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平成18年10月3日判決言渡
平成14年(ワ)第428号損害賠償請求事件
【事案の概要】
社会福祉法人である原告の設立や施設の建設等に関わった元理事らが,県等か
ら交付される補助金を不正に受給し,私的に流用したとして,原告が,元理事ら
6名を被告として,共同不法行為等を主張して損害賠償を求めた事案(一部認
容)。
主文
1被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,原告に対し,連帯して金7604万9
446円及びこれに対する平成14年11月24日から支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,原告に生じた費用の6分の1を被告Y1,被告Y2及び被告Y
3の負担とし,被告Y1に生じた費用の3分の1を被告Y1の負担とし,被告
Y2に生じた費用の3分の1を被告Y2の負担とし,被告Y3に生じた費用の
3分の1を被告Y3の負担とし,原告,被告Y1,被告Y2及び被告Y3に生
じたその余の費用並びに被告Y4,被告Y5及び被告Y6に生じた費用を原告
の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,原告に対し,連帯して1億4050万円及びこれに対する平成1
4年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告Y1,被告Y2,被告Y3及び被告Y4は,原告に対し,連帯して59
91万1925円及びこれに対する平成14年11月24日から支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,原告が,被告Y1,被告Y2及び被告Y3が原告の軽費老人ホーム
の建設及び施設整備工事に関し,共謀の上,山梨県から補助金を不正に受給し
て私的に流用し,被告Y4が原告の銀行預金の出入を担当しながら上記私的流
用に加担し,上記により原告に損害が生じたと主張して,被告Y1ら4名に対
し,共同不法行為(民法719条1項)に基づき,連帯して2億0041万1
925円(私的流用金1億9691万2479円と原告が山梨県に延滞金等と
して支払った349万9446円の合計)及びこれに対する本訴状送達の日の
翌日以降である平成14年11月24日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金を支払うことを求めるとともに,被告Y5が虚偽の建物
請負契約書を作成し上記私的流用に加担したから,被告Y5も被告Y1らとの
共同不法行為責任を負い,また,被告Y5及び被告Y3の使用者である被告Y
6は使用者責任(民法715条)を負うとして,原告に対し,被告Y1らと連
帯して,1億4050万円(私的流用金のうち不正に受給した建設事業費の補
助金に係る部分)及びこれに対する本訴状送達の日の後である平成14年11
月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う
ことを求めるという事案である。
2争いのない事実
(1)原告は,軽費老人ホーム,老人デイサービスセンター及び在宅介護支援
センターの設置経営等の社会福祉事業を行うことを目的として平成8年1
月16日に設立された社会福祉法人である。
(2)被告Y1は,原告の設立当時の理事であり,原告の業務全般を統括して
いた。
(3)被告Y2は,原告の設立当時の評議員であり,原告の事業計画立案等の
業務を委託されたA社の代表取締役として,原告の施設の設置事務等に従
事していた。
(4)被告Y3は,原告の設立当時,被告Y6の常務取締役であったが,原告
の施設の設置事務等に関与した。
(5)B(平成14年死亡)は,原告の監事であり,原告の会計等の監査をし
ていた。
(6)被告Y4は,原告の設立当時,Bの経営するB会計事務所の職員であっ
たが,原告の預金口座の通帳を預かって出入金の事務手続きを行っていた。
(7)被告Y6は,土木建築請負設計施工等を業とする株式会社であり,被告
Y5は,その代表者である。
(8)被告Y6は,平成8年,原告から軽費老人ホーム(以下「本件施設」と
いう。)建設工事を請け負った。
(9)被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,本件施設の建設等をめぐる山梨県
等からの補助金に関し,不正に補助金の交付を受けたとして,平成13年,
補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律違反,詐欺被告事件で起
訴されて,同年中に執行猶予付きの有罪判決を受け,この判決は確定した。
3本件の争点
(1)本件訴訟は,訴訟代理権を欠く者が提起したものか,社会福祉法人の訴
訟提起の法定の要件を欠く瑕疵あるもので不適法といえるか。
(2)被告Y1,被告Y2及び被告Y3は原告の軽費老人ホームの建設及び施
設整備工事に関し,共謀の上,山梨県から補助金を不正に受給し私的に流
用したか(共同不法行為の成否)。
(3)被告Y4は,上記私的流用に加担したか(共同不法行為の成否)。
(4)被告Y5は,上記私的流用に加担したか(共同不法行為の成否)。被告
Y5の加担が認められる場合,あるいは,被告Y3の共謀が認められる場
合,被告Y6は使用者責任を負うか。
(5)原告の被った損害
第3争点に対する当事者の申立て及び主張
1争点(1)(本件訴訟は,訴訟代理権を欠く者が提起したものか,社会福祉法
人の訴訟提起の法定の要件を欠く瑕疵あるもので不適法といえるか)について
(1)被告Y1の申立て及び主張
ア本件訴訟を提起したC(平成15年死亡)は,原告の乗っ取りを企図
するDによって理事として仮装登記されたものにすぎず,定款に定める
手続を経て選任された原告の理事でも理事長でもない。したがって,本
件訴訟は,原告の代表者でない者,すなわち,訴訟代理権を欠く者が提
起したものであり,不適法却下すべきである。
(ア)山梨県知事が平成12年9月21日にした仮理事の選任は,重大か
つ明白な瑕疵があり無効である。
a山梨県知事に対し仮理事選任の申立てをしたEは,原告の事務局
長ではなく(当時原告に事務局長という役職はなかった。),仮理
事選任の申立てができる利害関係人ではない。
bまた,そもそも,被告Y1及びFが原告の理事あるいは理事長を
辞任したことはなく,理事あるいは理事長の権利義務を有する者で
ある。
cEが仮理事の候補者として選任したD,C及びGは,いずれも,
原告の債権者であるHと原告との金融仲介人であるDの指示により,
Hに対する債務弁済までの担保として,平成10年4月13日,原
告の当時の理事長Fが理事を委嘱したものであり,理事として原告
の社会福祉事業を確実,効果的かつ適正に行う意思もなければ,原
告が提供する福祉サービスの質の向上を図る意思もなく,単に原告
の乗っ取りを目論む者たちである。山梨県知事はこのような事情を
知らされないまま,原告の状況について虚偽の説明を受けた結果,
錯誤により,仮理事としてD,C及びGを選任した。
d上記のように仮理事選任手続は無効であるところ,被告Y1を原
告とし,山梨県知事を被告とする仮理事選任取消訴訟を提起する必
要があるとはいえない。
(イ)平成12年9月25日に開催されたとされる第20回理事会におけ
る理事長の選任は手続上の瑕疵があり無効である。
aDが理事長に就任したのは,登記簿上平成12年12月28日で
あるから,Dには平成12年9月25日に開催されたとされる第2
0回理事会を招集する権限がなく,そこでされた理事の選任(委
嘱)も手続上の瑕疵がある。
b上記のとおり,山梨県知事がした仮理事選任が無効であるから,
D,C及びGが仮理事としてした一切の行為は無効である。したが
って,平成12年9月25日選任されたとされる理事12名も,正
当な理事選任権者(理事長)でない者によって選任されたものであ
り,また,理事長選任について正当な同意権者(8名以上の理事)
の同意を欠くものであって理事長就任は無効である。
c原告定款によれば,理事の定員は12名である(定款4条1項)。
原告には平成12年9月21日当時,外形上12名の理事がおり
(被告Y1及びFが理事あるいは理事長の権利義務を有する者であ
ったことは,上記(ア)bのとおりである。),その点でも仮理事選
任の必要はなかった。
もし山梨県知事が仮理事を選任する以上,定款所定の定員数であ
る理事12名を選任し,原告法人組織として適切な体制を整えさせ
るべきであった。
3名の仮理事を選任したとしても,原告法人の組織上まったく不
備である。
社会福祉法36条も「理事又は監事のうち,その定数の三分の一
を超える者が欠けたときは,遅滞なくこれを補充しなければならな
い」と規定し,役員につき一定の定数を保つよう要請している。
以上,本件3名の仮理事選任は,無効である。
(ウ)Dは,社会福祉法36条4項4号所定の役員欠格者であり,原告の
理事長,理事になり得ない。
Dは,平成13年1月10日,(省略:刑事裁判で執行猶予付き懲
役刑の)有罪判決を受け,この判決は同月25日確定した。したがっ
て,Dは,平成13年1月25日から,役員欠格者であった。
(エ)しかしながら,Dは,平成13年11月28日に開催された第27
回理事会につき理事長として招集し,議長として会議を主催した。し
たがって,上記理事会は無効である。
イ本件訴訟提起は,原告の定款に定められた,評議員の同意(定款13
条2項),理事会の決議による決定(定款5条1項)を欠くものであり,
社会福祉法人の訴訟提起の法定の要件を欠く瑕疵あるものであるから,
不適法却下すべきである。
(ア)平成14年6月20日に開催された第29回理事会における決議は,
上記のとおり理事欠格者であるDや上記仮理事により選任された正当
かつ有効な資格を欠く理事により行われたものであり,原告の定款5
条1項で定められた決議とはいえない。
(イ)また,同意をした評議員もDが理事長として選任した者であるから,
正当かつ有効な資格を欠く評議員であり,これらの評議員による同意
も無効である。
(2)原告の反論
ア原告の本件訴訟提起時の理事長はCである。その選任の経緯は以下の
とおりである。
(ア)平成10年4月13日開催の第11回理事会において,D及びCが
理事に選任されたが,その後,理事の選任,辞任等について紛糾し,
理事会が正常に運営できない状態になった。
(イ)その後,原告は,山梨県から本件の補助金不正受給について是正を
求められたが,理事会が上記のような状態であったので,理事は任期
切れで全員退任し,社会福祉法45条で読み替えて準用する民法56
条により山梨県知事が仮理事を選任するための申立てをせよとの指示
を受けた。
原告の事務局長Eは,上記指示に従い仮理事選任の申立てをし,山
梨県知事は,平成12年9月21日,D,C及びGを仮理事に選任し
た。
仮理事に就任したD,C及びGは,直ちにDを理事長に選任した
(登記がないからといって理事長としての権限がないわけではな
い。)。Dは,平成12年9月25日に第20回理事会を開催して理
事を選任し,同年12月28日に第21回理事会を開催し,理事会の
同意を得て,評議員を選任した。
平成13年11月28日に第27回理事会が開催され,Dが理事長
及び理事を辞任し,Cが理事長に選任された。
なお,仮理事の選任無効については,本件訴訟で審理することはで
きず,山梨県知事を被告として仮理事選任処分取消訴訟を提起すべき
である。
(ウ)Dは,理事長に就任中の平成13年1月10日に(省略:刑事裁判
で執行猶予付き懲役刑の)有罪判決を受け,同月25日にこれが確定
したため,社会福祉法36条4項4号により役員の欠格事由に該当す
ることとなったが,Dは上記条項を知らなかったため理事長の職務を
続けたものである。Dは,同年11月ころには欠格事由に該当するこ
とを知ったので,後任の理事長を選任するため,同月28日,第27
回理事会を召集して開催した。上記理事会にはDを含め9名の理事が
出席し,その席でDは理事長等の辞任を申し出,後任の理事長には出
席理事全員の賛成でCが選任された。また,上記の議案に関しては,
Dを除いても8名の理事の賛成が得られているので,決議は実質的に
も有効といえる。
(エ)仮に,第27回理事会の召集手続に瑕疵があり,その結果,当該理
事会で決議された事項が無効であったとしても,適正に開催された平
成14年3月28日の第28回理事会においてCが適正に理事長に選
任された。すなわち,定款によれば,理事長に事故あるときは,理事
長があらかじめ指名する他の理事が順次に理事長の職務を代理すると
されているところ(定款6条),Dからあらかじめ指名されていたC
が第28回理事会を召集し,委任状による出席理事をも含め9名の理
事により,第27回理事会で決議されたCを理事長とする決議の追認
ないしは同一内容の決議が適正に行われた。
以上のとおり,Cが理事長としてなした行為はすべて有効であり,
C以降の理事長が行った手続も有効である。
イ本件訴え提起については法定手続を履践している。
平成14年6月20日に第29回理事会及び第13回評議員会が適正
に開催され,本件訴えを提起することが同意,承認されている。
2争点(2)(被告Y1,被告Y2及び被告Y3は原告の軽費老人ホームの建設
及び施設整備工事に関し,共謀の上,山梨県から補助金を不正に受給し私的に
流用したか(共同不法行為の成否))について
(1)原告の主張
ア被告Y1,被告Y2及び被告Y3(なお,被告Y3は,被告Y6の常
務取締役であるとともに,原告の事務局長として原告の施設設置事務等
に従事していた。)は,共謀して,原告の本件施設の建設工事(以下
「本件工事」という。なお,請負人は被告Y6である。)に関し,山梨
県から国庫補助金を財源の一部とする社会福祉施設等施設整備費補助金
及び山梨県独自の財源による山梨県老人福祉施設等施設整備費補助金
(以下これらを合わせて「本件補助金」という。)を受給する際,建設
事業費が実際には6億7980万円しか要していないのに8億2030
万円を要したと申請し,また設備整備費が実際には3614万5121
円しか要していないのに9255万7600円を要したと申請するなど
して,山梨県から,建設事業費の差額1億4050万円と設備整備費の
差額5641万2479円の合計1億9691万2479円を不正に受
給した(以下「本件不正受給」という。)。
原告は,山梨県に対し,本件不正受給に関し,1360万9000円
を返還したほか延滞金等として349万9446円を支払った。
イ被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,本件不正受給金の合計額を不正
かつ私的に流用した。
なお,本件不正受給に関する刑事裁判において,被告Y1自ら1億20
00万円を個人的に流用した旨供述している。
(2)被告Y1の主張
ア被告Y1が本件不正受給金を私的に流用したとの事実は否認する。
本件不正受給金額は,原告の補助金交付申請の額と山梨県の再査定額
との差額にすぎず,原告が現実に保有していた資産とは無関係であり,
これを被告Y1らが流用したなどとはいえない。
イ被告Y1が,差額1億9691万2479円を私的に流用したことは
ない。
原告の資金運営は,主として被告Y2,被告Y3が行っていた。既に
陳述したとおり,原告において,本件流用の年月日,金額,銀行口座な
どを明らかにすべきである。
原告において,私的流用,損害額につき主張,立証すべきである。
(3)被告Y2の主張
ア被告Y2が本件不正受給金を私的に流用したとの事実は否認する。
イ被告Y2らが山梨県から補助金を不正に原告宛支出させたことと受給
した補助金を原告内部で実際にどのように使ったかは別問題である。
(4)被告Y3の主張
ア被告Y3は,原告の施設設置事務等を手伝っていただけであって,原
告の事務局長ではない。
イ被告Y3が本件不正受給金を私的に流用したとの事実は否認する。
なお,設備整備費として実際に要した費用は6372万9000円で
ある。
3争点(3)(被告Y4は,上記私的流用に加担したか(共同不法行為の成
否))について
(1)原告の主張
被告Y4は,原告の会計を担当し,原告の預金通帳3通を預かるなどし
て補助金等が振り込まれてくる原告の預金の入出金を管理し,必要な帳簿
書類を作成するなどの業務に従事していたが,被告Y3に指示されるまま,
原告の預金口座から被告Y1の借金返済などのために出金手続をした。
被告Y4は,補助金や医療事業団からの貸付金は,施設の建設と備品の
整備のためだけに使途が限定されていることを知りながら,不正な支出と
の疑問を持ちつつも,Bの指示により被告Y3の言うがままに原告の預金
口座から金員を引き出し,被告Y1,被告Y2及び被告Y3の上記私的流
用に加担したし,少なくとも重過失があると認められる。
(2)被告Y4の主張
被告Y4は,B会計事務所の職員として,所長であったBから原告の3
通の預金通帳を預かり(なお,印鑑は当時の原告理事長Iが管理してい
た。),出入金するようにとの指示を受け,被告Y3の指示に従いIに出
金手続に必要な書類に押印をもらった上で出金手続を行い,そのための決
裁書を作成し,出納帳に記帳するなど原告の預金の入出の機械的な事務を
していただけであって,原告の会計を担当していない。
4争点(4)(被告Y5は,上記私的流用に加担したか(共同不法行為の成否)。
被告Y5の加担が認められる場合,あるいは,被告Y3の共謀が認められる場
合,被告Y6は使用者責任を負うか)について
(1)原告の主張
ア被告Y5は,本件工事について,不正な目的で使用されることを認識
し得るのにもかかわらず,虚偽の工事請負契約書(甲4)の作成をし,
被告Y1,被告Y2及び被告Y3の建設事業費の不正受給及びその私的
流用に加担した。
イ被告Y3は,被告Y6が原告から建築工事等を受注するのに有利にな
るようにするため,原告に事務局長として派遣されていたものであり,
もっぱら施設の設置事務等に従事していたが,本件工事請負契約につい
ては,原告の事務局長としての役割のみならず,被告Y6の常務取締役
としての役割も果たし,虚偽の工事請負契約書作成に関与した。
ウ被告Y5及び被告Y3は,いずれも被告Y6の取締役であり,虚偽の
工事請負契約書作成への関与は,その業務の執行につきなされたもので
あるから,被告Y6は使用者責任を負う。
(2)被告Y5及び被告Y6の主張
ア被告Y6は,原告との間で,平成8年1月,本件工事について,代金
8億2030万円とする請負契約を締結し,工事請負契約書を作成した。
その後,被告Y6は,原告から代金減額の申入れを受けて交渉した結
果,同年4月ないし5月ころ,1億4050万円の減額をする旨合意し
たので,上記契約書を破棄することとし,工事請負減額契約書(乙ヘ
2)を作成し,更に新たな工事請負契約書(甲3)を作成した(なお,
甲4の成立は争う。)。
本件不正受給は,上記の経緯で工事代金が減額されたにもかかわらず,
原告がこれを山梨県に届け出ずにしたことであって,被告Y5及び被告
Y6は何ら関与していない。
イ仮に被告Y3に不法行為責任が認められるとしても,本件不正受給及
びその私的流用は,被告Y6の業務執行とは何ら関係がなく,被告Y6
が使用者責任を負うことはない。
5争点(5)(原告の被った損害)について
(1)原告の主張
ア被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,本件不正受給について刑事裁判
で有罪判決を受けているが,被告Y1らが山梨県に対して水増しした金
額を申請した理由は,その差額を私的に流用する目的であったことが推
認される。したがって,上記被告3名及び私的流用に関わった被告Y4
については,山梨県に対して水増し請求をした差額等の合計に相当する
額である2億0041万1925円(建設整備費の差額1億4050万
円+設備整備費の差額5641万2479円+延滞金等349万944
6円)の損害を原告に負わせたものである。
また,被告Y6及び被告Y5は,上記のうち,建設整備費の水増し請
求に関与していることから,上記損害額のうち,1億4050万円につ
いて,損害発生に加担したといえる。
イなお,被告Y1は,自らの刑事事件において,建設費用等の浮かせた
分を,自らの借入金(合計1億2000万円)の返済に充てた旨述べて
いたのであって,上記金額が私的流用に当たることは明らかである。
また,少なくとも,下記記載の出金(甲21)は,原告の預金口座か
ら被告Y1の個人債務の返済に充てられたものであり,その合計732
7万2195円は原告の被った損害である。また,被告Y5からの借入
金1000万円が原告の資金から返済されたことも明らかであるから,
これを加えると損害額の合計は少なくとも8327万2195円である。
そして,原告が,本件不正受給に関して,山梨県に対し,延滞金等3
49万9446円を要したことは既に述べたとおりである。

平成8年3月1日の出金1000万円
同月26日の出金1600万円
同年7月31日の出金600万0721円
同年8月1日の出金60万0721円
同月2日の出金11万2032円
同年12月26日の出金4055万8721円
ウ本件については,原告設立当時の会計処理を被告Y1らが行っていた
上,建設整備費等に要した費用の算出は山梨県において行われているた
め,原告の手元に資料が存在せず,損害額の私的流用を正確に主張立証
するのが困難な事案といわざるを得ない。
仮に,原告の主張立証に不十分な点があるとしても,原告の被った損
害については,民事訴訟法248条によって認定されるべきである。
(2)被告らの主張
ア原告の損害の主張については争う。
原告は,被告らの私的流用の事実につき何ら証拠に基づく立証を行わ
ない。
イ被告Y1の主張
上記アに加え,原告が山梨県に補助金の一部1360万9000円を
返還する際に支払った延滞金等の349万9446円が原告に生じた損
害としているがこれは誤りであるし,仮に,延滞金等の支払が事実であ
り,これが原告の被った損害であるとしても,原告は,補助金を返還す
るまでの間は,補助金相当額を運用できたのであるから,上記運用利益
相当額は控除(例えば,被告Y1がDを介してHから借り入れた金銭に
対する年3パーセントの利息,仲介手数料130万円,交通費等20万
円等)すべきである。
ウ被告Y2及び被告Y3の主張
上記アに加え,原告は,自らに帰属し得ない金員を原告の財産と誤解
し,本来原告が負担すべき支払を私的流用と誤解して損害を主張するも
のである。
すなわち,本件工事は当初8億2000万円を請負代金として請負契
約が締結され,実際に完成された建物の価値も上記金額に相応するもの
であったところ,被告Y2らの強い要請に応じて6億8000万円の金
額にまで減額させることができたのであって,原告は,その減額分の使
途を被告Y2らに委ねたといえる。したがって,減額により生じた差額
は,実質的には被告Y6から被告Y2らに贈与されたと評価し得る金員
であり,原告に帰属し得る金員ではなかった。
第3当裁判所の判断
1上記前提となる事実に,証拠(証人F,原告代表者,被告Y1,被告Y2,
被告Y3,被告Y4,被告Y6代表者兼被告Y5,甲1ないし3,5ないし3
4,乙イ1ないし5,9ないし17,19,20,乙ロ1,2,乙ハ1ないし
3,乙ニ1,乙ヘ1ないし4。書証は枝番を含む。ただし,証人F,被告Y1,
被告Y2,被告Y3,乙イ11,乙イ16,乙ロ1及び乙ハ1は下記認定に反
する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)原告の設立過程
ア被告Y1は,平成2年ころ,周囲からの働きかけ等により,自己所有
地を利用した高齢者向けの福祉施設の建設を考えるようになり,平成5
年ころには,社会福祉法人の設立や施設の建設に向けた具体的な取り組
みをはじめた。被告Y1は,施設建設の企画などを手がけるA社の代表
者である被告Y2,建設業者である被告Y6の取締役を務める被告Y3
及び会計事務所を経営する公認会計士であるBらとともに計画を具体化
し,山梨県への認可申請など法人の設立と施設の建設に向けた準備を行
うようになった。
イ法人設立に向けた準備には,企画会社への報酬や近隣対策費など多額
の準備資金が必要であったところ,被告Y1には,福祉施設の建設予定
地であった(省略:山梨県内)所在の自己所有地(乙イ9の1ないし3。
以下「被告Y1所有地」という。)があるものの,自らが経営する他の
事業が振るわず,自己資金が用意できなかった。そこで,被告Y2やB
が交渉に入るなどして,平成5年10月ころに,被告Y1がJ銀行から
個人債務として6500万円を借り入れることとし,これを法人設立の
準備資金とすることとした。
また,被告Y1は,過去に,被告Y1所有地を用いて,知人であった
Kを代表者とする老人福祉施設の建設を考えたものの計画が頓挫したこ
とがあったところ,その過程で,被告Y1所有地に付いていた抵当権を
解除するために,実質的にはKから6500万円の借入れをしたことが
あった。
平成6年6月ころ,被告Y1の上記債務の支払が滞ったことで,Kに
より被告Y1所有地に仮差押えがされたため,そのままでは,社会福祉
法人の財産として認められず,山梨県からの認可を受けることが困難な
事態となった。そこで,被告Y1らは,上記仮差押登記を解除させるべ
く,同年9月ころ,被告Y1がKに対し,5500万円を支払う旨の和
解を成立させ,同月22日,上記仮差押登記は取下げにより抹消された。
なお,この和解金の支払には,上記J銀行からの借入金の一部(被告
Y1によれば700万円)が充てられたほか,被告Y1の義兄であり,
後に法人設立時の理事長となるIがL信用組合やM信用金庫から個人で
融資を受けた合計3000万円,被告Y6の代表者である被告Y5から
借入れた1000万円などが使われた。
ウ結局,法人を設立するまでの間に,寄附予定地の仮差押えの解除や,
設立準備資金等のため,被告Y1が個人で負担した債務は,上記J銀行
からの借入金6500万円と,Kに対する5500万円の和解金との合
計1億2000万円に上った。しかし,被告Y1は,収益を見込んでい
た自らの健康飲料事業等で利益を上げることができないでいたため,上
記債務の返済の目処も立たない状態であった。そして,上記J銀行から
の借入金の一部は,A社への契約手付金支払(被告Y1によれば700
万円)や近隣対策費(被告Y1によれば720万円),登記料等に加え,
被告Y1個人の生活費や貸付金利息返還等(被告Y1によれば719万
1483円)にも充てられた(本件訴訟において被告Y1が自ら認めた
ものである。なお,被告Y1は,自らの刑事事件に関わる警察官面前調
書では,J銀行から借り入れた6500万円は,平成6年8月22日に,
法人設立準備資金用の自分名義の専用預金口座を作るまでは,被告Y1
の個人使用口座に振り込まれていたため,相当額を生活費や他者への利
息返済等の用途で個人的に用いたとしており,その額は2851万58
52円になる旨供述していた(甲30)。)。
エなお,設立予定の法人では,土地や準備資金等を寄附することとなる
被告Y1が理事長となることを予定していたが,被告Y1に資金がなく,
個人債務が多いことなどの理由から,結局,Iが理事長になることとさ
れた。
オ原告は,平成8年1月16日,Iを理事長として設立され,同月18
日,被告Y1は,被告Y1所有地を原告に贈与した(同年2月5日付け
登記)。
(2)本件施設の建設工事をめぐる請負契約の経緯等について
ア平成5年秋ころ,被告Y3は,被告Y1や被告Y2の要望に応じて,
本件施設の建設費用の見積りを算出することとなった。
被告Y2は,自らが関わってきた法人企画業の経験から,社会福祉法
人の設立やその施設の建設に要する費用は,出資者からの寄附のほか,
申請に応じて交付される都道府県や国からの補助金,社会福祉・医療事
業団(以下「事業団」という。)からの借入金でまかなうことが通常で
あるとの認識をもっていた。本件の法人設立には,被告Y1による土地
や資金の寄附が予定されていたが,上記のとおり,被告Y1には自己資
金がなく,法人設立準備資金等も個人債務を負担して捻出している状態
であるとともに,自ら経営に当たる事業が不信のため個人債務の返済を
することができない状態であった。被告Y2は,法人に交付される補助
金や事業団からの借入金の中から,被告Y1の上記個人債務の返済を行
う方法を採ることを提案し,被告Y1及び被告Y3もこれに同調した。
被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,上記方法を実行するために,補助
金を最大限交付されるように本件施設の請負代金額を申請し,実際に支
出する請負代金額を建設会社との間で減額する方法で差額を生じさせ,
この差額をもって,上記被告Y1の個人債務の返済に用いる計画を企て
た。
イ被告Y3は,当初,本件施設の建設には敷地面積や予定施設の規模か
らして約9億円の費用を要すると概算し,その後,積算を重ねた結果,
平成7年ころには,被告Y6として工事を受注する場合,請負代金額は
8億2000万円くらいが相当と試算した。
平成7年の半ばころには法人の設立の認可が出される見込みが明らか
となり,上記建設費用を基準額として施設建設等を行った場合の補助金
支給予定額や事業団からの借入可能額も判明した。その合計額は約9億
円余りであったところ,法人設立後,法人に帰属する契約関係で生ずる
債務や登記等の事務手続費用,本件施設の設備の整備などの必要費に加
えて,被告Y1の個人債務をも支払うためには,本件施設の建設費用を
相当額減らす必要があったため,被告Y3は,被告Y1や被告Y2から
の強い要望を受け,実際に被告Y6に支払うこととなる請負代金の減額
を試みた。被告Y3は,設計を依頼していた設計事務所の担当者Nに施
主の予算が足りないなどの説明をして,施設の規模や設備に変更を加え
させるなどし,同年11月ころには,請負代金額を6億8000万円く
らいにまで減額することができるとの回答を得,さらに,施設の設備整
備費も補助金の申請額より減額することができると試算して,その旨被
告Y1及び被告Y2に報告し,了承を得た。
ウ原告が社会福祉法人として設立された後の平成8年1月,本件施設の
建設に関し,原告を発注者,被告Y6を請負者とし,両者の間で,請負
代金額を8億2030万円とする工事請負契約を締結し(以下「本件第
1契約」という。),その旨の契約書を作成した(乙ヘ3。なお,甲4
は,原告提出にかかる本件第1契約の契約書写しであるが,工期の記載
が異なっており,契約当事者である被告Y6(及びその代表者被告Y
5)において成立を争うものであり,真正なものとは認められない。)。
被告Y3は,本件工事の開始後,被告Y1及び被告Y2と企てた計画
どおり,請負代金の減額を行うこととし,被告Y6代表者被告Y5に,
発注者の希望があること,施設の規模や設備の変更など現場の取り組み
によって減額が可能な金額であるなどと説明をし,請負代金を約6億8
000万円とする旨の了承を得た。
そして,原告と被告Y6との間で,請負代金額を6億7980万円と
する工事請負契約を締結し(以下「本件第2契約」という。),その旨
の契約書を作成した(甲3,乙ヘ1の1)。なお,被告Y6においては,
原告との間で,上記減額の経緯を明らかにするために工事請負減額契約
書を作成した(乙ヘ2)。
エ本件工事は,設計及び監理を担当したNや,被告Y6の工事部長であ
った現場担当者Oにおいて現場を確認しながら進められたが,施設の目
的や利便性向上等のため,本件第2契約の見積内容を変更し,本件第1
契約での見積内容の工事が行われた部分もあった。本件工事は,平成9
年3月ころ完了したが,このころ,工事部長Oは,被告Y3の指示に基
づき,本件第1契約に沿うよう8億2030万円相当の工事内訳明細書
を作成し,また,Nは,上記書類に基づいて完了検査に必要な工事内訳
明細書や実施設計図を作成するなどした。
(3)本件補助金の支給とその後の調査,監査の結果
ア原告は,本件施設の建設等に関わる本件補助金(以下,本件補助金の
うち,建設工事等に対して交付される補助金を「建設整備費補助金」と,
物品納入等に対して交付される補助金を「設備整備費補助金」とい
う。)の申請に当たって,施設整備費補助金の算出基準となる実績報告
建設事業費(以下「建設事業費」という。)を本件第1契約の8億20
30万円として,設備整備費補助金の算出基準となる実績報告事業費
(以下「設備事業費」という。)を9255万7600円として,それ
ぞれの申請手続等を行った。その結果,平成8年3月中には建設整備費
補助金及び設備整備費補助金の交付決定がされ,同年4月及び平成9年
5月にそれぞれ補助金の額も確定し,建設整備費補助金計4億6294
万2000円,設備整備費補助金計1751万6000円の合計4億8
045万8000円の補助金が原告に支払われた。
イしかし,平成9年11月ころ,一般指導監査に際して本件施設建設等
の契約事務に疑念が生じたため,平成10年7月ころから,山梨県が本
件施設の建設工事及び物品納入等にかかる契約額,入金状況及び納品状
況等の照会を行ったところ,本件施設の建設工事等に関して二重契約の
あったことが判明し,平成11年4月ころから,特別指導監査が実施さ
れ,事業費の再算定を行うこととなった。その結果,建設事業費が6億
7980万円,設備事業費が3614万5121円であると再算定され,
建設整備費補助金のうち1360万9000円,設備整備費補助金のう
ち32万5000円が過払であるとして,平成11年5月24日,原告
に対して通知がなされた(本件不正受給の事実)。
ウ上記通知を受けた原告は,山梨県等に対し,少なくとも過払とされた
建設整備費補助金1360万9000円を返還したほか,延滞金等とし
て349万9446円を支払った(甲22ないし24)。
(4)被告Y1,被告Y2及び被告Y3の刑事裁判等
ア山梨県は,本件不正受給に関し,原告のほか,原告設立に携わった被
告Y1,I,被告Y2,被告Y3及び被告Y4につき,補助金等に係る
予算の執行の適正化に関する法律違反,詐欺罪及び背任罪の疑いで,告
発する方針とした(甲26)。
その後,被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,平成13年,補助金等
に係る予算の執行の適正化に関する法律違反及び詐欺罪の各事件で起訴
され,同年6月26日,有罪判決を受け,上記判決は,同年7月11日
に確定した(省略)。
イ認定された事実は,被告Y1,被告Y2及び被告Y3が,共謀して,
原告の業務に関し,本件施設等の新設に際し,新築工事請負代金を水増
しし,山梨県から不正に建設整備費補助金を受けようと企て,平成8年
(省略)ころ,山梨県の担当者に,本件施設の新築工事請負代金が6億
7980万円であるのに,8億2030万円であると仮装するなどし,
水増しした工事代金に基づき算出されることとなる補助金額に対応した
虚偽の概算払請求書等を提出するなどし,(省略)山梨県の支出権者に
上記概算払支出決定をさせ,(省略)補助金の一部として当時の原告代
表者名義の普通預金口座に1億7124万円を振込入金させ,さらに,
上記同様に仮装するなどし,平成9年(省略)ころ,虚偽の事業実績報
告書等を提出し,(省略)山梨県の決定権者に上記水増しした工事代金
額に応じた補助金額確定決定をさせ,(省略)上記口座に補助金の残金
2億9170万2000円を振込入金させ,もって,間接補助金3億9
680万7000円,山梨県単独補助金6613万5000円の合計4
億6294万2000円を詐取したというものである。
ウなお,被告Y2の背任罪については,平成13年3月30日,嫌疑不
十分により不起訴処分とされ(乙ロ2),被告Y1らについても背任罪
の起訴がされたとの事実は認められない。
(5)被告Y4の役割と本件補助金等の使途等
ア原告法人設立後,Bが原告の監事となったため,法人保有の金員の管
理や入出金事務に関し,Bの経営する会計事務所職員であった被告Y4
が担当することとなった。被告Y4は,Bの指示で原告名義の預金口座
の預金通帳3通を預かり保管することとなり,具体的には,主に被告Y
3の,時に被告Y1や被告Y2の指示を受けて上記預金口座の入出金業
務に当たった。被告Y3は,原告設立準備の段階から事務局の一員とし
て加わり,原告会計の収入(本件補助金及び事業団からの借入金)及び
支出(建設工事費の支払等)のほとんどを把握していたところ,収支計
算をもとに支払予定の一覧表を作成するなどし,これに基づき被告Y4
の入出金業務が行われていた。
イ被告Y4は,出金の際には,原告代表者Iの印をもらうなどしていた
ほか,出金先を明らかにしておくために,預金通帳の余白部分に支払先
を手書きで書き入れていた(甲21)。
これによれば,原告から被告Y1名義の預金口座へ支払われた金額は,
少なくとも,①平成8年3月1日の1000万円,②同月26日の16
00万円,③同年7月31日の600万0721円,④同年8月1日の
60万0721円,⑤同月2日の11万2032円,⑥同年12月26
日の4055万8721円の合計7327万2195円に上る。また,
税務署による税務調査の結果,上記のうち①及び②の全額と,③のうち
600万円並びに⑥のうち4055万円については,原告から被告Y1
への給与に当たるとの指摘を受け,原告に対して重加算税が課せられた
(甲19,20)。
(6)原告理事会決議の経緯
ア原告は,上記のとおり,平成8年1月16日に設立されたところ,そ
の定款によれば,役員として理事12名,監事2名を置き,理事のうち
1名は,理事の互選により理事長となり,理事長のみが法人を代表する
こととされた(定款4条以下)。また,予算,決算,事業計画や定款の
変更その他運営に関する規則の制定及び変更等の事項を審議する評議員
会を設け,評議員会は25名の評議員をもって組織されることとなって
おり,その選任は,理事会の同意を得て,理事長がこれを委嘱するもの
とされていた(定款12条以下)。
理事会は,理事総数の3分の2以上が出席しなければ議事を開き,議
決することができず(定款5条5項),決議は原則として理事総数の過
半数で決定することとされ(定款5条6項),特別利害関係を有する理
事は当該議事の議決に加わることができない(定款5条7項)とされて
おり,また,理事の選任については,理事総数の3分の2以上の同意を
得て理事長が委嘱することとされていた(定款7条)。
イFは,平成9年7月22日,原告の理事長に就任し(同年8月29日
登記),この当時,被告Y1は原告の理事に就任し,かつ,評議員の地
位にあった。
ウ平成11年1月21日開催の第13回理事会では,当時の理事12名
(被告Y1及びFのほか,C,Dら10名)のうち,被告Y1及びFを
含み8名が出席し,Cを議長として議事が進行した。当該理事会では,
出席理事8名の同意により,理事2名の辞任の承認と,新理事2名の就
任の承認が決議されたほか,被告Y1が,自らの進退処遇をDに任せる
旨の発言があったとして,被告Y1及びFを除く,出席理事6名及び新
理事2名によって,被告Y1及びFの辞任を承認する決議がなされた。
なお,当該理事会において,Fは,新理事として別の人物を推薦してい
たものの,就任承諾書が得られていなかったことから,継続審議扱いと
されていた。そして,空席となった理事長については,Dが理事長代理
をつとめる旨の議案が出され,残る理事の全員一致で承認がなされた。
エ同年3月26日開催の第14回理事会は,Dが理事長代理として開催
したが,Fは理事として出席し,被告Y1は肩書きを暫定理事としたま
ま,欠席者として扱われた。この際,被告Y1及びFが前回第13回理
事会において理事長及び理事を辞任したことが確認され,出席理事7名
及び委任状を提出した理事1名により承認決議がなされた。また,この
際,被告Y1及びFが原告の理事長印を改印し,原告所有不動産上に無
断で抵当権を設定したとの問題が議案として取り上げられ,これにつき,
Fが説明をするなどした。そして,Fを除いた出席理事らは,新理事長
をDとすることを承認したとされた。
オしかしながら,Fは,上記理事長及び理事の辞任の効果を争ったため,
同年5月13日の第15回理事会には,被告Y1及びFを含め,Cら1
2名が理事として出席したほか,監事2名に加え,山梨県から当時の課
長補佐ほか2名,○○町から課長1名が立会人として出席した上で理事
会が開催され,Fは,理事長挨拶を行った。当該理事会では,本件不正
受給に関し,社会福祉事業法(平成12年法律第111号による改正・
改称前の社会福祉法。以下同じ。)54条2項に基づく是正措置命令が
出されたことが事案となり,法人運営の正常化に向けた活動をすること
が承認されたほか,第13回理事会における被告Y1及びFの辞任確認
決議及び第14回理事会におけるFの辞任確認決議が議事に付され,賛
成理事9名によって承認の決議がされた。
また,上記是正措置命令に関し,Fが報告を行い,法人運営の正常化
に向けた活動をすることも承認された。
Fは,上記理事会以降も辞任の意思がないとして辞任決議の効力を争
うなどして理事会は混乱し,本件不正受給に関する是正措置命令につい
ても具体的方策が採られなかったため,原告の当時の事務局長Eは,山
梨県と協議をし,現理事全員が任期満了により退任し,その後,社会福
祉事業法あるいは社会福祉法に基づく仮理事選任の手続を採るよう指導
がなされた。
カ平成12年1月16日,理事長の立場にあったとされるDをはじめ,
その他の理事ら全員が任期満了により退任し,その後,同年9月21日,
山梨県知事は,社会福祉法45条で読み替えて準用する民法(平成16
年法律第147号による改正前のもの。)56条の規定により,D,C
及びGの3名を原告の仮理事に選任し,同日その旨通知した。
Dは,ほか2名との互選により仮の理事長に就任し,同月25日,第
20回理事会を開催し,同理事会において,Dら3名を含む合計12名
の新理事が選任された。
さらに,その後,同年12月28日,Dが代表して第21回理事会を
開催し,出席した理事9名全員の賛成により,同理事会においてDが理
事長に就任することが承認された(登記は平成13年2月26日付け)
ほか,新たに評議員を選出する旨が決議された。
キなお,被告Y1及びFが理事等に在任していた平成10年2月ころか
ら4月ころ,原告は,経営が厳しく資金繰りに窮していた上,被告Y1
にも個人債務が多数残存し,その返済に窮する状態であった。そこで,
被告Y1は,Dに依頼し,その知人であるHから5000万円以上もの
融資を受けるなどした。しかし,被告Y1は,同年8月ころにも,再度
Dに金策を依頼することとなったため,被告Y1の金員の使途やFの保
有する理事長印の不正利用を疑ったDは,自ら原告の収支会計に携わる
ようになり,Fから理事長印を預かるなどしたことがあった。
DとFとの間では,このころから,被告Y1及びFが理事長や理事等
の役職を離れる旨の話が出るようになっており,平成11年1月ころに
は,被告Y1が,Dに対し,進退処遇を任せる旨の発言をしたこともあ
った。
クところで,Dは,平成12年12月28日に理事長に就任していたも
のの,平成13年1月10日,(省略:刑事裁判で執行猶予付き懲役
刑)の有罪判決を受け,上記判決は同月25日確定した。これにより,
Dは同日をもって理事の資格を失った(社会福祉法36条4項3号)が,
これに気づかず理事長職を継続し,その後の同年11月28日開催の第
27回理事会を召集し,同理事会の議事進行を行うなどした。上記理事
会において,Dは,理事長,理事及び評議員を辞退し,次期理事長にC
を推薦する旨発言し,出席した9名(D及びCを含む。)の理事により
Cを理事長として選出する旨が承認された。また,その後の議案として,
本年開催の理事会と評議会決議の成立の再確認をする旨が上記出席理事
9名が賛成し,承認された。
ケ平成14年6月20日開催の第29回理事会には,Dを除いても,7
名の理事が実際に出席し,委任状により2名の理事が出席した。上記理
事会では,事業報告や定款変更について決議が行われたほか,被告Y1
に対する原告の対処として貸付の処理を行い,貸付金として返済を求め
る方針とし,被告Y1のほか,被告Y2及び被告Y3に対しても,被告
Y1に対する原告の貸付金の返還請求訴訟を行う旨の決議がなされた
(Dを除いても賛成理事は8名)。
また,同日開催の原告評議員会においても,15名の評議員が出席し,
委任状出席による評議員が4名であったところ,評議員会の成立が宣言
され,理事会と同様,被告Y1らに3名に対する貸付金返還請求訴訟の
提訴をすることが賛成者14名により承認された。
コ原告は,平成14年11月12日,被告Y1ら6名に対し,本件不正
受給に関わる共同不法行為等を主張して損害賠償請求事件(本件訴訟)
を提起した。
2上記の認定事実に基づき,以下,各争点につき検討する。
(1)争点(1)(本件訴訟は,訴訟代理権を欠く者が提起したものか,社会福祉
法人の訴訟提起の法定の要件を欠く瑕疵あるもので不適法といえるか)に
ついて
ア被告Y1は,本案前の主張として,本件訴訟は訴訟代理権を欠く者が
提起したか,社会福祉法人の訴訟提起の法定の要件を欠く不適法な訴え
であると主張するが,これは,要するに,被告Y1及びFの理事・理事
長等辞任が無効であることをはじめ,山梨県知事による仮理事選任が無
効であり,その後現在に至るまで原告理事会における理事長の選任決議
等が無効または不存在であり,本件訴訟を提起した当時の理事長Cも権
利を有しない者である旨いうものと解される。
イそこで検討するに,この点,被告Y1及びFの辞任の効力については,
同人らの辞任の有無やその確認決議の効力が問題とされた第13回ない
し第15回理事会の議事内容や経緯等にかんがみると,同人らが,自ら
理事や理事長,評議員の地位を辞任したと認めるのは困難というほかな
く,上記辞任に関する確認決議も有効な効力を有するものとは考え難い
(F名義の辞任届(乙イ18)は,真正に成立した文書とは認められな
い。)。
しかしながら,原告理事会においては,その後,社会福祉事業法ある
いは社会福祉法上の一般的監督権限を有する山梨県知事によって,平成
12年9月1日,Dをはじめ3名の仮理事が選任された。本件訴訟にお
いて当該仮理事選任の効果を問題とすることは相当でないといわざるを
得ないが,手続の経緯に限ってみても,上記のとおり,原告理事会では,
平成11年ころからの被告Y1及びFの理事等辞任をめぐる混乱があっ
たこと,本件不正受給に関する山梨県からの調査や監査が行われ,是正
措置命令が出されていた状況などに照らせば,被告Y1及びFを含め,
任期が満了していた当時の理事全員を退任させた上,社会福祉法45条
が準用する民法56条に基づき行われた所轄庁である山梨県知事による
仮理事選任手続の経緯に何らかの問題があったとは認められない。
その後の手続をみても,仮理事らの互選により仮の理事長にDが選出
され,Dにおいて,平成12年9月25日,第20回理事会を開催し,
Dら3名の仮理事を含め定款所定の12名の新理事が就任する決議がさ
れた上,同年12月28日開催の第21回理事会では上記理事らによる
互選でDを理事長に選出することが承認されたことが認められ,上記手
続に法令や定款の趣旨に反する違法があるともみられない。
ウ被告Y1は,仮理事選任後の原告理事会においてなされた理事長の選
任決議はすべて無効であり,理事長Cには代表権がなく,また,本件訴
訟提起に関する原告理事会の正当な決議がなされたこともないから,本
件訴訟提起自体が問題であると主張するが,そもそも理事を退任した被
告Y1は原告理事会との関係では第三者にすぎず,上記のような理事会
決議の不存在や無効を主張すべき法律上の利益が認められるか否かが問
題となり得るし,仮に本件においてそのような法律上の利益が認められ
るとしても,上記認定事実に照らせば,上記被告Y1の主張を認めるに
足りる理事会決議の不存在や無効事由にかかる的確な証拠は認められな
いというほかない。
エなお,Dが役員欠格事由に該当していながら原告の理事長に就任し続
け,その間の平成13年11月28日に第27回理事会を召集し,開催
した事実が認められるところ,上記手続には看過し難い違法があったと
いえる。
しかし,上記認定事実によれば,当該理事会では,Dを除外しても,
理事会開催に必要な8名の理事が出席して議事を進行し,Cを除外して
も理事総数の過半数である7名の賛成により,新たな理事長としてCを
選任している。役員欠格者であるDが開催された理事会に瑕疵があった
としても,その瑕疵が重大で,理事会が不存在であったともいうべき事
情があるとは認められない。また,その後の第28回理事会において,
上記第27回理事会決議事項が,再度必要数の賛成を得て承認決議され
ている。
これらの状況に照らせば,原告理事会をめぐっては,一時,役員欠格
者が理事及び理事長を務めるなど理事会開催の手続に違法があった経緯
も認められるものの,事後的にせよ,適正な手続により理事会が開催さ
れ,適正な決議を経たことが認められるのであるから,Cが理事長とし
て選任された決議に何ら問題があるとは認められない。
オ本件訴訟提起に至る経緯については,第29回理事会において,被告
Y1に対する原告としての対処として,貸付の処理を行いその返済を求
める方針とし,原告から,被告Y1,被告Y2及び被告Y3に対し,被
告Y1に対する貸付金返還訴訟を提起する旨決議された(甲12)とこ
ろ,上記決議内容が,本件不正受給をめぐり,原告が被告Y1に対して
有していると考えられる金銭債権を行使する趣旨であることは明らかで
ある。本件訴訟が損害賠償請求であることや,被告が上記3名のみに留
まらなかったとしても,それは,原告が被告Y1に対して有する債権の
性質をどのように解するかの相違にすぎず,被告Y1らに対する金員請
求を行うという意味で決議の内容に反するものとはいえない。
こうしてみると,本件訴訟提起が法定の要件を欠いた不適法なもので
あるとは認められないし,そもそも,被告Y1において,上記のような
不適法を主張し得る法律上の利益があるといえるか否かについても問題
がある。
カいずれにしても,上記のとおり,本件訴訟提起の不適法を問題とする
被告Y1の主張は何ら理由がないといわざるを得ない。
(2)争点(2)(被告Y1,被告Y2及び被告Y3は原告の軽費老人ホームの建
設及び施設整備工事に関し,共謀の上,山梨県から補助金を不正に受給し
私的に流用したか(共同不法行為の成否))について
ア本件不正受給の事実については,当事者に争いはないが,本件では,
被告Y1,被告Y2及び被告Y3が,本件補助金の不正受給にとどまら
ず,共同して本件補助金を私的に流用したといえるか,上記被告3名の
行為が共同不法行為に当たるかが問題となる。
イこの点,本件不正受給の経緯やその目的及び使途は,上記認定事実の
とおりと認められるところ,具体的な金額はおくとしても,上記3名は,
法人設立以前から,法人設立後,原告会計に帰属することとなる補助金
や事業団からの借入金の一部を,被告Y1の個人債務の返済に充てよう
と企て,実際にもその返済に用いたことが明らかである。被告Y1,被
告Y2及び被告Y3の主張するところは,設立前段階の法人は,法人名
義での借入れができないことから,被告Y1が設立準備等のために要す
る費用を法人のために個人名義で借入れしたものにすぎず,被告Y1の
個人債務の返済に本件補助金や上記借入金を充てても,私的流用には当
たらないというものである。
ウ確かに,設立前の法人は,権利主体たり得ず,契約の効果帰属主体と
はなり得ないものの,法人設立過程には種々の契約関係が生じ得るので
あり,法人設立前の段階においても,設立後の法人に対する契約効果の
帰属を前提とする類型のものがあることは否定し難い。本件のように,
法人の設立計画をはじめ,法人設立後に予定される施設建設地の確保,
施設の設計や建設計画など,法人のために行うことを目的とし,法人が
設立された後に,法人との契約締結を行うことを前提として,設立前か
ら準備が進められる必要のある契約関係が多数みられるところ,これら
に関し,法人の設立後に法人を主体として契約を締結し,法人において
その履行債務を負担することになるとしても,直ちに法人の利益に反す
るとは認められない。
エしかしながら,上記被告3名は,相互に意思を通じて,本件不正受給
によって得られた金員を用いて被告Y1の個人債務の返済に充てること
を企て,現に実行したものである。
これに関し,被告Y1が法人設立前に負担した個人債務は1億200
0万円に上っており,このうち,平成15年10月にJ銀行から設立準
備資金等として借り入れた金員のうち719万1483円については被
告Y1自身が個人の生活費や貸付金利息返還等に用いた旨認めている
(乙イ11)し,被告Y1の刑事事件における警察官面前調書によれば,
平成6年8月22日に法人の設立準備資金の保管用口座をつくるまでの
間に,個人名義の口座であることを奇貨として,2851万5852円
を個人として使用したというのである(甲30)。
また,5500万円については,法人に寄附(贈与)するための被告
Y1所有地の仮差押えを解除する費用であったが,そもそも上記仮差押
えの原因となった債務は,被告Y1が,原告設立計画とは無関係に進め
ていた老人施設や個人事業に関してKに対して負担していた,きわめて
個人的な借財といわざるを得ない。
オ被告Y1は,上記仮差押えが解除され,原告が法人として設立された
後は,被告Y1所有地を原告に贈与しているほか,個人名義で負担した
借入金の大部分を法人設立に向けた準備資金として使ったことは認めら
れる。
しかし,原告は,社会福祉の実現を目的として存在することが予定さ
れる社会福祉法人であるところ,その設立目的は制限され,設立に必要
とされる認可の要件は,利益追及を目的とする法人とは異なるものであ
る。また,その設立における資力の確保においては,寄附を前提とする
ものであり,設立に関わった者が不動産や資金など,いわゆる私財を投
入したとしても,法人の本質に照らし,その見返りや対価を設立後の法
人から当然に得ることを期待することは相当でなく,特段の事情がない
限り認められないものというべきである。
被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,社会福祉法人が上記のような趣
旨の法人であることを承知しつつ,被告Y1が個人で借り入れた金員を
資金としながら認可が得られるよう手続を進めたが,原告設立段階にお
いて,上記個人債務が問題とされて被告Y1の理事長就任が見送られた
経緯もあった。原告に交付された補助金や事業団からの借入金は,設立
後の法人の必要費用を支援する目的で交付あるいは貸し付けされるもの
であり,設立の準備資金や寄附者の負債を返済することを目的として支
給されるものでないことは明らかであるところ,本件不正受給に係る刑
事事件の犯行態様をみても,上記被告3名が,原告会計に帰属すること
となる補助金等を被告Y1の個人債務の返済に充てることが,本件補助
金等の目的外利用に該当し,社会福祉法人たる原告の利益に反するもの
となり得ることを認識していたことも明らかというほかない。
そうしてみると,本件不正受給によって,原告会計に帰属することと
なった補助金等の一部を,被告Y1の個人債務への返済に充てることは,
特段の事情がない限り,それ自体が社会福祉法人の目的に反する行為と
認められるのであって,他者の利益を図る一方,原告の利益に反し,原
告に損害を生じさせるものというべきである。
上記認定事実から認められる本件不正受給の経緯や補助金等の使途に
照らせば,水増しして得た補助金等を被告Y1の個人債務の返済に充て
る行為は,原告の利益に反し,原告帰属の金員を私的あるいは不正に流
用したものというべきであるし,上記個人債務の返済を正当化し得るよ
うな特段の事情があるとも認められない(なお,被告Y1の個人債務返
済に充てられた金員が原告のいかなる手続を経て支出されたかは不明で
あるが,下記争点(5)で検討するとおり,原告理事会において,被告Y1
に対する貸付金として処理され,貸金返還請求訴訟を提起する旨の議事
が持たれたことや,税務上,被告Y1に対する「給与」として税が加算
された経緯等があったことに照らせば,社会福祉法人たる原告の利益と
は整合しない支出であったことが明らかである。)。
したがって,被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,上記私的あるいは
不正な流用に関し,原告に対して共同不法行為責任を負うというべきで
ある。
被告Y1,被告Y2及び被告Y3が行った上記行為により,原告にい
かなる損害を生じさせたかについては,争点(5)において検討する。
(3)争点(3)(被告Y4は,上記私的流用に加担したか(共同不法行為の成
否))について
ア被告Y4が原告の法人として設立された後,Bの指示を受けて原告名
義の預金口座の管理を担当し,入出金業務を担ったことは明らかである。
しかしながら,被告Y4は,Bの経営する会計事務所の一事務職員に
すぎず,上記業務も被告Y3らから個別に指示された一覧表に基づき行
ったものと認められ,この点,被告Y4及び被告Y3ら関係者の供述内
容はほぼ一致している。
さらに検討しても,被告Y4において,自ら認識して,被告Y1らの
私的,不正流用に加担したことを認めるに足りる的確な証拠はない。
イしたがって,被告Y4に私的,不正流用への加担は認められず,不法
行為責任を問うことはできないというほかない。
(4)争点(4)(被告Y5は,上記私的流用に加担したか(共同不法行為の成
否)。被告Y5の加担が認められる場合,あるいは,被告Y3の共謀が認
められる場合,被告Y6は使用者責任を負うか)について
ア上記認定事実によれば,被告Y5は,本件工事の開始後,発注者であ
る原告側である被告Y1らの要望に応じるためであるとして,本件工事
に係る請負契約を担当していた被告Y3から請負代金額の減額の了承を
求められ,本件工事開始後,請負代金額に減額に合意したというのにす
ぎず,これらの事実は,契約書の存在や減額契約書等の存在からも明ら
かである。被告Y5が,本件不正受給や私的流用に加担したとの事実は
認められない。
イ一方,被告Y6の役員であった被告Y3が本件不正受給や私的流用に
深く関わったことは明らかであり,被告Y3が個人として不法行為責任
を負うべきことは既に述べたとおりである。
確かに,被告Y3は,被告Y6の職務執行の中で原告の設立業務に携
わり,上記各不法行為に至ったことが認められる。
しかしながら,被告Y3は,原告設立前後から,給与などは支給され
ていなかったとはいうものの,原告の事務局の一員として行動していた
のであり,その行為は,被告Y6の利益を度外視し,もっぱら設立前の
原告あるいは被告Y1らの利益を図ろうとの目的のもと行われたもので
あり,故意に基づく不法行為というべきものである。上記行為の内容に
照らしてみれば,もはや被告Y6における職務執行の範囲内のものとは
認め難い。
ウ以上のとおりであって,被告Y6及び被告Y5には,本件不正受給及
び私的流用に関し,不法行為に加担したとの事実は認められない。
(5)争点(5)(原告の被った損害)について
ア上記検討の結果,原告に生じた損害は以下の範囲をもって相当と認め
る。
(ア)被告Y1個人債務への返済分7255万円
既に述べたとおり,原告会計に帰属した金員の中から,被告Y1個
人債務の返済に充てられた金員は,私的,不正に流用された疑いのあ
るものというべきところ,少なくともKに対する和解金債務5500
万円と,J銀行から借入したうち,被告Y1が自身の刑事事件で私的
な使用を認めていた2851万5189円,あるいは被告Y1が本件
訴訟の中で私的な使用を認めている719万1483円については,
私的,不正流用された疑いがきわめて強いものと認めることができる。
他方,原告会計から,被告Y1の個人名義の預金口座に支払われた
ことが明らかな金員は,合計7327万2195円であるが,振込手
数料や一部の支出を除いたものとみられる7255万円については,
税務手続の中で,被告Y1に対する給与として重加算税が課せられた
ことも認められる。
原告において,いかなる決議を経て,被告Y1に対する支払が行わ
れたのかは明らかでなく,不明な点が多いものの,実際に,被告Y1
の個人名義の預金口座に支払われたうち,少なくとも被告Y1に対す
る給与として扱われた上記7255万円については,もっぱら被告Y
1個人の利益を図るために用いられたものと認めるのが相当であり,
当該部分は,私的,不正に流用されたことが明らかというべきである。
なお,被告Y2及び被告Y3は,被告Y1の個人債務の返済に充て
た請負代金額の減額分は,被告Y6の負担のもと,被告Y2に使途を
一任されたものであって,原告に帰属すべき金員ではなかった旨主張
するようであるが,上記認定事実に照らし,そのような主張に理由が
ないのは明らかである。
よって,上記に関し,原告に生じた損害は,7255万円をもって
相当と認める。
(イ)山梨県に対する延滞金等349万9446円
上記延滞金等が,被告Y1,被告Y2及び被告Y3の不法な本件不
正受給行為によって発生したものであることは明らかである。
なお,被告Y1は,運用利益を控除すべきと主張するが,本件不正
受給によっていかなる運用利益が生じ得たかまったく証拠がなく,上
記主張を認めることはできない。
(ウ)上記損害額の合計は,7604万9446円となる。
イ上記のとおり,被告Y1,被告Y2及び被告Y3には,本件補助金の
使用目的や具体的な使用に当たって,当初から意思を通じていたことが
認められ,共同して故意に基づく不法行為を行った結果,原告に上記損
害を負わせた事実が認められる。
したがって,被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,原告に対し,連帯
して上記損害額を支払う義務を負う。
3以上の次第で,原告の請求は,被告Y1,被告Y2及び被告Y3に対し,金
7604万9446円及びこれに対する平成14年11月24日から支払済み
まで年5分の割合遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度で
認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
甲府地方裁判所民事部
裁判長裁判官新堀亮一
裁判官岩井一真
裁判官青木美佳

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