弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告人株式会社A1商店訴訟代理人木村保男、同的場悠紀の上告理由および上告
人株式会社A2商店訴訟代理人原田甫の上告理由について。
 原判決は、被上告人において本件(一)ないし(三)の各約束手形を取得した事情に
関し上告人らが提出した信託法違反の抗弁の成否を判断するに際して、訴外株式会
社D商店(以下「D商店」という。)は訴外株式会社E商店(以下「E商店」とい
う。)に対して約三〇〇万円の債権を有していたが、E商店の倒産当時、上告人ら
ほか同商店の債権者がいちはやく在庫商品を持ち帰るなどして債権の回収をはかつ
たのに、D商店は全然その債権の回収をしえなかつたこと、被上告人はD商店の代
表者Fの親戚であつて、同人を頼つて郷里から来阪し、D商店に勤務し、当時月給
三万円余で、妻、子供二人とともに右F経営のアパートに無料で住み、被上告人の
妻が右アパートの管理に当たつて一カ月一万円の手当を受けているのみで、他に格
別の資産を有するものではないこと、および被上告人は本件各手形を取得するに当
たり、振出人である上告人らの資産、信用状態、手形の性質等については仲介人の
言を聞いただけで特に調査していないことを認定しながら、なお本件各手形は、E
商店の倒産後で各手形の満期前である昭和三七年三、四月頃、同商店の整理に当た
つていたGが割引依頼先のH銀行から他の手形とともに返還を受け、その際被上告
人から金五六万円を受領し、これを他の一通の手形とともに被上告人に裏書譲渡し
た旨認定判示して、上告人らの抗弁を排斥している。しかし、被上告人の請求にか
かる本件各手形の額面金額は、上告人A2商店の振出にかかる(一)、(二)の各手形
が三二万一三九五円と七万二九〇三円、上告人A1商店の振出にかかる(三)の手形
が九万二七〇六円であつて、その合計金額は四八万七〇〇四円となるが、被上告人
が右三通の手形とともに裏書譲渡を受けた旨原審が認定する他の一通の手形の額面
金額は、第一審および原審における被上告人本人尋問の結果によつて、五万円余ま
たは五万円程であつたことが窺われるほかに格別の証拠は存在しないから、それら
の合計金額は五三万七〇〇〇円位となるにすぎない。ところが、本件手形四通の裏
書譲渡を受けた被上告人は、その動機について、或る程度貯金ができたので利息で
儲けたい慾もあつた旨供述しているけれども、もし右のとおりであるとすると、手
形金額は割引により被上告人がE商店に交付した金額より少額になるのであつて、
かようなことは一般の経済取引上の通念としては特段の事情のないかぎり首肯でき
るところではなく、まして、手形の割引に当たつてはその時から各手形の満期まで
の利息が控除さるべきこと、被上告人本人は右割引金の出所についてみずから貯金
した銀行預金である旨供述していること、被上告人とE商店との間に従来とくに経
済的援助をしなければならない格別の関係があつたとは認められないことなどを考
慮すると、被上告人が自己の出捐により前記五六万円の金員を支払つて本件手形を
取得したとすることには強い疑問を抱かざるをえない。のみならず、甲第一ないし
第三号証(本件各手形)によると、各手形の第一裏書の被裏書人欄はともに「株式
会社H銀行」なる文字が抹消され、「B」なる文字が記入されており、原審認定の
事実関係に照らすと、右は、いつたん受取人であるE商店からH銀行に割引によつ
て裏書譲渡された後、E商店において割引金を支払つて返還を受けたうえ「株式会
社H銀行」なる記載を抹消し、さらに何人かがその欄を利用して被裏書人として「
B」の文字を記入したものであることが窺われるが、右「B」なる被裏書人の氏名
がE商店によつて記入されたことを窺うに足りる証拠はなく、かえつて原判決挙示
の証人I、同Gの各証言によれば、本件手形がE商店から被上告人に交付されたも
のであるとしても、前記第一裏書の被裏書人欄の「株式会社H銀行」なる文字は抹
消されたが、これに代わる「B」の文字は記入されないままの状態で交付されたも
のであることが窺われるから、被上告人はみずから被裏書人として譲渡を受けたの
ではなく、D商店の使者ないし代理人として交付を受けたものと認定する余地も多
分に存在するのである。そして、右の事情と原審が認定したD商店とE商店との債
権関係、D商店代表者と被上告人との身分関係、生活関係、本件手形の取得に際し
被上告人が上告人の資産、信用状態について格別の調査をしなかつた事情等にかん
がみると、本件手形はD商店がE商店から取得したものであるが、上告人ら主張の
ような事情で、D商店において上告人をしてその取立をなさしめていることも十分
考ええられるところである。それゆえ、上告人ら主張の事情の存在を否定して真実
被上告人においてE商店から本件手形を取得したと認定するためには、これを首肯
せしめるに足りる事情について十分審理、判断を加うべきものといわねばならない。
しかるに、原審が、さきに説示したような手形の額面金額と割引交付額との不均衡
をも無視し、卒然として被上告人において裏書譲渡を受けた旨の認定をして、上告
人らの抗弁を排斥したのは、審理不尽、理由不備の違法があるものというべきであ
るから、論旨はいずれも理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、上告人が
本件各手形を取得した事情についてはなお審理を尽したうえ、上告人の抗弁の採否
を決する必要があると認められるので、本件を原審に差し戻すべきである。
 よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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