弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決及び第1審判決を破棄する。
被告人らはいずれも無罪。
理由
被告人Aの弁護人倉科直文ほかの上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含
め,実質は事実誤認,単なる法令違反の主張であり,被告人Bの弁護人國廣正ほか
の上告趣意は,憲法違反をいう点を含め,実質は事実誤認,単なる法令違反の主張
であり,被告人Cの弁護人更田義彦ほかの上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう
点を含め,実質は事実誤認,単なる法令違反の主張であって,いずれも刑訴法40
5条の上告理由に当たらない。
しかしながら,所論にかんがみ,職権をもって調査すると,原判決及び第1審判
決は,刑訴法411条1号,3号により破棄を免れない。その理由は,以下のとお
りである。
1本件公訴事実の要旨は,「被告人Aは,平成7年4月28日から平成10年
9月28日までの間,東京都千代田区内に本店を置き長期信用銀行業務等を目的と
する長期信用銀行で,発行する株式が東京証券取引所第1部等に上場されている株
式会社日本長期信用銀行(以下「長銀」という。)の代表取締役頭取であった者,
被告人Bは,平成9年10月1日から平成10年8月21日までの間,長銀の代表
取締役副頭取であった者,被告人Cは,平成9年10月1日から平成10年3月3
1日までの間,長銀の代表取締役副頭取であった者であるが,被告人3名は共謀の
上,第1長銀の業務に関し,平成10年6月29日,大蔵省関東財務局長に対
し,長銀の平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度(以下「平
成10年3月期」ともいう。)の決算には5846億8400万円の当期未処理損
失があったのに,取立不能のおそれがあって取立不能と見込まれる貸出金合計31
30億6900万円の償却又は引当をしないことにより,これを過少の2716億
1500万円に圧縮して計上した貸借対照表,損益計算書及び利益処分計算書を掲
載するなどした上記事業年度の有価証券報告書を提出し,もって,重要な事項につ
き虚偽の記載のある有価証券報告書を提出し,第2長銀の上記事業年度の決算に
は,上記のとおり,5846億8400万円の当期未処理損失があって株主に配当
すべき剰余金は皆無であったのに,平成10年6月25日,長銀本店で開催された
同社の定時株主総会において,上記当期未処理損失2716億1500万円を基
に,任意積立金を取り崩し,1株3円の割合による総額71億7864万7455
円の利益配当を行う旨の利益処分案を提出して可決承認させ,そのころ,同社の株
主に対し,配当金合計71億6660万2360円を支払い,もって,法令に違反
して利益の配当をした」というものである。
上記の当期未処理損失は専ら関連ノンバンク及びこれと密接な関連のある会社で
長銀の関連親密先とされるものに対する貸出金に係るものであるところ,検察官
は,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)32条2項にいう「公正
ナル会計慣行」としては,後記資産査定通達等によって補充される改正後の決算経
理基準のみがこれに該当し,これによれば長銀には平成10年3月期に公訴事実記
載の未処理損失がある旨を主張した。そして,第1審は,公訴事実どおりの事実を
認定して,被告人Aに対し懲役3年,4年間執行猶予,同Bに対し懲役2年,3年
間執行猶予,同Cに対し懲役2年,3年間執行猶予の各判決を言い渡し,原審は,
事実誤認,法令適用の誤り等を理由とする各被告人の控訴をいずれも棄却した。
2原判決の認定及び記録によれば,本件の事実経過は以下のとおりである。
(1)大蔵省(当時。以下同じ。)は,銀行法(昭和56年法律第59号)の施
行に伴い,昭和57年4月に「普通銀行の業務運営に関する基本事項等について」
と題する通達(いわゆる「基本事項通達」。昭和57年4月1日付け蔵銀第901
号)を発出したが,その中に経理関係として,普通銀行の会計処理の基準となるべ
き「決算経理基準」を定めており,この通達の発出以降,普通銀行は,当該経理基
準のもとで,いわゆる税法基準(銀行の貸出金については,回収不能又は回収不能
見込みとして,法人税法上,損金算入が認められる額(昭和44年5月1日付け直
審(法)25「法人税基本通達」(平成10年課法2−7による改正前のもの)9
−6−4等参照)につき,当期に貸倒償却・引当をする義務があるとされていたと
ころ,銀行の関連ノンバンク等関連会社(以下「関連ノンバンク等」という。)に
対する貸出金は,銀行がこれらに対し追加的な支援を予定している場合には,原則
として回収不能見込み等とすることはできないが,銀行による金融支援が一定の要
件を満たす場合には,上記「法人税基本通達」(平成10年課法2−6による改正
前のもの)9−4−2に基づき当期における債権放棄などの確定支援損の限度で,
寄附金としての処理をしないで,支援損として損金算入することが認められていた
ことに依拠して,銀行が関連ノンバンク等に対する金融支援を継続する限りは,毎
期において確定支援損として損金算入が認められる範囲で段階的な処理を行うこと
ができるというもの)に従った会計処理を行い,長期信用銀行においても,この基
本事項通達を準用する取扱いにより,同様の会計処理を行っていた。したがって,
銀行の関連ノンバンク等に対する貸出金については,一般取引先に対する貸出金と
は異なり,銀行が関連ノンバンク等に対する金融支援を継続する限りは,償却・引
当はほとんど行われていなかった。
(2)平成6年,平成7年における金融機関の経営破綻を契機として,大蔵大臣
の諮問機関である金融制度調査会は,金融システム安定化委員会を設置し,同年1
2月22日,金融機関経営の健全性の確保のための方策として「ディスクロージャ
ーの推進」と「早期是正措置の導入」等の提言を内容とする「金融システム安定化
のための諸施策」を大蔵大臣に答申した。また,大蔵省の金融検査・監督等に関す
る委員会も,同月26日,「今後の金融検査・監督等のあり方と具体的改善策につ
いて」と題する報告書を作成し,公表した。
(3)これらの提言等を受けて,平成8年6月21日,「金融機関等の経営の健
全性確保のための関係法律の整備に関する法律」など,いわゆる金融3法が成立し
公布され,これにより銀行法及び長期信用銀行法等の一部が改正され,銀行経営の
健全性を確保するための金融行政当局による監督手法として,平成10年4月1日
以降「早期是正措置制度」が導入されることとなった。
(4)平成8年9月,金融3法の成立を受けて,大蔵省銀行局長の私的研究会と
して,「早期是正措置に関する検討会」が発足し,同検討会は,同年12月26
日,自己査定ガイドラインの原案などを内容とする「中間とりまとめ」を作成し,
公表した。
(5)大蔵省大臣官房金融検査部長は,「早期是正措置に関する検討会」におけ
る検討を踏まえ,平成9年3月5日付けで,各財務(支)局長,沖縄総合事務局長
及び金融証券検査官あてに「早期是正措置制度導入後の金融検査における資産査定
について」と題する通達(以下「資産査定通達」という。)を発出した。この通達
には,金融機関が行う資産の自己査定は,金融機関が適正な償却・引当を行うため
の準備作業として重要な役割を果たすことになること,早期是正措置制度は平成1
0年4月から導入され,導入後の金融検査においては,金融機関の自己査定の基準
が明確かどうか,その枠組みがこの通達で示される枠組みに沿っているかどうかに
ついて把握し,当該基準に従って適切に自己査定が行われているかどうかチェック
することとなるが,導入されるまでの間における金融検査においても,金融機関の
自己査定のための体制整備の進展状況等について把握するよう努められたい旨の記
載がある。資産査定通達は,金融証券検査官が各銀行の実施した自己査定に対する
検査を適切かつ統一的に行い得るよう作成されたものであり,金融機関にも公表さ
れていた。
(6)資産査定通達が発出されたことを受けて,全国銀行協会連合会の融資業務
専門委員会は,各銀行が自己査定をする際の参考となるよう,資産査定通達の内容
についての一般的な考え方を「『資産査定について』に関するQ&A」(以下「資
産査定Q&A」という。)にまとめ,平成9年3月12日付けで,全国の金融機関
に送付した。
(7)日本公認会計士協会は,資産査定通達の考え方を踏まえて,平成9年4月
15日付けで,銀行等監査特別委員会報告第4号「銀行等金融機関の資産の自己査
定に係る内部統制の検証並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」
(以下「4号実務指針」という。)を作成し,公表した。これは,自己査定制度の
整備状況の妥当性及び査定作業の査定基準への準拠性を確かめるための実務指針を
示すとともに,貸倒償却及び貸倒引当金の計上に関する監査を実施する際の取扱い
をまとめたものであった。この指針は,平成9年4月1日以降開始する事業年度に
係る監査から適用するものとされた。
(8)大蔵省大臣官房金融検査部管理課長は,平成9年4月21日付けで,金融
証券検査官等にあてて,「金融機関等の関連ノンバンクに対する貸出金の査定の考
え方について」と題する事務連絡(以下「9年事務連絡」という。)を発出した。
これは,関連ノンバンクに対する貸出金について,関連ノンバンクの体力の有無,
親金融機関等の再建意思の有無,関連ノンバンクの再建計画の合理性の有無等を総
合的に勘案して査定することを内容としていたが,金融機関一般には公表されてい
なかった。
(9)9年事務連絡の発出を受けて,全国銀行協会連合会の融資業務専門委員会
は,いわゆる関連ノンバンク向け貸出金についての資産査定に関して,9年事務連
絡の内容についての一般的な考え方を「『資産査定について』に関するQ&Aの追
加について」(以下「追加Q&A」という。)としてとりまとめ,平成9年7月2
8日付けで,全国の金融機関に送付した。
(10)大蔵省銀行局長は,長銀の代表取締役頭取にあてて,平成9年7月31日
付けで,「『普通銀行の業務運営に関する基本事項等について』通達の一部改正に
ついて」(蔵銀第1714号)及び「長期信用銀行の業務運営に関する基本事項等
について」(蔵銀第1729号)と題する各通達を発出し,基本事項通達の一部を
改正することとした旨及び長期信用銀行の業務運営については一部の事項を除き改
正された基本事項通達によるものとする旨を通達した。基本事項通達の改正におい
ては,決算経理基準の中の「貸出金の償却」及び「貸倒引当金」の規定などが改正
された(以下,改正された決算経理基準を「改正後の決算経理基準」という。)。
そこでは,回収不能と判定される貸出金等については債権額から担保処分可能見込
額及び保証による回収可能額を減算した残額を償却・引当すること,最終の回収に
重大な懸念があり損失の発生が見込まれる貸出金等については債権額から担保処分
可能見込額及び保証による回収可能額を減算した残額のうち必要額について引当す
ること,これら以外の貸出金等について,貸倒実績率に基づき算定した貸倒見込額
の引当をすることなどを定めていた。この定めは,本営業年度(平成9年に係る営
業年度)の年度決算から適用することとされた。
(11)長銀では,事業推進部が関連ノンバンクを含む長銀の関連親密先とされる
会社に対する貸出金に関する自己査定基準の策定を担当した。事業推進部では,自
己資本比率(BIS比率)の維持を図るなどのため,償却・引当の財源を見据え,
平成9年6月30日を基準日として実施された自己査定トライアル及び同年12月
31日を基準日として実施された自己査定本番における各査定状況等を踏まえて,
当初策定した基準案に償却・引当が緩和されることとなる数度の修正を加え,平成
10年3月30日,それ以外の「一般先」とは異なる査定基準を内容とする「特定
関連親密先自己査定運用細則」及び「関連ノンバンクにかかる自己査定運用規則」
を確定させた。
(12)長銀は,平成10年3月期決算について,上記運用細則ないし運用規則に
従って,関連ノンバンクを含む長銀の関連親密先とされる会社に対する貸出金の資
産分類,償却・引当の実施の有無を査定したが,その自己査定は(1)で述べた改正
前の決算経理基準のもとでのいわゆる税法基準によれば,これを逸脱した違法なも
のとは直ちには認められないが,資産査定通達,4号実務指針及び9年事務連絡
(以下,これらを「資産査定通達等」という。)によって補充される改正後の決算
経理基準の方向性からは逸脱する内容となっていた。
(13)長銀では,上記自己査定の結果に基づいて策定された平成10年3月期決
算の基本方針を同年3月31日の常務会で承認し,同期決算案を同年4月28日の
取締役会などで承認した。そして,同年6月25日に開催された定時株主総会にお
いて,同期営業報告書,貸借対照表,損益計算書を報告するとともに,当期未処理
損失が2716億円余りであることを前提に任意積立金を取り崩し,1株当たり3
円の割合による利益配当を行う旨の利益処分計算書案を議案として提出し,可決承
認された。そして,これに基づき,そのころ,長銀の株主に対し,合計71億円余
りの配当が支払われた。
(14)その後,長銀は,平成10年3月期に係る有価証券報告書を完成させ,平
成10年6月29日,大蔵省関東財務局長あてにこれを提出した。
3事実経過は以上のとおりであるところ,原判決は第1審判決を是認して被告
人らに対し虚偽記載有価証券報告書提出罪及び違法配当罪の成立を認めたものであ
るが,その理由の要旨は,次のとおりである。
(1)資産査定通達等及び改正後の決算経理基準は,金融機関の健全性を確保す
る目的で,平成10年4月1日から導入される早期是正措置制度を有効に機能させ
るために必要な金融機関の資産内容の査定方法や適正な償却・引当の方法を明らか
にし,それにより資産内容の実態を正確かつ客観的に反映した財務諸表を作成する
ことを目指して策定されたものといえ,しかも全国銀行協会連合会等を通じて金融
機関にその内容が公表・送付され,周知徹底が図られてきた。資産査定通達等が示
す資産査定の方法,償却・引当の方法等は,金融機関の貸出金等の償却・引当に関
する合理的な基準であり,基準としても明確なものであり,同様の趣旨・目的のも
とに発せられた基本事項通達の一部改正通達における改正後の決算経理基準の内容
を補充するものとみることができる。
(2)資産査定通達等は,本件当時(平成10年3月期決算時)における「公正
ナル会計慣行」そのものではなく,これを推知するための有力な判断資料ともいう
べき性格のものと考えられるが,金融検査官は資産査定通達,9年事務連絡に従っ
て検査をし,会計監査法人は4号実務指針に従って監査をし,金融機関側でも,
「資産査定Q&A」,「追加Q&A」を作成してその周知を図っており,資産査定
通達等の発出から平成10年3月の決算時までに約1年あって周知の期間も確保さ
れていること,本件当時,金融機関においては,従来に比してより透明性の高い明
確な資産査定等による会計処理が求められるに至っていたことに照らすと,本件当
時においては,資産査定通達等の定める基準に基本的に従うことが「公正ナル会計
慣行」となっており,資産査定通達等の趣旨に反し,その定める基準から大きく逸
脱する会計処理は,「公正ナル会計慣行」に従ったものとはいえない。従前「公正
ナル会計慣行」として容認されていた税法基準による会計処理や,関連ノンバンク
等についての段階的処理等を容認していた従来の会計処理はもはや「公正ナル会計
慣行」に従ったものではなくなった。言い換えると,資産査定通達等の示す基準に
基本的に従うことが唯一の「公正ナル会計慣行」である。
(3)長銀の作成した自己査定基準は,「関連親密先に係る債務者区分」,「長
銀のみが取引銀行である関連ノンバンクに対する資産査定」,「『特定先』に当た
る関連親密先とその債務者区分」,「関連ノンバンク等の関係会社向け貸出金の査
定」,「関連ノンバンクに対する賃貸借型貸付有価証券の査定」の各点において,
資産査定通達等の趣旨に反し,その定める基準を大きく逸脱したもので,許されな
いものである。
(4)資産査定通達等の示す基準に従えば,長銀においては,平成10年3月期
の決算について5846億円余りの当期未処理損失があったと認められるところ,
被告人らは,いまだ数千億円にも上る未処理損失があることを認識しながら,上記
の自己査定基準に基づき,当期未処理損失を過少の2716億円余りとする平成1
0年3月期決算を策定して取締役会等で承認しており,本件虚偽記載有価証券報告
書提出罪に関する故意の存在及びその共謀の成立を認めることができ,また圧縮し
た数千億円にも上る未処理損失を考慮すると,株主に配当することができる剰余金
は存在しないのに,被告人らはこのような事情を認識しながら,虚偽の内容を記載
した財務諸表及び利益処分計算書等を取締役会等で承認した上で,株主総会に提出
して承認可決させ,株主への配当を実施しているから,違法配当罪に関する故意の
存在及びその共謀の成立を認めることができる。
4しかしながら,原判決の上記判断は是認することができない。その理由は,
次のとおりである。
(1)原判決は,前記3のとおり,平成10年3月期の決算の当時においては,
資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準に基本的に従うことが唯
一の公正なる会計慣行となっており,改正前の決算経理基準のもとでのいわゆる税
法基準による会計処理では公正なる会計慣行に従ったことにはならないというもの
である。
しかしながら,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準は,金
融機関がその判断において的確な資産査定を行うべきことが強調されたこともあっ
て,以下に述べるとおり,大枠の指針を示す定性的なもので,その具体的適用は必
ずしも明確となっておらず,取り分け,別途9年事務連絡が発出されたことなどか
らもうかがえるように,いわゆる母体行主義を背景として,一般取引先とは異なる
会計処理が認められていた関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に
関しては,具体性や定量性に乏しく,実際の資産査定が容易ではないと認められる
上,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準が関連ノンバンク等
に対する貸出金についてまで同基準に従った資産査定を厳格に求めるものであるか
否か自体も明確ではなかったことが認められる。すなわち,記録によれば,
ア改正後の決算経理基準は,前記2(10)記載のとおり,回収不能と判定される
貸出金等に関する償却ないし引当,最終の回収に重大な懸念があり損失の発生が見
込まれる貸出金等に関する必要額の引当,これら以外の貸出金等に関する貸倒実績
率に基づき算定した貸倒見込額の引当などについて定めているが,それ自体は具体
的かつ定量的な基準とはなっていなかった。
イ資産査定通達についても,定性的かつガイドライン的なものである上,同通
達において初めて導入された債務者区分の概念は,例えば「破綻懸念先」の定義に
おいて,「(中略)自行(庫・組)としても消極ないし撤退方針としており,今
後,経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる先をいう」として,母体行主義の
もとにおける関連ノンバンク等に対する貸出金についてこれまで採られていた資産
査定方法を前提とするような表現が含まれているなど,関連ノンバンク等に対する
貸出金についての資産査定に関してまで資産内容の実態を客観的に反映させるとい
う資産査定通達の趣旨を徹底させるものか否かが不明確であった。また,9年事務
連絡は,一般取引先とは異なる関連ノンバンクに対する貸出金についての資産査定
の考え方を取りまとめたものであるが,その内容も具体的かつ定量的な基準を示し
たものとはいえない上,前記追加Q&Aに反映はされていたものの,金融機関一般
には公表されていなかった。
ウ4号実務指針については,具体的な計算の規定と計算例がないなど,これに
基づいた償却・引当額の計算が容易ではなく,また,資産分類(分類Ⅰ∼Ⅳ)につ
いて触れた規定がなく,債務者区分,資産分類,引当金算定の関係が必ずしも明確
でないなど,結局,定性的な内容を示すにとどまり,資産査定に当たって定量的な
償却・引当の基準として機能し得るものとなっていなかった上,銀行の関連ノンバ
ンク等に対する貸出金についてまでその対象とするものであれば,それまでの取扱
いからして,明確とされていてしかるべきところの,将来発生が見込まれる支援損
(支援に要する費用)につき引当を要するのか否かが明確にされていないなど(平
成11年4月の金融検査マニュアルにおいては,支援に伴い発生が見込まれる損失
見込額に相当する額を特定債務者支援引当金として計上することなどが定められる
とともに,これを受けて4号実務指針も改正され,上記部分が明確にされた。),
関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に関してまで4号実務指針の
対象とすることを徹底して求めるものか否か必ずしも明らかでなかった。
エ加えて,資産査定通達等の目指す決算処理のために必要な措置と考えられて
いた税効果会計(企業会計上の資産又は負債の金額と課税所得計算上の資産又は負
債の金額との間に差違がある場合において,当該差違に係る法人税等の金額を適切
に期間配分することにより,法人税等を控除する前の当期純利益の金額と法人税等
の金額を合理的に対応させることを目的とする会計処理)が導入されていなかった
本件当時においては,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準に
従って有税による貸出金の償却・引当を実施すると,その償却・引当額につき当期
利益が減少し,自己資本比率(BIS比率)の低下に直結して市場の信認を失い,
銀行経営が危たいにひんする可能性が多分にあった。
オ以上のようなことから,平成10年3月期の決算に関して,多くの銀行で
は,少なくとも関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に関して,厳
格に資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準によるべきものとは
認識しておらず,現に長銀以外の同期の各銀行の会計処理の状況をみても,大手行
18行のうち14行は,長銀と同様,関連ノンバンク等に対する将来の支援予定額
については,引当金を計上しておらず,これを引当金として計上した銀行は4行に
過ぎなかった。また,長銀及び株式会社D銀行の2行は要償却・引当額についての
自己査定結果と金融監督庁の金融検査結果とのかい離が特に大きかったものの,他
の大手行17行に関しても,総額1兆円以上にのぼる償却・引当不足が指摘されて
いたことなどからすると,当時において,資産査定通達等によって補充される改正
後の決算経理基準は,その解釈,適用に相当の幅が生じるものであったといわざる
を得ない。
(2)このように,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準
は,特に関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に関しては,新たな
基準として直ちに適用するには,明確性に乏しかったと認められる上,本件当時,
関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に関し,従来のいわゆる税法
基準の考え方による処理を排除して厳格に前記改正後の決算経理基準に従うべきこ
とも必ずしも明確であったとはいえず,過渡的な状況にあったといえ,そのような
状況のもとでは,これまで「公正ナル会計慣行」として行われていた税法基準の考
え方によって関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定を行うことをも
って,これが資産査定通達等の示す方向性から逸脱するものであったとしても,直
ちに違法であったということはできない。
5そうすると,長銀の本件決算処理は「公正ナル会計慣行」に反する違法なも
のとはいえないから,本件有価証券報告書の提出及び配当につき,被告人らに対
し,虚偽記載有価証券報告書提出罪及び違法配当罪の成立を認めた第1審判決及び
これを是認した原判決は,事実を誤認して法令の解釈適用を誤ったものであって,
破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
よって,刑訴法411条1号,3号により原判決及び第1審判決を破棄し,同法
413条ただし書,414条,404条,336条により被告人3名に対しいずれ
も無罪の言渡しをすることとし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決す
る。なお,裁判官古田佑紀の補足意見がある。
裁判官古田佑紀の補足意見は,次のとおりである。
私は,平成10年3月期における長銀の本件決算処理が,当時の会計処理の基準
からして直ちに違法とすることはできないとする法廷意見に与するものであるが,
以下の点を補足して述べておきたい。
本件は,当時,銀行の財務状態を悪化させる原因であるいわゆる不良債権の相当
部分を占めていた関連ノンバンク及びその不良担保の受皿となっていた会社など関
連ノンバンクと密接な業務上の関係を有する企業グループに対する貸付金等の評価
に関する事案である。
関連ノンバンクについては,母体行主義が存在していたため,母体行である銀行
は,自行の関連ノンバンクに対し,原則として積極的支援をすることが求められる
立場にあったと認められるところ,税法基準においては,積極的支援先に対する貸
付金には原則として回収不能と評価することはできないという考え方が取られてお
り,この考え方からは,関連ノンバンクに対する貸付金を回収不能とすることは困
難であったと思われる。
本件当時,関連ノンバンクに対する貸付金の評価については,関連ノンバンクの
体力の有無,母体行責任を負う意思の有無等によって区分して評価することとした
9年事務連絡が発出され,これを反映した全国銀行協会連合会作成の追加Q&Aが
発表されているものの,同事務連絡自体は公表されておらず,内部文書にとどまっ
ていることからすれば,これに金融機関を義務付けるような効果を認めることは困
難であり,また,その適用においても金融機関において相当の幅が生じることが予
想されるものであったと考えられる。
そうすると,本件における長銀の関連ノンバンク等に対する貸付金の査定基準
は,貸付先の客観的な財務状態を重視する資産査定通達の基本的な方向には合致し
ないものであるとしても,法廷意見も指摘するとおり,母体行主義のもとにおける
関連ノンバンク等に対する貸出金についてこれまで採られていた資産査定方法を前
提とするような表現があるなど,少なくとも関連ノンバンクに関しては,同通達
上,税法基準の考え方による評価が許容されていると認められる余地がある以上,
当時として,その枠組みを直ちに違法とすることには困難がある。
もっとも,業績の深刻な悪化が続いている関連ノンバンクについて,積極的支援
先であることを理由として税法基準の考え方により貸付金を評価すれば,実態との
かい離が大きくなることは明らかであると考えられ,長銀の本件決算は,その抱え
る不良債権の実態と大きくかい離していたものと推認される。このような決算処理
は,当時において,それが,直ちに違法とはいえず,また,バブル期以降の様々な
問題が集約して現れたものであったとしても,企業の財務状態をできる限り客観的
に表すべき企業会計の原則や企業の財務状態の透明性を確保することを目的とする
証券取引法における企業会計の開示制度の観点から見れば,大きな問題があったも
のであることは明らかと思われる。
検察官大鶴基成公判出席
(裁判長裁判官中川了滋裁判官津野修裁判官今井功裁判官
古田佑紀)

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
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ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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