弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を次のとおり変更する。
     第一審被告らは各自
     第一審原告A、Bに対し、それぞれ金二六七万円および内金二四〇万円
に対する昭和四四年五月一日以降、内金七万円に対する昭和四五年一月二七日以降
各完済まで、年五分による金員
     第一審原告Cに対し、金三三九万円および内金三〇五万円に対する昭和
四四年五月一日以降、内金一四万円に対する昭和四五年一月二七日以降、各完済ま
で、年五分による金員
     第一審原告D、Eに対し、それぞれ金三四五万円および内金三二五万円
に対する昭和四四年五月一日以降完済まで、年五分による金員
     を支払わなければならない。
     第一審原告らのその余の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を第一審原告ら、
その余を第一審被告らの各負担とする。
     この判決は第一審原告ら勝訴の部分について、仮に執行することができ
る。
         事    実
 (申立)
 (第一八八号事件)
 第一審原告らは「原判決を次のとおり変更する。第一審被告らは各自第一審原告
A、Bに対し、各金七、二七四、六九〇円および内金六、六二四、六九〇円に対す
る昭和四四年五月一日以降、内金二五〇、〇〇〇円に対する昭和四五年一月二七日
以降各完済まで、各年五分の割合による金員の支払をせよ。第一審被告らは各自第
一審原告Cに対し、金六、一六六、四五三円および内金五、二六六、四五三円に対
する昭和四四年五月一日以降、内金五〇〇、〇〇〇円に対する昭和四五年一月二七
日以降各完済まで、各年五分の割合による金員の支払をせよ。第一審被告らは各自
第一審原告D、Eに対し、各金七、三二二、六二五円および内金六、九二二、六二
五円に対する昭和四四年五月一日以降完済まで、年五分の割合による金員の支払を
せよ。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告らの負担とする。」との判決ならびに
仮執行の宣言を求め、第一審被告らは控訴棄却の判決を求めた。
 (第一四八号事件)
 第一審被告上田交通株式会社は「原判決中第一審被告上田交通株式会社の敗訴部
分を取済す。第一審原告らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原
告らの負担とする。」との判決を求め、第一審原告らは控訴棄却の判決を求めた。
 (第一四九号事件)
 第一審被告国および長野県は「原判決中第一審被告国および長野県の敗訴部分を
取消す。第一審原告らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告ら
の負担とする。」との判決を求め、第一審原告らは控訴棄却の判決を求めた。
 (事実上および法律上の陳述)
 当事者双方の主張は、左に掲げるもののほか原判決事実第二摘示のとおりである
からこれを引用する。
 (第一審原告ら)
 原判決事実第二、一、(三)の「二両連結電車」を「被告上田交通が運行する電
車」と改める。
 同二、(二)本文第三行「被告国」の次に「(同被告は前記国道の管理者である
から、道路法四五条により道路標識を設ける義務があるのに、関係総理府・建設省
令で定められた、踏切の手前五〇メートルから一二〇メートルまでの地点の左側路
端に、「踏切あり」の警戒標識を設けるということをしなかつたため、訴外Fが踏
切の存在に気づかず、加害車と衝突する結果となつたのであるから)」を挿入す
る。
 同二、(三)の本文全部を削り、「被告長野県は前記国道の管理費用負担者とし
て、その余の被告らと共同して損害を賠償すべき義務がある。」を挿入する。
 同三(一)の本文第二行「三分の一であり、」を「三分の一である。」と、同第
五行「亡G」以下「その」までを、「このうち亡Fは母のみを同じくする者である
から、亡Gの」と改める。
 同四の全文を次のとおり改める。「よつて被告らに対し、原告Cは(二)の
(イ)(ロ)(ハ)および(四)、D同Eは口の(ロ)(ハ)、(三)の(ロ)
(ハ)および(四)、A、同Bは(三)の(イ)(ロ)(ハ)および(四)の各金
員ならびに以上のうち(二)の(イ)、(三)の(イ)、(四)を除くその余の金
員について不法行為の日の後である昭和四四年五月一日以降、(二)の(イ)、
(三)の(イ)の金員について本件訴状送達の日の後である昭和四五年一月二七日
以降、各年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。」
 (第一審被告ら)
 原判決事実第二(被告ら)の二第三行「被告国は」以下未尾までを次のように改
める。「被告国および長野県は、同(二)(三)の事実中、本件踏切が国道上に存
すること、被告長野県が国道管理費用の負担者であることおよび本件踏切に警報機
の設置がなく、踏切手前の国道上に原告らの主張する規格の標識の設置もなかつた
ことは認めるが、被告国および長野県に損害賠償責任があることは否認する。」
 同第二の四(一)の本文第二行「知りうる」を「知る」と訂正し、同第一四行
「林立する鉄柱や」の次に「『電車に注意』と書かれた立札、カーブミラー、粁程
標識、」を挿入し、同末尾から四行目「怠つたものと考えられる。」の次に、「も
し同訴外人が以前この道路を通行したことがないならば、ロートマツプを見て踏切
の存在を知るべきであつたのに、同訴外人は当時これすら所持していなかつたので
ある。」を挿入する。
 同四(二)の本文第八行「手前に」を「手前は」と、「義務は」を「場所では」
と訂正し、同第一五行「訴外Fは」以下末尾までを次のように改める。「訴外Fは
過去何回か本件道路を通行して本件踏切の存在を熟知しており、事故当時は自車の
前照燈(上向の場合一〇〇メートル、下向きでも五〇メートルの距離を照射する)
のほか、電車の警笛、その前照燈および車内燈により、少くとも踏切の手前三六・
七メートルの地点では踏切の存在と電車の接近を認識しながら、電車より先に踏切
を渡りうると考えて自車を時速五五キロメートル以上で運転し、踏切直前において
間に合わぬと感じ急制動の処置をとつた時はすでに遅く、衝突するに至つたのであ
る。もし同訴外人が電車発見直後急制動の処置をとつたならば、空走および制動距
離の合計は三六・七メートルに達せず、衝突地点手前約六メートル、最悪の場合で
も約一・三メートルのところで停車し、衡突は避けられた筈であつた。このよう
な、自動車運転上の通常の注意義務すら尽さぬ者に対しては、たとえ警戒標識があ
つたとしてもその効果がなく、その不設置と本件事故との間に因果関係はない。ま
た、かりに同訴外人が本件踏切の存在を知らなかつたとしても、踏切の手前五〇な
いし三〇メートルのところで、進行する道路の左側に交差する舗装道路、カーブミ
ラー、粁程標を認識できるから、これに基いて交差点通過の際の徐行および安全確
認義務を尽していたならば、電車の接近を十分知りえた筈であつて、これを尽さな
かつた同訴外人の過失は重大である。したがつて、かりに被告国および長野県に損
害賠償責任があるとしても、過失相殺されるべきは当然である。
 (証拠)(省略)
         理    由
 一、 原告らの主張する第一項の事実全部と、第二項の事実のうち、本件踏切は
被告上田交通が国道上に設置したもので、警報機の設備がないことおよび本件事故
当時右国道上a方向に、本件踏切の存在を示す道路警戒標識がなかつたことは、い
ずれも当事者間に争いがない。
 二、 そこで、本件踏切およびこれと交差する本件国道の設置または管理に瑕疵
があつたか否かならびにその瑕疵と本件交通事故との因果関係の有無について検討
する。
 原判決理由二の第三行以下第一五行までに列記された証拠と、証人H、I、J、
K(原審、当審)、L、M、Nの各証言および当審における検証の結果によると、
 (一) 本件事故当時における事故現場の状況は、原判決添付図面表示のとおり
である。
 (二) 本件踏切は、昼間であれば国道上a寄り約二二〇メートルの地点から発
見可能である。しかし、夜間自動車の前照燈を下向にした場合は、道路と軌道が同
一平面上にあることに加えて、踏切自体に照明がなく鉄柱、架線、標識等が見えな
いため、約一〇メートル手前でなければ踏切を発見することができない。
 夜間約三七メートル手前(この位置の意味は(七)で説明する)の自動車内で、
軌道上踏切の中心から約一六メートル左手にある電車(原審の検証の際の位置)の
前照燈を照射して踏切を観望した場合でも、踏切付近の電柱の左側面が光つて見え
るだけで、踏切の存在を判然と認識することは困難である。自動車の前照燈を上向
にした場合も、約三七メートル手前においては踏切の軌道は認識できず、踏切付近
の鉄柱が灰色に見えるが、架線は背面の暗い山にかくれて見えず、結局踏切の存否
を識別することはできない。また、進行方向左側に交差する道路があることも、認
識が容易であるとはいえない。
 (三) 原判決理由二(三)の記載を引用する。
 (四) 原判決理由二(四)の記載を引用する。ただし、第二行「それらは約時
速」を「それは時速約」と訂正し、第一一行「被害者が極端に」以下末尾までを削
除して「その際の電車の位置は、踏切の中央から約二二メートルである。」を挿入
する。
 (五) 電車の警笛は、本件踏切付近において、周辺約一キロメートルの範囲て
聴きとることができる。
 (六) 原判決理由二(七)の記載(「いまだに設置されていない。」まで)を
引用する。
 (七) 事故直前において、加害電車の運転手Kは、衝突地点手前約七〇メート
ルにある警笛吹鳴指示標を通過する際、指示どおり警笛を吹鳴し、そのまま約二二
メートル手前の地点まで進行したとき、右方国道上に踏切から約三七メートル付近
を走る被害自動車の前照燈を発見したので、再度警笛を鳴らしたが、自動車が減速
する模様もなかつたため、約一〇メートル進んだ地点で非常警笛を吹鳴するととも
に急制動をかけたが、衝突を避けることができなかつた。当時この電車は前照燈も
車内燈もつけており、外部から見た車窓は明るかつた。
 (八) F、Gの自動車内の遺品中にロードマツプは存在しなかつた。
 以上の事実が認められ、この認定を覆えすに足る証拠はない。なお、Fが本件踏
切の存在を知つていたことを認めるべき確証はなく、これについては原判決理由二
第四段(判決書一五丁表第三行から同裏第一行まで)の記載を引用するほか、「乙
一二号証には、同訴外人に悩みごとがあつたことを推測する趣旨の供述録取がある
が、推測の域を出ないから、その事実を肯認することをえない。」と付加する。
 以上の認定事実によると、原判決理由二の第五段(判決書一五丁裏第二行から第
八行まで)に記載されたとおり(これを引用する)、本件踏切および国道について
は設置または管理の瑕疵があり、その瑕疵が、後述するFの過失とともに(すなわ
ち、踏切の存在を認識させるに足る標識・警報機・照明などが完備していれば、F
が徐行その他の警戒的処置をとつたであろうと考えられる故に)本件事故の原因と
なつたものと認めざるをえない。よつて、右事故による原告らの損害について、本
件踏切設備の所有者たる被告上田交通は民法七一七条一項により、また、右踏切と
交差する本件国道の管理者たる被告国(こまかくいえば、国の機関としての長野県
知事)と、長野県内における右国道管理費用の負担者たる被告長野県は、国家賠償
法二条一項または三条一項により、それぞれその全部の賠償義務を負うべきもので
ある(道路標識を設置しない理由が、長野県の財政事情に基くとしても、被告国お
よび長野県が免責されないことは明らかである)。
 三、次にFの過失の存否について考えるに、上記の認定事実から推論すれば、た
とえ同訴外人が本件踏切の存在自体をあらかじめ知つていなかつたにしても、運転
中前方注視を怠らなかつたならば、電車の前照燈、車内燈、警笛などにより、踏切
手前約三七メートルの地点に達したときまたはその直後(一秒後であつても約二一
ないし二三メートル手前の地点)において、左側から進行してくる電車(その位置
は前記のように踏切の中央から約二二メートル)を発見できたはずである。しかる
に同訴外人は、衝突直前までこれに気づかなかつたのか、または気がついても電車
との衝突は起らないと安易に観測したのか、いずれかの理由により、前記時速を維
持したまま進行した結果衝突を招いたものと推察される。この場合自動車の制動距
離の関係から考えると、同訴外人の電車発見および制動開始がもつと早ければ(ま
たは電車発見直後避譲の処置をとつていたならば)、衝突そのものが回避されたか
あるいは少くとも激突はしなかつたとみることができる。したがつて、同訴外人の
注意義務違反も本件事故の一因といつてよく、その過失の寄与の程度は全体の三割
と判断されるので、同訴外人のうけた損害ならびに同乗者であり被害車の保有者で
あるGの損害は、各三割を過失相殺として減額すべきである。
 四、 当裁判所の算定した原告らの損害額は次のとおりである。
 (一) 被害者Fに関する分
 (イ) 葬儀費用
 原判決理由三(一)(イ)の記載を引用する。ただし、本文第二行「推認に難く
ない」を「原告本人Bの本人尋問の結果(当審)と口頭弁論の全趣旨によつて認め
られる」と改め、第四行「一二万円」を「一四万円」と改め、末尾に「なお、葬儀
を二回行なつたからといつてその総額を請求できるものではないことはいうまでも
ない。」と付加する。
 (ロ) Fの逸失利益
 原判決理由三(一)(ロ)の記載を引用する。ただし、本文第一四行「三〇年
間」は「三三年間」の、第一八行「ライプニツフ」は「ライプニツツ」の、同「3
0」は「33」の各誤記であるから訂正し、第一六行「七〇八万七五七一円」の次
に「(一円に満たない額は切捨)」を挿入し、第二一行「四二六万円」を「四九五
万円」に、末行「一四二万円」を「一六五万円」に改める。
 (ハ) 原告C、同D、同Eの慰藉料
F本人の慰藉料は二一〇万円、右原告ら固有の慰藉料はCが七〇万円、その他の原
告らが各三〇万円と認めるのを相当とする。したがつて、前者の相続分と併せ、原
告Cは一四〇万円、その他の原告らは各一〇〇万円である。
 (二) 被害者Gに関する分
 (イ) 葬儀費用
 原判決理由三(二)(イ)の記載を引用する。ただし、本文第二、三行「弁論の
全趣旨から推察し」を「原告本人Bの本人尋問の結果(当審)と口頭弁論の全趣旨
によつて認め」と改め、第五行「六万円」を「七万円」と改める。
 (ロ) Gの逸失利益
 原判決理由(二)(ロ)の記載を引用する。ただし、本文第四行「原生技官」を
「厚生技官となり、」と改め、第一四行(判決書二〇丁表第三行)「Bは、月収」
とあるのを「Bは本人尋問(原審、当審)において、Gは毎月」と改め、第一五行
「甲第一八号証」の次に「および丙第四号証」を付加する。また、第二三行(二〇
丁裏第一行)「六四二万一八五七円」の次に「(一円に満たない額は切捨てる)」
を付加し、第二九行「兄弟」を「姉または弟」と改める。さらに第三六行(二一丁
表第三行)「三八五万円」を「四五〇万円」と第三七行「二五四万円」を「一八〇
万円」と、第三八行「三八万五〇〇〇円」を「四五万円」と改める。
 (ハ) 原告A、B、D、同Eの慰藉料
 G本人の慰藉料は一五〇万円を相当とする。したがつて、その相続により原告A
およびBは各六〇万円、D、同Eは各一五万円の慰藉料請求権を取得したものと認
める。このほかに右原告らが固有の慰藉料請求をしうる根拠はない。
 (三) 弁護士費用
 原判決理由三(三)の記載を引用する。ただし、本文第四行「原告美枝は」以下
末尾までを削除し、 「原告ら各自について二〇万円が相当である。」を挿入す
る。
 五、 以上説示したとおり、被告らに対し、原告AおよびBはそれぞれ上記四の
うち(二)の(イ)(ロ)(ハ)および(三)の合計二六七万円、原告Cは同四の
うち(一)の(イ)(ロ)(ハ)および(三)の合計三三九万円、原告D、同Eは
それぞれ同四のうち(一)の(ロ)(ハ)、(二)の(ロ)(ハ)および(三)の
合計三四五万円の損害賠償債権を有するから、原告らの本訴請求は、上記各金員
と、このうち(一)(二)の各(ロ)(ハ)について、事故の翌日である昭和四四
年五月一日から、(一)(二)の各(イ)について、葬儀の日の後である昭和四五
年一月二七日から、各完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度
で認容すべきであるが、その余は失当であり、棄却を免れない。
 よつて、右と一部結論を異にする原判決を変更し、訴訟費用の負担について民事
訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言について同法一九六条を各
適用し、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 田嶋重徳 裁判官 吉江清景 裁判官 山田二郎)

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