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平成28年2月24日判決言渡
平成25年(行コ)第2号行政文書不開示決定処分取消請求控訴事件
(原審大阪地方裁判所平成22年(行ウ)第2号)
主文
11審被告の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
2内閣官房内閣総務官が平成21年12月14日付けで1審原告に対し
てした行政文書の不開示決定(閣総会第422号)のうち,同年9月1日
から同月16日までの内閣官房報償費の支出に関する次の⑴ないし⑶の
行政文書を不開示とした部分を取り消す。
⑴政策推進費受払簿
⑵出納管理簿のうち,調査情報対策費及び活動関係費に係る部分を除い
たもの
⑶報償費支払明細書
31審原告のその余の請求を棄却する。
41審原告の控訴を棄却する。
5訴訟費用は,第1,2審を通じこれを2分し,その1を1審原告の負担
とし,その余を1審被告の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
11審原告
⑴原判決を次のとおり変更する。
⑵内閣官房内閣総務官が平成21年12月14日付けで1審原告に対して
した行政文書の不開示決定(閣総会第422号)のうち,同年9月1日から
同月16日までの内閣官房報償費(以下「報償費」という。)の支出に関す
る次のアないしオの行政文書(以下「本件対象文書」という。)を不開示と
した部分を取り消す。
ア政策推進費受払簿
イ支払決定書
ウ出納管理簿
エ報償費支払明細書
オ領収書,請求書及び受領書(以下「領収書等」という。)
21審被告
⑴原判決中,1審被告敗訴部分を取り消す。
⑵上記部分について,1審原告の請求を棄却する。
第2事案の概要等
1事案の概要
⑴本件は,1審原告が,内閣官房内閣総務官に対し,行政機関の保有する情
報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)に基づき,平成21
年4月1日から同年9月16日までの報償費の支出に関する行政文書(政策
推進費受払簿,支払決定書,出納管理簿,報償費支払明細書及び領収書等)
の開示を請求したところ,内閣官房内閣総務官が,同年12月14日付けで
不開示決定(以下「本件不開示決定」という。)をしたため,同決定のうち
同年9月1日から同月16日まで(以下「本件対象期間」という。)の支出
に関する本件対象文書の不開示決定部分につき,その取消しを求めた事案で
ある。
⑵原判決は,1審原告の請求のうち,次のアないしオの行政文書の開示を求
める部分について理由があるものと認め,その限度で本件不開示決定を取り
消し,その余の請求を棄却した。
ア政策推進費受払簿
イ支払決定書のうち,原判決別紙1交通事業者目録記載の各事業者が経
営する交通機関(以下「公共交通機関」ともいう。)の利用に係る交通費
の支払に関するもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されている
ものを除く。)
ウ出納管理簿のうち,調査情報対策費及び活動関係費に係る部分(出
納管理簿の摘要欄が調査情報対策費又は活動関係費とされているもの。
ただし,活動関係費のうち,公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関
するものであって,支払相手方等の欄に利用者の氏名ないし名称が記録さ
れていないものを除く。)を除いたもの
エ報償費支払明細書
オ領収書等のうち,公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの
(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。)
⑶原判決に対し,1審原告は,原判決で棄却された部分の取消しを求めて控
訴を提起し,1審被告は,原判決で認容された部分の取消しを求めて控訴を
提起した。
2前提事実,争点及び当事者の主張
これらは,後記3のとおり1審原告の控訴に関する主張及び後記4のとおり
1審被告の控訴に関する主張を加えるほかは,原判決「事実及び理由」中第2
の2ないし4(2頁20行目から34頁25行目まで)に記載のとおりである
から,これを引用する。
31審原告の控訴に関する主張
(1審原告の主張)
⑴情報公開法5条6号,3号の適用について
ア情報公開法5条6号について
同号の「支障」の程度は,名目的なものでは足りず,実質的なものであ
ることが必要であり,「おそれ」の程度も,単なる確率的な可能性ではな
く,法的保護に値する蓋然性が要求される。
したがって,開示された情報を基にして,さらに第三者による不正工作
を介在させたうえ,これによって生じるかもしれないという漠とした抽象
的な可能性があるにすぎない事情が想定,仮定されることをもって,同号
に該当するとはいえない。このような場合も同号に該当するものとする解
釈は,抽象的な不安感により,上記の「おそれ」を,抽象的・派生的事態
にまで無制限・連鎖的に拡大させることになり,不開示事由を5条各号の
場合に制限する情報公開法の趣旨に反するものである。
イ情報公開法5条3号について
同号の「害される」,「損なわれる」,「不利益」,「おそれ」につい
ても,上記アと同様であり,かつ,その判断に際し,行政機関の長に裁量
権を認めるのは相当ではなく,行政機関側が上記事情の具体的存在を主張
立証する必要があるというべきである。
⑵原判決で不開示とされた本件対象文書について
ア領収書等について
調査情報対策費及び活動関係費のうち,会合,贈答品及び支払関係費用
等としての支出は,情報提供者やそれに準ずる者に直接支出するものでは
なく,間接的な類型(以下「間接支払類型」という。)であり,この場合
については,すべて開示したとしても,内閣の事務又は事業の適正な遂行
に支障を及ぼす具体的な「おそれ」は生じ得ない。また,会合に利用する
業者や振込みに利用する金融機関などが,不正工作により簡単に顧客の情
報を漏洩することなど考えられない。
特に,以下の領収書等については,上記の「おそれ」は,およそ存在し
ない。
(ア)公共交通機関以外の交通費(タクシー,ハイヤー等)の領収書等
交通事業者は,利用代金が報償費として支払われているのかどうかを
把握しておらず,特に,タクシーの場合,領収書に宛名のない印字され
たレシートが添付されていることもあるが,この場合には,報償費によ
る支払であること自体を把握することができない。そうすると,報償費
による役務提供の際,どのような人物が乗車し,どのような話がされて
いたのかを特定しようがないから,これらが特定されることにより,内
閣の事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす具体的なおそれがあると
は考えられない。
(イ)金融機関の振込手数料(支払関係経費)に係る領収書等
報償費の支払を金融機関の振込みで行うことは,不正工作を仕掛けよ
うとする者でなくとも容易に想定できるから,単なる振込手数料に係る
領収書等を開示したところで,内閣の事務又は事業の適正な遂行に支障
を及ぼす具体的なおそれがあるとは考えられない。
(ウ)会合費の領収書等
会合場所が,不特定多数の者が日々出入りする旅館やホテルである場
合,会合場所を経営する業者が,会合の参加者や内容を把握していると
は考え難いから,当該業者に不正工作を行ったとしても,会合の参加者
や内容を特定することはできない。料亭やレストランでも,会合の内容
まで把握しているとは考えられない。したがって,このような領収書等
を開示しても,内閣の事務又は業務の適正な遂行に支障を及ぼす具体的
なおそれがあるとは考えられない。
なお,会合の中には,マスコミにより会合場所や参加者が報道されて
いるものもあるが,そのような会合については,領収書等が開示された
としても,上記支障はないから,このような会合の領収書等は,最低限
開示されるべきである。
イ支払決定書(公共交通機関利用分を除く)について
支払決定書は,ほぼ毎月1回,調査情報対策費で1枚,活動関係費で1
枚作成され,月の各支出をまとめて1枚で記載したものであるが,使用目
的や支払相手方等については,複数ある支出のうち,基本的には1つ代表
的なものを記載するにすぎず,しかも,使用目的は,会合費,交通費とい
った類型的な記載にとどまる。このような支払決定書が開示されたとして
も,情報公開法5条6号,3号に該当する具体的な「おそれ」は生じない
というべきである。
また,代表的なものとして記載される使用目的や支払相手方等が,間接
支払類型の場合には,上記アのとおり,開示されるべきであるし,そうで
なかったとしても,後記⑶の部分開示により,当該記載部分をマスキング
して対応すべきである。
ウ出納管理簿(調査情報対策費及び活動関係費の部分)について
出納管理簿の開示により支障が生じることがあり得ないことは,上記イ
と同様である。すなわち,出納管理簿には,「支払相手方等」の欄があり,
支払相手方の氏名等が記載されていると考えられるが,元となる情報が記
載されている支払決定書については,上記イの場合と同様,月ごとの各支
出をまとめて1枚で記載し,支払目的や支払相手方等については,基本的
に代表的なものを記載するにすぎず,かつ,支払目的は概括的な記載にと
どまっているから,情報公開法5条6号,3号に該当する具体的な「おそ
れ」があるとは認められない。
また,出納管理簿の場合,支出相手方等について,「(注)本欄は記載
した場合,支障があると思われる場合は省略することができる」と注記さ
れ(以下「本件注記」という。),作成者自身が公務の遂行に実質的な支
障のおそれのある記載を除外することができるから,これが開示されても,
実質的な支障を生じるおそれを生むことはあり得ない。そして,出納管理
簿に限って上記のようなルールが定められていることからすれば,その部
分を除いて公開することを予定していると解釈すべきである。
⑶部分開示について
ア情報公開法6条1項の解釈について
行政文書を原則的に公開するという情報公開法の趣旨に照らせば,同法
が部分開示を認めた6条1項に加えて,同条2項の規定を置いたのは,「個
人に関する情報」についても部分開示の趣旨が確実に実現されるように,
念のために置かれた確認規定としての意味を持つにすぎない。他方,これ
を創設的な規定とみて,部分開示の対象を,独立した一体的な情報を単位
として限定し,同項の場合を除き,独立した一体的な情報をさらに細分化
した部分開示を求めることができないと解釈することは不当である。
したがって,上記の解釈を採用する最高裁判所平成13年3月27日第
三小法廷判決(民集55巻2号530頁)は,法令の解釈を誤るものであ
り,変更されるべきものである上,情報公開法とは条文構造の異なる大阪
府公文書公開等条例に関するものであるから,本件とは事案を異にするも
のというべきである。
イ独立した一体的な情報の解釈について
(ア)本来,一つの文書には様々な情報が重層的に記録され,それらが集
積されることによって,より大きな情報を構成している。そうすると,
部分開示の対象につき,上記アの最高裁判決の解釈を採用するとしても,
「独立した一体的な情報」は,文書の作成名義,作成目的,記録内容等
から的確に判断する必要があり,それは,文書の作成目的とは必ずしも
一致しない。上記の情報の重層構造に照らせば,支払日や支払金額につ
いてのみみても,それ自体有意な情報として独立した一体的な情報であ
るから,本件対象文書に関しては,少なくとも支払日や支払金額につい
ては,独立した一体的な情報として部分開示義務がある。
(イ)また,特に,支払決定書及び出納管理簿は,以下のとおり,部分開
示が認められるべきである。
a支払決定書について
支払決定書は,内閣官房長官が,いつ,調査情報対策費もしくは活
動関係費のいずれの目的で,いくらの金額の支払を決定したかという
情報を記載するための文書であり,一般的には,公金支出の適法性・
妥当性を判断するため,支払相手方等を含めて検討する必要があるが,
支払決定書の作成に当たっては,支払決定に係る請求書等が添付され
ることになっており,これを確認することによって,支払相手方等の
適法性・妥当性判断が担保されている。このため,支払決定書には,
複数件が処理される場合,「支払相手方等」をわざわざ全件記載しな
くとも,文書として成立することになっている。
したがって,支払決定書に関する限り,誰に対する支払であるのか
は意味のある重要な情報ではなく,支払決定書の「支払相手方等」の
記載は,同文書の独立した一体的な情報を構成しないと考えるべきで
ある。
b出納管理簿について
出納管理簿は,報償費の出納状況を一覧できるようにするための文
書であり,その記載内容は,政策推進費受払簿及び支払決定書の記載
内容から引用したものである。そうすると,出納管理簿は,出納があ
った日付,出納の目的(国庫からの入金と支出類型),出納の金額,
出納後の残額が分かれば,その目的を果たすことができ,誰に対して
支払ったのかということは,出納状況とは関係がない。現に,出納管
理簿は,「支払相手方等」については,上記⑵ウのとおり,本件注記
により省略を認めており,出納管理簿自体,「支払相手方等」が記載
されないことも想定している。そうすると,記載してもしなくてもよ
い「支払相手方等」の記載事項は,それ以外の記載事項とともに,独
立した一体的な情報を構成していると考えることは不可能である。
⑷支払相手方が公務員である場合について
ア公務員が報償費を受領する場合というのは,最終的な受領者である非公
務員に代わって,いわば使者として受領する場合に限られるものではない。
公務員自身が報償費の最終的な受領者となる場合があり得ることは,1審
被告自身が,意見交換・情報収集の相手方として,国・地方公共団体の関
係者を挙げていること,公務員への報償費の支払を排除する規定がないこ
となどから明らかである。そして,このような場合には,公務員への報償
費の支払が賄賂性を帯びたり,職業倫理上の問題を発生させる場合が存し,
事務又は事業の適正な遂行とは認められないから,不開示事由該当性が否
定されるべきである。
イ公務員が民間人の使者として報償費を受領する場合であっても,当該公
務員の氏名,受領日,受領金額,目的類型等からは,当該民間人や情報収
集の内容が明らかになるものではないし,当該公務員には守秘義務があり,
当該公務員が情報を開示することもあり得ない。
ウ公職の候補者(特に国会議員)に対し,政治活動に関して報償費を交付
すれば,交付側も受領側も,政治資金規正法に違反し,脱税に該当する場
合もあるから,このような支出は,法的保護に値しない。
エ会計検査院の検査で指摘を受けていないとしても,検査に際して提出さ
れる報償費支払明細書からは,支払対象となった活動内容や相手方の氏名
は記載されておらず,報償費を使用した活動の具体的内容を知ることはで
きないから,そのような会計検査院の検査結果をもって,不当目的使用が
認められないとはいえない。
(1審被告の反論)
⑴情報公開法5条6号,3号の適用について
ア情報公開法5条6号について
同号にいう「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」は,当
該事務又は事業に係る情報の目的,性質及び内容等によっては,当該情報
の内容が伝播して,これに接した者の興味,関心やある意図をもった行動
等との関係で,当該事務又は事業が行いにくくなり,あるいはこれが妨害
されるという事態が,蓋然性をもって十分に想定される場合を含むという
べきであり,第三者の行為が介在することによって,当該事務又は事業の
適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある場合等を除外する理由はない。そ
して,報償費の場合,内閣の政策等を妨げようとする第三者によって様々
な不正行為等が行われ,報償費を使用した事務又は事業の適正な遂行に支
障を及ぼすおそれが生じることは,蓋然性のある事態として十分に想定さ
れるところである。
イ情報公開法5条3号について
同号該当性の判断は,事柄の性質上,優れて政策的な判断を含むもので
あるから,処分行政庁である内閣官房内閣総務官に広範な裁量が認められ,
内閣官房内閣総務官の判断が全く事実の基礎を欠くか又は事実に対する評
価が明白に合理性を欠くことにより,その判断が社会通念に照らして著し
く妥当性を欠くことが明らかである場合に限り,裁量権の範囲の逸脱又は
その濫用があるものとして,違法と評価されるものである。
⑵原判決で不開示とされた本件対象文書について
ア領収書等について
間接支払類型においても,上記⑴アのとおり,第三者が策を弄して会合
場所を提供する事業者や金融機関の従業員に直接又は間接に接触し,働き
かけを行うなどした場合に,機密が漏洩する事態が生じる具体的なおそれ
があることは否定できないし,第三者が直接会合場所等に赴いて監視,盗
聴等を行うことも考えられる。
(ア)公共交通機関以外の交通費(タクシー,ハイヤー等)の領収書等
タクシー,ハイヤー等の領収書等には,その利用日付(日時),金額,
車両番号並びに当該領収書等の発行者の住所及び名称等が記載されてい
ると考えられ,領収書等によっては,さらに利用者名が記載されること
もある。したがって,これらが開示されると,利用者等が特定され得る
ところ,このことにより,内閣の事務又は事業の適正な遂行に支障を及
ぼすおそれがある。このような支障は,当該交通事業者が当該タクシー,
ハイヤー等の利用時に報償費による支出の有無を認識するかどうかに関
係なく生じるものである。
また,上記領収書等に宛名の記載がない場合であっても,タクシー,
ハイヤー等の交通事業者は,法令上,乗務運転者名,乗務車両,乗車区
間等の事項を運転者ごとに記録させることとなっており,一般に,運転
者は,各旅客の乗降日時,乗降場所及び運賃(料金)等を記録した運転
日報(乗務記録)を作成しているから,領収書等の情報と,不正工作に
より入手可能な上記情報とから,乗務車両,利用日時及び目的地等が判
明し,これらに,その時々に生じた内政・外政の状況等の情報を照らし
合わせることにより,報償費支払の相手方が特定ないし推測されるおそ
れがあるが,このような可能性は現実的なものである。
(イ)金融機関の振込手数料(支払関係経費)に係る領収書等
上記領収書等には,一般に,金融機関名,取扱店名(店番号),振込
日時,振込手数料及び当該金融機関における管理番号等が記載されてい
ると考えられるところ,これらの情報をもとに,当該金融機関及びその
従業員に働きかけて,報償費の振込金額及び当該振込先(情報収集・協
力依頼の相手方,会合場所の業者,交通事業者及び贈答品の購入先の事
業者等)に係る情報を漏洩させたり,あるいは当該金融機関のシステム
に不正アクセスするなどして,上記情報を入手するなどの不正工作等が
されることが十分に考えられ,内閣官房における情報収集・協力依頼の
活動全般に支障を及ぼすおそれがある。このような可能性は,抽象的な
ものにとどまらない。
上記領収書等がなくとも,金融機関に対する不正工作等が実行される
可能性が全く否定されるわけではないが,上記領収書等が開示され,金
融機関名等が明らかになった場合には,それが明らかではない場合と比
較して,当該金融機関に対する不正工作等のおそれが格段に高まること
は明らかである。
(ウ)会合費の領収書等
上記領収書等が開示された場合,不正工作等により関係者からの情報
の漏洩等を誘発するおそれがあること,マスコミで報道されるなどして
注目を浴び,当該会合場所が以後使用できなくなるおそれがあること,
会合の相手方が明らかになって,当該相手方との信頼関係が損なわれる
おそれがあることなどは,原審で主張したとおりである。
マスコミにより報道されている会合についても,これが報償費を使用
したものであるという情報自体が当該会合の特殊性を際立たせ,社会の
重要な関心事となり,その結果,会合の相手方やその関係者が報償費支
払の相手方としてマスコミ等で取り上げられるなどして困惑を覚えたり
態度を硬化させるなどして,当該事案について協力が得られなくなり,
さらに,そのような萎縮効果が生じることによって,広く報償費を使用
する事務に対する協力が得られにくくなり,将来の情報収集・協力依頼
等の活動全般に支障を及ぼすおそれがある。
また,マスコミ等で報道される会合が現に存在したのか,存在したと
して報償費を使用したものかどうかが明らかになっていないものと明ら
かになっているものとでは,前者と比較して後者において,上記不正工
作のおそれが格段に高まることは明らかである。
イ支払決定書(公共交通機関利用分を除く)について
支払決定書の作成頻度は月1回とは限らず,調査情報対策費又は活動関
係費の各支払について作成され,1枚の支払決定書により1件の支払を処
理しているものも含まれる。そのため,支払決定書に記載された情報が明
らかとなれば,個別に支払決定を行った場合は,その時期や支払額のほか
に,目的類型別の区分,具体的な支払目的・内容,情報収集・協力依頼の
相手方等が明らかになる。1枚の支払決定書により複数の支払を処理して
いる場合にも,支払相手方等や具体的な支払目的・内容等が個別に記載さ
れているものについては,これらが明らかとなる。その余の支払について
も,支払決定書が開示され,各月ごとの調査情報対策費や活動関係費の支
払決定状況や合計支払額が明らかになれば,その時点の内政・外政の状況
等を照合,分析することにより,特定の政策課題との関係が特定ないし推
測されるし,これらが特定ないし推測されないとしても,様々な憶測を呼
び,報償費を使用した活動に支障が生じるおそれがある。
ウ出納管理簿(調査情報対策費及び活動関係費の部分)について
本件注記は,支払相手方等の情報は,機微に触れる場合もあることから,
必要以上の記載をせず,慎重に取り扱うことを注意的に記載したものにす
ぎず,開示に支障のある支払相手方等の記載はすべて省略し,開示に支障
のない場合にのみこれを記載することとする趣旨ではない。実際に,本件
対象期間において,出納管理簿の支払相手方等の欄は省略されておらず,
全てにつき記載されている。
⑶部分開示について
ア情報公開法6条1項の解釈について
同法は,「情報」とその一部分を成す構成要素である「記述等」とを明
確に区別しており,部分開示の対象となる「情報」とは,「記述等」の複
合した一定のまとまりを持った単位の意味において用いられていることが
明らかである。最高裁判所平成13年3月27日第三小法廷判決(民集5
5巻2号530頁)が,「非公開事由に該当する独立した一体的な情報を
更に細分化し,その一部を非公開とし,その余の部分にはもはや非公開事
由に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを公開するこ
とまでをも実施機関に義務付けているものと解することはできない」と判
示するのも同趣旨である。したがって,同法6条2項は,同法5条1項の
不開示事由に該当する個人識別部分のみを除いて開示するという態様の部
分開示を義務付けることができないことを前提に,特に,上記の態様の部
分開示をすることに対する法的根拠を与えた趣旨の規定であり,創設規定
にほかならない。
イ独立した一体的な情報の解釈について
問題とされる公文書について,独立した一体的な情報をどのように把握
すべきかについては,当該文書の作成名義,趣旨・目的,作成時期,取得
原因,当該記述等の形状,内容等を総合考慮の上,社会通念に照らして合
理的に解釈されるべきであり,最小限の意味のある記載によって決すると
いうものではない。したがって,当該公文書にそれなりに意味のある記載
があったとしても,文書の作成目的や機能との関係から,社会的に有意な
「情報」としての意味を持つものでなければ,開示の対象とはなり得ない。
(ア)支払決定書について
支払決定書には,調査情報対策費又は活動関係費の1件の支払又は複
数件の支払ごとに,いつ,誰に対し,いくらの額の支払をするのかが記
載され,その支払がいかなる事業者等や,情報収集・協力依頼の相手方
に対してされたかということが,支払の日付や金額と相まって,調査情
報対策費や活動関係費の支払に関する情報としての意味をもつものであ
る。したがって,1通の支払決定書に記録された情報は,その全体が相
まって,支払決定という社会的に有意な一つの情報を成すものであるか
ら,これをさらに細分化して部分開示の対象とすることはできない。
(イ)出納管理簿について
出納管理簿は,報償費の入出金状況を月ごと,年度ごとに一覧できる
ようにして,報償費の個々の入金,繰入れ及び支払のみならず,その総
計と残額の全体が適正に記録されているかどうかを確認する目的で作成
されるものである。したがって,個別の記載は,支払相手方等の記述(実
際には,この記載が省略されることなく,全てにつき記載されていた。)
を含め,その余の記述とともに独立した一体的な情報であるというべき
であるから,これをさらに細分化して部分開示の対象とすることはでき
ない。
⑷支払相手が公務員である場合について
本件対象文書に公務員を支払の相手方とするものがあったとしても,それ
は,当該公務員が活動に要した実費を受領したものであるか,又は非公務員
である相手方に代わって公務員が金員を受領したものである。また,仮に,
内閣官房長官が行う協力依頼や交渉等の相手方が公務員であったとしても,
その立場や対価が支払われる対象となる活動の内容,当該活動に至った経緯
等は,様々なものが考えられる。したがって,支払の相手方が公務員である
というだけで直ちに,当該対価の支払が賄賂性を帯びるとか,公務員の職業
倫理に違反するということはできない。
公務員が非公務員である相手方に代わって報償費を受領した場合に,直接
の支払相手方である公務員の氏名や,支払時期及び金額が明らかとなっただ
けでも,当時生じていた内政・外政の状況等とこれらの情報とを照合するこ
とによって,最終受領者の氏名や具体的使途が明らかとなる可能性がある。
また,当該公務員に対する働きかけ等によって,最終受領者である非公務員
の氏名や具体的使途が公となることが想定されるし,そうなると,当該金員
を受領した公務員の行動等を監視し,関係者との面会や金員授受の事実を突
き止めたり,妨害工作を行ったりすることが想定され,報償費を使用した円
滑な情報収集や協力依頼の活動に支障が生じるおそれがある。さらに,最終
受領者と目される非公務員について憶測を呼ぶだけでも,報償費を使用した
円滑な情報収集や協力依頼の活動に支障が生じる。
本件対象期間中に,国会議員等公職の候補者に対して報償費が支払われた
とすることは,根拠のない憶測にすぎない。
41審被告の控訴に関する主張
(1審被告の主張)
⑴報償費の特殊性と情報公開法5条6号,3号該当性について
ア報償費は,国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため,当面の
任務と状況に応じ,その都度の判断で最も適当と認められる方法により機
動的に使用する経費であり,その使用時期及び方法は,内閣官房長官によ
る優れて政策的な判断の下に決定されるという特殊な性格を有し,報償費
が使用される事務には,外交,安全保障等の機密性が強く要求される事務
に関するものも含まれる。
イしたがって,仮に,報償費の支払の相手方である情報提供者や協力者の
氏名が明らかとなれば,その相手方との信頼関係はもとより,多数の関係
者との信頼関係も破壊され,相手方や関係者からの反発を招くことが予想
される。また,内閣官房の行う事務に対する妨害工作等を行おうとする者
が存することも容易に想定され,上記相手方等への第三者の不正工作を招
くなどして,内閣官房の行う事務に支障を生ずる。殊に外交案件等につい
ては,その相手方や当該相手方の属する国との信頼関係が損なわれること
はもとより,我が国は秘密保持ができない国とみなされて国際的信用が失
墜し,外交交渉等が立ち行かなくなる。
また,開示請求の対象文書に記載された情報それ自体からは,報償費の
支払の相手方やその具体的使途が判明しない場合であっても,当該文書の
記載内容とこれに関連する他の情報や諸事情を総合し,更にはその時々に
存在した内政・外政の状況等を照合,分析することによって,その支払の
相手方や具体的使途が特定ないし推測される場合には,上記の支障が生じ
るおそれがあるということができる。
さらに,報償費の支払の相手方や具体的使途までは特定ないし推測され
なかったとしても,これらの事項について様々な憶測がされること自体に
よって,支払の相手方や関係者と目された者がマスコミ等の注目を浴びる
などして多大な困惑を覚え,態度を硬化させるなどして,当該案件につい
て協力が得られなくなるばかりでなく,そのような萎縮効果が生じること
により,広く報償費を使用する事務に対する協力が得られにくくなるなど,
報償費を使用する事務の遂行に支障を及ぼす結果となる。
ウ情報公開法5条6号,3号該当性を判断するに当たっては,上記の事情
を踏まえて検討を行う必要がある。
⑵領収書等のうち,公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する情報が
記録されているものについて
開示請求の対象となる行政文書は,行政機関の職員が職務上作成し,又は
取得したものであって,当該行政機関が保有しているものをいい(情報公開
法2条2項,3条),行政機関の長は,開示請求に係る行政文書を保有して
いないときは,その不開示決定をする(同法9条2項)。しかしながら,本
件対象文書の領収書等には,公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関す
る領収書等は存在しない。
⑶政策推進費受払簿について
ア政策推進費受払簿が開示された場合,今回繰入日及び今回繰入額のほか,
前回繰入日から今回繰入日までの一定期間内における政策推進費の支払額
が明らかとなるが,繰入れに近接した時期に全額が支払われる場合には,
これにとどまらず,個別の支払額とその時期が,事実上特定ないし推測さ
れる。これに,その時々に生じていた内政・外政の状況等を照合すること
で,支払の相手方や具体的使途が,事実上特定ないし推測される結果とな
る。また,これらが特定ないし推測されないとしても,上記相手方や使途
に関して様々な憶測がされることが容易に想定され,支払の相手方と目さ
れた者が多大な困惑を覚え,態度を硬化させるなどして,以後の協力依頼
や情報収集に支障を来すことは容易に想定される。
特に,本件対象期間は,わずか2週間余りの短期間であり,このような
短期間にされる政策推進費の繰入れの回数にはおのずと限度があり,繰入
日相互の間隔も短期間であるから,繰入れや繰入後の支払回数が少数にと
どまるとみるのが経験則にかなうというべきである。現に,本件対象期間
の場合,平成21年9月1日に報償費として請求された2億5000万円
は,数日後に国庫から入金され,同月16日までの間に,政策推進費への
繰入れが1回行われ,その繰入額の全額が繰入日からさしたる日数を経ず
に全額支払われている。
したがって,本件対象期間中の政策推進費受払簿が開示された場合には,
前回残額,前回から今回までの支払額,今回繰入日及び今回繰入額の各記
載を見比べることによって,いつ,どの程度の額が支払われたかは,かな
りの精度で特定ないし推測することが可能となると考えられる。あるいは,
そのような特定ないし推測ができないとしても,その支払の相手方や具体
的使途に関し,具体性のある憶測がされることが容易に想定される。
他方,請求された報償費が高額であるからといって,短期間のうちに繰
入額の中から多数回の支払がされるのが通常であると推認することはでき
ない。
イまた,政策推進費が外交案件等との関係で支出されたものである場合に
は,上記アのとおり,その支払相手方や具体的使途が特定ないし推測し得
る政策推進費受払簿について,情報公開法5条3号に該当すると認めた内
閣官房内閣総務官の判断に,裁量の逸脱・濫用があったとはいえない。
ウ以上によれば,政策推進費受払簿に記載された情報は,情報公開法5条
6号,3号に該当する。
エ部分開示について
政策推進費受払簿は,内閣官房長官が,いつ,どの程度の額を,政策推
進費として使用する額として繰り入れたかが記載されており,前回残額,
現在残額,前回から今回までの繰入額及び現在額計等の記載は,政策推進
費の個々の繰入れとの関係で意味を持つものであるから,これらの記載内
容は,社会通念上1通ごとに全体として独立した一体的な情報というべき
である。したがって,1審被告がこれをさらに細分化して部分開示すべき
義務はない。
⑷支払決定書に記録された情報のうち,公共交通機関の利用に係る交通費の
支払に関するものについて
前記⑵の領収書等についての主張と同様,該当文書は存在しない。
⑸出納管理簿に記録された情報のうち,調査情報対策費及び活動関係費(公
共交通機関利用分を除く)に係る部分を除いたものについて
ア政策推進費の繰入れに係る各項目は,政策推進費受払簿に記録された情
報と同一内容であるから,前記⑶の政策推進費受払簿について主張したと
おり,情報公開法5条6号,3号に該当する。
イ活動関係費に係る部分のうち,公共交通機関の利用に係る交通費の支払
に関するものであって,支払相手方等の欄に利用者の氏名ないし名称が記
載されていないものは,前記⑵の領収書等についての主張と同じく,存在
しない。
ウ月分計欄は,月ごとに報償費の受領額(国庫からの入金額)と支払額(政
策推進費への繰入額,調査情報対策費及び活動関係費の支払額)との各合
計額が記載されるところ,これが明らかになれば,月ごとの金額の推移や
増減を対比し,各月の支払の特徴を分析し,また,当時の内政・外政の状
況等を照合,分析することによって,一定の政策課題等との関係が特定な
いし推測される結果,内閣の行う事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼ
すおそれがあるが,これは,単なる抽象的な可能性にとどまらず,蓋然性
の域に達するものである。また,特定の事案との関係が特定ないし推測さ
れないとしても,これらが憶測されること自体によっても,相手方等と目
された者が多大な困惑を覚え,態度を硬化させることなどが想定され,報
償費を使用した事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。
累計欄には,年度当初から当該月までの報償費の受領額,支払額の各合
計額及び残額が記載されているところ,これが明らかになれば,前後の月
を比較することができるから,上記月分計欄の場合と同様の支障を及ぼす
おそれがある。
また,外交案件の支出に関する情報につき,情報公開法5条3号に該当
すると認めた内閣官房内閣総務官の判断に,裁量の逸脱・濫用があったと
はいえないことは,前記⑶イと同様である。
以上によれば,月分計欄及び累計欄の各記載は,いずれも情報公開法5
条6号,3号に該当する。
エ部分開示について
出納管理簿は,月ごと,年度ごとの報償費をまとめ,入出金状況全体を
一覧できるようにして,個々の入金,繰入れ及び支払のみならず,これら
の入出金の総計及び残額の全体が相互に適正に記録されているかどうかを
確認する目的で作成されるものである。そのため,個別の入出金の項目は,
それぞれが個別の情報として独立した意味を持つものではない。出納管理
簿の全体を一体と捉えることによって,初めて,出納管理簿が月ごと,年
度ごとの報償費の入出金状況全体を一覧できる事項を記録したものである
との意味内容が明らかとなり,出納管理簿作成の趣旨・目的が達せられる。
このように,出納管理簿に記載されている上記各記述は,全体として相ま
って,独立した一体的な情報を構成しているから,1審被告がこれをさら
に細分化して部分開示すべき義務はない。
出納管理簿作成の趣旨・目的を離れ,個々の記述部分にそれなりの意味
があるかどうかによって,独立した一体的な情報であるかどうかが決定さ
れるものではない。
⑹報償費支払明細書について
ア政策推進費受払簿から転記した部分については,前記⑶の政策推進費受
払簿について主張したとおり,情報公開法5条6号,3号に該当する。
イ調査情報対策費及び活動関係費に係る各項目については,支払相手方や
使途の記載はないものの,支払日や金額が明らかになることから,金額の
推移や増減を分析し,その時々の内政・外政の状況等を照合,分析するこ
とで,支払相手方や使途が特定ないし推測され得るし,これらが特定ない
し推測されないとしても,種々の憶測を呼ぶことは避けられない。したが
って,上記各項目は,報償費を使用した事務又は事業の適正な遂行に支障
を及ぼすおそれがあるから,情報公開法5条6号に該当する。
また,外交案件の支出に関する情報につき,情報公開法5条3号に該当
すると認めた内閣官房内閣総務官の判断に,裁量の逸脱・濫用があったと
はいえないことは,前記⑶イと同様である。
ウ支払明細書繰越記載部分(原判決別紙5の④)についても,上記⑸ウ(出
納管理簿の月分計欄及び累計欄に関する主張)と同じく,情報公開法5条
6号,3号に該当する。
エ支払明細書は,会計検査院の検査のため,報償費を,いつ,いかなる目
的類型で,どの程度使用したのかに加え,前月からの繰越額,当月受入額・
支払額の各合計額及び翌月への繰越額等を明らかにする目的で,各月ごと
に作成される文書であり,その記載全体によって初めて,作成目的である
各月ごとの報償費の出納状況が明らかになるものである。したがって,報
償費支払明細書に記載されている情報は,社会通念上,1通ごとに独立し
た一体的な情報を構成するというべきであるから,1審被告がこれをさら
に細分化して部分開示すべき義務はない。
(1審原告の反論)
⑴報償費の特殊性と情報公開法5条6号,3号該当性について
報償費の特殊性を強調して,支払相手方や具体的使途の特定ないし推測だ
けでなく,それらの単なる「憶測」によって,同条6号,3号の該当性を認
めることは,法的保護に値する蓋然性をもって同条6号,3号の「おそれ」
と解する情報公開法上の不開示事由の取扱いを,報償費の支出関連文書につ
いてのみ特別に変えることを認めるものであるが,このような「聖域扱い」
を認めるべき実定法上の根拠は存しない。報償費の支払に関して様々な憶測
が生じることは,文書開示の有無に関係しない現象であり,その憶測は,国
民の本来的自由の領域に属することである。
⑵領収書等のうち,公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する情報が
記録されているものについて
ア公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する領収書等が存在しな
いとする証人Aの陳述,証言は,本件対象文書の具体的な記載内容につい
て一貫して証言を拒絶してきた証言態度に照らし,到底信用できないとい
うべきである。
イ公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する領収書等については,
仮にこれが開示されたとしても,利用者が特定されるおそれは,抽象的な
ものにとどまる。例えば,鉄道の路線の規模が小さく,地域性が高いよう
な場合に,交通費を支払った利用区間や利用地域が判明したとしても,タ
クシー,ハイヤー等乗車人数が限定される個別性の高い交通機関と比較す
れば,第三者が公共交通機関の交通事業者に不正工作をかけることにより,
当該公共交通機関の利用者を特定することは不可能か,少なくとも著しく
困難である。また,上記の利用区間や利用地域が判明することで何らかの
憶測を呼ぶことがあっても,これにより,内閣の事務又は事業の適正な遂
行に支障を及ぼす具体的なおそれはない。
⑶政策推進費受払簿について
ア政策推進費受払簿に記録されている情報は,前回繰入時から今回繰入時
までの一定期間内における政策推進費の支払合計額であり,具体的使途や
支払相手方が明らかになるものではない。したがって,政策推進費受払簿
に記録されている情報が開示されたとしても,情報公開法5条6号,3号
に該当する具体的な「おそれ」はない。
イ本件では既に,平成21年9月4日から約10日間で,政策推進費が上
限2億5000万円の範囲で繰り入れられた事実が明らかとなっており,
さらに政策推進費受払簿が開示されたとしても,その約10日のうちの具
体的な繰入日及び繰入額(ただし,上限2億5000万円)が特定される
だけである。
また,政策推進費は,当時の政策案件のみならず過去や将来の案件に対
して支払うものもあるから,対応する政策案件は,約10日間のものに限
定されることはなく,無限大に広がる。
そうすると,上記の情報が開示されたとしても,支払相手方や,対応す
る政策案件を特定ないし推測することは全く不可能である。
ウ以上によれば,政策推進費受払簿に記載された情報が,情報公開法5条
6号,3号に該当する余地はない。
⑷支払決定書に記録された情報のうち,公共交通機関の利用に係る交通費の
支払に関するものについて
公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する領収書等について述べ
た前記⑵のとおりである。
⑸出納管理簿に記録された情報のうち,調査情報対策費及び活動関係費(公
共交通機関利用分を除く)に係る部分を除いたものについて
政策推進費に対応する記載については,政策推進費受払簿に関する前記⑶
のとおりであり,開示による具体的な支障は生じないし,その余の部分も同
様である。
これらの部分は,調査情報対策費や活動関係費の各支出が記録されている
部分と容易に区分して除くことができ,かつ,それのみで有意の情報が記録
されていると認められるから,情報公開法6条1項に基づき,部分開示をす
べきである。
⑹報償費支払明細書について
報償費支払明細書は,そもそも,会計検査院に提出するための二次資料で
あり,支出目的欄にも,報償費の3類型(政策推進費,調査情報対策費及び
活動関係費の別)が示されるのみであり,具体的使途や支払相手方の氏名等
が明らかになるものではない。また,支払決定日は,複数をまとめて処理す
ることもあり,役務提供日とも一致しないことから,ほかの記録や情報と照
らし合わせても,具体的な使途や支払相手方が特定ないし推測されることは
考えにくい。さらに,その開示により,何らかの憶測を呼ぶことがあったと
しても,それによる事務の遂行等に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとは
いえない。したがって,報償費支払明細書に記載された情報は,情報公開法
5条6号,3号に該当しない。
第3当裁判所の判断
1判断の骨子
当裁判所は,1審原告の請求は,主文第2項記載の取消しを求める限度で理
由があるものと判断する。その理由は,次の2において原判決を補正し,後記
3において1審原告の控訴に対する判断,後記4において1審被告の控訴に対
する判断をそれぞれ加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中「第3当裁
判所の判断」の1ないし4(35頁初行から81頁14行目まで)に記載のと
おりであるから,これを引用する。
2原判決の補正
⑴39頁21行目「(内閣法23条)」を「(平成25年法律第22号によ
る改正前の内閣法23条)」と改める。
⑵54頁7行目から55頁23行目までを,次のとおり改める。
「cなお,1審原告は,公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する
領収書等が開示され,第三者が不正工作をしたとしても,その利用者が
判明するおそれはないとして,情報公開法5条6号,3号に該当しない
旨主張する。
しかしながら,本件対象期間における報償費(活動関係費)の支出に
関する領収書等のうち,公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関す
るものが存在することを認めるに足る証拠はない。すなわち,1審被告
は,その存在を否定し,これに沿う証拠(乙21,証人A)が存在する
ところ,その信用性を否定すべき特段の事情は見当たらない。
したがって,1審原告の上記主張は,その対象となる文書が存在しな
い以上,その当否を検討するまでもなく,理由がないことが明らかであ
る。」
⑶59頁初行「活動関係費に係る領収書等のうち,」から同5行目「他方,
その余の」までを削る。
⑷61頁4行目「領収書等に記録されている」から同9行目「その余の」ま
でを削り,同10行目「同条」を「情報公開法5条」と改め,同11行目「上
記」を削る。
⑸62頁22行目「推認できる」を「みる余地がある」と改める。
⑹64頁14行目末尾「支払決定書」から18行目「それ以外の」までを削
り,同21行目「同条」を「情報公開法5条」と改める。
⑺65頁17行目「支払決定書」から同22行目「その余の」までを削り,
同23行目「同条」を「情報公開法5条」と改め,同24行目「上記」を削
る。
⑻67頁15行目「活動関係費に係る部分の中で,」から同20行目「上記
(ア)(c)の」までを削除し,同24行目「同条」を「情報公開法5条」と改め
る。
⑼68頁11行目「(以下」を「(控訴審大阪高等裁判所平成24年(行コ)
第77号。)以下」と改める。
⑽69頁10行目「しかしながら,」の次に「上記情報が明らかになったと
しても,」を加える。
⑾72頁9行目「月分計に係る情報並びに累計に係る情報は,」を「月分計
に係る情報,累計に係る情報並びに年度末又は取扱責任者の異動があった時
に一覧表の枠外に記載される立会者及び確認者の情報は,」と改める。
⑿72頁13行目から同15行目まで,73頁初行から同4行目まで及び同
8行目から同11行目の各「(ただし,活動関係費のうち,本件公共交通機
関の利用に係る交通費の支払に関するものであって,支払相手方等の欄に利
用者の氏名ないし名称が記録されていないものは除く。)」を削る。
⒀75頁22行目「先月繰越額」を「前月繰越額」と改める。
31審原告の控訴に対する判断
⑴情報公開法5条6号,3号の適用について
ア情報公開法5条6号について
(ア)1審原告は,第三者による不正工作の抽象的な可能性をもって,同
条6号に該当するとはいえない旨主張する。
(イ)しかしながら,同条6号の「支障を及ぼすおそれ」が,名目的,抽
象的なものでは足りず,実質的かつ具体的で法的保護に値する蓋然性が
あるものであることが求められるとしても,一般的に,我が国の行政全
般を担う内閣の動向に関心を有し,不正な手段によっても情報を得よう
とする第三者が国の内外を問わず存在することや,このような第三者が,
報償費支払の相手方や関係者等を探索した上で,これに接触して,買収,
監視,盗聴,脅迫等の様々な不正工作によって情報を得たり,相手方や
関係者等から情報を漏洩させたりすること,さらには,これらの者に対
してサイバー攻撃等の不正なアクセスを図ろうとすることは,十分に考
えられることである。
以上に照らせば,同条6号に該当する具体的なおそれの有無は,問題
となる情報の類型に応じて,第三者による不正工作が行われる具体的,
現実的な可能性や,これにより漏洩する情報の内容,性質等を検討した
上で判断すべきものであり,このような検討を経ずに,第三者による不
正工作の可能性が抽象的なものにすぎないとして,一律に同号に該当し
ないということはできない。
(ウ)したがって,1審原告の前記(ア)の主張は採用できない。
イ情報公開法5条3号について
1審原告は,同条3号の解釈として,行政機関の長に裁量権を認めるべ
きでない旨主張する。
しかしながら,同号の判断に際し,行政機関の長に裁量権が認められる
ことは,前記1(原判決36頁6行目から同末行までを引用)で認定,判
断したとおりである。したがって,1審原告の上記主張は採用できない。
⑵原判決で不開示とされた本件対象文書について
ア領収書等について
(ア)間接支払類型の場合について
1審原告は,間接支払類型(報償費支払の相手方が情報提供者や協力
依頼者ではなく,会合業者や交通事業者等の役務提供者である場合)に
ついては,情報公開法5条6号に該当する具体的なおそれが生じない旨
主張する。
しかしながら,前記1(原判決59頁15行目から60頁7行目まで
を引用)で認定,判断したとおり,間接支払類型の場合であっても,上
記⑴アと同様,不正な手段によっても情報を得ようとする第三者が,当
該事業者に対し,買収,監視,盗聴,脅迫等の様々な不正工作を行うこ
とによって情報を得たり,当該事業者等から情報を漏洩させたりするこ
と,あるいは知り得た情報を端緒に,不正なアクセスを行ったりするこ
とは,十分に考えられることであり,むしろ,情報提供者や協力依頼者
である場合以上に危険であるともいえるから,これが抽象的なおそれに
とどまるものではないというべきである。そうすると,間接支払類型で
あることのみをもって,一律に同条6号に該当しないということはでき
ず,同号に該当する具体的なおそれの有無の判断は,問題となる情報の
類型に応じて,当該事業者に対する不正工作が行われる具体的,現実的
な可能性や,これにより漏洩する情報の内容,性質等を検討して行うべ
きものである。
したがって,1審原告の上記主張は採用できない。
(イ)公共交通機関以外の交通費(タクシー,ハイヤー等)の領収書等
a1審原告は,そもそも交通事業者が報償費による支払であることを
認識しておらず,報償費による役務提供であることを特定できないこ
とから,乗車した人物等を特定することもできないなどとして,タク
シー,ハイヤー等の領収書等につき,情報公開法5条6号該当性を否
定する。
bしかしながら,前記1(原判決53頁4行目から同末行までを引用)
で認定,判断したとおり,タクシー,ハイヤー等の領収書等は,これ
を開示することによって,当該交通事業者の名称等が明らかとなるか
ら,これを端緒として行われる当該従業員に対する働きかけや事業者
に対する不正なアクセス等により,当該交通事業者の利用者の氏名等
が明らかになるおそれがある。
すなわち,このような領収書等が開示されれば,当該領収書等に利
用者名まで記載されていないとしても,報償費により利用した当該交
通事業者の名称・住所,利用日時,金額及び車両番号等が明らかとな
るものと考えられる。そして,不正に情報を得ようとする第三者にお
いて,これらの情報を基に,当該交通事業者の従業員等に対する働き
かけや事業者に対する不正なアクセス等を行うなどして,当該交通事
業者が保有する乗務日報等のさらに詳細な情報を入手し,これによっ
て,当該役務を提供した運転手,利用区間及び目的地等を割り出すこ
とが考えられる。そして,このようにして明らかになった上記運転手
に対してさらに接触等を行うことにより,当該交通事業者の利用者の
氏名や,車内での会話内容等についても,明らかになるおそれがある
というべきである。しかも,当該交通事業者が,機密保持等の観点か
ら信用がおけるものとして選定されている場合には,当該交通事業者
は,他の機会においても反復継続して選定される可能性が高いことか
ら,あらかじめ当該交通事業者やその従業員に働きかけて情報提供を
依頼する,あるいはこれらを標的として不正なアクセスを行うという
不正行為の態様が考えられる。また,このようにして明らかになった
情報に基づき,当該交通事業者の車両を監視,尾行するなどして,利
用者の氏名等の情報を不正に得ようとすることも考えられる。そして,
このようなおそれは,抽象的なものにとどまるものではないというべ
きである。
cしたがって,1審原告の前記aの主張は採用できない。
(ウ)金融機関の振込手数料(支払関係経費)に係る領収書等
a1審原告は,報償費の支払を金融機関の振込みで行うことは,不正
工作を仕掛けようとする者でなくても容易に想定できる旨主張し,上
記領収書等の情報公開法5条6号該当性を否定する。
bしかしながら,前記1(原判決58頁3行目から同19行目までを
引用)で認定,判断したとおり,上記領収書等が開示されることによ
り,報償費の支払を依頼した金融機関名及び当該金融機関が報償費の
振込先や金額に関する情報を有していることが明らかとなり,不正に
情報を入手しようとする者が,これらを端緒に当該金融機関の従業員
等に接触し,あるいは当該金融機関等を標的として不正なアクセスを
行うなどして,上記の情報を入手し,悪用する可能性があることなど
が認められる。したがって,上記領収書等は,情報公開法5条6号に
該当するものである。
また,金融機関については,国内外の機関,設置の根拠法令,その
規模の大小等様々な要素が異なっているため,その情報セキュリティ
等については,不正なアクセスに対する対応策に差異があるとも考え
られる。こうした状況に加え,不正に情報を入手しようとする第三者
にとっては,上記領収書等が開示され,当該金融機関の名称や支店名,
振込日時などが明らかになることにより,より容易に当該情報の対象
を絞り込むことができ,これに対する不正行為のおそれが高まるとい
うことができるが,このようなおそれは,抽象的なものにとどまるも
のではないというべきである。
cしたがって,1審原告の前記aの主張は採用できない。
(エ)会合費の領収書等
a1審原告は,会合場所が不特定多数の者が出入りする旅館やホテル
の場合,会合場所の事業者が,会合の参加者や内容を把握していると
は考えられないことや,マスコミによる会合場所が報道されている場
合には,領収書等を開示しても悪影響がない旨主張する。
bしかしながら,前記1(原判決51頁14行目から52頁5行目ま
でを引用)で認定,判断したとおり,上記の領収書等が開示されるこ
とにより,会合場所を所有,管理又は設営する業者の名称等が明らか
となり,不正に情報を入手しようとする第三者が,これを端緒にこれ
らの業者等に働きかけ,あるいは不正なアクセスを行うことにより,
当該会合に参加した者が特定されるおそれがあること,当該会合場所
が,機密保持に適切であるとの理由から選定されている場合には,他
の会合でも反復継続して選定される可能性が高いと考えられるところ,
その場合,不正行為の態様についても,これらの従業員に対する接触
にとどまらず,会合場所に対して監視や盗聴を仕掛けるなどの工作が
行われるおそれがあることなどが認められるから,上記領収書等は,
情報公開法5条6号に該当するものと認められる。
また,マスコミにより既に報道されている会合についても,その取
り上げられ方は千差万別であり,報じられた会合相手や会合内容の確
度については,マスコミによる一定の推測を交えたものであることも
少なくないと考えられる。したがって,会合が既にマスコミに報じら
れたものであったとしても,そのことのみから,上記のおそれが生じ
ないということはできない。
cしたがって,1審原告の前記aの主張は採用できない。
イ支払決定書(公共交通機関利用分を除く)について
(ア)1審原告は,支払決定書は,調査情報対策費と活動関係費について,
概ね各月の支払をまとめて各1枚で記載され,使用目的や支払相手方等
には,代表的なものが記載されるにとどまるから,このような支払決定
書が開示されても,情報公開法5条6号,3号には該当しない旨主張す
る。
(イ)しかしながら,前記1(原判決43頁末行から44頁17行目まで
を引用)で認定,判断したとおり,支払決定書は,調査情報対策費又は
活動関係費の1件又は複数件の支払決定を行うために作成されるもので
あり,しかも上記各類型ごとに,毎月ごとの支払をまとめて支払決定が
されるというものでもない。そうすると,複数件につきまとめて支払決
定をした場合であっても,当該支払決定書には,少なくとも,複数件を
代表する1件の支払につき支払相手方等及び上記各類型のほか個別具体
的な使途が記載されているものと認められる。
そうすると,前記1(原判決64頁7行目から同22行目までを補正
の上引用)で認定,判断したとおり,支払決定書が開示されることによ
り,調査情報対策費又は活動関係費に関する領収書等が開示された場合
と同様の支障を及ぼすおそれがあるから,情報公開法5条6号,3号に
該当するものと認められる。
(ウ)したがって,1審原告の前記(ア)の主張は採用できない。
ウ出納管理簿(調査情報対策費及び活動関係費の部分)について
(ア)1審原告は,出納管理簿に記載される内容が支払決定書の内容と同
様であるとして,情報公開法5条6号,3号の不開示情報に該当しない
旨主張する。
しかしながら,出納管理簿の記載が,支払決定書の記載内容と同様の
ものであったとしても,支払決定書は,上記イで認定,判断したとおり,
情報公開法5条6号,3号に該当するものと認められるから,出納管理
簿についても,同様に,同条6号,3号に該当するものと認められる。
(イ)1審原告は,出納管理簿には,本件注記があることから,開示され
た場合に支障のおそれのある情報は,記載されていない旨主張する。
しかしながら,本件注記の実際の運用については,前記1(原判決6
7頁末行から68頁19行目までを補正の上引用)で認定,判断したと
おり,本件注記に「省略することができる」と記載されているからとい
って,実際に省略されているとは限らないこと,本件注記における「支
障」の有無は,開示されることを前提に判断されているものではなく,
少なくとも,実際の運用では,出納管理簿の全てについて支払相手方等
が記載されていることなどに照らせば,本件注記があることにより,支
払相手方等の記載が,情報公開法5条6号,3号に該当しないものとは
いえない。
(ウ)したがって,1審原告の上記(ア)及び(イ)の各主張は採用できない。
⑶部分開示について
ア情報公開法6条1項の解釈について
(ア)1審原告は,情報公開法6条2項の規定は,単なる確認規定にすぎ
ず,同条1項に基づく部分開示の対象が,独立した一体的な情報を単位
とするものではない旨主張する。
(イ)しかしながら,前記1(原判決37頁2行目から38頁21行目ま
でを引用)で認定,判断したとおり,1審原告の上記(ア)の主張は採用
できない。
すなわち,情報公開法5条1号及び6条2項をみると,氏名,生年月
日などの「記述等の部分」は,「情報」の一部分を構成する構成要素に
すぎないものとして扱われており,「情報」が上記「記述等の部分」の
複合した一定のまとまりをもった単位の意味において用いられているも
のと解される。このことは,同法6条2項が,上記「記述等の部分」を
同法5条1号の「情報」に含まれないものとみなして,同法6条1項を
適用する旨規定していることからも明らかである。したがって,上記「記
述等の部分」を除いた部分は,本来は,1個の情報を構成するとはいえ
ない記述等にすぎないが,同法6条1項の適用に当たっては,これが1
個の「情報」を成すものと擬制することにより,行政機関の長に,上記
「記述等の部分」を除いた部分について開示する義務を負わせたもので
ある。
(ウ)そうすると,同法6条1項の部分開示は,独立した一体的な情報を
単位として行うものであり,このような情報を更に細分化した上で,不
開示事由に該当する情報が記録されていない部分のみの部分開示を義務
付けるものとはいえないのであって,同条2項は,特定の個人を識別す
ることができることとなる記述等が含まれる情報について,特に独立し
た一体的な情報を細分化した上での部分開示を義務付けることを可能と
した創設的な規定であると解するのが相当である(最高裁判所平成13
年3月27日第三小法廷判決・民集55巻2号530頁参照)。
イ独立した一体的な情報の解釈について
独立した一体的な情報をどのように把握すべきかについては,前記1(原
判決38頁22行目から39頁初行までを補正の上引用)で認定,判断し
たとおり,当該行政文書の作成名義,趣旨・目的,作成時期,取得原因,
当該記載等の形状,内容等を総合考慮の上,情報公開法の不開示事由に関
する規定の趣旨に照らして,社会通念に従って判断すべきものである。
(ア)支払決定書について
a支払決定書の作成名義,趣旨・目的,作成時期,取得原因,記述等
の形状,内容等については,前記1(原判決43頁末行から44頁1
7行目までを引用)で認定,判断したとおりである。
b1審原告は,複数件の支払につきまとめて支払決定がされる場合に
は,「支払相手方等」欄は,代表する1件以外を記載しなくともよい
ことになっているから,同部分の記載は,独立した一体的な情報を構
成するものではない旨主張する。
cしかしながら,前記a及び前記1(原判決64頁23行目から65
頁15行目までを引用)で認定,判断したとおり,支払決定書は,調
査情報対策費又は活動関係費の1件又は複数件の支払に係る支払決定
を行うために作成される文書であるから,1通の支払決定書に記録さ
れた情報は,支払決定という社会的に有意な1つの事実(調査情報対
策費又は活動関係費のいずれかにつき,いつ,誰に対する,何につい
て,いくらの支払決定を行ったか。)に関連した情報というべきもの
であり,1通の支払決定書に記録された情報は,社会通念上,独立し
た一体的な情報を構成するものと解される。なお,複数件の支払につ
き,1通の支払決定書が作成される場合があるものの,その場合は,
金額欄には合計額が記載され,支払目的及び支払相手方等については,
複数件の支払のうち代表的なものが記載されるにとどまることもある
というのであるから,このような1通の支払決定書に,複数の支払決
定に関する情報が,可分な状態で記録されているとも認め難い。
また,複数件の支払について1通の支払決定書が作成されている場
合には,上記のとおり,支払目的及び支払相手方等の欄には,代表的
なもののみが記載される場合もあるが,そうであったとしても,支払
決定書に関する上記認定に照らせば,支払目的及び支払相手方等は,
支払決定書の記載事項の1つとして,他の支払案件を代表して記載さ
れるものであるから,当該記載は,支払決定書に記載される情報とし
て,不必要であるとも,本質的な部分ではないともいえないのであっ
て,これらの記載は,支払決定書に記録された独立した一体的な情報
を構成しているものというべきである。
dしたがって,1審原告の前記bの主張は採用できない。
(イ)出納管理簿について
a出納管理簿の作成名義,趣旨・目的,作成時期,取得原因,記述等
の形状,内容等については,前記1(原判決44頁18行目から46
頁11行目までを引用)で認定,認定したとおりである。
b1審原告は,出納管理簿は,報償費の出納状況を一覧できるように
するための文書であるから,誰に対して支払ったのかということは,
出納状況とは関係がなく,書式上も,本件注記により,支払相手方等
の記載の省略を認めているから,支払相手方等の記載は,独立した一
体的な情報を構成しない旨主張する。
cしかしながら,前記a及び前記1(原判決70頁3行目から73頁
15行目までを補正の上引用)で認定,判断したとおり,出納管理簿
は,報償費の各出納(国庫からの報償費の受領,政策推進費の繰入れ,
調査情報対策費及び活動関係費の支払決定)に関する記録を一覧表に
してまとめ,月分計及び累計(各月ごと又は年度当初から一定時期ま
での報償費の受領額,支払額の合計額等が記録される。)を記載した
ものということができるところ,上記各出納に関する記録内容は,社
会的に有意な1つの事実,すなわち国庫からの報償費の入金,政策推
進費の繰入れ,調査情報対策費又は活動関係費としての支払決定のい
ずれかにつき,いつ,いくらを,誰に対し,何の目的で受領又は支出
し,残額がいくらになったのかという事実に関する情報というべきも
のであり,上記各出納に関するこれらの情報は,社会通念上,独立し
た一体的な情報を構成するものと解される。
また,出納管理簿における支払相手方等についても,本件注記があ
るものの,その実際の運用については,上記⑵ウのとおり,全件につ
いて記載されているところ,支払相手方等についても,報償費の出納
という事実の一部を構成するものであり,その記載が,出納管理簿に
記載される情報として,不必要であるとも,本質的な部分ではないと
もいえないのであって,支払相手方等の記載も,出納管理簿に記録さ
れた上記各出納の記載とともに,独立した一体的な情報を構成してい
るというべきである。
さらに,出納管理簿の支払相手方等の記載として,複数件を代表す
るものが記載されているにとどまることもあり得るが,そうであった
としても,上記判断を左右するものでないことは,上記(ア)cで認定,
判断したとおりである。
dしたがって,1審原告の前記bの主張は採用できない。
⑷支払相手方が公務員である場合について
ア1審原告は,支払相手方が公務員,とりわけ国会議員である場合には,
報償費の支払が賄賂性を帯びたり,職業倫理上の問題を発生させるし,当
該公務員が最終受領者でない場合には,その氏名を開示しても,当該公務
員が情報を開示することはあり得ないことや,報償費の使途について,会
計検査院の検査で指摘を受けていないことを重視すべきではないなどと主
張する。
イしかしながら,公務員に対する報償費の支払が,一概に賄賂性があると
か,職業倫理に反するとはいえず,支払相手方が公務員あるいは国会議員
であるということから,直ちに情報公開法5条6号,3号が適用されない
とはいえないことや,報償費が不適正な目的により支出されていると認め
ることができないことは,前記1(原判決76頁12行目から81頁14
行目までを引用)で認定,判断したとおりである。
また,会計検査院の検査に提出される報償費支払明細書には,具体的使
途や支払相手方等の記載はないものの,前記1(原判決46頁13行目か
ら同21行目までを引用)で認定,判断したとおり,会計検査院からの要
求があった場合には,領収書等の証拠書類を提出して,検査を受けること
も予定されているし,さらに,「内閣官房報償費の取扱いに関する基本方
針」(平成14年4月1日内閣官房長官決定,乙1)においては,報償費
の執行に関して会計検査院が必要として会計検査院長から特に申し入れが
あった場合には,内閣官房長官自らが説明に当たることが定められている
ことなどに照らせば,本件対象期間における報償費の使途等が会計検査院
の検査において指摘を受けていないことは,それなりの判断要素となり得
るものであって,これを重視すべきでないとはいえない。
ウしたがって,1審原告の前記アの主張は採用できない。
41審被告の控訴に対する判断
⑴報償費の特殊性と情報公開法5条6号,3号の適用について
1審被告は,本件対象文書の開示により,報償費を支払った相手方や情報
提供者が明らかになる場合や,他の情報やその当時の内政・外政の状況等を
照合,分析することにより,これらが特定ないし推測できる場合に,上記相
手方等との信頼関係が破壊されたり,上記相手方等に対する第三者による不
正工作を招くなどして,情報公開法5条6号,3号の支障を及ぼすおそれが
あることや,さらに,これらが特定ないし推測されないとしても,様々な憶
測を呼ぶこと自体によって,相手方と目された者から協力を得られなくなる
おそれがあり,あるいは,萎縮効果から,一般的に報償費を使用する事務の
遂行に支障を及ぼすおそれがあることなどを主張する。
しかしながら,情報公開法5条6号,3号の解釈については,前記1(原
判決35頁初行から36頁末行までを引用)で認定,判断したとおりであり,
開示によって支障を及ぼすおそれがあるとされる情報の性質を検討し,内閣
官房の事務又は事業の性質上,実質的な支障が生ずるかどうか,その支障の
程度が法的保護に値する蓋然性を有しているか(同条6号),また,行政機
関の長の判断が合理的なものとして許容される範囲内であるか(同条3号)
を,個別具体的に検討することにより,判断すべきものである。
⑵領収書等のうち,公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する情報が
記録されているものについて
ア証拠(乙21,証人A)によれば,本件対象期間(平成21年9月1日
から同月16日まで)の領収書等に,公共交通機関(原判決別紙1交通事
業者目録記載の各事業者)の利用に係る交通費の支払に関するものは,存
在しないことが認められる。
イところで,1審原告は,証人Aの陳述(乙21)及び証言は,本件対象
文書の具体的な記載内容について一貫して証言を拒絶した証言態度に照ら
し,到底信用できない旨主張する。
しかしながら,1審被告は,原審では,交通費の領収書等が1枚以上存
在するという限度では明らかにしていたものの,このうち,公共交通機関
の利用に係る交通費の支払に関する領収書等の存否については,原審では,
その点が明確に争点とされていなかったこともあり,明らかにしていなか
ったものである(原審1審被告第3準備書面,当審1審被告第1準備書面)。
このような1審被告の訴訟遂行態度は,必ずしも責められるべきものでは
なく,公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する領収書等について
開示を命じた原判決を受け,その存否を改めて精査した結果,そのような
領収書等が存在しないことが確認できたという上記Aの陳述及び証言につ
き,その信用性を疑うべき事情は見当たらないというべきである。
ウそうすると,本件対象文書のうち,公共交通機関の利用に係る交通費の
支払に関する領収書等は,本件対象期間には存在しないことが認められる
から,1審原告の請求のうち,同領収書等に関する本件不開示決定処分の
取消しを求める部分については,その不開示事由の有無について判断する
までもなく,理由がないことに帰するというべきである。
⑶政策推進費受払簿について
ア1審被告は,本件対象期間(平成21年9月1日から同月16日まで)
が短期間であり,この間に政策推進費への繰入れが1回行われ,その全額
が政策推進費として支払われていることに加え,既に明らかになっている
情報(平成21年9月1日に内閣から国庫に対し,報償費2億5000万
円が請求されたこと)や,当時の内政・外政の状況等を総合すると,特定
の時期に支払われた政策推進費の具体的使途やその支払相手方等を特定な
いし推測することができ,あるいは,これらが特定ないし推測されないと
しても,様々な憶測がされることが容易に想定されるから,情報公開法5
条6号,3号に該当する旨主張し,証拠(乙21,証人A)中には,これ
に沿う部分があるので,以下,検討する。
イ政策推進費受払簿の作成名義,趣旨・目的,作成時期,取得原因,記述
等の形状,内容等については,前記1(原判決43頁17行目から同25
行目までを引用)で認定,判断したとおりである。
ウ証拠(乙21,証人A)によれば,本件対象期間(平成21年9月1日
から同月16日まで)においては,国庫に対し,2億5000万円の報償
費の請求がされた平成21年9月1日から数日程度経過した後(同月4日
より後)に,政策推進費への繰入れが1回行われ,その旨を記載した1通
の政策推進費受払簿が作成されたこと(原判決別紙2の書式によれば,⑤
〔今回繰入額〕に具体的な繰入額が記載されていること。)並びに同月1
6日の内閣官房長官の交代時にも政策推進費受払簿が作成され,前記繰入
額全額が,内閣官房長官交代までの数日間で支払われた旨の記載がされて
いること(同別紙2の書式によれば,③〔前回から今回までの支払額〕に
上記繰入額と同額が記載されていること。)が認められる。
そうすると,このような政策推進費受払簿が開示されると,単に,前回
の繰入時から今回の繰入時までの間の政策推進費の支払合計額が明らかに
なるというのにとどまらず,早くとも平成21年9月4日に繰り入れられ
た政策推進費の全額が,内閣官房長官の交代する同月16日までの十数日
程度の期間で支払われたことも明らかになるものといえる。
エしかしながら,政策推進費受払簿が開示されたとしても,このことから
直ちに,政策推進費からの特定の支払に係る支払日や支払額が,事実上特
定ないし推測されるものでないことは,前記1(原判決61頁15行目か
ら62頁24行目までを補正の上引用)で認定,判断したとおりである。
すなわち,内閣官房長官が,繰り入れた政策推進費のうち,いつ,誰に,
いくらの政策推進費を支払ったのか,あるいは,それが1回なのか,複数
回なのかは,上記政策推進費受払簿が開示されたとしても,何ら明らかに
なるものではない。そのことは,上記期間が概ね10日前後の短期間であ
ったことや,繰入額の多寡によっても,異なるものではないというべきで
ある。また,内閣の政策課題は,特定の短期間には限られた件数しか存在
しないというものではなく,政策推進費は,将来あるいは過去の内閣の政
策課題に対して支払われる場合もあり得るし(甲31の9ないし12頁,
49頁),さらに,上記期間を超えて継続すべき案件も多々存在するとい
うものである(A18頁)。そうすると,特定の短期間に支払われた政
策推進費の合計額が明らかとなったとしても,そのことにより,特定の政
策推進費の支払日や支払額,ひいては,その支払相手方等や支払目的が事
実上特定ないし推測されるという関係にはないというべきである。
また,政策推進費が支払われたことと特定の期間における内政・外政の
状況等とを照合,分析することにより,政策推進費の使途や支払相手方等
について憶測を呼ぶことも,あり得ないではない(仮に,当時の国庫請求
額の2億5000万円全てが政策推進費として支払われたことが明らかと
なれば,その使途を巡って報道などがされ,国民の間に様々な憶測を呼ぶ
こともそれなりに考えられる。)。しかしながら,このような憶測のみに
よって,関係者等の信頼が損なわれるなどして,内閣の事務又は事業の適
正な遂行に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとまで認められないことは,
前記1(原判決62頁25行目から63頁11行目までを引用)で認定,
判断したとおりであり,政策推進費受払簿に記載された情報が,情報公開
法5条6号の不開示情報に該当するとは認められない。
オ情報公開法5条3号該当性については,前記1(原判決63頁16行目
から同末行までを引用)で認定,判断したとおり,同号のおそれがあると
した内閣官房内閣総務官の判断は,裁量権を逸脱又は濫用したものという
べきであり,政策推進費受払簿に記載された情報は,同号の不開示情報に
該当するとは認められない。
⑷支払決定書に記録された情報のうち,公共交通機関の利用に係る交通費の
支払に関するものについて
前記⑵で認定,判断したとおり,本件対象期間(平成21年9月1日から
同月16日まで)の領収書等に,公共交通機関の利用に係る交通費の支払に
関するものは存在しないことが認められるから,本件対象期間については,
このような領収書等に基づき作成される支払決定書も,存在しないことが認
められる。
そうすると,1審原告の請求のうち,上記支払決定書に関する本件不開示
決定処分の取消しを求める部分については,その不開示事由の有無について
判断するまでもなく,理由がないことに帰するというべきである。
⑸出納管理簿に記録された情報のうち,調査情報対策費及び活動関係費(公
共交通機関利用分を除く)に係る部分を除いたものについて
ア出納管理簿の作成名義,趣旨・目的,作成時期,取得原因,記述等の形
状,内容等については,前記1(原判決44頁18行目から46頁11行
目までを引用)で認定,判断したとおりである。
イ1審被告は,出納管理簿に記録された政策推進費の繰入れに係る各項目
については,前記⑶の政策推進費受払簿におけるのと同様の理由により,
情報公開法5条6号,3号に該当する旨主張するが,同主張が採用できな
いことは,前記⑶で判断したとおりである。
ウ出納管理簿の活動関係費に係る部分のうち,公共交通機関の利用に係る
交通費の支払に関するものについては,上記⑵及び⑷で認定,判断したと
おり,本件対象期間(平成21年9月1日から同月16日まで)において,
同支払に関する領収書等及び支払決定書が存在しないことが認められるか
ら,支払決定書の記載内容が転記される出納管理簿の活動関係費に係る部
分についても,上記支払に関するものが存在しないことが認められる。
そうすると,1審原告の請求のうち,上記出納管理簿に関する本件不開
示決定処分の取消しを求める部分については,その不開示事由の有無につ
いて判断するまでもなく,理由がないことに帰するというべきである。
エ1審被告は,出納管理簿の月分計欄及び累計欄に記載された情報につい
ては,これにより,月ごとの金額の推移や増減を照合,分析し,当時の内
政・外政の状況等と照合,分析することによって,一定の政策課題等との
関係が特定ないし推測され,あるいは,これらが特定ないし推測されない
としても,様々な憶測を呼ぶとして,情報公開法5条6号,3号に該当す
る旨主張する。
しかしながら,前記ア及び前記1(原判決68頁20行目から70頁2
行目までを補正の上引用)で認定,判断したとおり,1審被告の上記主張
を採用することはできない。
すなわち,月分計欄及び累計欄の記載内容が明らかになったとしても,
これによって,特定の月における報償費の合計受領額,合計支払額及び残
額(月分計欄)あるいは,年度当初から特定の月までの報償費の合計受領
額,合計支払額及び残額(累計欄)が明らかになるにすぎず,これにその
当時の内政・外政の状況等を照合,分析するなどしたとしても,一定の政
策課題との関係が明らかになるとか,ひいては,支払の目的や相手方等が
特定ないし推測されるものとは認められない。また,上記記載内容が明ら
かになった場合には,報償費の月ごとの増減や推移が明らかとなることか
ら,内閣の抱える政策課題や,報償費の使用目的及び支払相手方等につい
て,様々な憶測を呼ぶこともあり得ないではない。しかしながら,このよ
うな憶測のみによって,関係者等の信頼が損なわれるなどして,内閣の事
務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとまでは認
められない。そうすると,出納管理簿の月分計欄及び累計欄に記載された
内容が,情報公開法5条6号,3号の不開示情報に該当するとは認められ
ない。
オ部分開示について
(ア)1審被告は,出納管理簿が,月ごと,年度ごとの報償費の出納状況
全体を一覧できるようにし,個別の入出金と総額の全体とが相互に適正
に記録されているかどうかを確認するための文書であることに照らせば,
出納管理簿に記載された内容の全体をもって,独立した一体的な情報を
構成しているとして,出納管理簿について部分開示を命じることは許さ
れない旨主張する。
(イ)しかしながら,出納管理簿の各出納に関する記録内容は,前記1(原
判決70頁4行目から同19行目までを引用)及び前記3⑶イ(イ)cで
認定,判断したとおり,社会的に有意な1つの事実,すなわち国庫から
の報償金の入金,政策推進費の繰入れ,調査情報対策費又は活動関係費
としての支払のいずれかにつき,いつ,いくらを,誰に対し,何の目的
で受領又は支出し,残額がいくらになったのかという事実に関する情報
というべきものである。また,出納管理簿の月分計欄及び累計欄のそれ
ぞれについても,前記1(原判決70頁20行目から71頁6行目まで
を引用)で認定,判断したとおり,社会的に有意な1つの事実,すなわ
ち各月の,あるいは,年度当初から特定の月までの,報償費の合計受領
額,合計支払額及び残額を内閣官房長官が確認したことに関する情報と
いうべきである。
これに対し,1審被告は,出納管理簿の作成目的を強調して上記(ア)
のとおり主張する。しかしながら,前記1(原判決71頁12行目から
72頁10行目までを補正の上引用)で認定,判断したとおり,出納管
理簿の主な作成目的が1審被告の主張するとおりであったとしても,一
般の出納管理においては,個別の入出金額の多寡やその目的,実際の現
金残高等を把握する重要性も否定することはできず,そのことは,報償
費においても異なるものではないというべきである。
そうすると,出納管理簿に記載された情報については,個別の入出金
(国庫からの入金,政策推進費の繰入れ,調査情報対策費又は活動関係
費としての支払)に関する記録,すなわち,各入出金ごとに記録される
年月日(原判決別紙4の①),摘要(使用目的等)(同②),受領額(同
③),支払額(同④),残額(同⑤),支払相手方等(同⑥)の部分は,
独立した一体的な情報を構成するものであるが,月分計欄(同⑦)に関
する記録及び累計欄(同⑧)に関する記録(それぞれにつき,受領額,
支払額,残額及び内閣官房長官の確認印〔同⑨〕の部分)も,これらと
は別に,独立した一体的な情報を構成するものというべきである。
(ウ)以上によれば,出納管理簿については,情報公開法6条1項に基づ
き,同法5条6号,3号の不開示事由に該当する調査情報対策費及び活
動関係費の各出金に係る部分を除いた一部開示を命じることができる。
したがって,1審被告の前記(ア)の主張は採用できない。
⑹報償費支払明細書について
ア報償費支払明細書の作成名義,趣旨・目的,作成時期,取得原因,記述
等の形状,内容等については,前記1(原判決46頁12行目から47頁
11行目までを引用)で認定,判断したとおりである。
イ1審被告は,報償費支払明細書のうち,政策推進費受払簿から転記した
部分は,前記⑶の政策推進費受払簿におけるのと同様の理由により,情報
公開法5条6号,3号に該当する旨主張するが,同主張が採用できないこ
とは,前記⑶で判断したとおりである。
ウ1審被告は,報償費支払明細書のうち,調査情報対策費及び活動関係費
について記録した部分は,これが開示されれば,その支払日と金額が明ら
かとなり,これを当時の内政・外政の状況等と照合,分析するなどすれば,
使途や支払相手方等が特定ないし推測され,あるいは,これらが特定ない
し推測されないとしても,種々の憶測を呼ぶことから,情報公開法5条6
号,3号に該当する旨主張する。
しかしながら,前記1(原判決74頁5行目から75頁19行目までを
引用)で認定,判断したとおり,1審被告の主張を採用することはできな
い。
すなわち,報償費支払明細書のうち,調査情報対策費及び活動関係費に
ついて記録された部分が開示されたとしても,これらに係る領収書等,支
払決定書及び出納管理簿とは異なり,各支払決定の年月日及び金額が明ら
かになるにすぎない。しかも,各支払決定は,複数件まとめて行われる場
合もあるが,報償費支払明細書の記載からは,当該支払決定が複数件まと
めて行われたかどうかは明らかとはならないし,支払決定日は,役務提供
日と一致するとも限らない。そうすると,報償費支払明細書の開示により
明らかとなる情報に,その当時の内政・外政の状況等を照合,分析するな
どしても,一定の政策課題との関係が明らかになるとか,ひいては,支払
の目的や相手方等が特定ないし推測されるとは認められない。また,上記
のような照合,分析により,内閣の抱える政策課題や,報償費の使用目的
及び支払相手方等について,様々な憶測を呼ぶこともあり得ないではない。
しかしながら,このような憶測のみによって,関係者等の信頼が損なわれ
るなどして,内閣の事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす具体的なお
それがあるとまでは認められない。
そうすると,報償費支払明細書のうち調査情報対策費及び活動関係費に
ついて記録した部分が,情報公開法5条6号,3号の不開示情報に該当す
るとは認められない。
エ1審被告は,報償費支払明細書のうち,支払明細書繰越記載部分(原判
決別紙5の書式中,④の前月繰越額,本月受入額,本月支払額及び翌月繰
越額の部分)は,出納管理簿の月分計欄及び累計欄におけるのと同様の理
由により,情報公開法5条6号,3号に該当する旨主張する。しかしなが
ら,1審被告の上記主張が採用できないことは,上記⑸のとおりである。
オ以上によれば,報償費支払明細書については,情報公開法5条6号,3
号の不開示事由に該当する情報は記録されていないものと認められる。
第4結論
以上によれば,1審原告の本件請求は,上記第3の1記載の取消しを求める
限度で理由があるところ,これと異なる原判決は,一部不当であるから,1審
被告の控訴に基づき原判決を変更し,1審原告の控訴は理由がないから棄却す
ることとする。
よって,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官田中敦
裁判官善元貞彦
裁判官竹添明夫

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛