弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中第一審原告の敗訴部分を取消す。
     第一審被告の反訴請求を棄却する。
     第一審被告の控訴を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審共全部第一審被告の負担とする。
         事    実
 第一審原告代理人は、昭和三六年(ネ)第一三〇号事件について主文第一、二項
及第四項と同旨の判決を、昭和三六年(ネ)第一六七号事件について主文第三項と
同旨の判決を求め、第一審被告代理人は昭和三六年(ネ)第一三〇号事件につい
て、控訴棄却の判決を求め、昭和三六年(ネ)第一六七号事件について、「原判決
主文第一項及第四項を取消す。第一審原告の本訴請求を棄却する。原判決主文第二
項、第三項を左のとおり変更する。第一審原告は第一審被告に対して、金百一万円
及昭和三十四年一月十四日以降完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払は
ねばならぬ。訴訟費用は第一、二審共第一審原告の負担とする。」旨の判決を求め
た。
 当事者双方の主張竝に証拠の提出、援用、認否は、左に記載する外は、原判決事
実摘示のとおりであるからここにこれを引用する。
 第一審原告の主張。
 「仮に本件不動産の所有権移転登記がなされたことについて、登記官吏に何等か
の過失があつたとしても、第一審原告が右登記手続に関して支出した費用金一万円
の内、登録税金六千六百五十五円を除く金三千三百四十五円の損害なるものは、登
記官吏の右過失と何等因果関係のないものてある。蓋し、右金三千三百四十五円の
使途は明確に主張せられていないけれども、もしもそれが司法書士に支払はれた登
記申請手続の手数料を意味するものであるならば、右手数料は、登記申請の受理に
先立つてなされた登記申請書類の作成竝にその登記官吏への提出等の行為に対して
支払はれたものであるから、右登記申請の受理に関する登記官吏の過失と因果関係
がないことは明かである。またそもそも登記申請書類の作成は専門的な特殊知識を
要するものではなく、また右書類の作成乃至登記官吏への提出について司法書士代
理強制主義がとられているのでもないから、右司法書士に対する手数料或は出張旅
費の支出が、前記登記官吏の過失と相当因果関係にある損害とすることはとうてい
できない。次に第一審被告は、本件の応訴のために弁護士に支払つた着手金等を損
害として主張しているけれども、弁護士費用を損害として請求し得るのは、不法な
訴訟に応訴するために弁護士に支払はれた費用に限るものというべきところ、本件
の本訴が正当なものであることは、既に第一審判決によつて明かにされているとこ
ろであつて、結局第一審被告は理由のない応訴のために無駄な費用を支出したに止
まりこれを以て登記官吏の過失と相当因果関係にある損害ということはできな
い。」
 第一審被告代理人の主張。
 「第一審被告が支出した登記費用中、金六千六百五十五円が登録税額であり、そ
の余は司法書士に支払つた費用であることはこれを認める。」
         理    由
 先ず第一審原告の本訴請求について、当裁判所の認定竝に判断は原判決理由のと
おりであるからここにこれを引用する。
 次に第一審被告の反訴請求について判断するに、本件土地は、国が自作農創設特
別措置法の規定に基いて買収した上これをAに売渡したいわゆる売渡未墾地である
こと、第一審被告が右土地の所有権を取得するについて、農地法第七三条第一項に
規定する農林大臣の許可を受けなかつたこと、従つて大津地方法務局登記官吏は右
農林大臣の許可を証する書面の添付なくしてなされたAから第一審被告への所有権
移転登記の申請はこれを却下すべきであるにかかわらず、これを受理し、よつて右
所有権移転登記がなされたこと、右所有権移転登記手続申請のために、第一審被告
が司法書士に対する手数料等の費用として金三千三百四十五円を支出し、また登録
税印紙費用として金六千六百五十五円を支出したことは当事者間に争がない。
 第一審被告は、登記官吏がかかる登記申請を受理したことはその過失によるもの
であるから、第一審被告は国家賠償法によつて、第一審被告がこうむつた損害を賠
償すべき義務があると主張し、先ず第一審被告が訴外株式会社主枝商店に売渡した
電気洗濯機五十五台の代金合計九十九万円の回収不能による損害を挙げるけれど
も、この点に関する当裁判所の認定竝に判断は、原判決理由のとおりであるからこ
こにこれを引用する。
 次に第一審被告が司法書士費用として支払つたことを自認する金三千三百四十五
円は、第一審被告が、本件登記申請の受理に先だつて登記申請書類の作成、提出等
を司法書士に委嘱した関係から、その手数料等として支払はれたものであつて、登
記官吏がなした登記申請の受理と何等の因果関係があるものでないことは、本件弁
論の全趣旨に照らして明かであるから、この点に関する第一審被告の主張はそれ自
体失当である。
 次に第一審被告は、登録税金六千六百五十五円を支払つたことにより、同額の損
害を受けた旨を主張するからこの点について考えるに、農地法第七三条第一項の規
定に違反し、農林大臣の許可を受けずして土地の所有権を移転することは、三年以
下の懲役または十万円以下の罰金に処せらるべき犯罪行為であることは、農地法第
九二条により明かであるところ、右の法条が犯罪行為として禁止するところのもの
は、土地の引渡または所有権移転登記の申請など、いやしくも土地所有権の移転を
実効あらしめる行為を指称するものと解すべきであるから、農林大臣の許可を受け
ることなくしてなされた本件土地の所有権移転登記申請は、正に農地法第九二条に
該当する犯罪行為であるといはねばならぬし、仮に農地法第九二条は、土地所有権
移転の意思表示自体を犯罪の構成要件とするものと考えても、右の目的を達成する
ために所有権移転登記を申請することは、少くとも強行法規に違反する反社会的行
為として非難さるべきものであることを免かれない。
 <要旨>ところで不法原因のために給付をした者は、その給付をしたものの返還を
請求し得ないことは、民法第七〇八条の明定するところであつて、民法がか
かる法条を設けた法意は、不法原因給付はすべてこれを給付した者の損失に帰せし
め、他の如何なる方法によるも、給付者が右の損失を回復し得るような請求をなす
ことはこれを許さないものと解すべきであるから、第一審被告が所有権移転登記申
請のために支出した金六千六百五十五円は、第一審被告自らの損失としてこれを負
担すべく、相手方たる登記官吏の不法行為を原因として、国家賠償法による請求を
なすこともまた許さるべき限りでないとしなければならぬから、この点に関する第
一審被告の主張は、その余の争点について判断するまでもなく失当であるとしなけ
ればならぬ。
 次に第一審被告は、本件応訴のために支出した弁護士費用金一万円の損害賠償を
主張するけれども、第一審原告の本訴請求は理由があり、且つ第一審被告の反訴請
求は失当のものであることが上来判示したとおりである以上は、第一審被告がなし
た本件応訴はすべて無益の応訴に帰するのであるから、第一審被告が右応訴のため
に支出した費用はすべて無駄な費用として、自らこれを負担する外はないのであつ
て、第一審被告の右主張も失当である。
 よつて第一審原告の本訴請求を認容した原判決は正当であるから、第一審被告の
控訴はこれを棄却すべく、また第一審被告の反訴請求の中、電気洗濯機の代金九十
九万円に関する損害賠償の部分だけを棄却し、その余の部分を認容すべきものとし
た原判決は、右反訴請求認容の限度において失当であつて、第一審原告の控訴は理
由があるから、原判決中第一審原告敗訴の部分はこれを取消し、第一審被告の反訴
請求を棄却すべく、民訴法第三八四条、第三八六条、第九六条、第九五条、第八九
条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 田中正雄 裁判官 河野春吉 裁判官 本井巽)

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