弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人居谷隆信の上告趣意第一点について。
 原判決の維持した第一審判決が証拠に採用していない被告人Aの司法警察員Bに
対する供述調書と同判決が証拠に採用している同被告人の検察官石角一夫に対する
第一回各供述調書が近接した日に作成されていることは、所論のとおりである。し
かし記録によれば、この点については第一審公判で右A被告人が、泉大津市警察署
で刑事から無理な取調をされた旨の供述をしているだけで、その他にこれを支持す
る証拠はなく、所論相被告人Cの第一審公判における供述及び第一審証人Dの公判
外における証言が、措信できないことは、原判決の説示するところであり、右司法
警察員に対する供述が、強制、拷問によつてなされた事実は、これを認めるべき証
跡がない。そしてA被告人の検察官に対する第一、二回各供述調書記載の供述が所
論のような被強制情況のもとで真実に反してなされたものであるという事実も記録
上認めることができない。されば所論違憲、違法の論旨は、前提を欠き採用できな
い。
 同第二点について。
 刑訴三二一条一項二号但書の規定により、検察官の面前における供述を録取した
書面を証拠とするにあたつて、該書面の供述が公判準備又は公判期日における供述
よりも信用すべき特別の情況が存するか否かは、結局事実審裁判所の裁量にまかさ
れていると解するのが相当であることは、当裁判所の判例とするところである(昭
和二六年(あ)一一一一号同年一一月一五日第一小法廷判決、集五巻一二号二三九
三頁)。そして「信用すべき特別の情況」の存否の判断については、必ずしも特段
の証拠調を要するものではなく、また、これが判断を判文に示す必要もないから、
第一審の審理判決に所論のような違法があるとはいえない。なお、第一審裁判所は
所論検察官作成の供述調書の供述人Eを、公判廷外において証人としてA被告人立
会の下に尋問し、同被告人にも同証人を審問する機会を十分に与えていること、記
録上明らかであるから居谷弁護人の控訴趣意第二点に対する原判決の説示が憲法三
七条二項の法意に反するものとは認められない。論旨中違憲をいう点はその実質は
訴訟法の解釈に誤ありとするに帰し、上告適法の理由とならず、論旨はすべて採用
できない。
 同第三点は、事実誤認、訴訟法違反、経験則違反の主張を出でず、刑訴四〇五条
の上告理由にあたらない。(第一審判決判示冒頭及び第一の事実は、同判決挙示の
諸調書、写真撮影供述書、鑑定人F作成のG鑑定書、鑑定報告書、同鑑定の件と題
する書面及び領置にかかる出刃庖丁一挺の存在によりこれを認めることができる。)
 被告人Aの弁護人岡田善一の上告趣意第一点は、訴訟法違反、事実誤認の主張を
出でないものであり(所論被告人Aの検察官に対する第一回供述調書が証拠能力及
び証拠価値を有することは、前記のとおりであり、Eの検察官に対する第三、四回
各供述調書が、誘導によりなされた事実は、記録上認めることができない。)同第
二点は、事実誤認の主張であつて、いずれも刑訴四〇五条の適法な上告理由にあた
らない。
 被告人Cの弁護人和島岩吉の上告趣意第一点について。
 原判決の維持した第一審判決が、判示第二事実につき挙示している証拠のうち、
Dの検察官に対する第一回供述調書、証人Hに対する尋問調書、Iの検察官に対す
る第一回供述調書、Eの検察官に対する第三回供述調書、及び同人の検察官に対す
る第四回供述調書によれば、C被告人が右刺身庖丁を同判示第二の犯行の用に供し
たことを認定するに十分であり、右刺身庖丁は順次C被告人、第三者二名、所有者
の手を経てこれを鑑定に供したものであることを認められるから、第一審判決は所
論鑑定人F作成の鑑定報告書中の刺身庖丁に「血痕附着せず」との鑑定結果を措信
することができないとして採用しなかつたものであること明らかである。従つて同
判決の右証拠の取捨選択が論理法則、経験法則に反するものということはできない。
してみれば、論旨は、判例違反をいうが、和島弁護人の論旨第一点に対する原判決
の説示は相当であつて所論の判例と相反する判断をしていないこと明らかであり、
所論は前提を欠き上告適法の理由とならない。
 同第二点は、理由不備、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由にあ
たらない(なお、論旨一、(イ)が上告趣意として控訴趣意書を援用するというだ
けであるのは不適法であること昭和二五年(あ)一二二〇号同年一〇月一二日第一
小法廷決定、集四巻一〇号二〇八四頁により当裁判所の判例とせられるところであ
る)。
 また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三一年一一月二〇日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    小   林   俊   三

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