弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1被告人を懲役5年に処する。
未決勾留日数中630日をその刑に算入する。
訴訟費用中,証人1及び同2に支給した分については,その各AA
2分の1を,同3,同4,同5,同6,同7(ただし,AAAAA
平成19年11月21日及び同年12月19日の出頭に関して支給し
た分に限る),同8,同9及び同10に支給した分についてAAA
は,各全部を被告人の負担とする。
2平成18年3月14日付け起訴状記載の公訴事実第1の別表1番号2
0(平成16年7月5日の80万円の業務上横領)及び27(平成1
7年2月7日の80万円の業務上横領)並びに平成18年6月20日
付け起訴状記載の公訴事実(詐欺)の点については,被告人は無罪。
理由
(罪となるべき事実)
第1被告人は,暴力団1組2組3組組長であったものであるが,BBB
1部落解放同盟大阪府連合会支部書記長1が,同支部長兼社会福祉法人CA
理事長であった5に対して「支部長も理事長も降りたらどうや」と申しDA
入れた旨を5から聞知するや,1を脅迫しようと企て,同支部副支部長AA
2と共謀の上,平成15年6月20日午後7時ころ,大阪市中央区ホテAE
ル大阪6階所在の喫茶店で,2において,1に対し,「5さんと会うたAAA
らどうや」などと話した上,被告人が「会えへんようなんやったら,連れて来
い,それで来いへんかったら,タマを取る」と言っている旨申し向け,1のA
生命,身体にいかなる危害を加えるかも知れない旨を告知して脅迫し,
2同支部執行委員会において,支部長を選挙により選出することが正式に決定
され,5及び1が立候補したことを受け,1に立候補を取り下げさせAAA
て選挙を中止させようと企て,5と共謀の上,平成15年7月5日及び同月A
6日の2回にわたり,被告人において,1を和歌山県那賀郡(現在の和歌山A
県岩出市)所在の被告人方に呼びつけ,同所で,1に対し,「もう降りい,A
選挙降りてだれが笑うねん,わしが言うてることに従ってだれが笑うねん」,
「法人も支部もわしのもんやないかい」,「5が支部長選を降りた。1,AA
おまえも降りれ。選挙を中止しろ。わしの言うこと,聞いといたらええねん」,
「1,次,お前が支部長をしたらいいねん」,「箸のこけたことも報告せA
え」などと申し向け,これに応じなければ同人の生命,身体にいかなる危害を
加えかねない気勢を示して脅迫し,同人を畏怖させ,よって,同人の支部長選
挙への立候補を断念させ,もって,同人の権利の行使を妨害した。
第2被告人は,株式会社3(平成16年6月7日,株式会社2から商号変FF
更)の現金及び預金の管理並びに小切手の作成等の業務に従事していた4A
と共謀の上,
1別表1記載のとおり,平成14年11月5日から平成17年6月3日までの
FA間,29回にわたり,大阪府泉佐野市所在の株式会社3事務所において,
4が1銀行ファームバンキングシステムを利用して,大阪府泉佐野市所在G
の株式会社1銀行2支店に開設された4が管理する,株式会社3をGGAF
既に退職するなどして稼働実態のない11他11名名義の普通預金口座へA
の振込金額等をデータ送信し,同支店行員をして,4が3のため業務上預AF
かり保管中の同支店に開設している株式会社3名義の当座預金口座から上F
記11他11名名義の普通預金口座に振込入金させ,もって,合計232A
1万2000円を横領し,
2別表2記載のとおり,株式会社3から株式会社に対する外注費の支払FH
いのためであることを装って,平成14年11月29日から平成16年12月
30日までの間,51回にわたり,大阪府泉南郡所在の株式会社1銀行2II
支店において,4が株式会社3のため業務上預かり保管中の同支店に開設AF
している株式会社3名義の当座預金口座から,4が,自分であるいは情をFA
知らない株式会社3の経理担当者をして,小切手により現金の払戻しを受F
け,あるいは堺市(現在の堺市西区)所在の1信用金庫(平成16年10月J
12日に2信用金庫に改称)3支店に開設された4が管理する株式会社JJA
名義の普通預金口座に振替入金し,もって,合計1億7849万6003円H
を横領し,
3別表3−1記載のとおり,平成15年7月31日から平成17年5月31日
までの間,23回にわたり,株式会社3事務所において,4が1銀行FAG
ファームバンキングシステムを利用して株式会社3の従業員である12FA
他4名の株式会社1銀行2支店に開設された普通預金口座への正規の給GG
与額に25万円を水増しした振込金額等をデータ送信し,同支店行員をして,
4が株式会社3のため業務上預かり保管中の同支店に開設している株式会AF
社3名義の当座預金口座から同支店に開設した12他4名名義の普通預FA
金口座に振込入金させた上,そのころ,同人らが同人等名義の普通預金口座か
ら払戻しを受けた給与額の水増し分である25万円の返還を受けるなどし,さ
らに,別表3−2記載のとおり,平成16年12月30日ころから平成17年
5月30日ころまでの間,6回にわたり,8及び13に対する給与の現AA
金支給のためであることを装い,4が株式会社3のため業務上預かり保管AF
中の同支店に開設された株式会社3名義の当座預金口座から小切手によりF
払戻しを受け,もって,合計2969万2820円を横領し,
4別表4記載のとおり,平成17年1月21日から同年6月2日までの間,7
回にわたり,株式会社等に対する外注費の支払いのためであることを装っK
て,株式会社1銀行2支店において,4が業務上預かり保管中の同支店IIA
に開設された当座預金口座から小切手により払戻しを受け,あるいは3回にわ
たり,株式会社3を既に退職し,稼働実態のない14他42名に対するFA
株式会社3からの給与の現金支給のためであることを装って,4が業務上FA
預かり保管中の株式会社1銀行2支店に開設された株式会社3名義のGGF
当座預金口座から小切手により払戻しを受け,もって,合計3484万367
6円を横領した。
第3被告人は,株式会社3が1金融公庫2支店を取扱店として同公庫かFLL
ら融資を受けるに際し,被告人が影響力を行使している株式会社が所有すM
る和歌山県西牟婁郡内の各宅地を株式会社3が株式会社から購入したよFM
うに装って,株式会社3が各宅地を同公庫に担保提供することを企て,株F
式会社3の代表取締役3及び同社事務部長4と共謀の上,真実は本件FAA
土地に関する売買契約を締結した事実がないにもかかわらず,あるように装い,
平成16年8月11日,同県田辺市和歌山地方法務局田辺支局において,情を
知らない司法書士を介して,登記原因を同月6日売買とし,株式会社3をF
登記権利者,株式会社を登記義務者とする所有権移転登記申請書等を提出M
させて,虚偽の申立てをし,よって,そのころ同所において,情を知らない同
支局登記官をして,権利又は義務に関する公正証書の原本として用いられる土
地登記簿の電磁的記録に,各宅地の所有権が平成16年8月6日の売買を原因
として,株式会社から株式会社3に移転した旨不実の記録をさせた上,MF
即時同所にこれを備え付けさせて公正証書の原本としての用に供した。
第4被告人は,株式会社3の社長室長5及び同社の事務部長として同社のFA
現金及び預金の管理並びに小切手の作成等の業務に従事していた4と共謀A
の上,平成16年10月4日,4が大阪府泉佐野市所在の株式会社1銀AN
行2支店において,同支店に開設された株式会社3名義の当座預金口座NF
から,小切手(金額3000万円,振出人株式会社3代表取締役3)1FA
通を用いて現金3000万円の払戻しを受け,これを株式会社3のため業F
務上預かり保管中,そのころ,同府内又はその周辺において,ほしいままに着
服して横領した。
第5被告人は,株式会社3の事務部長として同社の現金及び預金の管理並びF
に小切手の作成等の業務に従事していた4と共謀の上,A
1平成16年12月15日,4が同市所在の株式会社1銀行2支店にAOO
おいて,同支店に開設された株式会社3名義の普通預金口座から,現金3F
000万円の払戻しを受け,これを株式会社3のため業務上預かり保管中,F
そのころ,同府内又はその周辺において,ほしいままに着服して横領し,
2同月29日,4が株式会社1銀行2支店において,同支店に開設さANN
れた株式会社3名義の当座預金口座から,小切手(金額1263万700F
0円,振出人株式会社3代表取締役3)1通を用いて現金1263万7FA
000円の払戻しを受け,これを株式会社3のため業務上預かり保管中,F
そのころ,同府内又はその周辺において,ほしいままに着服して横領し,
3同月30日,4が株式会社1銀行2支店において,同支店に開設さAOO
れた3名義の普通預金口座から,現金1692万円の払戻しを受け,これF
を株式会社3のため業務上預かり保管中,そのころ,同府内又はその周辺F
において,ほしいままに着服して横領し,
4平成17年1月11日,4が同府泉南郡所在の株式会社1銀行2支店AII
において,同支店に開設している株式会社3名義の当座預金口座から,小F
切手(金額3000万円,振出人株式会社3代表取締役3)1通を用いFA
て現金3000万円の払戻しを受け,これを株式会社3のため業務上預かF
り保管中,そのころ,同府内又はその周辺において,ほしいままに着服して横
領した。
(証拠の標目)
省略
[争点に対する判断]
(平成17年7月26日付け起訴状(同年9月12日付け訴因変更請求書による変
更後の訴因)及び同年10月7日付け起訴状記載の各公訴事実について)
第1争点
弁護人は,平成17年10月7日付け起訴状記載の公訴事実(脅迫)につい
AAAAて,被告人は2と,1を脅迫することを共謀したことはなく,2が
1を脅迫したことは知らないなどと主張し,同年7月26付け起訴状記載の公
訴事実(強要)については,被告人は公訴事実記載のような発言はしていない
などと主張し,被告人もこれらに沿う供述をするので,以下,検討する。
第2前提となる事実
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
1関係者等
(1)部落解放同盟大阪府連合会支部C
部落解放同盟大阪府連合会支部の規約では,同盟員の家庭ごとに各1名C
の代議員と執行委員により構成される支部大会が最高決議機関とされ,支部大
会では,支部の運動方針に対する重要問題を審議決定するとともに,執行委員
を選出すると定められている。執行委員会は,役員全員をもって構成するとさ
れ,役員として,支部長,副支部長,書記長等を置くと定められているが,執
行委員の2から,各役員を選出する方法につき具体的な定めはない。A
D(2)社会福祉法人
社会福祉法人は,平成9年11月に設立された老人保健施設の設備運営D
を目的とする社会福祉法人である。設立の際には,支部から2500万円のC
出資がされた。
(3)被告人
被告人は,昭和52年ころから大阪府泉佐野市に組事務所を置く,暴力団組
織3組の組長である。もっとも,被告人は,現在は暴力団組織を引退したB
と供述している。
3組が,組事務所を同所に移転させた当時,支部の支部長は15であBCA
ったが,その兄であり支部の副支部長であった16は,3組の相談役CAB
であった。
しかしながら,昭和61年ころ,3組と16との間でトラブルが発生BA
し,被告人は,16と15を地区から追い出した旨供述している。AAC
なお,昭和61年8月,3組の組員が支部の事務所で15に暴行をBCA
B加えて傷害を負わせるという事件を起こし,昭和63年12月には,別の
3組の組員が16に対して,けん銃を発砲して,殺害しようとしたというA
事件を起こしたことがあり,支部内では,被告人及び3組に対する恐怖CB
感が強まっていた。
(4)5A
5は,昭和47年4月から,支部で働くようになり,昭和55年ころにAC
書記長になり,平成4年ころから支部長を務め,平成10年7月からはのD
理事長も務めていた。
5は,昭和52年ころ,被告人と知り合ったが,上記のとおり,3組事AB
務所が,地区に移転してくると,3組事務所に出入りするようになった。CB
5は,昭和57年に泉佐野市の市議会議員の選挙に立候補して当選したが,A
被告人も自身の人脈を使うなどして5を支援した。A
また,平成15年ころ,5が交際していた女性が自殺し,5が,その女AA
性の関係者から,脅迫されるなどしたことがあったが,5から相談を受けたA
被告人がその相手方と話をつけたこともあった。
(5)1A
1は,昭和55年ころから,支部で働いており,5が支部長に就任しACA
た平成4年ころには,支部次長であったが,平成15年6月当時は書記長であ
った。
また,1は,設立当初は,その理事長だったが,上記のとおり,平成1AD
0年7月,5に交代している。A
(6)2A
2は,平成4年ころから,支部において,副支部長を務めていた。AC
2経緯について
(1)1,2及び支部の書記次長の17らは,平成15年5月後半こAACA
ろから,5を支部の支部長やの理事長から辞めさせることを話し合っACD
ていた(以下,平成15年の出来事については暦年の記載を省略する)。
(2)6月17日,1は,支部の事務所において,5の交際していた女性ACA
が自殺したことなどを理由として,5に対し,支部の支部長やの理事ACD
長を辞めるように申し向けた。
以来,支部の役員らの間で,5が支部長を続けるのかという点を含め,CA
役員の改選が問題になり,何度か話し合いがなされるなどした(その経緯につ
いては,特に被告人の関与につき,争いがある)。
なお,5は,自身が支部長を辞めたり,役員を改選することにつき,容認A
する姿勢を示したこともあったが,結局,拒否する態度をとっていた。
(3)7月2日,1は東京都港区にあるホテルの被告人の部屋を訪れて,被告A
人と会い,5に支部長を辞めさせることを含め,支部の役員を替えることAC
について相談した。
支部において,同日午後6時ころから,支部長,書記長及び副支部長によC
って行われる三役会議が,午後7時30分から,執行委員会が開かれたが,い
ずれの会議においても,1が欠席する2,役員人事については現行のまAA
まということが決まった。
(4)7月4日,支部の支部大会が開かれた。役員の選出に関しては,それまC
での役員をやっていた者らが,そのまま役員になることが承認されたが,誰が
何の役職に就くのかについては,確認されなかった。
支部大会に引き続き行われた執行委員会において,1が,自分が欠席のまA
Aま行われた7月2日の三役会議や執行委員会での決定に不満を述べたため,
5の提案により,支部長選挙が行われることが決まり,5と1が立候補AA
した。そして,執行委員の18らからなる選挙管理委員会が設けられ,立A
候補の受付は7月8日まで,投票日は同月13日と決まった。
(5)ところが,7月6日に5及び1が支部長選挙の立候補を辞退し,支AA
部長選挙は行われなかった。その経緯等については争いがある。
(6)7月8日以降,1及び17らが支部の事務所に出てこなくなり,AAC
事務所に職員がいなくなるという異常事態になったため,同月16日,臨時の
執行委員会が開かれ,支部長は17に,書記長は19に決まった。AA
第3判示第1の1の事実について
16月17日以降の経緯について
(1)1及び2の供述AA
ア1は,当公判廷において以下のとおり供述する。A
(ア)被告人が5を通じて,支部やの運営に口出ししていると考えてACD
おり,また,の決算書を作成していた20から,5がの資金を被DAAD
ACD告人に渡していると聞いたことがあったため,5に支部の支部長及び
の理事長を辞めてもらって被告人と関係のない運営をしていきたいと考える
ようになり,2や支部の書記次長である17らにそのことを相談しACA
ていた。
そして,6月17日,5に対して,支部の支部長及びの理事長をACD
辞めるように申し入れたところ,5に被告人に会うよう言われた。A
また,20からの資金を被告人に渡していると聞いたことを5にADA
話すと,5は「被告人が今頑張ってる。頑張ってるから報いたいんや」なA
どと言っていた。
(イ)6月19日の昼,大阪市内で2と会った。2から,5が,「1AAA
8日に被告人と会い,1から言われたことを相談したところ,被告人からA
「そのとおりにするな。お前はそのまま続けろ」と言われた」などと話して
いたと聞いた。その後,5と会う約束があったが,その話を聞いて,5AA
に電話して,「辞めないということが決まってるんやから,会う必要がな
い」と伝えたところ,5は「何を言うてんねん。けんか売ってんかい」とA
言っていた。5や被告人の関係者から電話があると考えたので,携帯電話A
の電源を切った。すると,2のところにどんどん電話がかかっていた。A
身の危険を感じたので,その日は大阪市内に泊まった。翌20日午前1時
ころ,2を自宅に送っていった17から電話があり「被告人から2AAA
に電話があった。被告人は2の横にいた17に声が聞こえるくらいのAA
怒鳴り声で話していた。2から聞いた電話の内容は「1を被告人の前にAA
連れてこい。それで逃げるようなら「タマを上げる」と言うとけ」というも
のだった」と言っていた。
(ウ)6月20日午後7時ころ,支部の執行委員である21も同席して,CA
難波ので2に会った。2は,被告人から電話があったとして,そのEAA
内容を言ってきた。2は,「タマ上げるという話までなっている。そういA
うことはさせないので,自分(2),1,5の3人で会わないか」とAAA
話していた。2からそのような話を聞き,怖いと思った。A
ACA(エ)7月1日に私と5を含めた支部の役員5人で話し合った際には,
5は支部の支部長や理事長はやめないという立場だった。5と二人きCA
りになった時に,5から「被告人に逆らえないので,辞められない」といA
う話があった。
(オ)被告人さえ了解すれば,5も納得すると考え,7月2日,被告人に会A
いに東京都港区にあるホテルの部屋に行った。被告人が東京にいることは,
5から聞いた。被告人に対して,5の交際相手の女性の自殺の話などをAA
した上で,支部の役員を替えることの話をした。被告人は,役員を替えるC
ことなどの話は,支部の2で決めるようにと言う一方で,「わしがおCA
るということは分かってるやろ」ということも言っていた。
イ2は,当公判廷において,以下のとおり供述する。A
(ア)6月17日ころ,1らと5に支部の支部長及びの理事長の辞AACD
任を求めることについて話し合い,1が5に辞任を求めることになっAA
た。
6月18日ころ,5から,1に支部の支部長との理事長を辞めAACD
るように言われたとの話を聞いた。5は「辞める気はない。オヤジ(被告A
人)から辞めるなと言われている」と言っていた。
(イ)6月19日,大阪市内で1と会った。1に,「5は被告人からAAA
辞めるなと言われていて,辞める気はない」と話した。1は,5に電話AA
をかけて「暴力団が後ろにいて,言われてるんやったら,会うても無駄や」
と言って約束を断っていた。1が携帯電話の電源を切ったため,私の携帯A
電話に5等から電話がかかってきたが,出なかった。A
その日は,17に迎えに来てもらって,自宅に帰った。自宅に5かAA
ら電話がかかって来て,「被告人が電話をほしいと言っている」と言われた。
その電話が切れてすぐに被告人から電話がかかってきた。被告人は,私に対
して,5に会うように1に言っておくように指示した上,「もし会うAA
の嫌やったら,わしのとこに連れて来い。1がけえへんかったら,1のAA
タマを取るぞと言うとけ」などとかなり大きい声で怒ってるように言ってき
た。被告人の指示どおりに1に被告人の発言を伝えるのは嫌だったが,A
逆らうと自分に危険が及ぶと考え,被告人には「はい」と返事をした。被告
人の声が大きかったので,妻にも聞こえたらしく「なんで支部のことで被告
人さんにあんたが怒られんとあかんねん」などと言われた。17もその場A
におり,被告人からの電話の内容を話した。
(ウ)6月20日,5が用事があるということで家に20と来て,一緒AA
にカントリークラブに行った。そこには被告人もいた。被告人は「おまえが
いながら何をしてんねん。支部はわしのもんや。せやから5につけ」とA
言ってきた。
同日午後7時ころ,ホテルで1及び21と会い,「5は支部長EAAA
を辞める気はないと思う」などと話した。21から「昨日何も聞いていなA
いか」などと言われたのをきっかけに,1に対して「被告人さんは5AA
さんを推している。5さんと会うたらどうや」などと話し,さらに,被告A
人が「会えへんようなんやったら,連れて来い,それで来いへんかったら,
タマを取る」などと言っているなどと話した。その話を聞いて,1は怖がA
っていた。1は,5と会うと言っていた。AA
ウ検討
(ア)以上の1と2の各供述については,1らが5を支部の支部AAAAC
長等から辞めさせようとしたが,5や被告人がそれに反対する言動をし,A
そのため,1が被告人に直接会って相談するに至った経過等につき,具体A
的であり,不自然,不合理な点もない。
また,2の供述中,6月19日に被告人からの電話があった状況についA
ては特徴的な被告人の発言内容も含むものであり,近くにいた妻の反応など
についても具体的な供述がなされている。1も,電話があった際に近くにA
いた17から,2の供述する状況と一致する状況を聞いた旨供述してAA
いる。
加えて,1と2の公判供述は,5が,被告人において5が支AAAAC
部の支部長との理事長を辞めることに反対していると発言していたことD
や,6月20日,2が,被告人の発言内容を1に伝えた状況についてAA
も相互に合致する供述をしており,信用性を補強し合っている。
(イ)弁護人の主張について
a弁護人は,「被告人から脅迫された1が,7月2日に被告人のホテA
AAルの部屋を訪れるとは考えがたい。1が供述するその際の被告人と
1の会話の内容等も不自然である」などと主張する。
しかしながら,被告人に2を通じて脅迫されていた1において,AA
5に支部の支部長を辞めさせるためには,被告人に了解してもらうAC
ことが必要だと考え,被告人に会いに行ったという経緯について不自然さ
はない上,1が供述する被告人との会話内容等にも不自然な点があるとA
はいえない。
bまた,弁護人は,「被告人が自分で1を脅迫せず,2を通じて脅AA
迫したという点不自然である」などと主張するが,被告人が2に対しA
て「1のタマを取るぞと言うとけ」などと指示したとされるのは6月1A
9日の夜であるところ,1及び2は,1が6月19日に5と電AAAA
話をした後,携帯電話の電源を切ったと供述し,1は,その日は身の危A
険を感じて自宅には帰らなかったと供述しているのであって,同日,1A
と直接連絡を取ることができなかった被告人において,連絡をとることの
できた2を介して1を脅迫しようとしたと考えられる。1や2AAAA
の供述に不自然な点はない。
cその他,弁護人が主張するところを検討しても,1や2の供述のAA
信用性を低下させる事情は認められない。
(2)被告人及び5の供述についてA
ア被告人は,当公判廷等において,「支部やの人事や運営等に影響力CD
DAAを及ぼしていたことはないし,の金を受け取ったこともない。1が
5を支部の支部長から辞めさせたがっているのを知ったのは7月2日にC
東京のホテルで1と会ったときが初めてである。2に対して,「1AAA
のタマ上げると言うとけ」などと言ったことはない。7月2日に1に会A
った際,1は,5の愛人が自殺した事件を理由にして,5は支部長をAAA
辞めなければならないのではないかなどと言っていた。私は,「その件を理
由に5を支部長から辞めさせるな」などと言った。1に二人で話すよAA
うに言って,5に電話をかけさせたところ,1は,5と電話で話したAAA
上で,「話つきましたわ」などと言っていた」などと供述している。
AAイまた,5は,捜査官に対し(乙22,24,25),「今まで,私や
1が支部の人事や運営について被告人に相談したことはなかった。6月C
17日に支部の支部長やの理事長を辞めるように1に言われたが,CDA
被告人のことを持ち出して,支部長を辞めることができない旨話したことは
ない。6月30日までの間,1と電話で話したり,被告人に連絡した覚えA
もないし,ゴルフ場で被告人と会ったこともない」などと供述している。
ウ検討
ACD被告人や5の供述を前提とすると,「被告人は,それまで支部や
の人事や運営について何の関与もしておらず,1らが5につき支部AAC
の支部長等を辞めさせようとしていることについても何も知らなかった。7
月2日の三役会議と執行委員会はその後の支部の人事に重要な影響を及C
ぼすことが明らかなのに,1は,その当日にわざわざ東京まで行って,被A
告人に対し,5に支部長を辞めさせることを含め支部の役員を替えるAC
ことについて相談した」ということになるが,これは不合理であるといわざ
るを得ない。被告人及び5が供述するところは信用できない。A
(3)小括
以上によれば,6月17日以降の経緯については,1及び2が供述すAA
るとおりであると認められる。
2結論
AAA以上によれば,被告人が,6月19日,2に対して,5に会うように
1に言っておくように指示した上,「もし会うの嫌やったら,わしのところに
連れて来い。1がけえへんかったら,1のタマを取るぞと言うとけ」などAA
と指示し,2は,その指示どおり,翌20日,1に対して「5さんと会AAA
うたらどうや」などと話した上,被告人が「会えへんようなんやったら,連れ
て来い,それで来いへんかったら,タマを取る」などと言っている旨申し向け
たことが認められる。「タマを取る」という意味は,命を奪うということであ
AAAることは明らかである。2が被告人の指示により1に伝えた内容が,
1を畏怖させる害悪の告知であることは優に認められる。
したがって,被告人に脅迫罪の共同正犯が成立する。
第4判示第1の2の事実について
17月5日及び6日の経緯について
(1)1及び2の供述AA
ア1は,当公判廷において以下のとおり供述する。A
(ア)7月5日,友人の結婚式に出席したところ,被告人も出席しており,被
告人のテーブルに呼ばれ,支部のことを聞かれたので,支部長選挙になっC
た旨答えたところ,結婚式が終わったら,2と一緒に被告人の家に来るよA
うに言われた。
2と一緒に被告人方に行った。2階の寝室で被告人と二人で話し,選挙A
になった経緯について説明したところ,被告人は,5に電話し,5も被AA
告人方に来た。
被告人から,5と話すよう言われ,二人で話したところ,5は「選挙AA
を降りてくれ」と言い,私は「無理です。降りません」と答えた。
被告人が戻ってきて,私に対して「もう降りい,選挙降りてだれが笑うね
ん,わしが言うてることに従ってだれが笑うねん」と話してきた。「無理で
す」と答え,以前の理事長を辞めさせられた時のことを引き合いに出しD
て,また同じように辞退することはできない旨言うと,被告人は,「何を言
うてんのや。法人()も支部もわしのもんやないかい」と言っていた。D
翌6日午前零時くらいに被告人に帰るように言われて帰ったが,昼ころ電
話してくるように言われた。
(イ)6日の昼前ころ,2から電話で5が支部長選挙への立候補を辞退AA
したとの連絡があった。5の辞退によって選挙の結果は私の無投票当選にA
なると思った。
前日に被告人から言われたとおり被告人に電話すると,「言うことを聞か
へんのはお前だけや」「家に来い」と怒った口調で言われ,2と一緒に,A
被告人の自宅に行った。
被告人方には3組の組員がおり,5も来ていた。BA
被告人は,私に「支部長,おまえがしたらええがな」と話した上,「わし
の知らんやつを役員にはさせん」「箸のこけたことがあってもいちいち報告
せよ」などと条件をつけてきた。また,被告人は,の理事長は5にさDA
せるように言ってきた。
被告人の指示で支部長が選ばれれば,被告人の支部への支配が継続すC
ることになるため,無投票当選であっても選挙で選ばれる必要があると考え
DAていたので,被告人の指示で支部長になるつもりはなく,の理事長を
5が続けることも不本意だったが,恐怖感から被告人に逆らえず,支部長に
なることを了解し,5がの理事長を続けることにも異議は述べなかっAD
た。
CAさらに,被告人が支部の書記長をだれにするのか聞いてきたので,
17の名前を出したところ,被告人は5に「17というのは信用できAA
んのか」と尋ね,5が「信用できません」と答えると,被告人は,2にAA
対して「おまえがせえ」と言い,2は承諾した。A
(ウ)7月7日,支部の応接室で5に会った。5から,「被告人からCAA
「支部の特別会計(積立金)について,言ったらすぐに対応できるんか」と
言われたので,「1は,そういう意味は分かってると思いますよ」と話しA
た」と告げられた。5の発言の意味は,被告人が金が必要だと言ってきたA
ときに,すぐに金を出せという意味だと思った。5に対して「被告人さんA
が言うていた「支部も法人もわしのもんや」ということは,あんた,それで
いいんですか」と尋ね,「支部長みたいなもんせえへん」と宣言した。それ
に対し,5は「今更何言うてんねん」と言って出て行った。A
被告人から言われたことに逆らうことになるので,恐怖感があり,支部C
の事務所にいた17らに「もうお前らも危ないから,こっから出よ」とA
言って,それ以降支部に顔を出さなかった。
イ2は,当公判廷において以下のとおり供述する。A
(ア)7月5日,1と一緒に被告人方に行った。1は,被告人に「2とAAA
一緒に来い」と言われたと話していた。
午後7時くらいに被告人方に着いた。被告人に「おまえら何してんねん」
と言われ,1は,支部長を選挙で決めることになった経緯等を言いにくそA
うに説明していた。
5も後から来たが,被告人が二人で話し合うよう指示し,1と5AAA
は2階に行った。途中,被告人が2階に上がったことがあり,降りてきて
「平行線のままや」と言っていた。
午前零時ころ,被告人方から1と一緒に帰った。帰り道で1からAA
「なんでおっさん(被告人)に口出しされんとあかんねん。降りれと言われ
んとあかんねん」と言われた。
(イ)7月6日,3組の組員から被告人に電話するように電話で言われ,被B
告人に電話すると「5が降りた」と5が支部長選挙の立候補から降りAA
たと言われた。被告人から,1を連れてくるよう言われて,1と連絡をAA
とり,被告人から聞いた内容を伝え,一緒に被告人方に行った。
正午ころ,被告人方に到着したところ,5も来ていた。A
被告人は,1に対して,「5が支部長選を降りた。1,おまえも降AAA
りれ。選挙を中止しろ。わしの言うこと,聞いといたらええねん」などと話
した上,選挙を中止した後のことについて,「1,次,お前が支部長したA
らいいねん」と言っていた。
1は,下を向いて嫌がっているような感じで「はい」と言っていた。A
被告人は,1に対して,支部長になったら「箸のこけたことも報告せA
え」と指示し,また,「福祉()は5がやっていく」と言っていた。DA
被告人は「支部がわしのもんや。(老人保健施設)もわしが作ったんP
や」とも言っていた。
次に,被告人は「書記長は誰がやるねん」と尋ね,1が17の名前AA
を出したところ,5が「17は信用でけへん」と言い,被告人も「それAA
やったらあかん」などと17を書記長にすることを拒否した。その場かA
ら立ち去りたかったので,私が書記長をする旨言うと,被告人も了解した。
被告人方には,1時間弱くらいいた。
その日,選挙管理委員の18らに選挙がなくなったことを連絡した。A
(ウ)7月7日,5と1と会ったが,1は「支部長をやっぱり辞めとAAA
く」と言い,5は「わしは知るか」と言って席を立った。A
ウ(ア)以上の1の供述については,支部の支部長選挙が行われることAC
につき反対の意向を持った被告人が5に1と話し合わせて選挙を中止AA
させようとし,1がこれを拒否するや自ら1に「もう降りい」などとAA
迫った経緯や,5が立候補を取り止めた後,再度,1らを自宅に呼びつAA
けて1に支部長になるよう指示するなどした状況につき,具体的な供述A
がなされ,複雑な経過をたどった支部の支部長の選任の経過につき,納C
得のいく説明がなされており,不自然,不合理な点はない。
そして,7月6日の被告人の発言内容などについて,2の供述と,そのA
核心部分において,ほぼ符合しており,補強し合っている。
(イ)弁護人は,被告人を畏怖して支部の支部長になることを了承したとC
いう1が,被告人に無断で翻意したというのは,不自然であると主張すA
る。しかしながら,被告人に対する恐怖感から一旦被告人の指示にしたがっ
たものの,5から,被告人が金が必要だと言ってきたときに,すぐに金をA
出せという意味の発言を聞いたのをきっかけに支部長はやらないと表明する
に至り,その後は被告人に逆らった恐怖感から支部に顔を出さなかったとい
う心情の変化は,十分に納得できるものであり,不自然な点はない。
(ウ)その他,弁護人が主張する点を考慮しても,1や2の供述の信用AA
性を低下させる事情は認められない。
(2)5の供述A
AAア5は,捜査官に対し(乙23ないし25),「7月5日,被告人から
1が来ているとして,被告人方に呼び出された。被告人方に行くと,被告人
に二人で話すように言われ,2階で1と話し合った。1は何が何でもAA
支部長選挙を行おうという態度ではなかった。結論は出ず,1階で被告人ら
と話し合い,被告人に「あともう少し時間を下さい」などと言ったところ,
被告人は「明日にしようか」と言ってくれた。また,被告人は,支部長選挙
により村が二つに割れることを心配し,「5降りいよ」などと支部長選挙A
から降りることを助言してくれた。帰宅後,支部長選挙から身を引くことに
し,翌6日午前9時ころ,18に電話して,支部長選挙の立候補を辞退すA
ることを伝え,昼前には被告人に立候補を辞退したことを電話で報告した。
その後,被告人から1と2が被告人方に来ていると言われたので,被AA
告人方に行った。被告人方で,被告人,1及び2と話した。1がAAA
「支部長1,書記長17で行きます」と言って,新しい人事についてAA
説明したところ,被告人は,17につき「俺の知らへん奴か」と言って,A
2に書記長をやるよう言い,2がこれを承諾し,1が支部長に,2AAAA
AAが書記長になることが決まった。被告人は,「支部長は1,書記長は
2,法人()の理事長は5でええか」と言って確認し,「それでええな。DA
がんばれよ」と言って解散になった」などと供述している。
イしかしながら,5の供述によれば,1は支部長選挙を行うことにこだAA
わっておらず,選挙をせずに自身が支部長になることに納得したということ
になるが,そうすると,7月8日以降,1らが支部の事務所に出て行AC
かなくなり,7月16日,臨時の執行委員会が開かれ,支部長,書記長共に,
7月6日に被告人方で決まったのとは別の人物になったことにつき,合理的
な説明ができない。よって,5の供述は信用できない。A
(3)被告人の供述
Aア被告人は当公判廷等において「7月5日に出席した結婚式の披露宴で
1に会った。1が5の悪口を言ってきたので,用事があるなら自宅にAA
来てもよいと言ったところ,午後7時ころ,2と一緒に来た。1が,被AA
告人に会いに東京に行っているときに,5が大事な会議をしたことにつきA
不満を述べたので5に電話して怒り,すぐに来るように言った。5がAA
来た後,二人で話すように言って,1と5を2階で話し合わせた。二AA
人の話し合いが結局どうなったかは分からない。7月5日には,支部長選挙
が行われることについては知らなかった。7月6日,5から連絡があり,A
「選挙で白黒つけます」と言ってきたので,5を自宅に呼びつけると共に,A
2に1を連れてくるように連絡した。3人は午後3時から4時ころ来AA
たが,説明を求めたところ,中傷のし合いになったので,5だけを2階にA
上げ,支部長選挙から降りて1に譲るように説得した。5に対して,AA
「何で選挙すると言うたのに,降りたんやと言われたら,被告人にもうやめ
とけと言われたんやと言うたら,人は笑わんやろう」と言ったことがあるが,
1にそのようなことは言ったことはない。私の説得に対して,5は支部AA
長選挙から降りることを了解したので,1に対して,5は選挙に出ないAA
と言った。1は「分かりました」と言ったので,「支部長,大役やけども,A
村のために頑張ってくれ」と話をした。その後,雑談の中で,書記長として
17の名前が出てきたので,2に対して「17をちょっと育てたったAAA
らどうや」と言ったところ,2は「私がしますわ」と言っていた。また,A
5につき,支部の支部長の肩書がなくなったが,の理事長の肩書が残ACD
っているとの話が雑談の中で出た。支部やのことにつき,しっかり報CD
告するように言ったことはない。和やかな雰囲気であり,何もかも円満解決
したなと思った」などと供述する。
イ(ア)しかしながら,被告人が供述する経過は,7月4日に支部長選挙の実
施が決まっていたことと齟齬する。
(イ)また,被告人が7月5日に支部長選挙が行われることを知っていたこと
や5が7月6日に被告人方を訪れる前に支部長選挙への立候補を取り止A
めることを表明していたことは,1,2のみならず5も一致して供AAA
述している。
(ウ)加えて,被告人供述を前提とすると,1が支部長になることにつき円A
満解決したにもかかわらず,7月8日以降,1らが支部の事務所に出AC
て行かなくなり,7月16日の臨時の執行委員会で支部長が1ではないA
人物に決まったことにつき,納得のいく説明ができない。
(エ)よって,被告人の供述は信用できない。
(4)小括
以上によれば,7月5日及び6日の経緯については,1及び2が供述AA
するとおりであると認められる。
2検討
(1)脅迫行為の有無
ア被告人は,7月5日,支部長選挙に5と共に立候補した1を自宅にAA
呼びつけた上で,支部長選挙の立候補を辞めない1に対し,「もう降りA
い,選挙降りてだれが笑うねん,わしが言うてることに従ってだれが笑うね
ん」,「法人も支部もわしのもんやないかい」などと申し向け,さらに,7
月6日,5が支部長選挙から降りる旨表明した後,さらに1を呼びつAA
け,「5が支部長選を降りた。1,おまえも降りれ。選挙を中止しろ。AA
わしの言うこと,聞いといたらええねん」などと申し向けた上,選挙を中止
した後のことについて,「1,次,お前が支部長したらいいねん」「箸のA
こけたことも報告せえ」と言っていたことが認められる。
イ以上の被告人の各発言には,その文言自体には,1の生命身体等に対しA
て危害を加えることを示すものは含まれていない。
BBしかしながら,被告人が暴力団組織3組の組長であったこと,過去に
3組組員が支部長に暴行を加えたり,副支部長にけん銃を発砲するなどした
事件があり,支部内では被告人や3組に対して恐怖感が強まっていたCB
こと,6月20日に,1は2を通じて被告人から「連れて来い,それAA
で来いへんかったら,タマを取る」などと脅迫されていたこと,各発言はい
ずれも被告人の自宅に1を呼びつけて行われたものであること,「わしA
が言うてることに従ってだれが笑うねん」,「法人も支部もわしのもんやな
いかい」という発言は,暴力団組長としての被告人の威勢を示すものである
ことなどの事情からすれば,上記各発言が1に対する脅迫に当たることA
は明らかである。
(2)1の畏怖A
上記被告人の各発言は,客観的にみて,相手方を畏怖させるに足るものとい
うことができる上,実際,1は,支部の支部長を務めるつもりがないと表AC
明した後,被告人の指示に逆らったことに対する恐怖感から支部の事務所C
に出なくなったというのであるから,1が被告人の発言に畏怖したことは明A
らかである。
(3)行使を妨害された権利の有無
ア弁護人は,必ずしもその趣旨は判然としないものの,本件公訴事実につき,
行使を妨害された権利が不明確であると主張しているようであるが,本件公
A訴事実において,検察官が行使を妨害された権利として挙げているのが
1の支部の支部長選挙へ立候補する権利であることは明らかである。C
イそして,支部執行委員会において,支部長を選挙によって選ぶことが決C
定され,1は,その選挙に立候補していたものであるが,被告人の脅迫にA
よって,選挙への立候補を断念したのであるから,1は被告人の脅迫によA
って,支部長選挙に立候補する権利を妨害されたということができる。
ウ被告人は,支部長選挙が中止になった後のことにつき,1に支部長になA
るように指示している。しかし,1は単に支部長になろうとしていたのでA
はなく,被告人の支部への影響を排除するために,被告人の意向によっC
て支部長を決めるのではなく,選挙によって支部長が選ばれることを目指し,
支部長選挙に立候補していたにもかかわらず,選挙への立候補を断念させら
れたのであるから,被告人が1を支部長にするよう指示したことをもっA
て,上記結論は左右されない。
エまた,5は,7月6日の午前中に支部長選挙への立候補を取り止めるこA
とを決め,選挙管理委員の一人である18に連絡した結果,支部長選挙A
の立候補者は1のみになった。しかしながら,執行委員会によって支部A
長を選挙で選ぶことが決定され,選挙管理委員会が設置され,立候補の受付
期限が7月8日と定められていたことからすれば,候補者が一人になったと
しても,直ちに選挙が中止になるとは考えられない。もう一人の候補者が立
候補を辞退したり,執行委員会で支部長選挙を中止する旨あらためて決定し
ない限り,立候補の受付期限が過ぎるのを待ってもう一人の候補者が無投票
で選出されることになるのが通常であると考えられ,5が立候補を辞退しA
ても選挙は中止にならず,1が無投票当選する見込みであった旨の1AA
や2の供述は十分信用できる。したがって,7月6日に1が被告人かAA
ら脅迫を受けた時点において,1が支部長選挙に立候補する権利を有してA
いたことは明らかである。
(4)5との共謀A
以上によれば,被告人は,支部長である5を通じて行使していた支部AC
への影響力を維持するため,5に支部長を続けさせようとし,支部長を選挙A
で選任することになるや,被告人は,選挙によって自分の意向と関係ないとこ
ろで,支部長が選任され,支部への自己の影響力が薄れることを嫌い,本件C
強要の犯行に及んだものといえる。
一方,5は,被告人の意向に沿って支部の支部長を続けるため,支部ACC
の役員についてそれまでの体制を続けようとしていたが,1の反発を受けたA
ため,支部長選挙を実施し,選挙で支部長に選ばれることを企図したものであ
るが,選挙を嫌う被告人の意図を知り,7月5日には,1に立候補の辞退をA
迫り,1がこれに従わないと見るや,選挙を中止させるため,まず,自分がA
立候補を辞退したことが認められる。そして,7月6日に,被告人の1にA
対する発言に対しても何ら異議を述べていない。以上からすれば,5は,選A
挙を中止させようという被告人の意思を知り,その意思に沿って行動していた
と認められる。5は共同正犯である。A
(平成17年12月13日付け起訴状記載の公訴事実第1ないし第6及び平成18
年3月14日付け起訴状記載の公訴事実第1,第2,第3(同年7月7日付け及び
平成20年9月19日付け各訴因変更請求書による変更後の訴因)及び第4につい
て)
第1争点
弁護人及び被告人の主張は,以下のとおりである。
1平成18年3月14日付け起訴状記載の各公訴事実について
(1)被告人が4らを通じて株式会社3から毎月相当額の金員を受け取っAF
ていたことは事実であり,その額も公訴事実記載の金額に近いものと思われる。
(2)被告人は3の全株式を有するオーナーであり,株式会社3を実質的FF
に経営してきたものであるから,株式会社3の現金及び預金は,被告人にF
とって他人の物とはいえず,少なくとも被告人はそれらを自己の物と考えてい
たから,被告人は「他人の物」についての意味の認識を欠いており,被告人に
横領罪の故意はない。
(3)被告人が受け取っていた金員の趣旨は,被告人が株式会社3の全株式F
を有する株主であり,実質上の経営者として,正当に受け取るべき利益,報酬,
交際費,経費,車両管理費,積立金等であって,それらは,株主及び経営者と
しての地位に相応なものであるから,被告人がそれを受け取ったとしても委託
信任関係に違背することはないし,そのことによって,株式会社3に財産F
的被害が発生することもないから所有権侵害もなく,被告人の行為は横領行為
には当たらない。少なくとも,被告人は,正当に得られるべき支払を受けてい
たにすぎないと考えていたのであるから,不法領得の意思を欠く。
2平成17年12月13日付け起訴状記載の公訴事実第1について
公訴事実記載の各土地につき,株式会社と株式会社3との間で真実のMF
売買契約が成立しており,被告人に電磁的公正証書原本不実記録,同供用罪は
成立しない。
3平成17年12月13日付け起訴状記載の公訴事実第2について
(1)上記のとおり,株式会社3の現金及び預金は,被告人にとって他人のF
物とはいえず,少なくとも被告人はそれらを自己の物と考えていたから,被
告人に横領罪の故意はない。
(2)被告人が,平成16年10月10日ころ,4から3000万円を受けA
取った事実はあるが,これは平成17年12月13日付け起訴状記載の公訴事
実第1記載の各土地の売買代金として受け取ったものである。
被告人がこの3000万円を受け取ることは,株式会社3の名目的な代F
表取締役であった3も事前に了承していた。A
よって,被告人に業務上横領罪が成立する余地はない。
4平成17年12月13日付け起訴状記載の公訴事実第3ないし第6の各事実
について
(1)上記のとおり,株式会社3の現金及び預金は,被告人にとって他人のF
物とはいえず,少なくとも被告人はそれらを自己の物と考えていたから,被告
人に横領罪の故意はない。
(2)被告人は,平成17年1月11日に,公訴事実記載の合計金額に相当す
る約8900万円を,4から受け取った事実はあるものの,被告人は3のAF
全株式を有するオーナーであり,実質上の経営者であるところ,銀行から借り
入れした金員等が3の銀行口座に預金されていたので,被告人がこれを管F
理するため,それを返還する旨を約束して受け取ったものである。
被告人がこの金員を受け取ることは,3も事前に了承していた。A
よって,被告人に業務上横領罪が成立する余地はない。
第2株式会社3及びその関係者等についてF
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
1昭和50年10月7日,6が出資して,建物等の警備保障やビル清掃業務A
等を目的とする1株式会社(平成9年7月1日に株式会社2に,平成1FF
6年6月7日に株式会社3に,平成18年5月27日に株式会社4に商FF
号変更。以下「3」という)が設立された。6は,同社の代表取締役に就FA
任し,経営にあたっていた。
被告人及び6は,当公判廷において,昭和54ないし55年ころ,6AA
が3の全株式を被告人に譲渡したと供述している。F
もっとも,その後も,6は3の代表取締役を務めていた。AF
2一方,被告人は,昭和53年ころから1の名称で建築現場等での交通警Q
備業を営んでいたが,昭和56年9月18日,被告人が出資して,建物等に関
する警備保障やビルの清掃業務等を目的とする1株式会社が設立された。Q
被告人は同社の役員にはならなかったものの,同社を実質的に経営していた。
QQ3被告人は,主な業務を1に集中させて営業していたが,平成4年ころ,
1は警備業法違反で検挙され,罰金刑に処せられた。そのため,1は警備業Q
の認定を取り消されたので,被告人は,警備業の業務を,3に引き継がせるF
こととした。
4被告人は,1が警備業法違反で検挙されるなどしたのは,暴力団の組長でQ
ある自分が経営に当たっていたからであるとして,3と自分の関係を隠そうF
と考え,その一環として,自分と関係の深い6から1の取締役であったAQ
22に代表取締役を交替させることにし,平成4年7月10日,6が代表AA
取締役から退任し,22が代表取締役に就任したが,その後も6は3AAF
において稼働していた。
被告人は同社に直接出入りすることはなかったが,6や22に対して,AA
業務上の指示を与え,同人らは,その指示に従って業務を行うなどしていた。
51は,平成6年1月29日,「株式会社2」と商号変更されているが,QQ
被告人及び6は,当公判廷において,この時,被告人が6に2の全株AAQ
式を譲渡した旨供述している。
6被告人は,平成7年ころから,22に不満を抱くようになり,3の代表AF
取締役を辞めさせようと考えた。被告人は,6や弁護士の9と相談の上,AA
3の株式を売却したことを理由に22に代表取締役を辞めてもらおうと考FA
え,株式の売却を仮装することとした。
そして,平成9年2月25日付けで,22を譲渡人,9弁護士の弟であAA
る3が代表取締役である株式会社3セキュリティーサービス及び父親でAF
ある23が代表取締役である有限会社を譲受人とする株式買収契約書がAR
作成された。同日,3から,22に対して,株式の代金として合計1億2AA
000万円が支払われたが,この代金は,9弁護士を通じて,3に返却さAA
れている。
7平成9年7月1日,22は3の代表取締役を退任し,3が代表取締役AFA
に,弁護士が監査役に就任すると共に,上記のように商号の変更が行われた。
なお,平成13年10月8日には,5が3の取締役に就任した。AF
しかしながら,当初,3や5は,3の仕事は余り行っておらず,そのAAF
一方で,被告人は,6のみならず,8ら一部の従業員に対して業務につきAA
指示し,同人らはその指示に従って,業務を行うなどしていた。
もっとも,3は,平成11年に機械のリース代金約2000万円,平成1A
2年に社屋を建てる土地を購入するための借入金約8000万円の保証人にな
り,平成14年には社屋の建築資金のための借入金約1億円について5とA
共に保証人となっている。
84は,昭和59年ころから平成6年ころまで,被告人と内縁関係にあり,A
1で稼働したことがあったものであるが,6や被告人に頼まれ,平成13QA
年3月から,3で働くようになり,その後,事務部長として,現金,預金のF
管理や,出納業務,更には小切手の作成等を行うようになった。
93は,平成15年5月,大阪府泉佐野市に本店を移転させたが,そのころF
から,3や5は頻繁に出社するようになった。AA
もっとも,被告人は,5や4,本店の建物内で喫茶店を経営していたAA
6らに3の業務について指示し,同人らは,その指示に従って3の業務AFF
を行うなどしていた。
105は傷害罪で起訴されて罰金刑に処せられたことから,平成16年1月A
30日に3の取締役を辞任したが,その後も社長室長として,3で稼働しFF
ていた。
11平成16年5月ころ,3と5が建設業法違反で逮捕勾留され,5AAA
が罰金刑に処せられたが,被告人らは,暴力団組長である被告人と関係がある
ことを原因に検挙されたなどと考え,同年夏ころ,被告人と関係の深い6A
は喫茶店の経営をやめ,以降3の社屋に出入りすることはなくなった。F
第33の株主についてF
1弁護人は,被告人が,3の全株式を有していると主張する。F
2(1)上記のとおり,被告人及び6は,当公判廷において,昭和54ないA
し55年ころ,6が被告人に3の株式を譲渡したと供述している。AF
(2)そして,3において,昭和55年12月17日,昭和56年1月27日,F
昭和57年9月28日に,それぞれ新株の発行がなされており,発行済株式総
数は4万2000株となった。これらの株式を引き受けたのが誰かは判然とし
ないが,被告人及び6は,資金を出したのは被告人である旨当公判廷におA
いて供述している(もっとも,6はその司法警察員に対する供述調書(甲1A
67)においては,昭和55年12月17日の分については100万円を自分
が出資している旨供述している)。
(3)被告人は,当公判廷において,昭和58年ころ,3において,その4万F
2000株につき,株券を発行したと供述しているところ,そのうち1万40
00株分の株券を6が保管していたことが認められる。6は,当公判廷AA
において,その株券を自分の取り分として預かっていたが,1(2)の株QQ
式を被告人から譲り受けた際に,預かっていた株券の分の株式も被告人のもの
となり,その後は,被告人のために保管していた旨供述している。
(4)3や9弁護士は,平成9年2月25日,3が3の株式の譲渡をAAAF
受けたと供述する。しかしながら,3が株式の代金として一旦支払った代金A
は結局3に返されている上,株券の交付もなされていない。A
(5)平成14年1月18日,3において,新株6万株が発行され,発行済株F
式総数は10万2000株となった(平成16年1月12日の減資に伴い発行
済株式総数は10万株になっている)が,株式の引受人は判然としない。被告
人は,その資金は3から借りて自分が出したと供述している。F
3以上によれば,被告人以外の者が,3の株式を取得していることを認めるF
に足りる証拠はなく,被告人が3の全株式を取得していないということはF
できない。
第4平成18年3月14日付け起訴状記載の各公訴事実について
1被告人が3から金員を得ていた状況等についてF
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)8は,1や3に勤務していたことがあったものであるが,平成8AQF
年8月ころから,再び,3に勤務するようになり,平成9年の年末ころから,F
経理を担当するようになった。
そのころには,既に,3においては,3の経理の指導管理を行っていたFF
20らによって,毎月,架空の人件費として計上された80万円,架空の外A
注費として計上された258万円が被告人に渡されており,8が経理を担当A
するようになってからも,継続された。
また,それとは別に架空の役員報酬等が計上され,被告人に渡されていた。
(2)4は,平成14年ころから,3の経理全般を担当するようになったAF
が,架空の人件費,外注費及び役員報酬を計上し,被告人に渡すことも引き継
いで行うようになった。
被告人は,4らに対して,平成14年11月から平成15年6月までは毎A
月約730万円を渡すように指示し,同年7月以降は毎月約850万円を渡す
ように指示していた。
FFG(3)平成14年11月から,3においては,給料の支払について,3が
1銀行2支店に開設した当座預金口座から同支店に開設された各従業員のG
普通預金口座に給料を振り込むことになった。
これに伴い,4は,被告人に毎月渡す金員のうち80万円について,既にA
3を退職するなどして稼働実態のない11他11名に対する給与支給としFA
て仮装することにし,同人らに無断で同支店に同人ら名義の普通預金口座を開
設した上,別表1記載のとおり,平成14年11月5日から平成17年6月3
日までの間,29回にわたり,3の事務所において,1銀行ファームバンFG
キングシステムを利用して11他11名の普通預金口座への振込金額等をA
データ送信し,同支店に開設された3名義の当座預金口座から11他1FA
1名名義の普通預金口座に合計2321万2000円を振込入金させた。そし
て,同口座から毎月合計80万円分が引き出され,被告人に交付されるなどし
た。
なお,検察官は,別表1記載の事実のほか,4において,平成16年7月A
5日(平成18年3月14日付け起訴状記載の公訴事実第1の別表1番号2
0)及び平成17年2月7日(同別表1番号27)に,同様の方法で11A
他9名名義の普通預金口座に,3の上記当座預金口座からそれぞれ80万円F
を振込入金させたと主張するが,平成16年7月5日及び平成17年2月7日
に11他9名名義の普通預金口座にそれぞれ合計80万円が振込入金されA
た事実は認められるものの,それらが,3の上記当座預金口座から振込入金F
されたものであることについての証拠はなく,上記検察官主張の事実は認めら
れない。
(4)平成14年10月か11月ころ,4は,被告人に毎月渡す金員のうち,A
それまでに対する外注費として計上していた258万円と架空の役員報酬S
として計上していた分(平成14年11月分は394万1496円)について,
株式会社に対する外注費の支払いを仮装することとした。H
4は,被告人に渡すための金員を,別表2記載のとおり,1銀行2支AII
店に開設された3の当座預金口座から,自分で,あるいは他の経理担当者F
をして,平成14年11月29日から平成15年10月31日までは,に対H
する外注費を支払うための資金として引き出し,同年11月20日から平成1
6年12月30日までは,に対する外注費の支払いを装って,同当座預金口H
座から1信用金庫3支店に開設された4が管理する株式会社名義のJJAH
普通預金口座に振替入金した。そして,それら金員(名義の普通預金口座にH
振替入金した分については引き出された上で)は,被告人に交付されるなどし
た。
AH(5)4は,平成17年1月から,被告人に毎月渡す金員を捻出するために
に対する外注費を装うことができなくなったことから,被告人に渡すための金
員を,別表4記載のとおり,平成17年1月21日から同年4月21日までの
間及び同年5月18日の7回については,株式会社等に対する外注費を支K
払うための資金として1銀行2支店に開設された4が管理する3名義IIAF
の当座預金口座から引き出し,同年4月28日,同年5月31日及び同年6月
2日の3回については,3を既に退職している14他42名に対する給与FA
を支払うための資金として,1銀行2支店に開設された3名義の当座GGF
預金口座から引き出した。それら金員は被告人に交付されるなどした。
(6)ア被告人は,平成15年6月ころ,4に対して,それまで受け取っていA
た金員に加え,3の従業員に水増しした額の給料を支払って,その水増しF
した額を返還させて,自分に交付するように指示した。
4は,被告人の指示に従い,12,8,13及び24に対して,AAAAA
給料に25万円上乗せして渡すので,その25万円を4のところにもっA
てくることを承諾させた上,別表3−1記載のとおり,平成15年7月31
日から平成17年5月31日までの間,23回にわたり,3の事務所におF
いて,1銀行ファームバンキングシステムを利用してその4名と自身の普G
通預金口座への振込金額等をデータ送信し,同支店に開設された3名義F
の当座預金口座から自分とその4名の1銀行2支店に開設された普通GG
預金口座に実際の給料にそれぞれ25万円を上乗せした額を振り込ませて,
その4名からその上乗せした25万円をそれぞれ受け取った。それら金員は,
4の給料に上乗せされた25万円と合わせて,被告人に交付されるなどしA
た。
AAなお,検察官は,上記事実に加え,4が,平成17年3月31日に,
12及び24の普通預金口座だけでなく,自身の普通預金口座にもそのA
給料に25万円を上乗せした額を3の上記当座預金口座から振り込ませF
たと主張するが,4の普通預金口座の取引明細(甲166)によれば,同A
日にそのような振込みがなかったことが認められ,上記検察官主張の事実は
認められない。
イ13は,平成16年12月から平成17年5月までの間,減給処分を受A
けたため,給料が現金支給となった。そのため,4は,別表3−2記載のA
とおり,平成16年12月30日ころから平成17年5月30日ころまでの
間,1銀行2支店に開設された3の当座預金口座から13に対すGGFA
る給与を支払うための資金を装って,実際の給料の額に25万円を上乗せし
た額を引き出し,13に対しては,実際の給料の額の現金を渡した。上乗A
せして引き出された25万円は被告人に交付されるなどした。
さらに,4は,別表3−2記載のとおり,平成16年12月30日ころA
から平成17年5月30日ころまでの間,8に対して給与を支払うためをA
装って,1銀行2支店に開設された3の当座預金口座から,金員をGGF
引き出した。それら金員は被告人に交付されるなどした。
なお,4が,上記のように3の当座預金口座から金員を引き出したのAF
が,平成18年3月14日付け起訴状記載の公訴事実第3別表4(平成20
年9月19日付け訴因変更請求書による変更後のもの)横領年月日欄記載の
各日であることについての証拠はない。しかしながら,水増しした額の給料
を支払っていた12,24及び4に対する給料の支給日は,それらAAA
各日の当日あるいは翌日であることが認められるところ,4が当該当座預A
金口座から13や8に対する給与を支払うための資金を装って現金をAA
引き出したのも,そのころであることが推認でき,同推認を妨げる事情は認
められない。
(7)上記のとおり,12ら3の従業員に水増しした額の給料を支払って,AF
その水増しした額を返還させる方法については,被告人が指示したものである
が,その他の分についても,被告人は,3において架空の人件費等別の名目F
で経理上不正な処理がされていることは認識していた。もっとも,被告人は,
当公判廷において,「架空の外注費として処理していると税務署の調査が入っ
たときにすぐに分かってしまうので,人件費として処理するというのが私の考
えであり,架空の外注費での処理はしてはならないと指示していた。に対すH
る外注費として計上していたことは1年くらいたったころ知ったが,4を叱A
りつけた。等に対する外注費を仮装したことも知らない」などと供述していK
る。
2検討
(1)弁護人は,被告人は,3の全株式を有しており,3の現金・預金は,FF
被告人にとって他人の物とはいえないなどと主張する。
被告人が3の全株式を取得していないということはできないことは上記F
のとおりである。
FFしかしながら,被告人が3の全株式を有していたとしても,被告人と
3が別個の人格であることはいうまでもない。そして,被告人の財産と3F
の財産につき混同が生じているとも認められず,3の預金口座に預金されてF
いる金員が被告人にとって他人の物であることは明らかであって,弁護人の主
張は失当である。
そして,被告人も上記のような事情を認識していることは明らかであり,業
務上横領罪の故意に欠けることもない。
(2)ア弁護人は,被告人は実質的に3を経営し,営業活動等も行っており,F
そのための経費や報酬として現金を受け取っていたものであると主張する。
イ(ア)この点,被告人は,当公判廷及びその供述調書において「私は,会社
のオーナー,事実上の経営者であり,営業活動も行ってきた。したがって,
利益,報酬,経費として3から現金を受け取っていたものである。そのF
金額は,3の売上げに対して6%から8%と設定していた。平成14年1F
1月から平成15年6月ぐらいまで730万円ぐらい取得していた。その使
い道としては,飲食代等の交際費が約100万円,3や従業員に渡す小遣A
いなどの経費が約50万円,ガソリン代や高速代等の車両管理費が約100
万円,交通費やリベートや接待費などの雑費が約80万円,一旦手元に置い
ておいて,税金の支払い等必要なときに出す積立金が約200万円であり,
残りの約200万円が,私の給料ということになる。平成15年7月から平
成17年5月までは850万ぐらい取得していたが,使い道としては,それ
までに加え,雑費が20万円,積立金が50万円それぞれ増え,交際費と車
両管理費の補助金として50万円増えている」などと供述している。
(イ)上記のとおり,被告人において,6や5や3の一部の従業員にAAF
対して,その業務につき指示し,6や5らがその指示にしたがって業AA
務を行うなどしており,被告人が3に対して強い影響力を及ぼしていたF
ことが認められるものの,被告人は,3の役員でも従業員でもないのであF
って,3に対して報酬や給与を請求できないことはいうまでもない。F
(ウ)被告人が供述するように被告人が3のために営業活動等を行っておF
り,そのための費用を被告人が出捐し,その結果,3になんらかの利益がF
生じていたのだとしても,個別にそのための報酬,経費を請求する余地があ
るかはともかくとして,本件のように,毎月,被告人が希望する額の金員を
3から受領し続けることを正当化することはできないというべきである。F
(エ)上記のとおり,被告人が3の株主でないということはできないものF
FFの,被告人が3の株主であったとしても,被告人が希望する額の金員を
3に請求できる権利を有しているものでもない。
ウさらに,被告人は,受領していた金員の一部については,3の資金繰りF
や税金の支払いのために保管していたものであると供述している。しかしな
がら,3の資金繰り等のための資金をわざわざ預金口座から引き出して被F
告人が保管する必要性は認められない。被告人は,3らを信用できないかA
ら自分が保管していたなどと供述しているが,その意味するところは,結局
のところ,3の代表取締役である3らが,被告人の意に添わない資金のFA
使い方をすることを妨害するために,資金を手元に置いていたということに
すぎず,3の役員でも従業員でもない被告人が3の金員を保管することFF
を正当化する事由にはならない。
エ以上によれば,4は,3の事務部長として,3の預金を管理する業AFF
務を行い,3の金員を預金として保管していたものであるが,上記のようF
に3から金員を受領することを正当化する事由のない被告人に渡すためF
に3の預金を引き出すなどすることが,その権限を逸脱していることはF
明らかであるし,4及び被告人において,不法領得の意思すなわち所有者A
でなければできない処分をする意思があったことも優に認められる。
(3)したがって,被告人には,業務上横領罪の共同正犯が成立する。
第5平成17年12月13日付け起訴状記載の各公訴事実について
13が1銀行,1銀行及び1金融公庫から融資を受けた経緯等についFNOL

関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)5は,被告人から被告人が使用するための資金を3において借り入AF
れるよう指示され,3に対して,銀行から融資を受けるように提案していた。A
この点,被告人は,「5から1銀行から融資が得られると言われたこAG
とからその融資金をあてにして,3の保養所の建設や転売目的で土地を購入F
し,そのための費用が約7500万円かかった。また,平成16年3月31日
に,エステティックサロンの業務を3から切り離すために2800万円をF
出した。これらの資金は知人から借りた。しかし,1銀行からの融資は断らG
れてしまったので,3で1億円を借りるように5に指示したものである」FA
などと供述している。
(2)その結果,3は,平成16年6月30日,1銀行2支店に融資をANN
申し込み,3において,同銀行から5000万円の融資を受けることになり,F
同年7月7日,1銀行2支店の3の当座預金口座に融資金5000万NNF
円が振り込まれた。
また,3は,1銀行2支店にも融資を申し込み,3において,同銀AOOF
行から5000万円の融資を受けることになり,平成16年9月10日,1O
銀行2支店の3の普通預金口座に融資金5000万円が振り込まれた。OF
これら融資金が振り込まれた旨の報告を受けた被告人は4に対して,そA
のままにして置くように指示した。
(3)5は,3において1金融公庫から融資を受けるよう被告人から指AFL
示を受け,1金融公庫2支店に融資を申し込んだ。LL
被告人は,3に信用をつけるためにそのような指示をしたと供述している。F
そして,交渉の結果,3が3000万円の融資を受けることで話が進んだ。F
なお,5は,1金融公庫に対し,融資を受ける目的について清掃機械の購AL
入目的と偽っていた。
(4)被告人は,1金融公庫から融資を受けるために3の社屋の土地建物LF
だけでは,担保として不足であると報告を受け,被告人が設立させた営業の実
態のない株式会社が所有している和歌山県西牟婁郡の土地(以下「本件土M
地」という)について,3に所有名義を変更した上で担保に供するよう指示F
した。なお,この指示の趣旨については争いがある。
そして,4らは,が本件土地を3に代金3000万円で売却する旨AMF
のの代表取締役25及び3の代表取締役3作成名義の不動産売買契MAFA
約書を作成するなどした。
(5)平成16年8月11日,司法書士は,和歌山地方法務局田辺支局に対し
て本件土地について原因を同月6日売買,3を登記権利者,を登記義務者FM
とする所有権移転登記申請を行った。その申請に際して,本件土地について,
3から売渡し代金を領収した旨の内容の代表取締役25作成名義の平FMA
成16年8月6日付け不動産売渡証書が提出されている。そして,本件土地に
つき,土地登記簿の電磁的記録に,登記の目的「所有権移転」,受付年月日・
受付番号「平成16年8月11日第11873号」,原因「平成16年8月
F6日売買」,権利者その他の事項「所有者大阪府泉佐野市株式会社
3」との記録がされた。
(6)3と4は,本件土地の購入代金の移動があったことを仮装するため,AA
AIIF3が調達した3000万円を,平成16年8月6日,1銀行2支店の
3の口座に一旦入金した上で,3振出の金額3000万円の小切手を入金しF
て同支店の自己宛小切手の振り出しを受け,3において同自己宛小切手を受A
け取り,3000万円の返還を受けた。
(7)平成16年9月24日,3と1金融公庫との間で3000万円の金FL
銭消費貸借契約が締結され,同契約に基づき3が負担する債務を担保するF
ため3の社屋の土地建物及び本件土地について,抵当権が設定された。F
同年10月5日,融資が実行され,1銀行2支店の3の当座預金口座IIF
に融資金3000万円が振り込まれた。
(8)被告人は,平成16年10月4日ころ,4に対して,3の資金から3AF
000万円を持ってくるよう指示し,4は,同月4日,1銀行2支店ANN
FFの3の当座預金口座から,小切手(金額3000万円,振出人株式会社
3代表取締役3)1通を用いて現金3000万円の払戻しを受け,同月1A
0日ころ,被告人に渡した。この被告人に交付された3000万円の趣旨につ
いては争いがある。
(9)被告人は,平成16年12月10日過ぎころ,4に対して,3が受けAF
た融資金を何回かに分けて引き出して持ってくるように指示し,4は,1AO
銀行2支店の3の普通預金口座から,同月15日に3000万円,同月OF
30日に1692万円の払戻しをそれぞれ受け,1銀行2支店の3のNNF
当座預金口座から,同月29日に1263万7000円の払戻しを受け,さら
に,平成17年1月11日,1銀行2支店の3の当座預金口座から,現IIF
金3000万円の払戻しを受け,同日,それら払戻しを受けた現金を被告人に
渡した。
(10)被告人は,平成17年3月末,決算時に不審に思われるのを防ぐため,
受け取った金員の一部を3に返し,その結果,同月31日,1銀行2FNN
FOOF支店の3の当座預金口座に3828万8959円が,1銀行2支店の
3の普通預金口座に4405万8944円が入金された。
そして,4は1銀行2支店の3の当座預金口座から,5月2日にANNF
OOF1000万円,6月10日に2395万8000円を,1銀行2支店の
3の普通預金口座から4月15日に3000万円,6月10日に1123万円
を引き出し,被告人に渡した。
(11)被告人は,平成17年7月6日に逮捕されたが,その後,同年8月初め
ころ,9弁護士を介して,3組の組員であった7に指示して,被告人ABA
方にあった現金約1億円を4に渡した。A
2平成17年12月13日付け起訴状記載の公訴事実第1及び第2について
(1)本件土地について所有権移転登記がされた経緯及び平成16年10月1
0日ころ,4が被告人に3000万円を渡した経緯等についてA
ア(ア)4は,当公判廷において,「1金融公庫から担保が足りないと言AL
われたので,被告人に報告すると,「で和歌山県の土地を持ってるんで,M
その土地を3に名義変更して担保に入れたらええ」と言われた。そのこF
とは5に確認し,3にも5が役員になっているの土地を担保にすAAAM
ると報告した。その後,その土地を3が購入したように仮装することとF
し,平成16年8月6日に3がから3000万円でその土地を購入しFM
た旨の売買契約書を作成し,3が調達した3000万円で土地購入代金支A
払のために金が動いたように装うなどした。なお,1金融公庫からの融資L
L金が3000万円だったので売買代金も3000万円としたものである。
1金融公庫からの融資があった平成16年10月5日の1日か2日前に被告
人から電話があって,「3000万円出しといてくれるか。土地買ったんや
から土地代金として勘定科目としてあげといたらええやないか」と言われた
ので,5に相談した上で,1銀行の3の口座から3000万円を引きANF
出して,被告人に渡した」などと供述する。
以上のとおり,4は,と3の売買契約は締結されておらず,被告AMF
人に渡した3000万円も被告人から3において本件土地代金としてのF
名目で支出するよう指示されてはいるものの,本件土地代金として渡したも
のではないと供述するが,その内容については特段不自然な点はないし,登
記申請時にが本件土地代金の支払を既に受けているとの虚偽内容の不動M
産売渡証書が提出され,4や3が3の口座に3000万円を入金しAAF
て土地代金支払のために資金の動きがあったことの痕跡を残していることと
符合する。
また,3も本件土地についてのと3との間の売買契約は仮装のもAMF
のであると4と一致した供述をしている。A
(イ)なお,弁護人は,本件土地について,1金融公庫に担保提供するためL
には,の所有名義のままでも可能であり,担保提供するために3とのMF
売買契約を仮装して所有権移転登記手続をしたとの4及び3の供述はAA
信用できないと主張する。
確かに,4及び3の供述中,の所有名義のままで担保提供できるAAM
ことを知らなかったという点については疑問があるが,4や3においAA
て,物上保証の方法があることなど深く検討せずに売買契約を仮装したとい
うことも考えられないことではない。その上,4は,被告人から所有名義A
を変更した上で担保提供するよう指示されたと供述しているのである。よっ
て,4や3の供述の核心部分の信用性を低下させる事情があるとまでAA
はいえない。
さらに,3において,本件土地の固定資産税を負担していたことなどもF
認められるが,その事実が4や3の供述する経緯と相容れない事情とAA
はいえない。
(ウ)したがって,4及び3の各供述の信用性は高い。AA
イ(ア)一方,被告人は,当公判廷等において,「平成16年夏ころ,担保が
足らずに1金融公庫から融資を受けられないなどと5から報告を受けLA
るなどした。その後,4に対して「の和歌山県の物件,会社(3)でAMF
買うから名義変更しとけ。それを抵当に入れたらええぞ」と指示した。代金
は後でいいと伝えておいた。その土地を3で実際に購入して従業員の保F
養所を建設することを予定していた。本件土地について,契約書が作成され
ていることは知らなかった。3や4が,金の動きを仮装したことにつAA
いても知らない。平成16年10月ころ,4に対して「もうそろそろ土地A
の決済するぞ。土地代金,持ってこいよ」と指示し,同月10日ころ,30
00万円を土地代金として受け取った。どういうことで土地代金が3000
万円になったかは記憶にない」などと供述している。
(イ)しかしながら,被告人が供述するように,被告人が4に対して,3AF
において本件土地を実際に購入し,代金の支払いを後で受ける旨指示してお
り,平成16年10月10日ころに3000万円を土地代金として受け取っ
たというのであれば,上記のとおり,登記申請の際に土地代金が既に支払わ
れているとの虚偽内容の売渡証書が提出されていることや,4や3にAA
おいて,本件土地代金支払のための資金の動きを仮装したということについ
て合理的な説明ができない。
(ウ)弁護人は,4や3において,3が調達した3000万円を3AAAF
の口座に振り込むなどしたのは,担保提供する不動産の代金を3が出捐F
LLしたのでは,1金融公庫から融資を受けることと相容れなくなるので,
1金融公庫との関係において,3個人が出捐したことにして,本件土地をA
買い取ったことにしたものであるなどと主張しているが,1金融公庫が本L
件土地の売買代金を3がどのように調達したかについて興味を抱いていF
たことは窺われない。
また,被告人において土地代金額が3000万円になった理由や経緯につ
いて記憶にないというのも不自然である。
(エ)したがって,被告人の供述は信用できない。
ウ以上によれば,本件土地について所有権移転登記がされた経緯等について
は,4や3が供述するとおりであったと認められる。AA
そうすると,3の代表取締役である3による,3において本件土地FAF
をから3000万円で購入する旨の意思表示はなかったと認められる。M
は営業の実態がなく,その財産等は被告人の意のままになる状態であM
ったと認められるところ,被告人は,4に対して「で和歌山県の土地AM
を持ってるんで,その土地を3に名義変更して担保に入れたらええ」とF
指示している。しかしながら,売却代金額又はその決定方法について指示や
説明はなく,が3に本件土地を代金3000万円で売却する旨の意思MF
表示とはいえず,その後の経緯等に照らしても,被告人によるその旨の意思
表示はなかったと認められる。
そうすると,平成16年8月6日にが本件土地を3000万円で3MF
に売却する旨の売買契約が成立していないことが認められる。
(2)検討
ア平成17年12月13日付け起訴状記載の公訴事実第1について
(ア)上記のとおり,被告人は,4に対して「で和歌山県の土地を持っAM
てるんで,その土地を3に名義変更して担保に入れたらええ」と指示しF
ているが,代金額について何ら指示や説明をしていないことや,その後の経
緯に照らせば,被告人において,3が実際に本件土地を購入するよう指示F
したものではなく,3が本件土地を購入して本件土地の所有権が移転したF
ように仮装する旨指示したものと認められる。そして,4はその指示にしA
たがって,3と相談の上で,情を知らない司法書士をして,登記申請書等A
を法務局に提出して,虚偽の申立てをしたものであって,被告人に,電磁的
公正証書原本不実記録・同供用の共同正犯が成立する。
(イ)なお,検察官は,4,3及び被告人のみならず,5にも電磁的AAA
A公正証書原本不実記録・同供用の共同正犯が成立すると主張しているが,
5は,当公判廷において,本件土地を担保にして,1金融公庫から融資をL
受けることは承知していたが,土地の所有名義を3にすることは知らず,F
後で知ったなどと供述している。
一方,4は,「で和歌山県の土地を持ってるんで,その土地を3AMF
に名義変更して担保に入れたらええ」と被告人に言われ,そのことを5A
に確認したと供述しているが,その供述の趣旨は,本件土地を担保に供する
ことのみならず,所有名義を3にすることまで確認したのかどうかは明F
らかでない。
その他,5が共謀していたことを窺わせる証拠はなく,5が電磁的公AA
正証書原本不実記録・同供用について共謀していたとは認められない。
イ平成17年12月13日付け起訴状記載の公訴事実第2について
(ア)被告人は,4に対して,3の資金から3000万円を持ってくるよAF
う指示し,4は,その指示に従って,5にも相談の上,平成16年10AA
月4日,1銀行2支店の3名義の当座預金口座から,現金3000NNF
万円の払戻しを受け,同月10日ころ,被告人に渡したことが認められる。
a弁護人は,3の現金・預金は,被告人にとって他人の物とはいえないF
などと主張するが,この弁護人の主張が失当であることは,上記のとおり
である。
bまた,本件3000万円が本件土地の代金として被告人に渡されたもの
ではないことは上記のとおりであり,その他,被告人が本件3000万円
を受領することを正当化する事情は何ら認められない。
c以上によれば,3の預金及び現金を管理する業務を行っていた4は,FA
3の資金から3000万円を持ってくるようにとの被告人の指示に従いF
5に相談の上で,1銀行2支店の当座預金口座から3000万円ANN
の払い戻しを受けて,その3000万円を保管中に,上記のように何らそ
の3000万円を受領することを正当化する事由のない被告人に渡すため
に着服したものであって,これがその権限を逸脱していることは明らかで
あるし,4,被告人及び5において,不法領得の意思があったことAA
も優に認められる。
(イ)なお,本件3000万円は,3が1銀行から融資を受けた5000FN
万円が振り込まれていた同銀行2支店の3名義の当座預金口座から払NF
い戻されているが,弁護人は,3の代表取締役である3は,1銀行かFAN
らの融資金を被告人が受領することを了承していたと主張する。
しかしながら,4が本件3000万円を被告人に渡すことを3に知AA
らせた事実は認められず,その他,3が,本件3000万円が被告人に渡A
されることを知っていたことを窺わせる事情はなく,3が本件3000万A
円を被告人に渡すことを承諾していたとは認められない。
もっとも,上記のとおり,被告人は自分が使用するための資金を3にF
おいて借り入れるように5に指示し,その結果,3において1銀行AFN
及び1銀行から5000万円ずつ融資を受けたものと認められる。5OA
及び3は,そのような事情を3は知らなかったと供述するが,3がAAF
1億円もの融資を受ける本当の理由を代表取締役である3において知らA
なかったという点不自然さを否定できないことなどにかんがみると,3にA
おいて,そのような事情を知っており,被告人の資金調達のために3がF
融資を受けることを容認していたという可能性は否定できない。
しかしながら,3が,上記融資金を被告人が使用することを容認していA
たとしても,そのことをもって,被告人が本件3000万円を受領すること
が正当化されるとはいえず,上記のような結論を左右するものともいえない。
(ウ)したがって,被告人には,業務上横領罪の共同正犯が成立する。
3平成17年12月13日付け起訴状記載の公訴事実第3ないし第6について
(1)上記のとおり,被告人は,4に対して,3が受けた融資金につき,AF
3の口座から何回かに分けて引き出して持ってくるように指示し,4は,FA
その指示に従って,1銀行2支店の3の普通預金口座から,2回にOOF
わけて,合計4692万円を,1銀行2支店の3の当座預金口座かNNF
ら,1263万7000円を,1銀行2支店の3の当座預金口座から,IIF
3000万円をそれぞれ引き出し,それら引き出した現金を被告人に渡した
ことが認められる。
ア弁護人は,3の預金や現金は,被告人にとって他人の物にはあたらないF
などと主張するが,この主張が失当であることは上記のとおりである。
イまた,弁護人は,被告人は,上記現金を3のために直接自分が管理すF
るために受け取ったにすぎないなどと主張する。
しかしながら,そもそも3の従業員でもなく,役員でもない被告人にF
おいて3の資金を管理することを正当化する事情は何ら認められない。F
被告人は,4に3の預金を引き出させて,その現金を持ってこさせたAF
理由について,預金を差し押さえられて引き出せなくなることや,銀行破綻
の際などにいわゆるペイオフによって1000万以上の預金がなくなってし
まうことに加えて,それら融資金を勝手に使われてしまうのを防ぐためだっ
たと供述しているが,この供述によれば,被告人は,3が受けた融資金をF
F自分のために使おうと考えており,それを銀行に預金したままでおくと,
3のために使われてしまったり,何らかの理由で差押えられるなどして引き
出せなくなり,自分のために使えなくなることを恐れて,4に3の預金AF
を引き出させて,現金を受け取ったということになるが,これが被告人にお
いて,上記現金を受領することを正当化する事由とならないことは明らかで
ある。
ウ以上によれば,3の預金及び現金を管理する業務を行っていた4は,FA
3が受けた融資金を持ってくるようにとの指示に従い,3の銀行預金口FF
座から合計8955万7000円の払戻しを受けて,その現金を保管中に,
何らその現金を受領することを正当化する事由のない被告人に渡すために着
服したものであって,これがその権限を逸脱していることは明らかであるし,
4及び被告人において,不法領得の意思があったことも優に認められる。A
(2)弁護人は,被告人が上記現金を受け取ることは,3も事前に了承してA
いたと主張している。
AAしかしながら,4が本件8955万7000円を被告人に渡すことを
3に知らせた事実は認められず,その他,3が,本件8955万7000A
円が被告人に渡されることを知っていたことを窺わせる事情はなく,3がA
本件8955万7000円を被告人に渡すことを承諾していたとは認められ
ない。
もっとも,4が預金を引き出した預金口座のうち,1銀行2支店AOO
の普通預金口座及び1銀行2支店の当座預金口座につき,それら口座NN
に入金された1銀行及び1銀行からの各5000万円の融資金が被告ON
人が使用する資金の調達のためのものであったことを3において知ってA
おり,容認していたという可能性は否定できないことは上記のとおりである。
しかしながら,3が,上記融資金を被告人が使用することを容認していA
たとしても,そのことをもって,3の上記各普通預金口座から引き出されF
た現金を被告人が受領することが正当化されるとはいえず,上記のような結
論を左右するものともいえない。
(3)したがって,被告人には,業務上横領罪の共同正犯が成立する。
(平成18年6月20日付け起訴状記載の公訴事実について)
第1争点
1公訴事実の要旨
本件公訴事実の要旨は「被告人は,平成15年1月16日に実施された大阪
府茨木土木事務所発注に係るモノレール支柱建設工事の入札に際し,入札T
参加業者間の事前の話合いによって株式会社が落札予定業者として取り決U
められていたところ,株式会社と株式会社の経常建設共同企業体が本件VW
工事を落札(落札金額3億1160万2000円)したことを聞知し,同共同
企業体と株式会社との間での紛争解決のための対策費等名下に株式会社UV
から金員を詐取することを企て,同年2月初旬ころ,大阪府及びその周辺から
株式会社代表取締役26の携帯電話に電話をかけ,同人に対し,真実は,VA
同共同企業体と株式会社との間における同モノレール支柱建設工事をめぐU
る紛争が解決済で,紛争解決のための金銭交付の必要がなく,金銭が交付され
Uれば自己の用途に費消する意図であるのにこれを秘し,あたかも被告人が
株式会社との間で交渉し,株式会社から紛争解決のための金銭を求められ,U
あるいは,今後も同金銭を求められる可能性があり,そのため,落札金額の約
10%相当の対策費等が必要であるかのように装い,「例のモノレール工事の
件やけど,とか業界筋納得させる対策やなんやらで,対策費として10%くU
らいできるか」「や調整してる業界筋やらの信用取り戻すんに必要なんや。U
利益少のうなるんやろけど10%ほどどや」などと申し向け,26をしてそA
の旨誤信させ,よって,同年9月22日ころから平成16年3月22日ころま
での間,大阪府貝塚市所在の株式会社事務所において,26の指示を受VA
けた株式会社工事部長27から,6回にわたり,情を知らない7を介VAA
して,株式会社振出名義の小切手及び約束手形合計13通(額面合計307V
9万6510円)の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた」とい
うものである。
2弁護人及び被告人の主張
(1)被告人が,26に対し,欺罔行為を行った事実はない。A
(2)被告人が本件公訴事実のとおり,株式会社振出名義の小切手及び約束V
手形合計13通を受け取ったことはある。
しかしながら,被告人は,株式会社代表取締役28から,本件モノレWA
VWール支柱工事につき,入札参加業者間の「談合」に反して,株式会社と
株式会社の経常建設共同企業体が本件工事を落札したことにつき,工事代金の
10%を支払うことで,落札することが予定されていた株式会社や建設業U
界等からペナルティーを受けることなく,地元対策を含めて工事がスムーズに
できるよう依頼されて,これを引き受けた。そして,その依頼を実現し,約束
どおりに小切手及び約束手形を受け取ったに過ぎない。
第2前提となる事実
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
VWVWVW1株式会社と株式会社による・経常建設共同企業体(以下「・
T共同企業体」という)が参加した,大阪府茨木土木事務所を発注者とする
モノレール支柱建設工事についての入札は,公募型指名競争入札の方式で行わ
れたが,事前に参加業者間で「談合」がなされており,株式会社が落札するU
予定となっていた。
しかしながら,の代表取締役であった28は,その「談合」に反して,WA
VWW・共同企業体において本件モノレール支柱工事を落札しようと考え,
の専務取締役であった29にその旨指示したが,事前に側にそのことをAV
知らせなかった。
平成15年1月16日午後1時から上記の入札が実施されたが,・共同VW
企業体がの入札金額を下回る3億1160万2000円で入札して落札しU
た(以下,平成15年の出来事については暦年の記載を省略する)。
2(1)・共同企業体が本件モノレール支柱工事を落札したことを知ったVW
26は(26がこのことを知った経緯については争いがある),1月16AA
日,29に「談合」に反して・共同企業体が本件モノレール支柱工事AVW
を落札してしまったことへの対応をの方で行うように言った。なお,2WA
9は,26に対しては,故意に落札したのではなく,入札書を書き間違えてA
落札してしまったなどと説明していた。
AWA(2)1月17日午前中に,29は,の従業員で,入札を実際に行った
30と共に,の営業部長の31及び顧問の32と会った。29は,UAAA
故意に「談合」に反して本件モノレール支柱工事を落札したのではない旨説明
した上で,「そのまま・共同企業体が本件モノレール支柱工事についてVW
契約をし,がその下請けに入る」という案を提案したが,31らはこの提UA
案を拒否し,・共同企業体が,本件モノレール支柱工事の契約をすることVW
を辞退するように申し入れた。話し合いはまとまらず,29は,31らとAA
再度会う約束をして別れた。
しかし,その約束の日である同月20日,29は,待ち合わせ場所には行A
かず,31に「もう会えない」旨電話で伝えた。A
(3)に対して,当初から「どない処理するのや」などという内容の電話VU
がかかってきたり,他の業者からクレームがあったりしたが,入札日から1週
間か10日するうちになくなった。
(4)1月28日,本件モノレール支柱建設工事につき,・共同企業体はVW
代金3億2700万2100円(消費税込み)で建設工事請負契約を締結した。
(5)・共同企業体による本件モノレール支柱工事は,特段の問題なく実VW
施された(なお,は途中で共同企業体から脱退している)。W
・共同企業体が「談合」に反して本件モノレール支柱工事を落札したこVW
とに対して,やが,や他の業者らから,明らかな形で何らかの見返りVWU
を要求されたり,ペナルティーを科されたりしたことはなかった。
31月20日に実施された築造工事についての入札についても参加業者のX
間で「談合」が行われていた。・共同企業体は,当初,これについても落VW
札を目指して活動していたものの,被告人からの働き掛けにより断念し,他の
業者が落札した。
4被告人は,・共同企業体が「談合」に反して本件モノレール支柱工事をVW
落札した件について,,に不利益が生じない形で処理するよう・共同VWVW
企業体側から依頼されて引き受け,・共同企業体側と被告人は,工事代金VW
の中からその1割を被告人に支払うことで合意したが,被告人にその依頼をし
た人物やその経緯については争いがある。
526は,3組の組員で被告人の秘書的な仕事をしていた7から紹介ABA
を受けた株式会社に架空の下請工事を発注したかのように装い,その代金Y
の支払い名下に約束手形や小切手を振り出すことによって,被告人に対する支
払いを行うこととした。
そして,株式会社代表取締役26振出名義の(1)平成15年9月22VA
日振出の額面407万9250円の小切手,(2)同日振出の額面252万円の
約束手形,(3)同年10月20日振出の額面347万4600円の小切手,
(4)同日振出の額面214万円の約束手形,(5)同年11月20日振出の額面
498万5750円の小切手,(6)同日振出の額面300万円の約束手形,
(7)同日振出の額面8万円の約束手形,(8)同年12月22日振出の額面23
4万1480円の小切手,(9)同日振出の額面144万円の約束手形,(10)
平成16年2月20日振出の額面289万1850円の小切手,(11)同日振
出の額面178万円の約束手形,(12)同年3月22日振出の額面128万3
A580円の小切手,(13)同日振出の額面78万円の約束手形が,それぞれ
27を介して7に対して渡された。A
7は,そのうち(11)と(13)については,被告人の指示で,暴力団組員A
であり,建築業者間の「談合」に関与していた33に渡したが,それ以外A
は現金化して,現金を被告人に渡した。33は,被告人から,その約束手形A
だけでなく,現金も受け取っており,その手形と現金の合計は約600万円に
なる。
第3被告人が・共同企業体から依頼を受けた経緯等VW
1(1)26は,被告人に本件モノレール支柱工事を・共同企業体が落AVW
札した件の処理を依頼した経緯について,当公判廷において,「1月16日午
後2時くらいに,被告人から電話がかかってきて,本件モノレール支柱建設工
事について,・共同企業体が金額を間違って入札して落札したことを聞いVW
た。被告人は「えらいことやな。信用がなくなる」と話し,「おれに任してく
れるか」とや業界筋に対する信頼回復のために動いてくれる旨言ってきたU
ので,側とは相談せず「お任せします」と答えた。同日,29に対して,WA
「何ということをするのや。これをちゃんと始末せえよ」「とにかく,あやま
ってこい」などと言ったが,被告人に依頼したことは話さなかった。その後,
29から,「17日に31と会って,入札を辞退してほしいと言われAA
AWた」と聞いた。その話を聞き,29に対して,「被告人に任せるので,
の方でとの折衝はしないでいい」と言った。28と29が被告人のとUAA
ころに行って本件について頼んだかどうかは知らない。2月初旬ころ,被告人
から電話があり,「利益が減るけど,,業界関係にいろいろ(信用を回復すU
るための)手立てをするのに(請負代金の)10%ぐらい要る」などと言われ
たので,「分かりました」と答えた。本件モノレール支柱工事の代金から支払
うという話はした。そのお金にはや業界筋に渡す分だけでなく,被告人のU
手数料も含まれていると思っていたが,内訳についての話は出なかった」など
と供述する。
(2)26が,入札直後に,被告人から,・共同企業体が本件モノレーAVW
ル支柱工事を落札したことや,その処理を任せるよう言われ,実際に入札を行
った側に事実の確認もしないまま,被告人にその旨を依頼したというのは,W
26の立場から考えて不自然な行動である。その後,29に被告人に依頼AA
したことを告げないで,の方で処理をするように求めたという点も不自然W
である。
2(1)一方,被告人は,当公判廷において,「1月17日か18日に28A
から電話があり,「・共同企業体が本件モノレール支柱工事で,札を間違VW
って落札してしまい,が工事を辞退しろと言ってきているので,請負金額のU
10%で何とかしてほしい」と頼まれ,引き受けた。その後,29から状況A
の説明を受けた。18日か19日に,28が自宅に来て,請負金額の10%A
の金の支払いについては,本件工事の代金を出来高で受け取ったものから分割
で支払うことにしてほしいと頼まれ,了承した。本件について,26と直接A
話したことはない」などと供述する。
また,28も,当公判廷において,「1月17日の午前中に側と会っAU
た29から,側は「この工事を辞退してくれ」の一点張りだったというAU
報告を受け,その日の午後,被告人に電話をかけ,本件モノレール支柱工事を
・の共同企業体で円滑にできるようにし,業界からペナルティーを科されVW
ないように取り計らってもらうように依頼し,そのための費用としては,落札
金額の1割でお願いできないかと言った。その後,29に被告人へ連絡させ,A
状況の説明をさせた。1月18日に26に電話をして「工事代金の1割でA
被告人に解決を依頼した」と連絡した。その日の午後,被告人方を訪れて,被
告人に会い,金の支払い方法については本件モノレール支柱工事代金から支払
うということで了解してもらった」と供述している。
(2)以上の被告人及び28の供述は,内容が合致している。29の当公AA
判廷における供述とも符合している。また,1月17日に側が強硬な態度U
を取っていたことから28が被告人に事態の収拾を依頼したという経緯はA
十分に納得できるものであり,不自然な点は特に認められない。
なお,28は,捜査官に対しては,「被告人に対する依頼は26が勝AA
手にやったことで自分は知らない」旨供述したが,この点について,「裏の世
界の人間に3100万円が渡っていることで,自分も何か罪に問われるのでは
ないかと思って,自分が関与していることは隠していた」との説明をしており,
捜査段階において虚偽の供述をしていた理由として一応納得できる。
3以上によれば,被告人に依頼した経緯として,26が供述するところは信A
用できない。被告人及び28の公判供述等によれば,1月17日から18A
日にかけて,26も了解の上で,28から,被告人に対して,・共同AAVW
企業体が本件モノレール支柱工事を「談合」に反して落札した件の処理につい
て,落札金額の1割の金額を支払うことで依頼がなされ,被告人がこれを承諾
したこと,その際,被告人に支払われる金銭の使い方については特に決められ
ず被告人に一任されていたことが認められる。同年2月初旬ころ,被告人が,
26に対し,に対する対策費等の名下に落札金額の10%の金銭を要求しAU
たという局面は存在しなかったと考えられる。
第4依頼に対して被告人が採った行為について
131は,「1月20日に,29から「もう会えない」旨言われた,そのAA
日か翌日にの代表取締役であった34に,それまでの経緯を報告したとUA
ころ,34は「もうこういうことは追っかけてもしょうがないから,もう次A
の物件をねろうたらどうだ」などと言っていた。暴力団や他の業者から圧力が
かかったことはない」などと供述し,34も「入札の日から,1週間後ぐらA
いに,31から・共同企業体側がに対して下請をしてほしいと言っAVWU
ているなどと報告を受け,「断ってきなさい,もういいかげんにこのへんで話
を終わらして,次の仕事に進みなさい」と言った。別の業者や団体から圧力が
UVWかかったことはない」などと供述している。これらは,においては,・
共同企業体が本件モノレール支柱工事を「談合」に反して落札したことについ
ては,他からの働き掛けに関係なく,1月20日ころには,これを不問に付す
ることになっていたということである。
2(1)一方,被告人は,28から依頼を受けて採った行為について,当公A
判廷において「1月17日に28から依頼を受け,29から状況を聞いAA
た後,33に電話をして,・共同企業体が「談合」に反して本件モノレAVW
ール支柱工事を落札したことを説明し,私の名前を出してもいいから,業界筋
Aでもどこでもいいから骨折ってくれと頼み,建設業界に影響力を持っている
35に電話するように伝えてくれと頼んだ。35から電話があったので,話A
をまとめるためには誰に話しをすればいいのか情報を聞くと共に,力を貸して
くれるように頼んだ。私は,業界筋,ゼネコン関係,ヤクザ関係,調整役等,
7,8人から10人ぐらいに「うちの身内の会社やから,私の顔に免じて,札
を書き間違えたという解釈を何とかしてもらえないか」などと,やと表VW
面的には何もなかったように仲良くしてもらって,工事に妨害がないよう,今
後の入札にも支障を来さないようにしてほしい旨頼んだ。誰に声をかけたかは
いえない。私とは別に,35や33も動いている。1月22日か23日AA
AAころに,35から電話があって,話がついたと報告があり,1月25日に
28に契約してよいと連絡した。33に対してはが振り出した手形と現AV
金を合わせて600万円を渡しており,1500万の現金を他の4,5人に渡
しているが,に金は渡っていない」と供述する。U
(2)また,35は,当公判廷において,「1月16日かその次の日に3AA
3から電話があり,・共同企業体が本件モノレール支柱工事を「談合」にVW
反して落札した件について,の動きを聞いてきた。また,被告人に電話を入U
れてほしいと言われた。被告人に電話すると,被告人からは身内の会社でV
ある旨言われ,のことについて聞かれた。被告人は,この件に関してうまくU
解決して,やの信用が落ちないようにしてほしいとの意図であったと思VW
う。被告人と電話で話した前か後かはっきりしないがの31及び32UAA
と会った。その後,の人間と電話で話したとき,・については,もうほUVW
っとくということを言っていた。そこで,33と被告人に,そのことを報告A
した。その後も被告人と電話のやり取りがあった。私は,に対してや業界のU
中で,・について悪く言ったり,つき合いはしないようになどとは言わなVW
かった」などと供述する。
(3)さらに,33は,当公判廷において,「1月16日の当日か翌日の朝,A
おそらく被告人の方から電話があり,・共同企業体が本件モノレール支柱VW
工事を「談合」に反して落札したことにつき「話,できるか」などと言って,
不問に付することはできるかと聞かれ,「はい,できます」と答えた。35A
の話が出たので,35に電話をして,「と話がつくか」などと話し,被告AU
人に電話をするように伝えた。そして,次の入札があった1月20日までに,
35から,は何も言っていないと報告を受け,その旨,被告人に伝えた。AU
私も,この件について聞いてくる人に対しては,との面倒を見ているのVW
は被告人だと伝えるなどしていた。この件についてかどうか分からないが,被
告人から「小遣いにせえよ」などと言われて,の手形と現金合わせて600V
万円を受け取った」などと供述する。
3以上のとおり,被告人,33及び35は,被告人が33や35にAAAA
連絡をとり,・共同企業体が,「談合」に反して本件モノレール支柱工事VW
を落札したことで不利益な扱いをされないよう取り計らってほしい旨言ったこ
とについて,ほぼ符合する供述をしている。上記34及び31の供述にAA
かんがみると,その影響力がどの程度あったかには疑問が残るものの,被告人
が33や35に対してそのような依頼をした事実を認めることができる。AA
また,被告人は,上記のとおり,35や33の他にも,業界筋,ゼネAA
コン関係,ヤクザ関係,調整役等7ないし10人くらいに働き掛けており,そ
のうち4∼5人に合計で1500万円くらいの現金を渡していると供述してい
るが,人物の名前は明らかにしておらず,内容にあいまいな点もある。
しかしながら,入札日から1週間か10日する内にに対するクレーム等V
がなくなっていることや,「談合」という犯罪行為を前提とするものとはいえ,
業者間の取り決めを破ったやが,その後,他の建築業者から明らかに不VW
利益な扱いを受けた事実はないことなどに照らすと,上記34や31のAA
公判供述を考慮しても,それは被告人がそのような働き掛けをした結果である
と考えることが可能である。
第5結論
1以上のとおりであって,2月初旬ころ,被告人が26に対して,に対AU
する対策費等名下に落札金額の10%の金銭を要求した事実は認定できない。
AAVW21月17日から18日にかけて,26も了解の上で,28から,・
共同企業体が本件モノレール支柱工事を「談合」に反して落札した件の処理に
ついて,落札金額の1割の金額を支払うことで依頼がなされ,被告人がこれを
承諾したことが認められる。その依頼に対して,被告人が,33や35AA
に連絡をとり,その件によってやがや他の建設業者等から不利益な扱VWU
いを得ないように取り計らうよう依頼をしたことが認められる。その他の者に
もそのような働き掛けを行っていた可能性も否定できない。被告人が受領した
約3100万円のうち,約600万円は33に対して交付されたことが認A
められ,約1500万円については,他の者に渡したものと考えられる。受領
する金銭については被告人の報酬に充てることも含め,その使途は被告人に一
任されていたことが認められる。
3以上によれば,被告人が7を介して交付を受けた約束手形や小切手につA
き,欺罔行為を行った事実は認められず,被告人に詐欺罪は成立しない。
(法令の適用)
罰条
第1の1の所為について
刑法60条,222条1項
第1の2の所為について
刑法60条,223条1項
第2の各所為について
別表1ないし4の各番号ごとに刑法65条1項,60条,253条
(被告人には業務上占有者の身分がないので刑法65条2項により同法2
52条1項の刑を科することとする)
第3の所為のうち,各電磁的公正証書原本不実記録の点
いずれも刑法60条,157条1項
第3の所為のうち,各不実記録電磁的公正証書原本供用の点
いずれも刑法60条,158条1項,157条1項
第4の所為について
刑法65条1項,60条,253条
(被告人には業務上占有者の身分がないので刑法65条2項により同法2
52条1項の刑を科することとする)
第5の各所為について
いずれも刑法65条1項,60条,253条
(被告人には業務上占有者の身分がないので刑法65条2項により同法2
52条1項の刑を科することとする)
科刑上の一罪の処理
第3の各電磁的公正証書原本不実記録は1個の行為が2個の罪名に当たる
場合であり,各電磁的公正証書原本不実記録とその各供用との間には手段
結果の関係があるので,刑法54条1項前段,後段,10条により結局以
上を一罪として犯情の最も重い和歌山県西牟婁郡の宅地にかかる不実記録
電磁的公正証書原本供用罪の刑で処断
刑種の選択第1の1及び第3の各罪について,いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条
(刑及び犯情の最も重い第5の4の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入刑法21条
訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文
判示第2につき,金額や方法等についての被告人の包括的な指示に基づき,4A
は,判示第2の1ないし4の各方法での横領を繰り返していたものであるが,上記
各方法での横領がそれぞれ継続された期間は,いずれも長期間にわたる上(判示第
2の4については5か月間であるが,これは判示第2の2に引き続いてなされたも
のである),各方法ごとに見ても,判示第2の1の横領においては,振込先口座名
義や各口座への振込金額は毎月同一ではないし,判示第2の2の横領では,途中,
当座預金口座から現金を払い戻すという態様から,4が管理する普通預金口座へA
の振替入金という態様に変わり,判示第2の2の横領に引き続いてなされた判示第
2の4の横領では,対象の預金口座や払戻しのために装った名目も同一ではなく,
判示第2の3の横領でも,3の従業員に給与を水増しして支払ってその水増し分F
の返還を受ける手段のほか,給与の支払を装って当座預金口座から現金の払い戻し
を受けるという手段も用いているなど,態様は必ずしも同一でない。以上の事情を
考慮すると,各別表の番号ごとに一罪が成立し,併合罪となるとするのが相当であ
る。
(量刑の理由)
1本件は,(1)支部の支部長及びの理事長であった5を辞めさせようとCDA
していた被害者に対して,共犯者を通じて生命,身体に危害を加えるかも知れな
い旨告知したという脅迫(判示第1の1),(2)5と共謀の上,支部の支AC
部長選挙に立候補していた被害者を脅迫して,立候補を断念させたという強要
(判示第1の2),(3)3で預金や現金の管理等を行っていた4と共謀のFA
上,稼働実態のない者に対する給与支給を仮装して,3の預金口座から29回F
にわたり合計2300万円余りを4が管理する預金口座に振込入金したといA
う業務上横領(判示第2の1),(4)4と共謀の上,架空の外注費の支払をA
装って,3の預金口座から51回にわたり合計1億7800万円余りを,払戻F
したり,4が管理する預金口座に振替入金したという業務上横領(判示第2のA
2),(5)4と共謀の上,3の預金口座から23回にわたり合計2900AF
万円余りを,3の従業員の預金口座に水増しした給与を振込んでその水増し分F
の返還を受けたり,給与の支給を装って払い戻したりしたという業務上横領(判
示第2の3),(6)4と共謀の上,架空の外注費の支払いや稼働実態のないA
者に対する給与支給を仮装して,3の預金口座から10回にわたり合計340F
0万円余りを払い戻したという業務上横領(第2の4),(7)4らと共謀のA
上,土地登記簿の電磁的記録に,3が被告人が実質経営していた会社から土地F
を購入した旨の不実の記録をさせた上,これを備え付けさせたという電磁的公正
証書原本不実記録・同供用(判示第3),(8)4らと共謀の上,3の預金AF
口座から払い戻した現金3000万円を着服したという業務上横領(判示第4),
(9)4と共謀の上,3の預金口座から払い戻した合計8900万円余りをAF
着服したという業務上横領(判示第5)の各事案である。
23を被害者とする各業務上横領については,被告人は,3の財産を私物化FF
し,長期間かつ多数回にわたり横領を繰り返してきたものであり常習的犯行であ
る。稼働実態のない者に対する給与支給や,架空の外注費の支払いを装うなど,
その手口も巧妙である。各犯行は被告人の利益のために被告人の指示により敢行
されたものであり,被告人は正に主犯であるといえる。被害金額も合計3億85
00万円余りと極めて多額に及んでいる。
電磁的公正証書原本不実記録,同供用についても,不動産登記簿に対する信用
を害する犯行であるといわざるを得ない。
脅迫,強要の各事案は,5を通じて,支部等への影響力を行使してきた被AC
告人において,その影響力を保持し続けるために,5につき支部の支部長AC
を辞めさせようとした被害者を脅迫したり,支部長選挙を中止させるために支部
長選挙に立候補した被害者を脅迫して立候補を断念させたものと認められ,悪質
である。
3そうすると,被告人の刑事責任は重く,3を被害者とする各業務上横領につF
き,約1億円が3側に戻されるなど,一部被害回復がなされていること,被F
告人が3のために努めてきたことも否定できないことに加え,その健康状態F
等,被告人にとって酌むべき事情も考慮の上,主文掲記の刑に処するのが相当と
判断したものである。
(平成18年3月14日付け起訴状記載の公訴事実第1の別表1番号20及び27
並びに平成18年6月20日付け起訴状記載の公訴事実についての結論)
平成18年3月14日付け起訴状記載の公訴事実第1の別表1番号20(平成1
6年7月5日の80万円の業務上横領)及び27(平成17年2月7日の80万円
の業務上横領)並びに平成18年6月20日付け起訴状記載の公訴事実(詐欺)に
ついては,上記のとおり,犯罪の証明がないので,刑事訴訟法336条により,被
告人に対して無罪の言渡しをする。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑懲役10年)
平成21年3月30日
大阪地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官秋山敬
裁判官栗原保
裁判官荒井格
(別表)
省略

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