弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     本件を福岡地方裁判所小倉支部に差し戻す。
         理    由
 上告代理人倉増三雄の上告理由について
 株式を相続により準共有するに至った共同相続人は、商法二〇三条二項の定める
ところに従い、右株式につき「株主ノ権利ヲ行使スベキ者一人」(以下「権利行使
者」という)を定めて会社に通知し、この権利行使者において株主権を行使するこ
とを要するところ(最高裁昭和四二年(オ)第八六七号同四五年一月二二日第一小
法廷判決・民集二四巻一号一頁参照)、右共同相続人が準共有株主としての地位に
基づいて同法四一五条による合併無効の訴えを提起する場合も、右と理を異にする
ものではないから、権利用者としての指定を受けてその旨を会社に通知していない
ときは、特段の事情がない限り、原告適格を有しないものと解するのが相当である。
 しかしながら、合併当事会社の株式を準共有する共同相続人間において権利行使
者の指定及び会社に対する通知を欠く場合であっても、共同相続人の準共有に係る
株式が双方又は一方の会社の発行済株式総数の過半数を占めているのに合併契約書
の承認決議がされたことを前提として合併の登記がされている本件のようなときは、
前述の特段の事情が存在し、共同相続人は、右決議の不存在を原因とする合併無効
の訴えにつき原告適格を有するものというべきである。けだし、商法二〇三条二項
は、会社と株主との関係において会社の事務処理の便宜を考慮した規定であるとこ
ろ、本件に見られるような場合には、会社は、本来、右訴訟において、株式を準共
有する共同相続人により権利行使者の指定及び会社に対する通知が履践されたこと
を前提として、合併契約書を承認するための同法四〇八条一項、三項所定の株主総
会の開催及びその総会における同法三四三条の規定による決議の成立を主張・立証
すべき立場にあり、それにもかかわらず、他方、右手続の欠缺を主張して、訴えを
提起した当該共同相続人の原告適格を争うということは、右株主総会の瑕疵を自認
し、また、本案における自己の立場を否定するものにほかならず、同法二〇三条二
項の規定の趣旨を同一訴訟手続内で恣意的に使い分けるものとして、訴訟上の防御
権を濫用し著しく信義則に反して許されないからである。
 記録によれば、(一) 上告人の本件訴えは、(1) Dは、合併前の被上告会社の
株式四〇〇〇株及びEビル株式会社(以下「Eビル」という)の株式五〇四〇株を
所有していたところ、昭和六〇年二月二三日死亡し、上告人外三名が右各株式を共
同相続した、(2) 被上告会社とEビルは、昭和六一年一〇月一日、両会社が合併
して被上告会社は存続しEビルは解散する旨の合併契約を締結し、右合併に係る変
更の登記を了した、(3) しかし、合併前の被上告会社及びEビルの各株主総会に
おける合併契約書の承認決議並びに被上告会社の株主総会における合併に関する事
項の報告がされた事実は存在しない旨主張して、被上告会社に対し、合併の無効を
求めるものであること、(二) これに対し、被上告会社は、右各株式の遺産分割は
未了であり、これにつき権利行使者を定めてその旨被上告会社に通知する手続もさ
れていないとして上告人の原告適格を争っていること、(三) 合併前のEビルの発
行済株式の総数は八〇〇〇株であり、上告人らの共同相続に係る株式はその過半数
を占めることが明らかである。そうすると、前記説示に照らし、本件においては、
上告人が合併無効の訴えを提起しうる特段の事情が存在するものというべきである
から、上告人の原告適格を否定して本件訴えを却下すべきものとした第一審判決及
びこれを維持した原判決は、いずれも法律の解釈適用を誤ったものといわざるを得
ず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は、この趣旨をいうも
のとして理由があり、原判決及び第一審判決は、破棄又は取消しを免れず、本件を
第一審裁判所に差し戻すべきである。
 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八八条に従い、裁判官全員一致の意見で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    貞   家   克   己
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    佐   藤   庄 市 郎

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