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平成24年9月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成24年(ネ)第10035号特許権侵害差止等請求控訴事件
原審・東京地方裁判所平成21年(ワ)第17848号
口頭弁論終結日平成24年8月8日
判決
控訴人株式会社AZE
同訴訟代理人弁護士塚原朋一
岡崎士朗
尾関孝彰
鰺坂和浩
同弁理士長谷川芳樹
黒木義樹
同補佐人弁理士城戸博兒
黒川朋也
被控訴人富士フイルム株式会社
被控訴人富士フイルムメディカル株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士吉田和彦
高石秀樹
奥村直樹
小林正和
松野仁彦
同弁理士越柴絵里
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人らは,原判決別紙被告方法目録記載の方法を使用してはならない。
3被控訴人らは,原判決別紙被告製品目録記載の物件を生産してはならない。
4被控訴人らは,原判決別紙被告製品目録記載の物件を譲渡し,又は貸し渡し
てはならない。
5被控訴人らは,原判決別紙被告製品目録記載の物件の譲渡の申出をし,又は
貸渡しの申出をしてはならない。
6被控訴人らは,原判決別紙被告製品目録記載の物件の譲渡の申出のための展
示をし,又は貸渡しの申出のための展示をしてはならない。
7被控訴人らは,原判決別紙被告製品目録記載の物件を廃棄せよ。
8被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して4000万円及びこれに対する平成
21年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
9訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要(略称は,原判決に従う。)
1本件は,被控訴人らが原判決別紙被告製品目録記載の製品(被告製品)を製
造,販売等した行為について,控訴人が,被控訴人らに対し,①被告製品を用いた
医療用可視画像の生成方法(被告方法)は,本件特許権(第4122463号。発
明の名称「医療用可視画像の生成方法」)に係る控訴人の専用実施権を侵害すると
主張して,特許法100条1項に基づき,被告方法の使用の差止めを求め,②被告
製品は,本件各発明による課題の解決に不可欠なものであり,被控訴人らは,いず
れも,被告製品が本件各発明の実施に用いられることを知りながら,業として,上
記製造,販売等の行為に及んでいるから,本件特許権を侵害するものとみなされる
(特許法101条5号)と主張して,同法100条1項,2項に基づき,被告製品
の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,③控訴人は,本件特許権の特
許権者から,被控訴人らに対する平成21年4月28日までの特許権侵害による不
法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条,特許法102条1項)を譲り受け
たと主張して,連帯して,上記損害金合計4000万円及びこれに対する平成21
年7月7日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求める事案である。
2原判決は,被告方法が本件各発明の技術的範囲に属さないとして,控訴人の
請求をいずれも棄却したため,控訴人がこれを不服として控訴した。
3前提となる事実は,原判決の事実及び理由第2の1(原判決3頁8行目~6
頁13行目)のとおりであるから,これを引用する。
4争点
(1)技術的範囲への属否
ア被告方法は構成要件1-Aを文言上充足するか。
イ被告方法は構成要件1-Bを文言上充足し,又は均等か。
ウ被告方法は構成要件1-Cを文言上充足し,又は均等か。
エ被告方法は本件発明2の技術的範囲に属するか。
(2)間接侵害(特許法101条5号)の成否
ア被告製品は,本件各発明による課題の解決に不可欠なものに該当するか。
イ被控訴人らの主観的要件の有無
(3)直接侵害の成否
(4)特許無効の抗弁の成否
ア本件特許が冒認出願に当たり,かつ,共同出願要件に違反するものか。
イ本件各発明は公然実施されたものか。
ウ本件特許が進歩性欠如の無効理由を有するか。
(5)損害賠償請求の可否及び損害額
第3当事者の主張
1原判決の引用
原審における当事者の主張は,以下のとおり訂正するほか,原判決の事実及び理
由の第3(原判決7頁7行目~74頁1行目)のとおりであるから,これを引用す
る。
(1)原判決9頁3行目,5行目,7行目,9行目,20頁24行目,21頁8
行目及び23頁7行目の「本件特許発明1」を「本件発明1」と改める。
(2)原判決12頁8行目,14頁7行目,10行目,15頁8行目,44頁2
3行目及び25行目の「および」を「及び」と改める。
(3)原判決19頁25行目の「(ア)」を「ア」と改める。
(4)原判決20頁9行目の「すべて」を「全て」と改める。
(5)原判決29頁21行目の「本件特許発明出願」を「本件特許出願」と改め
る。
(6)原判決43頁1行目及び73頁10行目の「被告」を「被控訴人ら」と改
める。
(7)原判決46頁23行目の「被告プログラム」を「被告ソフトウェア」と改
める。
(8)原判決47頁9行目の「本件各特許発明」を「本件各発明」と改める。
(9)原判決47頁14行目の「本件各発明」を「本件特許権」と改める。
(10)原判決47頁24行目,26行目,48頁1行目及び6行目の「本件特許
侵害」を「本件特許権の侵害」と改める。
(11)原判決48頁9行目の「本件特許」を「本件特許権」と改める。
(12)原判決48頁11行目及び16行目の「本件各特許発明」を「本件特許
権」と改める。
(13)原判決50頁8行目,52頁16行目,62頁21行目,64頁22行目,
66頁18行目及び68頁6行目の「無効とされるべき」を「無効にされるべき」
と改める。
(14)原判決62頁21行目及び64頁22行目の「無効審判」を「特許無効審
判」と改める。
(15)原判決70頁8行目の「必用」を「必要」と改める。
2当審における当事者の主張
〔控訴人の主張〕
(1)構成要件1-Bの充足性(争点(1)イ)について
ア間引き演算
当業者の技術常識に基づき,本件明細書(【0006】【0007】【002
5】)の記載から読み取れることは,従来,データを間引いて,すなわち一定の間
引き率(samplingrate)で演算対象データと次の演算対象データとの間のデータ
(間引き対象データ)を除いて,演算することにより可視化面(二次元平面)上に
生成される医療用可視画像の品質を犠牲にして演算を高速化させていたところ,本
件各発明は,医療用可視画像の品質が損なわれて相異なる生体組織を明確に区別で
きなくなるのを避けるために,データを間引かないで演算するものである。
イ早期光線終結
早期光線終結(earlyraytermination)と呼ばれる合成関数の計算の終結を定義す
ることは,本件特許出願時以前からアルファブレンドの常用技術であった。むしろ,
このような意味のない計算を省略する必要性は,コンピュータの演算処理能力が発
達していなかった本件特許出願時以前の方が高かった。
早期光線終結は,光線が視覚に寄与する強度を持っている視線上でボクセルデー
タを間引きするものではなく,光線が届かない可視領域外での意味のない計算を省
略するものである。早期光線終結がされても,不透明性と視覚に寄与するだけの光
線強度が存在する視線上の全てのボクセルの色度が,当該ボクセルにおける光線の
強度及び不透明度で重み付けされて可視化面上のピクセルに反映される以上,可視
化面上に生成される可視画像に影響を与えない。
本件各発明において,色度及び不透明度は,観察目的に応じて設定されるもので
あり,当然,観察対象である生体組織にまで光線が届き,かつ生体組織に対応する
ボリューム値に比較的高い不透明度が割り当てられるように,不透明度が設定され
る。したがって,早期光線終結が実行されても,光線が観察対象である生体組織に
届く前に光線が終結することはなく,光線は観察対象である生体組織を通過した後
に強度を失い終結する。そのため,早期光線終結が本件各発明の技術的意義(生体
組織間の微妙な色感や不透明感を表現しつつ,相異なる生体組織を明確に区別し得
る可視画像を生成すること)を損なうことはない。
よって,早期光線終結が実行されることにより視線の延長線上のボクセルのデー
タ値についての積算処理がされなくても,視覚に寄与するだけの光線強度が存在す
る範囲内の目視方向の線である視線の上に位置する全てのボクセルの色度が,当該
ボクセルにおける光線の強度と不透明度で重み付けされて当該視線が通過する可視
化面上のピクセルに反映される以上,被告製品は構成要件1-Bを充足する。
ウ被告製品の計算式
原判決が認定した被告製品におけるアルファブレンドの計算式における計算終結
の定義は,まさに,ボリュームレンダリングにおける早期光線終結の条件である。
エ早期光線終結をするか否かは数学的に実質的相違点を形成しないこと
早期光線終結は,不可視領域(不透明度の高い生体組織に当たることにより光線
の強度がゼロ又は視覚に寄与しない程度にまで減衰した領域)における光線の強度
をゼロに近似させる計算方法である。ゼロの積算をした上加算する計算をするかし
ないかは数学的な違いをもたらさない。すなわち,早期光線終結をした計算は,早
期光線終結をしない計算と,数学的に等価である。
被告製品におけるアルファブレンドの計算は,本件明細書(【0017】)に示
される実施形態に係るアルファブレンドの計算と同一であり,早期光線終結をしな
い当該計算と,数学的に等価である。
オ均等論
仮に被告製品で仮想される視線中で早期光線終結されるものがあるため,被告製
品を使用した医療用可視画像生成方法が構成要件1-Bを文言上侵害しないとして
も,早期光線終結されることは本件各発明の均等の範囲内である。
(ア)早期光線終結をするか否かは本質的事項でない。本質的事項は,視覚に寄
与するボクセル値を間引きせずに全て可視化面のピクセル値に反映させ,生体組織
間の微妙な色感や不透明感を表現しつつ,相異なる生体組織を明確に区別し得る可
視画像を生成することである。
(イ)早期光線終結は,視覚に寄与しない程度にまで光線の強度が減衰した後の
意味のない計算を省略するものであるから,可視化面上に形成される医療用可視画
像の画質に影響を与えない。そのため,本件各発明の作用効果である生体組織間の
微妙な色感や不透明感を表現しつつ,相異なる生体組織を明確に区別し得る可視画
像を生成することに相違が生じない。
(ウ)早期光線終結は,遅くとも被告製品発売時点(平成20年7月7日)で,
周知であり(甲45),アルファブレンドの常用技術であった。そもそも,早期光
線終結するか否かは計算の仕方の問題にすぎず,置換容易性の問題も発生しない。
(エ)被告製品は,視点を始点として可視化面の各ピクセルを通過する視線を仮
想して当該視線上のボクセル値に対応する色度及び不透明度を可視化面の対応する
ピクセルに反映し,かつ補間区間において色度に加えて不透明度を連続的に変化さ
せる本件各発明の技術的特徴を備えることから,公知技術と同一でない。
(オ)出願人は,視覚に寄与する強度を持った光線で照射された物質が発する反
射光に相対する視線が通過するボクセル値を間引きすることなく可視化面上のピク
セル値に反映することを意図していたのであり,早期光線終結を意識して除外して
いない。
以上のとおり,被告製品で仮想される視線について早期光線終結がされても,数
学的に早期光線終結されない場合と等価であり,被告製品を用いた医療用可視画像
の生成は,明らかに本件各発明の均等の範囲内である。
(2)構成要件1-Cの充足性(争点(1)ウ)について
ア本件明細書の実施形態は,本件各発明の実施の形態の一例にすぎないこと
微妙な色の変化に関し,人間の眼では色度の僅かな変化を認識するのは困難であ
る一方,人間は不透明度の変化によって表わされる色の濃淡の僅かな変化を把握す
ることができる。そのため,不透明度が連続的に変化するCT値領域が色混合領域
と完全に一致しなければ本件各発明の技術的意義(生体組織間の微妙な色感や不透
明感を表現しつつ,相異なる生体組織を明確に区別し得る可視画像を生成するこ
と)を達成できないとする原判決の判断は誤りである。むしろ,色混合領域外でも
不透明度が連続的に変化した方が,生成される可視画像における微妙な色の変化を
表現でき,相異なる生体組織を明確に区別する上で好適である。特に,本件明細書
に記載された実施形態でも被告製品でも色度の補間は鮮明度の調整により一律に決
められるのに対し,不透明度は,観察対象である生体組織が明瞭に可視画像に表わ
れるように,当該生体組織並びにその周囲及び前方にある生体組織に該当する小区
間(色境界領域)毎に微調整される(【0020】~【0022】【図3】)。
本件明細書(【図2】)は,図示的説明を簡略にするために,一例として,不透
明度が連続的に変化する領域の寸法を色混合領域の寸法と略同一にしたにすぎない
(【0013】)。したがって,上記図面の寸法のみから,本件各発明の技術的範
囲を,不透明度が連続的に変化する領域が一切色混合領域の外側に及ばない態様に
減縮する論理的根拠はない。
よって,本件各発明の技術的意義を達成するために不透明度が連続的に変化する
領域が色混合領域と完全に一致しなければならないという論理は成り立たないこと,
及び本件明細書に不透明度が連続的に変化する領域が色混合領域の外側にも及ぶ実
施例が示されていることから,不透明度が連続的に変化する領域と色混合領域とが
完全に一致するとされる実施例のみに着目して本件各発明の技術的範囲をその具体
的態様に減縮した原判決の判断は,明らかに誤りである。
イ原判決の認定の技術的誤り
(ア)原判決は,本件明細書に記載された実施形態において不透明度が連続的に
変化する領域と色混合領域とが完全に一致すると認定した。原判決がこのような認
定をした根拠は,【図2】に示される実施形態において,鮮明度が0.8の場合に,
図面の寸法から,不透明度が連続的に変化する開始点を色混合領域の左端と認定し,
不透明度が連続的に変化する終了点を色混合領域の右端と認定したことが根拠と思
われる。しかしながら,特許実務において,明細書に添付される図面は,図示的に
分かりやすく説明することを目的に作成されるものであり,正確な寸法・比率を体
現するものでないと理解するのが常識であり,図面の寸法を根拠に特許発明の技術
的範囲を減縮するのは不当である。本件明細書の実施形態の記載では,鮮明度0の
場合と,鮮明度0.8の場合しか示されておらず,これを根拠に,0.0<鮮明度
<0.8,0.8<鮮明度≦1.0の任意の値に鮮明度が設定されたときにも不透
明度が連続的に変化する領域が色混合領域と完全に一致すると断定することはでき
ない。
(イ)原判決は,不透明度も,色混合領域(補間区間B)において,色度と同様
に線形的に補間されていると認定したが,この認定は明らかに誤りである。
本件明細書【図2】のヒストグラムにおける不透明度の補間関数の形状によると,
不透明度が線形補間されているかのように見えるが,実際には,【0021】【図
4】に示す補正関数が適用されており,不透明度は非線形的に補間されている。
(ウ)また,本件明細書に記載された実施形態では,不透明度線が【0021】
に記載された補正関数によって補正されることに加えて,ユーザーがペンタッチ操
作により不透明度線を変化させる(【0020】)。
本件明細書に記載された実施形態では,ペンタッチ操作により不透明度線の形状
が任意に変化し得るのであり,原判決が依拠する実施形態中の鮮明度0及び鮮明度
0.8の場合でも不透明度が連続的に変化する領域が色混合領域と完全に一致する
わけではない。
(エ)以上のとおり,原判決が,本件明細書に記載された実施形態において不透
明度が連続的に変化する領域と色混合領域とが完全に一致すると認定したこと,及
び不透明度も色混合領域で線形的に補間されると認定したことは,明確な技術的誤
りである。
ウ被告製品における色混合
被告製品において色混合率が0.00に設定されると,隣り合う小区間(色境界
領域)の間で相互の色の混合が全くない状態になり,本件明細書の実施形態におい
て鮮明度が0.00に設定された場合と同じ色度の補間態様になる(乙3)。
また,被告製品において色混合率が1.00に設定されると,隣り合う小区間
(色境界領域)の間で色境界線から色境界領域の中央までの全体にわたって色が混
合された状態になり,本件明細書の実施形態において鮮明度が1.00に設定され
た場合と同じ色度の補間態様になる(乙3)。
そして,色混合率を0.00から1.00に向かって上げていくと,色混合の度
合いが,色混合率0.00の状態から色混合率1.00の状態に向かって徐々に強
くなっていくことが明らかである。
エ被告製品における不透明度の補間
被告製品において,不透明度は,不透明度補間モード1ないし6のいずれかによ
って補間されることが明らかになっている(乙3)。
すなわち,制御点モードでは色境界領域の中央での不透明度が「該小区間(色境
界領域)において設定される不透明度」(ユーザーが当該色境界領域において所望
する基準不透明度)に該当する。例えば,ユーザーが心臓及び心臓周囲の血管を観
察するために被告製品を使用する場合において心臓を赤,血管を青で表示すること
にしたとき,ユーザーは,心臓に該当する色境界領域の基準色を赤にし,基準不透
明度を比較的高い値に設定し,他方,血管に該当する色境界領域の基準色を青にし,
基準不透明度を比較的に高いが心臓の不透明度よりは低い値に設定し,骨等の視界
を遮る組織の不透明度は低い値に設定する。
不透明度が観察対象である各生体組織に対応する色境界領域の全てにおいて同一
であると的確な医療用可視画像を生成できないのは明らかである。したがって,2
点制御点モード及び4点制御点モードでは必然的に色境界領域をまたいで不透明度
が連続的に変化することになる。
被告製品のいずれの不透明度補間モードにおいても,不透明度は色境界領域の全
領域において連続的に変化する。
オ被告製品の構成要件1-C充足性
被告製品では色度の補間区間である色混合領域において必ず不透明度が連続的に
変化している。色混合率が小さい値のときには,色境界領域の中央付近では実質的
に色度の補間がなされていない(色混合されていない)と考えられるが,当該箇所
で不透明度が補間されることによって,本件各発明の技術的意義が損なわれる理由
は何ら存在しない。
よって,被告製品では,色度及び不透明度が,「補間区間」(色混合領域)にお
いて画像データ値(ボクセル値)の大きさに応じて連続的に変化(色混合,不透明
度の補間)されることから,構成要件1-Cを充足する。
カかつて控訴人の技術スタッフであり,現在は被控訴人富士フイルム株式会社
の従業員であるAの陳述書(乙39)は,秘密保持義務に違反する違法収集証拠で
あり,却下を免れない。
(3)間接侵害の成否(争点(2))について
ア被告製品は,構成要件1-Aを充足し,生体組織を観察するための医療用可
視画像の生成に使用されるとき(被告製品の用途には争いがない。),上記のとお
り構成要件1-B及び1-Cを充足して本件各発明の課題(放射線医療診断システ
ムにより断層撮影して得られた画像データ値に基づき,生体組織間の微妙な色感や
不透明感を表現しつつ,相異なる生体組織を明確に区別することが可能な可視画像
を生成し得る医療用可視画像の生成方法を提供する。)を解決する。したがって,
被告製品は「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当する。
イ被告製品は,本件特許出願当時の控訴人の役員であり,かつ控訴人のファイ
ル保存サーバーのデータを破壊すると共に控訴人の本件各発明の実施品のソースコ
ードを複製した被控訴人富士フイルム株式会社技術開発部長の指揮下で,控訴人の
役員・従業員であった同被控訴人の従業員数名により,開発されたものであり,そ
の構成が控訴人の本件各発明の実施品に極めて類似したものであるから,被控訴人
らは,被告製品について,特許法101条5号の主観的要件を充足する。
ウよって,被控訴人らによる被告製品の製造及び譲渡について,特許法101
条5号所定の間接侵害が成立する。
〔被控訴人らの主張〕
(1)構成要件1-Bの充足性(争点(1)イ)について
ア請求項の文言の自然な解釈
「全ての」という文言は,一般に「ことごとく。みな。全部」との意味を有する
文言である。したがって,発明の詳細な説明において特に異なる定義がされている
等の特別な事情が存しない限り,構成要件1-Bは,空間座標点毎の色度及び不透
明度を視線毎に「全部」積算することを規定していると解釈される。
イ本件明細書における発明の詳細な説明
発明の詳細な説明の記載(【0006】~【0008】【0016】【001
7】【0025】)によれば,本件各発明は,「生体組織間の微妙な色感や不透明
感を表現することができなかった」という従来技術の問題点を,「全ての」空間座
標点毎の色度及び不透明度を互いに積算するという構成を採用することで実現した
発明であるから,本件各発明の技術的特徴ないし本質的部分とは,積算処理におい
て視線上のボクセルに関するデータの一部を積算対象から除くことなく,全てのボ
クセルデータにつき積算処理を行うことにあるというべきである。
したがって,技術的見地から検討しても,本件各発明の技術的意義ないし本質的
部分,すなわち本件発明が従来技術の問題点を解決するために採用した構成要素と
は,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現するために,計算速度を犠牲にして
でも「全ての」空間座標点毎の色度及び不透明度を互いに積算したことである。よ
って,請求項における「全ての」という文言の意義は,「ことごとく。みな。全
部」を指すものと解すべきであるということとなるものであり,「全ての…積算
し」という文言の意義は,視線上のボクセルデータのうち積算処理から除くものが
存在しないことを意味するものと解される。
上記解釈は,本件発明1の実施例において開示された数式(【0017】)が,
視線上の全ボクセルの色度及び不透明度を積算の対象とするものであって,本件明
細書中にこれに反する開示が一切存在しないこととも整合する。
ウ被告方法
被告方法は,数式1の積算処理に関し,数式2による閾値を設定しており,数式
1の積算処理は数式2で設定された閾値に達した時点で打ち切られるから,上記計
算打ち切り処理により,視線上のボクセルデータ中に積算処理の対象とされないも
のが存在する。
したがって,被告方法は,「全ての」空間座標点毎の色度及び不透明度を該視線
毎に互いに積算するものに当たらないから,構成要件1-Bを文言上充足しない。
エ控訴人の主張について
(ア)間引き演算について
本件明細書中の発明の詳細な説明から理解される本件各発明は,控訴人の言葉を
一部借りれば,従来技術がデータを間引いて演算の高速化を図っていたのに対し,
本件各発明は,医療用可視画像の品質が損なわれて相異なる生体組織を明確に区別
できなくなるのを避けるために,「全ての」空間座標点毎の色度及び不透明度を互
いに積算するという構成を採用したものである。そして,早期光線終結は,従来技
術の一つである(乙39)。
このように,従来技術が空間座標点毎の色度及び不透明度の一部を計算から除外
することで演算の高速化を図っていたのに対し,本件各発明は,生体組織間の微妙
な色感や不透明感を表現することを目的として,一部を計算から除外せずに,「全
ての」空間座標点毎の色度及び不透明度を積算する構成を採用したことを技術的特
徴ないし本質的意義とするものであるから,従来技術が文字どおり間のデータの演
算を省略したかどうかは無関係である。
(イ)早期光線終結について
早期光線終結をしてもしなくても数学的に等価であるという主張は,事実に反す
る。早期光線終結は,閾値以下の光線の強度をゼロに近似することにより,「画質
に対して悪い影響を与え」るという犠牲を甘受する代わりに,計算速度を高速化す
るという技術思想に基づくものであるから,早期光線終結は計算結果に影響を与え
るものである(乙39)。
エ均等論について
被告方法は,少なくとも均等論の第1要件及び第5要件を充足しない。
(ア)第1要件の非充足
被告方法が本件各発明と技術思想を異にする場合は,均等の第1要件を欠くこと
になるところ,本件各発明の技術的意義ないし本質的部分,すなわち本件各発明が
先行技術の問題点を解決するために採用した構成要素とは,生体組織間の微妙な色
感や不透明感を表現するために,計算速度を犠牲にしてでも,「全ての」空間座標
点毎の色度及び不透明度を互いに積算したことである。
これに対し,被告方法の技術思想は正反対であり,計算速度を優先するために,
視線上の全ての平面座標点(サンプリング点)を計算する場合に比べると画質に対
して悪い影響を与えても,本来計算するべき対象の計算の一部を省略する早期光線
終結を採用したものである。
したがって,被告方法と本件各発明とは,そもそも解決しようとする課題,技術
思想が正反対であるから,均等の第1要件(本質的部分)を欠くものである。
そもそも,特許法が,発明の出願による公開と引換えに特許権を付与する仕組み
を採用していることからすれば,均等の範囲に及んで特許権としての保護を受ける
ためには,当然,その本質的部分とされるべき技術的思想が明細書に開示されてい
なければならないことはもとより明らかなことであるところ,本件明細書には「視
覚に寄与するボクセル値」と「視覚に寄与しないボクセル値」を区別して,前者の
みを積算するなどという技術思想は一切開示されていない。
(イ)第5要件の非充足
本件明細書によれば,従来技術が空間座標点毎の色度及び不透明度の一部を計算
から除外することで演算の高速化を図っていたのに対し,本件各発明は,生体組織
間の微妙な色感や不透明感を表現することを目的として,一部を計算から除外せず
に,「全ての」空間座標点毎の色度及び不透明度を積算する構成を採用したことを
技術的特徴ないし本質的意義とするものであるから,従来技術が文字どおり間のデ
ータの演算を省略したかどうかは無関係である。
仮に控訴人がいうように「間引いて」の反対語が「間引かずに」ということであ
れば,出願人である控訴人は特許請求の範囲に「間引かずに」と記載することが容
易にできたにもかかわらず,特許請求の範囲には,あえてこれを「全て」に限定す
る記載をしたものであるから,客観的に判断して,意識的に「全て」に限定したも
のと解される。
(2)構成要件1-Cの充足性(争点(1)ウ)について
ア請求項の文言の自然な解釈
構成要件1-Cの文言によれば,「補間区間」とは,小区間内に設定される区間
であり,同区間内において色度及び不透明度を画像データ値の大きさに応じて連続
的に変化させる区間であると解釈される。
そして,「色度および…不透明度を,…補間区間において…画像データ値の大き
さに応じて連続的に変化させる」という文言を自然に解釈すると,「色度の補間区
間」と「不透明度の補間区間」とはその範囲が合致するものであり,「色度」及び
「不透明度」が「補間区間において」画像データ値の大きさに応じて連続的に変化
することが発明として特定されていると解される。よって,「色度」又は「不透明
度」の一方のみが画像データ値の大きさに応じて連続的に変化する領域が存在する
場合は,構成要件1-Cを充足しない。
すなわち,「色度の補間区間」と「不透明度の補間区間」とは,その範囲が合致
するものであるところ,両者の補間区間の範囲がずれていると,両端の小区間にお
いて,「色度」と「不透明度」の一方が連続的に変化するにもかかわらず他方が一
定値を取る範囲が存在することとなり,当該範囲においては「色度」又は「不透明
度」のみが画像データ値の大きさに応じて連続的に変化するにすぎないから,構成
要件1-Cを充足しないものである。
イ発明の詳細な説明
本件明細書における発明の詳細な説明には,①小区間内で一定値をとる基準色度
及び基準不透明度を設定し,②色度関数(CT値と色度との関係を定めたものであ
り,かつ,基準色度相互を線形的に補間するもの)及び不透明度関数(CT値と不
透明度との関係を定めたものであり,かつ,基準不透明度相互を線形的に補間する
もの)をそれぞれ設定し,③小区間内において補間の対象となる区間(対象区間)
を決め,さらに,対象区間の幅に乗ずる0~1の値をとる数値(鮮明度)を設定す
ることで,対象区間内において補間を行う区間(補間区間)を決め,同区間内で上
記色度関数及び不透明度関数を適用することで線形補間を行うことが各記載されて
いるものであって,上記③のとおり設定された補間区間において色度関数及び不透
明度関数を適用し,基準色度相互及び基準不透明度相互をそれぞれ線形的に補間す
ることが,「色度および不透明度を,…画像データ値の大きさに応じて連続的に変
化させる」ことの具体例として示されている(【0013】~【0015】)。
また,基準色度相互又は基準不透明度相互をそれぞれ線形的に補間する比例関数
が設定された場合を示した【図2】によれば,上記線形補間の結果,従前,色度に
関しては,境界線Lを境に基準色度(C1,C2)相互が截然と分かれていたもの
が,CT値を横軸とするグラフ上で,C1からC2へ徐々に色合いが変化する状態
となり,また,不透明度に関しては,従前,境界線Lを境にして基準不透明度が,
D1(0)とD2(1)に分かれる階段状の形状をとっていたものが,CT値を横
軸とするグラフ上で,D1(0)からD2(1)へ数値が徐々に変化する状態とな
っていることを看取することができる。
これに加えて,本件各発明は,従来,ボリュームレンダリング処理のための各ボ
クセルへの色度及び不透明度の設定を,各小区間内で一定値をとる色度及び不透明
度を設定する方法によっていたことによる問題点を(【0004】【0005】),
構成要件1-Cに係る方法によることにより解決したものであるところ,本件明細
書によれば,従来技術は「各小区間の境界において段階的に色度および不透明度を
変化させ」るものであるので(【0018】),構成要件1-Cの「連続的に変化
させる」との文言は,上記の「段階的」変化と対置して解釈されるべきものと解さ
れる。
上記「段階的に色度および不透明度を変化」させる場合の具体例として,【図
3】【図5】【図6】のとおり,色度に関しては境界線Lを境に基準色度(C1,
C2)相互が截然と分かれた状態,不透明度に関しては境界線Lを境にして,基準
不透明度が,D1(0)とD2(1)に階段状に分かれた状態が各示されている。
以上によれば,「色度および不透明度を,…画像データ値の大きさに応じて連続
的に変化させる」とは,小区間内に設定された補間区間内で,小区間相互で相異な
る値をとる色度及び不透明度につき,相互を線形的に補間する色度関数・不透明度
関数を適用することにより,色度及び不透明度がそれぞれ一定値をとることなく,
画像データ値の大きさに応じてその数値が徐々に変化する状態となることを意味す
る。
ウそうすると,「前記小区間内に補間区間を設定し」とは,小区間内において,
色度及び不透明度がいずれも一定値をとることなく,画像データ値の大きさに応じ
てその数値が徐々に変化する状態となる区間を設けることを意味するものと解すべ
きこととなる。
ここで,「小区間」は色度及び不透明度が一定値をとる区間を意味するという構
成要件1-Aに関する原判決を前提とすれば,「補間区間」においては,色度及び
不透明度が上記のとおり一定値をとることなく連続的に変化するものと解されるの
であるから,色度及び不透明度が一定値をとらず,その数値が徐々に変化する状態
となる区間(補間区間)は色度及び不透明度につき共通のものであり,「補間区
間」外では色度及び不透明度はいずれも一定値をとるものと解される。
換言すれば,「色度の補間区間」と「不透明度の補間区間」の範囲がずれており,
両端の小区間において,色度又は不透明度のいずれか一方のみが徐々に変化する区
間が存在する場合には,「前記小区間内に補間区間を設定し,該小区間内において
設定される前記色度および前記不透明度を,該補間区間において前記画像データ値
の大きさに応じて連続的に変化させる」を充足しない。
エ被告方法
被告方法は,「色混合率」を1.00未満に設定すると,色境界領域内に色混合
が生じない領域が残るから,「補間区間」において「色度及び不透明度」が一定値
をとる領域が存在することとなり,構成要件1-Cを充足しない。
また,被告方法は,「色混合率」を1.00に設定した場合であっても,色混合
が生じている区間と不透明度が徐々に変化する区間は一致せず,構成要件1-Cを
充足しない。
オ控訴人の主張について
(ア)控訴人は,【0013】【0017】において図2が「例」であると主張
するが,同実施例が「例」であるとしても,これが本件発明1を示す実施例である
ことには変わりはないから,同実施例を参照して本件発明1の技術的範囲を検討す
ることに何ら問題はない。
控訴人の指摘する記載(【0020】~【0023】)は,請求項2に係る発明
を説明したものであり,構成要件1-Cの解釈に直結するものではない。
また,控訴人は,不透明度が連続的に変化するCT値領域が色混合領域と完全に
一致しなければ本件発明1の技術的意義を達成できないとする原判決の判断は誤り
であると主張しているが,その主張は,特許請求の範囲の文言を無視して,単に技
術的意義が同じであれば特許権侵害になるという暴論であり,特許法70条1項,
2項に基づかないものである。
(イ)控訴人は,本件明細書の図3は「色混合領域の外側でも不透明度が連続的
に変化している」と主張するが,特許実務において明細書に添付される図面は,図
示的にわかりやすく説明することを目的に作成されるものであり,正確な寸法・比
率を体現するものではないと理解するのが常識であり,図面の寸法を根拠として特
許発明の技術的範囲を議論することは意味がないし,事実に反する。
(ウ)控訴人は,不透明度が連続的に変化する領域を変更すれば,色度が連続的
に変化する領域と不透明度が連続的に変化する領域とが異なるように操作可能であ
るから,構成要件1-Cを両者が一致すると解釈すべきでないと主張するが,理由
がない。
「関数曲線をペンタッチ等により変化させ」るとは,「0~1の範囲の値をとる
不透明度」の値を表示する関数を変化させることが記載されているのであって,控
訴人が主張するように,不透明度が連続的に変化する領域を変更することは,本件
明細書には一切記載されていない。
したがって,不透明度が連続的に変化する領域をペンタッチ等により変更すると
いう操作は,構成要件1-Cの解釈とは無関係であり,これをなし得る装置が存在
するとすれば,当該装置は本件発明1とは別の操作を行う機能を有しているにすぎ
ないものである。
(3)間接侵害の成否(争点(2))について
被告方法は,構成要件1-B及び1-Cを充足しないから,被告製品の製造・販
売行為が本件特許権の間接侵害となる余地はない。
なお,控訴人の役員であった者で,被控訴人富士フイルムの技術開発部長に就任
した者は存在しないし,同社には,控訴人のファイル保存サーバーのデータを破壊
した者も控訴人の本件各発明の実施品のソースコードを複製した者も存在しない。
第4当裁判所の判断
1本件各発明について
(1)本件明細書には,概要,以下の記載がある(乙2)。
ア発明の属する技術分野
本発明は,CT(computedtomography),MRI(magneticresonanceimaging),
核医学,CR(computedradiography),DSA(digitalsubtractionangiography),
DR(real-timeradiography)等の放射線診断システムを用いて断層撮影された医療
用画像から得られたCT値等の画像データ値に基づき,肝臓,膵臓などの臓器や血
管及び腫瘍等の複数種の生体組織を含む腹部や頭部等の被観察領域の可視画像を,
CG(computergraphics)処理等を用いて生成する医療用可視画像の生成方法に関
するものである(【0001】)。
イ従来の技術
近年,腹部等の被観察領域をCT等の放射線医療診断システムにより断層撮影し
て得られた医療用画像から,被観察領域を見やすく可視化した可視画像を生成して,
この可視画像を対患者や学術用としての説明に使用したり,手術計画を立てたりす
るなどの様々な目的で使用したいという需要が高まっている(【0002】)。
従来,CG処理により,このような可視画像を生成するための手法として,ボリ
ュームレンダリング(volumerendering)法と称される手法が知られている。この
ボリュームレンダリング法を用いた医療用可視画像の生成方法では,まず,断層撮
影領域に対応した三次元空間の各空間座標点を構成するボクセルを用いて,被観察
領域を断層撮影して得られたCT値等の画像データ値の空間分布を表す。次に,投
影用の二次元平面の各平面座標点を構成する画素(ピクセル)と視点(投影中心)
とを結ぶ視線を想定し,各視線上に位置する各ボクセルの画像データ値に基づき,
ボクセル毎にその色度(どのような色を持たせるかの度合)及び不透明度(どの程
度透けて見えるかの度合)を決める。そして,各視線上に位置する各ボクセルに対
して決められた色度及び不透明度を視線毎に互いに積算し,この積算値を各視線上
に位置する二次元平面の画素に反映させて,被観察領域の二次元可視画像を生成す
る(【0003】)。
ウ発明が解決しようとする課題
ところで,上述した従来の医療用可視画像の生成方法では,断層撮影により得ら
れた画像データ値が,生体組織毎に特有の分布状態を有することを利用して,得ら
れた全画像データ値の分布(ヒストグラム)に基づき,画像データ値の値域を複数
の小区間に分割し,各小区間内の画像データ値を有する各空間座標点に対して小区
間毎に,各小区間内で一定の値をとる一定値の色度及び不透明度を設定していた
(【0004】)。
しかし,このような色度及び不透明度の設定方法には,次のような問題がある。
すなわち,図5(A)に示す骨と軟組織のように,画像データ値(CT値)の差が
互いに大きい生体組織間の場合には,CT値の違いによって両者を完全に分割する
ことができるので,同図(B)に示すように,各小区間毎に一定値の色度及び不透
明度を設定しても,両組織の違いを認識できるような可視化が可能であるが,図6
(A)に示す軟組織と血管のように,CT値の差が互いに小さい生体組織間の場合
は,CT値の違いによって両者を完全に分別することができない。このため,例え
ば同図(B)に示すように,両者の分布が互いに重なる位置において両者を分別す
るような小区間を設定した上で,各小区間にそれぞれ一定値の色度及び不透明度を
設定していたが,このような方法では両組織の違いを明確に認識できるような可視
化が困難であった(【0005】)。
従来方法では,各視線上に位置するボクセル毎の色度及び不透明度を互いに積算
する演算過程の高速化を図るため,一部のボクセルに関するデータを間引いて演算
を行っていた。このため,可視化した画像において,生体組織間の微妙な色感や不
透明感を表現することができなかった(【0006】)。
本発明は,このような事情に鑑みてなされたものであり,放射線医療診断システ
ムにより断層撮影して得られた画像データ値に基づき,生体組織間の微妙な色感や
不透明感を表現しつつ,相異なる生体組織を明確に区別することが可能な可視画像
を生成し得る医療用可視画像の生成方法を提供することを目的とする(【000
7】)。
上記課題を解決するため,本発明の医療用可視画像の生成方法は,前記二次元平
面上の各平面座標点と視点とを結ぶ各視線上に位置する全ての前記平面座標点毎の
前記色度及び前記不透明度を該視線毎に互いに積算し,該積算値を該各視線上の前
記平面座標点に反映させることを特徴とするものである(【0008】)。
上記生体組織とは,肝臓,肺等の内容や,心臓,血管等の循環器,脳等の神経系
などの動物の器官,骨組織及び腫瘍等の病変部等を指す(【0009】)。
エ発明の実施の形態
(ア)図1は本発明の一実施形態に係る医療用可視画像の生成方法における画像
データ値の処理手順の概要を示す図,図2は画像データ値の値域内に設定された小
区間における色度と不透明度の設定手順の概要を示す図である。なお,以下の説明
では,肝臓等の臓器や血管,骨等の複数種の生体組織を含んだ腹部を,CT装置に
より断層撮影して得られたCT値に基づいて,その可視画像を生成する場合を例に
とって説明する。
図1に示すように本実施形態方法では,まず,断層撮影領域に対応した三次元空
間K3
の各空間座標点を構成するボクセルを用いて,CT装置により得られた腹部
のCT値(画像データ値)の空間分布を表す。
次に,得られたCT値の値域を,CT値の頻度分布(二次元ヒストグラム)を参
考にして複数の小区間に分割し,この小区間毎に,各小区間内のCT値に対応する
色度(R,G,Bそれぞれ0~255の範囲内の値をとる)及び不透明度(0~1
の範囲内の値をとる)を設定する。このとき従来方法では,小区間毎に各区間内で
一定の値をとる一定値の色度及び不透明度を設定するが,本実施形態方法では,以
下の手順により色度及び不透明度を設定する(【0010】~【0012】)。
(イ)図2に示すようにCT値の値域内に,境界線Lによって互いに隔てられた
小区間A1と小区間A2が設定された場合を例にとって説明する。まず,小区間A1,
A2の基準色度C1,C2と基準不透明度D1,D2とをそれぞれ設定する。図2に示
す例では,小区間A1の基準不透明度D1を0に,小区間A2の基準不透明度D2を
1に設定した場合を示している。次に,境界線Lと重なる位置に補間区間Bを設定
し,この補間区間B内における色度及び不透明度を決定するための,CT値と色度
との関係を定める色度関数及びCT値と不透明度との関係を定める不透明度関数と
を設定する。図2に示す例では,色度関数に関しては基準色度C1とC2との間を
線形的に補間する比例関数が設定され,不透明度関数に関しては不透明度D1とD
2との間を線形的に補間する比例関数が設定された場合を示している(【001
3】)。
この補間区間Bの設定に際しては,まず,境界線Lから左右方向に,それぞれど
の程度離れた位置まで補間の対象区間とするかを決める。図2に示す例では,小区
間A1の区間幅の約半分に相当する距離d1と,小区間A2の区間幅の約半分に相当
する距離d2との分,それぞれの側に離れた区間を補間の対象区間とした場合を示
している。次に,この対象区間のうちのどの範囲で補間するのかを決定する。なお,
補間の対象区間及び対象区間内の補間区間の範囲の決定は,小区間A1,A2内の
CT値の分布E1,E2等を参考にして行う(【0014】)。
この対象区間内の補間区間を算出するために,対象区間の幅に乗ずる数値のこと
を鮮明度(0~1の値をとる)と称することにすると,この鮮明度を0にした場合
は,小区間内で色度と不透明度が変化しない従来方法と同様の設定となる。一方,
この鮮明度を1に設定した場合には,上記対象区間の全区間において線形補間を行
うことになり,さらに上記対象区間を小区間A1と小区間A2の全区間に設定した
場合には,小区間A1と小区間A2の全区間において補間が行われることになる。
なお,図2では,鮮明度を0.8に設定した例を示している。このような色度及び
不透明度の設定手順を,得られたCT値の値域全体において実施して,小区間毎に,
CT値に対応するボクセルの色度及び不透明度を決定する(【0015】)。
各ボクセルの色度及び不透明度を決定した後,図1に示すように,投影用の二次
元平面(可視化面)K2
(例えば,CCD等の撮像平面やディスプレイ等の画像平
面)の各平面座標点を表す画素(ピクセル)と視点(投影中心)とを結ぶ視線を想
定する。そして,各視線上に位置する全ボクセルの各々の色度及び不透明度を,ア
ルファブレンディングルールと称される下式(1)の計算式に基づき視線毎に互い
に積算し,ボリュームレンダリング法により,この積算値を各視線毎に互いに積算
し,ボリュームレンダリング法により,この積算値を各視線に位置する二次元平面
K2
の各画素に反映させて,被観察領域としての腹部の二次元可視画像を生成する
(【0016】【0017】)。
【数1】
(ウ)図3に本実施形態方法により生成された腹部の可視画像の一例を比較例と
共に示す。同図(A)に示されているのが,本実施形態方法により生成された可視
画像であり,同図(B)に示されているのが,従来方法と同様に,各小区間の境界
において段階的に色度及び不透明度を変化させ,各小区間内においては色度及び不
透明度を一定の値に設定するようにして生成された可視画像である。
図3に示すように,本実施形態方法により生成された可視画像においては,肝臓
領域を薄く可視化しながら,内部の血管も描写しつつ両者を明確に分別して認識す
ることが可能であり,また比較例と比べて微妙な色変化を表現できているなど,高
品質な画像が得られることが確かめられた(【0018】【0019】)。
なお,本発明の医療用可視画像の生成方法は,上記実施形態のものに限られるも
のではなく,種々の態様の変更が可能である。例えば,上記実施形態では,補間区
間における色度関数及び不透明度関数を直線的なものとして説明しているが,これ
らの関数には対数関数等の種々の関数を適宜用いることが可能である(【002
3】)。
可視画像を生成する二次元平面上の各平面座標点と視点とを結ぶ各視線上に位置
する全ての空間座標点毎の色度及び不透明度を視線毎に互いに積算し,この積算値
を各視線上の平面座標点に反映させるようにしている。このような構成をとること
により,被観察領域内の生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現しつつ,相異な
る生体組織を明確に区別し得る可視画像を生成することが可能となる(【002
5】)。
(2)従来技術
本件明細書の上記記載によれば,CT,MRI等の放射線診断システムによる生
体組織の断層撮影結果を三次元画像処理し,医療用可視画像を生成するための方法
として,従来,「ボリュームレンダリング法」と呼ばれる方法が知られており,こ
れは,画像データ値によって示されるCT,MRI等の断層撮影結果(断層撮影方
法により,CT値,MRI信号値等をそれぞれ指すことになる。)の空間分布を空
間座標点(ボクセル)を用いて表した上で,上記ボクセル毎に色度及び不透明度を
設定し,上記色度及び不透明度につき積算処理を行い,その結果を二次元平面の画
素に反映させて行われるものである。そして,従来は,ボリュームレンダリング処
理のための各ボクセルへの色度及び不透明度の設定につき,画像データ値が生体組
織毎に特有の分布状態を有することを利用し,得られた全画像データ値の分布(ヒ
ストグラム)に基づき,画像データ値の値域を複数の小区間に分割し,当該小区間
毎に,各小区間内で一定値をとる色度及び不透明度を設定する方法によって行われ
ていた。
当該方法では,画像データ値の差が互いに小さい生体組織間の場合に,両組織の
違いを明確に認識できるような可視化が困難であるという問題点があった。
本件各発明は,これらの問題点を解決するために発明されたものである。
2被告方法及び被告製品について
証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば,被告方法及び被告製品は,原判決別紙
「被告製品等説明書(被告)」のとおりのものであることが認められ,その概要は,
以下のとおりである。
(1)被告方法は,被写体である生体(内臓,骨,神経等の複数の相互に異なる
生体組織)をCT装置等により撮像した二次元画像を積層することにより構成され
る三次元空間の各座標点のデータ(ボクセルデータ)を使用し,このボクセルデー
タに対し,ボリュームレンダリング処理を実行することにより,医療用の疑似三次
元画像(物体を立体的に見えるよう表現した二次元画像)をディスプレイ上に表示
させるものである。
(2)被告製品においては,以下の方法により,色及びオパシティの設定を行う
ことができる。
ア設定画面
被告製品のディスプレイ画面に表示される「カラー編集」タブをクリックすると,
テンプレートフレームに,本件設定画面(原判決別紙「被告製品等説明書(被
告)」の【図3】)が表示される。
本件設定画面に表示されたグラフ中には,被写体である生体の撮影結果に係る信
号値(ボクセルデータ)とその信号値に対する出現頻度をプロットしたヒストグラ
ムが白色線で表示されている。なお,グラフの横軸は信号値の大きさを表し,グラ
フの縦軸は,ヒストグラムに関しては出現頻度,オパシティラインに関してはオパ
シティ値の大きさを表している。
イ色の設定
本件設定画面のグラフの下には,棒状の領域(色指定領域)が表示されている。
上記色指定領域は,グラフの横軸に記載された信号値に対応し,当該信号値がボリ
ュームレンダリングにおいて何色で描画されるかを決定するものである。
ユーザーは,グラフ上でマウスをダブルクリックするか,右クリックによりメニ
ューを表示し,メニュー中から「境界線の新規追加」を選択することで,グラフ上
の任意の位置に,グラフ縦軸と平行な色境界線を作成することができる。上記色境
界線は,色指定領域にも反映され,色境界線を設定することで,色指定領域には,
色境界線で区切られた領域(色境界領域)が生じることになる。ユーザーは,上記
色境界領域をマウスでクリックすることで,「色変更ダイアログ」(原判決別紙
「被告製品等説明書(被告)」の【図6】)を表示し,当該色境界領域に割り当て
る色を設定・変更することができる。
ウオパシティ値(オパシティライン)の設定
本件設定画面のグラフ上には,信号値と,その信号値に対するオパシティを示し
たオパシティラインを黄色の線で表示することができる。なお,オパシティとは,
その信号値がどれくらい不透明であるかを意味するものであり,例えば,オパシテ
ィが低いほど,当該信号値を持つボクセルはボリュームレンダリングにおいて透明
に近くなり,0とすると完全に透明となり(すなわち,ボリュームレンダリング結
果において表示されなくなり),1とすると完全に不透明となり,1から0の間に
設定すると半透明となる。
本件設定画面の右側には,上下に合計6個のボタンが表示されており,ユーザー
は,ボタンをクリックすることで,オパシティラインの設定モードを選択すること
ができる。上記設定モードの内容は,ボタンの並びの上から順に,①ユーザーがグ
ラフ上でマウスをドラッグすることにより,任意の形状のラインを設定できるもの,
②グラフの色境界線上にオパシティの制御点を配置し,ユーザーが制御点を上下に
マウスでドラッグすることにより,オパシティラインの形状を変更できるもの,③
グラフ横軸の「0」及び「1」のラインに各1個の制御点を配置し,右肩上がりの
オパシティラインを作成できるもの,④グラフ横軸の「0」及び「1」のラインに
各1個の制御点を配置し,右肩下がりのオパシティラインを作成できるもの,⑤グ
ラフ横軸の「0」及び「1」のラインに各2個の制御点を配置し,凸型のオパシテ
ィラインを作成できるもの,⑥グラフ横軸の「0」及び「1」のラインに各2個の
制御点を配置し,凹型のオパシティラインを作成できるものである。
(3)被告方法における被告ソフトウェアは,ボクセルデータに対しボリューム
レンダリング処理を実行することにより,被告製品のディスプレイ画面上に画像を
表示させるものであるところ,上記ボリュームレンダリング処理は,以下の被告数
式1により行われるものである。
被告数式1:()()()()()()∑=

=








××







−+×=
T
i
ii
i
j
jVCVVVcV
001Pααα
被告数式2:()()epsV
T
j
j≥−

=

被告数式1の「T」は,被告数式2の条件を満たすN(視線上に位置する全ボク
セルの数)以下の最大の整数を指し,被告数式2の「eps」は計算打ち切り用の閾
値を指す。
3構成要件1-Bの充足性
(1)構成要件1-Bの解釈
構成要件1-Bは,「前記2次元平面上の各平面座標点と視点とを結ぶ各視線上
に位置する全ての前記空間座標点毎の前記色度および前記不透明度を該視線毎に互
いに積算し,該積算値を該各視線上の前記平面座標点に反映させると共に」である
ところ,そのうち,「全ての前記空間座標点毎の前記色度および前記不透明度を該
視線毎に互いに積算し」の技術的意義について検討する。
ア特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲に記載された「全ての」という文言は,一般に,「ことごとく。
みな。全部」という意味を有するものである(乙8)。
イ明細書の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には,前記のとおり,①従来技術においては,各
視線上に位置するボクセル毎の色度及び不透明度を互いに積算する演算過程の高速
化を図るために,一部のボクセルに関するデータを間引いて演算を行っていたこと
から,可視化した画像において,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現するこ
とができなかったという問題があったこと,②本件発明1は,二次元平面上の各平
面座標点と視点とを結ぶ各視線上に位置する「全ての空間座標点毎の色度および不
透明度を互いに積算する」という方法を採用することにより,被観察領域内の生体
組織間の微妙な色感や不透明感を表現した可視画像を生成することを可能としたも
のであることが記載されている。
これらの記載を考慮すると,本件発明1の技術的特徴は,従来技術との対比にお
いても,積算処理において視線上のボクセルに関するデータの一部を積算対象から
除くことなく,全てのボクセルデータにつき積算処理を行うことにあるというべき
である。また,本件明細書に開示された計算式は,視線上の全ボクセルの色度及び
不透明度を積算の対象とするものである。
ウ「全ての空間座標点毎の色度および不透明度を互いに積算し」の意義
特許請求の範囲の「全ての」は,用語の一般的な意味に基づいても,本件明細書
の発明の詳細な説明の記載を考慮しても,「ことごとく。みな。全部」を指すもの
と解すべきである。そうすると,構成要件1-Bにおける「全ての空間座標点毎の
色度および不透明度を互いに積算し」とは,視線上のボクセルデータのうち,積算
処理から除くものが存在しないことを意味するものと解するのが相当である。
エ控訴人の主張について
控訴人は,「全ての空間座標点毎の色度および不透明度を互いに積算し」とは,
生体組織間の微妙な色感や不透明感の表現を犠牲にすることなくという意味であり,
可視化された画像において色感や不透明感の表現に影響しないボクセルの計算を省
略することがあっても,なお,上記構成要件に当たると解すべきであって,本件発
明1は,医療用可視画像の品質が損なわれて相異なる生体組織を明確に区別できな
くなるのを避けるために,データを間引かないで演算することであるなどと主張す
る。
しかしながら,本件明細書の前記記載によれば,従来技術がデータを間引いて演
算の高速化を図っていたのに対し,本件発明1は,医療用可視画像の品質が損なわ
れて相異なる生体組織を明確に区別できなくなるのを避けるために,「全ての空間
座標点毎の色度及び不透明度を互いに積算する」という構成を採用したものである。
このように,本件発明1は,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現することを
目的として,一部を計算から除外せずに,「全ての空間座標点毎の色度及び不透明
度を積算する」構成を採用したことに技術的特徴を有するものであるから,特許請
求の範囲に記載された「全ての」という文言について,可視化された画像において
色感や不透明感の表現に影響しないボクセルの計算を省略することがあっても,な
お,上記構成要件に当たるとする控訴人の主張は,採用することができず,視覚に
寄与しない程度であっても,ボクセルデータの演算を省略するものは排除されると
解釈するのが相当である。
(2)被告方法の構成
被告方法において,被告ソフトウェアは,ボクセルデータに対しボリュームレン
ダリング処理を実行することにより,被告製品のディスプレイ画面上に画像を表示
させるものであるところ,上記ボリュームレンダリング処理は,前記の被告数式1
及び2により行われるものである。そして,被告数式2の「eps」は,計算打ち切
り用の閾値を指すから,被告方法においては,被告数式2による閾値の設定がされ
ており,被告数式1の積算処理は,被告数式2で設定された閾値に達した時点で打
ち切られる,早期光線終結という手法を採用したものである。
(3)被告方法の構成要件1-B充足性
ア被告方法において,被告ソフトウェアは被告数式1及び2によりボリューム
レンダリング処理を実行するものであるところ,被告数式1の「V」は視線上の各
ボクセルのCT値を,αは不透明度関数を,cは色関数を表すものであり,被告数
式1は,視線上のボクセルにつき設定された色及びオパシティ値につき積算処理を
行うものと認められるから,被告数式1を用いて行う処理は,本件発明1の「空間
座標点毎の前記色度および前記不透明度を該視線毎に互いに積算」するものに相当
すると解される。
イしかしながら,前記のとおり,被告方法においては,被告数式1の積算処理
に関し,被告数式2による閾値の設定がされており,被告数式1の積算処理は,被
告数式2で設定された閾値に達した時点で打ち切られるものと認められるところ,
被告方法においては,上記計算打ち切り処理により,視線上のボクセルデータ中に,
積算処理の対象とされないものが存在することが認められる。
そうすると,被告方法は,「全ての空間座標点毎の前記色度及び前記不透明度を
該視線毎に互いに積算する」ものには当たらない。
ウしたがって,その余の点について検討するまでもなく,被告方法は,構成要
件1-Bを文言上充足しない。
エ控訴人の主張について
控訴人は,被告方法が採用する早期光線終結は,本件発明1の技術的意義を損な
うことはなく,早期光線終結をしない場合と数学的に等価であると主張する。
しかしながら,早期光線終結においては,本来計算するべき対象の計算を省略す
るため,視線上の全ての空間座標点を計算する場合に比べ,閾値がゼロに設定され
ているのでなければ,光線の強度がゼロではない「視覚に寄与しない程度にまで減
衰した」光線の強度をゼロに近似させるものである。よって,数学的に等価でない
ことは明らかであって,生体組織間の微妙な色度及び不透明度の表現という観点か
らは,画質に対して悪い影響を与えることになる。そして,早期光線終結は,閾値
以下の光線の強度をゼロに近似することにより,画質に対して悪い影響を与える代
わりに,計算速度を高速化するという技術思想に基づくものであって,早期光線終
結が計算結果に影響を与えるものである以上,数学的に等価とはいえない(乙39,
弁論の全趣旨)。
なお,控訴人は,乙39について,違法収集証拠であるから,却下すべきである
と主張する。しかしながら,乙39は,原審における第7回弁論準備手続期日(平
成22年7月16日)に提出されたAの陳述書である。控訴人は,原審においても,
控訴状及び控訴理由書においても,違法収集証拠であるという主張をしておらず,
当審における口頭弁論終結日の2日前である平成24年8月6日付けの準備書面に
おいて,初めて上記の主張をしたものであり,そもそも時機に後れた主張といわざ
るを得ない。また,Aがかつて控訴人の技術スタッフであり,現在は被控訴人富士
フイルム株式会社の従業員であることの一事をもって,直ちに違法収集証拠という
ことはできないし,上記認定部分が,秘密保持義務に違反して記載された事項に当
たるともいえない。
(4)均等の成否
ア特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合
であっても,①上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,②上記部分を対象製品
等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用
効果を奏するものであって,③上記のように置き換えることに,当業者が,対象製
品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,④対象製品
等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出
願時に容易に推考できたものではなく,かつ,⑤対象製品等が特許発明の特許出願
手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事
情もないときは,対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものと
して,特許発明の技術的範囲に属するものである(最高裁平成6年(オ)第108
3号平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁)。
イ第2要件
前記のとおり,本件発明1は,従来方法では,各視線上に位置するボクセル毎の
色度及び不透明度を互いに積算する演算過程の高速化を図るために,一部のボクセ
ルに関するデータを間引いて演算を行っていたため,可視化した画像において,生
体組織間の微妙な色感や不透明感を表現することができなかったことに鑑みて発明
されたものである。本件発明1は,二次元平面上の各平面座標点と視点とを結ぶ各
視線上に位置する「全ての前記平面座標点毎の色度および不透明度を該視線毎に互
いに積算する」ことにより,放射線医療診断システムにより断層撮影して得られた
画像データ値に基づき,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現しつつ,相異な
る生体組織を明確に区別することが可能な可視画像を生成し得る医療用可視画像の
生成方法を提供することを目的とするものである。
これに対し,被告方法においては,被告数式1の積算処理は,被告数式2で設定
された閾値に達した時点で打ち切られるため,生体組織間の微妙な色感や不透明感
を表現する観点からは,画質に対して悪い影響を与えるものである。被告方法によ
る可視画像の生成は,本件発明1の方法によるほど生体組織を明確に区別するとい
う作用効果を奏するものとはいえないものと解される。
したがって,被告方法は,本件発明1の目的を達し,同一の作用効果を奏すると
まではいえないものであるから,均等の第2要件を欠くものである。
ウ第5要件
(ア)前記(1)のとおり,本件明細書によれば,従来技術は一部のボクセルに関
するデータを「間引いて」演算を行っていたため,可視化した画像において,生体
組織間の微妙な色感や不透明感を表現することができなかったことから,上記課題
を解決する手段として,本件発明1は,「全ての」前記平面座標点毎の前記色度及
び前記不透明度を該視線毎に互いに積算し,当該積算値を当該各視線上の前記平面
座標点に反映させることを特徴とするものである(【0006】~【0008】)。
仮に控訴人が主張するように,従来技術に係る「間引いて」の反対語が「間引か
ずに」ということであれば,出願人において特許請求の範囲に「間引かずに」と記
載することが容易にできたにもかかわらず,本件発明1の特許請求の範囲には,あ
えてこれを「全て」と記載したものである。このように,明細書に他の構成の候補
が開示され,出願人においてその構成を記載することが容易にできたにもかかわら
ず,あえて特許請求の範囲に特定の構成のみを記載した場合には,当該他の構成に
均等論を適用することは,均等論の第5要件を欠くこととなり,許されないと解す
るべきである。
(イ)以上のとおりであるから,仮に控訴人の主張を前提とすると,客観的にみ
て,意識的に「全て」に限定したものと解され,均等の第5要件も充足しないこと
となる。
エしたがって,被告方法は,本件発明1の構成要件1-Bにおいて均等とはい
えない。
(5)小括
以上のとおり,被告方法は,本件発明1の構成要件1-Bを,文言上充足せず,
均等論によっても,その技術的範囲に属するとはいえない。
4構成要件1-Cの充足性
以上によれば,被告方法は,本件発明1の構成要件1-Bを充足せず,均等侵害
も成立しないから,本件発明1の技術的範囲に属するとはいえないが,事案に鑑み,
以下,本件発明1の構成要件1-Cの充足性についても,検討する。
(1)構成要件1-Cの解釈
構成要件1-Cは,「前記小区間内に補間区間を設定し,該小区間において設定
される前記色度および前記不透明度を,該補間区間において前記画像データ値の大
きさに応じて連続的に変化させることを特徴とする医療用可視画像の生成方法」で
ある。
ア「補間区間」の意義
特許請求の範囲には,「前記小区間内に補間区間を設定し」と記載されているか
ら,まず,その「補間区間」とは,小区間内に設定される区間をいうものである。
また,同様に,「該小区間において設定される前記色度および前記不透明度を,該
補間区間において前記画像データ値の大きさに応じて連続的に変化させる」と記載
されているから,その「補間区間」とは,小区間内に設定される区間内において色
度及び不透明度を画像データ値の大きさに応じて連続的に変化させる区間であると
解される。
イ「色度および不透明度を,…画像データ値の大きさに応じて連続的に変化さ
せる」の意義
(ア)本件明細書(【0013】【0014】)には,構成要件1-Cの「色度
および不透明度を,…画像データ値の大きさに応じて連続的に変化させる」ことの
具体例として,本件各発明の実施の形態として,①小区間内で一定値をとる基準色
度及び基準不透明度を設定し,②色度関数(CT値と色度との関係を定めたもので
あり,かつ,基準色度相互を線形的に補間するもの)及び不透明度関数(CT値と
不透明度との関係を定めたものであり,かつ,基準不透明度相互を線形的に補間す
るもの)をそれぞれ設定し,③小区間内において補間の対象となる区間(対象区
間)を決め,さらに,対象区間の幅に乗ずる0~1の値をとる数値(鮮明度)を設
定することで,対象区間内において補間を行う区間(補間区間)を決め,同区間内
で上記色度関数及び不透明度関数を適用することで線形補間を行うことが各記載さ
れているものであって,上記③のとおり設定された補間区間において色度関数及び
不透明度関数を適用し,基準色度相互及び基準不透明度相互をそれぞれ線形的に補
間することが,示されている。
(イ)また,本件明細書の【図2】は,基準色度相互又は基準不透明度相互をそ
れぞれ線形的に補間する比例関数が設定された場合を示したものであるところ,上
記線形補間の結果,色度に関しては,CT値を横軸とするグラフ上で,C1からC
2へ徐々に色合いが変化する状態となり,また,不透明度に関しては,CT値を横
軸とするグラフ上で,斜線状に,D1(0)からD2(1)へ数値が徐々に変化す
る状態となっていることを看取することができる。そして,本件明細書には,対象
区間内の補間範囲を算出するために,対象区間の幅に乗ずる数値のことを「鮮明
度」(0~1の値をとる)と称し,【図2】では,鮮明度を0.8に設定した例を
示していることが記載されており(【0013】~【0015】),対象区間内の
補間範囲は,色度と不透明度の補間において,共通の範囲で行うものであることが
読み取れる。
(ウ)さらに,本件発明1は,従来,ボリュームレンダリング処理のための各ボ
クセルへの色度及び不透明度の設定を,各小区間内で一定値をとる色度及び不透明
度を設定する方法によっていたことによる問題点を,構成要件1-Cに係る方法に
よることにより解決したものである。そして,従来技術は「各小区間の境界におい
て段階的に」色度及び不透明度を変化させるものであり(【0018】),本件明
細書には,従来技術における上記「段階的に色度および不透明度を変化」させる場
合の具体例として,色度に関しては,境界線Lを境に基準色度(C1,C2)相互
が截然と分かれていた状態(【図5】(B),【図6】(B)),不透明度に関し
ては,境界線Lを境にして基準不透明度がD1(0)とD2(1)に階段状の形状
をとって分かれていた状態(【図5】(B),【図6】(B))が,示されている。
構成要件1-Cの「連続的に変化させる」との文言は,上記の「段階的」変化と
対置して解釈されるべきものであり,【図2】によれば,上記のとおり,色度に関
しては,C1からC2へ徐々に色合いが変化する状態となり,また,不透明度に関
しては,斜線状に,D1(0)からD2(1)へ数値が徐々に変化する状態となっ
ていることが示されている。
(エ)したがって,「色度および不透明度を,…画像データ値の大きさに応じて
連続的に変化させる」とは,小区間内に設定された補間区間内で,小区間相互で相
異なる値をとる色度及び不透明度につき,相互を連続的に補間する色度関数・不透
明度関数を適用することにより,色度及び不透明度がそれぞれ一定値をとることな
く,画像データ値の大きさに応じてその数値が徐々に変化する状態となることを意
味するものと解するのが相当である。
なお,前記のとおり,本件明細書には,小区間相互で相異なる値をとる色度及び
不透明度相互を連続的に補間する色度関数・不透明度関数としては,直線的なもの
のほか,対数関数等の種々の関数を適宜用いることが可能であると記載されている
のであるから,補間を行うために適用される関数としては,それが色度及び不透明
度がそれぞれ一定値をとる結果をもたらすものでない限り,種々のものを用いるこ
とが許容されていると解され,「連続的に変化」の態様も,上記関数に応じ,種々
のものがあり得るものと解される。
ウ構成要件1-Cの意義
以上によれば,「前記小区間内に補間区間を設定し」とは,小区間内において,
色度及び不透明度がいずれも一定値をとることなく,画像データ値の大きさに応じ
てその数値が徐々に変化する状態となる区間を設けることを意味するものと解する
べきこととなる。
そして,「小区間」とは,色度及び不透明度が一定値をとる区間を意味するもの
であり,「補間区間」においては,「色度及び不透明度」が上記のとおり一定値を
とることなく連続的に変化するものと解されるのであるから,色度及び不透明度が
一定値をとらず,その数値が徐々に変化する状態となる区間(補間区間)は,色度
及び不透明度につき共通のものであると解するのが相当であり,「補間区間」外で
は色度及び不透明度はいずれも一定値をとるべきものである。
そうすると,色度又は不透明度のいずれか一方のみが徐々に変化する区間が存在
する場合には,「前記小区間内に補間区間を設定し,該小区間内において設定され
る前記色度および前記不透明度を,該補間区間において前記画像データ値の大きさ
に応じて連続的に変化させる」を充足しないものと解するのが相当である。
エ控訴人の主張について
控訴人は,補間区間が色度及び不透明度に共通のものである必要はなく,色度に
関する補間区間と不透明度に関する補間区間が別異に存在する場合も上記文言を充
足すると解すべきであると主張する。
そして,控訴人は,本件明細書の【図3】では,色混合領域のみならず,色混合
領域の外側でも不透明度が連続的に変化していると主張するが,【図3】を参照し
ても,色混合領域の外側でも不透明度が連続的に変化していると明確に把握するこ
とができない。また,本件明細書の【0020】ないし【0022】の記載は,
「0~1の範囲の値をとる不透明度」の値を表示する関数をペンタッチにより変化
させることに関するものであり,不透明度が連続的に変化する領域を変更するもの
ではない。そして,本件明細書の他の箇所にも控訴人の主張を裏付ける具体的な記
載は認められないから,色度及び不透明度を連続的に変化させる補間区間をそれぞ
れ個別に設定することが,本件明細書及び図面に記載されているとすることはでき
ない。
また,本件明細書及び図面の記載を総合すると,本件発明1は,従来技術と対比
して,「色度と不透明度を補間する」ことを新規な技術的特徴とするものであり,
本件特許出願時に「色度と不透明度を補間すること」,さらに「別異に」補間する
ことが周知であったとはいえないから,本件明細書に具体的な記載がなくても「色
度と不透明度を別異に補間すること」を記載されているのに等しい事項と当業者が
理解可能なものとはいえない。
したがって,本件明細書及び図面の記載内容に照らして,構成要件1-Cが「色
度と不透明度を別異に補間すること」を含むものとすることができないから,控訴
人の上記主張は,採用することができない。
(2)被告方法の構成
ア被告製品において,ユーザーは,「カラー属性」タブの「カラー属性」ボタ
ンをクリックすることにより,「カラー属性」ダイアログ(原判決別紙「被告製品
等説明書(被告)」の【図9】)を表示し,同ダイアログ中の「色混合」のスライ
ダーを0.00から1.00までの間で動かすことで,本件設定画面上の色境界線
で区切られた隣接する色相互の補間率(色混合率)を設定することができ,上記色
混合率の設定により,色混合率が1.00に近付くにつれて,隣接色相互が,境界
線付近において補間されて滑らかな色表現となる(乙3,弁論の全趣旨)。
イまた,被告製品におけるオパシティラインの設定方法は,本件設定画面の右
側に表示されるボタンをクリックすることで,オパシティラインの設定モードを,
①ユーザーがグラフ上でマウスをドラッグすることにより,任意の形状のラインを
設定できるもの(マニュアルモード),②グラフの色境界線上にオパシティの制御
点を配置し,ユーザーが制御点を上下にマウスでドラッグすることにより,オパシ
ティラインの形状を変更できるもの(多数制御点モード),③グラフ横軸の「0」
及び「1」のラインに各1個の制御点を配置し,右肩上がりのオパシティラインを
作成できるもの(2点制御点モード),④グラフ横軸の「0」及び「1」のライン
に各1個の制御点を配置し,右肩下がりのオパシティラインを作成できるもの(2
点制御点モード),⑤グラフ横軸の「0」及び「1」のラインに各2個の制御点を
配置し,凸型のオパシティラインを作成できるもの(4点制御点モード),⑥グラ
フ横軸の「0」及び「1」のラインに各2個の制御点を配置し,凹型のオパシティ
ラインを作成できるもの(4点制御点モード)の,6つのいずれかを選択すること
ができる。そして,ユーザーが,オパシティラインの設定モードのうち,上記②の
制御点モードを選択した場合,色境界線上に設定される制御点をマウスで上下にド
ラッグすることにより,オパシティラインを斜線状に変更することができる。
(3)被告方法の構成要件1-C充足性
ア「色度及び不透明度を…画像データ値の大きさに応じて」について
被告製品において,色混合率を設定し,色混合を生じさせた状態及び制御点を利
用してオパシティラインが斜線を描くよう設定した状態は,構成要件1-Cのうち,
「前記色度および前記不透明度を…画像データ値の大きさに応じて連続的に変化さ
せる」ことに相当する。
イ「補間区間において…連続的に変化させる」について
(ア)被告製品において,色境界線で区切られた隣接する色の補間率は,色混合
率の数値を,0.00ないし1.00の範囲で設定することができる(乙3)。
(イ)そして,色混合率を1.00に設定した場合(原判決別紙「被告製品等説
明書(被告)」の【図11】)において,緑と赤が混合している領域等については,
色境界領域の全体において色が混合している。したがって,色混合率を1.00に
設定した場合,少なくとも両端部分以外の色境界領域においては,その全域におい
て色混合が生じる。
他方,色混合率を0.00に設定した場合(原判決別紙「被告製品等説明書(被
告)」の【図10】)においては,色が画然と区別されており,「補間区間におい
て…連続的に変化させる」に当たらない。
(ウ)上記(イ)によれば,色混合率を0.00と1.00の間の数字に設定した
場合には,色境界領域内に,色混合が生じない領域が残るものと推認することがで
きる。そうすると,被告方法において,色混合率を1.00未満の数字に設定した
場合で,かつ,前記(2)②の多数制御点モードを選択した場合には,オパシティラ
インの制御点が色境界線上に設定されるものである以上,色混合が生じている区間
とオパシティ値が徐々に変化している(オパシティラインが斜線状となっている)
区間は一致せず,色又はオパシティ値のいずれか一方のみが変化する区間が生ずる
ものと認められる。
したがって,被告方法は,上記の場合,「前記小区間内に補間区間を設定し」,
前記色度及び前記不透明度を,「該補間区間において」「連続的に変化させる」も
のに当たらず,構成要件1-Cを充足しない。
(エ)また,被告製品において,ユーザーが色混合率を1.00に設定し,かつ,
オパシティラインの設定につき前記(2)②の多数制御点モードを選択した場合につ
いて,色混合の生ずる範囲については,上記【図11】のとおり,色境界線で挟ま
れた各色境界領域のうち,右端のもの及び左端のものについては,同領域内に色混
合が生じない区間が残っている。このように,被告製品においては,不透明度の
「補間区間」において,色度が連続して変化する領域(色混合領域)と,その外側
に色度の変化しない領域が存在する。よって,色混合率を1.00に設定し,かつ,
多数制御点モードを選択した場合においても,色混合が生じている区間とオパシテ
ィ値が徐々に変化する(オパシティラインが斜線状となる)区間が一致すると認め
るに足りないから,この場合においても,被告方法が構成要件1-Cを充足すると
はいえない。なお,被告製品において,ユーザーが色混合率を1.00に設定し,
かつ,オパシティラインの設定につき前記(2)②の多数制御点モード以外のモード
を選択した場合には,色混合される区間とオパシティの変化する区間が一致しない
のであるから,この場合も,構成要件1-Cを充足しない。
ウしたがって,被告方法は,構成要件1-Cを文言上充足しない。
(4)均等の成否
ア控訴人は,構成要件1-Cについても,均等論の適用により被告方法が本件
発明1の技術的範囲に属する旨主張する。
イ第1要件
特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうち
で,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,いい換えれば,
上記部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該特許発明の技術的思
想とは別個のものと評価されるような部分をいう。
前記のとおり,本件発明1は,従来,ボリュームレンダリング処理のための各ボ
クセルへの色度及び不透明度の設定を,各小区間内で一定値をとる色度及び不透明
度を設定する方法によっていたことによる問題点を,小区間に補間区間を設定し,
補間区間において連続的に色度及び不透明度を変化させるという方法を採用するこ
とにより解決したものである。そして,本件明細書及び図面の記載を総合すると,
本件発明1は,従来技術と対比して,色度及び不透明度を補間することを新規な技
術的特徴とするものである。
したがって,色度及び不透明度を連続的に変化させる補間区間を設定し,当該補
間区間において色度及び不透明度を連続的に変化させることは,本件発明1特有の
課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,すなわち本件発明1の本質的部分に当た
る。
よって,この点において本件発明1と異なる被告方法は,均等の第1要件を欠く
ものである。
ウしたがって,その余の点について検討するまでもなく,被告方法は,本件発
明1の構成要件1-Cにおいて均等とはいえない。
(5)小括
以上のとおり,被告方法は,本件発明1の構成要件1-Cを,文言上充足せず,
均等論によっても,その技術的範囲に属するとはいえない。
5結論
以上の次第で,被告方法は本件発明1の技術的範囲に属するとはいえないから,
構成要件1-B及び1-Cと同一の構成要件を含む本件発明2の技術的範囲に属す
るともいえない。そうである以上,直接侵害は成立せず,被告製品について特許法
101条5号所定の間接侵害が成立する余地もないから,その余の点について判断
するまでもなく,控訴人の本訴請求はいずれも理由がない。
よって,原判決は相当であって,本件控訴は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官髙部眞規子
裁判官井上泰人
裁判官齋藤巌

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