Aに対する本件融資⑤
に関する損害賠償債権が発生したとしても,その損害賠償債権は,本件融資
⑤が実行された昭和62年12月10日から行使することができたものと認める
のが相当である。
ウ そして,本件融資⑤が実行された昭和62年12月10日から10年後の平成
9年12月10日が経過していることは,公知の事実である。
エ そうすると,原告の主張する被告G,同C及び同Aに対する本件融資⑤に関
する損害賠償債権が発生したとしても,その損害賠償債権は,消滅時効期間
の経過によって消滅していることになる。
(2) 被告G,同C及び同Aは,原告に対し,平成11年2月19日の本件口頭弁論期
日において,消滅時効期間の経過による消滅時効を援用するとの意思表示をし
たことは,当裁判所に明らかである。
(3) 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告G,同C
及び同Aに対する本件融資⑤によって拓銀が損害を被った旨の主張を前提とす
る請求は,理由がないことに帰する。
5 結論
よって,原告の請求は,いずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟
費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官   橋  本  昇  二
裁判官   石  川  真紀子
裁判官岩松浩之は転補のため署名押印できない。
裁判長裁判官   橋  本  昇  二
(別紙掲載省略)

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