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平成一一年(ネ)第一一五〇号損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成
一〇年(ワ)第二一六六二号)
        判      決
  控訴人兼被控訴人(以下「一審原告」という。)   【A】
  被控訴人兼控訴人(以下「一審被告」という。)   【B】
        主      文
 一1 一審被告の控訴に基づき、原判決中、一審被告敗訴部分を取り消す。
  2 右取消しに係る部分の一審原告の請求を棄却する。
 二1 一審原告の控訴を棄却する。
  2 一審原告の当審における新請求を棄却する。
 三 訴訟費用は、第一、二審を通じ、一審原告の負担とする。
        事 実 及 び 理 由
第一 控訴の趣旨
 一 一審原告の控訴の趣旨
  1 原判決の一審原告敗訴部分中、金一〇万五七二〇円及びこれに対する平成
一〇年九月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払請求を棄却した
部分を取り消す。
  2 一審被告は、一審原告に対し、右1項記載の金員を支払え。
  3 (当審における新請求)一審被告は、一審原告に対し、金一二万四二八〇
円及びこれに対する平成一〇年九月二五日から支払済みまで年五分の割合による金
員を支払え。
  4 訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。
  5 第2、第3項につき、仮執行宣言
 二 一審被告の控訴の趣旨
  1 原判決中、一審被告敗訴部分を取り消す。
  2 右取消しに係る部分の一審原告の請求を棄却する。
  3 訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。
第二 事案の要点及び訴訟の経緯等
 一 本件訴訟は、一審原告が、自ら執筆した書籍(原告書籍)に掲載した古文単
語と現代訳語とを結合して一連の意味のある語句や文章にした語呂合わせ(原判決
別紙対照表1ないし42の原告語呂合わせ)が一つ一つ創作性を有する著作物であ
り、一審被告が執筆した書籍(被告書籍)に掲載された語呂合わせ(原判決別紙対
照表1ないし42の被告語呂合わせ)は、それぞれ右原告語呂合わせと実質的に同
一又は類似であり、原告語呂合わせに依拠して作成されたものであるから、一審原
告の有する著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権)を侵害するとして、一審
被告に対し、財産権損害及び慰藉料を請求したものである。
 これに対し、一審被告は、被告語呂合わせはいずれも独自に作成したものであ
り、原告書籍を参考にしていないし、依拠したこともないと争っている。
 二 原判決は、原告語呂合わせのうち、1、13、27につき著作物性を認め、
被告語呂合わせ1、13、27が右原告語呂合わせと実質的に同一であり、これら
に依拠して作成されたものと推認し、一審原告の有する複製権及び氏名表示権を侵
害しているものと認定した上、一審被告に対し、財産的損害五万円、慰謝料五万円
の支払を命じ、その余の一審原告の請求を棄却した。
 三 当事者双方が控訴し、当審において、一審被告は、原判決後調査したとこ
ろ、古語の語呂合わせに関する書籍として、一審原告の執筆に係る最初に発行され
た原告書籍一より一年以上前の平成元年一月発行の「ネコタン365」(五十嵐一
郎著・株式会社学習研究社発行。乙第一〇号証)が存在し、同書籍には、原判決が
著作物性を認めた原告語呂合わせ13及び27に類似した語呂合わせが既に掲載さ
れていたことが判明したが、「ネコタン365」に掲載されている語呂合わせと類
似したものは、その後に発行された原告書籍、被告書籍及び他の同種書籍に掲載さ
れている語呂合わせ中にもそれぞれ一〇%前後見られるところであり、このこと
は、古語の語呂合わせ作成においてはその性質上他の類書を参考にすることがなく
ても偶然の一致が生じ得ることを裏付けるものであると主張した。
 四 原判決が著作物性を認定した原告語呂合わせ1、13、27並びにこれらに
対応する「ネコタン365」の語呂合わせ及び被告語呂合わせは、次のとおりであ
る。
  1 古語「あさまし」(原告書籍一は「めざまし」とも関連付けている。)
   ・ネコタン365 「あさましい・・・手を食う猫に驚きあきれる。」
   ・原告書籍一   「朝めざましに驚くばかり。」
   ・被告書籍一   「朝目覚ましに驚き呆れる。」
  13 古語「あやし」
   ・ネコタン365 「あ、やしの木だ!でもちょっとみすぼらしい。」  
 ・原告書籍二   「アッ、ヤシの実だ。いや、シイタケだ。」
   ・被告書籍一   「あっやしの実だ、いや、しいたけだ、そーまつぼっく
りだ、不思議だな。」
  27 古語「ひがひがし」
   ・ネコタン365 「ひが、ひがしからのぼるのは、ひねくれているわけじ
ゃない。」
   ・原告書籍一   「『日が東に沈む』というひねくれた奴」
  ・被告書籍一   「日が東に沈むとはひねくれている。」
 五 当審において、当事者双方は、「ネコタン365」の存在を知らなかった
し、参考にしたことはない旨主張し、それぞれの語呂合わせにつき独自に作成した
経緯等を具体的に主張した。そして、一審原告は、原告語呂合わせのうち、前記1
3、27のほか、3、11、14、17、18、22、24、26、28、30、
31、33ないし41(合計二二個)に関する著作権及び著作者人格権の主張を撤
回した上、損害賠償請求額を減縮し、著作権等の侵害を主張する原告語呂合わせを
1、2、4ないし10、12、15、16、19ないし21、23、25、29、
32及び42(合計二〇個)に限定した。
第三 事実関係
 次のとおり、付加、訂正、削除するほか、原判決の「第二 事案の概要」のう
ち、三頁二行ないし一三頁八行に記載のとおりである。
 一 著作権等侵害を主張する原告語呂合わせの減縮による削除等
 一審原告は、当審において、著作権等の侵害を主張する原告語呂合わせを原判決
別紙対照表1、2、4ないし10、12、15、16、19ないし21、23、2
5、29、32及び42に減縮したため、次のとおり、付加、削除を行う。
  1 原判決三頁五行「別紙対照表」の次に、「番号1、2、4ないし10、1
2、15、16、19ないし21、23、25、29、32及び42」を加える。
  2 同三頁八行の「及び28」を削る。
 二 誤記等の訂正
  1 原判決三頁九行「国語1・2」を「国語Ⅰ・Ⅱ」に改める。
  2 同別紙対照表二頁一六行原告語呂合わせ20原告書籍一の「あつし」を
「アツシ」に改める。
 三 一審原告の主張の追加
  1 著作物性の有無
 原判決六頁九行の次に、改行して、次を加える。
「 原判決は、多くの原告語呂合わせについて、「ごく平凡で、ありふれたもの」
と判断し、創作性を否定している。
 しかしながら、原告語呂合わせは、いずれも、ⅰサンプルの作成、ⅱ教室等での
他人による確認、ⅲ最終案の決定という過程を経て作成されたものであり、時間と
人手という手間ひまを投入した結果誕生したものである。さらに、自分だけで創作
することには限界があり、一審原告は、一審原告が著作した受験参考書に語呂合わ
せの募集広告を掲載し、寄せられた作品の中から適当な作品を選び、改訂時に語呂
合わせと作者を掲載している。したがって、原判決ができあがった作品だけを見て
「ごく平凡で、ありふれたもの」と判断したのは、あまりにも酷である。
 また、原告語呂合わせは、「表現形式に制約があり、他の表現が想定できない場
合」にも該当しない。
 原判決は、創作性を否定する基準として、「ごく短いもの」を挙げるが、語呂合
わせは、記憶に残ることを目的とするため、短い方がよい。そして、短くするため
に右のような過程で時間と人手をかけるのである。したがって、できあがった作品
がどれほど「すなおで、簡潔なもの」であったとしても、それは「ごく平凡で、あ
りふれたもの」ではなく、「ごく短いもの」であるがゆえに創作性を否定されるも
のではない。
 語呂合わせの作成においても、素材たる古語を変形することによって別の意味あ
る語句を創作する。
 表記を変える場合としては、例えば、原告語呂合わせ29において、「あなが
ち」という古語について表記を変えて「穴が血」という別の意味のある語句を創作
し、現代語訳「無理に」と結合して「無理にすると穴が血に染まる」という語呂合
わせを作った。この表現は、「穴が血」という語句がそれだけで鮮血がほとばしる
印象的な場面を想起させるものであり、このような効果を持つ語句の開発は、発音
こそ同じであっても創作といえる。
 表記を変えない場合においても、その意味が古語と変わっていれば、現代語訳等
の他の語句と一体となって語呂合わせを形成する限り、語呂合わせ全体で著作物性
を有すると解すべきである。例えば、一審原告は、「あつし」という古語について
表記を変えず意味を人名に変え、現代語訳「危篤だ」と結合して「アツシが危篤
だ」(原告語呂合わせ20)を作った。この語呂合わせは、「アツシ」という同級
生にもいそうな人物が若い命を終わらせようとしている印象的な場面を想起させ、
短いが効果的なものであり、創作といえる。
 特許事件についての裁判例も参酌すれば、古語と現代語訳という公知語句を組み
合わせ、ないし公知語句に変形を加えた短い語句であり、通常は創作性を否定され
るようなものであっても、公知語句から予測される範囲を超えた作用効果をもたら
す限り、創作性を認められると解すべきである。
 原告語呂合わせ25は、古語「ここら」と古語「そこら」の二語について、その
共通する現代語訳「たくさん」を一体的に連想させて、容易に記憶ができるように
する目的で作成されたものなので、原判決の基準によっても、創作性が認められる
べきである。
 一審被告は、「ネコタン365」に基づく主張をするが、「ネコタン365」の
「あやし」についての語呂合わせと原告語呂合わせ13との間には、類似性がな
い。すなわち、「ネコタン365」の「あやし」についての語呂合わせは、ヤシの
木のみすぼらしさを表現するのに対し、原告語呂合わせ13は、読者に食べ物をイ
メージさせ、しかも完全な見間違いの場面を想定して印象を深めようとしているも
のである。仮に、「ネコタン365」に記載された語呂合わせと原告語呂合わせ1
3、27とが類似するとしても、その類似は偶然の一致にすぎない(なお、右1
3、27に基づく請求は取り下げる。)。」
  2 複製権及び翻案権侵害の有無
 原判決八頁六行の次に、改行して、次を加える。
「 原告語呂合わせ1につき、説明を付加すると、通常の学術的辞書では、「あさ
まし」は、「1中立的意味、2悪い意味」、「めざまし」は、「1よい意味、2悪
い意味」という解説方法を採っている。例えば、三省堂発行の全訳読解古語辞典
(甲第二三号証)では、「あさまし」は、「1(事のよしあしにかかわらず)驚き
あきれるばかりだ。・・・2あきれて興ざめだ。」と、「めざまし」は、「1目が
覚めるほどすばらしい。・・・2意外でしゃくにさわる。心外だ。」と説明されて
いる。これは学問的には正確な説明だが、各個別の単語の理解になってしまい、受
験必須の「あさまし」と「めざまし」を一体的に理解させることはできない。そこ
で、一審原告は、「めざまし」という単語の根底には、語義にこそ現れないもの
の、「あさまし」の「(事のよしあしにかかわらず)驚きあきれるばかりだ」とい
う中立的驚きがあると考え、原告書籍一(甲第一号証)の「あさまし」の項(四二
頁)で、「→めざまし」という注を付し、「めざまし」の項(五二頁)で、「朝め
ざましに驚くばかり」という語呂合わせと、〔構造的理解〕という図表によって
し、「あさまし」と「めざまし」を一体的に理解させようとした。
 原告語呂合わせ1は、右の一般的ではない一審原告の「めざまし」の理解に基づ
いて作成されたものであり、創作性を有する著作物である。さらに、これと実質的
に同一の被告語呂合わせ1がこれに依拠して作成されたことは明らかである。
 また、一審被告は、本件訴訟の提起前である平成一〇年八月末ころ、一審原告と
電話で話した際、「先生の本がゲンテンでした。」と述べ、原告書籍に依拠して被
告語呂合わせを作ったことを自認していた。
 著作権等侵害を主張する原告語呂合わせの減縮後のもの二〇個と原告語呂合わせ
13の合計二一個について、原告書籍、被告書籍一(甲第四号証)、他の同種書籍
(五十嵐一郎著「ネコタン365」(乙第一〇号証)、西沢正史著「古文語 連想
-速記憶術」(乙第一二号証)、村上龍一著「村上龍一の入試にでる古文単語を一
週間で覚えてしまう本」(乙第五号証)、和角仁・北山雅珠著「和角・北山の感動
の古文単語148」(乙第七号証)、TKOプロジェクト編著「DrKのゴロで覚
える古文V単語312」(乙第八号証))との間で、単語の語呂合わせの一致度数
を検討したが(別紙二)、この結果によれば、その一致度数は、次のとおりであ
る。
 五十嵐(乙第一〇号証)    二
 原告書籍          二一
 被告書籍一         二一
 西沢(乙第一二号証)     一
 村上(乙第五号証)      二
 和角ら(乙第七号証)     三
 TKO(乙第八号証)     二
 以上の書籍全体からの考察によれば、原告書籍と他の同種書籍との間において
は、一致頻度はさほど高くないのに対し、原告書籍と被告書籍一との一致頻度は明
らかに高いものであり、原告語呂合わせが創作性を有すること、さらに、一審被告
が原告書籍を参照し、それに依拠して被告語呂合わせを作っていることは明らかで
ある。」
  3 権利の承継
 原判決一〇頁四行の次に、改行して、次を加える。
「3の2 権利の承継の有無
 一審原告は、【C】から、原告語呂合わせ21についての著作権を譲り受けた。
 原告語呂合わせ21は、一審原告が著作した出版物に掲載した「ごろあわせ募集
広告」(甲第二号証等)に応じて寄せられた作品(甲第八号証の一ないし八等)の
中から適当な作品を選び、改訂時に語呂合わせと作者名を掲載しているものであ
る。広告の文面及び一審原告の著作がいずれも受験参考書であることを考慮すれ
ば、応募者は受験の記念として掲載を望むのみであり、著作権等については一審原
告に無償で譲渡する意思であると解するのが、当事者の意思の合理的解釈であると
考えられる。」
  4 損害
  (一) 原判決一〇頁八行、九行の「合計三〇万〇七二〇円」を削除する。
  (二) 原判決一一頁五行ないし七行を、次のとおり改める。
「 被告書籍一の出版部数は五万部である。一部当たりの売価は九五一円である。
印税は九パーセントである。したがって、印税相当額は、三三万円以上である。」
  (三) 原判決一二頁四行の次に、改行して、次を加える。
「(三) よって、一審原告は、当審において、一審被告に対し、原審で認容され
た被告書籍一についての財産的損害五万円及び慰謝料五万円に加え、被告書籍一に
ついての財産的損害二三万円(ただし、内一二万四二八〇円は、当審における新請
求である。)並びにこれらに対する不法行為後である平成一〇年九月二五日から支
払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
 四 一審被告の主張の追加
  1 認否
 一審原告の主張(三1ないし4)はいずれも争う。
  2 著作物性の有無
  (一) 原判決七頁四行「存在する。」の次に、加える。
「その一例として、原告書籍より先に出版された「ネコタン365」(五十嵐一郎
著、株式会社学習研究社 平成元年一月初版発行、平成三年二月第三刷発行。乙第
一〇号証)には、「あやし」につき、「あ、やしの木だ! でも、ちょっとみすぼ
らしい。」との語呂合わせが、「ひがひがし」につき、「ひが、ひがしからのぼる
のは、ひねくれているわけじゃない。」と減縮前の原告語呂合わせ13、27(い
ずれも原判決が著作物性を認めたもの)に類似した語呂合わせが掲載されてい
る。」
  (二) 原判決七頁六行の次に、改行して、加える。
「 原告語呂合わせ1は、古文単語と訳語のほかにわずか三語しか含まれていない
創作難易度の低い語呂合わせであり、著作物性を有するものではない。」
  3 複製権及び翻案権侵害の有無
 原判決九頁八行の次に、改行して、次を加える。
「 一審被告は、「あさまし」の語呂合わせに関して、被告語呂合わせ1「朝目覚
ましに驚き呆れる」のほか、「あさましい奴に驚き呆れる」、「朝マシーンに驚き
呆れる」の三つの独自に作成した語呂合わせを併用して授業で使用していた。被告
書籍一において被告語呂合わせ1を使用したのは、被告書籍一作成時のイラストレ
ーターの選択に従い、イラスト化しやすい語呂合わせを用いたからにすぎない。
 また、一審原告が取り下げた原告語呂合わせ13に対応する被告語呂合わせ13
の「あっやしの実だ、いや、しいたけだ、そーまつぼっくりだ、不思議だな。」
は、平成二年一〇月ころ、一審被告の授業中に、当時の船橋市<以下略>の中学二
年生三名が共同で作成したもので、古語の「あやし」につき「いやしい」、「粗末
だ」、「不思議だ」の訳語を含めたところに意味があり、「あ、椰子」のモチーフ
から「いやしいたけだ」を導き、椰子の実とまつぼっくりとをからめて作成された
ものであり、「ネコタン365」や原告書籍とは全く無関係に作られたものであ
る。
 一審原告は、電話で話しあった際に、被告語呂合わせは原告書籍に依拠して作成
したことを一審被告が自認した旨主張するが、そのような事実はない。一審被告
は、一審原告から電子メールで訴状案が送付されたので電話をして話し合ったこと
があり、当時「ネコタン365」の存在を知らなかったので、他の同種書籍を調査
してみたところ原告書籍一の発行が一番古いものであることが分かった旨を話した
ことはあるが、被告書籍が原告書籍に依拠している旨を話したことはない。
 一審原告は、原告書籍と被告書籍一との一致頻度が他の同種書籍より高い旨主張
するが、他の同種書籍にも類似と見得る語呂合わせがあるのに、それらを除外して
恣意的に一致頻度を算出しているものであって、意味をなさない。
 なお、「ネコタン365」と原告書籍とを比較してみると、原告書籍一の収録語
呂合わせ二六〇のうち「ネコタン365」に類似するものは三三(一二・七%)存
在する。また、被告書籍一の収録語呂合わせ五一三のうち「ネコタン365」に類
似するものは四五(八・八%)であり、他の同種書籍でも「ネコタン365」に類
似する語呂合わせの比率は一〇%以上である。古文の講師が一般的に実施している
古文単語の語呂合わせによる学習は、古語を現代語に当てて、若干の創作性を付加
して意味をつなげるという手法であり、手段と目的とを同一にしているため類似性
を生じやすいのである。被告語呂合わせのごく一部が原告語呂合わせに類似してい
るとしても、それは偶然の一致ともいうべきもので、原告語呂合わせに依拠したも
のではない。
第四 当裁判所の判断
 当裁判所は、原告語呂合わせ1については著作物性を認め得るが、これと実質的
に同一と認められる被告語呂合わせ1が原告語呂合わせ1に依拠して作成されたも
のと認めることができず、原告語呂合わせ4及び32は、原判決の認定、判断と同
様に、著作物性を肯定し得るものの、これらに対応する被告語呂合わせ4及び32
は実質的に同一のものとはいえず、また、その余の原告語呂合わせは、原判決の認
定と同じく、いずれも著作物とは認められない(なお、原告語呂合わせ21につい
ては著作権の承継取得が認められない。)ものと判断した。したがって、結論とし
て、被告語呂合わせ1、2、4ないし10、12、15、16、19ないし21、
23、25、29、32及び42が原告語呂合わせ1、2、4ないし10、12、
15、16、19ないし21、23、25、29、32及び42の複製権及び翻案
権並びに氏名表示権及び同一性保持権をそれぞれ侵害する旨の一審原告の主張(減
縮後のもの)は、いずれも理由がないと判断するものであるが、その理由は、次の
とおり、付加、訂正、削除するほか、原判決の「第三 争点に対する判断」のう
ち、原判決一三頁一〇行ないし四八頁六行に記載のとおりである。
 一 原告語呂合わせの減縮等による削除
 一審原告の著作権等侵害を主張する原告語呂合わせの減縮等により、原判決一六
頁二行「したがって、」ないし五行(原告語呂合わせ1についての判断の一部)、
一七頁一行ないし六行(原告語呂合わせ3についての判断)、二二頁二行ないし七
行(同11についての判断)、二三頁三行ないし二五頁二行(同13、14につい
ての判断)、二六頁四行ないし二七頁八行(同17、18についての判断)、二九
頁二行ないし三〇頁二行(同22についての判断)、三一頁二行ないし七行(同2
4についての判断)、三二頁三行ないし三四頁四行(同26ないし28についての
判断)、三五頁七行ないし三六頁七行(同30、31についての判断)、三七頁一
〇行ないし四六頁五行(同33ないし41についての判断)を削る。
 二 語呂合わせの創作性に関する主張について
   原判決一四頁一〇行の次に、改行して、次を加える。
「 なお、一審原告は、特許事件についての裁判例も参酌すれば、古語と現代語訳
を組み合わせたようなものであっても、それらの公知語句から予測される範囲を超
えた作用効果をもたらす限り、創作性を認められるべきである旨主張するが、独自
の見解であり、一般論としてそのまま採用することはできない。」
 三 原告語呂合わせ21(【C】からの承継取得)について
 原判決二八頁一〇行ないし二九頁一行を次のとおり改める。
「(二一) 原告語呂合わせ21につき、原告は、【C】から著作権を譲り受けた
旨主張し、その根拠として、原告語呂合わせ21は、一審原告が著作した受験参考
書に掲載した「ごろあわせ募集広告」に応じて寄せられた作品の中から適当なもの
を選び、改訂時に語呂合わせと作者名を掲載しているものであるが、広告の文面及
び一審原告の出版物がいずれも受験参考書であることを考慮すれば、応募者は受験
の記念として掲載を望むのみであり、著作権等については一審原告に無償で譲渡す
る意思であると解するのが、当事者の意思の合理的解釈である旨主張する。
 甲第二号証及び弁論の全趣旨によれば、一審原告は、自己の著作した古文の受験
参考書に、「∧あなたもゴロあわせを作ってこの本にのせよう∨ 自分で工夫した
単語の覚え方を下記までお送りください。採用作品はあなたの作品であることを明
記しこの本にのせます。なお、採用された方にはあなたの作品がのったこの本を郵
送します。」との広告を掲載し(なお、甲第二号証の原告書籍二は、一九九三年四
月二〇日発行の第一〇刷であるが、それ以前から、一審原告主張の古文の受験参考
書には一審原告主張の募集広告が掲載されていたものと認められる。)、【C】も
この広告に応じて自己の創作した原告語呂合わせ21を一審原告に送付したことが
認められるが、右広告には、応募作品の著作権は一審原告に帰属する旨を明記した
記載はなく、また、右募集広告の文言のみから、原告書籍三に掲載された投稿作品
の著作権を一審原告に帰属させる旨の合意が成立したものと認めることはできな
い。
 したがって、原告語呂合わせ21の著作権侵害を理由とする一審原告の請求は、
その余の点について判断するまでもなく、理由がない。」
 四 依拠について
 原判決四七頁六行ないし四八頁一行を、次のとおり改める。
「3 次に、被告語呂合わせ1を作成するに当たり、原告語呂合わせ1への依拠が
あったか否かについて判断する。
 確かに、原告書籍一と被告書籍一は、いずれも大学受験用に古文単語を語呂で記
憶するための本であり、執筆目的が共通であること、原告書籍一は、被告書籍一の
発行よりも八年程度以前から発行され、現在まで相当部数が販売されていることが
認められる(甲六、弁論の全趣旨)。
 他方、原告語呂合わせと実質的に同一と認められた被告語呂合わせは、被告語呂
合わせ1だけであること、一審原告が著作権等侵害を主張する原告語呂合わせの減
縮後のもの二〇個と原告語呂合わせ13の合計二一個について、他の同種書籍に比
し、原告書籍と被告書籍一との一致度数のみが非常に高いとの点(前記第三、三
1)についても、前記のとおり、一審原告が選んだ右原告語呂合わせのほとんどは
著作物とは認められないものであり、しかも、一審原告がどの古文単語を選ぶかに
よって一致度数はいくらでも変化し得るものにすぎないこと、一審被告は、被告語
呂合わせ1を、原告語呂合わせ1とは異なり、「あさまし」の説明のために使用し
ているが、「めざまし」と関連付けては説明していないこと(甲四)、「あさま
し」の前半部分から「朝」を連想することは、さほど不自然ではないと考えられる
こと(一審被告は、「あさまし」に対応する動詞「あさむ」についても、「朝ムッ
ツリすけべに驚く」との語呂合わせを紹介しているものである。甲四)のほか、一
般的に、古語に関する語呂合わせは、古語と現代語訳とを結び付けて、記憶しやす
い一連の語句や文章として簡潔に表そうとするものであるところ、それぞれの古語
や現代語訳自体は客観的に広く知られているものであるから、各作成者が独自に工
夫しても、ある程度相互に似通った発想や表現が生じ得る必然性と可能性を有して
いるものであること、現に、原告書籍、被告書籍及び他の同種書籍に掲載された語
呂合わせの中には、これらより前に発行された「ネコタン365」に掲載されてい
る語呂合わせと類似した発想や表現を含むものがそれぞれ一〇%前後存在している
こと、当事者双方は、いずれも「ネコタン365」の存在を知らなかったし、参考
にしたことはない旨主張するところ、それぞれその主張は信用することができるも
のであること(甲一ないし五、七、乙四ないし八、一〇、一四ないし一六、当審に
おける一審原告及び一審被告各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨)が認められ
る。
 これらの事情を総合すると、被告語呂合わせ1は原告書籍一に依拠せずに、独自
に創作したものである旨の当審における一審被告本人尋問の結果を信用できないも
のとすることはできず、他に一審被告の依拠の点を認めるに足りる証拠はない。
 なお、一審原告は、本件訴訟の提起前に一審被告と電話で話し合った際、一審被
告は原告書籍を参考にしていたことを自認していた旨主張し、当審における一審原
告本人尋問においてそれに沿う供述をするが、右自認の点は、一審被告が当審にお
ける一審被告本人尋問において否定しているところであり、しかも、一審被告がそ
の本人尋問において電話での一審原告に対する説明内容として供述する点も首肯し
得る内容のものであるから、一審原告の主張に沿う当審における一審原告本人尋問
の結果の一部は採用することができず、他に一審被告の自認の点を認めるに足りる
証拠はない。
 以上によれば、被告語呂合わせ1の作成に当たり、原告語呂合わせ1への依拠が
あったものとは認められず、原告語呂合わせ1についても、一審原告の有する著作
権及び著作者人格権の侵害はないというべきである。」
 五 まとめ
 原判決四八頁二行ないし六行を、次のとおり改める。
「4 以上によれば、原告語呂合わせ1、2、4ないし10、12、15、16、
19ないし21、23、25、29、32及び42のいずれについても、複製権及
び翻案権並びに氏名表示権及び同一性保持権侵害は認められないものである。」
第五 結論
 よって、一審原告の請求はすべて理由がなく、一審原告の請求の一部を認容した
原判決部分は相当でないから、一審被告の控訴を認容し、一審原告の控訴を棄却す
ることとする。
(口頭弁論終結の日 平成一一年七月一三日)
 東京高等裁判所第一八民事部
      裁判長裁判官    永  井  紀  昭 
         裁判官塩  月  秀  平
         裁判官市  川  正  巳

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