弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成17年(行ケ)第10227号(東京高等裁判所平成16年(行ケ)第459号)
審決取消請求事件
平成17年2月28日口頭弁論終結
    判決
  原告     ポーラ化成工業株式会社
訴訟代理人弁理士   遠山勉
同    松倉秀実
同五味飛鳥
  被告  特許庁長官 小川洋
指定代理人      森則雄
 同藤正明
同 宮下正之
     主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
    事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 原告
(1) 特許庁が不服2003-5705号事件について平成16年9月7日にし
た審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は,平成13年3月22日,意匠に係る物品を「コンパクト」とし,別
紙審決書写し添付の別紙第1の意匠(以下「本願意匠」という)につき,同別紙第
2の意匠を本意匠(以下「本件本意匠」という。)とする関連意匠として意匠登録
出願(2001年意匠登録願第7969号,以下「本件出願」という。)をしたと
ころ,平成15年2月24日付けで拒絶査定を受けたので,同年4月4日,これに
対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2003-5705号事件と
して審理した結果,平成16年9月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決をし,同月17日,その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
 別紙審決書の写しのとおりであり,要するに,本願意匠(部分意匠)は,本
件本意匠(部分意匠)に類似するものではなく,意匠法10条1項に該当しないか
ら,意匠登録を受けることができない,とするものである。
 審決が,その判断の前提として,本願意匠と本件本意匠との共通点及び差異
点として認定したところは,次のとおりである。
(共通点)
 凸部集合部分全体は,透明体とした上蓋において,上蓋上面部の地に対し
突出形成した凸部複数が上蓋上面部の表側と裏側それぞれの全面に行き渡るように
表した凸部集合態様としたものであり,表側の凸部集合部分は,凸部を低い円盤状
のものとして,主に同大の凸部複数を等間隔で近接して縦横に整列配置したもので
あり,裏側の凸部集合部分は,凸部を低い円盤状のものとして,主に同大の凸部複
数を,表側の凸部集合部分に対しずらして,等間隔で近接して縦横に整列配置した
ものである点
(差異点)
(1) 凸部集合部分全体について,本願意匠は,外回り辺が平面視横細長長方形
状で地が水平面状の上蓋上面部形状に合わせて表した凸部集合態様としているのに
対して,本意匠は,外回り辺が平面視円形状で地が緩やかに膨出する曲面上の上蓋
上面部形状に合わせて表した凸部集合態様としている点
(2) 表側の凸部集合部分について,本願意匠は,凸部を頂面が水平面状のもの
とし,同形の凸部複数を横列では2列,縦列では9列表しているのに対して,本意
匠は,凸部を頂面が地に沿ってやや膨出する曲面状のものとし,凸部複数を,その
うち上蓋上面部表側の円形状の外回り辺沿いの凸縁に接する凸部は凸縁に沿って円
盤状のものの一部を切り欠いたものとして,横列では5列,縦列では5列表してい
る点
(3) 裏側の凸部集合部分について,本願意匠は,凸部を,表側の凸部と同形
の,頂面が水平面状のものとし,同形の凸部複数を,そのうち上蓋上面部裏側の横
細長長方形状の外回り辺の左右辺と後辺左右端に接する凸部は各辺に沿って円盤状
のものの一部を切り欠いたものとして,横列では2列,縦列では10列表している
に対して,本意匠は,凸部を頂面が地に沿ってやや窪む曲面状のものとし,凸部複
数を,そのうち上蓋上面部裏側の円形状の外回り辺に接する凸部は外回り辺に沿っ
て円盤状のものの一部を切り欠いたものとし,また,前側中央と後側中央の凸部に
ついてはそれぞれ4個の凸部が中心で互いに癒着して一体になった変形凸部とし
て,横列では2列,縦列では10列(注・「横列では6列,縦列では6列」の誤記
と認める。)表している点
(4) 表側の凸部集合部分に対する裏側の凸部集合部分の配置について,本願意
匠は,横方向にのみ凸部の略半径分程ずらしているのに対して,本意匠は,横方向
にも縦方向にも凸部の略半径分程ずれるように斜め方向にずらしている点
(5) 表側から透けて見える裏側の凸部集合部分と表側の凸部集合部分とで,真
平面視において,本願意匠は,複数の円形状が横方向にのみ略半径分程ずれて重な
りながら左右(長手方向)に連なる態様を呈するものであるのに対して,本意匠
は,複数の円形状が横方向にも縦方向にも略半径分程ずれるように斜め方向にずれ
て重なりながら四方に連なる略七宝繋ぎ様の態様を呈するものである点
(以下,これらの差異点を「差異点(1)」などという。)
第3 原告主張の取消事由の要点
 審決は,本願意匠と本件本意匠の重要な共通点を看過した上,本願意匠と本
件本意匠との類否判断を誤ったものであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼす
ことは明らかであるから,取り消されるべきである。
1 共通点の看過
 本願意匠と本件本意匠とは,審決が認定した共通点のほかに,その具体的な
態様において次の点が共通しているにもかかわらず,審決はこれを看過している。
(1) 円盤状凸部の大きさ
 個々の円盤状凸部は,その高さと円の直径の比が1対14程で共通してい
る。
(2) 円盤状凸部の単位面積あたりの数
 両意匠は,ともに物品「コンパクト」に係る意匠であり,その常識的な大
きさは掌に乗る程度である。この点を踏まえれば,両意匠の円盤状凸部が或る単位
面積中に含まれる数は同数となる。
(3) 円盤状凸部の表側と裏側のずれ幅
 両意匠は,透明体の上蓋の表側と裏側で凸部集合部分をずらして配置して
いるが,横方向及び斜め方向の差異はあるものの,その「ずれ」の幅は,円盤状凸
部の直径のちょうど半分である点で共通している。
 以上のように,本願意匠と本件本意匠は,その「高さと直径の比」が一致す
る円盤状凸部を,「単位面積あたりの数」を同じくして整列配置して成り,かつ,
上蓋の表裏における円盤状凸部の「ずれの幅」においても,共通性を持たせている
ものである。かかる共通点は,両者の類比を判断する上での重要な要素であり,こ
れを看過した審決には重大な瑕疵がある。
2 部分意匠における類否判断の誤り
 本願意匠と本件本意匠は,いずれも部分意匠として意匠登録出願したもので
あるところ,審決は,部分意匠制度の趣旨を正解せず,「部分意匠として意匠登録
を受けようとする部分」以外の部分の形態について,殊更重要視した類否判断を行
っており,このような類否判断は誤りである。
(1) 部分意匠の制度は,全体観察による類比判断の弊害を克服することを目的
としているのであるから,部分意匠同士の類否判断においては,「部分意匠として
意匠登録を受けようとする部分」(以下「実線部分」ともいう。)の形態の異同を
中心的に観察し,その共通点及び差異点を総合評価して,類否判断をすべきであ
り,実線部分以外の部分(以下「破線部分」ともいう。)の形態の異同を殊更に重
視すべきではない。
 対比する2つの実線部分に存在する差異点には,①破線部分の形態の差異
に起因して生じている差異点(以下「破線部分起因差異点」という。)と,②破線
部分の形態とは無関係な差異点(以下「実線部分固有差異点」という。)とが存在
するが,部分意匠同士の類否判断において,この「破線部分起因差異点」と「実線
部分固有差異点」を等価値に扱うことは許されない。すなわち,「破線部分起因差
異点」は,実線部分に固有の形態の差異ではなく,実質的に破線部分の形態の差異
であるから,部分意匠同士の類否判断において,実線部分に存在する差異点は,
「実線部分固有差異点」を中心に,「破線部分起因差異点」の評価ウエイトを低く
し,あるいは捨象して,その総合評価を行う必要があるのである。
(2) 本願意匠と本件本意匠について,差異点(1)ないし(5)があることは認める
が,これらのうち特に差異点(1)ないし(3)は,「破線部分起因差異点」を多く含ん
でいる。すなわち,審決が,「両意匠の凸部集合態様差は,上蓋上面部形状差に起
因して顕著に表れ」と説示するように,差異点(1)ないし(3)は,差異点(3)における
「変形凸部」に関する差異を除き,コンパクト全体の外形の差異(本願意匠は横長
長方形状のコンパクトであり,本件本意匠は緩やかに膨出する円形状(以下「凸レ
ンズ状」ともいう。)のコンパクトである。)に基づく「破線部分起因差異点」で
ある。差異点(1)は,実質的に,単に本件コンパクトの外形が横長長方形か凸レンズ
状であるかを述べているに過ぎないし,差異点(2)及び(3)についても(「変形凸
部」を除き),同大の円盤状凸部を縦横等間隔に,異なる地の上に整列配置すれば
当然に生じる差異に過ぎない。
 このように差異点(1)ないし(3)のほとんどは「破線部分起因差異点」であ
るから,本件の類比判断において重要視されるべきではなく,これらの「破線部分
起因差異点」の存在を理由に,本願意匠と本件本意匠が異なるとした審決の判断
は,実質的に「破線で表されたコンパクト全体の外形が異なるから,両部分意匠は
異なる」としているに等しいものであって,部分意匠制度の趣旨に悖るものであ
る。
(3) 本件において,両意匠の類比を左右する「実線部分固有差異点」は,差異
点(3)で指摘されている「前側中央と後側中央の円盤状凸部をそれぞれ4つ癒着して
一体の変形凸部にしている」か否かの点と,差異点(4)で指摘されている上蓋表裏の
凸部集合を「横方向にのみずらした」か「横方向にも縦方向にもずらした」かの点
の,2点のみである(審決の指摘する差異点(4)と(5)は,実質的に同じことを述べ
ているに過ぎない。)。他方,本願意匠と本件本意匠には,審決が認定した共通点
のほか,上記1の共通点があり,これらの共通点にこそ,両意匠の独創的特徴が存
在しているのであって,上記2つの差異は,その具体的な態様における微差に過ぎ
ないものである。したがって,本願意匠と本件本意匠は,その独創的特徴を共通に
するものであり,相互に類似するというべきであり,これと異なる審決の判断は誤
りである。
3 関連意匠における類否判断の誤り
 本願意匠は,本件本意匠を本意匠とする関連意匠として出願したものである
ところ,審決は,関連意匠制度の趣旨を正解せず,両意匠を非類似であるとして関
連意匠としての保護を否定したものであり,この判断は誤りである。
 関連意匠制度は,「デザイン開発の過程で,一のデザイン・コンセプトから
創作されたバリエーションの意匠」を,互いに関連づけて,同等に保護するもので
あるから,関連意匠制度の下で保護される「類似する意匠」に該当するか否かは,
本意匠との間のデザイン・コンセプトの共通性いかんによるというべきである。
 審決は,本願意匠と本件本意匠の共通点について,「その創作前提とした概
念上の共通点に止まる」としているが,概念上の共通点を認めたのであれば,これ
をデザイン・コンセプトの共通性として考慮し,両意匠の関連性を肯定すべきであ
り,しかも前記1の共通性を考慮すれば,本願意匠を関連意匠として保護するの
が,関連意匠制度の趣旨に合致するというべきてある。
第4 被告の反論の要点
1 共通点の看過について
 審決は,本願意匠と本件本意匠の対比に必要な限りにおいて,共通点を認定
しているのであり,それ以上に新たに認定すべき共通点は存在しない。
2 部分意匠における類否判断の誤りについて
 部分意匠に関する類否判断のプロセス及び手法は,①意匠に係る物品の異同
を認定し,実線部分と破線部分の記載の関係(位置,大きさ,範囲等)について考
察し,実線部分を特定し,②実線部分全体を中心とする対比による異同を検討し,
③実線部分全体の共通点・差異点を評価し,実線部分全体と破線部分全体との関係
を総合し,部分意匠全体を観察して類否を判断する,というように整理することが
でき,審決もこのプロセスと手法に従って類比判断を行っており,その判断は妥当
である。
 原告は,差異点(1)ないし(3)は「破線部分起因差異点」を多く含んでおり,
審決はコンパクト全体の外形の差異に基づく破線部分を殊更に重要視している旨主
張するが,部分意匠は,物品の部分に関するものであるから,凸部集合部分(実線
部分)がコンパクト全体の外形(破線部分)に起因する要素を含むことは当然であ
って,審決は,破線部分の記載との関係(位置,大きさ,範囲等)等を考察しつ
つ,凸部集合部分(実線部分)の構成態様を具体的に認定したものであり,「破線
部分」を殊更重要視したものではない。そして,審決は,部分意匠全体として本願
意匠と本件本意匠とを観察し,凸部集合部分(実線部分)の差異点(1)ないし(5)が
相俟って発揮する視覚上の効果差が大なること歴然であり,実線部分全体の差異点
が優位であるから,破線部分全体との関係に言及するまでもなく,部分意匠全体と
して本願意匠は本意匠に類似するものではないと判断したものであって,何ら誤り
はない。
3 関連意匠における類否判断の誤りについて
 デザイン・コンセプトが共通するからといって,それから創作された物品の
形態である意匠法上の意匠が結果的にすべて互いに類似する関係になるとはいえ
ず,関連意匠制度は,そうした類似しないバリエーションの意匠を保護することま
でも想定しているものではない。
第5 当裁判所の判断
1 共通点の看過について
(1) 原告は,個々の円盤状凸部の高さと円の直径の比が1対14程で共通して
いる旨主張する。
 前記第2の2のとおり,審決は,円盤状凸部の大きさについて,「凸部を
低い円盤状のものとして,主に同大の・・・」として共通点の認定をしている。そ
して,本願意匠及び本件本意匠の出願図面(乙第1,第2号証)の記載からは,両
意匠における円盤状凸部の高さと円の直径の比の値が一見して明らかになっている
ものとはいえず,また,意匠の類比を判断するに当たっては,両意匠の基本的な形
状と特徴的な形状における共通点・差異点を認定した上で,その類比を判断すれば
足りるというべきであって,本件において,原告が主張するような細部にわたる部
分についてまで認定する必要があるとはいえないから,上記審決の程度の認定をも
って足りるものというべきである。したがって,審決が原告の主張するような点を
共通点として認定しなかったからといって,これをもって共通点の看過があるとい
うことはできない。
(2) 原告は,円盤状凸部の単位面積あたりの数が共通している旨主張する。
 しかしながら,本願意匠及び本件本意匠の出願図面(乙第1,第2号証)
を見ても,両意匠の円盤状凸部の大きさは具体的に明らかにされていないのである
から,単位面積あたりの数が共通しているか否かは必ずしも明確とはいえないので
あり,審決にこの点に関する共通点の看過があるとはいえない。なお,審決は,前
記第2の2のとおり,共通点として,「・・・主に同大の凸部複数を等間隔で近接
して縦横に整列配置したもの」と認定しているのであるから,コンパクトの通常の
大きさを勘案しても,これ以上に,必ずしも明確とはいえない原告主張のような点
についてまで共通点として認定しなければならないものでもない。
(3) 原告は,円盤状凸部の表側と裏側のずれ幅が,円盤状凸部の直径のちょう
ど半分である点で共通している旨主張する。
 確かに,本願意匠においては,その出願図面(乙第1号証)の参考平面図
によれば,表裏両面の円盤状凸部が横方向に直径の半分程度ずれていることが認め
られる。しかしながら,本件本意匠の出願図面(乙第2号証)の参考平面図によれ
ば,本件本意匠においては,表裏両面の円盤状凸部が横方向に直径の半分程度,縦
方向にも同程度ずれていることが認められるのであり,この縦と横のずれている距
離をそれぞれ1とすれば,これを合わせた斜め方向へずれている距離はルート2
(≒1.414)であることが明らかであり,ずれ幅が直径のちょうど半分である
点で共通しているとはいえない。したがって,審決に原告主張の共通点の看過はな
い。
2 部分意匠における類否判断の誤りについて
(1) 原告は,審決が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(実線部
分)以外の部分の形態を殊更重要視した類否判断を行っていると主張する。
 部分意匠の制度が,全体観察による類比判断の弊害を克服することを目的
の一つとしていること,部分意匠における類否判断においては,「部分意匠として
意匠登録を受けようとする部分」(実線部分)の形態の異同を中心に観察し,その
共通点及び差異点を総合評価して,類否判断をすべきであることは,原告主張のと
おりである。
 しかし,意匠は,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であっ
て,視覚を通じて美感を起こさせるものであるから(意匠法2条1項),物品を離
れた単なる模様,色彩などだけでは意匠とはいえない。このことは,部分意匠につ
いても同じであり,部分意匠における意匠は,あくまで「物品の部分」の「形状,
模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるも
の」であることはいうまでもない。
 原告は,対比すべき両意匠の間において,実線部分の差異点のうち,破線
部分の形態に起因する差異点(原告のいう「破線部分起因差異点」)についてはこ
れを低く評価するか,あるいは捨象して類比を判断すべきであると主張するが,実
線部分の形態はすなわち部分意匠の形態であり,その形態が何に起因しているか否
かを問わず,部分意匠自体の形態であることに違いはなく,物品の部分の特徴を示
すものであることに変わりはないのであるから,これを評価の対象から捨象した
り,特別に低く評価することはできないものといわざるを得ない。
(2) 本願意匠と本件本意匠について,差異点(1)ないし(5)があることは,原告
も認めるところであるが,原告は,そのうち差異点(1)ないし(3)は,差異点(3)にお
ける「変形凸部」に関する差異を除き,本件の類比判断において重要視されるべき
ではないと主張する。
ア 差異点(1)について
 原告は,差異点(1)は単にコンパクトの外形が横長長方形か凸レンズ状で
あるかを述べているに過ぎないとし,これは破線部分の形態に起因する差異点であ
る旨主張する。
 しかしながら,それぞれの外回り辺が横細長長方形状であるか,円形状
であるかの点が,コンパクト全体の形態に由来するものであるとしても,本願意匠
と本件本意匠の部分意匠としての形態それ自体の差異点であることはいうまでもな
く,その凸部集合態様の相違とともに,物品の部分としての視覚上の違いが明確に
示されている部分であって,差異点(1)を原告の主張するように低く評価するとか,
捨象することは相当ではない。
イ 差異点(2)及び(3)について
 原告は,差異点(2)及び(3)は「変形凸部」の点を除き,いずれも破線部
分の形態に起因する差異点であり,同大の円盤状凸部を縦横等間隔に異なる地の上
に整列配置すれば当然に生じる差異に過ぎない旨主張する。
 しかしながら,両意匠における円盤状凸部の数と並べ方の相違が,コン
パクト全体の形態に由来するものであるとしても,本願意匠と本件本意匠の部分意
匠としての形態それ自体の差異点であることはいうまでもなく,また,本願意匠に
おける円盤状凸部の頂面が水平面状のものであるのに対して,本件本意匠のそれが
地に沿ってやや膨出する曲面上のものであることは,まさに両意匠の実線部分にお
ける差異点であり,これらの点は物品の部分としての視覚上の違いを顕著に示すも
のであって,差異点(2)及び(3)を原告の主張するように低く評価するとか,捨象す
ることは相当ではない。
 差異点(1)ないし(3)(「変形凸部」を除く。)は本件の類比判断において
重要視されるべきではないとする原告の上記主張は,つまるところ,物品の形状と
離れた平面における模様などだけに基づいて,意匠の類比判断をすべきであるとい
うに帰するものであり,採用の限りではない。
(3) 本願意匠と本件本意匠との差異点,特に両意匠の円盤状凸部が水平面状の
ものか曲面状のものかの点で相違するなど,その凸部集合態様に顕著な差異が見ら
れるほか,変形凸部の有無の点でも異なり,さらに表側から透けて見える裏側の凸
部集合部分と表側の凸部集合部分とが重なって現す模様が平面視において略七宝繋
ぎ様か否かで大きく違っている(乙第1,第2号証の各参考平面図)ことなど,看
者の注意を引きつける重要な部分において,両意匠の視覚的差異は大きいものがあ
り,それぞれ相異なる美感ないしは美的印象を醸し出しているというべきであっ
て,本願意匠が本件本意匠に類似するということはできない。なお,原告は,上記
の変形凸部の有無や略七宝繋ぎ様か否かの差異は具体的な態様における微差に過ぎ
ない旨主張するが,それらは視覚的に大きな差異をもたらすものであり,決して微
少な差異といえるものではない。
 以上によれば,「具体化した部分意匠全体として観察すると,両意匠の差
異点が発揮する視覚上の効果差は,大なること歴然であって,・・・両意匠の差異
点は共通点を凌駕しているから,本願意匠は本意匠に類似するものではない。」と
の審決の判断に誤りはない。
3 関連意匠における類否判断の誤りについて
 原告は,関連意匠制度の下で保護される「類似する意匠」に該当するか否か
は,本意匠との間のデザイン・コンセプトの共通性いかんによると主張する。
 しかし,関連意匠も,具体的な物品(又は物品の部分)の形態(形状・模
様・色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるもの)であっ
て,物品を離れた「デザイン・コンセプト」なる抽象的,観念的なものでないこと
はいうまでもなく,その要件である「類似する意匠」か否かも,関連意匠として出
願された当該意匠の具体的な構成態様に基づいて判断されるべきものである。仮に
「デザイン・コンセプト」なるものが共通しているとしても,その具体化された物
品の形態である意匠がすべて類似するとはいえないのであり,原告の上記主張は,
独自の見解に基づくものであって,採用することができない。
審決は,本願意匠を本件本意匠の関連意匠として,その願書に記載された具
体的な意匠の内容を対象にして類否判断したものであり,ここに何らの誤りはな
い。
4 以上のとおりであるから,本願意匠が意匠法10条1項に該当しないとした
審決の判断に誤りはない。
 原告が主張する取消事由は理由がなく,その他,審決にこれを取り消すべき
誤りがあるとは認められない。
 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行
政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
   裁判長裁判官  佐  藤  久  夫
   裁判官    若  林  辰  繁
裁判官設樂隆一は,転補のため,署名押印することができない。
   裁判長裁判官  佐  藤  久  夫

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛