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平成17年(行ケ)10175号(東京高等裁判所平成14年(行ケ)第503
号)特許取消決定取消請求参加事件
口頭弁論終結日 平成17年3月28日
判       決
 参加人ビーオーシーエドワーズテクノロジーズ株式会社承継人(以下「参加
人」という。)
            BOCエドワーズ株式会社
 訴訟代理人弁理士     川井隆
同            仲野均
脱退原告         セイコーインスツルメンツ株式会社
被      告     特許庁長官 小川洋
指定代理人        西川惠雄
同            氏原康宏
同          大野克人
同     涌井幸一
同     立川功
同     宮下正之
主       文
1 参加人の請求を棄却する。
2 訴訟費用は参加人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 参加人
(1)特許庁が異議2000-74041号事件について平成13年12月20
日にした決定中,「特許第3038432号の請求項1ないし6に係る発明につい
ての特許を取り消す。」との部分を取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
  脱退原告は,発明の名称を「真空ポンプ及び真空装置」とする特許第303
8432号の特許(平成10年7月21日出願(以下「本件出願」という。),平
成12年3月3日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は,後記本件訂
正により6となった。)の特許権者であった。
  本件特許に対し,すべての請求項につき特許異議の申立てがされ,特許庁
は,これを異議2000-74041号事件として審理した。脱退原告は,審理の
過程で,平成13年8月20日,請求項の文言の訂正を含む明細書の訂正を請求し
た(以下,この請求に係る訂正を「本件訂正」といい,本件訂正による訂正後の明
細書を「本件明細書」という。)。特許庁は,審理の結果,平成13年12月10
日,本件訂正を認めた上で,「特許第3038432号の請求項1ないし6に係る
発明についての特許を取り消す。」との決定をし,平成14年1月16日,その謄
本を脱退原告に送達した。
  脱退原告は,上記決定の取消を求める本件訴訟を提起したが,その後,営業
の一部をビーオーシーエドワーズテクノロジーズ株式会社(旧商号・エスティーエ
ムピー株式会社)に承継させるため吸収分割をし,これにより,同社は,平成14
年3月14日に本件特許権を承継して,本件訴訟に参加し,脱退原告は,被告の承
諾を得て,本件訴訟から脱退した。その後,参加人(旧商号・日本エドワーズ株式
会社)は,平成15年12月1日,ビーオーシーエドワーズテクノロジーズ株式会
社を吸収合併した。
2 本件訂正による訂正後の特許請求の範囲
(1)請求項1
  外部から第1の気体を吸入する吸入口と前記気体を排出させる排気口とを
有する外装体と,
  前記外装体の内側に配設され,前記吸入口から吸入した前記第1の気体を
移送する気体移送部と,
  前記気体移送部内の圧力を変化させることで,前記吸入口からの気体の吸
引力を調節する圧力変化手段と,
  前記圧力変化手段による圧力の変化を制御する制御手段とを備え,
  前記圧力変化手段は,前記気体移送部において移送される第1の気体に第
2の気体を前記気体移送部で混入させる気体混入手段を含み,
  前記制御手段は,前記気体混入手段により混入される前記第2の気体の量
を制御することを特徴とする真空ポンプ。
(2)請求項2
  外部から第1の気体を吸入する吸入口と前記気体を排出させる排気口とを
有する外装体と,
  気体の移送方向に多段に固定されたステータ翼と該ステータ翼間において
回転するロータ翼とを備え,ロータ翼を回転することにより気体を移送するターボ
分子ポンプ部を含み,前記吸入口から吸入した前記第1の気体を移送する,前記外
装体の内側に配設された気体移送部と,
  前記気体移送部内の圧力を変化させることで,前記吸入口からの気体の吸
引力を調節する圧力変化手段と,
  前記圧力変化手段による圧力の変化を制御する制御手段とを備え,
  前記圧力変化手段は,前記ターボ分子ポンプ部において,移送される第1
の気体に第2の気体を前記気体移送部で混入させる気体混入手段を含み,
  前記制御手段は,前記気体混入手段により混入される前記第2の気体の量
を制御することを特徴とする真空ポンプ。
(3)請求項3
  外部から第1の気体を吸入する吸入口と前記気体を排出させる排気口とを
有する外装体と,
  回転するロータ側と固定されたステータ側とを備え,そのうちの少なくと
も一方にネジ溝を備え,前記ロータ側を回転させることにより気体を移送するネジ
溝ポンプ部を含み,前記吸入口から吸入した前記第1の気体を移送する,前記外装
体の内側に配設された気体移送部と,
  前記気体移送部内の圧力を変化させることで,前記吸入口からの気体の吸
引力を調節する圧力変化手段と,
  前記圧力変化手段による圧力の変化を制御する制御手段とを備え,
  前記圧力変化手段は,前記ネジ溝ポンプ部において,移送される第1の気
体に第2の気体を前記気体移送部で混入させる気体混入手段を含み,
  前記制御手段は,前記気体混入手段により混入される前記第2の気体の量
を制御することを特徴とする真空ポンプ。
(4)請求項4
  外部から第1の気体を吸入する吸入口と前記気体を排出させる排気口とを
有する外装体と,
  ターボ分子ポンプ部と該ターボ分子ポンプ部に続くネジ溝ポンプ部とを含
み,前記吸入口から吸入した前記第1の気体を移送する,前記外装体の内側に配設
された気体移送部と,
  前記気体移送部内の圧力を変化させることで,前記吸入口からの気体の吸
引力を調節する圧力変化手段と,
  前記圧力変化手段による圧力の変化を制御する制御手段とを備え,
  前記圧力変化手段は,前記ターボ分子ポンプ部と前記ネジ溝ポンプ部との
間において,移送される第1の気体に第2の気体を前記気体移送部で混入させる気
体混入手段を含み,
  前記制御手段は,前記気体混入手段により混入される前記第2の気体の量
を制御することを特徴とする真空ポンプ。
(5)請求項5
  請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の真空ポンプと,
  前記真空ポンプに内部の気体が吸引排出される容器とを備えることを特徴
とする真空装置。
(6)請求項6
  前記容器内の圧力を検出する圧力センサを備え,
  前記制御手段は,前記圧力センサからの出力に応じて制御量を決定するこ
とを特徴とする請求項5に記載の真空装置。
(以下,順に「本件発明1」,「本件発明2」・・・「本件発明6」といい,
全部を併せて「本件各発明」という。)
3 決定の理由
  別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件各発明は,PCT国際公
開公報WO97/15760(以下「刊行物1」という。)に記載された発明及び
特開平1-244194号公報(以下「刊行物2」という。)に記載された技術的
事項から,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,取り消すとい
うものである。
 (なお,後記のとおり,決定は,刊行物1から2種類の発明,刊行物2から2
種類の技術的事項をそれぞれ認定している。)
4 決定が認定した,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項
(1)刊行物1記載の発明の内容
ア「外部から第1の気体を吸入する入口と前記気体を排出させる排気口とを
有する外側ケーシング1と,気体の移送方向に多段に固定されたステータ羽根9と
該ステータ羽根9間において回転するロータ羽根8とを備え,ロータ羽根8を回転
することにより気体を移送するターボ分子ポンプ段,及び該ターボ分子ポンプ段に
続き,回転するロータ6側と固定されたステータ14側とを備え,前記ロータ6側
にねじ山状の溝13を備え,前記ロータ6側を回転させることにより気体を移送す
る分子ポンプ段を含み,前記入口から吸入した前記第1の気体を移送する,前記外
側ケーシング1の内側に配設された気体移送部と,前記気体移送部内の圧力を変化
させることで,前記入口からの気体の吸引力を変化する圧力変化手段と,前記圧力
変化手段は,前記ターボ分子ポンプ段において移送される第1の気体に第2の気体
を前記気体移送部で混入させる中間取入れ口28を含む真空ポンプ。」(決定書1
0頁)
イ「外部から第1の気体を吸入する入口と前記気体を排出させる排気口とを
有する外側ケーシング1と,気体の移送方向に多段に固定されたステータ羽根9と
該ステータ羽根9間において回転するロータ羽根8とを備え,ロータ羽根8を回転
することにより気体を移送するターボ分子ポンプ段,及び該ターボ分子ポンプ段に
続き,回転するロータ6側と固定されたステータ14側とを備え,前記ロータ6側
にねじ山状の溝13を備え,前記ロータ6側を回転させることにより気体を移送す
る分子ポンプ段を含み,前記入口から吸入した前記第1の気体を移送する,前記外
側ケーシング1の内側に配設された気体移送部と,前記気体移送部内の圧力を変化
させることで,前記入口からの気体の吸引力を変化する圧力変化手段と,前記圧力
変化手段は,前記ターボ分子ポンプ段において移送される第1の気体に第2の気体
を前記気体移送部で混入させる中間取入れ口28を含む真空ポンプと,前記真空ポ
ンプに内部の気体が吸引排出される容器とを備えた真空装置。」(同10頁~11
頁)。
(以下,決定と同じく,アの発明を「刊行物1記載の発明【A】」といい,
イの発明を「刊行物1記載の発明【B】」という。また,両者を併せて,「刊行物
1記載の発明」という。)
(2)刊行物2記載の技術的事項
ア「第1ポンプ部であるターボ分子ポンプ14と該第1ポンプ部に続く第2
ポンプ部であるターボ真空ポンプ11とを含み,第1の気体を移送する気体移送部
と,前記気体移送部内の圧力を変化させることで,前記吸入口からの気体の吸引力
を調節する圧力変化手段と,前記圧力変化手段による圧力の変化を制御するコント
ローラ20とを備え,前記圧力変化手段は,第1ポンプ部と第2ポンプ部との間に
おいて,移送される第1の気体に窒素ガスを前記気体移送部で混入させる制御ガス
供給路15を含み,前記コントローラ20は,前記制御ガス供給路15により混入
される前記窒素ガスの量を制御する真空排気装置10。」(決定書12頁)
イ「第1ポンプ部であるターボ分子ポンプ14と該第1ポンプ部に続く第2
ポンプ部であるターボ真空ポンプ11とを含み,第1の気体を移送する気体移送部
と,前記気体移送部内の圧力を変化させることで,前記吸入口からの気体の吸引力
を調節する圧力変化手段と,前記圧力変化手段による圧力の変化を制御するコント
ローラ20とを備え,前記圧力変化手段は,第1ポンプ部と第2ポンプ部との間に
おいて,移送される第1の気体に窒素ガスを前記気体移送部で混入させる制御ガス
供給路15を含み,前記コントローラ20は,前記制御ガス供給路15により混入
される前記窒素ガスの量を制御する真空排気装置10と,真空排気装置10に内部
の気体が吸引排出される処理室2と,処理室2内の圧力を検出する真空計19を備
え,前記コントローラ20は,前記真空計19からの出力に応じて制御量を決定す
る真空装置。」(同12頁)
(以下,決定と同じく,アの技術的事項を「刊行物2記載の技術的事項
【C】」という。)
5 決定が認定した本件発明1と刊行物1記載の発明【A】との一致点・相違点
(1)一致点
 「「外部から第1の気体を吸入する吸入口と前記気体を排出させる排気口と
を有する外装体と,前記外装体の内側に配設され,前記吸入口から吸入した前記第
1の気体を移送する気体移送部と,前記気体移送部内の圧力を変化させることで,
前記吸入口からの気体の吸引力を変化する圧力変化手段と,前記圧力変化手段は,
前記気体移送部において移送される第1の気体に第2の気体を前記気体移送部で混
入させる気体混入手段を含む真空ポンプ。」である点」(決定書13頁)
(2)相違点
 「【相違点1】前者(判決注・本件発明1)では「制御手段は,圧力変化手
段による圧力の変化を制御し,気体混入手段により混入される第2の気体の量を制
御する」事項を有しているとともに,圧力変化手段が行っている事項について,気
体移送部内の圧力を変化させることで,吸入口からの気体の吸引力を「調節」して
いるのに対して,後者では,前記制御手段について明かでないとももに(判決注・
原文ママ),前記吸引力を「変化」させるものではあるが,「調節」することにつ
いては明かでない点。」(同13頁)
(以下「相違点1」という。)
6 決定が認定した本件発明2と刊行物1記載の発明【A】との一致点・相違点
(1)一致点
 「「外部から第1の気体を吸入する吸入口と前記気体を排出させる排気口と
を有する外装体と,気体の移送方向に多段に固定されたステータ翼と該ステータ翼
間において回転するロータ翼とを備え,ロータ翼を回転することにより気体を移送
するターボ分子ポンプ部を含み,前記吸入口から吸入した前記第1の気体を移送す
る,前記外装体の内側に配設された気体移送部と,前記気体移送部内の圧力を変化
させることで,前記吸入口からの気体の吸引力を変化する圧力変化手段と,前記圧
力変化手段は,前記ターボ分子ポンプ部において,移送される第1の気体に第2の
気体を前記気体移送部で混入させる気体混入手段を含む真空ポンプ。」である点」
(決定書14頁)
(2)相違点
  相違点1と同じ(同頁)。
7 決定が認定した本件発明3と刊行物1記載の発明【A】との一致点・相違点
(1)一致点
 「「外部から第1の気体を吸入する吸入口と前記気体を排出させる排気口と
を有する外装体と,回転するロータ側と固定されたステータ側とを備え,ロータ側
にネジ溝を備え,前記ロータ側を回転させることにより気体を移送するネジ溝ポン
プ部を含み,前記吸入口から吸入した前記第1の気体を移送する,前記外装体の内
側に配設された気体移送部と,前記気体移送部内の圧力を変化させることで,前記
吸入口からの気体の吸引力を変化する圧力変化手段と,前記圧力変化手段は,気体
移送部において,移送される第1の気体に第2の気体を前記気体移送部で混入させ
る気体混入手段を含む真空ポンプ。」である点」(決定書14頁~15頁)
(2)相違点
  相違点は,上記相違点1に加え,
 「【相違点2】気体混入手段に関し,移送される第1の気体に第2の気体を
前記気体移送部で混入させる位置が,前者(判決注・本件発明3)では「ネジ溝ポ
ンプ部」であるのに対し,後者では,「ターボ分子ポンプ部」である点。」(同1
5頁)
(以下「相違点2」という。)
8 決定が認定した本件発明4と刊行物1記載の発明【A】との一致点・相違点
(1)一致点
 「「外部から第1の気体を吸入する吸入口と前記気体を排出させる排気口と
を有する外装体と,ターボ分子ポンプ部と該ターボ分子ポンプ部に続くネジ溝ポン
プ部とを含み,前記吸入口から吸入した前記第1の気体を移送する,前記外装体の
内側に配設された気体移送部と,前記気体移送部内の圧力を変化させることで,前
記吸入口からの気体の吸引力を変化する圧力変化手段と,前記圧力変化手段は,前
記気体移送部において,移送される第1の気体に第2の気体を前記気体移送部で混
入させる気体混入手段を含む真空ポンプ。」である点」(決定書15頁)
(2)相違点
  相違点は,上記相違点1に加え,
 「【相違点3】気体混入手段に関し,移送される第1の気体に第2の気体を
前記気体移送部で混入させる位置が,前者(判決注・本件発明4)では「ターボ分
子ポンプ部とネジ溝ポンプ部との間」であるのに対し,後者では,「気体移送部」
である点。」(同15頁)
(以下「相違点3」という。)
9 決定が認定した本件発明5と刊行物1記載の発明【B】との一致点・相違点
(1)一致点
 「「外部から第1の気体を吸入する吸入口と前記気体を排出させる排気口と
を有する外装体と,気体の移送方向に多段に固定されたステータ翼と該ステータ翼
間において回転するロータ翼とを備え,ロータ翼を回転することにより気体を移送
するターボ分子ポンプ部と,該ターボ分子ポンプ部に続く回転するロータ側と固定
されたステータ側とを備え,ロータ側にネジ溝を備え,前記ロータ側を回転させる
ことにより気体を移送するネジ溝ポンプ部とを含み,前記吸入口から吸入した前記
第1の気体を移送する,前記外装体の内側に配設された気体移送部と,前記気体移
送部内の圧力を変化させることで,前記吸入口からの気体の吸引力を変化する圧力
変化手段と,前記圧力変化手段は,ターボ分子ポンプ部である前記気体移送部にお
いて,移送される第1の気体に第2の気体を前記気体移送部で混入させる気体混入
手段を含む真空ポンプと,前記真空ポンプに内部の気体が吸引排出される容器とを
備えた真空装置。」である点」(決定書16頁)
(2)相違点
  相違点1ないし3と同じ。
10 決定が認定した本件発明6と刊行物1記載の発明【B】との一致点・相違

(1)一致点
 「「外部から第1の気体を吸入する吸入口と前記気体を排出させる排気口と
を有する外装体と,気体の移送方向に多段に固定されたステータ翼と該ステータ翼
間において回転するロータ翼とを備え,ロータ翼を回転することにより気体を移送
するターボ分子ポンプ部と,該ターボ分子ポンプ部に続く回転するロータ側と固定
されたステータ側とを備え,ロータ側にネジ溝を備え,前記ロータ側を回転させる
ことにより気体を移送するネジ溝ポンプ部とを含み,前記吸入口から吸入した前記
第1の気体を移送する,前記外装体の内側に配設された気体移送部と,前記気体移
送部内の圧力を変化させることで,前記吸入口からの気体の吸引力を変化する圧力
変化手段と,前記圧力変化手段は,ターボ分子ポンプ部である前記気体移送部にお
いて,移送される第1の気体に第2の気体を前記気体移送部で混入させる気体混入
手段を含む真空ポンプと,前記真空ポンプに内部の気体が吸引排出される容器とを
備えた真空装置。」である点」(決定書17頁)
(2)相違点
  上記相違点1ないし3に加え
 「【相違点4】容器を備える真空装置において,前者(判決注・本件発明
6)では「容器内の圧力を検出する圧力センサを備え,制御手段は,前記圧力セン
サからの出力に応じて制御量を決定する」ようにしているのに対し,後者では,圧
力センサについて明かでない点。」(同頁)
第3 参加人の主張
  決定は,刊行物1記載の発明の認定を誤り,その結果,本件各発明と刊行物
1記載の発明との一致点及び相違点についての認定を誤るとともに,刊行物2記載
の技術的事項【C】の認定を誤るなどして,相違点1についての判断を誤ったもの
であるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(刊行物1記載の発明の認定の誤りに基づく一致点・相違点の認
定の誤り)(本件各発明に共通する取消事由)
(1)決定のした,刊行物1記載の発明【A】の認定中,「・・・前記入口から
の気体の吸引力を変化する圧力変化手段と,前記圧力変化手段は,前記ターボ分子
ポンプ段において移送される第1の気体に第2の気体を前記気体移送部で混入させ
る中間取入れ口28を含む真空ポンプ。」との部分,及び,刊行物1記載の発明
【B】の認定中,「・・・前記気体移送部内の圧力を変化させることで,前記入口
からの気体の吸引力を変化する圧力変化手段と,前記圧力変化手段は,前記ターボ
分子ポンプ段において移送される第1の気体に第2の気体を前記気体移送部で混入
させる中間取入れ口28を含む真空ポンプと,前記真空ポンプに内部の気体が吸引
排出される容器とを備えた真空装置。」との部分は,いずれも誤りである。
(2)刊行物1には,「・・・ターボ分子ポンプ段8.9は中間取入れ口28を
備えている。該中間取入れ口は種々の目的,例えばフランジ11に接続され,図示
されていない真空室内における圧力に対してより高い圧力水準を有する真空生成,
又は・・・に役立てうる」旨記載されている。なお,中間取入れ口がある場合とな
い場合とで,真空ポンプ内(気体移送部内)の圧力が変わることについては記載さ
れていない。
  刊行物1には,フランジ11に接続される真空室(以下「第1真空室」と
いう。)と比較して,より高い圧力水準を有する真空をどこに生成させるか明示さ
れていない。しかし,真空ポンプにおいて,上流より下流の方が圧力が高くなるこ
とは当業者の技術常識であるから,真空ポンプ内の圧力が,第1真空室より高いこ
とは明らかであり,真空ポンプ内に,より高い圧力水準を有する真空を生成するた
めに,中間取入れ口28を設けたものではないことは明らかである。そうすると,
刊行物1記載の発明において,第1真空室より高い圧力水準を有する部分として,
中間取入れ口28に接続された真空室(以下「第2真空室」という。)を想定する
ことは,自然なことである。
(3)この解釈が正しいことは,以下に述べることからも明らかである。
ア 刊行物1記載の発明は,以下の刊行物1の記載から,ドイツ連邦共和国
特許出願公開第3124205号明細書(甲第6号証)に対する改良発明であると
理解される。
「本発明は,請求項1に発明の上位概念として規定した形式の摩擦真空ポ
ンプに関する。前記形式の摩擦ポンプはドイツ連邦共和国特許出願公開第3124
205号明細書に基づいて公知である。摩擦真空ポンプの吐出室への中間取入れ口
の合流部を形成するためには,円環通路を設けるのが有利であることが当該特許出
願公開明細書に記載されている。
  本発明の課題は,摩擦真空ポンプの吐出室への中間取入れ口の合流部
を2つの点で有利に構成すること,つまり第1に,ステータを形成する構成部分を
円環通路の領域において,吐出室へのガスの流入をできるだけ妨げないように形成
すること,また第2に円環通路の領域に位置する構成部分の簡単な製作を保証する
ことである。」(訳文1頁)
イ 甲第6号証には,「漏れ個所を通して外部から進入する検査ガスを用い
て真空容器の漏れを発見するための,ターボ真空ポンプ(1)を有する既知の漏れ
検出装置では,検査すべき容器(9)から連続的にポンピングされる検査ガスは,
ターボ真空ポンプの出口側へ案内される。それに対して本発明によれば,中間段へ
案内される。・・・」と記載され,また,実施例においても,検査すべき真空容器
9からの検査ガスを供給するための供給導管8が,ターボ真空ポンプの(入口と出
口との間に位置する)中間段ヘ開口し,その入口側に接続されている検出器2で,
検査ガスを検出することが示されている。
ウ 以上の記載から,刊行物1記載の発明(真空ポンプ)は,真空容器の漏
れ検出装置に使用され,漏れを検出する検出器(第1真空室)がフランジ11に接
続され,中間取り入れ口28に漏れ検出の対象である真空容器9(第2真空室)が
接続されることを前提として使用されるものである。
  そして,刊行物1では,このように第1真空室と第2真空室が接続され
る真空ポンプに対して,「・・・ターボ分子段8,9は中間取入れ口28を備えて
いる。該中間取入れ口は種々の目的,例えばフランジ11に接続され,図示されて
いない真空室内における圧力に対してより高い圧力水準を有する真空生成,又
は,・・・に役立てうる。」と記載されているのである。
(4)このような刊行物1記載の発明において,真空ポンプが定常状態になる
と,第2真空室から真空ポンプに流入する気体はほとんど存在しなくなる。このと
き,中間取入れ口に第2の気体を混入すると,第2真空室に逆流してしまい,その
圧力水準を維持することができなくなる。すなわち,中間取入れ口28から第2の
気体を混入することや,これにより混入気体の量を制御することはできないのであ
る。現に,刊行物1には,真空ポンプ(気体移送部)内に気体を混入し,その圧力
を変化させるために中間取入れ口28を使用することについては記載されていない
のである。
  したがって,決定のした刊行物1記載の発明の認定は誤っている。
(5)以上のとおり,決定の刊行物1記載の発明には,本件各発明における第2
の気体の混入もその量の制御もないから,決定が,刊行物1記載の発明における
「中間取入れ口28」は,本件各発明における「気体混入手段」に相当していると
認定し,これを前提に,「そして,両者は「・・・前記気体移送部内の圧力を変化
させることで,前記吸入口からの気体の吸引力を変化する圧力変化手段と,前記圧
力変化手段は,前記気体移送部において移送される第1の気体に第2の気体を前記
気体移送部で混入させる気体混入手段を含む真空ポンプ。」である点で一致し,」
(決定書13頁)との一致点を認定したことは誤りである。
  また,第2の気体の混入やその量の制御がない以上,それを前提とする
「後者では,前記制御手段について明らかでないとともに,前記吸引力を「変化」
させるものではあるが,「調節」することについては明らかでない点。」との相違
点1の認定(同13頁)も誤りである。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)(本件各発明に共通する取消
事由)
(1)刊行物1記載の発明は,刊行物2記載の技術的事項【C】の適用を妨げる
阻害要因を有している。
  前記のとおり,第1真空室と第2真空室が接続される刊行物1記載の発明
では,中間取入れ口28に第2の気体を混入すると,混入気体が第2真空室に逆流
してしまい,第2真空室の圧力水準を維持することができなくなってしまう。した
がって,「第1真空室内の圧力よりも高い圧力レベルの真空を第2真空室に発生さ
せる」ためには,「中間取入れ口28」から第2の気体を混入することや,混入気
体の量を制御することはできない。
  また,刊行物1には,吸入口からの気体の吸引力を調節できる真空ポンプ
の提供といった課題については記載も示唆もされていない。
  このように,刊行物1記載の発明自体が,第2の気体の混入と混入量の制
御を行う,刊行物2記載の技術的事項【C】を適用することについての阻害要因を
持つものである。
(2)刊行物2記載の技術的事項【C】は,刊行物1記載の発明や本件各発明と
は技術分野が異なり,前者を後者に適用することはできない。
  本件各発明では,外装体の内側に配設された気体移送部において,第1の
気体に第2の気体を混入させることで,吸引力の調節を真空ポンプ単体で行うこと
ができるようにしたものである。
  これに対して,刊行物2記載の技術的事項【C】は,真空ポンプを部品の
一部として使用し,ポンプ外の配管を含めた真空排気システムに関する技術であ
り,真空ポンプ自体に関する技術とはいえない。
  したがって,相違点1の検討における「刊行物2記載の技術的事項【C】
における「コントローラ20」,「真空排気装置10」,「窒素ガス」,「制御ガ
ス供給路15」は,その機能からみて,本件各発明における「制御手段」,「真空
ポンプ」,「第2の気体」,「気体混入手段」に相当している」との決定の認定は
誤っており,また,この誤った認定に基づいて,刊行物2に記載された真空ポンプ
本体外の配管による真空排気システムを,刊行物1記載の発明の真空ポンプ本体に
対して適用できるとした判断(同頁)も誤っている。
第4 被告の主張
1 取消事由1(刊行物1記載の発明の認定の誤りに基づく一致点・相違点の認
定の誤り)に対して
(1)刊行物1記載の発明(真空ポンプ)は,フランジ11を介して接続され
る,図示されていない真空室内の気体を,入口から吸引し,外側ケーシング1の内
側に配設された気体移送部(ターボ分子ポンプ段8,9の吐出スペースを含む。)
を経由して,真空ポンプの外方へ排出するという,真空生成に関する基本的な機
能・構造を備えるものであり,さらに,上記真空ポンプには,中間取入れ口28が
備えられ,この中間取入れ口28は,ターボ分子ポンプ段8,9の吐出スペース
(気体移送部)に連通されるものであり,真空ポンプの吐出スペース(気体移送
部)へガスを合流(流入)させるものであることが明らかである。
  そして,刊行物1記載の発明の基本的な運転作動時において,上記中間取
入れ口28からターボ分子ポンプ段8,9の気体移送部へガスを合流(流入)させ
れば,ターボ分子ポンプ段8,9の圧力が上昇し,結果として,入口からの吸引力
が減少(変化)するのは,技術常識に照らして明らかであるから,当該真空ポンプ
の基本的な運転作動時に,中間取入れ口28からガスを流入(合流)させること
が,「気体移送部内の圧力を変化させることで,入口からの気体の吸引力を変化す
る圧力変化手段」を意味することは当然である(この,真空ポンプに関する技術分
野において,真空室内の圧力を調整(変化)することや,また,真空室内の圧力を
調整(変化)させるために,真空ポンプの運転作動時に排気路にガスを合流(流
入)させることは,従来周知の技術的事項である(刊行物2,乙第1号証)。)。
  したがって,決定のした刊行物1記載の発明の認定に誤りはない。
(2)参加人は,中間取入れ口28に他の真空室(第2真空室)が接続され,こ
れに第1真空室よりも高い圧力水準の真空を生成するために中間取入れ口が設けら
れていると解釈するのが自然である,と主張する。
  しかし,刊行物1には第2真空室を設けることは明示されていない。
(3)したがって,決定の刊行物1記載の発明の認定に誤りがあることを前提と
する一致点・相違点の誤りの主張は,失当である。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)に対して
(1)刊行物1記載の認定に誤りがないことは,前記のとおりであるから,これ
を前提とする参加人の主張は,すべて失当である。
(2)刊行物2記載の技術的事項【C】は,本件各発明及び刊行物1記載の発明
と同様,真空ポンプの技術分野に属するものであり,これを,刊行物1記載の発明
に適用できないとする特段の事情はない。
  刊行物2には,真空室から吸引した気体の排気路へ,制御用のガスを,そ
の供給流量を調整しながら供給することにより,真空ポンプの排気性能を実質的に
制御し,真空室内に所望の真空状態を生成する,という技術的事項が記載されてい
る(5頁右下欄~6頁左上欄参照)。さらに,その制御用ガスの供給位置は,実質
的に真空ポンプの排気性能を制御し得る場所であれば,自由に設定し得るものであ
ることも記載されている(6頁右上欄参照)。
  刊行物1には,前記のとおり,真空室(気体移送部)内の圧力を変化させ
ることで,吸入口からの気体の吸引力を変化する圧力変化手段を有することが開示
されている。
  そうすると,ガスを流入させる場所が異なるものの,刊行物1記載の発明
も,刊行物2記載の技術的事項【C】も,真空ポンプの排気性能を実質的に変化さ
せる領域にガスを流入させるものであるから,前者に後者を適用することを妨げる
特段の事情は見いだせないのである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(刊行物1記載の発明の認定の誤りに基づく一致点・相違点の認
定の誤り)について
(1)参加人は,刊行物1記載の発明の中間取入れ口28は,第1真空室よりも
高い圧力水準の真空を第2真空室に生成するために使用されるものであるとして,
決定のした刊行物1記載の発明の認定は誤りである,と主張する。
(2)刊行物1には,次の記載がある(甲第4号証訳文2頁)。
 「ターボ分子ポンプ段8,9は中間取入れ口28を装備しており,該中間
取入れ口は種々の目的のために役立てられ,例えば,フランジ11に接続された排
気鐘の真空室(図示せず)内の圧力よりも高い圧力レベルの真空を発生させるた
め,或いは向流式リーク検出器において当該ポンプを使用する場合に試験ガスを取
入れるために使用される。」
  すなわち,刊行物1には,そこに記載された中間取入れ口は,種々の目的
に役立てられるものであること,その具体例として,①フランジ11に接続された
排気鐘の真空室(図示せず)内の圧力よりも高い圧力レベルの真空を発生させるこ
と,②向流式リーク検出器において当該ポンプを使用する場合に試験ガスを取り入
れることが記載されている。
  刊行物1の中間取入れ口の上記①の目的に対応する使用方法について検討
すると,中間取入れ口28とは,中間に設けられた,気体を取り入れる入口のこと
であり(なお,上記②の目的においても試験ガスを取り入れている。),そこからタ
ーボ分子ポンプ段の気体移送部へ気体を流入させれば,ターボ分子ポンプ段の気体
移送部の圧力が上昇することは明らかであり,その結果,入口からの吸引力が減少
し,入口に接続された真空室の圧力が上昇することは当然であるから,「フランジ
11に接続された排気鐘の真空室(図示せず)内の圧力よりも高い圧力レベルの真
空を発生させる」とは,中間取入れ口28から気体を導入して,ターボ分子ポンプ
段の気体移送部の圧力を上昇させることにより,フランジ11に接続された真空室
の圧力をより高いレベルに設定することを意味していると理解することができる。
  以上のとおり,刊行物1には,ターボ分子ポンプ段において中間取入れ口
から気体を気体移送部に流入させ,気体移送部内の圧力を変化させることで,入口
からの気体の吸引力を変化する圧力変化手段を含む真空ポンプが記載されていると
認めることができる。決定のした刊行物1記載の発明の認定に誤りはない。参加人
の主張は,刊行物1の中間取入れ口の目的のうち,上記①を無視し,上記②の目的
のみに依拠したものであり,失当である。
(3)参加人は,真空ポンプにおいて,上流より下流の方が圧力が高くなるこ
と,すなわち真空ポンプ内の圧力が第1真空室より高いことは当業者の技術常識で
あるから,真空ポンプ内により高い圧力水準を有する真空を生成するために,中間
取入れ口28を設けたものでないことは明らかであると主張する。
  しかし,参加人が主張する上記技術常識が正しいものであるとしても,前
記①の目的における使用においては,参加人のいう第2真空室が存在しない使用態
様もあり得るのであり,その場合は,気体を導入すると圧力が高くなるのは気体移
送部(真空ポンプ部)であることは明らかである。そして,これにより,第1真空
室からの気体の吸引力,ひいてはその圧力レベルを調節できるという,周知の好ま
しい効果を奏することができるのは後記2のとおりであるから,より高い圧力レベ
ルを生成させる場所として気体移送部(真空ポンプ部)を想定することは何ら不自
然ではない。
(4)刊行物1記載の発明が,漏れ検出装置である甲第6号証記載の発明を改良
したものであるとしても,前記のとおり,刊行物1記載の発明の中間取入れ口は,
漏れを検出する容器に接続されるだけではなく,種々の目的に用いられるものであ
るとされているのであるから,(2)の認定は左右されない。
(5)取消事由1は,刊行物1記載の発明の認定の誤りを前提とするものであ
り,かかる前提が誤りである以上,採用できない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
(1)参加人は,刊行物1記載の発明には,刊行物2記載の技術的事項【C】の
適用を妨げる阻害要因がある,と主張する。
ア 決定の刊行物1記載の発明の認定に誤りがないことは前記のとおりであ
る。すなわち,同発明は,第2の気体の気体混入手段を有している。
イ 1で述べたとおり,刊行物1の「フランジ11に接続された排気鐘の真
空室(図示せず)内の圧力よりも高い圧力レベルの真空を発生させる」とは,中間
取入れ口28から気体を導入して,ターボ分子ポンプ段の気体移送部の圧力を上昇
させることにより,フランジ11に接続された真空室の圧力をより高いレベルに設
定することを意味していると解すべきである。そして,真空室を実際の使用に供す
るには,その使用目的に応じて,適宜に設定した圧力環境を発生させることは本件
出願当時の当業者の技術常識であり(甲第5号証の第5図参照),その適宜の圧力
レベルの真空を発生させるには,吸入口からの気体の吸引力を調節する必要がある
こともまた当業者の技術常識であるといえるから(刊行物2の「・・・制御用のガ
スをオイルフリ真空ポンプが排気している排気路への供給流量を調整しながら供給
することにより,オイルフリ真空ポンプの排気性能を実質的に制御することができ
るため・・・所望の真空状態を作り出すことができる。」(甲第5号証5頁右下欄
~6頁左上欄)との記載及び特開昭62-169416号公報(乙第1号証)の
「処理室内の圧力を圧力検出器により測定し,・・・制御装置によって補正値分だ
けのガスをガス供給装置から圧縮式ポンプの背圧側にガスを供給することによっ
て,処理室内の圧力を制御することができる。」(2頁左下欄)との記載参照),
刊行物1に,吸入口からの気体の吸引力を調節できる真空ポンプの提供といった課
題についての明示の記載がないとしても,種々の目的に用いられ,気体が導入され
る刊行物1記載の発明の中間取入れ口に着目し,それに刊行物2記載の技術的事項
【C】を適用しようと考えるのは容易であり,そこに何ら阻害要因はない。
(2)刊行物2記載の技術的事項【C】が,真空ポンプを部品の一部として使用
し,ポンプ外の配管を含めた真空排気システムに関する技術であるとしても,それ
は,本件各発明の真空ポンプに関する技術と同一か,少なくとも,極めて密接に関
連する技術分野に属するものであることは明らかである。
  また,刊行物2には「制御用ガスの供給口を設置する場所はオイルフリ真
空ポンプの吸気口付近に限らず,オイルフリ真空ポンプが接続された排気路であれ
ばよく,処理室付近,処理ガス供給口,さらには処理ガス中に混合させてもよ
い。」(甲第5号証6頁右上欄)との記載がある。刊行物2記載の技術的事項
【C】を,真空ポンプの一部として,刊行物1記載の発明において採用することは
十分可能であると認められる。
(3)刊行物2の「本発明の目的は・・・真空排気技術を提供することにあ
る。」(甲第5号証2頁左上欄~右上欄),「前記排気口3には本発明にかかる真
空排気装置10を設備された排気路9が接続されている。真空排気装置10はオイ
ルフリ真空ポンプの一例であるターボ真空ポンプ11と,・・・ターボ真空ポンプ
11の吸気側に接続されているターボ分子ポンプ14と,ターボ真空ポンプ11の
吸気側に圧力制御用ガスとしての窒素ガスを供給するための制御ガス供給路15
と,その制御ガス供給源16と,この供給源16からの供給量を制御するための流
量制御装置としての粗制御用流量調整弁17Aおよび密制御用流量調整弁17B
と,真空排気系全体を開閉するエアバルブ18とを備えており,この排気装置10
には処理室2の内圧を測定する手段としての真空計19が接続されている。」(3
頁左上欄~右上欄),「所定のリークチェックが実施された後,コントローラ20
により,第5図(b)に示されているように粗制御用流量調整弁17Aが開けら
れ,所定量の窒素ガスが排気路9に供給される。・・・処理室2の内圧は,・・・
予め設定された圧力まで上昇された後,一定に維持されることになる。」(5頁右
上欄),「このエッチング処理中,ターボ真空ポンプ11およびターボ分子ポンプ
14は真空排気を持続するが,第5図(c)に示されているように,コントローラ
20によりフィードバック制御されるため,第5図(a)に示されているように,
処理室2の真空状態は処理が最適に実行される所定の圧力(例えば・・・)に維持
される。この最適制御を実行するために,・・・コントローラ20の指令によって
密流量調整弁17Bが流量を精密に調整することにより,制御用ガスとしての窒素
ガスがターボ真空ポンプ11の吸気側に供給される。」(5頁左下欄)との記載か
らすれば,刊行物2記載の技術的事項【C】が真空ポンプを部品の一部として使用
し,ポンプ外の配管を含めた真空排気システムに関する技術であるとしても,その
「コントローラ20」,「真空排気装置10」,「窒素ガス」,「制御ガス供給路
15」が,その機能からみて,それぞれ本件各発明における「制御手段」,「真空
ポンプ」,「第2の気体」,「気体混入手段」に相当することは明らかである。
(4)以上のとおり,決定の相違点1についての判断は誤りであるとの参加人の
主張は採用できない。取消事由2も理由がない。
3 結論
  以上のとおりであるから,参加人主張の取消事由は,いずれも理由がなく,
その他,決定には,取消しの事由となるべき誤りは認められない。
  よって,参加人の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,
行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
   裁判長裁判官    佐  藤  久  夫
   裁判官    若  林  辰  繁
裁判官髙瀬順久は,転補のため,署名押印することができない。
   裁判長裁判官    佐  藤  久  夫

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