弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 原告A、同B、内C、同Dがそれぞれ被告の設置する学校の校務員たる地位を
有することを確認する。
2 被告は、原告Aに対し金一五三六万七一四五円と、同Bに対し金一五二九万五
八四一円と、同Cに対し金一四五六万二三〇一円と、同Dに対し金一四七〇万〇六
六一円とこれらに対する昭和五二年三月二一日以降支払済みまで年五分の割合によ
る金員及び昭和五二年四月一日以降毎月二〇日限り、原告Aに対し金一八万〇五七
六円、同B、同Cに対しそれぞれ金一八万九二一六円、同Dに対し金一九万二四五
六円を支払え。
3 被告は、原告Eに対し金四三二万二五七二円と、同F、同G、同H、同Iに対
しそれぞれ金六九万〇八九三円とこれらに対する昭和四九年四月一八日以降支払済
みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は、2及び3項に限り仮に執行することができる。
       事   実
第一 申立
一 原告ら
 主文同旨。
二 被告
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 主張
一 請求原因
1 当事者
 原告A、同B、同C、同D及び訴外亡J(以下、「亡J」という)(以下、右五
名を「原告Aら」という)は、いずれも任命権者である訴外大阪市教育委員会(以
下、「市教委」という)に被告の設置する学校の校務員として別紙(一)の「採用
日」欄記載の日に採用された地方公務員で、かつ地方公務員法(以下、「地公法」
という)五七条にいう「単純な労務に雇用される者」(以下、「単労職員」とい
う)に該当する職員である。なお、生年月日及び後記失職時の勤務校は別紙(一)
の各該当欄記載のとおりである。
 原告Eは亡Jの妻、原告F、同G、同H、同Iはいずれもその子である(以下、
右原告五名を「原告亡J相続人ら」という)。
2 本件覚書と原告Aらの失職
 市教委は、昭和四三年三月二九日締結の別紙(二)の覚書(以下、「本件覚書」
という)が大阪市立学校教職員組合(以下、「教組」という)、大阪市教職員組合
連合協議会(以下、「市教連」という)との間に締結された校務員、作業員の所定
年令到達による退職制度、すなわち定年退職制度(以下、「本件定年制」という)
及びその処遇を定めた労働協約であるとの立場から、本件覚書の効力に基づき、原
告Aらがそれぞれ別紙(一)「失職日」欄記載の日に被告の職員としての地位を失
つた旨通知し、同日以降の就労を拒否して給与等の支払をしない(以下、「本件失
職」という)。
3 本件失職の無効理由
 しかしながら、原告Aらは左記の理由により本件覚書によつてその地位を失うも
のではなく、なお被告の設置する学校の校務員たる地位を有するものである。
(一) 本件覚書の効力(その一)
(1) 本件覚書は市教委と教組との間に締結されたものであり、市教連は当事者
ではない。すなわち、本件覚書末尾の当事者の署名捺印欄には代表者Kが教組と市
教連における各役職名を併記のうえ記名し、市教連の印のみ押捺しているが、本文
冒頭に「大阪市教育委員会と大阪市立学校教職員組合とは、……意見の一致をみた
ので、ここに覚書を交換する」と記載し、極めて明確に合意の当事者を特定してい
ることからみて、本件覚書の当事者はあくまで市教委と教組であり、市教連を当事
者と解することはできない。
 原告らは、当初市教連も当事者であるとして被告主張と一致する陳述をしたが、
右は真実に反し、かつ錯誤に出たものであるから撤回する。
(2) 原告Aらは教組に加入したことはない。すなわち、教組は、その規約によ
れば、個人加盟の単一組合であるから構成員各個人の意思による加盟手続が必要と
なるが、同原告らは何らその加盟手続をしたことはなく、その組合費も払つたこと
はない。
 以上のとおり、原告Aらは本件覚書の当事者である教組に加入していないのであ
るから、その効力を受けることはない。
(二) 同(その二)
仮に、本件覚書が教組のほか市教連をも当事者とした労働協約として締結されたと
しても、
(1) 原告Aらは、もと市教連加盟の単位組合(以下、「単組」という)である
大阪市教育従業員組合(以下、「市教従」という)の組合員であつたが、いずれも
市教従、そして市教連の本件覚書締結に反対して、本件覚書の締結前後に新組合を
結成すべく多くは集団的に脱退し(脱退日は別紙(一)の該当欄記載のとおり)、
昭和四三年六月二二日一〇五名で定年制に反対する新組合の大阪市学校現業労働組
合(以下、「学現労」という)を結成、加入し、本件覚書適用による失職予定日
(別紙(一)の「失職日」欄記載の日)には市教従の組合員ではなかつた(また、
仮に、同原告らが教組の組合員であつたとしても、右市教従脱退と同時に教組から
も脱退している)。
 なお、学現労は市教連に加盟していない。
(2) しかして、労働協約は当該締結組合所属の組合員の労働力の取引に関して
使用者と取り決めをなすものであるから、その所属を離れた組合員には効力は及ば
ないというべきである。
 特に、本件では、原告Aらは市教従、そして市教連及び教組が締結せんとし、又
は締結した本件覚書に反対し、あるいは不満を抱いて脱退し、定年制反対を中心ス
ローガンとする別個の団結体である学現労を結成、加入しているのであるから、旧
組合所属の労働協約の適用のないことは当然である。
 従つて、本件覚書の適用を受ける当時、すでに教組、市教連、市教従を脱退し、
これとは別個の労働組合である学現労に所属していた原告Aらが本件覚書の効力を
受けることはない。
(三) 教組、市教連の労働協約締結能力
(1) 団体交渉の妥結結果及び労働協約は当然にその当事者及び構成員を拘束す
るのであるから、その主体となりうる労働者団体は必ずしも労働組合法(以下、
「労組法」という)二条にいう労働組合又はその連合体に限らないが、労働条件の
維持改善等労働者の経済的地位の向上を目的とし、組織、運営面で一般に必要な規
約、機関、代表者を有し、その目的の範囲内において組合員である労働者の労働条
件を決定するための権能を一般的に付与され、かつ単一意思に基づいて行動し、そ
の締結した協約の履行にあたつてその構成員を拘束しうるだけの統制力の確立され
た社団的実態を備えていなければならず、特に、労働組合の上部団体の場合には加
盟各単組に対し統制力を及ぼしうるだけの組織体であることが必要である。
(2) 教組は、その規約によれば、大阪市立学校の市費負担教職員(以下、「市
費教職員」という)をもつて構成する個人加盟の単一組合であるが、原告Aらを始
め教組へ加入手続をした市費教職員はなく、従つて、その構成員は存在しない。教
組結成の経過は、単に市教連の幹事会において、教組なる団体をつくること及び市
教連加盟の七単組の組合員のうち市費教職員をその組合員とすることを決議したに
すぎない。
 従つて、教組の規約は昭和四二年七月一日施行のもので、それまでの間は全く規
約がなく、右の規約も組合員の加入手続や統制に関する労働組合として最も基本的
な事項について全く規定の設けられていないものである。また、教組自体の組合事
務所はなく、組合専従者、事務局員も置いていない。更に、組合費の徴収をしたこ
とはなく、教組「結成」後一度も規約に規定された大会を開催したこともなく、運
動方針を掲げたり、現実に運動を展開したこともない。しかも、役員は市教連の役
員がそのまま自動的に教組役員を兼任するため、府費負担教職員(以下、「府費教
職員」という)が教組役員を兼任するという組織矛盾を生じている。
(3) 仮に、市教連も本件覚書の当事者であるとしても(以下、市教連につき同
じ)、市教連は、その名も大阪市教職員組合連合協議会であり、規約上も「加盟組
合の自主性を尊重し、相互の協力によつて組合員の労働条件を維持改善し、……」
(三条)と規定する反面、加盟各単組の義務や統制に関する規定はなく、組合員全
員の意思を反映させる大会を開催する規定もない。また、常駐の役職員はなく、書
記局は加盟各単組の事務所に置かれている。
 更に、役員は加盟各単組の三役が各単組の代表としてそのまま常任幹事に選出さ
れ、決議においても各単組の自主性が尊重されており、課題が発生したときに各単
組の代表が集まつて協議し、一定の申し合わせないし決議をするだけで、その執行
も各単組に任されており、指導力、統制力はない。
 対被告大阪市(以下、「対市」という)、対市教委との団体交渉も、交渉事項に
かかわりある単組三役に市教連の議長又は事務局長が加わるにすぎないものであ
る。
 なお、これまで市教連と被告ないし市教委間に労働協約というに足るものは一切
存在しない。
(4) 以上によれば、教組は単に名称と規約が存在するだけの全く実態のないも
ので、その結成すら疑問視され、社団性を有しているとは到底言い難いものである
し、市教連も時折加盟各単組の代表が集まつて申し合わせないし決議を行なつたり
しながら共同して運動を進めるための協議機関あるいは共闘組織にすぎないという
べく、各単組の活動の総和を超えたより高次の団結体としての社団性を有するもの
でないことは明白である。
 従つて、教組、市教連はいずれも労組法二条の労働組合又はその連合体に該当せ
ず、かつ社団性もないから労働協約を締結する能力を有しないものであり、本件覚
書は労働協約としての効力を有せず、原告Aらがこれに拘束されることはない。
 なお、被告主張別紙(六)の記載内容は争わない。
(四) 本件覚書の解釈
仮に、本件覚書が労働協約であり、原告Aらに効力が及ぶとしても、
(1) 地公法上定年制は認められておらず、その法制化も再三試みられたが労働
団体等関係者らの強い反対に遇つて失敗し、本件覚書締結当時もこの点が国会で問
題とされ激しい議論が行なわれており、また、定年制反対を運動方針の一とする労
働組合も存するところであり、かかる背景の下で、定年制の導入という労働者の死
活にも関する重大な問題を、協議連絡機関にすぎぬ市教連の議長及び教組委員長名
義で、覚書の形式をもつて、しかも、何ら定年制を実施する旨明示することなく安
易に決めたとは考えられないところである。
(2) しかも、本件覚書四項は、「処遇及び処遇の条件」と題し「該当者は所定
の退職時期に全員洩れなく退職することを条件に次の処遇を行う」とあり、これを
素直に解釈すれば、「全員洩れなく退職を希望する場合に本件覚書記載の処遇を受
けられる」ことを定めたにすぎないことは明白であり、このように解することは、
労働条件の基準を定めると同時にいわゆる規範的効力を有する労働協約の内容を明
確にし、労使間に不要の動揺や紛争の発生を未然に防止せんとして労働協約の要式
化を要請する労組法一四条の趣旨にも合致するものである。
 以上の諸点から本件覚書を客観的にみた場合、本件覚書は右(2)記載のとお
り、全員洩れなく退職することが処遇の前提条件であることを決めたものにすぎ
ず、かつ原告Aらは本件覚書に基づく退職を希望したこともないから、本件覚書に
よりその地位を失うことはない。
(五) 定年制の不合理性
仮に、本件覚書が定年制を定めた労働協約であるとしても、
(1) 定年制は、労働者の労働継続の意思及び能力の有無に拘らず一定年令に到
達するという自然的、確定的事実の発生によつて当然に退職させる制度で、その法
的性質は解雇ないし解雇基準を定めたものである。
 かかる定年制は、一定年令に達すると肉体的、精神的能力が低下し、労働能率や
仕事に対する適格性が減退するとの前提にたち、労働費の節約と人事の新陳代謝の
観点から主張されるのであるが、労働能力の減退には個人差があり、一定年令の到
達により労働への適格性が当然に失われるものではなく、職務内容によつては多年
の経験により円熟味と効率の増大する場合も少なくなく、特に、近時の平均寿命の
大巾な伸びからみても五五歳や六〇歳(いずれも満年令、以下同じ)が労働不適の
老令であるとは考えられないところで、現に民間企業における定年延長、再雇用、
再就職の傾向はこのことを端的に示すものであり、「老令化社会」、「労働力人口
の老令化」へと進みつつある我が国社会の現状に照らせば、むしろ壮年ともいうべ
きこの労働力を定年制で切り捨てることは社会的にみても大きな損失である。
 また、定年制につきいわれる労務費の節約及び人事の刷新の必要は、使用者側の
都合にすぎず、賃金体系、労働力の配置、運用の工夫により解決すべき問題で、何
ら定年制を合理化するものではない。
 他方、我が国においては、定年制により退職を余儀なくされた労働者は退職金も
乏しく、再就職も困難で、運よく再就職できても労働条件が劣悪であるため、貧困
な社会保障制度の下で生活不安にさいなまれているのが現状である。
 以上から明らかなように、定年制は、単に使用者側に都合が良いという以上に合
理性を肯定しうるかは疑問であり、我が国の現状に照らせば、むしろ労働者の生存
権、労働権に対する重大な脅威となつているもので、到底合理的なものとはいいえ
ないのである。
(2) しかも、本件で問題となつている校務員は、地公法上単労職員として扱わ
れ、古くは学校内に住込み、事実上家族全休で仕事をしていたこともあり、一般の
事務や教職の労働者と相当由来を異にし、また、その職務も肉体的労務を中心とす
るものではなく、事務連絡等を主とする性質上、たくましい体力、高度の知力を要
せず、一学校あたりの配置人員もせいぜい三、四人までで、昇進制度もなく、後進
にポストを譲らねば組織運営上障害が生ずることもないのであり、このようなこと
から、校務員はかなりの年令に達して雇用された者が多く、肉体的、精神的に働く
ことが不可能となるまで勤めることができる職業と期待して就職し、社会通念上も
そのようなものとして受けとられているのである。従つて、給与も一般の公務員と
異なり技能労務職給料表が適用され、もともと低額に押さえられており、年功序列
型賃金体系の下でも定年制による使用者のメリットは極めて少ないのである。
 以上のとおり、定年制は一般的に不合理なもので、特に校務員につき右不合理性
は一層明白であり、少なくとも右(2)記載の点からみて、校務員に定年制を適用
することは不合理であつて、許されないものというべきである。
 被告は、本件定年制の合理性の理由の一つとして給与ないしその基準等の改善を
挙げているが、右は一般的な労働条件の改善に属するものであつて定年制と不可分
ではなく、労働組合の要求闘争のなかで容易に実現されうる水準のもので、現に大
阪府下の他市では定年制がないのに拘らず大阪市よりはるかに上位の賃金水準を有
しているのであつて、右主張は理由がない。
(六) 地公法違反
(1) 地公法は、一般職に属する地方公務員(以下、「職員」ともいう)の身分
保障につき、法律に特に明定する欠格事由に該当する場合(二八条四項)のほか
「この法律で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、若し
くは免職されず、……」(二七条二項)、「この法律で定める事由による場合でな
ければ、懲戒処分を受けることがない」(同条三項)と規定し、二八条で分限の、
二九条で懲戒の各事由、手続等を厳格に定めているが、このことは、職員のその意
に反する不利益処分の事由を限定すると共にその種類をも限定しているのであり、
定年制による失職も右各法条の制約に服することは明らかである。
(2) 右身分保障は、職員の身分の安定をはかることにより公務の中立性と安定
性を確保すると共に、争議権の剥奪等労働基本権に様々の制約を受ける公務員につ
き、その生存権保障の趣旨からこれら制約に見合う一種の代償措置の役割を担つて
いるのであり(最高裁判所昭和四八年四月二五日判決、刑集二七巻四号五四七
頁)、右規定が強行性を有することも疑問の余地のないところである。
(3) 校務員等単労職員は、地公法の認める職員団体に加入できる一方、地方公
営企業労働関係法(以下、「地公労法」という)により労働組合を結成し、一定の
範囲内での団体交渉及び労働協約締結権を有しているが、労働基本権の柱ともいう
べき争議権は剥奪されていることなどに鑑みれば、右地公法二七条ないし二九条の
適用をも受ける単労職員にも右(2)記載の身分保障の趣旨がそのまま妥当するこ
とはいうまでもなく、従つて、地公法の右各法条は単労職員を含め公務員の利益保
護の方向で厳格に解釈すべきである。
 以上のとおり、地公法は二七条ないし二九条において、職員の意に反する不利益
処分の事由及び種類を制限して職員の身分保障をしており、定年制による失職も当
然その制約に服するものであるから、本件覚書が定年制を定めたものであれば右各
法条と矛盾し、これに違反する違法、無効のものというべく、原告Aらが本件覚書
によりその地位を失うことはない。
 以上、いずれの点からみても、本件覚書は無効ないし原告Aらに効力の及ばない
ものであるから、これに基づき同原告らに対してなした本件失職は無効のものとい
わざるを得ない。
4 給与及び死亡退職金
(一) 原告Aらの本件失職時における等給号、給料月額等は別紙(三)記載のと
おりである(扶養手当はいずれも配偶者(妻)に対するものである)。
(二) 同原告らが本件失職をせず、被告の職員としての地位を有し、かつ通常に
昇給、昇格等した場合、
(1) 昭和五二年三月末(亡Jについては昭和四八年一月末)までに、被告から
支払を受くべき給与及び昇給、昇格の等級号は別紙(四)給与明細表の(1)ない
し(5)のとおりである。
(2) 亡Jは昭和四八年一月三日死亡したが、これに伴う死亡退職金は二九四万
〇七八六円で、その計算式は次のとおりである。
 9万7200円 × 30.255 =294万0786円
(死亡時給与月額)×(勤続年数22.6年の整理率)=(死亡退職金)
 条例によれば、勤続年数二二・六年の死亡退職金支給率は二二・〇五で、三〇・
二五五との差額八・二〇五は条例に基づく増額支給決定が必要であるが、本件にお
いては右決定を受ける余地はなかつたのであるから、右決定があつたものとして扱
うべきである。
(3) 亡Jを除く原告Aらが昭和五二年四月以降毎月支払を受くべき給与、扶養
手当、調整手当は、別紙(四)給与明細表の(1)ないし(4)の各昭和五一年度
欄の「一ケ月に対する給料月額・諸手当」欄(上下に分かれているときは下段)記
載のとおりである(その各合計金額は、原告Aは一八万〇五七六円、同B、同Cは
それぞれ一八万九二一六円、同Dは一九万二四五六円である。)
(4) 被告の給与支払日はその月の二〇日である。
(5) 原告Aらは昭和四五年九月七日、被告からそれぞれ別紙(四)給与明細表
の(1)ないし(5)の「既払額」欄記載の金員の支払を受け、これを右(1)の
給与等の支払の一部に充当したので、これを差し引く。
5 仮に、原告Aらの本件失職後に生ずべき昇給、昇格等が後記被告の主張の如き
理由で認められず、従つて、前記4の給与等と失職当時の給与に基づく計算額との
差額部分につき給与性(以下、「賃金性」という)が認められないとしても、
(一) 本件失職処分をしたのは被告を補助する機関たる市教委であり、その個々
の構成員たる職員が同原告らの身分取扱いにつき故意又は過失により、前記2、3
のとおりその職務執行として誤つた判断をした結果、市教委がその公権力の行使と
して本件失職処分をしたもので、このような場合には市教委も国家賠償法(以下、
「国賠法」という)一条にいう公務員というべきであるから、被告は同条項に基づ
き本件失職処分により同原告らに生じた損害を賠償する義務がある。
 被告は「失職処分」の存否を問題とするが、国賠法一条は「公権力の行使」を要
件としているのであつて、抗告訴訟の対象の如き「処分」の存在を要件としている
ものではなく、本件失職が同条にいう行政上の作用としての公権力の行使にあたる
ことは明らかである。
(二) 本件失職処分がなければ同原告らの得ることのできた賃金相当損害金は前
記4の給与と一致するが、本訴においては、被告が賃金性なしと主張する冒頭掲記
の差額分の相当損害金のみ請求する(従つて、この部分と賃金性が認められる部分
との合計額は前記4のそれに一致する)。
6 相続等
亡Jは昭和四八年一月三日死亡したが、同人の
(一) 前記4(二)(1)の未払給与(仮に、被告主張のように賃金性の認めら
れない部分があるとすれば、賃金性ありと認められる部分と前記5の損害賠償請求
額との合算額)は、前記のとおり四一四万五三六〇円であるところ、原告亡Jの相
続人は亡Jの妻及び子で他に相続人がないから、右各請求権を原告Eは三分の一
(一三八万一七八六円)同原告を除く原告亡J相続人らは各六分の一(六九万〇八
九三円)ずつ承継取得した。
(二) 死亡退職金は前記4(二)(2)のとおり二九四万〇七八六円であるとこ
ろ、配偶者である原告Eが第一順位の受給権者であるから、同原告において右請求
権を有するものである。
7 結論
 よつて、被告に対し、原告A、同B、同C、同Dらはそれぞれ、被告の設置する
学校の校務員たる地位の確認、並びに原告Aにつき、一五三六万七一四五円と、同
Bにつき一五二九万五八四一円と、同Cにつき一四五六万二三〇一円と、同Dにつ
き一四七〇万〇六六一円とこれらに対する弁済期ないし不法行為後である昭和五二
年三月二一日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金及
び昭和五二年四月一日以降毎月二〇日限り、原告Aにつき一八万〇五七六円、同
B、同Cにつきそれぞれ一八万九二一六円、同Dにつき一九万二四五六円の金員の
支払を求め、原告Eは四三二万二五七二円と、同原告を除く亡J相続人らはそれぞ
れ六九万〇八九三円とこれらに対する弁済期ないし不法行為後の昭和四九年四月一
八日以降支払済みに至るまで同法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求
める。
二 請求原因に対する認否及び反論
1 請求原因1、2項の事実は認める。
但し、亡Jの採用日は昭和二五年七月四日である。
2(一) 同3(一)の事実はすべて争う。
 本件覚書締結の当事者は市教委と教組、市教連である。右の点に関する原告らの
自白の撤回には異議がある。
 また、甲事件は準備手続に付され、右手続は昭和四五年一二月七日準備手続調書
の作成を経て終了し、その結果は昭和四六年二月一〇日の第二回口頭弁論に上程さ
れたが、右3(一)記載の主張は右調書に記載せざる事項であるから、民事訴訟法
(以下、「民訴法」という)二五五条一項本文に違背し、主張することの許されな
いものである。
 なお、原告Aらは本件覚書締結当時、市教従の組合員であり、同時に教組の組合
員であつた。また、市教連も当事者となつた理由及び経緯は後記(三)のとおりで
ある。
(二) 同(二)のうち、原告Aらがもと市教連加盟単組の市教従の組合員であつ
たが、後脱退し、学現労の組合員となつていることは認め、その余の事実及び主張
は争う。
(三) 同(三)の主張はすべて争う。
 甲事件原告らは準備手続終結まで本件覚書が労働協約であることを前提にしてい
たもので、このことは甲事件原告らが自白し、若しくは明らかに争わないため自白
したと見做される事実であるところ、昭和四九年四月一〇日の第一九回本件口頭弁
論期日において、突然教組及び市教連の労働協約締結能力を否認し、本件覚書が労
働協約であることを撤回するに至つたもので、右は明らかに自白の撤回であるから
異議がある。
また、前記(一)と同様民訴訟二五五条一項本文に違背する主張であつて、許され
ないものである。
教組及び市教連の労働協約締結能力及び本件覚書の法的性質は次のとおりである。
(1) 労働協約締結能力
イ 市教連は市教委所管(地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下、「地
教行法」という)二三条三号参照)の学校園に勤務する市費・府費教職員を組合員
とする市教従等別紙(五)記載の七単組(以下、「七単組」という)の連絡協議会
であり、かつ上部団体であり、しかも対市統一交渉団体で、その最高決議機関は拡
大常任幹事会(各加盟単組から選出された拡大常任幹事で構成)である。
 市教連は、拡大常任幹事会で七単組からの要求をとりまとめて労働条件に関する
要求事項を討議、決定していたが、右事項を大別すると、(イ) 府労連交渉事項
と(ロ) 対市教委交渉事項に分かれ、後者には(イ)市費教職員の給与諸手当、
退職金等の諸問題と(ロ)府費ないし府費並みの教職員につき(イ)を除いた事項
及び市教委独自で解決すべき事項があり、(イ)は府労連の対大阪府統一交渉に任
せ、(ロ)についてのみ対市教委と交渉し、妥結・決定をしていた。
ロ ところで、被告職員のうち、右市教委所管の教職員以外の職員(市長部席職員
(以下、「市職従業員」ともいう)。すべて市費で、被告職員の九五パーセント以
上を占める)は大阪交通労働組合等五単組(後、教組を含め八単組となる。別紙
(五)参照)に結集し、右各単組は大阪市労働組合連合会(以下、「市労連」とい
う)を結成し、これにより対市統一交渉を行ない、労働条件の妥結、決定をしてい
たため、市教連の対市教委交渉は右市労連の対市統一交渉の結果をまつてなされ、
対市教委交渉が二段構えとなつていた。そのため、市教連は市労連の対市統一交渉
に参加する必要を認め、他方市労連も市教委関係の市費教職員も市労連に結集して
統一交渉を持つべきものと考えていた。そこで、市教連は昭和三六年一二月一日市
労連に準加盟したが、その際、市労連には市費教職員のみにより構成された単組の
加入しか認めない組織原則があるため、市教連加盟七単組の市費教職員のみにより
単組を結成して正式加盟することが条件とされた。そこで、市費教職員のみによる
対市統一交渉団体を結成する必要から、同月一六日右七単組の市費教職員約四〇〇
〇名を構成員とする教組が結成されたため、教組は昭和三八年一月二九日市労連に
正式加盟し、以後前記(ロ)(イ)の事項は市労連の対市統一交渉に参加して妥
結、決定し、市教連は前記(ロ)(ロ)の事項についてのみ対市教委交渉をして妥
結、決定している。
ハ なお、教組については、昭和三六年一二月一六日市教連加盟七単組の市費教職
員代表者をもつて結成大会が開かれているし、右七単組の市費教職員の加入手続
は、各単組毎の教組への加入決定により団体としてなされた(例えば、組合員がす
べて市費職員である市教従では、第一四回定期大会で教組への加入が決定され
た)。なお、単組であるからといつてその加入手続を組合員個人がなさねばならな
いことはなく(教組規約にもそのような定めはない)、団体で加入手続をしても何
ら異とするに足りない。
 また、組合費は例えば市教従では市労連費の名目で一括して組合員から徴収して
いるし、市教組のように府費教職員もいるところでは、市費教職員のみから教組費
を徴収しているのである。
二 このように、市教連及び教組は、前記(ロ)(イ)の事項につき、市労連加盟
の前後により対市教委交渉か対市交渉かの違いがあるが、それぞれに団体交渉を
し、数多くの労働条件について妥結、決定をしてきたのであり、前記教組結成の経
緯から市教連と教組とは一体として運営されてはきたが、それぞれに実体を持つ労
働組合であり、労働協約締結能力を有するものである。
ホ なお、教組は単労職員のほか一般職の地方公務員を含む混合組合であるが、別
紙(六)記載のとおり、全組合員四九八四名中単職員は二四一三名であり、右単労
職員は同時に市労連加盟七単組の組合員であり、本件定年制は専ら単労職員の労働
条件に関するから、教組、市教連とも労組法の適用を受ける労働組合と認められる
べきである。
(2) 法的性質
イ 単労職員は、地公法五七条、地公労法附則四項により地公労法が適用される結
果、同法五条により労働組合を結成し、これに加入でき、同法七条により免職その
他労働条件に関する事項を団体交渉の対象とし、これに関し労働協約を締結するこ
とができる。そして、同条は労働条件に関する交渉事項を何ら制限しているもので
はなく、定年制も労働条件の一種であるから(最高裁判所昭和四三年一二月二五日
判決、民集二二巻一三号三四五九頁)、交渉の対象とし、労働協約を締結すること
ができる。
ロ 本件覚書は、市教委と教組及び市教連が当事者となり、後記のとおり校務員、
作業員の定年制及びその際の処遇を定めて書面に作成したもので、これは同法七条
二号の「免職……の基準」又は四号の「労働条件」に関する事項に該当し、労組法
一四条の方式も具備しているのであるから、同法一六条にいう「労働条件その他の
労働者の待遇に関する基準」を定めた労働協約として同条により規範的効力が付与
され、強行性と直律性を有するものである。
 従つて、本件覚書は地公法にいう職員団体による書面協定ではない。
 なお、本件定年制妥結の決定は、職種毎の労働条件を決定しうる市教連の職種部
会の一つである校務員部会がしたが、右事項は労働条件に関するもので、従つて市
労連交渉事項であり、市教連加盟の七単組も右事項の市教連決定の後、市労連分科
会交接即教組交渉として妥結することを決定していたこと、更に、市教連交務員部
会の決定は実態として教組の校務員部会の決定と同一であることから、教組も本件
覚書の当事者として締結の形式をとつたものである。
(四) 同(四)の主張は争う。
本件覚書は定年制の実施及びその際の退職処遇を定めたものである。すなわち、
(1) 本件覚書四項にいう「処遇及び処遇の条件」とは、「処遇及び退職基準」
の意味であり、また「該当者は所定の退職時期に全員洩れなく退職することを条件
に次の処遇を行なう。」とは、「該当者は所定の退職時期に全員洩れなく退職する
ものとする。その場合においては次の処遇を行なう。」との意味であつて、仮定の
条件を定めたものではない。
(2) このことは、本件覚書締結までの交渉経過からみても明らかである。すな
わち、被告大阪市は市労連との間の定年制実施についての合意に基づき昭和三一年
一〇月から五五歳定年制を実施し、以来市労連との協定による定年制の適用を受け
る職員は約五万人で被告職員の九五パーセントを超え、右協定の適用を受ける職員
は一人の例外もなく退職してきた。しかるに、前記市教委所管の教職員のみ、その
多数が府費教職員ということもあり、給食調理員を除き定年制がなく、必要の都度
退職希望者を募つてきたが、その処遇も不十分であつたため、昭和四一年組合側か
ら、右市費教職員についても被告の一般職員と同様の定年制を実施し、退職処遇を
改善すべしとの要求が出て、交渉を重ねた結果、組合側との合意が成立して本件覚
書が締結され、昭和四三年四月末から実施されたものである。
(3) 従つて、本件覚書締結当時から本件覚書の解釈が(1)記載のとおりであ
ることは当事者双方に了解されており、このことは昭和四三年五月二〇日本件覚書
の当事者の了解事項として確認済みである。
(五) 同(五)は争う。
 定年制は、人間の労働力に年令に基づく自然的限界があることを前提に、かかる
限界に近づきながら相対的に高賃金の高年労働者を退職させることにより若年労働
者の雇用を可能ならしめると共に、人事の停滞や士気の沈滞を防止し、組織、運営
の体質改善の必要をはかることに根拠をおくもので、市民サービスの向上にも役立
ち、公共の福祉の実現を最高の理念として運営さるべき地方公共団体の行政に不可
欠であるし、他方組合側にしても、優遇措置により退職処遇を改善し、個別的勧奨
退職を避け、一定年令までの身分を保障すると共に、作業能力低下による他の職員
への労働過重を防止するなどの利益があるのであつて、定年制それ自体を不合理な
ものということはできない。
 このようなことから、大多数の民間会社で定年制が実施されているのであるが、
そこでの定年は五五歳とするところが約半数を占め、また、被告大阪市において職
員の九五パーセント以上に適用されている前記市労連との協定による定年制も五五
歳定年であるし、そもそも肉体的労働力は四〇歳を境に急激に下降を始め、六〇歳
に至つては四〇歳時の二分の一に低下するのである。本件定年制は、五五歳をはる
かに超える六〇歳を定年暫定措置とし、校務員、作業員に六〇歳を超える高令者の
多いことを考慮し、昭和四三年四月三〇日以降六〇歳以上となる者には実質六四歳
まで勤務できるよう配慮すると共に、本件覚書記載の退職優遇措置を講じているの
であつて、そのうえ校務員、作業員の職務内容が肉体労働を主とする単純労務であ
ることを考慮すれば、本件覚書の定年制は極めて合理性を有するものである。
 更に、優遇措置との関連でいえば、そもそも本件定年制は、市教委管理下の市費
教職員のうちの校務員、作業員について、採用から退職までの一連の処遇を、大阪
市の他の市職従業員と同様に改善することの一環として実施されたもので、右処遇
は、退職時の退職金の支給率、一号昇給及びこれによる退職年金処遇の改善のほ
か、定年制実施前の初任給格差、その後の昇格格差をも是正し、全体として他の市
職従業員と同様の処遇に改善せんとするものである。
 本件定年制の合理性は、定年制実施の合意事項として、これら処遇面全体にわた
る改善措置がなされたことにより一層合理性をもつものとなつた。すなわち、原告
らを含む校務員らに適用される技能労務職給料表の格付基準についてみると、本件
覚書締結後の昭和四四年一月から、四等級から三等級への昇格基準が六年から五年
に一年短縮され、二等級への昇格についても、勤続一九年以上の者となつていたの
が、同四三年七月には勤続一九年以上又は三等級一八号給以上の者(一四~一五年
在職者)に改善され、更に同四四年一月には三等級一七号給以上の者(一三~一四
年在職者)が二等級へ昇格するものと改善されている。これは、当時の初任給(年
令加算を適用されない者について)は、同等級七号給であり、以降順調に昇格する
とすれば、五年で三等級となり、三等級八号給に格付されることになり、あと九年
(一年で一号給の昇給とすれば)で三等級一七号給になり、二等級に格付されるこ
とになる。
 従つて、本件覚書締結前の採用時四等級七号給から二等級へは一九年を要したの
と、本件覚書締結以後の昇格基準との比較で考えると、上述の二等級到達は、五年
の短縮となる優遇措置を受けることとなる。更に、その後四九年四月一日以降は、
四等級が廃止され、採用即三等級に格付されることとなつた。
 また、昭和四五年九月三〇日に、一部高令者に対する特別措置を含むが、基本的
には他の市職従業員と同様の定年制が実施されることとなつた。その結果他の市職
従業員と同一処遇を行なうことが可能となり、これら給与格付の改善は引き続いて
実施され、一等級の新設(四六年一月一日)、一等級特認の新設(四八年一月一
日)、特一等級の新設(五〇年一月一日)、特一等級特認の新設(五二年七月一
日)等技能労務職員の格付基準の改善措置は順次進められた。
 これらの給与改善は、定年制を実施したことにより、他の市職従業員と同じ処遇
が可能となつたことによる優遇措置であり、定年制と不可分一体の処遇である。
 以上のとおり、本件定年制の優遇措置は、単に退職手当の整理率適用、退職時の
一号給昇給のみではなく、これらの諸々の優遇措置は、本件定年制の合理性を裏付
けるに充分であり、また、在職中の給与改善が、退職手当、退職年金等の退職に伴
なう処遇の算定基礎となり、その改善につながることはいうまでもないところであ
る。
 なお、原告らは、校務員は事務連絡等を主務としており、体力の低下はほとんど
問題にならない旨主張するが、校務員の職務内容はこれにとどまらず、校舎内外の
整備等に関する業務、学校内の園芸業務、各種行事の準備、宿日直、その他学校長
が学校運営上必要と認めた業務等があつて、かなりの肉体労働であり、体力の低下
はその職務遂行に重大な支障をきたすのである。現に、市教委は右の点を考慮し、
昭和四三年以降校務員の採用を三五歳以下の者に限つている。
(六) 同(六)の主張は争う。
 定年制は地方公務員の身分保障の趣旨に何ら矛盾しないし、地公法二七条、二八
条の制約を受けないものである。すなわち、
(1) 憲法自体裁判官につきその身分を保障すると共に定年制を規定しており
(憲法七九条五項、八〇条一項但書)、定年制が身分保障と矛盾するものでないこ
とを認めているところであるが、地公法は「地方自治の本旨の実現」を目的とし、
このため「人事行政に関する根本基準を確立」し、「地方公共団体の行政の民主的
且つ能率的な運営を保障」しており(同法一条)、同法二七ないし二九条は右の趣
旨から旧憲法下の猟官や恣意的な人事の幣害を除去するため設けられたものである
が、定年制は一定年令への到達をもつて退職を定めるもので、恣意的判断の入る余
地はなく、人事の公平を期すことができ、老令により能力の減退した者を淘汰し、
行政の能率的な運営を効果的に達成しうる適法かつ合理的な制度であるから、同法
の身分保障の趣旨と矛盾するものではない。
(2) しかして、同法二七条一項にいう分限及び懲戒の根本基準としての公正原
則は、あくまで公務員個人に対する個々的な不利益処分である分限、懲戒の処分が
恣意的でない公正な基準によらねばならないことを定めたにすぎないから、文理上
も同条項が定年制を禁止した規定とは解釈できない。また、同条二項は一項の具体
化を唱い、そのうち免職については同法二八条一項で定められ、同条項の分限免職
事由の判断も個々の職員毎に個別的に公正に行なわれなければならず、従つて、同
法二七条二項、二八条一項が個々の職員に対する分限免職事由を四つに限定してい
るとは解釈できても、右の一事から、地公法が暦年という客観的事実に基づき公務
員全体に統一的に適用される分限免職とは異なる法概念の定年制を禁止していると
は文理上も解されない。
(3) 更に、定年制は次の観点からも右法条の制約を受けない。
 同法二七条二項の「免職」は、同法二八条一項各号の事由によりその意に反して
職員たる身分を失わしめる場合、すなわちいわゆる分限免職を指称するが、同法は
このほか職員たる身分を失う場合として、いわゆる懲戒免職(二九条一項、二七条
三項)、いわゆる当然失職(二八条四項)及びいわゆる依頼退職(四三条一項参
照)を区別して規定しているが、右規定の仕方からみて同法二七条二項、二八条三
項にいう「免職」の制約は懲戒免職、当然失職、依願退職とは関係ないというべき
であるし、更に、当然失職については、同法二八条四項の場合に限らず、期限付任
用の期限が到来した場合のように条理上当然認められる場合があり、分限免職に関
する右各法条の制約を受けるものではない。
 本件失職は、労働協約たる本件覚書で定めた期限の到来により当然退職の効果を
生じたものであるから、当然失職の一種で、期限付任用の期間満了の場合と同様分
限免職に関する右各法条の制約を受けることはない。
4 同4項中、(一)及び(二)の(1)、(3)、(4)は認める。(2)のう
ち、亡Jの死亡退職金の支給率(八・二〇五分を除く)が主張のとおりであること
は認めるが、八・二〇五分については増額支給決定があつて始めて請求権として具
体化するもので、本件において右決定は存在しないのであるから右増額支給部分に
つき請求権はない(但し、右決定ありとした場合の計算額は認める)。(5)のう
ち、被告がその主張年月日に原告Aらに別紙(四)の(1)ないし(5)の各「既
払額」欄記載の金員を支払つたことは認めるが、その余は争う。
5 同5項は争う。
(一) 市教委の原告Aらに対する失職通知は、本件定年制により同原告らが各失
職日の到来により失職したことを念のため通知したものにすぎず、右通知に形成的
効果があるわけではなく、また、右通知以外に失職処分なるものは存在しないか
ら、原告らの主張はその前提を欠くものであるし、仮に、本件覚書の締結を「公権
力の行使」というのであれば、その主張は国賠法の解釈を逸脱するものである。
(二) また、本件定年制が労働協約として成立したとする以上、原告Aらに対す
る適用は各失職該当日の到来の有無のみであり、本件各失職日について争いのない
本件においては右適用の誤りもない。
 そもそも、本件定年制が地公法との関係で有効か無効かの法的論議があつたから
こそ長年月にわたり本件争いが継続したもので、この点は裁判所の結論により明ら
かとはなるが、その故をもつて市教委職員に故意又は過失ありとすることは結果責
任を問うもので、行為責任を問う国賠法と相容れないものである。
(三) 更に、原告Aらの昇給、昇格分につき、「賃金性」が認められないのであ
れば、何ら同原告らの権利を侵害しないことになり、昇給、昇格合を損害とするこ
とはできない。
以上、いずれの見地からみても原告らの主張はすべて理由がなく、失当というべき
である。
6 同6項のうち、亡Jが昭和四八年一月三日死亡したこと、原告亡J相続人らが
亡Jの妻子で相続人であること、死亡退職金につき原告Eが第一順位の受給権者で
あることは認めるが、その余は知らない(但し、原告らの主張事実が認められた場
合の計算額については争わない)。
7 同7項は争う。
三 被告の主張及び抗弁
1 本件覚書と労組法一七条との関係
 前記のとおり、本件覚書は市教委と市教連及び教組間に締結された労働協約であ
るから、左記理由により、原告Aらが教組の組合員であるか否か、あるいは、教組
ないし市教従より脱退して学現労に加入しているか否かに拘らず、また、右脱退時
期が本件覚書成立の以前か以後かを問わず、労組法一七条により同原告らに適用さ
れるものである。すなわち、
(一)(1) 本件の場合、労組法一七条にいう「一の工場事業場」は大阪市立の
小、中、高等、盲、聾、養護の各学校及び幼稚園の全部を一の事業場とみるべき
で、各学校園毎に考えるべきではない。これら学校園に勤務する市費教職員の給与
等の労働条件は、教組、市教連の対市ないし対市教委交渉により妥結、決定され、
条例事項は条例が改正されることにより全市的に同種労働者毎に統一維持されてき
たのであり、このことは労使慣行として確立しているのである。また、このことは
市労連においても同様であつて、従つて、被告大阪市においては労使間双方共労働
条件は全市統一との規範意識に支えられているのであり、ひとり労働条件の一つで
ある定年制の適用のみ各学校毎に行なうとの認識はなく、原告Aら所属の学現労が
定年制と不可分一体の給与等の改善部分についてのみ教組、市教連の恩恵を受け、
定年制のみ拒否することは許されないところである。
 このように労使同一の規範意識に支えられ、地域的にも大阪市内にあり、勤務内
容、労働時間、賃金等の労働条件も職種毎に統一され、協約を規範として支える基
盤は確立されているから、大阪市立の学校園全体を一事業場とみるべきであり、本
件覚書についてのみ各学校毎に考えるべき理由はない。
(2) しかるところ、本件覚書の対象者は大阪市立学校に勤務する校務員、作業
員で、昭和四五年四月三〇日までに満六〇歳以上となる者であるが、このうち原告
Aらと「同種の労働者」で本件覚書の対象となる校務員の総数は三二四名であり、
うち本件覚書の締結当事者である教組ないし市教連加盟七単組にあつて本件覚書の
適用を受ける組合員は九〇・四パーセントにあたる二九三名(内訳は、市教従二五
二名、学従組二八名、市高教一三名)で、労組法一七条所定の四分の三を超え、現
に本件覚書の適用を受けて昭和四五年四月三〇日までに退職した校務員は原告Aら
を除き、九八・四パーセントにのぼる三一九名である。
 従つて、同原告らは同条により本件覚書の効力を受けるものである。
(3) なお、仮に各学校園を「一の工場事業場」とみると、例えば原告Aら勤務
の各学校単位に本件覚書成立時にその効力を受けていた者をみると、原告A、同
B、亡Jの各勤務校では四名中三名、原告Cの勤務校では三名中二名、同Dの勤務
校では二名中一名であり、労組法一七条の拡張適用は各学校毎に区々となり、地公
法一三条、労働基準法(以下、「労基法」という)三条の法意に反する結果をも招
来し、また、地方公共団体の人事管理を著しく煩雑化し、かつ重大な支障をもたら
すことになる。
 従つて、本件の場合は、労組法一七条の「一の工場事業場」を学校単位にみるこ
とのできない特別の事情があるものというべきである。
(4) また、市教委は、地方自治法一八〇条の七により、学校その他の教育機関
の職員の任免その他の人事に関する管理執行権限のうち、その一部である校務員の
採解に関する権限を各行政区の区長に委任しているが(「教育委員会の事務の委任
等に関する規則」昭和二八年八月七日(教)規則九号)、その他の権限、特に本件
定年制等の労働条件の決定権限や服務監督権限はなお市教委にあつて区長にはない
から、労組法一七条の「一の工場事業場」を各行政区単位にみる理由もない。
(二) ところで、労組法一七条の目的は多数労働者の優越的な団結意思の強化と
協約規範の維持にあるから、少数労働者の意思如何に拘らず、また未組織であると
否とを問わず、同条によつて労働条件は協約のもとに統一されるのである。従つ
て、また少なくとも少数組合が労働協約を結んでいない場合は原則として多数組合
の労働協約は少数組合にも一般的拘束力を及ぼすものというべきである。すなわ
ち、少数組合は多数組合の労働協約より有利な労働協約の成立を目指して団体交渉
を行なうことが認められるのであるから少数組合の自主性を損なうことにはならな
いし、かつ労組法一七条も少数組合がある場合を除外する明文を置いていないこと
からも、右の場合には多数組合の労働協約が拡張適用されることは当然である。
 この点に関する判例の見解は分れているが、そこに現われているのは、少数組合
が独自の協約を有する場合には多数組合の協約は拡張適用されないとする見解、少
数組合が労働協約を締結していない場合は多数組合の協約が拡張適用されるという
見解、あるいは、少数組合が労働協約を締結している場合に多数組合の労働協約が
拡張適用されるのは、その協約が少数組合の協約より有利な場合に限るとする見解
であり、いずれも少数組合が多数組合より有利な、あるいは有利不利を問わず固有
の労働協約を締結している場合に限つて拡張適用を認めないとしているものであ
り、従つて、これらの見解は、少数組合が何ら労働協約を締結していない場合には
多数組合の労働協約が拡張適用されることを肯認しているといえるのである。
 本件の場合、学現労と被告ないし市教委間には定年制及びその処遇に関する何ら
の労働協約も存しないから、これに関し多数組合である教組、市教連が市教委と締
結した本件覚書が原告Aらにも拡張適用されるのである。
 原告らは、地方公務員に定年制のないのが地公法本来の身分保障であり、原告A
ら所属の学現労はこれを既有の権益としているから同原告らに本件覚書の拡張適用
はない旨主張するが、地方公務員に定年制を定めることは禁止されていないこと、
仮にこれを禁じているとすれば、違憲、無効であるというべきことは後述のとおり
であるから、原告らの主張はその前提を欠く議論である。換言すれば、学現労が定
年制に反対であることが明らかであるにしても、それは学現労の運動方針としてそ
うであるにすぎず、学現労ないしその組合員には本件定年制の協約を適用しないと
の労働協約を締結して「既有の権益」を有している状態とはいえず、法的には定年
制につき白紙の状態、すなわち何らの協約を有しない状態にあるのである。
2 本件覚書と地公法との関係(その一)
 仮に、地公法二七条、二八条により地方公務員の定年制が禁止されているとして
も、左の理由により、本件定年制は同法条に違反するものではない。
(一) 単労職員については、労働協約による定年制は地公法の予定するところで
ある。すなわち、
 単労職員には、地公法二七条、二八条の適用が除外されてはいないが、前記のと
おり、地公労法五条により労働組合を結成し、又はこれに加入することができ、同
法七条により免職その他労働条件に関する事項を「団体交渉の対象とし、これに関
し労働協約を締結することができる」としているのであるから、団体交渉の結果本
件定年制の如き労働協約を締結すること、その結果定年と共に退職に至ることは地
公法自体の予定するところといいうるのである。
 右の観点から地公法と地公労法の関係をみれば、地公労法七条の規定は地公法五
七条を介して同法二七条二項、二八条三項にいう「この法律で定める事由による場
合」、「法律に特別の定めがある場合」にあたるともいいうるのである。
 地公法五七条、地公労法七条の規定は、単労職員につき、免職、懲戒事由の具体
的基準について労働協約を結ぶ意味しかないとの解釈は、地公労法附則四項自体を
無効の規定とし、単労職員に団交権、労働協約締結権を与えた法意を完全に没却す
るものであるし、そもそも、免職、懲戒の基準は既に地公法二八条一項、二九条一
項で定められているのであるから、格段「具体的運用の基準」を定める必要もない
のである。
(二) 本件失職は地公法二七条二項にいう「その意に反して」なされた免職では
ない。すなわち、
 本件覚書は、原告Aらが組合員であつた市教連及び教組と市教委との間の団体交
渉の結果成立した合意を文書としたものであるから、前記のとおり労組法一七条に
より本件覚書の効力を受ける同原告らとしては「その意に反して」免職されたこと
にはならず、地公法に違反するものではない。
3 右同(その二)
 仮に、地公法二七条二項、二八条一項が地方公共団体に対しすべての定年制を禁
止しているとすれば、右各条項はその範囲で憲法九二条、九四条並びに一四条に違
反する違憲、無効のものである。
(一) 憲法九二条、九四条違反
 地方公共団体は、「地方自治の本旨」に基づき定められた法律の範囲内で自治権
を有し、その財産を管理し、事務を処理し、行政を執行する権能を有し、「法律の
範囲内」で条例を制定できる(憲法九四条)のであるから、条例の制定権は憲法の
直接の授権によるものであるが、これらの法律は「地方自治の本旨」に基づいて制
定されねばならず、濫りに地方自治体の自治権を侵害してはならないのであり、地
方自治の本旨を逸脱し、侵害する法律は違憲、無効といわねばならない。
 学校その他の公共施設の施設管理は地方公共団体の事務であり(地方自治法二条
三項)、これら施設の運営に必要な地方公務員の人事管理もまた地方公共団体の権
限に属する事項であるが(地公法一条、なお、地教行法二三条三号)、このことは
右法律の規定をまつまでもなく憲法が地方公共団体に自治権を認めた以上当然であ
り、「地方自治の本旨」からして地方行政の根本にかかわる人事管理権の法律によ
る侵害は許されないところである。
 従つて、地方公共団体が「行政の民主的且つ能率的な運営」を目指し、地方議会
の議決により、一定の老令者をその能力の減退が行政の能率的な運営を阻害するも
のとして定年制を条例化すること(地公法二四条六項)を合理的な理由もなく妨げ
る法律は、地方自治の本旨に反するもので、憲法九二条、九四条に違反する無効の
ものである。
(二) 憲法一四条違反
 国は、憲法七三条四号により、国家公務員につき法律を改正して定年制を採用す
る権限を保留し、また、民間企業については就業規則で定年制を採用することを認
めている(労基法八九条一項三号)のに、地方公共団体にのみ法律で定年制を禁止
することは憲法一四条の法の下の平等原則に違反するものである。
4 右同(その三)
 仮に、地公法の解釈に関する以上の主張が認められないとしても、原告Aらは同
法二八条一項三号に該当するから、本件失職は同法に違反しない。すなわち、
 前記のとおり、校務員を含め単労職員は肉体的労働を主たる職務内容とするもの
で、精神的労働を主たる職務内容とする者に比し高令に伴なう労働能力の減退が顕
著であるが、私企業においては一律五五歳定年制が約半数を占め、被告においても
市労連との協定により全職員の九五パーセント以上の職員に五五歳定年制が実施さ
れていることなどからみて、単労職員にあつても五五歳程度で既に労働能力の減退
が顕著になり、地公法二八条一項三号にいう「その職に必要な適格性を欠く」に至
るものといわなければならない。本件覚書は六〇歳以上の校務員、作業員の単労職
員を対象に退職時期を定めたもので、五五歳をはるかに超える校務員、作業員の単
労職員に対して右条項の分限事由を具体化したものとみることができるのであり、
原告Aらは本件失職時には六〇歳を超えていたのであるから一層強い理由で右分限
事由に該当する。
 市教連、教組は、右のような事情を考慮して退職一時金、退職年金等について有
利な処遇を得るため本件覚書を締結したのであり、現に、例えば原告Aらにつき本
件覚書による失職と分限免職手続のそれによる処遇の優劣を比較すれば、次のとお
り本件覚書による方が有利なのである。
〈19524-001〉
 従って、形式的には分限免職手続によらず本件覚書の効力によつて当然失職の扱
いがなされたとしても、同原告らにとつて有利でこそあれ決して不利益となるもの
ではない。それゆえ、実質的にみて本件覚書及びこれに基づく本件失職は地公法二
七条、二八条に違反しない。
 なお、本件失職は分限免職手続を経ていないが、本件覚書による失職は分限免職
より有利なのであるから、右は原告Aらにとつて有利な違法ともいうべく、右の点
を争う理由はない。
5 昇給、昇格等について
(一) 昇給、昇格
 一般に公務員の昇給、昇格は、国、地方公共団体共に任命権者が予め何らかの基
準を設定し、その基準に則り個別に決定していることが多く、その基準は千差万別
である。
 被告大阪市においては、原告Aら校務員の昇給について、「単純な労務に雇用さ
れる職員の給与の種類及び基準に関する条例」(昭和二八年条例二六号)一一条に
より、「職員の給与に関する条例」(昭和三一年条例二九号)五条五項が基準とさ
れ、同項の「一二月を下らない期間を良好な成績で勤務したときは、一号給上位の
号給を昇給させることができる」との規定の適用を受けることとされ、右に「良好
な成績で勤務した」との認定の要件は、「昇給基準の実施細目について」(昭和二
五年一一月八日労第三七二号)に定められ(右昭和三一年条例二九号の附則三項の
「従前の例」によつている)、右細目によると、1 欠勤者 2 産前産後の休暇
を受けた者 3 勤務成績の不良な者 4 休職者 5 勤務停止者 6 懲戒処
分を受けた者 7 前各号の二以上が競合する場合(8 退職予定者)の八事由が
昇給停止、繰り延べ事由とされている。
 従つて、原告らの昇給についても、右事由に該当しない者であることの市教委の
認定及び昇給の決定があつて始めて昇給された額の請求権が発生するものである。
 また、同原告らにつき問題となる昇給は、技能労務職給料表の二等級から二等級
特認への昇格であるが、その選考資格は「勤続二二年以上で、かつ二等級在級三年
以上の者の中から勤務成績優秀なものでかつ選考された者」となつており、勤務成
績については各学校長の個人調書による勤務評定の上申を受けた市教委が選考する
のであり(「学校職員の格付基準について」の中の格付基準表、「昇格の年二回実
施及び昇格基準の要綱について」昭和三九年七月三一日総務局長)、選考されて始
めて昇格するのであつて、原告Aらが当然昇格するとはいえないのである。
 右のような基準は、国又は地方公共団体の支出が予算の範囲内でのみ行なわれる
ことに鑑み、支出額を予め計数可能ならしめる必要があること、大量の行政事務を
短期間に迅速に処理し、かつ、庁内全体の適正公平な処理等の要請があることから
不可避的に設定されるのであるが、あくまでも行政庁内部の処理基準であつて直接
職員の権利を設定したものではなく、これによつて本来行政庁が有する裁量権その
ものが消滅するわけではないから、依然として、職員の昇格(昇給も同じ)には任
命権者の個別的具体的な決定という裁量処分権の行使を必要とするのであり、これ
なくして職員が昇格(昇給も同じ)することはない。
 従つて、右のような任命権者たる市教委の昇給、昇格決定の存しない本件におい
てこれがあることを前提とした給与等の請求をなすことは許されないし、更に、そ
もそも私人間の争いと異なり、司法権といえども三権分立の制度的制約から行政庁
に代つて裁量権を行使することはできないのであるから、裁判所も右昇給、昇格の
決定があつたものとして扱うことは許されず、この点からも原告らの主張は失当で
ある。
 右の点は、前記のとおり亡Jの死亡退職金の増額支給を求める分について同様に
妥当するところである。
(二) その他
(1) 扶養手当については、所定の届、書類を市教委へ提出して所定の要件に該
当するとの市教委の認定を受けて始めて同手当の請求権が発生するのであるし(前
記昭和三一年条例二九号一〇条、扶養手当支給規則)、期末手当、勤勉手当は職員
の勤務実績、すなわち実勤務日数(期末手当)、欠勤日数(勤務手当)により市教
委が各職員につき決定するのであり、右決定のない原告Aらには前同様の理由によ
り当然支給されるものとみなすことはできない。
(2) また、調整手当は給料月額に扶養手当を加えた額の一〇〇分の八である
が、本件では右合計額が確定しないからその算定は不可能である。
6 消滅時効
(一) 原告らの給与等の請求のうち、甲事件原告らの分については同原告らが甲
事件において給与の請求をなした昭和四九年四月一九日を、原告亡J相続人らの分
については同原告らが乙事件を提起した同月五日をそれぞれ遡る各二年以前の分
は、地公法五八条三項、労基法一一五条、地方自治法二三六条により終局的かつ確
定的に時効により消滅したものである。
(二) 原告らの国賠法に基づく予備的損害賠償の請求については、原告Aらは本
件失職時において右昇給、昇格等のないことによる損害及びその加害者を知つてい
たのであるから、右差額分の請求をなした昭和五三年二月二二日を遡る三年以前の
分は、いずれも時効により消滅しているから、これを援用する。
四 自白の撤回に対する異議及び民訴法二五五条違反の主張に対する原告らの反論
 本件で被告の問題とする甲事件原告らが従前の主張を撤回、補正ないし追加した
主張は、いずれも原告ら訴訟代理人が本訴追行の委任を受けるまでに、自ら本訴を
遂行していた甲事件原告らが法律的素養のないままなしたもので、このことに以下
の事情を併せ考えれば、被告の主張は理由がない。
(一) まず、民訴法二五五条違反の点については、同条一項但書によれば、準備
手続において主張しなかつた主張も著しく訴訟を遅延させず、又は重大な過失なく
して準備手続においてこれを主張できなかつた場合には許されているところ、
(1) 原告らの本件覚書の当事者に関する主張は、甲事件原告らが本件覚書に市
教連議長の名称が併記されていたため市教連も当事者であるとの錯誤に陥入つてな
したものである(この点の自白が錯誤に基づくとの原告らの主張の理由もここにあ
る)。
(2) また、原告らの教組に加入したことはないとの主張をなすに至つた経緯は
次のとおりである。すなわち、
 甲事件原告ら主張のとおり、教組が労働組合としての実体を有していないことか
らその存在を知らず、被告主張の「教組」すなわち大阪市立学校教職員組合が「市
教組」すなわち大阪市教職員組合であると混同して考えていた。従つて、甲事件原
告らは市教組に加入したこともなく、その加入も問題とする必要がなかつた。とこ
ろが、被告主張の教組が市教組とは別個の団体で甲事件原告らがかつて所属してい
た市教従の団体加入している組合であることが判つたので、本件主張をなすに至つ
たものである。
 1冒頭記載の事実に右の諸点をそれぞれ併せ考えれば、右(1)、(2)で被告
の問題とする原告らの主張は重大な過失により主張しなかつたものでもないし、著
しく訴訟遅延をもたらすものでもない。
(二) 次に、教組、市教連の労働協約締結能力については、甲事件原告らは本件
覚書が労働者の労働条件に関するものであることは認めていたが、その当事者が社
団性、団体交渉権を有し労働協約として有効であるとまで認めていたわけのもので
はないから、自白の撤回に該当しないことは勿論、著しく訴訟を遅延させるもので
もなく、また重大なる過失によつて主張しなかつたものでもない。
五 被告の主張及び抗弁に対する原告の認否及び反論
1 被告の主張及び抗弁1のうち、学現労が市教委との間に定年制及びその処偶に
関し何ら労働協約を結んでいないこと、学現労組合員の中にも本件覚書の適用を受
け退職した者のあること、市教委が校務員の採解の権限を被告大阪市の各行政区長
に委任していることは認め、その余の事実及び主張はすべて争う。
 以下の理由により、本件覚書の効力が労組法一七条によつて原告Aらに拡張適用
されることはない。
(一) 本件覚書の適用にあたり、大阪市立学校園全体を労組法一七条にいう「一
の工場事業場」と解することは正しくない。同条の文言からして、各個の工場事業
場と解すべきものであり、かつ勤務条件を律する単位は学校で、現に日常の業務指
示及び監督はすべて学校長によりなされていることからみて、各学校を、「一の工
場事業場」とみるべきである。また、市教委は校務員の採解の権限を行政区長に委
任しており、このことによつて労働条件の基本的部分につき区単位により異動の存
することがありうることから考えると、少なくとも各行政区を「一の工場事業場」
の単位とみるべきである。
 しかるとき、被告は、原告Aらの各勤務校において教組、市教連の組合員が四分
の三を上回つているとの主張立証をなさず、また、現実にそのような事実もないか
ら、本件覚書の効力が同原告らに及ぶことはないし、また、行政区単位でみても、
学現労は東淀川区及び旭区において市教従を脱退した特に多数の校務員により結成
されたもので、右二区においては教組、市教連の組織率は四分の三に及ばないか
ら、同原告らのうち同区内の学校に勤務する者には本件覚書の効力は及ばない。
(二) 労組法一七条は多数労働者の労働組合と未組織労働者との関係を律する規
定である。蓋し、憲法二八条は多数労働者に対するだけでなく少数労働者にも等し
く団結権、団体交渉権を保障し、少数組合も自主的に労働条件の維持改善を目指す
ことができ、多数組合といえどもこれを侵害することは許されないのであるから、
教組、市教連、市教連加盟七単組とは別個の団結体である学現労の組合員である原
告Aらに労組法一七条の規定が適用されることはない。特に、学現労は市教従、市
教連、教組らの本件覚書締結に反対して結成されたもので、定年制反対の方針の下
で敢てこの点に関する労働協約を締結しないのであり、このような学現労組合員に
も右法条により本件覚書を適用せんとすることは、その団結権、団体交渉権を著し
く侵害するもので、到底許されないところである。
 更に、地方公務員のように法律により身分保障がなされ、定年制の実施が違法と
されている場合、定年制につき敢て労働協約を締結しないことは、民間の労使間に
おいて有利な労働協約を締結しているに等しいと考えなければならない。学現労が
定年制に関する労働協約を締結していないのは、この点につき白紙の状態にあるこ
とを意味するのではなく、定年制の労働協約を意識的に締結しないことによつて地
公法の身分保障を守り権利を確保しているのであり、地公法が「有利な協約」にあ
たるともいいうるのである。定年制の労働協約は、法律上保障され労働者のすでに
有している身分保障を失わしめるものである。
 しかも、原告Aらは相当高年令まで勤務可能であるのに、原告Aは六三歳三カ
月、同Bは六三歳二カ月、同Cは六〇歳二カ月、同Dは六〇歳八カ月で失職させら
れ、その優遇措置なるものも同原告らが校務員として勤務した場合に得る一年分の
賃金にも満たない金額が退職金に上積みされるだけのもので、失職により不安な生
活に突き落される同原告らにとつて到底有利なものといえないのである。
2(一) 同2(一)の主張は争う。
(1) 前記のとおり、地公法によれば、特に明定する欠格事由に該当する場合に
失職することのある(同法二八条四項)ほかは、「この法律」の定める分限処分及
び懲戒処分によつて免職せしめられる場合を除いてその意に反して職を失うことは
ない。すなわち、「この法律」以外の条例等の規範形式により同法の例外を定める
ことを禁止し、失職による労働者への影響の重大性に鑑み、極めて厳格な保障をし
ているのであり、「この法律」には同法二八条一項の規定が該当するのであるが、
労働協約が「法律」に該当しないことは明らかである。
 確かに、単労職員は労働協約締結権を有するが、これは法令及び条例に違反しな
い限りにおいて地公労法七条の規定する範囲内で労働協約を締結し、これに労組法
一六条の規範的効力が付与されることを認めているにすぎず、特殊な場合に限り労
働協約に対し条例の効力を超越して法律と同等、同次元の効力を有することまで認
めたものではない。法律で労働協約締結権が認められていることから直ちに労働協
約に法律と同等の効力を導くことはできない。労働協約は法令又は条例の規定に低
触してはならないのであり、地公労法八条、九条もこの趣旨より設けられたもので
ある。
 定年制を設けることは条例ですら許されていないのであり、被告の主張は、単労
職員に地公法二七条ないし二九条の身分保障規定の適用が排除されなかつたことを
没却し、どうようなことでも労働協約で定めることができるかの如くいうもので、
明らかに不当である。
 従つて、地公法の右身分保障に関する規定は強行性を有しているから、単労職員
はこれに抵触しない範囲においてのみ団体交渉の対象とし、労働協約を締結できる
にすぎないが、地公法の規定は一般に抽象的であり、また、労働条件に関係する部
分についても一般的規定を置いているにすぎず、労働条件につき網ら的に規定して
いるわけではないから、なお、十分その存在意義を有するのである。ちなみに、地
公労法七条二号も、「……免職……及び懲戒の基準に関する事項」と明記してお
り、地公法の分限、懲戒規定の分限、懲戒事由の具体的適用基準について交渉し、
労働協約を締結しうるとしているのである。
 以上のとおり、労働協約によつて定年制を定めることも地公法に違反するもので
あるから、本件覚書もまた違効、無効であるというべきである。
(2) 定年制を実施するか否かは地公労法七条但書にいう「管理及び運営に関す
る事項」であつて、これを団体交渉の対象とすることはできず、従つてまた、労働
協約を締結することはできないから、本件覚書は同条項に違反する無効のものであ
る。
(3) 仮に、単労職員につき労働協約で定年制を設けることが可能としても、前
記の如き厳格な身分保障の趣旨及び定年制が本人の意に反しても当然に職員たる身
分を喪失せしめる制度で身分の継続を前提とする通常の労働条件とは質的に異つた
意味を有することに照らせば、労働協約と別にその具体的適用において個々人の同
意を得るを要するというべきであり、仮にそうでないとしても、少なくともその協
約締結に際しては個々人の同意と同視しうる程度の厳格かつ民主的な手続を要する
というべきである。本件覚書締結後、被告は本件覚書の適用を受ける者から依願退
職届をとつて退職させているが、このことは被告自身右のような事情を考慮し、個
々の同意を得た形式をとるため行なつている措置と考えられるのである。
 然るに、本件覚書は、教組、市教連、市教従において、原告Aらを含む多くの校
務員の反対を押し切り、十分意見を反映させる機会を与えないまま強行して締結し
たものであるから、同原告らにその効力は及ばない。
(二) 同(二)の主張は争う。
 地公法は「その意に反する」不利益処分を禁止しているのであり、自らの意思に
よる任意退職の許されることは当然である。ところで、地公法はその第三章第九節
に職員団体の規定を置いているが、全体として地方公共団体と個々の職員間の身
分、任免、服務、給与その他の勤務条件等を定めており、二七条ないし二九条もま
た個々の職員の身分関係につき定めたもので、職員個人の個別的意思とのかかわり
で職員個々人の身分を保障していることは明らかである(勤務条件法定主義の趣旨
に照らして明白である。身分保障は職員個々人の「権利」である)。従つて、同法
二七条にいう「その意に反して」の「その意」とは職員個々人の意思を指すことは
明らかであり、従つてまた、仮にその属する労働組合が定年制に関する労働協約を
結んだとしても、個々の職員の意に反する以上、これを「その意に反」しないもの
として失職せしめることは到底許されないものといわなければならない。
3(一) 同3(一)の主張は争う。
 被告の主張は、畢竟地公法の存在を論難するに帰する。国は地方公共団体の人事
行政のすべてを個々の地方公共団体の判断に委ねているわけではなく、地公法によ
り職員の勤務条件、身分関係等の基本的な規定を定めているのであり、前記身分保
障もこれに含まれているのである。従つて、もし地方公務員に対する人事管理が地
方公共団体の権限で、このことにつき国が法律を定めることが地方自治を侵害し許
されないとすれば、結局国が地公法を定めたこと自体許されないということになる
であろうし、また、逆に身分保障の規定の違憲、無効をいうのであれば、地方公務
員の労働基本権を一律に制限していることも地方自治に対する侵害であり、前記の
如く右制限に対する代償的役割を身分保障規定が果している面もあるのであるか
ら、右労働基本権の制限も違憲、無効といわねば一貫しないというべきである。
 以上の諸点からみて、被告の主張は明らかに不当である。
(二) 同(二)の主張は争う。
 地方公務員につき身分保障が認められているのは、その職務の性質、労働基本権
の制限等の理由があり、何ら不合理なものではないし、民間企業、国との間におい
ても不平等という程の取扱いの差異はない。
4 同4の主張はすべて争う。
5 同5のうち、昇給、昇格及び扶養、期末、勤勉、調整の各手当が形式的には被
告主張のような基準ないし市教委が認定、決定等の手続によつてなされることは認
めるが、その余の主張はすべて争う。
 昇給についての実際的取扱いは、勤務成績不良者等所定の事由に該当しない以
上、一二カ月の期間経過をもつて当然のこととして昇給しており、また昇格の取扱
いの実際も同様で、個別的、具体的な勤務成績は余り考慮されず、該当者の大多数
(殆ど例外がない)は当然の措置として昇格しているのであり、これらはいずれも
労使慣行として定着しているといえる。
 従つて、被告は原告Aらがそれぞれ別紙(四)給与明細表の(1)ないし(5)
記載のとおり昇給、昇格したものとして扱うべきである(被告側により失職させら
れた原告Aらが在職中の者と同様の処分を求めることは不可能であり、被解雇者に
対する昇給、昇格等の労働条件の変更は、他の労働者の平均以上の取扱いをしなけ
ればならない原則のある以上、上記のように取り扱うべきであり、これによる不利
益は不当に失職させた被告側において負担すべきものである)。
6 同6は争う。
 なお、損害賠償請求権の消滅時効に関しては、仮に、昇給、昇格等賃金性を認め
得ない部分につき損害賠償請求権と構成しても、右は校務員たる地位の確認に随伴
して派生する金員請求権の法的性質についての評価の差異にすぎず、前記のとおり
賃金としての請求がなされ、かつ後記のとおりそれが時効により消滅していないの
であるから、本件予備的請求をなしたとしても時効が問題となる余地はない。
六 再抗弁ー消滅時効関係
1 権利の濫用
 甲事件原告らは、昭和四九年二月九日原告ら訴訟代理人に本訴追行の委任をなす
まで自ら訴訟追行に当つていたところ、被告が本訴においても甲事件原告の身分の
存在を全面的に争つていたため、身分が確認されれば当然不払賃金についても支払
が行なわれるものと確信しても無理からぬところであり、他方、被告の公共団体と
しての性格から考えると、賃金を請求するか否かにつき裁判及び裁判外において十
分原告らに明らかにするよう求むべきであるに拘らずこれを放置したことなどを併
せ考えると、被告の消滅時効の主張は権利の濫用というべきであつて、許さるべき
ではない。
2 中断
(一) 給与等の請求権について
(1) 原告Aらは本件覚書による失職通知後、直ちに二年内に本訴を提起しその
地位の確認を求めている(故Jについては、甲事件原告の一人として甲事件を遂行
中死亡したため、原告亡J相続人らが乙事件を提起している)。
(2) 賃金請求権は身分の存在から派生的に生ずるものであるから、身分の存在
を基本的法律関係とする派生的請求権にすぎない。
 従つて、原告Aらが本訴を提起したことにより、その派生的請求権である賃金請
求権も同時に請求があつたものとして、あるいはこれに準じて時効の中断がなされ
たというべきである。
(二) 損害賠償請求権について
 予備的請求としての損害賠償請求権も、前同様の理由により消滅時効にかかつて
いないというべきである。
 なお、被告は右の地位確認の訴には催告の効力を認め得る余地があるにすぎない
旨主張するが、仮に催告の効力しかないとしても、右催告の効力は右地位確認の訴
の継続する間その効力を継続するものであるから、いずれにしても以上の各請求権
が時効消滅することはない。
七 再抗弁に対する認否
再抗弁1、2はすべて争う。
 仮に、給与等の請求権及び損害賠償請求権が校務員たる地位の派生的なものにす
ぎないとしても、右地位の確認の訴により右各請求権につき請求ないし請求に準ず
る効果は生ぜず、催告の効果を認め得る余地があるにすぎず、右催告の効果を前提
としても、右各請求権はいずれも六カ月内に右各請求権についての訴の提起がなか
つたのであるから、時効により消滅しているものである。
第三 証拠 (省略)
       理   由
一 請求原因1、2項は、亡Jの採用日を除き当事者間に争いがなく、弁論の全趣
旨によれば、亡Jの採用日は昭和二五年七月四日であると認められる。
 なお、成立に争いのない甲第三ないし第七号証(但し、甲第五号証については争
点一覧表を除く)、乙第八〇号証によれば、市教委が地方自治法一八〇条の七及び
市教委の「教育委員会の事務の委任等に関する規則」により、学校その他の教育機
関の任免その他の人事に関する管理執行権限のうち、校務員の採解の権限を昭和二
八年から同四六年頃まで各行政区の区長に委任していた関係で(この点は委任の期
間を除き当事者間に争いがない)、本件失職通知は、いずれも市教委委員長と原告
Aらが勤務する学校所在地の各行政区長との連名によつてなされていることが認め
られる。もつとも、前認定の事実からも明らかなように、本件失職の通知は、本件
覚書の効力に基づき原告Aらに当然生じた本件失職の事実の通知、すなわち講学上
のいわゆる観念の通知にすぎず、新たな行政処分を創設するものではない。
二 そこで、以下本件失職の有効、無効につき検討する。
 弁論の全趣旨によれば、その労働組合としての適格、実態ないし労働協約締結能
力の点はさて措き、市教連及び(原告らの主張によれば名義的だけにせよ)教組の
存在自体、並びに本件覚書の存在及び市教連が締結当事者となるか否かは別とし
て、少なくとも本件覚書が市教委と教組間に締結されたものであることは、原告ら
の明らかに争わないところである。
 しかして、本件失職の有効、無効は一にその前提となつた本件覚書の有効、無効
及びその効力等にかかり、本訴当事者双方の主張もこの点に関して多岐にわたつて
いるのであるが、本件においては地公法上定年制が認められるか否かが最大の争点
の一つとなつており、かつこの点が消極と判断された場合には他の点につき敢て判
断する必要がないこととなるので、先ず、労働協約による定年制が地公法上認めら
れるか否かの点について判断する。
1 校務員に適用される法律関係
 地方公共団体の設置する学校に勤務する校務員は、前記一認定の事実から明らか
な如く、地公法三条二項にいう一般職に属する地方公務員であるから、原則として
地公法が適用されるが、同時に同法五七条にいう単労職員に該当するため、その職
務と責任の特殊性に基づき同法の特例を必要とするものについては別に法律で定め
ることになつているところ、地公労法附則四項によれば、その「労働関係その他身
分取扱については、その労働関係その他身分取扱に関し特別の法律が制定施行され
るまでの間は」、地公労法(一七条を除く)及び地方公営企業法(以下、「地公企
法」という)三七条から三九条までの規定が準用されることとされているが、右の
「特別の法律」は現在に至るも制定されていないため、結局、校務員を含む単労職
員の「労働関係その他身分取扱」は、原則として地公企法三九条によつて適用を除
外された規定(但し、地公労法附則四項後段の読み替え規定により、職員団体に関
する地公法五二条から五六条までの規定は適用除外しないもの、と読み替えられ
る)以外の地公法、地公企法三七条(職階制)、三八条(給与)及び地公労法(一
七条を除く)が適用されることになつている。
 その結果、校務員を含む単労職員は、地公労法により争議行為は禁止されている
(一一条)ものの、労働組合を結成し、又はこれに加入することができ(五条一
項)、七条各号に掲げる事項を団体交渉の対象とし、これに関し労働協約を締結す
ることができる(七条)と共に、他方同時に地公法上の職員団体を結成し、又はこ
れに加入することができ(地公法五二条三項)、また、勤務条件について地方公共
団体の当局と交渉し(同法五五条一項)、書面による協定を結ぶことができる(同
条九項)。そして、その労働関係について地公労法に定のないものについては、一
部規定を除外したうえ労組法及び労働関係調整法の規定が適用される(地公労法四
条)。
 なお、本件で問題とされる分限及び懲戒を規定した地公法二七条ないし二九条の
適用を受けることはいうまでもないところである。
2 地公法と定年制の関係
(一) 地公法によれば、職員は一六条各号(三号を除く)の一に該当するに至つ
たときは、条例に特別の定がある場合を除く外、その職を失う(失職、二八条四
項。なお、同項にいう「条例に特別の定」は前後の文言からみて「その職を失う」
場合の例外、すなわち例外的に失職しない場合のあることを認めたもので、三号を
除く一六条各号の事由以外に失職事由を定めうることまで認めたものではないとい
うべきである)ほか、「この法律の定める事由」に基づく分限処分及び懲戒処分に
よつて免職せしめられる場合(二七条二、三項、二八条一項、二九条一項)を除い
て、その意に反して免職されることはない(二七条二項)とされている。同法は職
員の任意の退職について直接規定していないが、これが許されることは二七条二項
が「その意に反して」の免職のみ禁止していることからも明らかである(いわゆる
依願免職。なお、人事院規則八ー一二、七一条は国家公務員につき、「辞職」を規
定している)。
 なお、条件附採用期間中の職員及び臨時的に任用された職員については各身分保
障の規定の適用はない(二九条の二)。
 以上のように、地公法は職員がその意に反して身分を失う場合としては、失職と
分限処分、懲戒処分としての免職のみ規定しているのであるが、失職は所定の欠格
条項に該当する事由が生じた場合当然に離職するのに対し、免職は行政処分により
離職するものであるから、両者はその法的性格を異にするものである。
(二) ところで、定年制は、労働者が所定の年令に達したことを理由として、自
動的に、又は解雇の意思表示によつて、その地位(職)を失わせる制度であると解
され(最高裁判所昭和四三年一二月二五日判決、民集二二巻一三号三四五九頁参
照)、前記一認定のとおり、本定年制は、任命権者たる市教委の何らの行政処分を
必要とせず、所定の退職時期の到来と共に当然退職することを定めたものであるか
ら、右の自動的にその地位を失う定年制の一種であり、従つて、法的には失職事由
を定めたものであるということができる。
(三) そこで、地公法と定年制との関係についてみるに、地公法は職員の身分、
任免、服務、給与その他に関する勤務条件を法定する立場をとつているが、同法が
もともと職員の利益を保護する性格をも有していることなどからみて(同法一条参
照)右法定主義は職員の利益を保障する趣旨で規定されていると解すべきことは最
高裁判所の判決が示すとおりであり(昭和四八年四月二五日刑集二七巻四号五四七
頁、同五一年五月二一日刑集三〇巻五号一一七八頁、同五二年五月四日刑集三一巻
三号一八二頁)、また、右各判決によれば、職員が右身分保障を享受していること
が同時にその労働基本権制約に対する代償措置の一つとして機能するものと指摘さ
れていることなどに鑑みれば、職員の不利益処分を規定する地公法二七条ないし二
九条の規定は職員の利益保護の方向でその要件を厳格に解釈すべきものというべき
である。従つて、同法はその第三章職員に適用される基準第五節分限及び懲戒にお
いて、失職を含め職員の不利益処分のすべてを網ら、明定し、これによりその身分
を保障しているものと解すべく、これを職員の離職に限つていえば、同法は二七条
二項、二八条一項により分限免職とその事由を、二七条三項、二九条一項により懲
戒免職とその事由を、二八条四項により当然失職とその事由をそれぞれ規定してい
るが、これは職員の離職事由のみならずその種類をも右の三種に限定し、それ以外
の離職は職員個々人の意に反しない免職のみ認めているものというべきである。更
に、同法は職員の採用については条件附採用制度をとり(二二条一項)、臨時的任
用について特に規定を設けその要件、期間等を限定していること(同条二、五項)
などからみて、同法は定年制を禁止し、職員の任用を無期限のものとする建前をと
つているものと解すべきである(最高裁判所昭和三八年四月二四日判決、民集一七
巻三号四三五頁参照)。
 もつとも、同法の右のような身分保障の趣旨は、職員の身分を保障し、安んじて
自己の職務に専念させることにより公務の遂行を全うならしめることにあると解さ
れるが(前掲判決参照)、一般に定年制それ自体が公務員ないし右のようなその身
分保障の趣旨に必ずしもなじまないものではないことは、弁論の全趣旨により真正
に成立したと認められる甲第六六号証の二(Lの鑑定書)により認められる西ドイ
ツ連邦官吏法四一条一項(法律に基づく例外を認めつつ、官吏について六五歳定年
を定めている)のほか、我が国においても、その職務と責任の特殊性に基づくとは
いえ、裁判官(憲法七九条五項、八〇条一項但書、裁判所法五〇条)、検察官(検
察庁法二二条)、国公立大学の教員(教育公務員特例法八条二項)、公正取引委員
(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律三〇条三項)、会計検査官(会
計検査院法五条三項)、自衛官(自衛隊法四五条一項、同法施行令六〇条及び別表
九)等に定年制が認められていることからも推認できるところである。そして、職
員といえども老令による労働能力の逓減は一般的に避けられないところであるが、
地公法は、この点について、職員が、営利追求の原則として自由な民間企業の場合
と異なり、「地方公共団体の住民全体の奉仕者として実質的にはこれに対して労務
提供義務を負うという特殊な地位を有し、かつその労務の内容は、公務の遂行すな
わち直接公共の利益のための活動の一還をなすという公共的性質を有する」(前掲
昭和五一年五月二一日の判決)うえ、その職務の内容も種々雑多で、一律に定年制
を定めることが困難なことに鑑み、定年制によつてではなく二八条一項一ないし三
号の適用によつて個々的に解決しようとしたものと解すべきである。
 ただ、右のようなやり方は、見方によつては特定の老令者に対し老令による能力
の減退を宣言することになつて非礼なばかりか、再就職の機会を奪う虞れなしとし
ない反面、職員の新陳代謝は定年制がなければ円滑にゆかないということもでき、
実際問題として、右分限免職規定の運用の困難なことは、公知のとおり今日大多数
の地方公共団体において右目的を達するため広く退職勧奨の行なわれていることか
らも明らかである。しかし、地公法は、労働立法政策として、定年制禁止を含む身
分保障規定を置くことにより、職員をして安んじて職務に専念させて公務の遂行を
全うならしめ、もつて公務の中立性と安定性並びに能率的運営をはかろうとしてい
るものというべきである。
 なお、期限付任用の期限が到来した場合のように地公法上明文がなくとも当然失
職する場合がありうることは、被告主張のとおりであるが(前掲昭和三八年四月二
日判決参照)、右期限付任用といえども無期限に許されるものではなく、それを必
要とする特段の事由が存し、かつ前記地公法の身分保障の趣旨に反するものであつ
てはならないとされているのであつて(前掲判決参照)、期限付任用の認められる
場合があるからといつて定年制が認められることにはならないのである。このこと
は、また、前記地公法とほぼ同様の論理により定年制を禁止していると解すべき国
家公務員の場合について(国家公務員法(以下、「国公法」という)第三章官職の
基準第六節分限、懲戒及び保障参照)、人事院規則八-一二、一五条の二の一項但
書は所定の要件のもとでの期限付任用を認めているが、原則を定めた同項本文にお
いて、「任命権者は、……恒常的に置く必要がある官職に充てるべき常勤の職員を
任期を定めて任用してはならない。」と規定していることからも明らかである。
 上来説示するところから明らかな如く、定年制は地公法の明定する失職ないし免
職事由に該当しないものであるから、同法二七条二項の制約に服し、かつ個々の職
員の意に反する限り同条項に反する無効のものというべきである。なお、労働協約
は法令より下位の法規範で、法令に抵触する限度で効力を有しないのであるから
(地公労法八条ないし一〇条参照)、定年制の定めが労働協約であるか否かは右の
結論に何ら影響を及ぼすものではない。現行法上、定年制の導入は法律の改正なく
してあり得ないのである。
(四) 成立に争いない甲第五四号証の二によれば、次の事実が認められる。
 昭和二五年地公法が制定される以前には相当数の地方公共団体が条例等により定
年制を設けていたが、同法二七条二項の施行された昭和二六年八月一三日以後右の
定年制を定めた条例等は同条項に抵触するものとして右定年制を廃止しており、こ
の点は自治省も再々の行政実例により確認しているところであり(行政実例、昭和
二六年三月一二日付地自公発第六七号、昭和二九年一一月二〇日付自丁公発第一九
七号、昭和三〇年三月八日付自丁公発第四〇号、いずれも自治省公務員課長回
答)、また、政府は昭和三一年以来三回にわたり地方公共団体が条例で定年制を実
施しうることとする地公法の一部改正案を国会に提出しているが、いずれも審議未
了、廃案となつている。
 また、成立に争いのない甲第四八号証によれば(当裁判所に顕著な事実でもあ
る)、地公労法三条二項の職員の同法七条二号の懲戒の基準の意味について、昭和
三四年三月一七日付で東京都交通局労働部長から労働省に対し「地公労法は地公法
の特別法である関係上、地公法二九条一項規定の懲戒の基準とは別個に新たな懲戒
の基準を労働協約として締結し得る意か。もし、然りとすれば労働協約は法律に優
先する結果になり、然らずとすれば地公労法七条二号の懲戒の基準は無意味な規定
と思われるが如何」との質疑がなされ、これに対し、同年四月八日付で労働省労働
法規課長から、「地公労法七条二項により同法三条二項の職員の懲戒の基準に関す
る事項を団体交渉の対象とし、これに関し労働協約を締結できるが、右の職員につ
いても地公法二七条一、三項、二九条の適用があるから、右事項に関してはこれら
の規定に抵触しない範囲内においてのみ団体交渉をし、労働協約を締結することが
できるものとする。」との応答がなされており、この理は定年制設置の可否に関し
てもそのまま妥当するところである。
 更に、今日大多数の地方公共団体が定年制を設置することなく退職勧奨(実務上
その行き過ぎが問題とされることもあるが、それ自体はあくまでも職員個々人の任
意の意思形成を前提とするものであり、法的に問題はない)を実施し、高令職員対
策としていることは前記のとおりである。
 以上のとおり、行政解釈も実務も現行法上定年制は地公法二七条二項により禁止
されておりその実施は法律の改正なくしてあり得ないもの、ないしこのことを前提
とするもので、上来説示の当裁判所の見解とも一致するものである。
(五) そこで、この点に関する被告の主張について判断する。
(1) 地公法二七条二項は個々の行政処分としての免職を規定したものであり、
一定の客観的事由の発生に基づく当然失職の事由を限定したものではないから、当
然失職を定めた本件定年制は文理的に同条項に違反しないし、その身分保障の趣旨
にも矛盾しないとの主張について
 確かに、地公法は「免職」(二七条二項、二八条一、三項、二九条一項)と「そ
の職を失う」(失職)(二八条四項)とを使い分けているが(同法はこのほか「退
職」の語も用いる-四三条一項)、このことから被告主張のように解すべきでない
ことは前記のとおりであり、更に、地公法自体、「職制若しくは定数の改廃又は予
算の減少により廃職又は過員を生じた場合」(二八条一項四号)、「刑事事件に関
し起訴された場合」(同条二項二号)の一定の客観的事由の発生も分限処分の対象
としているし、定年制はその法的性格をどのように構成するかに拘らず、実質的効
果は免職と異なるものではなく、仮に、地公法二七条二項が失職等一定の客観的事
由に基づく不利益措置と関係ないものとすれば、地方公共団体は定年制を始めとし
て右のような不利益措置を条例等により自由に設けることができることになり、か
くては、同法が同条項を通じて意図した身分保障の趣旨の大半はその下位規範たる
条例等により失われる虞なしとしないことからみても、採用できないところであ
る。
(2) 単労職員は「……免職、……及び懲戒の基準に関する事項」(地公労法七
条二号)及び「……労働条件に関する事項」(同条四号)について団体交渉し、労
働協約を締結することができ、労働協約は同法四条、労組法一六条により規範的効
力が付与されていることから、労働協約により定年制を設けることが可能で、かつ
これは地公法五七条を通じ同法二七条二項にいう「この法律で定める事由」にあた
るから同条項に違反しないとの主張について
 しかしながら、右の「この法律」とは地公法をさし、その具体化は同法二八条一
項によつてはかられていると解すべきであるし、地公労法七条二号も、「……免
職、……及び懲戒の基準に関する事項」としていることからみて、被告主張は右法
条の文理解釈からも採用できないところであるが、更には、被告主張の如き解釈に
よれば、単労職員は労働協約を締結することにより地公法所定の不利益処分以外の
新たな種類の不利益処分ないしその事由に設置できることになり、しかも労働協約
である以上、それが労組法一七条の要件を満たせば当該協約を締結した多数単労職
員のみならず、それ以外の未組織、場合によつては少数組合の単労職員にも拡張適
用されて規範的効力が及ぶことにならざるを得ず、かくては協約当事者としての多
数単労職員はさて措いても(もつとも、当該協約が多数決によつて締結された場合
には、これに反対した単労職員については未組織ないし少数組合の単労職員と同様
の問題がある)、右の未組織ないし少数組合の単労職員にとつては、勤務条件法定
主義のもとに個々の職員の身分を保障した地公法の趣旨は没却されることになりか
ねないし、また、逆に、同法所定の不利益処分の種類及び事由と矛盾する労働協
約、例えば、同法所定の不利益処分の種類及び事由を限定する労働協約も可能で、
しかもそれが「この法律で定める事由」として法律と同等の効力を持つことにな
り、かくては法律よりも下位の効力しか有しない筈の労働協約が法律を改廃する効
力を持つ結果となることからみても、右の解釈は到底採用できないところである。
 地公労法の前記規定は、単労職員につき地公法の前記身分保障の規定に反しない
限度で地公労法七条所定の事項につき団体交渉をなし、労働協約を締結できること
を認めたにすぎないと解すべきものであり、しかも、地公法によれば、同法所定の
不利益処分の「手続及び効果は法律に特別の定がある場合を除く外、条例で定」め
ることになつており(分限につき二八条三項、懲戒につき二九条二項)、前記のと
おり労働協約は条例に抵触する限度で効力を生じないのであるから(地公労法八
条)、地公労法七条二号又は四号所定の事項に関する団体交渉及び労働協約の締結
できる範囲は自ずと限定されているのである。
(3) 本件覚書は教組及び市教連と市教委との団体交渉の結果成立した合意を文
書としたものであるから、労組法一七条によりその効力を受ける原告Aらとしては
その意に反して免職されたことにはならないとの主張について
 定年制を定めた労働協約が地公法に違反し効力を有しないことは上来説示のとお
りであるから、そのような合意が定年制を定めた限度で法的効力を持たないことも
明らかであり、従つてまた、一般的拘束力を云々する前提を欠くし、この点は別と
しても、そもそも地公法二七条二項(なお、二八条二、三項も同様)にいう「その
意に反」するか否かは職員個人の意思にかからしめていること、換言すればそのよ
うな方法により職員個人毎に身分を保障していることはその前後の文言からみて明
白というべきであり、このような個別的意思が労働協約という労働組合の団体意思
による一括処理になじむものかどうか疑問であるばかりか、被告主張のように解す
ると、単労職員については、同法の明示する不利益処分の種類及び事由以外にも、
労働組合との合意としての労働協約さえあれば新たな不利益処分の種類及び事由を
付加することができ、かつこの点につき個々の単労職員の意に反しても当該不利益
処分を課することができることになり、同法が勤務条件を法定することにより意図
した身分保障の趣旨に明らかに反する結果となることからみても、採用できないと
ころである。
(4) 地公法二七条二項、二八条一項が、地方公共団体が条例により定年制を定
めることを禁止しているとすれば、その限度で右各条項は憲法九二条、九四条並び
に一四条に違反するとの主張について
 憲法九二条は「地方自治体の本旨」が何であるかを明示していないが、地公法
は、同法二七条二項、二八条一項等の各規定を通じて職員の身分を保障し、安んじ
て職務に専念できるようにすることが「地方公共団体の行政の民主的且つ能率的な
運営を保障し、もつて地方自治の本旨の実現に資する」(同法一条)との立場で規
定したもので、右のような見解もそれなりに合理性を首肯しうるところであつて、
このような立場を是とするか否かは畢竟立法政策の問題というべきであり、定年制
を禁止することが直ちに「地方自治の本旨」に反するとはいいえないというべきで
ある。
 更に、地方公務員は全体の奉仕者として公共の利益のために勤務するもので(憲
法一五条、地公法三〇条)、その給与は主に税収によつて賄われ、勤務条件は法定
され、労働基本権も制限を受けるなどその職務と責任に特殊性を有するのであるか
ら、民間企業において定年制設置ができるからといつて地公法の前記規定が憲法一
四条に違反するということはできない。また、国公法も国家公務員に対する身分保
障の反面として定年制を禁止していると解すべきことは地公法と同様であるところ
(国公法七五条、七六条、七八条等)、国家公務員と地方公務員とは、その公務員
としての地位、責任、職務の本質等において径庭はないと解すべきであるから、地
公法が定年制の設置を地方公共団体の制定する条例に委ねず、国公法と同様法律の
改正によらなければならないとしているからといつて、直ちに憲法一四条に反する
ことにはならないといわなければならない。この点も、前同様畢竟立法政策の問題
というべきである。
(5) 地公法が定年制を禁止しているとしても、本件覚書は六〇歳以上の校務
員、作業員につき同法二八条一項三号の分限事由を具体化したもので、その適用を
受けた原告Aらも六〇歳を超えていたのであるから本件失職は有効であるとの主張
について
 同条項はその文言自体からみても、またその身分保障の趣旨からも明らかな如
く、職員個人毎に具体的にその適格性を判断することを要求しているものであると
ころ、一般に老令により労働能力、殊に肉体的能力の逓減すること(もつとも、職
業によつてはその長年の知識と経験により却つて労働能力が高まることもあるが、
校務員、作業員の業務はそのような種類のものではない)は公知の事実であるが、
その逓減の程度に個人差のあることも公知の事実であつて、同条項該当事由の有無
を画一的に年令をもつて処理することは同条項の趣旨に反するばかりか、定年制を
禁止した同法を潜脱するものであつて、許されないところであるといわざるを得な
い。従つて、被告の右主張はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。
 いずれも成立に争いのない乙第一四号証(Mの鑑定書)及び第九二号証(Nの鑑
定書)の各意見中、上来説示部分に反する部分は当裁判所の採用しないところであ
る。
3 本件覚書の効力
 本件覚書が当然失職の事由を定めたものとしても、それが地公法の明定する失職
ないし免職事由に該当しないことは同法二八条一項、四項、一六条(三号を除く)
に照らして明らかであり、従つて、同法二七条二項の制約に服すベきもので同条項
に違反する限度において無効のものといわざるを得ない。
 もつとも、以上のように本件覚書が地公法二七条二項に違反し無効のものである
とはいつても、それは定年制を定めた限度において無効であるというにすぎないの
であるから、法的に全く無意味のものと解する必要はなく、例えば、本件覚書の締
結に賛成した個々の組合員については場合によつてはその意に反しない免職となる
こともあろうし、また、本件覚書の適用を受け何らの異議をとどめず退職した者も
特段の事情のない限り同様に解することができよう。更に、本件覚書は、所定の退
職時期到来による退職「該当者は所定の退職時期に洩れなく退職することを条件
に」所定の優遇措置を実施する旨定めたもので、見方によつては教組、市教連が所
定の退職該当者である校務員、作業員に対し洩れなく退職するよう努力すること、
その反面において全員洩れなく退職した場合には退職者に対し市教委が所定の優遇
措置を講ずること(但し、条例に基づくことを要する。地公企法三八条四項)を合
意したものとみることができ、従つて、個々の校務員、作業員にとつては、該当者
が全員洩れなく退職するとの条件付とはいえ、退職勧奨の基準として機能すると解
する余地もあろう。
 しかしながら、証人Oの証言及び原告D、同A各本人尋問の結果並びに弁論の全
趣旨によれば、原告Aらはいずれも市教従の組合員であつたが、教組、市教連及び
その加盟組合である市教従の本件覚書締結に反対し、別紙(一)の「市教従脱退
日」欄記載の日に市教従を脱退したことが認められる(被告主張によれば、同原告
らは同時に教組の組合員でもあつたことになるが、そのことを仮定してみても、そ
の教組への加入は市教従組合員であつたことに基づくというのであるから、市教従
の脱退と同時に教組をも脱退したと認められる)から、いずれにしても、同原告ら
が本件覚書を根拠にその意に反して失職させられる理由はないというべきである。
 上来説示のとおり、本件覚書が定年制を定めたものとすれば、それが労働協約で
あると否とに拘らず地公法二七条二項に抵触し、その限度で効力を有しないものと
いうべきであり、従つて、原告Aら個々人のその意に反する本件失職がいかなる意
味においても有効とされる根拠はないから、その余の点につき判断するまでもな
く、本件失職は無効のものであつて、同原告らはなお被告の設置する学校の校務員
たる地位を有するものといわざるを得ない。
三 給与等について
1 請求原因4の請求のうち、亡Jの死亡退職金を除く部分につき、先ず判断す
る。
(一) 同4(一)及び(二)の(1)、(3)、(4)の各事実は当事者間に争
いがない。
(二) そこで、被告の主張及び抗弁5につき検討するに、校務員の昇給、昇格及
び扶養・期末・勉強・調整各手当(以下、「諸手当」という)に関し市教委の認
定、決定を要し、その手続、要件等が条例等により被告主張のとおり定められてい
ること、原告Aらが本件失職がなく校務員たる地立を有していれば右条例等所定の
要件を満たし、市教委の認定、決定を受け得、別紙(四)「給与明細表」の(1)
ないし(5)記載のとおり昇給、昇格し、諸手当の支給を受け得たことは当事者間
に争いがない。
 しかしながら、先ず昇給、昇格については、同原告らに対する市教委の個別的な
認定、決定の存しない以上、右認定、決定を受け得たというのみで直ちに当該認
定、決定が存したものとして扱うことはできないものというべきである。蓋し、前
認定のとおり、昇給については「……昇給させることができる」と規定され、昇格
についても市教委が「選考」することになつているのであるから、昇給、昇格をす
るか否かは市教委の裁量に基づく認定、決定に委ねられているもので、職員の権利
を設定したものではないからである。もつとも、昇給、昇格が市教委の裁量である
とはいつてもその恣意的運用の許されないことはいうまでもなく、前認定の認定基
準の設定は右趣旨から大量の職員の昇給、昇格の認定、決定が適正、公正かつ迅速
に行なわれることを確保し、もつて成績主義に立脚する地方公務員の給与制度を維
持せんとするための内部的なものである。
 従つて、昇給、昇格については市教委の個別的な認定、決定を要するほかないと
解すべく、前記認定基準に合致するからといつて当然に右決定があつたものとして
扱うことはできず、殊に、市教委が行政庁であることに鑑みるとき、右認定、決定
があつたものとして扱うことは裁判所が市教委に代つて右認定、決定をなしたこと
になり、この点からも許されないものというべきである。
 右のように解すると、原告ら主張のように、失職したため右認定、決定を受け得
る余地のあり得ない原告Aらにとつて本件失職により蒙つた不利益を完全に回復す
ることができなくなるが、この点はその根本的紛争原因たる地立の存否の解決に伴
い行政庁たる被告側の是正措置に待つほかなく、その間は所定の要件に基づき債権
不履行ないし不法行為等によつて填補するほかないものといわざるを得ない。
 この点について、原告らは、昇給、昇格については形式的要件さえ満たせば、欠
格条項に該当しない限り「良好な成積で勤務した」者として(昇給)、あるいは
「勤務成積優秀な者で、かつ選考された者」として(昇格)、全員昇給し、あるい
は殆ど例外なく昇格しており、このことは慣行化している旨主張し、成立に争いの
ない甲第六三号証及び弁論の全趣旨によれば、昇給、昇格の運用実態が右のとおり
であることは認められるが、このことは市教委の昇給、昇格が法令に従い適正かつ
公正になされいてる当然の結果とみることもでき、右事実があるからといつて、こ
のことが直ちに慣行化しているとまで認めるには足りないし、仮に右のような慣行
を肯認しえても、右慣行は認定基準の運用に関するものであつて、このことから直
ちに市教委の認定、決定があつたものとなすことはできない。
 次に、諸手当について検討するに、成立に争いのない乙第八二号証(「単純な労
務に雇用される職員の給与の種類及び基準に関する条例」)及び地公企法三八条に
よれば、諸手当はいずれも単労の職員が権利として支給を受けることのできるもの
であることが認められるが、調整手当以外の手当については前認定の手続ないし市
教委の認定、決定を要する。
 しかるところ、扶養手当については、原告Aを除く原告Aらについては、前認定
のとおり、本件失職当時いずれも配偶者(妻)を扶養親族として扶養手当の支給を
受けていたのであるから、同原告らについては扶養手当に関する市教委の認定、法
定を得ていたことが推認され、従つて、法令所定の変更事由の生じない限り右手当
の支給を受けるものというべく、右事由のないことについては当事者間に争いがな
いから、同原告らにおいて右手当の請求をなしうべきものである。
 また、調整手当についても、賃金性を認めうる給料月額と扶養手当を確定しうる
のであるから支給を受けうべきものである。
 他方、期末、勤勉手当については、一応支給率自体は定まつてはいるものの、前
認定のとおりその支給額については職員の勤務実績に基づきその都度個別的な決定
を要する以上、前記昇給、昇格についてと同様の理由により、右決定があつたもの
として扱うことはできない。
2 次に、亡Jの死亡退職金について判断するに、請求原因4(二)(2)のう
ち、亡Jが本件失職をすることなくその地位を有した場合、その勤続年数が二二・
六年となり、条例によればその死亡退職支給率が二二・〇五であること、但し、条
例所定の増額支給決定があれば、更に八・二〇五の支給率が追加され、その場合の
死亡退職金が二九四万〇七八六円となることは当事者間に争いがない。
 しかして、成立に争いのない乙第二号証(「職員の退職手当に関する条例」)に
よれば、右増額決定は「在職中勤務成績優秀な者等特別の考慮を払う必要があると
認められる者」について、「なお増額して支給することができる。」とされている
のであるが、前認定のとおり、亡Jは本件失職当時、勤務成績優秀で、かつ選考さ
れた者として既に前記特二ー二一の給料表の等級号を給せられており、このこと
に、被告において同人の勤務成績に関し何らの反論、反証のないことを総合すれ
ば、右条例にいう「在職中勤務成績優秀な者」にあたるものというべく右増額支給
率の適用を受け得たものと認められる。しかしながら、右支給の規定が「……支給
することができる。」と規定されている以上、右増額分は市教委の裁量にかかるも
ので、単労職員の権利として定められたものではないといわざるを得ないから、前
記昇給、昇格と同様の理由により右増額支給率の決定があつたとして扱うことはで
きない。
3 しかして、本件失職処分の無効であることは前記二に認定のとおりであるか
ら、請求原因4記載の給与等のうち、昇給、昇格したことを前提とする部分、年
末、勤勉手当部分、死亡退職金の増額支給率部分をそれぞれ除く部分については、
給与及び死亡退職金として支給を受けることができ、被告はこれを支払う義務があ
る(本件において、右金額の詳細を認定する必要のないことは後記のとおりであ
る)。
4 そこで、進んで被告の主張及び抗弁6(一)につき検討するに、一般に労働契
約上の労働者たる地位は、これと一体不可分として生じ、かつその消長を共にする
賃金等の請求権をも包摂する包括的なものであるから、右の地位の確認を求める訴
は右のような賃金等の請求権を包摂する包括的な法律関係たる地位の確認を求める
ものであり、従つて、訴訟法的には右訴が当然に賃金等の請求権を訴訟物とするも
のではないにしても、右地位に包摂される右のような賃金等の請求権についてもそ
の権利を主張し、ないしは履行を求める意思を含むことは明確というべきである。
殊に、賃金請求権は労働に対する対価、報酬として正に労働者としての地位の確認
を求める利益の中核をなすものであり、労働契約上の地位確認の訴は右請求権を確
保するためにあるといつても過言ではない。
 このように、労働契約上の地位確認の訴には、労働者たる原告において右地位に
伴つて生ずる賃金等の請求権についての主張ないし履行の意思が明確に表示されて
いるのであるから、消滅時効制度の趣旨からみて、右訴の提起は賃金請求権につい
ても裁判上の請求に準じてその時効を中断させる効果があるものと解するのが相当
である。
 これを本件についてみるに、単労職員のみならず公務員の勤務関係を法的にどう
把握するかに拘らず、その実質は民間労働者の場合と異ならず、その給与は勤務に
対する対価、報酬であり、前記法理が同様に妥当すると解すべきところ、原告Aら
は本件失職通知を受けた後二年内の昭和四五年九月一〇日甲事件原告として甲事件
中の校務員たる地位確認の訴を提起したこと、亡Jも甲事件原告として右訴訟の原
告となつていたところ、昭和四八年一月三日死亡したため原告亡J相続人らにおい
て右訴訟の受継申立をしたが、当裁判所において却下されたため昭和四九年四月五
日乙事件を提起したものであることは本件記録に徴し明らかであるから、甲事件原
告らについては甲事件の訴を提起した時点で右給与請求権の消滅時効は中断してお
り、また乙事件原告とについては、中断事由消滅後二年内に乙事件を提起したもの
であるから、いずれも前記認定の請求権は時効により消滅しているということはで
きず、被告の主張は理由がない。
四 損害賠償
1 原告らの予備的請求原因は、昇給、昇格等に基づく給与請求のうち、賃金性が
認められない部分について不法行為としての損害賠償を求めるにあるから、前記三
認定の賃金性を認めなかつた部分につき不法行為の成否を検討する。
(一) 本件失職が無効で、右は任命権者たる市教委が地公法及び地公労法の解
釈、適用を誤つたことに基づくことは前記二認定のとおりである。
 しかして、(1)地公法上条例により定年制を設置し、その結果個々の職員の意
に反して当該職員を失職させることの許されないことは、前記二認定のとおり自治
省の行政解釈においても再三確認され、本件覚書締結当時、国会において地公法を
改正し条例により定年制を設置できるようにする法案が問題とされて、各地方公共
団体の大多数も右解釈を前提に退職勧奨、優遇措置の設置等により実質定年制の実
をあげるべく努力していたのであり(被告が本件覚書の締結等により定年制の必要
性を認めておきながら、条例により定年制を設置していないのは右の解釈を自認し
ているものと推認される)、学説上もこれが定説とみるべきこと及び前掲最高裁判
所昭和三八年四月二日判決も地公法が職員の任用を無期限とする建前をとることを
肯認し、右解釈を肯認するものと推定されることは当裁判所に顕著な事実であり、
右の点は地公法の解釈上疑義のないところというべきである。
 また、(2)労働協約といえども法令に抵触する範囲で効力のないことは前記の
とおりであり、右の理は単労職員の地公法五七条、地公労法附則四項、七条と地公
法二七条二項との関係についてそのまま妥当することも前記二のとおり、行政実務
及び学説上明らかであつたといわねばならない。
 もつとも、以上(1)、(2)の点については、本訴において、被告から、現行
地公法上も条例により定年制を設置することは認められるとする見解(前記乙第九
二号証)、単労職員については労働協約を締結すれば可能であるとする見解(前記
乙第一四号証)が提出されているが(これらの見解の採用し得ないことは前記二の
とおりである)、これらの考えはいずれも通説的見解ではなく、実務上もとられて
いないところであり、市教委が本件覚書締結当時ないし本件失職通知をなした当時
いかなる学説、判例、行政解釈、実例に立脚してなしたのか何ら立証がなく、却つ
て当時においても右(1)、(2)のように解すべきことについては、(1)につ
いては既に確定したものであり、従つて特段の合理的事情のない以上(2)のよう
に解すべきことも明らかであつたというべきであり、本件において市教委に右特段
の合理的事情を見出す証拠はない。
 市教委は行政庁であり、以上のような行政解釈及び学説、判例のあつたこと、従
つて単労職員の定年制設置の可否につき労働協約によつても許されないことを職務
上当然知つていたか、少なくともこれを知るべき立場にあつたものというべきであ
る。
 成立に争いのない甲第二二、第二三号証、第四九号証及び証人P、同Oの各証言
によれば、本件覚書の適用にあたつては、その退職の形式は当該退職該当者所属の
学校長あるいは市教連加盟組合から当該退職該当者に対し退職願を出すよう指導、
勧告し、右退職願の出された分については依願退職の辞令を出していたことが認め
られるのであり、このことは、市教委においても本件覚書の適用にあたり当該退職
該当者の意に反して職員を失職させることに問題があることを考慮した措置と推認
されるのである。
 ところで、市教委は被告大阪市の執行機関として設置されているもので(地方自
治法一八〇条の五)、原告Aら校務員の任免権限も元来被告大阪市が処理する教育
に関する事務及び法律又はこれに基づく政令によりその権限に属する事務であり
(地教行法二三条三号)、市教委の委員の任免も被告大阪市の長がなし(同法四条
一項、七条)、予算も被告において編成すること(同法二九条)などからみて、市
教委が職務執行としてその任免権限に基づき原告Aらを失職させたことは、すなわ
ち被告の公権力の行使にあたるものというべきところ、以上から明らかなとおり、
本件失職は市教委が少なくとも過失により地公法、地公労法の解釈を誤り、その結
果本件覚書を理由に同原告らの意に反してなした違法なものであるから、これによ
り同原告らに生じた損害は被告において支払うべきである。
(二) 同原告らが本件失職をすることなくその地位を有していれば、その後も別
紙(四)給与明細表の(1)ないし(5)記載のとおり昇給、昇格し、期末、勤勉
手当を受け、死亡退職金につき増額支給決定を受け得たであろうことは前記三認定
のとおりであるから、同原告らの得べかりし利益は請求原因4記載の金員と一致す
べきところ、原告らはそのうち前記三において賃金性を認め得ない部分に限つて予
備的に請求しているのであり、従つて、右部分相当損害金については国賠法に基づ
く損害賠償として被告に支払義務があるものというべきである。
2 進んで、被告の主張及び抗弁6(二)につき判断するに、右の賠償請求権は、
校務員たる地位とこれに包摂される賃金等の請求権に由来し、かつ右賃金等の請求
権として請求していた一部につき予備的に新たな法的構成を追加したにすぎないも
ので、その実態に変りはなく、従つて、前記三4と同様の理由により、右賠償請求
権についても消滅時効によつて消滅していないものというべきであるから、その余
の点につき判断するまでもなく被告主張は理由がない。
五 給与等と損害賠償との関係
 以上によれば、前記三の給与性を肯認しうる部分と前記四の賠償請求として肯認
しうる部分とを合算すれば請求原因4記載の金員となることは明らかであり、かつ
これらの遅延損害金の起算日も本訴請求においてそれが給与部分か賠償部分かによ
り齟齬をきたすことはないから、両者の各認容部分を明示しなくとも問題はないも
のというべきである(被告もこの点は何ら問題としていない)。
 従つて、原告らが請求原因4において掲げた請求は一部は給与として、一部は損
害賠償として理由があるというべきところ、原告Aらは昭和四五年九月七日、被告
からそれぞれ別紙(四)給与明細表の(1)ないし(5)の「既払額」欄記載の金
員の支払を受け、(この点は当事者間に争いがない)これを同表合計金額欄記載金
員から控除しているので、本訴請求金額は右範囲となる。
六 相続等
1 亡Jの給与及び損害金合計四一四万五三六〇円
 請求原因6項のうち、亡Jが昭和四八年一月三日死亡したこと、原告亡J相続人
らが亡Jの妻及び子で相続人であることは当事者間に争いがなく、他に相続人のな
いことは本件記録から明らかであるから、妻である原告Eは一三八万一七八六円、
その余の原告亡J相続人らはそれぞれ六九万〇八九三円を承継取得したものという
べきである。
2 死亡退職金及び損害金合計二九四万〇七八六円
 死亡退職金については、原告Eが第一順位の受給権者であることは当事者間に争
いがないから、右金員は同原告が自らの権利として取得すべきものである。
七 結論
 よつて、原告らの本訴請求は、金員の支払を求める部分については給与及び損害
額の合算したものとして、すべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担に
つき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文の
とおり判決する。
(裁判官 上田次郎 東修三 田中亮一)
別紙 (一)
〈19524-002〉
〈19524-003〉
別紙 (二)
 覚書
 大阪市教育委員会と大阪市立学校教職員組合とは、校務員、作業員の特殊な事情
を考慮のうえ、退職条件暫定措置について、次のとおり実施することに意見の一致
をみたので、ここに覚書を交換する。
 記
1 職種
校務員、作業員とする。
2 対象者
昭和四五年四月三〇日までに、満六〇歳以上となる者。
3 退職時期
昭和四五年四月三〇日にこの暫定措置を完了するものとし、退職時期の定めは、昭
和四五年四月末日を含み五回とする。
具体的には次のとおり。
〈19524-004〉
4 処遇及び処遇の条件
該当者は所定の退職時期に全員洩れなく退職することを条件に次の処遇を行なう。
(1) 整理率適用
(2) 勤続一〇年以上の者一号特別昇給
5 初回限りの特例
 第2項に定める対象者のうち、第二回以降の該当者で、第一回実施日(昭和四三
年四月三〇日)に退職を希望するものは、初回該当者とみなしてこの措置を適用す
ることができる。
(従つて第二回目以降については、それぞれに定められた該当年令者以外には適用
しない。)
昭和四三年三年二九日
大阪市教育委員会
教務部長 Q
大阪市立学校教職員組合委員長
大阪市教職員組合連合協議会議長

(別紙(三)~(六)省略)

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