弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金三八八、九〇〇円
およびこれに対する昭和四一年一二月二九日以降右完済までの日歩二銭の割合によ
る金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との旨の判
決および仮執行の宣言を求め、被控訴人代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 証拠関係(省略)
         理    由
 当裁判所は当審における新たな証拠調の結果を掛酌しても、控訴人の請求は失当
であると判断するものであるが、その理由は原判決がその理由において説明すると
ころと同一であるから右説明を引用するほか、次のとおり付加説明する。
 株式会社の取締役、監査役は株主総会において選任され、株式会社と取締役、監
査役との関係は委任に関する規定に従うこととなつており(商法第二五四条、第二
八〇条)、また取締役は会社のため忠実にその義務を遂行する義務を負い(同法第
二五四条の二)、監査役も善良な管理者の注意をもつてその職務を遂行しなければ
ならないとされているとともに(同法第二八〇条、第二五四条、民法第六四四
条)、役員に支払われる報酬についても、定款にその定めがないときは株主総会の
決議をもつて定めることとなつているのであつて(同法第二六九条、第二八〇
条)、会社の役員は一般の使用人とは異る地位にあるものといわなければならな
い。然しながら、株式会社の取締役は、取締役会を通じて会社の業務執行の意思を
決定する地位を有するとともに、商法に規定している種々の権限を個々的に行使し
うる地位にあるが、また使用人としての地位を兼ねることもできるから、取締役に
対して支払われる報酬をすべて、一般使用人に対して支払われる報酬(これは会社
の利益造出のための費用としての性質を有する。)と同一視し得ないものとするこ
とは不適当であるが、会社が役員に対して臨時的な給与として支払う賞与は、役員
がその業務の執行に対する報酬として、一定の支給基準に基き、会社から定期的に
継続して支払われる給与とは異り、会社の利益処分としての性質を有するものとい
うべきである。しかして昭和四〇年政令第九七号による改正前の法人税法施行規則
(以下旧法人税法施行規則という。)第一〇条の四(昭和四〇年法律第三四号によ
る改正後の法人税法第三五条に相当する。)は「法人が各事業年度においてその役
員に対して支給した賞与の額は、当該年度の所得の計算上、これを損金に算入しな
い。」旨を規定したのであるが、例外として、使用人兼務役員に対して支払つた賞
与のうち所定の要件に該当する金額については、かかる役員の役務の内容が使用人
としての職務に属する部分のあるところから、経費に算入すべき額として損金の額
に算入することを認めるとともに、本来法人の業務執行につき重要な地位にある特
定の役員については使用人兼務役員となり得ない旨をも規定したものである(同規
則第一〇条の三第六項。改正後の法人税法第三五条第五項、同法施行令第七一条に
相当する。)かかる使用人兼務役員となり得ない役員は、本来法人の目的たる事業
の遂行に専念すべき者であつて、使用人を指揮監督する立場にある者として、法人
の使用人としての立場と両立し得ない地位にある者であるから、仮りに右役員が使
用人としての職務に属する仕事に従事したとしても、それは役員としての業務執行
と認識すべきものであつて、使用人としての地位を兼ねているものと解すべきでは
なく、また株式会社の監査役が会社の使用人の職務を兼務し得ないことは商法第二
七六条の規定からも明かである。従つて使用人兼務役員と称しうるためには右規則
第一〇条の三第六項掲記の役員に該当しない者で、法人に使用人として雇傭され、
職制上も使用人としての地位につき、かつ使用人としての職務<要旨>に従事してい
ることが必要であつて、以上の要件に該当しない役員に対して支払われた臨時的給
与である賞与は、法人の利益処分としての性質を有するものというべく、右
支払われた賞与の金額を法人の経理上損金に算入し得ず、従つてその原資となる利
益に対し法人税が課税される一方、右賞与の支払いを受けた役員個人については、
右賞与は当該役員個人の所得として、これに対して所得税が課せられることは当然
であつて、これを目して二重課税であると称し得ざることは明らかである。然りと
すれば、同じく株式会社の利益処分としての性質を有する株主に対する利益の配当
につき、二重課税の排除ないし調整の措置がとられているのに対比し、株式会社の
役員賞与にはかかる措置がとられていないこととなるが、もともと株式会社の基本
的構造は株主の集合体であるから、会社の段階で課税済の利益の処分である配当
が、実質的には会社と同一体と称しうる株主個人の所得に帰属した段階で再び課税
されるにおいては、正に同一体に帰属している利益に対する二重の課税と称しうべ
く、その意味で何らかの調整措置を要するものといいうるが、会社とその役員との
間においては右の意味における一体性はなく、法律上も委任関係に止まるものであ
るから、会社が課税済の利益のうちから役員に支給する賞与について、役員個人の
所得として再び課税されたからといつて、同一体に帰属する利益に対し重ねて課税
したものとなし得ざることは明かであり、従つて役員賞与につき課税上何らかの調
整措置がなされるべきであるとはなし難いものというべきである。
 してみれば旧法人税法施行規則第一〇条の四、同規則第一〇条の三第五項および
第六項の規定に基き株式会社の課税済の利益から役員に支払われた賞与に対し、役
員個人の所得としてこれに所得税を課することは何ら違法の点はない。上記の諸規
定が二重課税を認めるものであつて、税法における二重課税排除の原則および公平
負担の原則に反することを理由として、右諸規定が憲法第一四条第一項、第二七条
第一項および第三〇条の各規定に反するとの控訴人の主張は独自の見解であつて採
用することはできない。
 よつて原判決は相当であるから民事訴訟法第三八四条第一項の規定によつて本件
控訴はこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき同法第九五条および第八九条の規
定を適用し、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 平賀健太 裁判官 安達昌彦 裁判官 後藤文彦)

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