弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 原告らの本件訴えのうち、昭和五九年度分から昭和六二年度分までの支出に関
する金一八六万一四八五円の支払請求部分をいずれも却下する。
二 被告は赤坂町に対し、金三八万二八七五円を支払え。
三 訴訟費用は、これを六分し、その五を原告らの負担とし、その余を被告の負担
とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は赤坂町に対し、金二二四万四三六〇円を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 第1項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 主文第一項と同旨
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
4 仮執行免脱宣言
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告らは赤坂町(以下、単に「町」という。)の町民であり、被告は赤坂町長
(以下、単に「町長」という。)である。
2 被告は町長として、昭和五九年度から昭和六三年度までの間、町職員に対し、
町職員の所有する通勤用自動車(自動二輪車を含む。)(以下「私用車」とい
う。)の任意保険(自動車保険)の掛金の五〇パーセントを次のとおり支給した
(以下「本件支給」という。)。
(年度)       (支出額)
昭和五九年    五二万六五〇〇円
昭和六〇年    五〇万八四四〇円
昭和六一年    四二万六七五〇円
昭和六二年    三九万九七九五円
昭和六三年    三八万二八七五円
合   計   二二四万四三六〇円
3 ところで、地方自治法(以下、単に「法」という。)二〇四条では、普通地方
公共団体は、特別職及び一般職の常勤職員に対し、給料及び旅費を支給しなければ
ならず、また各種手当を支給することができることになっているが、これらの額及
び支給方法は条例で定めることを要する旨規定している。また、法二〇四条の二で
は、普通地方公共団体は、右職員に対し、いかなる給与その他の給付も法律又はこ
れに基づく条例に基づかずには、支給できない旨規定している。
4 しかしながら、本件支給は、右の法律又は条例に基づかない公金の支出であっ
て、法二〇四条、二〇四条の二に違反しており違法である。
5 被告は、町長として適正な財産管理をすべき注意義務があったにもかかわら
ず、これを怠り、違法な本件支給をして、右支給額合計二二四万四三六〇円の損害
を町に生じさせた。したがって、被告は町に対し、不法行為に基づき右損害を賠償
する義務がある。
6 そこで、原告らは、昭和六三年一二月九日、法二四二条一項に基づき、町監査
委員に対し、被告が右損害を町に補填する措置を講ずるよう監査請求をしたが、同
監査委員は、平成元年二月四日、右監査請求には理由がない旨の監査結果を出し、
これを原告らに通知した。
7 よって、原告らは、法二四二条の二第一項四号に基づき、町に代位して被告に
対し、不法行為による損害賠償として前記損害金二二四万四三六〇円を赤坂町に支
払うよう求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
1 請求原因に対する認否
(一) 請求原因1、3、6の各事実は認める。
(二) 同2のうち、被告が町長として本件支給をしたことは認めるが、その余は
争う。
(三) 同4、5、7は争う。
2 被告の主張
(一) 本案前の主張
(1) 本件支給の行われた年月日は、次のとおりである。
(年度)     (支出額)     (支出年月日)
昭和五九年  五二万六五〇〇円  昭和五九年六月二五日
昭和六〇年  五〇万八四四〇円  昭和六〇年七月 三日
昭和六一年  四二万六七五〇円  昭和六一年六月一六日
昭和六二年  三九万九七九五円  昭和六二年六月二九日
昭和六三年  三八万二八七五円  昭和六三年六月二七日
(2) ところで、法二四二条二項では、住民監査請求は、支出のあった日から一
年を経過したときはこれをすることができない旨規定している。そして、原告ら
が、本件支給につき住民監査請求をしたのは昭和六三年一二月九日であるから、昭
和六二年度以前の支出分については、支出のあった日からいずれも一年が経過して
おり、不適法な監査請求といわなければならない。したがって、本件訴えのうち昭
和六二年度以前の支出分については、適法な監査請求を経ていないから、不適法と
して却下を免れない。
(二) 本案に関する主張
(1) 町は、昭和四四年度から、町職員が加入している全国町村職員生活協同組
合(以下「職員生協」という。)の実施する自動車共済事業について、自動車一台
分に限って共済掛金の二分の一を町の歳出予算から支出している。具体的には、右
自動車共済事業は、毎年七月一〇日を満期日とする単年度契約になっているので、
加入者である町職員が六月に支給される期末勤勉手当から天引きした本人負担額
(共済掛金の二分の一)と町の歳出予算から支出する金額(共済掛金の二分の一)
とを合わせて、職員生協の指定する銀行口座に振り込んでいるものであり、町職員
に対して直接に金銭で支払われることはない。なお、職員生協は、全国の町村職員
等により構成され、協同互助の精神に基づき組合員の生活の文化的経済的な改善、
向上を図ることを目的とし、火災共済事業、自動車共済事業その他の事業を実施し
ているが、右自動車共済事業は、組合員である職員が共済契約の申込みをし、共済
契約が締結され、右契約に基づいて組合員が共済掛金を支払うことによって、自己
の自動車が事故を起こした場合、対物賠償、対人賠償等の共済金が支払われる仕組
みになっている。
(2) このような取扱いが町で実施されるようになったのは、昭和四四年頃、職
員の出張中の自動車事故が多発し、同じ事故でありながら、公用車を使用中の事故
と公用車不足のためやむを得ず私用車を使用していた際の事故との間で、職員の損
害賠償責任に不均衡が生じたためである。そこで、共済掛金の二分の一を町が補助
することにより、町職員の自動車共済事業への加入を促進し、これによって公務使
用中の私用車による事故の賠償責任に備えるとともに、右不均衡の是正を図るため
右取扱が実施されたものである。そして、これにより、公務の遂行である出張が円
滑に実施されている。
(3) ところで、町職員の出張先は、岡山県庁の所在地である岡山市、同県東備
地方振興局の所在地である和気町、赤磐郡内の各町役場、町内の各部落が主なもの
であるが、町内には、公共交通機関としては路線バス一社が運行されているだけで
あるから、町職員の出張には、自動車の利用が不可欠である。ところが、町の保有
する公用車の数は、年々わずかずつ増加しているが、未だすべての出張をまかなう
には十分ではなく、私用車の利用が必要な状況にある。
(4) 以上によれば、町による前記共済掛金の二分の一の支出は、公務の円滑な
遂行という公益上の必要に基づくものである。また、その支出方法も、職員生協の
指定する銀行口座に一括して振り込まれており、個々の職員に対して直接金銭を支
払う給与等と相違している。そうすると、右支出は、法二三二条の二の「寄付又は
補助」に該当し、原告らが主張する法二〇四条の二の「給与その他の給付」には該
当しない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1、3、6の各事実及び被告が本件支給をなしたことは当事者間に争
いがない。
二 まず、被告の本案前の主張について判断する。
前記一の争いのない事実、成立に争いのない甲第一号証、弁論の全趣旨によれば、
本件支出のうち、昭和六二年度分以前の支出については、
(年度)     (支出額)      (支出年月日)
昭和五九年  五二万六五〇〇円  昭和五九年六月二五日
昭和六〇年  五〇万八四四〇円  昭和六〇年七月 三日
昭和六一年  四二万六七五〇円  昭和六一年六月一六日
昭和六二年  三九万九七九五円  昭和六二年六月二九日
であること、原告らが本件支給に対し、昭和六三年一二月九日に法二四二条一項に
基づく監査請求をしたことが認められ、この認定に反する証拠はない。
右認定の事実によれば、昭和六二年度分以前の支出に対する監査請求は、法二四二
条二項の監査請求期間の経過後に行われたものであって、本件訴えのうちの右支出
分については、適法な監査請求を経ていないことになるから、法二四二条の二第一
項により不適法として却下するのが相当である。
三 そこで、本件支給のうち、昭和六三年度分の適否について検討する。
1 前記一の争いのない事実に、成立に争いのない甲第一ないし第三号証、第六号
証、原本の存在及び成立に争いのない甲第四号証の一、二、第五号証、証人A、同
Bの各証言、弁論の全趣旨を総合すれば、職員生協は火災共済事業、自動車共済事
業その他の事業を実施しているが、このうち、自動車共済事業は、組合員である町
村職員と職員生協が自動車共済契約を締結し、当該組合員が所定の共済掛金を支払
うことにより、自己の自動車が事故を起こした場合に対物賠償、対人賠償等の共済
金が支払われる仕組みになっていること、町内の公共交通機関としては路線バスが
一本しかなかったことから、町職員が公務で出張する場合には自動車を利用するこ
とが多く、とくに昭和四四年頃、町には公用車が四台しかなかったため(その後、
順次増加して昭和六二年には一三台となった。)、職員が私用車を利用して出張す
ることが多かったこと、このため、出張中の職員が自動車事故を起こした場合に、
公用車を使用中の場合と、私用車を使用中の場合とで不均衡が生じることから、職
員が右自動車共済契約を締結した場合、一律に自動車一台分に限って共済掛金の二
分の一を町の歳出予算から支出する制度(以下「本件制度」という。)を昭和四四
年から発足させたこと、右自動車共済契約が毎年七月を更新時期とする単年度契約
であったところから、町は、本件制度を実施するため、加入者である町職員の六月
の期末勤勉手当から本人負担額とされた共済掛金の二分の一を天引きし、これに町
の歳出予算から支出された残りの二分の一とを併せて職員生協の指定する銀行の口
座に振り込む手続きを採っていたこと、本件制度の実施期間中においても、町職員
が公用車で出張する場合、旅費は支払われないのに、私用車で出張する場合には、
一キロメートル単位で積算した旅費が支払われていたこと(現在では一キロメート
ル当たり二五円の旅費が支給されている。)、本件制度においては、右自動車共済
契約を締結した職員に対して、過去の出張の際における私用車の利用実績を考慮す
ることなく一律に共済掛金の二分の一を町が負担する取扱いをしていたこと、町職
員のうち、右自動車共済契約には加入していないものの、民間の保険会社の任意保
険(自動車保険)に加入している者に対しては、町がその保険料の一部を負担する
取扱いはしていなかったこと、町は、本件制度を条例で定めたことはなかったこ
と、昭和五五年三月一一日、同月二一日の町議会において、議員の一部から本件制
度を疑問視する指摘があり、町長が、町長自身は本件制度の利益を受けることを辞
退する旨答弁したが、町長以外の職員に対しては、従来のまま本件制度の適用を継
続したこと、その後、本件制度について、昭和六三年一二月九日に原告らから監査
請求が出され、町の監査委員は平成元年二月四日付で右監査請求には理由がないと
の監査の結果を原告らに通知したが、右監査委員は、右通知とは別に、同日付で町
長に対し、町の公用車の整備を計って私用車による出張を減少させる体制が整備さ
れた時点で本件制度を廃止することが望ましい旨の要望書を提出したこと、本件制
度は昭和六三年度まで実施されたが、平成元年度以降は実施されていないことが認
められ、この認定に反する証拠はない。
2 右認定事実によれば、本件制度による本件支出(昭和六三年度分)は、町職員
が締結した前記自動車共済契約に基づく共済掛金の半額を町が支払うことによっ
て、共済掛金支払債務の半額を免れさせ、右相当額の利益をその職員に与えるもの
であるから、法二〇四条の二の「その他の給付」の支給に該当すると解すべきであ
るが、本件支出を認める法律又は法律に基づく条例は存在しないから、本件支出は
違法であるといわなければならない。
四 しかして、被告が町長として本件制度に基づき、昭和六三年度分として合計三
八万二八七五円の支出を行ったことは当事者間に争いがないから、町は右支出によ
って同額の損害を被ったことは明らかである。
また前記認定のとおり、本件制度については、昭和五五年三月の町議会において、
議員の一部から本件制度を疑問視する指摘があり、町長である被告は自己が本件制
度の利益を受けろことを辞退する旨の答弁をしながら、その後も町長以外の町職員
に対して本件制度に基づく支出を継続したのであるから、被告には、町長として要
求される財産管理上の注意義務に違反して違法な本件支出(昭和六三年度分)を行
った点で過失があるといわなければならない。
そうすると、被告は不法行為に基づく損害賠償として町に生じた右支出相当額の損
害を町に対して賠償する義務がある。
五 よって、原告らの本件各訴えのうち、昭和六二年度分以前の支出に関する部分
については不適法であるから、いずれもこれを却下し、その余の原告らの本訴請求
(昭和六三年度分の支出に関する部分)は理由があるからこれを認容し、訴訟費用
の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九二条、九三条をそれぞれ適用
し、仮執行宣言の申し立てについてはその必要がないものと認めてこれを却下する
こととし、主文のとおり判決する。
(裁判官 將積良子 安原清蔵 太田尚成)

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