弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人山本統一の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、刑訴
法四〇五条の上告理由にあたらない。
 しかし、所論にかんがみ、職権をもつて調査すると、原判決は、同法四一一条一
号、三号により破棄を免れない。その理由は、次のとおりである。
 原判決が維持した第一審判決(以下単に第一審判決という。)の認定した事実は、
「被告人は、昭和四五年一月下旬ごろ、愛知県丹羽郡a町大字b字cd番地のeの
A方において、同人所有の土地登記済証一綴(同県同郡同町大字b字fg番の畑九
畝二四歩ほか一四筆の土地に関する登記済証綴)を窃取したものである。」という
ものである。
 第一審判決が、前記事実を認定した証拠は、結局のところ、被告人の捜査段階に
おける自白(被告人の検察官に対する昭和四八年三月一〇日付供述調書)と被害者
である第一審証人Aの証言に尽きるところ、右Aの証言はその信用性に重大な疑問
があり、被告人の自白を補強するに足りない疑いがある。
 すなわち、第一審証人Aの証言の要旨は、「昭和四四年一二月ころ、妻Bの縁続
きになる被告人から、被告人がC商工信用組合から融資を受けるについて、自分所
有の土地を担保に提供してもらえないかと依頼され、そのころ、これを承諾し、印
鑑証明書と委任状を被告人に渡した。昭和四五年一月下旬か二月上旬ころ、被告人
が自宅に訪ねて来て、『C商工信用組合から借入れできることになつたが、担保に
入れる土地の地番を知りたいから、登記済証を見せてくれ』というので、所有土地
の登記済証一綴(一〇枚程度のもの)を木箱から出して来て、被告人に見せた。そ
の日、被告人が帰つた後、被告人に見せた右登記済証一綴をもとどおり木箱に入れ
てしまつたと思つていたのに、二日ぐらい後に、ほかの書類を見るために木箱を出
してみると、被告人に見せた登記済証の綴りがなくなつていた。その翌日から三回
ぐらい被告人方を訪ねて行つたが、被告人に会えず、それから半月ぐらい過ぎて訪
ねて行つたとき、ようやく被告人に会うことができ、登記済証のことを問いただし
たところ、被告人は、初めは『知らない』といつていたが、後に『少し借りている
だけで、心配はないから、もう少し貸しておいてくれ』といつて、登記済証を持ち
出したことを認めた。自分としては、C商工信用組合以外のところから融資を受け
るについて、担保の提供を承諾したことはないし、登記済証を被告人に貸したり、
持ち帰ることを許したことはない。被告人に登記済証を見せた際、被告人がすきを
見てこれを盗み取り、持ち帰つたものと思う。」というのである。
 しかし、第一審証人Aの前記証言には、次のような不自然、不合理な点がある。
 (一) Aの証言によれば、同人は、C商工信用組合に対する担保提供を承諾し、
そのための印鑑証明書、委任状を既に被告人に交付していたうえ、被告人に登記済
証を見せた際にはC商工信用組合からの借入れができると信じていた、というので
あるから、特段の事情のないかぎり、被告人に担保権設定手続のために登記済証を
交付するのを拒むことは不自然であり、被告人としても、登記済証を入手するため
にあえてこれを盗むような行為に出る必要があつたとは考えられない。
 (二) Aの証言によれば、登記済証の綴りを木箱から出して被告人に見せ、被
告人が帰つた後でそれをもとどおり木箱に入れてしまつたと思つていたところ、二
日ぐらい後にこれがなくなつていることに気付いたもので、被告人に登記済証を見
せた際被告人がすきを見てこれを盗み取つたと思う、というのであるが、登記済証
のような重要書類について、しかもそれを見ることを目的として来た被告人と面談
している際に、被告人が一〇枚ぐらいの厚みのある登記済証一綴を紙袋又は鞄など
に盗み取つたとすれば、それに気付かないというのは不自然であり、また、その後
に木箱を片付ける際重要書類の収納を忘れ、その紛失に気付かないということも、
不自然である。
 (三) 愛知県丹羽郡a町大字hi番の畑一反二畝二二歩及び同町大字b字cj
番のeの宅地一三二・二三平方メートルの各土地登記簿謄本、昭和四五年一一月一
八日付金員借用抵当権設定契約書謄本によれば、A所有の土地について、「1」昭
和四五年一月二二日受付による、債務者株式会社D(代表者は被告人)、抵当権者
E株式会社の抵当権設定登記、「2」同年三月二八日受付による、債務者F(被告
人の妻)、根抵当権者G信用組合の根抵当権設定登記、「3」同年一一月二〇日受
付による、債務者被告人、抵当権者H株式会社の抵当権設定登記、「4」昭和四六
年九月三〇日受付による、債務者被告人、根抵当権者Iの根抵当権設定登記の各登
記がされていることが認められる。そして、右の「2」、「3」、「4」の各登記
は、いずれもAにおいて登記済証が被告人の手に渡つたことを知つた後にされてい
るところ、それらの登記申請の際使用されたと認められる印鑑証明書及び委任状に
ついて、Aの証言するところによれば、同人は当時それらの印鑑証明書を被告人に
交付したり、委任状に押印したことはあるが、それは、登記済証を取り戻すために
必要であるとかC商工信用組合から借りられることになつたとかの被告人の言を信
じてしたものである、というのであるけれども、右の証言は、同人の職業、経歴、
年齢等に照らしてただちに信用できない。
 以上のように、第一審証人Aの証言には不自然、不合理な点が多く、その信用性
につき多大の疑いがもたれるのである。
 そして、被告人が自白しているのは、前記の検察官に対する供述調書においての
みであつて、その他は捜査、公判を通じてすべて犯行を否認しているものであるこ
とは、記録上明らかであつて、このことは、右A証言の信用性に対する疑問と併せ
て検討すべきである。
 なお、記録によれば、本件は、Aが、本件被害事実を知つたとする約二年一〇か
月後に告訴をし、これを端緒として捜査が開始されたものであるところ、その告訴
の時期は、A所有の土地が前記債権者らによつて競売申立をうけ、これに対して、
Aが民事訴訟を提起するなどの対抗手段を講じていたときであり、また、この紛争
におけるAの代理人である弁護士は被告人の紹介によつて依頼されたことをうかが
うことができるが、これまた、本件の真相解明のための間接事実として考慮すべき
である。
 そうすると、被告人の公判廷における、登記済証一綴はAから借り受けて持ち帰
つたものである旨の弁解を、直ちに虚偽であると断じ去ることはできないものと解
される。
 しかるに、原判決は、他に第一審証人Aの証言を信用すべき特段の事由もないの
に、同人の証言を信用し、被告人の自白を補強するに足りるとして、有罪の第一審
判決を是認したものであつて、原判決には審理不尽ないし重大な事実誤認の疑いが
あるといわなければならない。そして、これが判決に影響を及ぼすことは明らかで
あり、かつ、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
 よつて、刑訴法四一一条一号、三号により原判決を破棄し、同法四一三条本文に
従い、本件を原審である名古屋高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の
意見で、主文のとおり判決する。
 検察官住吉君彦公判出席
  昭和五〇年二月七日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    小   川   信   雄
            裁判官    吉   田       豊
 裁判官岡原昌男は海外出張中につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    大   塚   喜 一 郎

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