弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
(申立)
一 請求の趣旨
(一) 被告の原告に対する昭和五三年五月三〇日付及び同年六月一五日付別紙目
録(一)記載の各証人出頭請求並びに同年六月二四日付別紙目録(二)記載の証人
出頭請求は、いずれも無効であることを確認する。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告の答弁
(一) 本案前の答弁
主文同旨。
(二) 本案の答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
(主張)
一 請求の原因
(一) 被告は、原告に対し昭和五三年五月三〇日及び同年六月一五日に別紙目録
(一)記載の各証人出頭請求をなし、同年六月二四日に別紙目録(二)記載の証人
出頭請求をした。
(二) しかしながら右各証人出頭請求は、左のとおり重大かつ明白な瑕疵がある
から無効である。
(1) 右各証人出頭請求は、地方自治法一〇〇条一項によるものであるところ、
同法一〇〇条は、一項に普通地方公共団体の議会(以下地方議会という)は当該普
通地方公共団体の事務に関する調査を行ない、選挙人その他の関係人の出頭及び証
言を請求することができる旨を、三項に右請求を受けた者が正当の理由がないのに
議会に出頭せず、又は証言を拒んだときは六箇月以下の禁銅又は五、〇〇〇円以下
の罰金に処する旨規定している。
(2) ところで地方議会は、当該普通地方公共団体の事務に関する調査につき広
汎無限定な権限を認められているので、その調査は単なる行政目的上の資料や情報
の収集にとどまらず、事実上犯罪捜査的性格を強く帯びてくることになる。従つ
て、調査のためにする関係人への出頭要求は実質的には犯罪捜査のために出頭及び
証言することを刑罰をもつて間接的に強制することになるので、その点で地方自治
法一〇〇条一項は、逮捕につき司法官憲が発し、かつ理由となる犯罪を明示した令
状を要求する憲法三三条及び自己免罪に対する特権を保障した憲法三八条一項に違
反するものである。また右調査に必要な出頭を確保するための制裁は、出頭するか
否かの選択の自由を残す程度の行政秩序罰にとどまるべきであるのに、地方自治法
一〇〇条三項が明らかにこの限度を越え最高禁銅六箇月の重い刑罰をもつて出頭を
強制していること、地方議会が調査を行なうにあたつての関係人への強制出頭請求
は他の調査方法(地方自治法九八条、九九条、一〇〇条一〇項等)で不十分な場合
に限られるべきであるのに同法では何らの限定もないこと、証人は、証言に際し発
問に応待するだけで何らの弁解の機会を与えられず、しかも発問に対し異議権を行
使するために不可欠な補佐人制度もないことから、糺問的な取調となつて全く防禦
し得ない立場に立たされるのに関係人の権利保護を考慮した規定のないこと、さら
に調査をなす議会(本件についていえば調査特別委員会)の構成は公正を維持すべ
きであるのに(本件においては証言事項に関連する問題について実質上民事訴訟の
対立当事者となつている者を構成員としている)調査主体の公正を維持するための
規定もないことからして、地方自治法一〇〇条一項は適正手続を保障した憲法三一
条に違反する。
(3) 右のとおり本件各証人出頭請求は、いずれも憲法に違反する地方自治法一
〇〇条一項に基くものであるから、その瑕疵は重大かつ明白であり、従つて無効で
ある。
(三) よつて被告の原告に対する前記の各証人出頭請求はいずれも無効であるこ
との確認を求める。
二 被告の本案前の答弁
(一) 地方議会は特別の場合を除いて当事者能力を有しないものであるから、被
告は本件訴訟につき当事者能力を有しない。従つて、本件訴は却下を免れない。
(二) 地方議会は自主的活動をするために広汎な調査権を認められており、その
調査権によつて関係人に証人としての出頭を請求できるものであつて、調査の方法
としていかなる者に対し証人として出頭請求するかは議会の自律権の範囲内の問題
であるし、出頭請求は調査権発動の過程における内部的意思決定にすぎない。従つ
ては頭請求を受けた段階でその無効を訴求することは許されない。また議会は請求
を受けた関係人が正当の理由がなく出頭せず或いは証言を拒んだときにはそれを告
発しなければならず(地方自治法一〇〇条九項)、関係人は右告発により起訴され
たときにその裁判手続において不出頭或いは証言拒絶が正当であるか否かの判断を
受けられるのであるから、関係人の権利はそれで十分に確保されているわけであ
る。従つて、本件証人出頭請求は無効確認を求める対象となり得ないから、本件訴
は却下を免れない。
三 被告の本案の答弁
(一) 請求原因(一)の事実は認める。
(二) 同(二)の内、本件証人出頭請求が地方自治法一〇〇条一項によるもので
あることは認めるが、無効であるとの主張は争う。
四 本案前の答弁に対する原告の反論
(一) 当事者能力は紛争の解決という訴訟の目的に照して決定されるべきもので
あるところ、地方議会の証人出頭請求は議会と請求を受けた者との間に直接権利義
務関係を発生させているのであるから、それに関する紛争を解決するために議会に
対し当事者能力を認めるべきである。
(二) 関係人に対する証人出頭請求が抗告訴訟の対象とならないとの主張は争
う。地方議会の証人出頭請求は単なる議会の内部的意思決定とはいえない。また、
関係人が刑事罰を受ける裁判手続で証人出頭請求の違法性或いは不出頭の正当理由
の有無を争い得るとしても、告発による刑事裁判手続の前にその点について裁判所
の判断を受けられないと関係人の保護は十分でない。ちなみに、裁判手続において
は証人は不出頭に対し過料が科せられ、その裁判に対し即時抗告をなし得るので、
その段階において右の点について裁判所の判断を受けられるのに、関係人にはこの
保障がないから、両者を同視することは相当でない。
(証拠)(省略)
○ 理由
一 まず、被告に当事者能力がないとの主張について検討するのに、行政処分の無
効確認の訴においては当該処分をした行政庁が被告となるものであるところ(行政
事件訴訟法三八条、一一条)本件訴は被告が地方自治法一〇〇条所定の調査権を行
使して原告に対し証人出頭請求したことが行政処分に当るとしてその無効確認を求
めているものであるから、被告は当事者能力を有するものというべきである。
二 次に地方自治法一〇〇条による地方議会の証人出頭請求が抗告訴訟の対象とな
る処分に当るか否かについて検討する。
(一) 地方議会は、当該普通地方公共団体の事務に関し地方自治法一〇〇条一項
により調査権を与えられているが、これは地方議会が自主的に確実な資料に基く正
確な知識を得て、条例制定権その他の重要な権限を有効かつ適切に行使し得るよう
にさせるためのものであつて、国会が国政について広汎な調査権を与えられている
のと同趣旨に基くものである(国会の国政調査権については、憲法六二条、国会法
一〇三条、一〇四条、議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律参照)。そ
して地方議会は、右調査権の行使の一方法として選挙人その他の関係人(以下関係
人という)に対し証人として出頭することを請求し得るものであり(地方自治法一
〇〇条一項)、関係人が正当の理由がないのに出頭しない場合には六箇月以下の禁
銅又は五、〇〇〇円以下の罰金に処せられることになる(同法一〇〇条三項)。
従つて、地方議会から証人出頭請求を受けた関係人は、指定された日時場所に証人
そして出頭する義務を負い、しかもそれは刑罰の制裁をもつて強制されることにな
る。
そうすると、本件各証人出頭請求は、原告に対し被告指定の日時場所に証人として
出頭すべき義務を負担させたという意味において抗告訴訟の対象となる処分に当る
と解される余地があるかのようである。
(二) しかしここで同じ証人という立場にある裁判手続上の証人について考えて
みる必要がある。
裁判手続においては、裁判所は特別の規定のある場合を除いて何人をも証人として
尋問することができるのであるから(民訴法二七一条、刑訴法一四三条)、裁判所
から証人として出頭を求められた者は指定された日時場所に出頭する義務を負い、
正当の理由がなく出頭しない場合には、勾引されることがある外(民訴法二七八
条、刑訴法一五二条)、五、〇〇〇円以下の過料に処せられるものとされ(民訴法
二七七条、刑訴法一五〇条一項)、さらに五、〇〇〇円以下の罰金又は拘留(情状
によつては併科)に処せられるものとされている(民訴法二七七条の二、刑訴法一
五一条)。
しかして、証人には勾引に対して直接の不服申立方法はなく、過料の決定に対して
は即時抗告が許されるが(民訴法二七七条、刑訴法一五〇条二項)、過科の決定は
刑罰を科する前提としてされるものではないし、又過料と刑罰の双方が科せられる
場合であつても過料が刑罰に必ずしも先行しなければならないものでもない。従つ
て、証人が出頭しないことについて正当の理由があるか否かは、過料の決定があつ
てこれに対し即時抗告をもつて争う場合の外は、不起訴の場合は別として、正当理
由のない不出頭として起訴された後の刑事裁判手続において争い得るにすぎないこ
とになる。
他方地方議会から証人として出頭請求を受けた関係人の場合、その不出頭について
地方議会が正当の理由がないと認めたときは告発しなければならないとされ(地方
自治法一〇〇条九項)、不起訴になつた場合は別として、告発により刑事裁判手続
が開始されると、関係人はその裁判手続において証人出頭請求の適否、不出頭につ
いての正当理由の有無を争い得ることになる。
(三) そこで関係人と裁判上の証人を対比してみるに、出頭請求されると出頭義
務を負うことは同じであり、不出頭について正当の理由がないときに刑罰を科せら
れること、そのための刑事裁判手続において出頭請求の適否、不出頭についての正
当理由の有無を争い得ることにも何ら変りはない。してみれば関係人と裁判手続上
の証人の場合、正当理由のない不出頭について科せられる刑罰に差異はあるにして
も、関係人について裁判手続上の証人と区別して刑事裁判手続の他に証人出頭請求
の適否、不出頭についての正当理由の有無を争わせる合理性も必要性もないものと
いうべきである。
このような点からみると、出頭請求を受けた関係人は、不出頭について起訴された
場合の刑事裁判手続においてのみ証人出頭請求の適否、不出頭についての正当理由
の有無を争い得るものと解するのが相当である。
そうすると被告の原告に対する本件各出頭請求は抗告訴訟の対象となる処分に当ら
ないものというべきである。
三 よつて、本件訴は不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担
につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 森川憲明 谷岡武教 吉田 徹)
目録
(一) 1証言を求める事件
安佐中央病院(仮称)建設用地に関する件
2 証言を求める事項
広島市土地開発公社との売買交渉並びに契約に関連する事項について
3 出頭日時
昭和五三年六月一九日(月)午後一時三〇分
4 出頭場所
広島市<地名略>
広島市議会全員協議会室
(二) 1出頭日時
昭和五三年七月一日(土)午前一〇時
2 他の事項は(一)に同じ。

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