弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人村田太郎の上告理由第一点について。
 論旨は、原判決には法令の解釈を誤つた違法がある、というにある。しかし、原
判決は、当事者間に争がない事実と挙示の証拠を綜合して、本件株券寄託契約は証
券業者の顧客たる被上告人が証券業者たる上告会社に対し、自己の株券を会社名義
にして寄託した契約であつて、いわゆる名義借契約として、かつて証券業界の一部
に行われていた契約の類型に属するものであるが、この種の契約の趣旨とするとこ
ろは、経済的に受寄者たる証券会社と寄託者たる顧客との間においては、寄託者た
る顧客を寄託株券による株式の株主として取り扱うところにあるものと解せられる
ことと、株券が一般に代替性を有する有価証券であることとをあわせ考えると、受
寄者たる証券会社は、寄託を受けた特定の株券そのものを保管すべき義務を負うこ
となく、寄託者たる顧客の請求のありしだい受取つた株券と同銘柄、同株数の株券
を返還すべき義務を負うに過ぎないものであつて、この点において、民法上の消費
寄託に類する性質を有するものと認めるを相当とする旨、すなわち、本件株券寄託
契約は、民法のいわゆる消費寄託の性質を有する一種の無名契約であり、新株の割
当については、旧株主に対し新株の割当があつた場合に、寄託者たる顧客が新株引
受のために必要な払込金を受寄者たる証券会社に交付したときは、証券会社は直接
増資払込手続をすると否とにかかわりなく、該割当のあつた株数の株券について、
顧客に対して寄託の責に任ずることも、本件株券寄託契約の内容をなすものである
旨、認定判断していることは、原判文上明白である。そして、原判決の右認定判断
は、挙示の証拠関係に照らし、取引通念上これを肯認するに十分である。されば、
本件株券寄託契約は要物契約であるとし、これを前提とする所論は、原判決を正解
せざることに出づる原判決の認定に副わない主張であつて、採用するに由ない。ま
た、引用の大阪証券業協会公正慣習規則の規定は原判決に影響を及ぼすものとは認
めえない。論旨はすべて理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、原判決には理由不備、商慣習違反の違法がある、というにある。しかし、
所論原判決の認定判断は、挙示の証拠に徴し、相当であり、原判決に所論のような
違法を認めることができない。論旨はすべて理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
 裁判長裁判官高橋潔は死亡につき署名押印することができない。
            裁判官    河   村   又   介

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