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野球専門学校の授業内容,実技指導,施設内容等が不十分であるとして,同校及び
その理事等に対する元生徒らの損害賠償請求が一部認容された事例
           主         文
1 両事件被告学校法人アスピア学園及び両事件被告B1は,各自,甲事件原告A
1,甲事件原告A4,甲事件原告A5及び甲事件原告A8それぞれに対し,別紙認
容額一覧表の各「当事者」欄に対応する同一覧表の各「認容額」欄に記載の金員及
びこれに対する平成13年3月21日から各支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
2 両事件被告学校法人アスピア学園及び両事件被告B1は,各自,乙事件原告A
11,乙事件原告A12,乙事件原告A13及び乙事件原告A16それぞれに対
し,別紙認容額一覧表の各「当事者」欄に対応する同一覧表の各「認容額」欄に記
載の金員及びこれに対する平成13年4月22日から各支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
3 甲事件原告A1,甲事件原告A4,甲事件原告A5,甲事件原告A8,乙事件
原告A11,乙事件原告A12,乙事件原告A13及び乙事件原告A16の両事件
被告学校法人アスピア学園及び両事件被告B1に対するその余の請求並びに両事件
被告B2及び両事件被告B3に対する請求をいずれも棄却する。
4 甲事件原告A2,甲事件原告A3,甲事件原告A6,甲事件原告A7,甲事件
原告A9,甲事件原告A10,乙事件原告A14,乙事件原告A15,乙事件原告
A17及び乙事件原告A18の請求をいずれも棄却する。
 5 訴訟費用は,甲事件,乙事件を通じ,甲事件原告ら及び乙事件原告らと両事
件被告学校法人アスピア学園及び両事件被告B1との間においては,甲事件原告ら
及び乙事件原告らに生じた費用の5分の3を両事件被告学校法人アスピア学園及び
両事件被告B1の連帯負担とし,その余は各自の負担とし,甲事件原告ら及び乙事
件原告らと両事件被告B2及び両事件被告B3との間においては,全部甲事件原告
ら及び乙事件原告らの負担とする。
 6 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
           事 実 及 び 理 由
第1 請求
 1 甲事件
 被告らは,各自,甲事件原告らそれぞれに対し,別紙請求額一覧表の各「当事
者」欄に対応する各「請求額」欄に記載の金員及びこれに対する平成13年3月2
1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 乙事件
   被告らは,各自,乙事件原告らそれぞれに対し,別紙請求額一覧表の各「当
事者」欄に対応する各「請求額」欄に記載の金員及びこれに対する平成13年4月
22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   甲事件原告ら及び乙事件原告ら(以下,両者を併せて「原告ら」という。)
のうち,甲事件原告A1,甲事件原告A4,甲事件原告A5,甲事件原告A8,乙
事件原告A11,乙事件原告A12,乙事件原告A13及び乙事件原告A16(以
下,これらの者を合わせて「原告学生ら」という。)は,いずれも両事件被告学校
法人アスピア学園が経営する関西野球専門学校に入学,在学した学生であり,原告
らのうち,甲事件原告A2,甲事件原告A3,甲事件原告A6,甲事件原告A7,
甲事件原告A9,甲事件原告A10,乙事件原告A14,乙事件原告A15,乙事
件原告A17及び乙事件原告A18は,原告学生らの各父母であるところ(以下,
これらの者を合わせて「原告父母ら」という。),原告らが,入学時において両事
件被告学校法人アス
ピア学園がなした説明の内容と,実際の学科授業,実技指導,施設・道具及び寮等
の内容とがかけ離れており,これらについて原告らが改善を求めたにもかかわら
ず,これに一切応じなかったなどとして,
1 両事件被告学校法人アスピア学園に対して,債務不履行又は民法709条,7
19条1項の不法行為による損害賠償請求権に基づき,
2 関西野球専門学校の理事長である両事件被告B1に対して,民法709条,7
19条1項の不法行為による損害賠償請求権に基づき,
3 関西野球専門学校の最高顧問である両事件被告B2及び講師兼学園長である両
事件被告B3に対して,民法709条,719条1項又は同法719条2項の不法
行為による損害賠償請求権に基づき,
それぞれ,別紙請求額一覧表の各「当事者」欄に対応する各「請求額」欄に記載の
金員(原告学生らについては,いずれも支払済みの入学金・授業料等,慰謝料及び
弁護士費用であり〔ただし,後記のとおり,甲事件原告A1については,両事件被
告学校法人アスピア学園が登録抹消証明書の発行を遅滞したことについての慰謝料
をも含んでいる。〕,原告父母らについては,いずれも慰謝料及び弁護士費用であ
る。その内訳は別紙請求額一覧表記載のとおり。)及びこれに対する訴状送達日の
翌日(甲事件については平成13年3月21日,乙事件については同年4月22
日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた
事案である。
第3 前提事実(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。な
お,以下,特に限定しない限り,証拠番号は枝番をすべて含むものとする。)
1 当事者等
・ 原告学生らは,以下の期間,関西野球専門学校に在籍していた。
 ア 甲事件原告A4(1期生)
   在籍期間 平成10年4月から平成12年8月
 イ 乙事件原告A11(1期生)
   在籍期間 平成10年4月から平成12年3月
 ウ 乙事件原告A12(1期生) 
   在籍期間 平成10年4月から平成11年11月
 エ 甲事件原告A1(2期生) 
   在籍期間 平成11年4月から平成12年3月     
 オ 甲事件原告A5(3期生)
   在籍期間 平成12年4月から平成13年2月
 カ 甲事件原告A8(3期生)
   在籍期間 平成12年4月中の約1週間  
 キ 乙事件原告A13(3期生)
   在籍期間 平成12年4月から平成12年5月 
 ク 乙事件原告A16(3期生)
   在籍期間 平成12年4月から平成12年7月
・ 被告学校法人アスピア学園は,平成10年4月から住所地において私塾として
関西野球学校を設置・運営していたが,同年10月14日に認可を受けてから,正
式に,関西野球専門学校の名称を付した野球専門学校を兵庫県多可郡Z町(以下,
「Z町」という。)に設置・運営している(以下,便宜上,両事件被告学校法人ア
スピア学園,関西野球専門学校,その前身の私塾としての関西野球学校のいずれを
指す場合にも,単に,「被告アスピア学園」という。)。
 被告アスピア学園は,2年制の専門学校であり,平成10年4月に1期生,平成
11年4月に2期生,平成12年4月に3期生が,それぞれ入学した。
・ 被告B1は,被告アスピア学園の創立者であり,創立以来,現在に至るまで被
告アスピア学園の理事長を務めている。
・ 被告B3は,法政大学野球部監督,ロサンゼルスオリンピック日本代表監督,
JOCの理事等を歴任し,被告アスピア学園が開校した当時は,同校の講師を務
め,平成11年9月以降,同校の学園長を務めている。
・ 被告B2は,財団法人日本野球連盟会長であり,被告アスピア学園が開校当時
から,同校の最高顧問の地位にある。
2 甲事件原告A1に対する登録抹消証明書の発行について
・ 甲事件原告A1は,平成11年4月に,被告アスピア学園に入学したのと同時
に,財団法人日本野球連盟(以下,「日本野球連盟」という。)に被告アスピア学
園の競技者として登録を受けた。
・ 甲事件原告A1は,平成12年3月,被告アスピア学園を中途退学したが,日
本野球連盟登録規定23条1項には,「加盟チームは,退部による競技者の登録を
抹消する場合,登録抹消届(競技者)を本連盟会長に提出しなければならない。」
と規定されているところ,被告アスピア学園は,平成12年10月31日になっ
て,日本野球連盟会長に対して,甲事件原告A1の登録抹消届を提出した(甲5,
弁論の全趣旨)。
・ 一旦,競技者登録の抹消を受けた者が,日本野球連盟に加盟する他のチームに
転籍再登録して,日本野球連盟が主催又は公認する試合に出場しようとする場合,
日本野球連盟から,日本野球連盟に加盟する他のチームへの転籍再登録の承認を受
けなければならず,その際,当該他チームは,日本野球連盟に対し,転籍前の加盟
チームより発行される登録抹消証明書を添付して転籍再登録の申請を行うことが必
要とされ(甲5,日本野球連盟登録規程22条3項),仮に,登録抹消証明書を添
付することができない場合は,転籍後1年間の出場停止期間が経過しなければ,転
籍再登録の承認がなされない(甲5・日本野球連盟登録規程13条)。
・ 被告アスピア学園は,甲事件提起後の平成13年5月1日になって,甲事件原
告A1に対して登録抹消証明書を発行した。
第4 争点
1 被告アスピア学園が学生らに対して負うべき債務の内容
・ 原告らの主張
 被告アスピア学園が,1期生ないし3期生に対して負っていた具体的債務の内容
は以下のとおりである。
ア 学科授業について
・ ベースボール最高峰希望科,ベースボールインストラクター科,ベースボール
アンパイヤ科を設置し,学科別に学生の能力に応じた指導を行うこと。
・ 年間を通じ,英会話(週3回),スペイン語(週3回),一般教養(週2
回),野球学(週2回)等,学校案内(甲1,2,乙2)に記載された授業を行
い,英会話,スペイン語については,スムーズなコミュニケーション能力の育成を
目的とすること。
・ 担当講師として,C,D,E,B3,F,G,H,I,Jらのほか,キューバ
人特別講師が指導を担当すること。
イ 実技指導について
 K監督,上記ア・記載の各講師等により,プロ野球又は社会人強豪チームに匹敵
するような内容を伴った指導を行うこと。
ウ 施設・道具について
・ 学校案内に掲載されている施設において授業が行われること。
・ 毎日優先的に利用できるグラウンドが用意されていること。
・ ボール,バット等の基本的な道具のほか,バッティングマシンやアイシング,
コールドスプレー等の設備及び備品が,不自由ない程度に用意されていること。
エ 学生寮について
 スポーツを専門に行う学生が生活するにふさわしい設備や食事が用意されている
こと。具体的には,適度な広さがあり,冷暖房が完備された部屋で心身を休め,風
呂やシャワーで身体の汚れを落とすことができ,10代から20代のスポーツ選手
が通常摂食する以上の量の食事が3食欠かさず準備され,その栄養も十分配慮され
ていること。
オ その他
 キューバやドミニカでのキャンプに参加すること。
・ 被告らの主張
ア 学科授業について
 ベースボールインストラクター科は,ベースボール最高峰希望科と併合されたも
のであること,ベースボールアンパイヤ科は,上記2科を併合したものであること
は,学校案内に明記されており,学科別の指導を行う義務はない。
 被告アスピア学園は,学校案内に記載されたカリキュラムに何ら変更を加えるこ
となく授業を実施する義務を負っているわけではなく,入学してきた学生の能力,
講義の実施状況等を考慮して講義内容を適宜変更することは当然に許される。
イ 実技指導について
 講師の変更を行うことは,被告アスピア学園の裁量事項であるし,学生の能力を
度外視して,プロ野球を目指す程度ないし社会人野球の強豪チームと同レベルの実
技指導を行う義務はない。
ウ 施設・道具について
 学校案内ではZ町営の施設が掲載されているが,これを被告アスピア学園所有の
施設として紹介しているわけではない。被告アスピア学園は,前例のない野球専門
学校であり,必要な備品の種類及び数量は,学校運営をしていく中で徐々に明らか
になるものであるから,開校当初から完全な設備を備える必要はない。
エ 学生寮について
平成10年8月21日開催の臨時父兄会において,学生寮の部屋は,すべて2人部
屋とし,各階フロア,廊下に冷暖房,大型冷蔵庫を設置する旨の決議がなされたの
であるから,被告アスピア学園は,これに沿った内容の寮を提供すれば足りる。
オ その他
 キューバやドミニカでのキャンプは,2年に1度,希望者が自費で参加する行事
である。
2 被告アスピア学園の教育内容等
・ 原告らの主張
 被告アスピア学園が,1期生ないし3期生に対して実施していた教育内容等は,
以下のとおりであった。
ア 学科授業について
・ 学科別指導等の不存在
 学校案内においては,ベースボール最高峰希望科,ベースボールインストラクタ
ー科,ベースボールアンパイヤ科などのコースが紹介されているが,実際は,各学
科別の授業や指導は全く行われておらず,すべて同じカリキュラムであり,さら
に,中学を卒業したばかりの者から大学を卒業又は中途退学してきた者まで同じク
ラスで授業を受けるという状態であった。
・ 授業の不実施
 原告学生らは,平成10年5月に,それまで生活の本拠にしていたZ町営の宿泊
施設(以下,「青年の家」という。)を退去させられた後,ハーモニーパークとい
うキャンプ場のような施設を経て,被告B1が代表取締役を務める神戸市垂水区内
にある株式会社阿部企業(以下,「阿部企業」という。)の寮に引っ越すことにな
った。このため,平成10年5月以降,Z町に被告アスピア学園の寮が完成して転
居する平成10年12月までの間,授業は全く行われておらず,それ以外の期間
も,授業が行われないことが多く,時間割も頻繁に変更された。
・ 授業内容の不十分
a 英会話は,アルファベットを教える程度で,講師も頻繁に交代し,その都度,
最初から授業をやり直すことになった。教科書も存在せず,印刷したプリント類が
資料として配付される程度であった。
b スペイン語は,平成10年4月から2か月程度の間行われたにすぎない。
c 一般教養は,講師が頻繁に交代し,その都度,最初から授業をやり直すことに
なった。
d 情報処理は,パソコンの台数が少ないため,ほとんど行われず,せいぜい数
回,自分の氏名を入力する程度の授業が行われたにすぎない。
e 体育心理学,体育衛生学,トレーニングについての講義も実施されていない。
あったとしても,各講師の体験談的な講話が行われた程度である。
f 野球学は,野球関係者の講話が行われた程度であり,学問としての体系的授業
が行われたことはない。
g 審判学は,数回行われただけで,毎回同じことの繰り返しであった。
イ 実技指導について
・ 平成10年5月から同年12月までは,神戸市内の阿部企業の寮から加古川
市,姫路市及びZ町のグラウンドまでバスで移動し,練習を行っていたが,送迎バ
スの運転手をしていた阿部企業の選手が,学生に混じって練習する程度で,技術的
な指導は行われなかった。当時の監督であったKは,高齢であったためベンチで休
んでいることが多く,指導らしい指導ができる状態ではなかったし,学校案内に記
載されたコーチ陣による指導もなかった。学生の技術レベルにも大きな差があり,
アンパイヤや指導者を目指して入学した者も一緒のメニューで練習する状態であっ
た。
・ 平成11年1月から平成12年3月ころまで,L監督とMコーチの指導のもと
比較的充実した練習が行われたが,この2人だけが孤軍奮闘している状態で,内
野,ピッチング,バッティングなどの複数のコーチがいたわけでもなく,総監督で
あったKは,グラウンドに出てこなかった。
・ 平成12年3月にL監督が辞任した後,実技指導のレベルは低下し,再び学生
任せの練習に逆戻りした。平成12年8月ころ,N監督が就任して練習内容が多少
改善されたものの,N監督もわずか1か月ほどで解任された。 
ウ 施設・道具について
・ 被告アスピア学園の平成10年度入学志願者向け学校案内(甲1)に校舎とし
て掲載されている建物は,実際には,Z町営の青年の家であった。しかも,学生ら
は,平成10年5月に青年の家を退去させられ,その後,ハーモニーパークという
施設を経て阿部企業の寮に移転し,平成10年12月まで同所において寝泊まりし
ていた。
  専門学校が公営の宿泊施設で授業を開始するということ自体きわめて異例であ
るが,その後,施設を転々として,被告B1が経営する私企業の寮で長期間寝泊ま
りさせられることになった一連の経過は尋常とはいえない。
・ 被告アスピア学園が,普段の練習場所として使用していたグラウンドは,Z町
営の施設であり,町民が優先的に使用することとされていたため,学生らは,土曜
日,日曜日はグラウンドを全く使用できず,平日でもしばしば使用できないことが
あった。
・ ボールは,真っ黒になったボロボロのものしかなく,新しいボールが補充され
ることもなかった。
  バットは,本数が全く不足しており,あるものも古くて使い物にならなかった
ため,やむを得ず,学生が私費で購入していた。
  コールドスプレーなどのアイシングの道具もなく,バッティングマシンは中古
品で壊れたまま放置されていた。
エ 学生寮について 
・ 設備の不十分
 a 平成10年5月以降,同年12月までの間,学生らは,阿部企業の寮で生活
していたが,この寮は風呂等の設備が貧弱であった。
 b 平成10年12月,Z町に被告アスピア学園の寮が完成したが,寮の部屋は
2人部屋であり,各室には冷暖房もなかった。また,風呂は,約10人につきユニ
ットバスが1つあるのみであった。
・ 食事の不十分
 a 阿部企業の寮では,朝食は,コンビニエンスストアで購入した食品,昼食及
び夕食は,小学校の給食程度の弁当が出されており,スポーツをする若者の食事と
して到底十分なものではなかった。
 b Z町の寮に移転してからは,さらに食事の内容が悪化し,朝食は,ご飯とみ
そ汁のみか,みそ汁すらない日があったし,月曜日は,まかないの者が前日に休み
をとっているため,1人あたり食パン2枚及び全員で牛乳1リットルパック7,8
本程度が支給される状態であった。昼食は,ご飯とおかずが何品か出され,夕食
は,ご飯におかずが1,2品付くのみという貧弱なもので,身体を資本とする若い
スポーツ選手の食事としては,到底十分なものではなかった。
オ その他
 キューバやドミニカでのキャンプ等は実施されなかった。
・ 被告らの主張
 以下のとおり,被告アスピア学園の教育内容等には何らの不備もなく,原告ら
は,被告B1に敵対心を持つN監督らにあおられて本件訴訟を提起したにすぎな
い。
ア 学科授業について
・ 学科別指導等の不存在
  入学してくる者は,すべてベースボール最高峰希望科の学生であったから,学
科別の授業等が行われず,すべて同じカリキュラムが実施されたとしても何ら問題
はない。また,被告アスピア学園は,各学生らの間にクラス編成を必要とするほど
学力の差はないと認めたため,学歴別のクラス編成を行わなかったものである。
・ 授業の不実施
a 学校案内に記載したとおりのカリキュラムで授業を実施しなかったのは事実で
あるが,被告アスピア学園は,前例のない野球専門学校であるから,試行錯誤の面
があることは否めず,より有意義な授業を実施するためにカリキュラムを変更した
ものであるから,単に授業科目に変遷があることのみを問題とするのは失当であ
る。
b 被告アスピア学園は,カリキュラムを適宜変更した上で(乙5),これを忠実
に実施した。平成10年5月から12月までの間,授業時間は減少したものの,授
業自体は行っていた。授業時間が減少したのは,阿部企業の寮からZ町の校舎まで
の移動時間がかかるため,従来どおりの授業を行うには,早朝に起床して登校する
必要があるところ,学生らがそのようにできなかったためである。
・ 授業内容の不十分
  被告アスピア学園に入学してきた学生らは,学習能力等が劣るものが多く,し
かも,正当な理由なく授業に参加しない学生も多かったので,当初予定していた内
容どおりの授業を実施できなかったものである。
 a 英会話については,学生の学習能力が劣っていたため,アルファベットから
教えねばならなかった。
b スペイン語の授業を廃止したのは,学生らの能力及び授業態度を勘案し,英会
話の授業と平行してスペイン語の授業を継続しても実があがらないと判断したため
である。
c 体育心理学,体育衛生学,トレーニング学の授業は実施されていた。
d 野球学については,野球経験者が自己の体験を通して野球の本質等を講義する
ものである。
e 審判学の授業は何度も行われている。
イ 実技指導について
 K監督は,適切な指導を行っていたし,学校案内に記載された講師らは,交代で
コーチングを実施し,学生のレベルに見合った適切な実技指導を行っていた。
ウ 施設・道具について
・ Z町営の青年の家については,被告アスピア学園がZ町から借り受け,学生が
不自由なく使用できる状態であったが,学生らが,飲酒,喧嘩,麻雀等の問題行動
を繰り返したため,平成10年5月に,同所を退去させられたものである。
・ 被告アスピア学園は,Z町との間で,Z町営のグラウンドについての賃貸借契
約を締結しており,平日の授業時間及び第1土曜日,第3土曜日には,グラウンド
を支障なく使用できる状況であった。
・ 練習道具等は,十分用意されていたし,必要に応じて補充していた。
エ 学生寮について
・ 設備の不十分
 a 阿部企業の寮は,十分な設備を備えたものであった。
b 被告アスピア学園は,当初,各部屋に冷蔵庫,テレビを完備した個室の寮を建
設しようとしていたが,寮における光熱費の個人負担額を減額してほしいとの保護
者の要望があり,平成10年8月21日,臨時父兄会を開いたところ,部屋はすべ
て2人部屋とし,各階フロアにエアコン,大型冷蔵庫を1台ずつ設置するとの決議
がなされたため,同決議に従った寮を用意したものである。
・ 食事の不十分
  阿部企業及び被告アスピア学園の寮において,原告学生らに提供されていた食
事は十分な内容のものであった。
オ その他
 参加希望者がいなかったため,キューバやドミニカでキャンプを実施しなかった
ものである。
3 被告アスピア学園の責任原因
・ 被告アスピア学園の教育内容等について
ア 原告らの主張
・ 債務不履行責任
  上記1及び2のとおり,被告アスピア学園には,本来行うべき教育を行ってい
ないなどの点において債務不履行が認められる。そして,原告学生らのみならず,
原告父母らも入学契約ないし在学契約の当事者であるから,被告アスピア学園は,
原告ら全員に対して債務不履行責任を負う。
・ 不法行為責任
  被告アスピア学園は,上記のような学園の実態を偽った上で,原告学生らを入
学させ,原告らから多数の抗議等があったにもかかわらず,これらに一切耳を傾け
ず,教育や施設の内容を改善しようとしなかった点について原告らに対して民法7
09条,719条1項の不法行為責任を負う。
イ 被告アスピア学園の主張
被告アスピア学園に債務不履行及び不法行為の事実は認められない。また,そもそ
も,原告父母らは,事実上の出捐者にすぎず,契約当事者に当たらない。
・ 甲事件原告A1に対する登録抹消証明書の発行が遅滞した点について
 ア 原告らの主張
  被告アスピア学園は,甲事件原告A1が,平成12年3月に中途退学した後,
再三要求したにもかかわらず,平成13年5月まで1年以上も登録抹消証明書の発
行を遅滞し,そのため甲事件原告A1は,すみやかに他チームに転籍することがで
きなかったものであり,これが被告アスピア学園の裁量の範囲を逸脱した不法行為
に当たることは明らかである。
イ 被告アスピア学園の主張
 甲事件原告A1は,平成12年3月末に無断で帰宅し,その後何の連絡もしない
まま,同年6月初旬になって,原告A3が被告アスピア学園に電話してきて,登録
抹消証明書を発行するよう要求してきたものであり,このような事情を考慮すれ
ば,被告アスピア学園が登録抹消証明書を直ちに発行しなかったことには合理的理
由がある。
4 被告B1の責任原因
・ 原告らの主張
  被告B1は,被告アスピア学園の創立者かつ理事長であり,被告アスピア学園
の実質的な運営は,事実上,すべて被告B1が一人で取り仕切っていたものである
から,被告B1個人も,被告アスピア学園と同様,原告らに対して民法709条,
719条1項の不法行為責任を負う。
・ 被告B1の主張
 被告アスピア学園は,野球専門学校として十分な教育活動等を行っており,被告
B1が不法行為責任を負うことはない。
5 被告B2,被告B3の責任原因
 ・ 原告らの主張
ア 学校案内に氏名,肩書等を掲載した点について      
 学校案内(甲1ないし3,乙2)の記載によると,被告B2と被告B3の氏名が
掲載され,被告B2については顔写真が,被告B3については,元ロサンゼルスオ
リンピック監督等の経歴が記載されている。
 被告B2及び被告B3は,アマチュア野球界の第一人者であり,その両名が「最
高顧問」,「講師」,「学園長」といった肩書とともに学校案内に掲載されたこと
は,被告アスピア学園に関する情報について判断資料をほとんど持ち合わせていな
い一般の学生,保護者からすれば,きわめて大きな判断材料となったものといえ,
被告B2及び被告B3は,このような可能性を十分認識すべきであるから,学校案
内に記載された事項に間違いがないか,学校の実態に問題はないかなどについて調
査したり,調査した上で,学校案内への掲載を撤回させる注意義務を負っていたも
のといえる。
 にもかかわらず,被告B2及び被告B3は,かかる注意義務を怠り,このため原
告らの判断を誤らせ,損害を被らせたのであるから,原告らに対し,民法709
条,719条1項又は719条2項の不法行為責任を負う。
イ 被告アスピア学園の運営に関与した点について
 被告B2,被告B3は,被告アスピア学園が私塾として開設される以前から設立
趣意書に名を連ね,被告B2は,設立当初から被告アスピア学園の最高顧問に就任
し,被告B3は,平成11年9月以降アスピア学園の学園長に就任している。
 したがって,被告B2は,最高顧問として,被告アスピア学園の教育内容や施設
等の問題に関し,適切な助言や指導を行う義務があるが,これを履行しなかった。
 また,被告B3は,被告アスピア学園の学園長として,被告アスピア学園の教育
内容や施設等の問題に関し,自ら違法状態を是正し,あるいは被告アスピア学園の
理事会に上程して改善していく義務があるのに,これらについて何ら履行しなかっ
た。
 その結果,被告アスピア学園では,野球専門学校としての適切な授業や実技指導
等が実施されず,原告らに損害を被らせたものであるから,被告B2,被告B3
は,原告らに対し,民法709条,719条1項の不法行為責任を負う。
・ 被告B2,被告B3の主張
 被告アスピア学園は,野球専門学校として十分な教育活動等を行っており,被告
B2,被告B3が不法行為責任を負うことはない。
6 損害の発生及び額
・ 原告らの主張
ア 入学金・授業料等(別紙請求額一覧表①)
 原告学生らは,被告アスピア学園に対して,別紙請求額一覧表の各「当事者」欄
に対応する同一覧表の各「①入学金・授業料等」欄に記載の金員を支払ったが,前
記のとおり,被告アスピア学園は,当初予定されていたとおりに授業等を実施しな
かったものであるから,これら全額が,債務不履行又は不法行為による原告学生ら
の損害となる。
イ 慰謝料(別紙請求額一覧表②)
・ 被告アスピア学園の教育内容等について
  原告学生らは,専門的な野球教育を受けられるとの期待を持って被告アスピア
学園に入学したが,被告らの杜撰な学校運営によって,かかる期待は大きく裏切ら
れ,多大な精神的損害を被った。また,原告父母らは,自分たちの子が被告アスピ
ア学園で専門的な野球教育を受けられると期待していたが,被告らの杜撰な学校運
営によってかかる期待は裏切られ,自らの子の20歳前の貴重な一時期を浪費させ
てしまったことによって多大な精神的損害を被った。このような原告らの精神的損
害を慰謝するには,別紙請求額一覧表の各「当事者」欄に対応する同一覧表の各
「②慰謝料」欄(ただし,甲事件原告A1については,同欄中のA欄)に記載の金
員を下らない。
・ 甲事件原告A1に対する登録抹消証明書の発行が遅滞した点について
  甲事件原告A1は,平成12年3月に被告アスピア学園を中退した後,直ちに
登録抹消証明書の発行を受けられなかったため,日本野球連盟に加盟する他のチー
ムへの転籍再登録の承認を受けられない状況に置かれ続け,野球選手として心身共
に充実する20歳代前半の時期の約1年間,苦悶の日々を過ごした。かかる甲事件
原告A1の精神的損害を慰謝するには,50万円を下らない(別紙請求額一覧表の
「A1」欄に対応する同一覧表の「②慰謝料」欄中のB欄)。
ウ 弁護士費用(別紙請求額一覧表③)
 原告らは,本訴を提起・維持するために,弁護士に委任する必要があったもので
あり,弁護士費用として,別紙請求額一覧表の各「当事者」欄に対応する同一覧表
の各「③弁護士費用」欄記載の金員を必要とするものである。
・ 被告ら
ア 入学金・授業料
 甲事件原告A4は,190万円の授業料を納めた旨主張するが,同原告が納めた
授業料は180万円である。その他については,原告学生らが各金員を支出したこ
とは認めるが,それが損害にあたるとの点は争う。
イ 慰謝料
 争う。
ウ 弁護士費用
 争う。
第5 争点に対する判断
1 争点1(被告アスピア学園が学生らに対して負うべき債務の内容)について
・ 証拠(甲1,2,37,51,乙2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実
が認められる。
ア 被告アスピア学園の平成10年度入学志願者向けの学校案内(甲1),平成1
1年度入学志願者向けの学校案内(乙2)の内容は以下のとおりであり,平成12
年度入学志願者向けの学校案内(甲2)にも,これに類似した内容が記載されてい
る。
・ 表紙にZ町営の青年の家(甲37)の写真が掲載されており,その正面には
「アスピア学園関西野球専門学校寮」(甲1)又は「アスピア学園関西野球学校」
(乙2)との看板が掲げられている。また,裏表紙には,Z町営のグラウンド,プ
ール,テニスコートなどの写真が掲載されている。
・ 設立趣旨として,「技術指導者は,キューバナショナルチームから5名の他,
日本人コーチは,ロサンゼルスオリンピック元監督のB3氏をはじめ,立教大学元
監督のJ氏,熊谷組元監督のO氏等,多数の豊富なコーチ陣を考えております。」,
「又このほか,IBA(国際アマチュア野球連盟)の許可を得て,審判員養成の部
も設けて,卒業時には,審判員認定書を授与致します。」,「隔年15日間程度,
キューバにてキャンプを行い,オープン戦及び中南米ドミニカ等との対戦を恒例行
事として予定しております。」,「目標のゴールは,プロフェッショナルのプレー
ヤーを目指し,日本のほか各国のプロ及びノンプロ球界にも(アメリカ大リーグ・
台湾のプロ・オーストラリア・イタリア等)選手を送り込む事です。」,「野球
は,キューバと日本
の球界のオーソリティーが応分の指導を申し上げます…」と記載されている。
・ 学科の種類内容として,「①ベースボール最高峰希望科(2ヶ年)」,「ベー
スボールインストラクター科(2ヶ年)①と併合」,「ベースボールアンパイヤ科
(2ヶ年)①と②を併合」が掲げられ,各学科の内容が別々に紹介されている。
 ベースボール最高峰希望科については,「世界に通用するベースボール技能はも
ちろんのこと,国際感覚を備えたプレーヤーを育成し日本のプロ及びノンプロ球
界,アメリカ大リーグ,台湾やオーストラリア,イタリアのプロ野球界といった世
界各国に送り込むことを最大の目的とするコースです。」,「授業内容としては,
技能の向上を目指す実技科目が主ですが,国際標準の野球ルールと日本の野球ルー
ルの違いなど,審判コースの授業科目にも一部触れたり,集中力を高めるための方
法を講師を招いて教授するなど魅力のある授業にしていくつもりです。」,「な
お,希望者は2年に1回,15日程度,キューバやドミニカにてキャンプに参加
し,実際に世界のトップレベルと対戦できる場を設けることを恒例行事としていま
す。」,「また,外国人講
師とのコミュニケーションの促進や,各自のの国際感覚を磨くために,英語及びス
ペイン語の授業も必須科目としてあります。」と説明されている。
・ 監督として,「K(元専修大学野球部監督・元滝川高校野球部監督)」,講師
として,「C(元慶応大学監督)」,「D(元専修大監督)」,「E(元プロ野球
選手・東都大記録保持者)」,「P(全日本野球連盟審判委員長)」,「B3(元
法政大学監督・元ロスアンゼルスオリンピック監督,JOC委員)」など,10数
名の者が,その経歴とともに紹介されている。
・ カリキュラムとして,午前9時から11時50分までの間に,3コマの学科科
目が組み込まれた時間割表が紹介されており,英会話とスペイン語が,それぞれ週
3コマ,一般教養と野球学が,それぞれ週2コマ,体育心理学,体育衛生学,トレ
ーニング,審判,情報処理が,それぞれ週1コマ行われるものとされている。
イ 被告アスピア学園の学費は,1年次が120万円(入学金20万円,授業料8
0万円,設備維持費20万円),2年次が100万円(授業料80万円,設備維持
費20万円)であり,寮費等は,月額5万円ないし7万円程度であった(甲1,
2,51,乙2)。
・ 以上を前提に,被告アスピア学園が負うべき債務の内容を検討するに,多種多
様な学生の能力・意欲に応じて柔軟に教育方針を決定しなければならないという学
校教育の性質上,その債務の内容を個別具体的なものとして特定することは困難で
あるものの,既に認定した被告アスピア学園の学校案内の記載内容からすれば,校
舎,寮,グラウンド,テニスコート,プール等,充実した施設のもと,それぞれ特
色のある複数の学科が存在し,学校案内に記載された著名な講師陣により,日々,
高度な実技指導が行われるとともに,英語,スペイン語をはじめとした多種多様か
つ専門性豊かな学科の授業が行われることが前提とされているものと認められ,こ
のような学校案内の記載内容に加えて,学生らが,年間100万円以上の高額な学
費等を負担すること
も併せて考慮すれば,被告アスピア学園は,1期生ないし3期生に対して,概ね,
以下の内容の債務を負うものと認めるのが相当である。
ア 学科授業について
・ ベースボール最高峰科,ベースボールインストラクター科,ベースボールアン
パイヤ科のそれぞれの目的,学生の能力に応じた個別指導を行うこと。
 この点,被告らは,学校案内の「学科の種類内容」欄の「ベースボールインスト
ラクター科」及び「ベースボールアンパイヤ科」の項目に「併合」と記載されてい
ることをもって,各学科はすべて併合されているものであるから,学科ごとに区分
して授業を行うべき義務はない旨主張するが,仮にそうであるとすれば,学校案内
に,わざわざ複数の学科について別々の内容を掲げて紹介する意味がなくなるか
ら,被告らの主張を採用することはできない。
・ 年間を通じ,学校案内に記載されているカリキュラムに従い,またはそれと同
視しうる内容の授業を行うこと。
  この点,被告らは,学生の能力,講義の実施状況等を考慮して講義内容を適宜
変更することは当然に許されると主張するが,学校案内に記載されたカリキュラム
と同一性を損なうような講義内容の変更を行うことは,かかる記載事項を信頼して
入学してくる学生の期待を裏切ることになり,許されるべきではない。したがっ
て,その限りにおいて,被告らの主張を採用することはできない。
イ 実技指導について
 K監督をはじめとした学校案内に記載されている講師陣が,常勤ないしはそれに
準ずる程度の頻度で出勤し,プロ野球チーム又は社会人野球チームへの入団を目指
しうる程度の内容を伴った実技指導を行うこと。
 この点,被告らは,講師の変更を行うことは,被告アスピア学園の裁量事項であ
るし,学生の能力を度外視して,高度な実技指導を行う義務はないと主張する。
 しかし,学校案内には,著名な講師陣がその肩書とともに列挙されており,学生
らは,このような著名な講師陣が,連日,実技指導を行ってくれるものと信頼して
入学してくるものと考えられ,学校案内の記載と全く同一性を損なうような講師の
変更を行うことは,かかる記載事項を信頼して入学してくる学生の期待を裏切るこ
とになるから許されるべきではない。また,学校案内に「目標のゴールは,プロフ
ェッショナルのプレーヤーを目指し,日本のほか各国のプロ及びノンプロ球界にも
(アメリカ大リーグ・台湾のプロ・オーストラリア・イタリア等)選手を送り込む
事です。」などと明記し,高度な野球技術の習得を教育内容として掲げている以
上,被告アスピア学園は,学生が希望すれば,いつでも学校案内に記載された講師
陣による高度な実技指
導を受けられるように教育環境を整えておく義務を負うものというべきであるか
ら,被告らの主張を採用することはできない。
ウ 施設・道具について
 学校案内に掲載されている施設又はそれと同程度の設備を備えた施設において授
業が行われ,ボール,バット等の基本的な道具のほか,バッティングマシンやコー
ルドスプレー等の設備及び備品が,実技練習を行うに不自由ない程度に用意されて
いること。
 この点,被告らは,被告アスピア学園が,前例のない野球専門学校であり,必要
な備品の種類及び数量は,学校運営をしていく中で徐々に明らかになるものである
から,開校当初から完全な設備を備える必要はないと主張する。
 しかし,学生らは,年間100万円以上の学費等を納入した上で,2年間という
限られた期間内に充実した学園生活を送ることを期待して,被告アスピア学園に入
学してくるものであるから,開校前に,学生の期待に十分に応えうる施設・道具を
用意しておくことは教育機関として当然の義務であると解すべきであり,被告らの
主張を採用することはできない。
エ 学生寮について
 学校案内において,プロ野球又は社会人野球に選手を送り出すことを目標として
掲げられていること,学生らが,月額5万円ないし7万円程度の寮費を納めている
ことなどに鑑みれば,被告アスピア学園は,スポーツを専門に行う学生が生活する
にふさわしい設備が備わった学生寮を用意するとともに,10代から20代のスポ
ーツ選手が通常摂食する程度の量の食事を3食欠かさず準備し,その栄養にも十分
に配慮すべき義務を負うものというべきである。 
2 争点2(被告アスピア学園の教育内容等)について
・ 証拠(甲7ないし27,30ないし35,38,46ないし51,54,5
6,62,乙3,5,21,31ないし33,53ないし55,59ないし62,
証人N,甲事件原告A4本人,甲事件原告A1本人,乙事件原告A16本人,被告
B3本人)及び弁論の全趣旨並びに争いのない事実によれば,被告アスピア学園
が,1期生ないし3期生に対して実施していた教育内容等は,以下のとおりであっ
たと認められる。
ア 学科授業について
 ・ 学科別指導等の不存在
a 1期生ないし3期生の中には,中学を卒業したばかりの者から大学を卒業ある
いは中退してきた者までいたが,全員が同じ内容の授業を受けていた(この点,被
告らは,学生らの間に学習能力の差がなかったから,学歴別のクラス編成を行わな
かった旨主張しているが,経験則に照らし到底採用できない。)。
b 2期生,3期生の中には,ベースボールインストラクター科を希望して入学し
てきた者もいたが(乙61・76頁),各学科ごとに区分した個別的な授業は行わ
れていなかった(この点,被告らは,1期生ないし3期生は,全員ベースボール最
高峰希望科を希望して入学してきた者であると主張しているが,そうであるとすれ
ば,これを裏付ける内部資料を書証として容易に提出しうるはずであるが,被告ら
は,これらの証拠を一切提出しておらず,被告らの主張を採用することはできな
い。)。
・ 授業の不実施
  a 平成10年4月に1期生が入学した当初,学生らは青年の家に宿泊し,青
年の家の空き部屋において授業が行われていたが,同年5月6日に,神戸市垂水区
内にある阿部企業の寮に転居してから,同年12月末にZ町に被告アスピア学園の
寮が完成し,転居するまでの間は,英語やスペイン語等の授業が数回行われたほか
は,平成11年1月に3学期が始まるまで,ほとんど授業が行われず,その後も,
授業が行われない日が多かった。
 この点,被告らは,阿部企業の寮からZ町までの移動に時間がかかり,学生らが
早朝に起床して移動しようとしなかったため,授業時間が減少したものであると主
張するが,仮にそうであったとしても,後記のとおり,十分な施設を整えないまま
に学生を受け入れた被告アスピア学園に責任がある以上,授業時間が減少したこと
を正当化しうる理由とはならず,被告らの主張は採用できない。
b 入学後,年間や月間のカリキュラム等は配布されず,週間のカリキュラム(乙
5)が配布されることはあったが,そのとおり授業は実施されなかった。
・ 授業内容の不十分
  全科目について,教科書が存在せず,体系的な授業は行われず,1年次と2年
次で授業の内容に変化がなかった(この点,被告らは,学生らの能力が劣っていた
ため,当初予定していた内容の授業が実施できなかったと主張するが,教科書が存
在しないことや体系的な授業が行われていないことなどは学生の能力等とは無関係
の事柄であるから,このような主張は採用することができない。)。具体的な授業
の内容は,以下のとおりである。
 a 英会話は,アルファベットを教えたり,問題集に記載された穴埋め問題をプ
リントしたものを用いて,30分程度の授業を行うのみであった。
 b スペイン語は,平成10年4月から6月の間に何回か行われたほかは,一切
行われなかった。
c 情報処理は,パソコンの台数が少なかったため,平成11年8月31日に,パ
ソコンを10台搬入するまで(乙21・9頁),まともな授業は行われなかった。
d 野球学,体育心理学,体育衛生学,トレーニングなどの授業は,講師の経験談
的な講話が中心で,体系的な知識を習得する授業は実施されなかった。
イ 実技指導について
・ 平成10年5月から同年12月末までは,阿部企業の寮から,Z町,加古川
市,姫路市のグラウンドまでバスで移動して練習を行っていた。練習時間は1日
2,3時間程度であり,バスの運転手を務めていた阿部企業の選手が一緒に練習に
参加する程度で,K監督らは,ほとんど指導を行わなかった。学校案内(甲1,
2,乙2)に記載されている講師陣は,常勤ではなく,それぞれ1年間に数回程度
来校して指導したにすぎない。
・ 平成11年1月に,L監督とMコーチが就任してからは,それまでに比べて練
習内容が改善されたものの,学生の野球技術の差に応じて個別の練習メニューが組
まれるわけではなく,全員が同じメニューで練習していた。
・ 平成12年4月,3期生が入学した直後に,L監督が辞任し,後任として,Q
監督とR,S,Tら4人のコーチが指導に当たったが,学校案内に記載された講師
陣は,月に1度来校して指導する程度であった。
・ 平成12年8月に,N監督が就任したが,わずか1か月足らずで解任された。
ウ 施設・道具について
・ 平成10年4月に1期生が入学した当初は,Z町営の青年の家に宿泊しながら
空き部屋で授業が行われ,その後,ハーモニーパークという宿泊施設(甲54)に
一時移転し,さらに,同年5月6日に神戸市垂水区内にある阿部企業の寮に移転
し,毎日,バスで1時間半程度かけてZ町等のグラウンドまで移動していた。
 この点,被告らは,1期生が青年の家を退去させられたのは,学生らが,飲酒,
喧嘩,麻雀等の問題行動を繰り返したためであると主張しているが,被告アスピア
学園が作成した平成10年5月7日付保護者宛文書(乙63)には,単に「5月5
日以降青年の家は使えず」と記載されているのみであり,学生らの問題行動を推認
させるような記載は一切なく,かえって,青年の家を退去することは当初から予定
されていたものと窺われるから,被告らの主張を採用することはできない。
・ 普段の練習に使用しているグラウンドは,Z町営の施設であったため,土曜日
と日曜日には,ほとんど使用することができなかった。
・ ボールは,数が少なく,新しいボールが補充されないため,学生らは,いつも
真っ黒で水を含んで重くなったボールを使って練習する状態であり,バットは,本
数が足りず,学生らが自分で持参してきたものを使用していた。また,バッティン
グマシンは,壊れていて使用できない状態であり,コールドスプレーなどのアイシ
ングの道具もなかった(この点,被告らが提出する証拠〔乙7,27〕によれば,
L監督らが,被告B1に対してボール等の補充を行うよう要求していたことが認め
られるが,これらの証拠のみでは,被告アスピア学園が,実際にボール等を仕入れ
て十分な補充を行っていたことの裏付けにはならない。)。
エ 学生寮について
 ・ 設備の不十分
a 1期生が,平成10年5月から12月まで居住していた阿部企業の寮には,6
畳の部屋に2人が入居し,ユニットバスが4人につき1つ設置されている状態であ
った。
 b 平成10年12月,Z町に被告アスピア学園の寮が完成し,学生らが入居し
たが,この寮においては,6畳の部屋に2人が入居し,同様の部屋が1フロアに5
つ並んでおり,1フロア(5部屋)につき1台のみ,廊下部分に家庭用の冷暖房設
備が設置され,同じく,1フロア(5部屋)につき1つのみ,家庭用の浴室が設置
されている状態であった(なお,被告らが提出する施設に関する写真撮影報告書
〔乙70〕は,平成13年10月26日に撮影されたものであり,本件で問題とさ
れている平成10年度から同12年度までの学生寮の状況を裏付けるものではな
い。)。
・ 食事の不十分
 a 阿部企業の寮では,朝食はコンビニエンスストアで購入した500円程度の
ものが出され,昼食及び夕食は,仕出し弁当が出された。
b Z町の寮では,朝食は,ご飯とみそ汁のみであり,みそ汁さえないときや,食
パンと牛乳だけのときもあった。昼食及び夕食は,ご飯におかずが2品程度付くの
みであったため,学生らは,実家から送られたレトルト食品等を食べて,空腹を満
たしている状態であった(被告らが提出する献立表〔乙104〕については,そも
そも,これに記載されているとおりの食事が実際に提供されていたことを裏付ける
客観的証拠がないし,学生寮に勤務する職員の陳述書〔乙92,93〕は,定型的
な文面の書面に署名押印がなされているものにすぎず,しかも,被告アスピア学園
と雇用関係にある者の陳述書であるから,容易に信用できない。)。
・ これに対し,被告らは,原告らが,単にN監督らにあおられて本件訴訟を提起
したにすぎない旨主張しているので,原告学生らの供述(甲31ないし35,4
6,47,49,51を含む。)及び証人Nの証言(甲50を含む。)の信用性に
つき検討するに,これらの供述及び証言は,被告アスピア学園における学科授業,
実技指導,施設・道具,学生寮の内容等の主要な点において相互に一致しており,
内容も極めて具体的である上,特段の矛盾・変遷も認められないこと,他の客観的
証拠との齟齬が認められないなど,信用性を疑わせるに足りる事情が存しない(こ
の点,被告アスピア学園の卒業生らの陳述書〔乙94ないし101〕は,いずれも
定型的な文面の書面に署名押印がなされているものにすぎず,たやすく信用できな
い。また,被告B1は
,原告学生らが,在学中素行不良であったことなどを供述するが,たとえそのよう
な事実が認められたとしても,それのみでは原告学生らの供述がすべて虚偽である
ということにはならない。)ことなどからして,これらの供述及び証言には十分な
信用性が認められるものというべきである。
・ 逆に,被告B1は,被告らの主張に沿った供述をしているが(乙79を含
む。),本来,被告B1は,自らの供述につき容易に裏付け証拠を提出しうる立場
にあるにもかかわらず,学科授業,実技指導,施設・道具面などの重要な部分につ
いて的確な裏付け証拠が存在しないばかりでなく,実施した授業時間数等の点につ
いて客観的証拠と矛盾しており(甲44,乙33,被告B1本人・6頁),たやす
く信用することができない。
3 争点3(被告アスピア学園の責任原因)について
ア 被告アスピア学園の教育内容等について
 ・ 債務不履行について
 上記1及び2を前提にすると,被告アスピア学園は,学科授業,実技指導,施
設・道具,学生寮の点において,原告学生らに対して負うべき債務を,その本旨に
従って履行していたものとは到底いえず,原告学生らに対する債務不履行責任を免
れないというべきである。(なお,入学後1週間程度で中途退学している甲事件原
告A8についても,同原告が,被告アスピア学園の実態を知り,これ以上在学して
も無意味だと判断して退学した旨陳述していること〔甲47〕,退学届〔乙19〕
に「家庭の都合により」退学する記載されているのは,単なる決まり文句にすぎな
いとも考えられることなどからすれば,被告アスピア学園は,同原告に対しても債
務不履行責任を免れないと解すべきである。)。 
 もっとも,原告父母らは,あくまで,被告アスピア学園に実際に入学する原告学
生らの保護者として入学志願書(甲4)に署名押印し,事実上,入学金や授業料等
を出捐しているにすぎないから,入学契約ないし在学契約の当事者の立場にあると
はいえず,不法行為責任は格別,債務不履行責任を追及しうる立場にはないものと
解すべきである。
・ 不法行為について
 被告アスピア学園は,平成10年度ないし平成12年度入学志願者向けの学校案
内(甲1,2,乙2)において,プロ野球界等に選手を送り出すことを目的とし
て,著名な講師陣による充実した実技指導を行うとともに,英語及びスペイン語を
はじめとした豊富かつ魅力的な授業を行うことなどを声高に標榜して入学希望者を
募集していながら,上記2・で認定したように,上記学校案内の記載内容とは,お
よそかけ離れた形態において学校運営を行い,しかも,原告父母らが,再三,運営
を改善するよう申し入れたにもかかわらず(甲34,57ないし61,63,乙5
9,甲事件原告A3本人),これに対して特段の措置を講じず,その結果,学校案
内に記載された内容どおりの教育を受け,充実した学園生活を送ることができる
(または,自らの子にそ
のような学園生活を送らせることができる)との原告らの期待を裏切ったものとい
え,このような学校運営の実態及びその違法性に着目すれば,被告アスピア学園
は,単に,原告学生らに対して債務不履行責任を負うにすぎないものでなく,原告
らに対して不法行為責任をも負うものと解すべきである。  
イ 甲事件原告A1に対する登録抹消証明書の発行が遅滞した点について
 証拠(甲31,63,甲事件原告A1,甲事件原告A3)及び弁論の全趣旨によ
れば,甲事件原告A1は,平成12年3月末に,被告アスピア学園に対して,中途
退学することを申し出て,学生寮の部屋を引き払うとともに,同年4月に入ってか
ら,数回にわたり,被告アスピア学園に対し,登録抹消手続を行うよう要求したこ
とが認められる。
 この点,被告らは,甲事件原告A1が,平成12年3月末に無断で帰宅し,その
後何の連絡もしないまま,同年6月初旬になってはじめて登録抹消証明書を発行す
るよう申し出て来たものであり,このような事情を考慮すれば,被告アスピア学園
が登録抹消手続及び登録抹消証明書の発行を直ちに行わなかったことには合理的理
由があると主張するが,そのような事実を裏付けるに足りる証拠はないし,たとえ
被告らの主張するとおりであったとしても,平成13年5月まで約1年にわたり登
録抹消証明書の発行が遅滞したことを正当化する理由とはなり得ないから,被告ら
の主張を採用することはできない。
 したがって,被告アスピア学園が,平成13年5月まで甲事件原告A1に対する
登録抹消証明書を発行しなかったことは,何ら合理的な理由のない違法な行為とい
うよりほかなく,これによって,甲事件原告A1は,日本野球連盟に加盟する他の
チームへの転籍再登録を速やかに行うことができなかったものであるから,被告ア
スピア学園は,甲事件原告A1に対して,不法行為責任を負うものと解すべきであ
る。
ウ なお,後記のとおり,被告アスピア学園の不法行為は,被告B1の不法行為と
主観的関連共同性を有することは明らかであるから,被告アスピア学園は,被告B
1とともに民法719条1項の共同不法行為者としての責任を負うものと解すべき
である。 
4 争点4(被告B1の責任原因)について
 証拠(甲1ないし4,44,45,48,乙2,7,59,62,被告B1本
人,被告B2本人,被告B3本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告B1は,被告
アスピア学園の創立者,設立代表者であるとともに理事長でもあること,被告アス
ピア学園の設立当初の基本財産及び運用財産のすべてである合計約1億円につい
て,その全額を被告B1が寄付していること,被告アスピア学園が練習道具等を購
入したり,備品を修理に出したりする際には,逐一,被告B1の承認を得ることが
必要であったこと,最高顧問,学園長等は,被告アスピア学園の学校運営について
何ら実質的な権限を有していないことがそれぞれ認められる。
 これらの事実を総合すれば,被告アスピア学園の運営事項については,細部に至
るまですべて被告B1が決定していたものと認めるのが相当であり,そうである以
上,上記3ア・で述べたとおり,学校案内に記載された内容とかけ離れた形態にお
いて被告アスピア学園の運営を行い,原告父母らが,再三,運営を改善するよう申
し入れたにもかかわらず,これに対して特段の措置を講じなかった点について,被
告B1個人も,原告らに対して不法行為責任を負うものと解するのが相当である。
 そして,上記のとおり,被告B1の行為は,被告アスピア学園の行為と一体化し
たものであり,両者の間には主観的関連共同性が認められるから,被告B1は,被
告アスピア学園とともに民法719条1項の共同不法行為者としての責任を負うも
のと解すべきである。
5 争点5(被告B3,B2の責任原因)について
・ 被告アスピア学園の学校案内に経歴等を掲載した点について
 原告らは,被告B2及び被告B3が,被告アスピア学園の学校案内に,被告B2
は最高顧問,被告B3は講師又は学園長として,自らの肩書,経歴及び顔写真を記
載している以上,被告アスピア学園の学校案内に記載されている事項に間違いがな
いか,学校の実態に問題はないかなどついて調査したり,このような調査した上
で,学校案内への掲載を取りやめ,又は撤回させる注意義務を負い,かかる注意義
務に違反したことが不法行為(民法709条又は719条2項)にあたると主張す
る。
 この点,学校案内も入学対象者に対する宣伝広告の一種であると考えられるとこ
ろ,このような宣伝広告は,常に,その広告内容に関して,受け手に誤った認識を
植え付ける危険性を有するものである以上,宣伝広告に関与する者は,このような
危険性に十分配慮することが必要であり,仮に,受け手が宣伝広告を誤信した結果
なんらかの損害を被った場合,これについて不法行為責任を負う可能性もあるが,
もとより,いかなる場合においても無限定に責任を負うわけではないことは当然で
あり,その責任の有無・内容を決定するにあたっては,①当該宣伝広告の内容自体
から,それが虚偽であることが明白か否か,②当該宣伝広告に対する関与の態様及
び効果,③当該宣伝広告に関与することによって関与者が受ける利益の多寡等の諸
般の事情を総合考慮
して判断すべきである。
 しかるに,証拠(甲1,2,乙2,被告B1本人,被告B2本人,被告B3本
人)及び弁論の全趣旨によれば,①被告アスピア学園の学校案内の内容について
は,客観的にみて,それが明らかに虚偽であると容易に認識できるものではない
し,②被告B2は,学校案内に,「最高顧問」の肩書と顔写真及び氏名を,被告B
3は,「講師」の肩書(なお,「学園長」の肩書が付されているのは,平成13年
度入学志願者向けの学校案内〔甲3,4〕のみである。)と「元法政大学監督・元
ロスアンゼルスオリンピック監督・JOC委員」との経歴及び氏名を掲載されるこ
とを承諾しており,これが,被告アスピア学園の信用性を高めていることは否定で
きないものの,被告B2,被告B3とも,自己の名義で推薦文を付記するなど被告
アスピア学園に対する積極
的な推奨行為を何ら行っておらず,あくまで,学校案内における他の記載内容(設
立趣旨,講師陣紹介,学科紹介,施設の写真等)と相まって,被告アスピア学園の
信用性を高める一助となっているにすぎないこと,③被告B2及び被告B3は,学
校案内に氏名等を掲載したことについて,被告アスピア学園から特段の報酬を受け
取っていないことがそれぞれ認められ,これらの事情を総合考慮すれば,被告B2
及び被告B3が,学校案内に自己の氏名等を掲載するに際して,学校案内に記載さ
れている事項に間違いがないか,学校の実態に問題はないかなどについて調査した
り,このような調査した上で,学校案内への掲載を取りやめ,又は撤回させる法的
な注意義務を負うとまでは解することができないものというべきである。
 よって,この点についての原告らの主張を認めることはできない。
・ 被告アスピア学園の運営に関与した点について
 原告らは,被告B2及び被告B3が,それぞれ,最高顧問,講師又は学園長とし
て,被告アスピア学園の教育内容や施設等の問題に関し,適切な助言や指導を行
い,これを改善していく義務があるにもかかわらず,かかる義務を履行しなかった
ことが不法行為にあたると主張する。
 しかしながら,証拠(乙79,80,102,被告B1本人,被告B2本人,被
告B3本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告B2及び被告B3は,それぞれ,最
高顧問,学園長の肩書を有してはいるものの,いずれも被告アスピア学園の学校運
営に関して何ら実質的な権限を有しておらず,しかも,被告アスピア学園から,交
通費や日当以外の報酬を受け取っていないことが認められ,いわば被告B1に対す
る個人的な情誼からボランティア的な立場において被告アスピア学園の活動を援助
していたにすぎないものと認められるから,被告アスピア学園の学校運営に関して
道義的責任を負うことは別段,その教育内容等を改善すべき法的義務を負うとまで
は認めることができない。
 よって,この点についての原告らの主張を認めることはできない。
6 争点6(損害の発生及び額)について
・ 入学金・授業料等(別紙認容額一覧表①)
 原告学生らは,被告アスピア学園に対して,別紙認容額一覧表の各「当事者」欄
に対応する同一覧表の各「①入学金・授業料等」欄に記載の金員を支払ったもので
あり(争いのない事実),にもかかわらず,上記のとおり,被告アスピア学園の杜
撰な学校運営により,十分な教育を受けられなかったのであるから,被告アスピア
学園に対して支払った入学金・授業料等の全額が,債務不履行又は不法行為による
原告学生らの損害にあたるものと認めるのが相当である。なお,甲事件原告A4
は,被告アスピア学園に対して,授業料として190万円を支払った旨主張する
が,この点を裏付けるに足りる証拠がなく,被告らが認めている180万円の限度
において損害と認められるものと解すべきである。
・ 慰謝料(別紙認容額一覧表②)
ア 被告アスピア学園の教育内容等について 
・ 原告学生らは,プロ野球や社会人野球の世界を目指すなどして,充実した設備
のもと,高度な実技指導や内容に富んだ学科授業を受けられるものと期待して被告
アスピア学園に入学したものであるが(甲31ないし33,35,46,47,4
9,51,甲事件原告A4本人,甲事件原告A1本人,乙事件原告A16本人),
被告アスピア学園の杜撰な学校運営により,その期待は裏切られ,貴重な時間を浪
費させられるという精神的損害を被った。かかる精神的損害を慰謝するには別紙認
容額一覧表の各「当事者」欄に対応する同一覧表の各「②慰謝料」欄(ただし,甲
事件原告A1については,同欄中のA欄)記載の金員を下らないものと認めるのが
相当である。
・ 原告父母らの慰謝料
 原告父母らは,自らの子が,プロ野球又は社会人野球の世界を目指すなどして,
充実した設備のもと,高度な実技指導や内容に富んだ学科授業を受けられるものと
期待して被告アスピア学園に入学させたものであるが,被告アスピア学園の杜撰な
学校運営により,その期待は裏切られ,貴重な時間を浪費させたという精神的損害
を被ったものと認められる(甲34,52,53,64,65,甲事件原告A
3)。
 しかしながら,上記・のとおり,原告学生らの慰謝料請求が認められ,これによ
って,同時に,原告父母らの精神的損害も慰謝されたものとみるのが相当であるか
ら,別途,原告父母らが,固有の慰謝料を請求することまでは認められないものと
いうべきである。
イ 甲事件原告A1に対する登録抹消証明書の発行が遅滞した点について
 甲事件原告A1は,平成12年3月に被告アスピア学園を中途退学した後,直ち
に登録抹消証明書の発行をうけられなかったため,日本野球連盟に加盟する他のチ
ームへの転籍再登録を速やかに行うことができず,これにより,20歳台前半の時
期の約1年間,日本野球連盟が主催する試合に出られない状況に置かれ続けるとい
う苦悶を強いられた(甲31,甲事件原告A1本人)。かかる甲事件原告A1の精
神的損害を慰謝するには,25万円が相当であるというべきである。
・ 弁護士費用(別紙認容額一覧表③)
 原告学生らは,法律知識を有しておらず,自己の損害賠償請求権を実現するため
本件訴訟を提起・維持するにあたり,弁護士に依頼する必要があったものと認めら
れ,そのために要した費用としては,別紙認容額一覧表の各「当事者」欄に対応す
る同一覧表の各「③弁護士費用」欄記載の金員が相当である。なお,原告父母らに
ついては,上記・ア・で述べたとおり,慰謝料請求権を有さず,その他何ら損害賠
償請求権を有しない以上,弁護士費用を請求することは認められないものというべ
きである。
第6 結論
以上によれば,原告学生らの請求は,被告アスピア学園及び被告B1に対しては,
主文第1項及び第2項に掲げた限度で理由があるからこれを認容し,被告B2及び
被告B3に対する請求は理由がないからこれをいずれも棄却し,原告父母らの請求
は,理由がないからこれをいずれも棄却し,主文のとおり判決する。
  大阪地方裁判所第12民事部
      裁 判 長 裁 判 官   中  村  ・  次
            裁 判 官   宮  武     康
            裁 判 官藪     崇  司

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