弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
訴訟費用は控訴人の負担とする。
       事   実
 控訴代理人は、「一原判決を取り消す。二被控訴人は、原判決別紙図面および説
明書記載の組立式透明ケースを製造または販売してはならない。三被控訴人は、控
訴人に対し、金一七五万円およびこれに対する昭和四一年九月一日から支払いずみ
に至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。四訴訟費用は、第一、二審と
も、被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を
求めた。
 当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠の関係は、つぎに記載した
ものを加えるほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴代理人の主張
(一) 本件実用新案における考案の要部等について。
(1) 被控訴人は、本件実用新案に関し、蓋および側壁については出願前から同
種のものが存在し公知となっているので、考案の要部は、底板の突周縁を物品を入
れるに足る十分な高さを有するように形成して底板を容器状にし、これに直接蓋を
冠着して小物入れとしても使用できるようにしたところにあると主張する。しか
し、側壁については、従来の折りたたみ式のものは、いずれも断面が矩形であって
二つ折りしかできなかったのに対し、本件実用新案にあっては、断面を正方形に
し、これを伸縮の余裕のある柔軟皮膜でつなぐことにより四つ折りとして側壁一辺
の幅に折りたたむことができるようにしたもので、本件実用新案における「前後に
自由に反転する」というのは、まさにこの意味にほかならない。そして、この点が
本件実用新案の考案の中心である。被控訴人の右主張は、この点を故意に看過し、
実用新案登録請求の範囲には何らの記載のない物入れの点をとりあげてこれを要部
としているものであって、その誤りであることは明らかである。
(2) また、本件実用新案は、その登録に至る過程において、当初、側壁の構成
については昭和三七年実用新案出願公告第六、九六四号公報を引用し、底板の構成
については昭和三七年実用新案出願公告第二〇、七六四号公報を引用しての拒絶理
由通知を受けたけれども、右のうち、底板の構成については、本件実用新案と右引
用後者のものとは正方形と矩形のちがいがあるだけで他はまったく同一であるが、
側壁の構成が異なるところから、本件実用新案は、結局、登録となったものであ
る。この点からみても、その考案の要部は側壁にあることは明らかであり、もし、
被控訴人のいうように先行技術を実用新案登録請求の範囲の記載から除去するとす
れば、底板の構造についての部分がまず排除されるべきであり、本件考案は側壁に
ついての考案ということになるのである。
(3) さらに、本件のように蓋と、側壁と、底板との組合せよりなる実用新案に
おいて、その各部分を取り出し、その部分は公知であるが故に権利としての意味が
ないと論ずることは、実用新案の解釈として正しい態度ではない。なぜならば、そ
の構成部分のいずれもが公知である場合には、権利としての意味を有する部分がな
いことになり、無効審判を経ずして権利は無効とされてしまうからである。したが
って、実用新案と侵害品を対比する場合の便法として部分、部分を対比することは
許されるとしても、実用新案権の内容、範囲の判断にあたっては、あくまでも、実
用新案登録請求の範囲の記載を基礎としなければならないのである。
(二) 被控訴人の製品における底板の突条について、
 被控訴人の製品における底板の突条の内側の高さは約一・四ミリメートルである
が、内側底部はたわんでおり、中央部におけるたわみの深さは、角一五号について
は常時二・三ミリメートル、角二四号にあっては常時二・八ミリメートルあり、中
央部に力を加えた場合には、角一五号については八・八ミリメートル、角二四号に
あっては一一・二ミリメートルまでたわみうる。したがって、底板は小物入れとし
ての十分の深さを有し、その突条は、小物入れとして使用するに十分の高さを有す
るものである。
(三) 損害賠償請求について。
 かりに、控訴人および訴外Aが原判決請求の原因六記載のような(なお、訴外株
式会社喜世商店は、昭和四一年三月一日商号を「株式会社フロンティア喜世」と変
更した。)製造販売をしていなかったとしても、控訴人および訴外Aは、実用新案
権者として、本件実用新案の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金
銭を、自己の損害として請求することができる。
 しかして、その額は被控訴人の売上高の一〇%であるので、控訴人は、一七・五
カ月分の損害賠償として金一七五万円を請求する権利を有する。
二 被控訴代理人の主張
(一) 本件実用新案における中空突周縁の構造等について。
 本件実用新案の一構成要素である底板に形成された中空突周縁については、本件
実用新案登録請求の範囲の記載においてその高さを限定する文言はないが、その考
案の目的からして、必然的にその高さには上下の限界があることは明らかである。
すなわち、その突周縁がその外側によって側壁を支える目的を有するものである以
上、それを支えるに足るだけの高さを必要とすることは当然である。その高さは容
器自体の大きさによって差異はあるが、本件考案が人形、かつら、造花、菓子等の
容器に関するものであることから考え、少なくとも一・五センチメートル以上を必
要とすることは明らかである。そうだとすれば、その突周縁の内側は少なくとも深
さ一・五センチメートルの凹所となるのであって、側壁を取り去って小物入れとし
て使用することができるのである。実用新案の構造の類否を判断するにあたって
は、その構造を結果した目的、作用効果を考慮すべきものであるが、本件実用新案
においては、その明細書の考案の詳細な説明に、「本考案は人形、かつら、造花あ
るいは菓子類などの容器として使用し、または側壁5を取除き蓋7を直接底板1に
冠せて小物入れとしても使用できるものである。このように本考案では側壁5を使
用すると否とで二様に使用できるばかりでなく……」と説明していることによって
明らかなように、側壁を取り去って蓋を底板に直接冠せて小物入れとして使用でき
る効果が重要な要素をなしているのであって、このような作用効果は、底板の中空
突周縁がその外側において側壁を支持する高さを有すると同時に、その内側が容器
としての深さを有することによって生ずるのである。すなわち、本件実用新案登録
請求の範囲でいうところの「中空の突周縁」とはそういう形状のものをいうのであ
るが、被控訴人の製品にはそのような中空突周縁は存在しない。被控訴人の製品の
底板にあるのは、補強用の突条に過ぎず、それは本件考案の蓋に施されている補強
突条と同じものである。本件実用新案登録請求の範囲において、蓋の四周に形成さ
れた隆起部については「補強突状」という用語を使用しているのに対し、底板の隆
起部については「中空の突周縁」という異なる用語を使用していることによっても
明らかなとおり、両者はその目的が相違することによってその形状も異なるのであ
る。すなわち、被控訴人の製品は「揚げ底」の四周によって側壁を支持しているの
であって、揚げ底の四周に設けられた突条は、蓋のそれと同様に、揚げ底を補強す
る目的しか存しない。これに反し、本件考案における中空の突周縁は補強の目的は
全然なく、前記のように側壁を支持することと内側を物入れに使用することの二様
の目的を有するのであって、その形状も必然的に異なるのである。
(二) 被控訴人の製品における底板の突条等について。
 被控訴人が製造販売している人形ケースの種別としては、ケース底部の一辺の長
さが、それぞれ一五センチメートル、一八センチメートル、二一センチメートル、
二四センチメートル、三〇センチメートルのものがあるが、底部の補強用突条の高
さは、いずれのものでも、一様に一ミリメートル程度となっている。この点からみ
ても、右突条が、補強の目的だけのためのものであることは明らかである。また、
控訴人は、被控訴人の製品が小物入れにも使用できるとして、底部中央部のたわみ
を主張しているが、それがビニール製品である以上、底板の中央部にたわみが全然
ないとはいいきれないが、それは、あってもせいぜい一ミリメートル程度に過ぎな
い。
 また、中央部に圧力を加えれば、たわみがある程度深くなることは考えられる
が、小物入れに使用する場合にそのような力が下方に向かって加えられることはあ
りえないのである。すなわち、小物を無理に沢山入れようとすれば、その力は逆に
上に向かって蓋を押し上げる作用となって働くのであって、力によるたわみを持ち
出すのは本件の場合無意味である。被控訴人の製品の底板の補強突条の高さは一ミ
リメートル程度に過ぎず、中央部の自然のたわみを加えてもその深さは二ミリメー
トル程度に過ぎないのであって、その底板は容器としての形状を具えていない。
(三) 控訴人の均等の主張に対して。
 控訴人は、被控訴人の製品の底板の補強突条が本件考案における中空突周縁の設
計変更に過ぎないものであるかのような主張をしているが、これは、考案における
技術思想を無視した立論である。本件考案は、一枚の薄い合成樹脂製の板にプレス
加工して突周縁を形成する方法によっているため、その突周縁は技術上必然的に中
空となるのであって、突周縁を形成する目的は、その突周縁の高さが外周において
側壁を支持すると同時に、その内周には側壁を利用しなくても底部との間に物を容
れるに足るだけの空間が形成されるというところにあるのである。被控訴人の製品
は、揚げ底の思想であり、揚げ底の四周によって側壁を支持する技術思想によるも
のであって、右製品には、側壁を取り去って揚げ底の上部を物入れに使用するとい
う思想は全然ないのである。ただ、この揚げ底を補強するため、一ミリメートル程
度の高さを有する補強突条を設けているが、それはあくまで補強の目的に過ぎず、
本件考案にいう中空突周縁とはまったく異なるものである。要するに被控訴人の製
品は、その底板形成の技術思想において本件考案とは異なる揚げ底の思想に立つも
のであり、その形状の相違は単なる設計変更でないことは明らかである。
三 証拠関係(省略)
       理   由
一 控訴人の夫訴外Aが本件実用新案権を有していたところ、控訴人が昭和四〇年
一一月八日同訴外人からこれを譲り受け、同年一二月二〇日その登録を経たこと、
および、本件実用新案の実用新案登録請求の範囲の記載が控訴人主張のとおりであ
ることは、当事者間に争いがない。
二 右争いのない実用新案登録請求の範囲の記載および成立に争いのない甲第二号
証によれば、本件実用新案は、
(イ) 任意の合成樹脂を用いた比較的硬質の板を型打ちして四周に中空の突周縁
を形成した底板
(ロ) 同質の板に柔軟皮膜を高周波接着して接続した前後に自由に反転する四枚
の側壁
(ハ) 同じく透明板を型打ちして四周に補強突条を形成した蓋
の三者を備え、(イ)の底板に(ロ)の側壁を嵌合し、これに(ハ)の蓋を冠せる
ことを必須の要件とする組立式透明容器にかかるものであることが明らかである。
三 ところで、被控訴人は、右(イ)の底板における中空突周縁が、それによつて
囲まれた凹部に物品をいれることができる程度の高さを有することが、本件実用新
案の必須の要件である旨主張するので、以下この点について判断する。
(一) 前記実用新案登録請求の範囲の記載中には、右中空突周縁について、底板
の構造を「任意の合成樹脂を用いた比較的硬質の板を型打して四周に『中空の突周
縁』を形成した底板」としているなかに、右のように「中空の突周縁」であること
が示されているだけで、それ以外に高さその他の限定は記載されていない。しか
し、前記二で認定した本件実用新案にかかる組立式透明容器の構造自体からすで
に、右中空突周縁の外側はその(ロ)の側壁を支えるに足りるだけの高さを有して
いることを必要とすることが明らかであるように、実用新案登録請求の範囲に単に
「中空の突周縁」とあるのみであるからといつて、ただちにその高さ等について何
らの限定もない趣旨であるとすることはできないのであつて、本件実用新案の目的
とするところを達成し、その作用効果を得るために右中空突周縁が当然有すべき構
造上の限定は右請求の範囲の記載における「中空の突周縁」というの内容をなすも
のというべく、したがつて、本件実用新案の必須の要件であるといわなければなら
ないのである。
(二) そこで、本件実用新案の有する作用効果についてみるに、前記甲第二号証
によれば、本件実用新案の明細書の考案の詳細な説明の項には、その作用効果とし
て、まず、「……本考案は人形、かつら、造花あるいは菓子類などの容器として使
用し、または側壁5を取除き蓋7を直接底板1に冠せて小物入れとしても使用でき
るものである。」との記載があり、続いて、「このように本考案では側壁5を使用
すると否とで二様に使用できるばかりでなく」とあつて、その後に、側壁を取り換
えることにより高さを自由に変えられること、側壁が前後に自由に折りたためるの
で収納保管に便利であること、側壁の接着線が一種の装飾となり蓋や底板の滑止め
となつて脱落を防止できること、という作用効果が記載されていることが認められ
る。以上の記載の内容とその順序によれば、側壁を取り除き蓋を直接底板に冠せる
ことによつて小物入れとして使用できるということは、本件実用新案そのものの作
用効果の一つとして挙げなければならないところというべきである(本件実用新案
は、蓋、側壁、底板の三者を前記のように結合して構成された組立式容器にかかる
ものであるが、かような構成のものにおいて、この三者の結合による容器としての
用途のほかに、右にみたように、この用途と選択的、並列的に――すなわち、特定
の実施例による附随的な効果としてではなく――、三者のうちの蓋、底板の二者の
みの結合による別の用途もその作用効果として摘記されている場合に、この後者の
用途をも本件実用新案の不可欠の作用効果となすべきことはいうまでもないところ
である。)。
(三) 右のとおり、側壁を取り除き蓋を直接底板に冠せることによつて小物入れ
として使用できるということは、本件実用新案にとつて欠くことのできない作用効
果というべきところ、本件実用新案における前記二認定の構造からすれば、右の作
用効果をあげるためには、その(イ)における「中空の突周縁」は必然的に、それ
の内側によつて囲まれた凹部に小物を入れることができる程度の高さを有していな
ければならないことは明らかであるから、前記(一)で説示したように、「中空の
突周縁」が右の高さを有することは、本件実用新案の必須の要件であるといわなけ
ればならない(附言するに、これによつてみれば、本件実用新案は、以上のよう
に、底板に――小物入れとして――蓋を結合しうるように構成した底板、側壁、蓋
の結合による組立式容器であるというべく(これが「実用新案登録請求の範囲」の
記載に基づいて定められる本件実用新案の技術的範囲である。)、右のような意味
で底板と蓋との結合をとりあげることが、ただちにこの結合と底板、側壁、蓋の三
者の結合にかかる本件実用新案の考案との矛盾を来すとなすべきでないことはいう
までもない。)。
(四)そしてまた、(い)いずれもその成立に争いのない乙第六、七号証および当
審証人Bの証言によれば、本件実用新案の出願前である昭和三二、三年ごろから、
合成樹脂で作られた組立式のデコレーシヨンケーキの箱で本件実用新案のものと同
様の構成により前後に自由に反転する側壁を備えたものが訴外三進加工株式会社に
よつて製作され、広く販売されて公知となつていたことが認められ、つぎに、
(ろ)被控訴人の昭和三四年頃の製品であることに争いのない検乙第四号証および
当審証人Cの証言によれば、本件実用新案における前記(ハ)の蓋と同様の構造を
有する蓋が、本件実用新案の出願前に、被控訴人によつて組立式透明容器に使用さ
れ、販売されて公知となつていたことが認められるのであつて、右(い)、(ろ)
の認定によつてみられるように、本件実用新案における前記(ロ)の側壁および
(ハ)の蓋の構成は、いずれもその出願前公知のものであつたことからすれば、本
件実用新案におけるいわゆる要部は、被控訴人主張のごとく(原判決答弁二の項参
照)、底板の構造にこれを求めざるをえないのであつて、すなわち右(三)の判断
は、既存公知技術との関係からも支持されるところというべきである。
 控訴人は、本件実用新案の出願前にあつた折りたたみ式容器においては、いずれ
も側壁の断面が矩形であつて二つ折りしかできなかつたのに対し、本件実用新案に
おいては、その断面を正方形にし、「前後に自由に反転」して四つ折りにすること
ができるようにしたもので、これが本件実用新案の考案の中心をなすものであると
か、また、本件実用新案の登録に至る過程において、底板の構成については昭和三
七年実用新案出願公告第二〇、七六四号公報記載のものと特段の差異はないが、側
壁の構成が当初拒絶理由に引用された昭和三七年実用新案出願公告第六、九六四号
公報記載のものと異なるところから登録されたものであつて、この点からも考案の
要部は側壁にあることは明らかであると主張して、前記(三)の判断に反し、本件
実用新案にとつて、底板の構造のごときは問題外であるとする要旨をいうもののご
とくであるが、かかる主張は、前記(い)の認定にてらし、すでにその前提におい
て失当というのほかはない(なお、昭和三七年実用新案出願公告第二〇、七六四号
公報との関係につき一言するに、成立に争いのない甲第六号証によれば、右公報に
記載されたものは、組立式でなく側壁を有しない容器であることが認められるか
ら、これによつてただちに側壁を有する組立式容器にかかる本件実用新案の底板が
とくに新規なものでないとする根拠とするには足りず、もとより前記判断の妨げと
なるものではない。)。
 なお、控訴人は、実用新案を構成する各部分を取り出して、その部分は公知であ
るが故に権利としての意味がないと論ずることは許されないとして主張するところ
があるが、実用新案の構成要件の内容を確定するうえにおいて、各要件が公知であ
るか否かを考慮することが許されないとする理由はない。
四 つぎに、被控訴人が原判決別紙図面および説明書記載の透明ケースを製造販売
していることは、当事者間に争いがないところ、右図面および説明書によれば、被
控訴人の右製品は、本件実用新案における前記(ロ)と同一の側壁および(ハ)と
同一の蓋を有し、右側壁を底板に嵌合し、これに右蓋を冠せてなる組立式透明容器
であるということができる(このことは被控訴人も認めるところである。)。そし
て、右の底板についてみれば、これは比較的硬質の合成樹脂板を型打ちして形成さ
れたものである点で、本件実用新案における前記(イ)の底板と同じであるが、た
だ、後者において型打ちによつて中空の突周縁が形成されていると同一の箇所に前
者では同じく型打ちによつて形成された突条2がある点で両者は異なつている。
 そこで、前者における右の突条2を有する底板が後者における中空の突周縁を有
する底板と同一ないしは均等といいうるかどうかの点について判断する。成立に争
いのない乙第一〇号証、いずれも被控訴人の製品であることに争いのない検乙第二
号証および検甲第一、二号証に本件口頭弁論の全趣旨を合わせ考えれば、前記図面
および説明書に記載された被控訴人の製品は、底板の一辺の長さが一五センチメー
トルないし三〇センチメートルであるのに対し、その底板における前記突条2の高
さは、底板の周辺部からみて一ないし二ミリメートルに過ぎず、底板の中央部でい
くらか下にたわんでいる所からみても三ミリメートル程度を出ないことが認められ
るのであつて、この底板に、右図面および説明書によつても明らかなとおり四周に
補強突条6を形成したことにより天板部が底板と同様に下がつている蓋7を直接冠
せた場合には、蓋と底板との間にはほとんど間隙がなく、とうていこれを通常の観
念にいう小物入れとして使用することができないことは明らかであり、原審におけ
る控訴本人の供述および当審における証人Aの証言中右に反する部分は採用でき
ず、他に右に反する証拠はない。そうすると、右突条2は、それによつて囲まれた
凹部に小物をいれる程度の高さをその内側において有していないものであつて、本
件実用新案の必須の要件である前記(イ)の底板における中空の突周縁の前記の高
さを有しないものであるため、右中空の突周縁にあたらないものといわざるをえな
いから、被控訴人の前記製品における底板は、本件実用新案における前記底板と同
一ではないものといわなければならず、また、右のとおり本件実用新案にとつて欠
くべからざる小物入れとして使用できるという作用効果を有しない被控訴人の右製
品における底板は、本件実用新案における前記底板と均等のものということもでき
ない。
 したがつて、被控訴人の右製品は、本件実用新案の必須要件を欠き、その技術的
範囲に属しないものといわなければならず、いずれもその成立に争いのない甲第
一、三号証の記載ならびに原審における控訴本人の供述および当審証人Aの証言中
右と見解を異にする部分は、以上に説示したところにてらして採用できない。
五 以上のとおりであるから、被控訴人の右製品が本件実用新案の技術的範囲に属
することを前提とする控訴人の請求は、その他の点について判断するまでもなく、
失当としてこれを棄却すべきところ、これと同旨に出た原判決は正当であつて、本
件控訴は理由がないから、これを棄却し、控訴費用は民事訴訟法第九五条本文、第
八九条により、控訴人の負担として、主文のとおり判決する。
(裁判官 古原勇雄 武居二郎 楠賢二)

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