弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原告と被告間の名古屋地方裁判所平成14年(手ワ)第125号約束手形金請求事
件について同裁判所が平成14年10月2日に言い渡した手形判決を取り消す。
2原告の請求を棄却する。
3訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は原告に対し,5000万円及びこれに対する平成14年7月31日から支
払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3仮執行宣言
第2事案の概要
1本件は,約束手形の所持人である原告が裏書人である被告に対し,約束手形金及
びこれに対する満期日から支払済みまで手形法所定の年6分の割合による利息金の
支払を求めたところ,請求認容の手形判決がされたため,これを不服とする被告の
異議申立てにより通常訴訟に移行したものである。
2請求原因
(1)被告は,別紙約束手形目録記載の約束手形(以下「本件手形」という。)に,拒
絶証書作成義務を免除して,裏書をした。
(2)本件手形の裏面には,第1裏書人被告,第1被裏書人白地,第2裏書人有限会社
A,第2被裏書人白地,第3裏書人B株式会社,第3被裏書人白地,第4裏書人原
告,第4被裏書人取立委任のため株式会社C銀行との記載がある。
(3)原告は,本件手形を所持している。
(4)よって,原告は被告に対し,本件手形金5000万円及びこれに対する満期日で
ある平成14年7月31日から支払済みまで手形法所定の年6分の割合による利息
の支払を求める。
3請求原因に対する認否
請求原因(1)の事実は認め,同(2),(3)の事実は知らない。
4抗弁
(1)被告は,本件手形の受取人であり,これを振出人であるD株式会社(以下「D」
という。)から商品代金債権の担保のために受け取ったものの,その必要がなくな
ったため,これをDに返還したが,その際,本件手形の第1裏書を抹消すべきとこ
ろ,これを失念し,抹消しないまま返還したものである。
(2)第2裏書人である有限会社A(以下「A」という。),第3裏書人であるB株式
会社(以下「B」という。)及び原告は,いずれも前記(1)の事実を知りながら本件
手形を取得したか,又はこれを知らなかったことについて重大な過失がある。よっ
て,原告は本件手形上の権利を取得しない。
5抗弁に対する認否
抗弁事実はいずれも否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1請求原因(1)の事実は当事者間に争いがなく,同(2),(3)の事実は甲1の1ないし
3及び弁論の全趣旨により認められる。
2抗弁について判断するに,証拠(乙ロ12,22,23,証人E,原告,後掲証
拠)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
(1)本件手形は,新潟県F市内で米穀卸・小売業を営むDが東京都中央区築地で水産
物等を扱っている被告から冷凍蟹等を仕入れるについて,取引量の拡大と代金支払
の担保として振出し交付した額面5000万円の約束手形2通のうちの1通であ
る。その交付を受けた被告はDに対し,平成14年5月21日,これ以上の取引量
を増やせないとの理由で本件手形を返還したが,その際に本件手形の第1裏書人欄
にある被告の記名押印部分を抹消することを失念した。その後,Dの代表者である
G(以下「G」という。)が,当時Dの埼玉営業所長であったH(以下「H」とい
う。)に「手形を預からして下さい。」と言われて,本件手形をHに預けたとこ
ろ,同年6月10日頃,Hは本件手形を持ち逃げしたまま行方をくらましてしまっ
た。
(2)Dは,H及びその関係者に本件手形を含む約束手形や預金を持ち逃げされたた
め,営業の継続が困難となり,同年6月14日に「営業廃止」の張り紙をして,新
潟地方裁判所三条支部に破産申立てをし,同月27日に破産宣告の決定を受けた
(乙ロ1の1・2)。
(3)本件手形の第2裏書人欄に記名押印のあるAは,商業登記簿上見当たらず,商業
登記簿上,Aの住所地にはAと代表者(I)を同じくする「有限会社J」なる会社
が存在するが,有限会社Jは既に平成7年10月4日に手形不渡による銀行取引停
止処分を受けて倒産しており,商業登記簿上の住所地に存在しないものである(乙
ロ9,10)。
(4)また,本件手形の第3裏書人欄に記名押印のあるBは,平成8年6月1日に平成
2年法律第64号附則第6条1項の規定により解散となり,同年9月11日に清算
結了となっている会社であり,本件手形の第3裏書人欄に記載された住所地所在の
ビルに,過去,Bなりその代表者であり清算人であったK(以下「K」という。)
なるものが入居した事実はない(乙ロ9,11)。
(5)本件手形の所持人である原告は,化粧品等の販売を業とする「株式会社L」及び
エステティックサロンの経営を業とする「株式会社M」等を経営している者である
(乙ロ9)。
(6)原告は,取立のためC銀行に裏書きしたうえ,本件手形を満期に支払呈示したが
不渡りとなったため,平成14年8月6日,Dの破産管財人を相手に本件手形の破
産債権確定訴訟(新潟地方裁判所三条支部平成14年(ワ)第92号)を,被告,A
ことI及びBことKを相手にいずれも手形訴訟(当裁判所平成14年(手ワ)第12
5号)を提起した。BことKに対する前記手形訴訟において,Kは本件手形の裏書
を否認して争った(乙ロ21)ところ,Kによる裏書の事実は認められないとの理
由で請求棄却の手形判決を受けた原告は異議を申し立てたが,前記手形判決を認可
する旨の一審判決を受け,同判決は原告から控訴がなく確定した(当裁判所が職務
上知り得た事実)。
3ところで,原告は,本件手形を取得するに至った経緯について,「平成14年5
月31日頃,Kから本件手形割引の依頼があったため,帝国データバンクでDの信
用調査をするとともに,Dの経理担当者に電話で振出確認をしたうえで,同年6月
3日,知人のN(以下「N」という。)から5000万円を返済期・同年8月8
日,利息・年10%の約定で借り入れて,同月5日,Kに対して,本件手形を満期
日までの年6%の割合による割引料46万8493円を控除した4953万150
7円で割り引き同金員を交付した。」旨供述し,これに沿う「B代表取締役K」と
の記名押印のある平成14年6月5日付け5000万円の受領証(甲2),株式会
社Lの事務所内の机上に置かれた前記割引にかかる現金を前に座っている女性の写
真(甲3),原告作成
名義のN宛5000万円の同月3日付け金銭借用証書(乙ロ18の4),Nの名刺
(乙ロ18の5)も存する。
しかしながら,原告の供述によっても,原告とKとは平成7年頃に1年間売買取引
関係が続いたが,その後は交渉がなかったというのであり,本件手形の割引を依頼
されたとする当時,Kが何をしており,どういう経路で本件手形を取得したか,い
かなる理由で手形割引を依頼するに至ったか等についてどのような調査をしたか具
体的供述はないこと,本件手形について,振出人であるD以外の被告ら裏書人に対
しては,裏書確認等の調査をしていないばかりか,Dに対する振出確認の存否につ
いても,証拠(乙ロ16の1ないし3)によると,原告が振出確認のためにしたと
する電話先はG夫婦しか居住していないGの自宅の電話番号であって,Dの経理担
当者なる者がその電話を受けるといったことはありえないというのであるから,D
に対する振出確認の
事実さえ怪しいこと,本件手形割引の資金としてNから5000万円を年利10%
で借り受けながら,これを下回る年利6%で,平成7年頃以来交渉のなかったKの
ために本件手形を割り引くといった原告の行為は経済人として通常考えがたいこ
と,Kは前記手形訴訟において第3裏書人欄にあるBの記名押印及びその裏書をい
ずれも否認し,原告のKに対する手形金請求が棄却されているにもかかわらず,こ
れを受け入れたまま何らの措置も講じていないこと等の事実が指摘できる。これら
指摘の事情は,真実,Kから手形割引により本件手形を取得した者の行動としては
極めて不自然・不合理であるというべきである。
4以上の検討によると,本件手形の第2裏書人欄に記載のAは架空の会社であり,
第3裏書人欄に記載のBは,その裏書当時とみられる平成14年6月頃には,既に
解散しており存在しない会社であるから,A及びBが本件手形を善意取得したとは
認められないし,また,原告がBから手形割引により本件手形を取得したと認める
ことは困難であり,Bその他の者からこれを取得したとしても,その取得の経緯に
ついてこれを確認したことはなく,振出人であるDや第1裏書人の被告に対して,
その振出ないし裏書の確認をしないまま,本件手形を取得したのであるから,原告
には本件手形の前主が無権利者であることについて悪意ないし重大な過失があった
ものというべきである。よって,原告が本件手形を善意取得したと認めることはで
きない。
5以上の次第で,原告の請求を認容した手形判決は相当でないから,これを取り消
したうえ,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第8部
裁判官 黒 岩 巳 敏
(別紙約束手形目録省略)

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