弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,金110万円及びこれに対する平成13年9月13日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,学童保育事業を実施している原告が,被告に対して,被告の設置管理に係
る大阪市立友渕小学校(以下「友渕小学校」という。)の余裕教室の借受けを申し
入れる書類を提出したところ,かかる書類を被告が返戻したり受理しなかったとし
て,国家賠償法1条1項に基づき,原告の被った非財産的損害100万円及び弁護
士費用10万円の合計110万円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平
成13年9月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払を求めた事案である。
1 基礎となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア 原告は,昭和60年4月に学童保育事業の実施を目的として設立された団体であ
る(甲10の1,31,証人A,弁論の全趣旨)。
原告は,学童保育事業が平成9年6月11日改正平成10年4月1日施行の児童福
祉法6条の2第6項(現行法の同条12項)により「放課後児童健全育成事業」
(小学校に就学しているおおむね10歳未満の児童であって,その保護者が労働等
により昼間家庭にいない者に,政令の定める基準に従い授業の終了後に児童厚生施
設等の施設を利用して適切な遊び及び生活の場を与えて,その健全な育成を図る事
業)に位置づけられるとともに,同日施行の社会福祉事業法(現行の社会福祉法)
2条3項2号により第2種社会福祉事業に位置づけられたため,同日付けをもっ
て,大阪市長宛に,第2種社会福祉事業開始届を提出した。
イ 被告は,友渕小学校の施設を設置し維持管理する普通地方公共団体であり,同小
学校は,本校と分校に分かれ,1年生から3年生までは分校で,4年生から6年生
までは本校で授業を行っている。
また,被告は,大阪市留守家庭児童対策事業助成要綱に基づき,学童保育事業を留
守家庭児童対策事業として助成し,原告に助成金を交付している。
(2)事実経過
ア 被告教育委員会は,平成4年7月以降,保護者が労働等により昼間家庭にいない
児童を含む本市児童が遊びを心から楽しめるよう,遊びの時間と空間を確保するこ
とを目的とし,放課後における児童健全育成施策の1つとして,財団法人大阪市教
育振興公社に事業実施を委託して,児童いきいき放課後事業(以下「いきいき事
業」という。)を実施しており,平成7年11月,友渕小学校においていきいき事
業を開始した。
他方,被告民政局は,子どもの健やかな成長を図るため,放課後における児童健全
施策の1つとして,社会福祉法人等の公的な団体又はこのような公的な団体で組織
される運営委員会に事業実施を委託して,放課後児童健全育成事業たる子どもの家
事業を実施していた(甲34の1・2,乙5,6,弁論の全趣旨)。
イ(ア)原告は,その設立以降,保護者の自宅や公団から賃貸したの賃貸住宅において
学童保育事業を実施してきたところ(甲6,9,10の1,31,33,証人A,
弁論の全趣旨),原告は,同事業を実施する上でより適切な施設を確保するため,
被告に対し,友渕小学校にある余裕教室の借受けを要請してきた(以下「本件要
請」という。)ものの,被告は,終始,同要請を拒絶し続けてきた。
被告は,拒絶の理由として,上記(1)アの児童福祉法改正前は,「学校は公的団体で
ないと貸せない。」と説明していたところ,上記改正後は,「余裕教室はない。」
と説明し(弁論の全趣旨),原告が具体的な余裕教室の存在を指摘して借受けを要
請するようになってから(甲33,証人A,弁論の全趣旨)は,「放課後児童対策
としてのいきいき事業が実施されており,同一場所又は同一小学校で他の放課後児
童健全育成事業を行うと父母や子供が混乱するので貸せない。」などと説明してい
た。
(イ)他方,被告は,啓発子どもの家運営委員会から,被告が設置し維持管理する大
阪市立啓発小学校(以下「啓発小学校」という。)内のプレイルームの借受けを要
請され,平成8年4月から平成13年3月までの間,これを毎年度許可していた
(甲25ないし28の各1・2)。
ウ(ア)原告は,平成11年10月19日,大阪市長宛てに,友渕小学校本校1階体育
館横クラブ室(以下「本件教室」という。)を借り受けるべく,市有財産借受申請
書を提出した。
その後,被告は,同申請書の受領を拒絶し,同年11月11日の夜間,被告民政局
担当者が当時の原告会長宅に赴き,同申請書を返戻した。
(イ)原告は,同年12月3日,本件教室の借受けを再度申し入れるべく,被告民政
局担当課長に対し,市有財産借受申請書を手渡そうとした(以下,ウ(ア)及び(イ)の申
請書の提出及び手渡しを合わせて「本件各申入れ」という。)が,同課長は,同申
請書添付の図面については事実上受け取ったが,同申請書自体の受取りは拒絶し
た。
エ 被告教育委員会は,平成12年4月21日,本件教室において,いきいき事業を
開始した。
オ 原告は,公団に対し,事業に使用していた賃貸住宅を明け渡したが,友渕小学校
の校区外の借家を借り受け,同所で学童保育事業を継続している(甲33,証人
A)
2 争点
(1)被告が本件要請を拒絶し続けた所為は,その裁量権を逸脱するものか。
(2)被告に本件各申入れを受理し応答する義務があったか。
(3)被告が本件各申入れを返戻し受理しなかった行為が違法か。
(4)損害の有無及びその額
3 原告の主張
(1)争点(1)(裁量権の逸脱の有無)について
被告は,原告に対して,差別的意図の下,合理的な理由を説明することなく本件要
請を拒絶し続けてきたところ,このような被告の所為は,その裁量権を逸脱するも
のであり,違法である。
すなわち,被告は,啓発子どもの家事業運営委員会に対しては,啓発小学校内のプ
レイルームの目的外使用を許可しておきながら,原告に対しては,「本事業は、児
童館のほか、保育所や学校の余裕教室、団地の集会室などの社会資源を活用して実
施すること。」と定める平成10年4月9日付け厚生省児童家庭局長通知に係る放
課後児童健全育成事業実施要綱4項2号が存在するにもかかわらず,上記1(2)イの
ような不自然かつ不合理な理由で,本件要請を拒絶し続けた。
(2)争点(2)(受理応答義務の有無)について
原告の本件各申入れは「申請」(行政手続法2条3号)に該当するところ,被告に
はこれらを受理し応答する義務があった。
すなわち,同法の要件である行政庁の諾否応答義務は,法令に明記されている場合
のみならず解釈上導き出される場合も含まれる。
そして,被告は,地方自治法の規定を受けて大阪市財産条例(以下「財産条例」と
いう。)及び大阪市財産規則(以下「財産規則」という。)を制定しているとこ
ろ,財産規則15条には,行政財産の目的外使用の許可をするときは,その使用許
可を受ける者の資格を定めて選考しなければならない旨規定されている。同条を受
けて,被告は,大阪市財政局理事決裁に係る「行政財産の目的外使用許可にかかる
審査基準等について」と題する書面において,使用許可の審査基準(以下「使用許
可基準」という。)を定めた上,これを公表し,同基準において使用を許可しない
相手方を明らかにしている。
このような財産条例,財産規則及びこれを受けた使用許可基準の存在並びに原告が
被告の助成を受けて学童保育事業を実施する公的団体であることを総合すれば,被
告には,本件各申入れの諾否につき応答する義務及びその前提として本件各申入れ
を受理する義務が解釈上認められる。
(3)争点(3)(受理応答義務違反の有無)について
被告には本件各申入れを受理し応答する義務があったにもかかわらず,被告はこの
義務に違反して本件各申入れを返戻したり受理しなかったところ,被告のこれらの
所為は,いずれも行政手続法7条,8条や大阪市行政手続条例7条,8条に違反す
るものであって,違法である。
(4)争点(4)(損害)について
ア 原告は,本件各申入れが受理されていれば,法的手続に則った適正な判断を受け
る機会を有していたところ,被告が本件各申入れを返戻したり受理しなかったこと
によって,かかる機会を奪われた。
また,原告は,上記返戻ないし不受理によって,一部の住民から地方自治体に相手
にされない厄介な団体であるとの評価を受けるに至ることも容易に想定される。
このようにして,原告の名声,信用及び客観的評価が著しく毀損されたのであり,
原告が被ったこれらの非財産的損害を金銭的に評価すると,100万円は下らな
い。
イ 弁護士費用 10万円
4 被告の主張
(1)争点(1)(裁量権の逸脱の有無)について
被告が本件要請を拒絶し続けてきた所為は,その裁量権を逸脱するものではない。
被告が本件要請を拒絶し続けてきたのは,被告としては,その設置し維持管理する
小学校の施設を利用して実施する放課後児童対策としてはいきいき事業を優先して
展開させる方針を採っており,学童保育事業といきいき事業とは放課後児童対策と
いう趣旨が重複し同一小学校で同時に実施することが不適切であると判断したため
である。
(2)争点(2)(受理応答義務の有無)について
地方自治法238条の4第4項は,行政財産の使用許可を求める者がする申請につ
いて何ら規定しておらず,かかる使用許可を求める者に申請権を賦与したものでは
ないところ,被告にはかかる使用許可の申入れを受理し応答する義務はない。
使用許可基準は,内部的な基準であるとともに,当該基準を満たさない者に対して
は許可を与えないことを定めるにとどまり,それ以上に,当該基準を満たす者すべ
てに許可を与える義務が大阪市長に課せられる旨定めるものではない。
(3)争点(3)(受理応答義務違反の有無)について
被告は,本件各申入れに係る市有財産借受申請書を返戻する際及びこれを受け取ら
なかった際,原告に対して,本件教室は空き教室ではなく,友渕小学校ではいきい
き事業を実施しているため学童保育事業に教室を貸すことができない旨説明してい
るのであって,何ら応答していないわけではない。
(4)争点(4)(損害)について
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(裁量権の逸脱の有無)について
(1)地方自治法238条の4は,行政財産の適正かつ効率的な管理を期するため,
行政財産の目的外使用を原則として禁止しつつ,行政財産の効率的利用の見地か
ら,行政上の許可処分による行政財産の目的外使用を例外的に認めているところ,
このような同条の趣旨に鑑みれば,地方公共団体が行政財産の目的外使用を許可す
るか否かについては広範な裁量権があると解するのが相当であって,行政財産の目
的外使用を行わないという地方公共団体の判断は,それが社会通念に照らして著し
く妥当性を欠く等裁量権の範囲を逸脱し,裁量権を乱用したものでない限り,国家
賠償法上,違法であるとはいえない。
(2)この点,証拠(乙5,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,被告教育委員会
は,学童保育事業といきいき事業とは,放課後児童対策という趣旨が重複するもの
であり,前者が労働等により保護者が昼間家庭にいない児童のみを対象とするもの
であるのに対して,後者がかかる児童を含む被告市の児童を対象とするものである
と判断し,被告が設置し維持管理する小学校の施設については,いきいき事業を優
先させる方針を採っていたものと認められる。
被告が本件要請を拒絶し続けてきた所為は,このような合理的な政策判断として許
容される範囲内の方針に基づくものであることからすれば,その裁量権を逸脱する
ものとまではいえず,国家賠償法上,違法であると評価することはできない。
(3)ア これに対して,証拠(甲4)によれば,平成10年4月9日付け厚生省児童
家庭局長通知に係る放課後児童健全育成事業実施要綱4条2項のとおり,国が学童
保育事業のために学校の余裕教室を活用する方針を採っていたことも認められる。
しかし,このような国の方針は,各地方公共団体が独自の判断に基づいて放課後児
童健全育成事業を行うことを排除するものではないと解される以上,前記(2)の判断
を覆すものではない。
イ また,証拠(甲28の1・2,乙5,6,証人C,証人B)及び弁論の全趣旨に
よれば,子どもの家事業がいきいき事業へ発展的に解消されつつあること,及び,
啓発小学校においていきいき事業が実施されるようになった平成13年度以降は,
啓発子どもの家事業運営委員会に対して啓発小学校のプレイルームの目的外使用が
許可されていないことが認められる。
このような認定事実に鑑みれば,被告が本件要請を拒絶し続けたのは,被告が設置
し維持管理する小学校の施設の目的外使用を許可するに当たって,いきいき事業と
放課後児童対策という趣旨が重複する事業とが競合する可能性があるときには,い
きいき事業を優先させる方針を採っていたからというべきであって,被告が差別的
意図に基づき本件要請を拒絶し続けたとの原告の主張は採用することはできない。
2争点(2)(受理応答義務の有無)について
(1)被告に本件各申入れを受理し応答する義務が認められるか否かは,原告に実体
法上の権利ないし法的利益としての申請権が認められるか否かによる。
(2)ア 確かに,地方自治法上,行政財産の目的外使用の許可に関し,申請及び申請
に対する諾否についての明文規定が存在するわけではなく,目的外使用の許可を申
請するための具体的手続を規定した大阪市の条例又は規則が存在するわけでもな
い。
イ(ア)しかし,そもそも,行政財産の目的外使用を希望する者(以下「使用希望者」
という。)からの申請行為がないにもかかわらず,行政財産の目的外使用の許可が
一方的になされること自体あり得ないことからすると,地方自治法は使用希望者に
より申請がなされることを当然に予定していると解される。
(イ)また,地方自治法238条の7は,「第二三八条の四の規定により普通地方公
共団体の長がした行政財産を使用する権利に関する処分」等に対する不服申立ての
手続について行政不服審査法の特例を規定している。
同条にいう処分には,文理上,行政財産の目的外使用許可の申入れを拒否する行為
も含まれ得る上,上記拒否行為を不服申立ての対象から殊更除外すべき合理性はな
く,むしろかかる拒否行為こそが不服申立ての対象になる典型的なものであると解
するのが自然である。
そして,このような不服申立ての手続が存在するにもかかわらず,実体法上の権利
ないし法的利益としての申請権が認められないと解することは,地方自治体におい
て,事実上目的外使用許可の申入れの受理を拒絶することによって処分自体を行う
ことを許し,そうなれば使用希望者による不服申立ての道が閉ざされることにもな
り,不服申立手続が設けられた趣旨を没却するおそれがある。
(ウ)行政手続法上,「申請」とは,「法令に基づき,行政庁の許可,認可,免許そ
の他の自己に関し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求
める行為であって,当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされてい
るもの」であるとされており(同法2条3号),そこにいう「申請」は,行政庁の
諾否応答義務あるものとして定義されていることに照らすと,申請権の存在を前提
にしているものと解される。そして,同法は,行政庁が,そのような「申請」によ
り求められた許認可等をするかどうかを判断するための審査基準,申請に対する標
準処理期間及び不利益処分についての処分基準を定めるとともに,それらを公にす
べき旨定めている(同法5条,6条,12条)ところ,被告の定める使用許可基準
においては,「行政
手続法第5条、第6条、第12条の規定に基づき、地方自治法第238条の4第4
項の規定による行政財産のその本来の用途または目的を妨げない限度における使用
許可について、下記のとおり基準を定める。」と規定され,これは一般にも公表さ
れているほか,被告は目的外使用許可に係る「標準申請書」も作成しているのであ
り(甲21),これらのことは,被告自身,行政財産の目的外使用に係る申請につ
いて,諾否応答義務,申請権があるものとの前提で対応していることを示すもので
ある。
(3)以上のように,行政財産の目的外使用の許可の前提として使用希望者からの申
請行為が当然に予定されていること,実体法上の権利ないし法的利益としての申請
権を認めなければ地方自治法が設けた不服申立手続が無意味なものともなりかねな
いこと,及び,被告自体もこのような申請権の存在を前提とした規定を定めて一般
に公表等していることを総合すれば,原告には,本件教室の目的外使用許可処分を
求める申請権が実体法上の権利ないし法的利益として認められると解するのが相当
であり,被告には,本件各申入れを受理し応答する義務があったものというべきで
ある。
なお,地方自治法238条の4は,行政財産の適正かつ効率的な管理を期するた
め,行政財産の目的外使用を原則として禁止しつつ,行政財産の効率的利用の見地
から,行政上の許可処分による行政財産の目的外使用を例外的に認めているのであ
り,このような同条の趣旨に鑑みれば,同条は,使用希望者に対し当該行政財産を
使用することができる実体法上の権利ないし法的利益を賦与するものとまでは解し
難いが,このことと行政財産の目的外使用許可処分を求める申請権が実体法上の権
利ないし法的利益として認められるか否かとは別個の問題であって,前記解釈を妨
げるものではない。
3 争点(3)(受理応答義務違反の有無)について
(1)ア 行政手続法7条は,国民の申請権を具体化する趣旨で,法定の要件を充足す
る申請についての不受理ないし返戻等の取扱いを排し,申請に対する行政庁の審査
応答義務を規定している。
また,行政財産の目的外使用許可の申請を拒否する行為に不服がある場合には,地
方自治法238条の7に基づく前記2(2)イ(イ)のような不服申立てが認められてお
り,同条による裁決に不服がある場合には,行政事件訴訟法に基づく抗告訴訟が認
められているところ,行政手続法33条は,このような不服がある者が争う機会を
保障する見地から,申請の取下げ等を求める行政指導によって申請者の権利を侵害
してはならない旨規定している。
とすれば,行政財産の目的外使用許可の申請について,不受理ないし返戻等の手段
によって,その受理を拒否することは,申請を受理し応答する義務に違反し,使用
希望者の申請権を侵害するものであって,原則として許されないものいうべきであ
る。
イ もっとも,いかなる場合にもこの原則に対する例外が認められないものではな
く,許可権者が他の行政目的を達成するために不受理ないし返戻することも,その
目的及び目的により得られる利益とこれにより申請者が受ける不利益とを比較考量
して,その方法,程度が社会通念上相当であり,かつ,申請者が任意に不受理ない
し返戻に同意している場合には,一概に国家賠償法上の違法であるとはいえない。
しかし,かかる不受理ないし返戻は,何ら法律的根拠を有しない事実上の措置であ
るところ,かかる事実上の措置は,あくまで申請者の任意の応諾を前提とするもの
であって,申請者が,かかる事実上の措置に応じない意思を明確に表明し,直ちに
申請の受理を求めていると認められる場合にまで,相手方を直接に強制し,事実上
の拒否処分と異ならない結果をもたらすことを容認するものではない。
したがって,行政財産の目的外使用許可の申請についての不受理ないし返戻は,申
請者が,不受理ないし返戻に応じることができないとの意思を真摯かつ明確に表明
し,当該申請に対し直ちに応答すべきことを求めているものと認められるときに
は,不受理ないし返戻に応じないことが社会通念上正義の観念に反するものといえ
るような特段の事情が存在しない限り,国家賠償法上,違法である。
(2)ア 本件では,前記第2,1(2)イ及びウのとおり,原告は,友渕小学校にある余裕
教室の借受けを被告に拒絶され続けてきたにもかかわらず,被告に対し,本件各申
入れをしている。
また,証拠(甲31,甲33,証人C,証人A)及び弁論の全趣旨によれば,原告
は,昭和61年から公団の賃貸住宅を賃借して学童保育事業を実施していたが,公
団から,同住宅は居住用であり使用目的が違うとして立ち退きを要求されるように
なり,平成9年以降は,法的手段を行使することも辞さないという強い態度で明渡
しを迫られるようになったこと,及び,そのころ,高殿学童クラブが借り受けてい
た賃貸住宅の隣室にシンナー中毒者が居住していたことに危険を感じた原告が,児
童の安全を図ることができる施設を確保しようとしていたことが認められる。
このように,原告は,事業を実施していた賃貸住宅からの立ち退きを迫られるとと
もに,事業を継続する上で児童の安全を確保することが急がれた状況の下で,代わ
りに事業を継続する安全な場所を確保するべく,本件各申入れをしており,しか
も,本件各申入れが,被告の度重なる拒絶にもかかわらずなされていることからす
れば,原告は,本件各申入れの当時,不受理ないし返戻に応じることができないと
の意思を真摯かつ明確に表明し,当該申請に対し直ちに応答すべきことを求めてい
たものと認められる。
イ(ア)他方,証拠(乙5,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,被告教育委員会は,
学童保育事業といきいき事業とは,放課後児童対策という趣旨が重複するものであ
り,前者が労働等により保護者が昼間家庭にいない児童のみを対象とするものであ
るのに対して,後者がかかる児童を含む被告市の児童を対象とするものであると判
断し,被告が設置し維持管理する小学校の施設については,いきいき事業を優先さ
せる方針を採っていたものと認められる。
また,前記第2,1(1)イ及び(2)イのとおり,被告は,原告に助成金を交付している
のみならず,本件各申入れを事実上拒絶する以前に,原告に対し,本件教室の目的
外使用を許可できない理由を説明している。
(イ)しかし,被告教育委員会の上記方針も,同方針の故に,本件各申入れを受理し
た上不許可処分をすることはともかく,受理すらせず,原告から不服申立て手段を
奪ってしまうほどの利益の優越があるものとは認め難い。
そして,原告は,放課後児童健全育成事業たる学童保育事業を実施する公共性のあ
る団体として,事業を継続する安全な場所を確保するべく本件申入れをしているも
のであるところ,本件各申入れは,被告が検討するに値しない不合理なことを内容
とするものではない。
(ウ)以上を総合すれば,原告が本件各申入れの拒絶に応じないことが社会通念上正
義の観念に反するものといえるような特段の事情が存在したものとは到底認められ
ない。
(3)したがって,被告が本件各申入れを返戻したり受理しなかった行為は,本件各
申入れを受理し応答する義務に違反し,原告の申請権を侵害するものであり,違法
というべきである。
4 争点(4)(損害)について
被告が本件各申入れを受理しない限り,原告が地方自治法238条の7の不服申立
て等をすることは不可能であるところ,被告が本件各申入れを返戻したり受理しな
かったことによって,原告が不服申立て等をして判断を受ける機会が失われてお
り,これが事実上の不利益に当たることは否定できない。
しかし,このような事実上の不利益が,原告の名声,信用及び客観的評価の毀損に
直ちに結びつくものではないこともまた明らかであるし,本件全証拠によっても,
原告が一部の住民から地方自治体に相手にされない厄介な団体であるとの評価を受
け,原告の名声,信用及び客観的評価が毀損された事実は認められない。
5 結論
以上の次第で,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負
担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第24民事部
裁判長裁判官   山下 寛
裁判官   安木 進
  裁判官西田隆裕は転補のため署名押印できない。
裁判長裁判官   山下 寛

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