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平成22年8月26日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成20年(ワ)第8761号意匠権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成22年5月24日
判決
原告株式会社カクマル
同訴訟代理人弁護士武末昌秀
被告株式会社コノエ測器
同訴訟代理人弁護士辻本希世士
同笠鳥智敬
同松田さとみ
同補佐人弁理士辻本一義
同窪田雅也
同神吉出
同上野康成
同森田拓生
主文
1被告は,別紙被告物件目録1及び3記載の各製品を,製造し,販売しては
ならない。
2被告は,前項の各製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,181万3120円及びこれに対する平成20年7
月15日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
4原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5訴訟費用は,これを6分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負
担とする。
6この判決は,1,3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告
(1)被告は,別紙被告物件目録1ないし4記載の各製品を,製造し,販売し
てはならない。
(2)被告は,前記(1)の各製品を廃棄せよ。
(3)被告は,原告に対し,1200万円及びこれに対する平成20年7月1
5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(4)訴訟費用は,被告の負担とする。
(5)仮執行宣言
2被告
(1)原告の請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は,原告の負担とする。
第2事案の概要
1前提事実
(1)当事者
ア原告
原告は,測量資材の販売等を目的とする株式会社である。
イ被告
被告は,鋲螺製品の販売等を目的とする株式会社である。
(2)本件意匠権1と被告各プレート
ア本件意匠権1(甲1の1・2)
原告は,次の意匠権(以下「本件意匠権1」といい,その登録意匠を
本件登録意匠1というまた本件意匠権1にかかる意匠登録を本「」。,「
件意匠登録1というを有しておりその実施品以下原告プレー」。),(「
ト」という)を製造・販売している。。
登録番号第1280893号
出願日平成18年1月6日
登録日平成18年7月28日
意匠に係る物品測量地点明示プレート
本件登録意匠1別紙本件登録意匠1目録記載のとおり
イ被告各プレート
被告は,本件登録意匠1の登録後において,別紙被告物件目録1記載
の測量地点明示プレート(以下「被告旧プレート」といい,その意匠を
「被告旧プレート意匠」という)の製造・販売を開始し,その後,別。
(「」紙被告物件目録2記載の測量地点明示プレート以下被告新プレート
といいその意匠を被告新プレート意匠というまた被告旧プレー,「」。,
トと被告新プレートとを併せて被告各プレートといい被告旧プレー「」,
「」。)ト意匠と被告新プレート意匠とを併せて被告各プレート意匠という
の製造・販売を開始した(品番及びコード番号につき甲17の3。)
(3)本件意匠権2と被告各座金
ア本件意匠権2(甲2の1・2)
原告は,次の意匠権(以下「本件意匠権2」といい,その登録意匠を
本件登録意匠2というまた本件意匠権2にかかる意匠登録を本「」。,「
」。),(「」件意匠登録2というを有しておりその実施品以下原告座金
といい,原告プレートと併せて「原告製品」という)を製造・販売し。
ている。
登録番号第1284564号
出願日平成18年2月6日
登録日平成18年9月8日
意匠に係る物品測量地点記憶タグ収容座金
本件登録意匠2別紙本件登録意匠2目録記載のとおり
イ被告各座金
被告は,本件登録意匠2の登録後において,別紙被告物件目録3記載
の測量地点記憶タグ収容座金(以下「被告旧座金」といい,その意匠を
「被告旧座金意匠」という)の製造・販売を開始し,その後,別紙被。
告物件目録4記載の測量地点記憶タグ収容座金(以下「被告新座金」と
いい,その意匠を「被告新座金意匠」という。また,被告旧座金と被告
新座金とを併せて「被告各座金」といい,被告旧座金意匠と被告新座金
意匠とを併せて「被告各座金意匠」という)の製造・販売を開始した。
(品番及びコード番号につき甲17の3。)
(4)測量地点明示プレートと測量地点記憶タグ収容座金の関係
国土交通省では,道路基準点の整備を行っていた。各基準点は,それぞ
れ基本的な情報(路線,上下線,現旧区分,KP,緯度・経度,設置年月
日等)を有していたが,国土交通省は,上記情報をウェブサイトに公開す
るだけでなく,ICタグを道路基準点に付加し,上記情報をICタグに書
き込むことを計画し(その結果,現地でリーダーを使ってICタグに書き
込まれた情報を読み取ることができる,平成18年3月,その整備方。)
(),()(,針素案を作成し同年12月までに整備方針案を作成した甲9
11,12。)
この計画に従い,その後設置される道路基準点には,ICタグを収容で
きる道路基準点用のプレートにICタグを収容したものを設置することに
なった。また,ICタグを収容することのできる座金(後付用金属鋲)を
別途作り,従来のプレートに上記座金の収容孔を穿ち(座金の切り込みに
合う,切り込みをプレートの収容孔と外周との間に設ける必要がある,。)
ICタグを収容した座金をプレートに収容してこれを設置したり(甲2の
1,また,既に設置された道路基準点用のプレートの隣接する地点にI)
Cタグを装着した座金を直接設置する方法も併用された(甲9。)
本件登録意匠1は,上記ICタグを収容することのできる測量地点明示
プレートに関する意匠であり,本件登録意匠2は,上記ICタグを収容す
ることのできる座金(後付用金属鋲)に関する意匠である。
2原告の請求
原告は,被告に対し,本件意匠権1及び2に基づき,被告各プレート及び
被告各座金の製造・販売の差止及び廃棄を,本件意匠権1及び2侵害の不法
行為に基づき,1200万円の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌
日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求め
ている。
3争点
(1)本件意匠権1の侵害について(争点1)
ア被告各プレート意匠は,本件登録意匠1と類似するか(争点1-1)
イ本件意匠登録1は,新規性欠如ないし容易創作の無効原因を有してお
り,意匠登録無効審判により無効にされるべきものか(争点1-2)
(2)本件意匠権2の侵害について(争点2)
ア被告各座金意匠は,本件登録意匠2と類似するか(争点2-1)
イ本件意匠登録2は,容易創作の無効原因を有しており,意匠登録無効
審判により無効にされるべきものか(争点2-2)
(3)原告の損害(争点3)
第3争点に係る当事者の主張
1争点1-1(被告各プレート意匠は,本件登録意匠1と類似するか)につ
いて
【原告の主張】
以下のとおり,被告各プレート意匠は,本件登録意匠1と類似する。
なお,被告旧プレート意匠が本件登録意匠1に類似することは,特許庁の
判定でも認められているところである。
(1)本件登録意匠1の構成
ア基本的構成態様
(ア)全体が,やや肉厚の円盤状である。
(イ)外周面に近接して,上下面を貫通してIC(RFID)タグを収容
する,略円筒状にくり抜かれた収容孔を設けている。
(ウ)収容孔から外周面へ,縦に細溝状の切り込み部を形成している。
イ具体的構成態様
(ア)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
(イ)底面の中心に,アンカーボルトの固定用凹部を形成している。
(ウ)収容孔は,上面の口径を短くし,その下側に段差を形成している。
(2)被告旧プレート意匠の構成
ア基本的構成態様
(ア)全体が,やや肉厚の円盤状である。
(イ)外周面に近接して,上下面を貫通してICタグを収容する,略円筒
状にくり抜かれた収容孔を設けている。
(ウ)収容孔から外周面へ,縦に細溝状の切り込み部を形成している。
イ具体的構成態様
(ア)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
(イ)底面の中心に,アンカーボルトの固定用凹部を形成している。
(ウ)収容孔は,上面の口径を短くし,その下側に段差を形成している。
(エ)底面に,同心円状に2本の細い丸溝を形成している。
(3)被告新プレート意匠の構成
ア基本的構成態様
(ア)全体が,やや肉厚の円盤状である。
(イ)外周面に近接して,上下面を貫通してICタグを収容する,略円筒
状にくり抜かれた収容孔を設けている。
(ウ)収容孔から外周面へ,上面からやや下部に達する位置まで,縦に細
溝状の切り込み部を設けている。
イ具体的構成態様
(ア)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
(イ)底面の中心に,アンカーボルトの固定用凹部を形成している。
(ウ)収容孔は,上面の口径を短くし,その下側に段差を形成している。
(エ)底面に,同心円状に2本の細い丸溝を形成している。
(オ)上面において,切り込み部の両脇に並行に沿って,2本の浅い細溝
状を形成している。
(カ)切り込み部の縦溝下端から左右横に,それぞれ縦溝より短い細溝状
の切り込み部を形成している。
(4)本件登録意匠1の要部
ア要部
原告プレートは,金属製であることが必要な測量地点明示プレートに
おいて,ICタグを内蔵させた場合,金属により電磁波が正確に読み取
れないという課題を解決するために,ICタグ収容孔から外周面へ切り
込み部を設けたものである。
,,,したがって本件登録意匠1では前記(1)アの基本的構成態様(イ)
(ウ)が,物品の形態及び用途等から見て,同種物品に係る公知意匠にな
い新規な部分であり,取引過程ないし使用状態において,需要者の注目
を強く惹く要部である。
イ被告の主張(公知意匠)に対する反論
(ア)技術思想及び構成の相違
本件登録意匠1は,ICタグを,コンクリート等との接触から保護
するために,円盤状の内部に組み込んだ上で,電磁波を外部に開放す
るという技術思想に基づき,その手段として,ICタグ収容孔と,収
容孔から外周面へ縦に細溝状の切り込み部を形成することとを組み合
わせたものである。
一方,原告が当初開発し,サンプルとして国土交通省に提出したカ
クマル製75φ(以下「サンプル75」という)は,収容孔の一部。
が外周面に露出している形状であり,ICタグの一部を外部に露出さ
せて,その電磁波を直接外部に発するという技術思想に基づいた構成
である。
そして,乙4ないし6にも,本件登録意匠1のような技術思想や,
これに基づく構成は存在しない。
(イ)認識可能性がないこと
サンプル75は,ICタグを嵌め込んだ上,表面を除き土中に埋め
られていたため,その外形や,ICタグ収容孔と細溝状の切り込み部
とを併せ持った外観を認識することはできかった。
(5)本件登録意匠1と被告旧プレート意匠との類否判断
ア共通点
(ア)全体が,やや肉厚の円盤状である。
(イ)外周面に近接して,上下面を貫通してICタグを収容する,略円筒
状にくり抜かれた収容孔を設けている。
(ウ)収容孔から外周面へ,縦に細溝状の切り込み部を形成している。
(エ)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
(オ)底面の中心に,アンカーボルトの固定用凹部を形成している。
(カ)収容孔は,上面の口径を短くし,その下側に段差を形成している。
イ差異点
(ア)円盤状の厚みと直径との比率が,本件登録意匠1では約1:5.3
であるのに対し,被告旧プレート意匠では約1:6.3である。
(イ)収容孔の上面側直径と円盤状の直径との比率が,本件登録意匠1で
は約0.11:1であるのに対し,被告旧プレート意匠では約0.1
4:1である。
(ウ)収容孔の底面側直径と円盤状の直径との比率が,本件登録意匠1で
は約0.22:1であるのに対し,被告旧プレート意匠では約0.1
8:1である。
(エ)固定用凹部の最大直径と円盤状の直径との比率が,本件登録意匠1
では約0.21:1であるのに対し,被告旧プレート意匠では約0.1
7:1である。
(オ)底面が,本件登録意匠1では平坦面であるのに対し,被告旧プレー
ト意匠では,同心円状に2本の細い丸溝が形成されている。
ウ類否判断
(ア)共通点について
前記アの共通点(イ),(ウ)は,公知意匠にない新規な創作部分であ
り,機能的に見ても,美感においても,最も強く看者の注意を惹く本
件登録意匠1の要部である。そして,全体として観察した場合,本件
登録意匠1と被告旧プレート意匠が看者に与える印象は同一である。
また,測量地点明示プレートは,使用時において,収容孔にICタ
グが装着された状態で,コンクリート等の地面に嵌め込まれるか,ア
ンカーボルトに螺着固定され,円盤状の上面が看者に映るところ,両
意匠の共通点は,使用時においても同様の印象を与える。
(イ)差異点について
全体として観察した場合,両意匠の差異点から生じる相違感は微弱
である。
(ウ)よって,被告旧プレート意匠は,本件登録意匠1に類似する。
(6)本件登録意匠1と被告新プレート意匠との類否判断
ア共通点
(ア)全体が,やや肉厚の円盤状である。
(イ)外周面に近接して,上下面を貫通してICタグを収容する,略円筒
状にくり抜かれた収容孔を設けている。
(ウ)収容孔から外周面へ,上面からやや下部に達する位置まで,縦に細
溝状の切り込み部を形成している。
(エ)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
(オ)底面の中心に,アンカーボルトの固定用凹部を形成している。
(カ)収容孔は,上面の口径を短くし,その下側に段差を形成している。
イ差異点
被告旧プレート意匠に係る差異点(前記(5)イ)のほか,以下の差異
点がある。
(ア)切り込み部の形状(側面側)
切り込み部の外周面における形状が,本件登録意匠1では,上下面
を貫通する1本の線状であるのに対し,被告新プレート意匠では,や
や下部で左右に分岐する逆T字状である。
(イ)切り込み部周辺の形状(上面側)
上面において,本件登録意匠1では,収容孔から外周面への切り込
み部が存在するだけであるのに対し,被告新プレート意匠では,切り
込み部の両脇に並行に沿って,2本の浅い細溝状が形成されている。
ウ類否判断
(ア)共通点について
前記アの共通点(イ),(ウ)は,物品に求められる機能の外観を有す
るものとして,最も強く需要者の注意を惹く本件登録意匠1の要部で
あり,全体として観察した場合,本件登録意匠1と被告新プレート意
匠が看者に与える印象は同一である。
また,両意匠の共通点は,被告旧プレート意匠と同じく,被告新プ
レートの使用時においても同様の印象を与える。
(イ)差異点について
差異点のうち被告旧プレート意匠と共通する点については,全体と
して観察した場合の相違感は微弱である。
前記イの差異点(ア)に係る形状は,前記(4)アの課題解決に係る形
状のうち一部を変えたにとどまるもので,需要者の注意を惹く新規な
部分ではないし,特に大きく異なる形状でもないから,機能上も,外
観上も,相違感は微細である。
前記イの差異点(イ)に係る形状は,ありふれた装飾的なものであっ
て,前記(4)アの課題解決には無関係であるし,需要者の注意を惹く
新規な部分ではなく,印象も薄く,異なった美感を生じさせない微細
なものである。
(ウ)よって,被告新プレート意匠は,本件登録意匠1に類似する。
【被告の主張】
以下のとおり,被告各プレート意匠は,本件登録意匠1と類似しない。
なお,特許庁の判定は,サンプル75等の存在や,被告旧プレートにIC
タグが嵌着固定されていることを考慮しなかったため,結論を誤ったもので
あるし,被告新プレート意匠は,本件登録意匠1に後れて意匠登録を受けて
おり,本件登録意匠1と類似しないことが明らかである。
(1)本件登録意匠1の構成
ア基本的構成態様
(ア)全体が,やや肉厚の円盤状である。
(イ)外周面に近接して,上下面を貫通する円形部分と,外周面へ通じる
縦方向の細溝状の切り込み部からなる,ICタグの収容孔を設けてい
る。
イ具体的構成態様
(ア)収容孔の切り込み部は,幅が円形部分の口径よりやや短く,外周面
までの長さが同口径より長く,上面において,円形部分と切り込み部
とが鍵穴を連想させる外観を呈している。
(イ)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
(ウ)底面の中心に,アンカーボルトの固定用凹部を形成している。
(エ)収容孔は,円形部分が段差を有しており,上面側の口径が短い部分
と,その下方の部分との口径比は約1:2.4,上下方向の長さの比
は約1:3である。
(オ)底面は,収容孔とアンカーボルトの固定用凹部を除き,平坦面であ
る。
(2)被告旧プレート意匠の構成
ア基本的構成態様
(ア)全体が,やや肉厚の円盤状である。
(イ)外周面に近接して,上下面を貫通する円形の収容孔を設け,この収
容孔にICタグを嵌着し,収容孔から外周面へ通じる電磁波開放用の
縦方向の細溝状切り込み部を設けている。
イ具体的構成態様
(ア)切り込み部は,幅が収容孔の口径より著しく短く,外周面までの長
さが同口径より著しく短く,上面において,収容孔と切り込み部とが
リンゴやみかん等の果物のシルエットを連想させる外観を呈してい
る。
(イ)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
(ウ)底面の中心に,アンカーボルトの固定用凹部を形成している。
(エ)収容孔は,ICタグを嵌着しているため,上面と底面を除き,その
形状を認識できないが,段差を有しており,上面側の口径が短い部分
と,その下方の部分との口径比は約1:1.1,上下方向の長さの比
は約1:9である。
(オ)底面に,同心円状に2本の細溝を形成している。
(3)被告新プレート意匠の構成
ア基本的構成態様
(ア)全体が,やや肉厚の円盤状である。
(イ)外周面に近接して,上下面を貫通する円形の収容孔を設け,この収
容孔にICタグを嵌着し,上面からやや下部に達する縦方向部分と,
縦方向部分の下端から左右に延びる横方向部分からなる,収容孔から
外周面へ通じる電磁波開放用の細溝状の切り込み部を設けている。
イ具体的構成態様
(ア)切り込み部は,幅が収容孔の口径より著しく短く,外周面までの長
さが同口径より著しく短く,上面において,切り込み部の両側に溝が
併走しており,収容孔と切り込み部とが宇宙船のようなものを連想さ
せる外観を呈している。
(イ)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
(ウ)底面の中心に,アンカーボルトの固定用凹部を形成している。
(エ)収容孔は,ICタグを嵌着しているため,上面と底面を除き,その
形状を認識できないが,段差を有しており,上面側の口径が短い部分
と,その下方の部分との口径比は約1:1.1,上下方向の長さの比
は約1:9である。
(オ)底面に,同心円状に2本の細溝を形成している。
(4)本件登録意匠1の要部
本件登録意匠1の要部は,下記ア,イのとおり本件登録意匠1の出願日
より前から公知であった,外周面に近接して,上下面を貫通してICタグ
を収容する,略円筒状にくり抜かれた収容孔を設けていること(原告主張
の基本的構成態様(イ))や,収容孔から外周面へ縦に細溝状の切り込み部
を形成していること(原告主張の基本的構成態様(ウ))ではなく,収容孔
と切り込み部の具体的な形状(前記(1)イ(ア),(エ))である。
ア原告主張の基本的構成態様(イ)が公知であること
原告主張の基本的構成態様(イ)は,本件登録意匠1の出願日(平成1
8年1月6日)より前である平成17年7月を基準に提出された,サン
プル75等も備える形状である。
これらは,国土地理院の構内に設置されたものであるが,国土地理院
は各基準点について守秘義務を負う立場にないし,当該場所は駐車場の
近くにあり「インテリジェント基準点構内耐久試験実施中」と表示さ,
れた案内板が設置され,誰でも各基準点を見ることができるようになっ
ていたから,公知といえる。
イ原告主張の基本的構成態様(ウ)が公知であること
原告主張の基本的構成態様(ウ)もまた,サンプル75が備える特徴で
ある。
さらに,ICタグを内蔵する基準点鋲において,電磁波開放のために
ICタグの収容箇所から外周面へ縦に細溝状の切り込み部を形成するこ
とは,乙4ないし6にも記載されており,本件登録意匠1の出願日より
前から複数の企業で実施され,公知となっていた。
(5)本件登録意匠1と被告旧プレート意匠との類否判断
ア共通点
被告旧プレートは,収容孔に接着剤で固定されたICタグを嵌着して
いるため,収容孔の具体的な形状を認識することができない。
したがって,本件登録意匠1と被告旧プレート意匠との共通点は,次
の3点のみである。
(ア)全体が,やや肉厚の円盤状である。
(イ)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
(ウ)底面の中心に,アンカーボルトの固定用凹部を形成している。
イ差異点
本件登録意匠1と被告旧プレート意匠との差異点は,原告主張のもの
に加え,次の各点に認められる。
(ア)ICタグの収容箇所
本件登録意匠1では,円形部分と切り込み部とが一体となってIC
タグの収容孔を構成しているのに対し,被告旧プレート意匠では,円
形の収容孔にのみICタグが嵌着され,切り込み部は空隙となってい
る。
(イ)切り込み部の形状(上面側)
切り込み部は,本件登録意匠1では,幅が円形部分の口径よりやや
短く,外周面までの長さが同口径より長く,上面において円形部分と
,,切り込み部とが鍵穴を連想させるのに対し被告旧プレート意匠では
幅が収容孔の口径より著しく短く,外周面までの長さが同口径より著
しく短く,収容孔と切り込み部とがリンゴやみかん等の果物のシルエ
ットを連想させる。
(ウ)段差の形状
本件登録意匠1では,収容孔の円形部分が段差を有しており,上面
側の口径が短い部分と,その下方の部分との口径比は約1:2.4,
上下方向の長さの比は約1:3である。
被告旧プレートでは,円形の収容孔は,ICタグを嵌着しているた
め,上面と底面を除き,その形状を認識できないが,段差を有してお
り,上面側の口径が短い部分と,その下方の部分との口径比は約1:
1.1,上下方向の長さの比は約1:9である。
(エ)底面の溝
底面は,本件登録意匠1では,収容孔とアンカーボルトの固定用凹
部を除き平坦面であるのに対し,被告旧プレート意匠では,同心円状
に2本の細溝を形成している。
ウ類否判断
(ア)混同のおそれの不存在
測量地点明示プレートの取引において,所定形状のICタグが収容
できるか否かは重大な関心事であり,もともとICタグが接着剤で固
定され,収容孔の具体的な形状を認識することができない被告旧プ
レートと,そうでない原告プレートとの混同が生ずるおそれはない。
また,ICタグの収容箇所は,本件登録意匠1では,円形部分と切
り込み部であるのに対し,被告旧プレートでは,円形の収容孔のみで
あり,切り込み部は極めて細く,ICタグが収容されないことが一見
して明らかである。したがって,仮に被告旧プレートにICタグが接
着剤で固定されていなかったとしても,混同が生ずるおそれはない。
(イ)形状の違い
収容孔(円形部分)と切り込み部の形状は,本件登録意匠1では鍵
穴を連想させるのに対し,被告旧プレート意匠ではリンゴやみかん等
の果物のシルエットを連想させ,全く異なる印象を与える。
また,本件登録意匠1における収容孔の円形部分と,被告旧プレー
ト意匠における円形の収容孔とは,段差や口径等に関して具体的な形
状の差異があることが明らかである。
(ウ)結論
以上のとおり,本件登録意匠1と被告旧プレート意匠は,本件登録
意匠1の要部において明確な差異があり,類似しない。
(6)本件登録意匠1と被告新プレート意匠との類否判断
ア共通点
被告旧プレート意匠に係る共通点と同じである(前記(5)ア。)
イ差異点
被告旧プレート意匠に係る差異点(前記(5)イ)に加え,次の差異点
がある。
(ア)切り込み部の形状(側面側)
切り込み部の外周面における形状が,本件登録意匠1では,上下面
,,を貫通する縦方向の細溝状であるのに対し被告新プレート意匠では
上面からやや下部に達する縦方向部分と,縦方向部分の下端から左右
に延びる横方向部分からなっている。
(イ)切り込み部周辺の形状(上面側)
本件登録意匠1では,収容孔の円形部分と切り込み部とが鍵穴を連
想させるのに対し,被告新プレート意匠では,上面において,切り込
み部の両側に溝が併走しており,収容孔と切り込み部とが宇宙船のよ
うなものを連想させる。
ウ類否判断
被告新プレートも,被告旧プレートと同様,収容孔にICタグが接着
剤で固定され,収容孔の具体的な形状を認識することができず,本件登
録意匠1と被告新プレート意匠は,本件登録意匠1の要部において明確
な差異があるから,類似しないことが明らかである。
さらに被告新プレート意匠は前記イの差異点により被告旧プレー,,,
ト意匠以上に本件登録意匠1とは異なる印象を与えるものとなってお
り,なおいっそう類似しない。
2争点1-2(本件意匠登録1は,新規性欠如ないし容易創作の無効原因を
有しており,意匠登録無効審判により無効にされるべきものか)について
【被告の主張】
以下のとおり,本件登録意匠1は,公知意匠と同一ないし類似であるか,
そうでないとしても,公知意匠から容易に創作できたものである。
(1)サンプル75
アサンプル75の構成
本件登録意匠1の出願日(平成18年1月6日)より前である平成1
7年7月を基準に国土地理院に提出されたサンプル75は,次のような
構成を有する。
(ア)外周面に近接して,上下面を貫通する円形部分と,外周面へ通じる
縦方向の切り込み部からなる,ICタグの収容孔を設けている。
(イ)収容孔の切り込み部は,幅が円形部分の口径よりやや短く,外周面
までの長さが同口径より短い。
(ウ)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
イ新規性欠如
サンプル75は,切り込み部の幅が比較的広く短い点で,本件登録意
,,匠1との差異があるものの原告が主張する課題解決の観点からすれば
微差に過ぎない。
そして,原告が本件登録意匠1の要部であると主張する,外周面に近
接して,上下面を貫通してICタグを収容する,略円筒状にくり抜かれ
た収容孔を設け,収容孔から外周面へ縦に細溝状の切り込み部を形成し
ている構成は,前記ア(ア)のとおりサンプル75も備えるものであるか
ら,本件登録意匠1は新規性を欠如する。
ウ容易創作
本件登録意匠1は仮に新規性が認められたとしても下記(ア)(イ),,,
のとおり,公知の形状に基づいて容易に創作できたものである。
(ア)切り込み部の形状について
サンプル75の切り込み部は,本件登録意匠1の細溝状の切り込み
部に比べ,幅が広く短くなっている。
しかし,ICタグを内蔵する基準点鋲において,電磁波開放のため
にICタグの収容箇所から外周面へ縦に細溝状の切り込み部を形成す
る構成は,乙4ないし6に記載され,本件登録意匠1の出願日より前
から複数の企業で実施されて公知となり,ありふれたものとなってい
た。
そして,本件登録意匠1は,サンプル75の切り込み部を,公知の
細溝状の切り込み部と置換したものに過ぎない。
(イ)円盤状の本体について
本件登録意匠1は,乙4の図6における四角板状のマーカー本体9
を,円盤状のものに置換したものに過ぎない。
そして,本体が円盤状である基準点は,本件登録意匠1の出願日よ
り前から周知であり,基準点の基本形状は,事実上,円盤状と四角板
状の二者択一であったところ,本件においては,国土地理院からの依
頼で,円盤状のものが選択されたに過ぎない。
(2)サンプル50
アサンプル50の構成
本件登録意匠1の出願日より前である平成17年6月から7月に,サ
ンプル75と共に国土地理院の構内に設置され公知となっていた,カク
マル製φ50のサンプル(以下「サンプル50」という)は,次のよ。
うな構成を有する。
(ア)全体が,やや肉厚の円盤状である。
(イ)外周面に近接して,上下面を貫通する円形部分と,外周面へ通じる
縦方向の細溝状の切り込み部からなる,ICタグの収容孔を設けてい
る。
(ウ)収容孔の切り込み部は,幅が円形部分の口径よりやや短く,外周面
までの長さが同口径より長く,上面において,円形部分と切り込み部
とが鍵穴を連想させる外観を呈している。
(エ)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
(オ)底面の中心に,アンカーボルトの固定用凹部を形成している。
(カ)底面の周縁付近に,円状の溝を形成している。
イ新規性欠如
サンプル50は前記ア(カ)の態様において底面収容孔とアンカー,,(
ボルトの固定用凹部を除く)が平坦面である本件登録意匠1との差異。
点を有する。
しかしながら,サンプル50は,原告が本件登録意匠1の要部である
と主張する,収容孔と,収容孔から外周面への縦の細溝状の切り込み部
とが組み合わさった構成を備えるものであり,上記差異点を除く細部の
特徴においても本件登録意匠1と構成を共通にする。
なお,収容孔(円形部分)の中心が,サンプル50では,外周面から
円盤状の中心に向かって半径の2分の1程度の位置にあるのに対し,本
件登録意匠1では,外周面から円盤状の中心に向かって半径の3分の1
程度の位置にあるが,この差は特に大きいものではない。
また,原告プレートは,所定の大きさのICタグを装着するものであ
り,円盤状の径の大きさを変更すれば,ICタグ収容孔(円形部分)の
相対的な位置も変わるから,その位置について,需要者はさほど関心を
持たない。
したがって,本件登録意匠1は,サンプル50と同一ないし類似する
ものであって,新規性を欠如する。
ウ容易創作
本件登録意匠1は,仮に,地上に露出していた表側の形態のみでは新
規性を欠如するとは認められないとしても,公知の形状に基づいて容易
に創作できたものである。
(ア)乙4の図6
,,円盤状の基準点は本件登録意匠1の出願日より前から周知であり
基準点の基本形状は,事実上,円盤状と四角板状の二者択一であった
から,当業者であれば,乙4の図6における四角板状のマーカー本体
9を円盤状にすると共に,ICタグを収容する凹部10を,サンプル
50の表側に現れたICタグ収容孔と置換して,容易に本件登録意匠
1を創作できた。
なお,乙4の鋲に用いられているICタグと,本件登録意匠1に用
いられているICタグは,共に上端面が円形であり,無線通信可能な
ものであって,形状や,用途・機能が共通するから,乙4の意匠から
本件登録意匠1を容易創作できることを妨げる事実は存在しない。
(イ)原告の主張に対する反論
円形の鋲は公共用境界表示用であり,角形の鋲は民間用境界表示用
であるとの事実はないし,仮にそのような事実があったとしても,乙
4の意匠は,境界等に設けて地点を明示するものである点で,本件登
録意匠1とは用途・機能が共通する。
【原告の主張】
以下のとおり,本件登録意匠1は新規性を有しているし,公知意匠から容
易に創作できたものでもない。
(1)サンプル75について
ア新規性があること
サンプル75は,収容孔の外周と円盤状の外周とが一部重なり,IC
タグの一部が円盤状で露出する形状であり,収容孔から外周面へ通じる
縦方向の切り込み部は存在しない。
イ容易創作でないこと
円形の鋲は公共用境界表示に用いられ,それに表示される基準点は鋲
の中央部に表示されなければならないが,角形の鋲は主に民間用境界表
示に用いられ,それに表示される基準点は必ずしも中央部に表示される
必要がない。したがって,両者は二者択一の関係にない。
,,また乙4ないし6に記載された各基準点鋲に用いられるICタグは
旧来の大型のものであり,本件登録意匠1が前提とする小型のICタグ
とは形状や用途を異にする。
そのため,乙4ないし6には,本件登録意匠1の要部である,円盤状
の外周面に近接して,上下面を貫通して略円筒状にくり抜かれた収容孔
と,収容孔から外周面への縦の細溝状の切り込み部とを併せ持った態様
は表現されていない。
(2)サンプル50について
ア新規性があること
以下のとおり,サンプル50は,要部において本件登録意匠1とは異
なるし,視覚的にも本件登録意匠1とは異なり,ICタグと収容孔が看
者に映らない。
(ア)収容孔の位置及び態様
ICタグ収容孔が,本件登録意匠1では,外周面に近接して,上下
面を貫通して設けられているのに対し,サンプル50では,中央円周
部に,上面を貫通せずに設けられている。
(イ)切り込み部の態様
切り込み部は,本件登録意匠1では,収容孔から外周面へ,細溝状
に形成されているのに対し,サンプル50では,蓋収容用の開口部か
ら外周面へ,太状に形成されている。
(ウ)収容孔の縮径及び段差
本件登録意匠1では,収容孔は,上面の口径を短くし,その下側に
段差を形成しているが,サンプル50では,蓋収容用の開口部とIC
タグ収容孔とは,一体としての筒状の孔を構成していない。
イ容易創作でないこと
本件登録意匠1は,新しく開発された小型のICタグに対応して創意
工夫されたものであるから,従来の大型のICタグを前提としたサンプ
ル50の構成からは,容易に創作されない。現に,原告プレート以外の
測量地点明示プレートは,ICタグを内部に収めたり,外部に直接露出
した形態にとどまっていた。
3争点2-1(被告各座金意匠は,本件登録意匠2と類似するか)について
【原告の主張】
以下のとおり,被告各座金意匠は,本件登録意匠2と類似する。
なお,被告旧座金意匠が本件登録意匠2に類似することは,特許庁の判定
でも認められているところである。
(1)本件登録意匠2の構成
ア基本的構成態様
(ア)全体が,略短円柱状である。
(イ)中央がくり抜かれたICタグの収容孔を形成している。
(ウ)収容孔の一端に,外側面に通じる縦の細溝状の切り込み部が形成さ
れている。
イ具体的構成態様
(ア)外側面のやや上寄りに,2㎜幅の溝が周回して設けられている。
(イ)収容孔は,底面から上面を貫通している。
(ウ)収容孔の上面は,段差によって底面の径に比較して縮径している。
(2)被告旧座金意匠の構成
ア基本的構成態様
(ア)全体が,略短円柱状である。
(イ)中央がくり抜かれたICタグの収容孔を形成している。
(ウ)収容孔の一端に,外側面に通じる縦の細溝状の切り込み部が形成さ
れている。
イ具体的構成態様
(ア)外側面の下寄りに,細溝が周回して設けられている。
(イ)収容孔は,底面から上面を貫通している。
(ウ)収容孔の上面は,段差によって底面の径に比較して縮径している。
(3)被告新座金意匠の構成
ア基本的構成態様
(ア)全体が,略短円柱状である。
(イ)中央がくり抜かれたICタグの収容孔を形成している。
(ウ)収容孔の一端に,外側面に通じる縦の細溝状の切り込み部が,外側
面を周回する細溝の位置まで形成されている。
イ具体的構成態様
(ア)外側面の下寄りに,細溝が周回して設けられている。
(イ)収容孔は,底面から上面を貫通している。
(ウ)収容孔の上面は,段差によって底面の径に比較して縮径している。
(エ)上面において,切り込み部の両脇に並行に沿って,2本の浅い細溝
状を形成している。
(オ)切り込み部の縦溝下端から左右横に,それぞれ縦溝より短い細溝状
の切り込み部を形成している。
(4)本件登録意匠2の要部
本件登録意匠1と同様の理由から,本件登録意匠2でも,前記(1)アの
基本的構成態様(イ),(ウ)が,物品の形状及び用途等から見て,同種物品
に係る公知意匠にない新規な部分であり,取引過程ないし使用状態におい
て,需要者の注目を強く惹く要部である。
(5)本件登録意匠2と被告旧座金意匠との類否判断
ア共通点
(ア)全体が,略短円柱状である。
(イ)上下面の中央を貫通して,略円筒状にくり抜かれたICタグの収容
孔を形成している。
(ウ)収容孔の一端から外側面へ通じる,垂直状の細幅の切り込み部を形
成して,ICタグ収容部としている。
(エ)外側面に,略コ字状に凹む細溝を水平状に周回させている。
(オ)収容孔は,上面の口径を短くし,その下側に段差を形成している。
イ差異点
(ア)略短円柱状の高さと直径との比率が本件登録意匠2では約1:1.,
6であるのに対し,被告旧座金意匠では約1:1.9である。
(イ)収容孔の上面側直径と略短円柱状の直径との比率が,本件登録意匠
2では約0.33:1であるのに対し,被告旧座金意匠では約0.4
3:1である。
(ウ)収容孔直径の上面側と底面側との比率が本件登録意匠2では約0.,
,。47:1であるのに対し被告旧座金意匠では約0.73:1である
(エ)外側面の溝が,本件登録意匠2ではやや上寄りに形成されているの
に対し,被告旧座金意匠では下寄りに形成されている。
ウ類否判断
(ア)共通点について
前記アの共通点(イ),(ウ)は,公知意匠にない新規な創作部分であ
り,機能的に見ても,美感においても,本件登録意匠2において,最
も強く看者の注意を惹く要部である。そして,全体として観察した場
合,本件登録意匠2と被告旧座金意匠が看者に与える印象は同一であ
る。
また,測量地点記憶タグ収容座金は,使用時には,測量地点明示プ
レートの収容孔あるいはコンクリート等の地面に埋め込み固定され,
略短円柱状の上面が看者に映るところ,両意匠の共通点は,使用時に
おいても同様の印象を与える。
(イ)差異点について
全体として観察した場合,両意匠の差異点から生じる相違感は微弱
である。
(ウ)よって,被告旧座金意匠は,本件登録意匠2に類似する。
(6)本件登録意匠2と被告新座金意匠との類否判断
ア共通点
(ア)全体が略短円柱状である。
(イ)上下面を貫通して,略円筒状にくり抜かれたICタグの収容孔を形
成している。
(ウ)収容孔の一端に,上面からやや下部に達する位置まで,外側面に通
じる垂直状の細幅の切り込み部を形成して,ICタグ収容部としてい
る。
(エ)外側面に,略コ字状に凹む細溝を水平状に周回させている。
(オ)収容孔は,上面の口径を短くし,その下側に段差を形成している。
イ差異点
被告旧座金意匠に係る差異点(前記(5)イ)のほか,以下の差異点が
ある。
(ア)切り込み部の形状(側面側)
切り込み部の外側面における形状が,本件登録意匠2では,上下面
を貫通する1本の線状であるのに対し,被告新座金意匠では,外側面
を周回する細溝の位置で左右に分岐する逆T字状である。
(イ)切り込み部の形状(上面側)
上面において,本件登録意匠2では,収容孔から外側面へ通じる切
り込み部が存在するだけであるのに対し,被告新座金意匠では,切り
込み部の両脇に並行に沿って,2本の浅い細溝状が形成されている。
ウ類否判断
(ア)共通点について
前記アの共通点(イ),(ウ)は,公知意匠にない新規な創作部分であ
り,機能的に見ても,美感においても,本件登録意匠2において,最
も強く看者の注意を惹く要部である。そして,全体として観察した場
合,本件登録意匠2と被告新座金意匠が看者に与える印象は同一であ
る。
また,両意匠の共通点は,被告旧座金と同じく,被告新座金の使用
時においても同様の印象を与える。
(イ)差異点について
差異点のうち被告旧座金意匠と共通する点については,全体として
観察した場合の相違感が微弱である。
前記イの差異点(ア)に係る形状は,前記1(4)アの課題解決に係る
形状のうち一部を変えたにとどまるもので,需要者の注意を惹く新規
な部分ではないし,特に大きく異なる形態でもないから,機能上も,
外観上も,相違感は微細である。
前記イの差異点(イ)に係る形状は,ありふれた装飾的なものであっ
て,前記1(4)アの課題解決には無関係であるし,需要者の注意を惹
く新規な部分ではなく,印象も薄く,異なった美感を生じさせない微
細なものである。
(ウ)よって,被告新座金意匠は,本件登録意匠2に類似する。
【被告の主張】
以下のとおり,被告各座金意匠は,本件登録意匠2と類似しない。
なお,特許庁の判定は,サンプル75等の存在や,被告旧座金にICタグ
が嵌着固定されていることを考慮しなかったため,結論を誤ったものである
し,被告新座金意匠は,本件登録意匠2に後れて意匠登録を受けており,本
件登録意匠2と類似しないことが明らかである。
(1)本件登録意匠2の構成
ア基本的構成態様
(ア)全体が,略短円柱状である。
(イ)中央に,上下面を貫通する円形部分と,外側面へ通じる縦方向の細
溝状の切り込み部からなる,ICタグの収容孔を設けている。
イ具体的構成態様
(ア)収容孔の切り込み部は,幅が円形部分の口径よりやや短く,外側面
までの長さが同口径より長く,上面において,円形部分と切り込み部
とが鍵穴を連想させる外観を呈している。
(イ)外側面のやや上寄りに,溝が周回して設けられている。
(ウ)収容孔は,円形部分が段差を有しており,上面側の口径が短い部分
と,その下方の部分との口径比は約1:2.4,上下方向の長さの比
は約1:3である。
(エ)外側面の,溝より上の部分,溝,溝より下の部分の上下方向の長さ
の比は,約2:3:3である。
(2)被告旧座金意匠の構成
ア基本的構成態様
(ア)全体が,略短円柱状である。
(イ)中央に,上下面を貫通する円形の収容孔を設け,この収容孔にIC
タグを嵌着し,収容孔から外側面へ通じる電磁波開放用の縦方向の細
溝状切り込み部を設けている。
イ具体的構成態様
(ア)切り込み部は,幅が収容孔の口径より著しく短く,外側面までの長
さが同口径より著しく短く,上面において,収容孔と切り込み部とが
リンゴやみかん等の果物のシルエットを連想させる外観を呈してい
る。
(イ)外側面のやや下寄りに,溝が周回して設けられている。
(ウ)収容孔は,ICタグを嵌着しているため,上面と底面を除き,その
形状を認識できないが,段差を有しており,上面側の口径が短い部分
と,その下方の部分との口径比は約1:1.1,上下方向の長さの比
は約1:9である。
(エ)外側面の,溝より上の部分,溝,溝より下の部分の上下方向の長さ
の比は,約2:1:1である。
(3)被告新座金意匠の構成
ア基本的構成態様
(ア)全体が,略短円柱状である。
(イ)中央に,上下面を貫通する円形の収容孔を設け,この収容孔にIC
タグを嵌着し,上面からやや下部に達する縦方向部分と,縦方向部分
の下端から左右に延びる横方向部分からなる,収容孔から外側面へ通
じる電磁波開放用の細溝状切り込み部を設けている。
イ具体的構成態様
(ア)切り込み部は,幅が収容孔の口径より著しく短く,外側面までの長
さが同口径より著しく短く,上面において,切り込み部の両側に溝が
併走しており,収容孔と切り込み部とが宇宙船のようなものを連想さ
せる外観を呈している。
(イ)外側面のやや下寄りの,切り込み部の横方向部分と同じ高さにおい
て,溝が周回して設けられている。
(ウ)収容孔は,ICタグを嵌着しているため,上面と底面を除き,その
形状を認識できないが,段差を有しており,上面側の口径が短い部分
と,その下方の部分との口径比は約1:1.1,上下方向の長さの比
は約1:9である。
(エ)外側面の,溝より上の部分,溝,溝より下の部分の長さの比は,約
2:1:1である。
(4)本件登録意匠2の要部
本件登録意匠2の要部は,全体の外形や,収容孔と細溝状の切り込み部
の具体的な形状である(前記(1)イ(ア)∼(エ)。)
原告が本件登録意匠2の要部であると主張する構成のうち,中央がくり
抜かれたICタグの収容孔を形成している点(原告主張の基本的構成態様
(イ))は,単なる円筒状のことであって,ありふれた形状であるし,収容
孔の一端に,外側面に通じる細溝状の切り込み部が形成されている点(原
告主張の基本的構成態様(ウ))は,ICタグとの電磁波を利用したデータ
通信のために必要とされる必然的な構成であり,本件登録意匠1と同様,
ICタグを内蔵する基準点鋲において,従来から複数の企業で実施され,
公知となっていたものである。
(5)本件登録意匠2と被告旧座金意匠との類否判断
ア共通点
被告旧座金は,収容孔に接着剤で固定されたICタグを嵌着している
ため,収容孔の具体的な形状を認識することができない。
したがって,本件登録意匠2の構成のうち,被告旧座金意匠との共通
点は,全体が略短円柱状であること(前記(1)ア(ア))のみである。
イ差異点
本件登録意匠2と被告旧座金意匠との差異点は,原告主張のものに加
え,次の各点である。
(ア)ICタグの収容箇所
本件登録意匠2では,円形部分と切り込み部とが一体となってIC
タグの収容孔を構成しているのに対し,被告旧座金意匠では,円形の
収容孔のみにICタグが嵌着され,切り込み部は空隙となっている。
(イ)切り込み部の形状
切り込み部は,本件登録意匠2では,幅が円形部分の口径よりやや
短く,外側面までの長さが同口径より長く,上面において円形部分と
切り込み部とが鍵穴を連想させるのに対し,被告旧座金意匠では,幅
が収容孔の口径より著しく短く,外側面までの長さが同口径より著し
く短く,上面において,円形部分と切り込み部とがリンゴやみかん等
の果物のシルエットを連想させる。
(ウ)段差の形状
本件登録意匠2では,収容孔の円形部分が段差を有しており,上面
側の口径が短い部分と,その下方の部分との口径比は約1:2.4,
上下方向の長さの比は約1:3である。
被告旧座金では,円形の収容孔は,ICタグが嵌着され,上面と底
面を除き,その形状を認識できないが,段差を有しており,上面側の
口径が短い部分と,その下方の部分との口径比は約1:1.1,上下
方向の長さの比は約1:9である。
(エ)外側面の溝の位置
外側面の溝は,本件登録意匠2では,やや上寄りに設けられている
のに対し,被告旧座金意匠では,やや下寄りに設けられている。
(オ)外側面における溝の占める割合
外側面の,溝より上の部分,溝,溝より下の部分の長さの比は,本
件登録意匠2では,約2:3:3であるのに対し,被告旧座金意匠で
は,約2:1:1である。
ウ類否判断
(ア)形状の違い
被告旧座金意匠は,本件登録意匠2とは,外側面の溝の位置や,溝
より上の部分,溝,溝より下の部分の長さの比が明らかに異なる。
また,測量地点記憶タグ収容座金の取引において,所定形状のIC
タグが収容できるか否かは重大な関心事であり,もともとICタグが
,。接着剤で固定され収容孔の具体的な形状を認識することができない
さらに,被告旧座金意匠は,収容孔の段差や口径等に関しても本件
登録意匠2とは異なる。
(イ)結論
以上のとおり,本件登録意匠2と被告旧座金意匠は,本件登録意匠
2の要部において明確な差異があり,類似しない。
(6)本件登録意匠2と被告新座金意匠との類否判断
ア共通点
被告旧座金意匠に係る共通点と同じである(前記(5)ア。)
イ差異点
被告旧座金意匠に係る差異点(前記(5)イ)に加え,次の差異点が認
められる。
(ア)切り込み部の形状(側面側)
切り込み部の外側面における形状が,本件登録意匠2では,上下面
を貫通する縦方向の細溝状であるのに対し,被告新座金意匠では,上
面からやや下部に達する縦方向部分と,縦方向部分の下端から左右に
延びる横方向部分からなる細溝状である。
(イ)切り込み部周辺の形状(上面側)
本件登録意匠2では,収容孔の円形部分と切り込み部とが鍵穴を連
想させるのに対し,被告新座金意匠では,上面において,切り込み部
の両側に溝が併走しており,収容孔と切り込み部とが宇宙船のような
ものを連想させる。
(ウ)溝の位置
外側面の溝の位置が,本件登録意匠2では,やや上寄りであるのに
対し,被告新座金意匠では,やや下寄り(切り込み部の横方向部分と
同じ高さ)である(被告旧座金意匠とも異なる。。)
ウ類否判断
被告新座金意匠も,被告旧座金意匠と同様,本件登録意匠2とは,外
側面の溝の位置や,溝より上の部分,溝,溝より下の部分の長さの比が
明らかに異なる。また,被告新座金は,ICタグが離脱できないように
接着剤で固定され,収容孔の具体的な形状を認識することができず,本
件登録意匠2と被告新座金意匠は,本件登録意匠2の要部において明確
な差異がある。
さらに,被告新座金意匠は,前記イの差異点(ア),(イ)により,いっ
そう本件登録意匠2とは異なる印象を与えるものとなっている。
したがって,両意匠は類似しない。
4争点2-2(本件意匠登録2は,容易創作の無効原因を有しており,意匠
登録無効審判により無効にされるべきものか)について
【被告の主張】
原告が本件登録意匠2の要部であると主張する,中央がくり抜かれたI
Cタグの収容孔を形成し,収容孔の一端に外側面に通じる細溝状の切り込
み部が形成されている構成は,単なる円筒状の本体に,ICタグとの電磁
波を利用したデータ通信のために必要とされる切り込み部を設けたものに
過ぎない。
また,電磁波開放のためにICタグの収容箇所から外側面へ通じる縦の
細溝状の切り込み部を形成する構成は,乙4ないし6にも記載されている
ように,ありふれた手法に過ぎない。
よって,本件登録意匠2は,公知の形状に基づいて容易に創作できたも
のである。
【原告の主張】
乙4ないし6の基準点鋲は,旧来の大型のICタグが収められるものであ
り,本件登録意匠2の要部である,中央がくり抜かれた収容孔と,収容孔の
一端から外側面に通じる細溝状の切り込み部は存在しない。
5争点3(原告の損害)について
【原告の主張】
意匠法39条1項によれば,原告の損害は,以下のとおり1110万88
86円である(原告は当初,意匠法39条2項に基づき1200万円の損害
を主張していた。請求は1200万円のままで,減縮されていない。。)
(1)販売単価
ア原告プレートの販売単価2850円
イ原告座金の販売単価1850円
(2)1個あたりの変動経費
ア材料費及び運賃
(ア)原告プレート646.09円
(内訳)
真鍮(本体)157円
ICタグ480円
頭部キャップ0.27円
下部キャップ0.65円
梱包ビニール2.94円
ビニール用シール1.29円
小箱1.12円
大箱0.27円
接着用資材0.05円
運賃2.5円
(イ)原告座金548.53円
(内訳)
真鍮(本体)60円
ICタグ480円
頭部キャップ0.27円
下部キャップ0.65円
梱包ビニール2.60円
ビニール用シール1.29円
小箱0.90円
大箱0.27円
接着用資材0.05円
運賃2.5円
イ工賃0円
原告製品の製造に要する工賃は,平成18年度(平成18年5月1日
から平成19年4月30日)を例にとれば,次のとおり年間125万6
427円であるが,被告販売数量分の追加生産に要する工賃は,固定従
業者の給与の範囲内でまかなえるものであり,限界利益の算定にあたり
控除されるべきものではない。
(ア)原告における全工賃3375万8074円
全人件費(8029万0867円)から,総務,会計,販売,研究
員に関する人件費(4653万2793円)を控除した額である。
(イ)原告製品の売上高1964万4324円
原告プレート1612万7824円
原告座金351万6500円
(ウ)工場人員に係る売上5億2780万9746円
(エ)前記(イ)に係る工賃125万6427円((ア)×(イ)÷(ウ))
(3)被告の販売数量
ア被告旧プレート4251個
イ被告旧座金1337個
(4)原告の損害1110万8886円
ア原告プレート分
(2850円−646.09円)×4251個=936万8821円
イ原告座金分
(1850円−548.53円)×1337個=174万0065円
(5)被告の主張に対する反論
ア広告費について
原告製品は,国土交通省において仕様基準とされており,この事実を
認識している業者からの発注に応じて取引が行われるものであるから,
広告費は,原告製品の販売数量の増加に応じて追加的に必要となるもの
ではない。
なお,展示会への出展は,原告製品の販売開始前から行われていた恒
例のものであり,展示品も原告の扱う商品全般である。確かに,平成1
7年以降は原告製品も展示されているが,全体から見ればわずかである
し,平成19年の展示コマ数が例年より多いのは,原告の協賛企業が協
力し参画したためであり,原告の負担した経費は例年どおりであった。
イ特許実施料について
原告は,特許実施品であるICタグを有償で購入しており,購入代金
の他に,重ねて実施料を支払っている事実は存在しない。
ウ寄与率について
単にICタグを金属鋲に組み込んだだけでは,電磁波を効果的に利用
することはできず,電磁波を効果的に利用するためには,金属鋲や座金
の構成デザインが開発される必要があった。そして,原告製品は,最も
安定して電磁波を出し,かつ金属鋲の強度を保つという性能を備えてい
るところ,この性能は,本件登録意匠1及び2のデザインから生じるも
のである。
実際,被告旧製品からデザインを変更した被告新プレート及び被告新
(「」。),,座金以下被告新製品というは電磁波の放出能力が劣るため
業者からの需要に対応できておらず,このことは,原告が行った比較実
験の結果(甲30)からも明らかである。
【被告の主張】
以下の事情からすれば,原告の請求金額は過大である。
(1)販売単価について
販売単価は,販売時期や販売先によって変動があったはずである。
(2)変動経費について
ア材料費
真鍮(本体)及びICタグは,価格変動のため,より高い値段で調達
したものもあったはずである。
イ工賃
工賃は,被告の販売数量分を,原告において追加生産・販売するため
に必要な費用であり,変動経費として控除されるべきである。
ウ広告費
原告は,測量関係用品の展示会に出展し,平成18年には8コマ,平
,,成19年には7コマ平成20年には10コマという大きなスペースで
別注の装飾とコンパニオンまで用いて宣伝広告を行っていた。そして,
出展費用は1コマあたり12万円で,装飾とコンパニオンは別注である
から,原告は,展示会出展について,1回あたり500万円,3年間で
1500万円を投じていたといえる。
また,原告は,雑誌「測量」に,1回あたり10万円で,10回は広
告を掲載しており,100万円以上を投じていたといえる。
さらに,原告は,総合カタログも別に制作している。
これらの費用は,原告製品を販売するにあたり固有に発生したもので
あり,その額も通常の広告費を遥かに上回っているから,変動経費とし
て控除されるべきである。
エ特許実施料
原告は,ICタグの使用について,特許実施料を支払っているはずで
あり,これも変動経費として控除されるべきである。
(3)寄与率
以下のとおり,被告旧プレート及び被告旧座金(以下「被告旧製品」と
いう)の販売に係る本件登録意匠1及び2の寄与率は極めて低い。。
ア本件登録意匠1の寄与
サンプル50が存在を考慮すれば,本件登録意匠1の要部は,底面の
ICタグ収容部の位置となるところ,測量地点明示プレートは地面に埋
設されて使用され,底面が見えることはないから,全体観察において重
要なのは上面である。
したがって,本件登録意匠1の価値は極めて低い。
イICタグの寄与
測量地点明示プレートも測量地点記憶タグ収容座金も,国土交通省に
,,よる道路基準点事業のために特別に製造された製品でありその価値は
装着されたICタグから情報を読み取れることにある。したがって,意
匠によって売上に影響が出るとは,通常考えられない。
実際,原告は,ICタグ付きではない製品を販売しておらず,被告も
わずかしか販売していないのであって,原告製品の売上は,ICタグの
売上に付随するものに過ぎない。
ウ原価割合による寄与率
,(),以下のとおり原告製品における真鍮本体の原価割合から見ても
本件登録意匠1及び2の寄与率はわずかといえる。
原告プレート約24.6%(157円÷(157円+480円))
原告座金約11.1%(60円÷(60円+480円))
(4)実施の能力
原告の製造設備及び人員からして,被告の販売数量を,原告において追
加生産可能であったかは疑問がある。
(5)販売することができないとする事情(意匠法39条1項ただし書)
ア他社製品の存在
道路基準点の製造業者は,原告及び被告以外にもう1社存在するとこ
ろ,同社の製品は,国土交通省が要求する条件を満たしており,原告製
品との代替性がある。
同社は,被告にICタグを供給していたため,自社製品の製造販売を
積極的には行っていなかったが,被告旧製品が販売されなければ,自社
製品を積極的に製造販売し,被告旧製品と同程度のシェアを獲得してい
たと考えられる。
イ本件登録意匠1及び2の寄与率
前記(3)のとおり,本件登録意匠1及び2の寄与率は極めて低いが,
この事情は,原告の利益額の算定においてのみならず「販売すること,
ができないとする事情」としても捉えられるべきである。
ウ選択基準
測量地点明示プレート及び測量地点記憶タグ収容座金は,購入にあた
り,国土交通省が要求する条件を満たしていればよく,形状について問
われることはない。
,,したがって意匠は購入にあたっての選択基準とはならないのであり
本件登録意匠1及び2が売上に貢献するとは考えがたい。
エ被告新製品による売上
被告は,平成20年から被告新製品を販売したが,被告旧製品に比べ
て受注のペースが落ちたことはなく,性能・品質についてクレームを受
けたこともない。
この点からも,原告製品の売上に本件登録意匠1及び2が貢献しない
ことが裏付けられる。
第4当裁判所の判断
1争点1-1(被告各プレート意匠は,本件登録意匠1と類似するか)につ
いて
(1)本件登録意匠1の構成態様(甲1の1)
ア基本的構成態様
(ア)全体が,やや肉厚の円盤状である。
(イ)外周面に近接して,上下面を貫通してICタ
グを収容する,略円筒状にくり抜かれた収容孔
(以下,特に断らない限り,切り込み部分を除
いた円筒状部分のことを指す)を設けている。。
(ウ)収容孔から外周面へ,縦に細溝状の切り込み部を形成している。
イ具体的構成態様
(ア)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
(イ)底面の中心に,アンカーボルトの固定用凹部を形成している。
(ウ)収容孔は,底面の口径より上面の口径を小さくし,内側に,段差を
斜視図
形成している。
(エ)切り込み部は,幅が収容孔上面の口径よりや
や狭く,外周面から収容孔上面までの距離が同
口径より長く,上面において,収容孔と一体と
なって鍵穴をイメージさせる形状となっている
(平面図のとおり。)
しかし,収容孔本体の口径(底面の口径)は収容孔上面の口径の2
倍であるため(甲3によって認められる前記第
3の1【原告の主張】(5)イ(イ),(ウ),外周)
面から収容孔本体までの距離(切り込み部分の
深さ)は,上面と比べ短くなる(底面図のとお
り。)
(2)被告旧プレート意匠の構成態様
ア基本的構成態様
(ア)全体が,やや肉厚の円盤状である。
(イ)外周面に近接して,上下面を貫通してICタグを収容する,略円筒
状にくり抜かれた収容孔を設けている。
(ウ)収容孔から外周面へ,縦に細溝状の切り込み部を形成している。
イ具体的構成態様
(ア)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
(イ)底面の中心に,アンカーボルトの固定用凹部を形成している。
(ウ)収容孔は,底面の口径より上面の口径を小さくし,内側に,段差を
形成している。
(エ)底面に,同心円状に2本の細い丸溝を形成している。
(オ)切り込み部は,収容孔上面の口径に比して,幅・深さ共にわずかで
ある(平面図のとおり。)
底面図
平面図
なお,収容孔本体の口径(底面の口径)は収容
孔上面に比べて約9:7の割合であり(甲3に
よって認められる前記第3の1原告の主張(5)【】
イ(イ),(ウ),外周面から収容孔本体までの距)
離(切り込み部分のの深さ)は,上面とあまり変
わらない。
(3)被告新プレート意匠の構成態様
ア基本的構成態様
(ア)全体が,やや肉厚の円盤状である。
(イ)外周面に近接して,上下面を貫通してICタグを収容する,略円筒
状にくり抜かれた収容孔を設けている。
(ウ)収容孔から外周面へ,上面からやや下部に達する位置まで,縦に細
溝状の切り込み部を形成している。
イ具体的構成態様
(ア)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
(イ)底面の中心に,アンカーボルトの固定用凹部を形成している。
(ウ)収容孔は,底面の口径より上面の口径を小さくし,内側に,段差を
形成している。
(エ)底面に,同心円状に2本の細い丸溝を形成している。
(オ)上面において,切り込み部の両側に並行に沿って,2本の浅い細溝
を形成している。
(カ)切り込み部の縦溝下端から左右横に,それぞれ縦溝より短い細溝状
の切り込み部を,逆T字状となるよう形成
している(側面図のとおり。)
(4)本件登録意匠1の要部
登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚
平面図
側面図
()。を通じて起こさせる美感に基づいて行うものである意匠法24条2項
したがって,その判断にあたっては,意匠に係る物品の性質,用途,使用
態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,需要
者の注意を惹き付ける部分を要部として把握した上で,両意匠が要部にお
いて構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体として美感を共通
にするか否かを判断すべきである。
以下,本件登録意匠1の要部を検討する。
ア測量地点明示プレートの性質,用途,使用態様
測量地点明示プレートは,測量地点に設置して位置情報を明示する金
属標に使用されるものであり,その金属標を設置する業者等が需要者で
あるが,前提事実(4)の経緯により,測量地点明示プレートは,ICタ
グを収容できるものが使用されることとなった。
このため,需要者は,測量地点明示プレートの取引にあたり,設置時
の表示状態だけでなく,ICタグのデータの読み取り方法等を考慮する
,,,ものであり通常上方あるいは斜め上方からの観察を中心としつつも
ICタグの収容状況や,電磁波の読み取りに関連する切り込み部分の状
況を含めた,全体的な観察を行うと考えられる。
イ公知意匠
本件登録意匠1の出願日(平成18年1月6日)より前に存在したI
Cタグなどを装着する金属物(マーカー,データネイルなど)に関する
公知意匠としては,ICタグを装着する金属製構造物の周壁に,内部と
外側面を連通する切り欠き部を設ける構成(乙4,データネイルの周)
壁に,細幅のスリットを設ける構成(乙5,RFID釘の周壁に,読)
み取り用に十字の切り込みを設ける構成(乙6)などがある。
なお,測量地点明示プレートに係る公知意匠としては,本件登録意匠
1の出願日より前である平成17年7月21日に国土地理院において設
置されたサンプル75が存在しているが,地面に埋め込まれる形で設置
されていたため,少なくとも証拠上は,地表に現れた,本体の外周に接
して円形の孔を設け,そこからICタグを露出させている点に関する形
状が認識可能であったことが認められるに過ぎない(甲10。)
また本件登録意匠1の出願日前に上記形状以外の構成が公知であっ,,
たとしても,その内容は上下面を貫通して略円筒状にくり抜かれた収容
孔を有していないものである(甲19の1∼3。)
ウ要部
前記イによれば,本件登録意匠1の構成態様のうち,サンプル75に
見られる,プレート本体の外周に接して円形の孔を設け,そこからIC
タグを露出させることや,乙4ないし6に見られる,周壁に縦に細溝状
の切り込み部を設けることは,いずれも本件登録意匠1の出願日より前
に公知であったと認められる。
もっとも上記各公知意匠には外周面に近接して設けられたプレー,,,
トの上下面を貫通して略円筒状にくり抜かれた収容孔や,収容孔から外
周面への縦の細溝状切り込み部は表現されていないところ,これらの形
状は,斜め上方から見た場合に,上面から外周面にかけて視認され,視
覚的に目立ち,かつ,本件登録意匠1の出願日より前において,測量地
点明示プレートの分野において見られなかった特徴的な構成態様である
から,需要者の格別の注意を惹くものといえる。
また,プレートの上面に形成される収容孔と切り込み部分からなる形
状は,プレートを道路に埋設した後も上方から観察することができる部
分であり,需要者の注意を惹くものといえる。
一方,全体がやや肉厚の円盤状であること,上面の中心に十字状の線
模様を施していることは,どちらもありふれたものといえるし,底面の
中心にアンカーボルトの固定用凹部を形成していることは,通常は目に
触れない部分における,機能的な構成態様に過ぎないといえるから,い
ずれも需要者の注意を惹くものではない。さらに,収容孔の内側に段差
を形成している点については,ICタグが収容孔から上に抜け出てしま
わないよう,口径を変えて段差を設けていると考えられ,その段差をど
のように設けるかは,機能的にはICタグが収容孔から上へ抜け出ない
ようにするための手段の選択に過ぎず,収容孔の内側の段差や口径の比
率自体が需要者の注意を直接的に惹くものとは認めがたい。
したがって,本件登録意匠1の要部は,外周面に近接した位置で,上
下面を貫通して略円筒状にくり抜かれた収容孔,上下面を貫通して設け
られた収容孔から外周面へ通じる垂直状の細幅の切り込み部,収容孔の
上面の各形状であると認められる。
(5)本件登録意匠1と被告旧プレート意匠との類否判断
前記(4)ウの要部について,本件登録意匠1と被告旧プレート意匠を対
比し,共通点及び差異点を抽出して類否判断を行うと,次のようになる。
ア共通点
(ア)収容孔の位置及び態様
両意匠とも,外周面に近接して,上下面を貫通してICタグを収容
する,略円筒状にくり抜かれた収容孔を設けている。
(イ)切り込み部の形成
両意匠とも,収容孔から外周面へ縦に細溝状の切り込み部を形成し
ている。
なお,被告は,本件登録意匠1とは異なり,被告旧プレート意匠で
は切り込み部にICタグが収容されない点を問題にするが,意匠自体
を対比するにあたり,意匠に係る物品でないICタグがどの部分に収
容されるかは,問題とならないというべきである(被告の主張からも
窺えるように,ICタグの形状は,必ずしも,収容孔と切り込み部分
によって形成される形状に100%合うように限定されているわけで
ない。。)
(ウ)収容孔と切り込み部分の形状(上面側)
両意匠とも,収容孔の上面は,収容孔に段差を設け,収容孔底面の
口径に比べ小さい口径の円形をなし,これに切り込み部分が外周面に
向かって伸びている。外周面に向かって伸びる切り込み部分の幅はほ
ぼ同じである。
イ差異点
(ア)収容孔の縮径の程度
収容孔の上面側と底面側との口径比が,本件登録意匠1では約1:
2であるのに対し,被告旧プレート意匠では約7:9であり,本件登
録意匠1の方が,被告旧プレート意匠よりも縮径の程度が大きい。
(イ)収容孔と切り込み部の形状(上面側)
前記(ア)の結果,収容孔本体の位置と切り込み部の形成の点で共通
しているにもかかわらず(前記ア(ア),(イ),本件登録意匠1の上)
面では,収容孔の口径が,被告旧プレート意匠のそれより小さく,切
り込み部分と一体となって鍵穴をイメージさせるのに対し,被告旧プ
レート意匠の上面では,鍵穴はイメージされない。
ウ類否判断
(ア)共通点について
前記アのとおり,本件登録意匠1と被告旧プレート意匠は,外周面
に近接して,上下面を貫通してICタグを収容する,略円筒状にくり
抜かれた収容孔を設けている点,収容孔から外周面へ縦に細溝状の切
り込み部を形成している点,収容孔の上面の口径を小さくしている点
で共通している。
そして,これらの共通点は,いずれも本件登録意匠1を特徴づける
ものであり,その視覚的効果は,意匠全体として,両意匠に共通した
美感を起こさせるといえる。
(イ)差異点について
,,,()一方前記イのとおり両意匠は収容孔の縮径の程度差異点(ア)
を異にし,その結果,上面側における収容孔と切り込み部からなる形
状(差異点(イ))も異にする。
しかしながら,差異点(ア)は,視覚的に十分識別できる程度の違い
とはいえ,上面と底面を同時に見ることはできないから,看者はこれ
を,収容孔の縮径として捉える以上に,上面における収容孔と切り込
み部の形状,底面における収容孔と切り込み部の形状として,それぞ
れ独立して認識すると考えられる。そうすると,前者は差異点(イ)に
収斂されるし,後者は,通常の観察方向である斜め上方から観察した
,,場合に得られる印象と比べ看者に与える印象の度合いが小さいため
全体的な美感に影響を及ぼさないといえる。
そして,差異点(イ)は,結局のところ,上下面を貫通する収容孔に
おいてICタグが上に抜け出ないように段差を設けた結果,収容孔上
面における口径の大きさを異にし,切り込み部との組み合わせにおけ
る大きさの比率を異にしているものに過ぎず,むしろ,外周面に近接
して収容孔を設けている点(共通点(ア))や,収容孔から外周面へ縦
に細溝状の切り込み部を設けている点(共通点(イ))が,その新規性
と相まって,看者に強い印象を与えているといえ,収容孔と切り込み
部との大きさの比率及びその結果としての上面における形状の差異
(鍵穴型をイメージするか否か)が,この印象を凌駕するほど大きな
ものであるとは認めがたい。
なお,被告が主張する,ICタグの存在により,原告プレートと被
告旧プレートとの混同が生ずるおそれがないとの点は,意匠自体の類
否を判断するにあたって考慮されるべき要素ではない。
(ウ)結論
以上のとおり,被告旧プレート意匠においては,本件登録意匠1と
の共通点から受ける印象が,差異点に係る具体的な形状の違いから受
ける印象を凌駕しており,両意匠が視覚を通じて起こさせる全体とし
ての美感を共通にしているということができる。
したがって,被告旧プレート意匠は,本件登録意匠1と類似すると
認められる。
(6)本件登録意匠1と被告新プレート意匠との対比
前記(4)ウの要部について,本件登録意匠1と被告新プレート意匠を対
比し,共通点及び差異点を抽出して類否判断を行うと,次のようになる。
ア共通点
被告旧プレート意匠に係る共通点と同じである(前記(5)ア。)
ただし,収容孔から外周面への切り込み部分の下側は,後記イ(イ)の
とおり,異なっている。
イ差異点
被告旧プレート意匠に係る差異点に加え,次の差異点が認められる。
(ア)切り込み部周辺の形状(上面側)
切り込み部は,本件登録意匠1では1本の線状であるのに対し,被
告新プレート意匠では,切り込み部の両側に並行に沿って,2本の浅
い細溝が形成されている。
(イ)切り込み部の形状(側面側)
切り込み部の外周面における形状が,本件登録意匠1では直線状で
あるのに対し,被告新プレート意匠では,やや下部で左右に分岐する
逆T字状である。
ウ類否判断
(ア)共通点について
前記アの共通点のみをみる限り,前記(5)ウ(ア)で述べたとおり,
両意匠に共通した美感を起こさせるといえる。
(イ)差異点について
しかし,被告新プレート意匠では,本件登録意匠1とは異なり,切
り込み部の両側に並行に沿って,2本の浅い細溝が設けられているた
(),,,め前記イ(ア)深さこそ異なるものの斜め上方から見た場合は
あたかも3本の切り込み部が形成されているかのような印象を看者に
与える。
また,切り込み部形成箇所の外周面を,斜め上方あるいは側面から
見た場合,本件登録意匠1における直線状と,被告新プレート意匠に
おける,やや下部で左右に分岐する逆T字状とでは,看者に与える印
象が大きく異なる。
したがって,両意匠は,本件登録意匠1において特徴的であり,需
要者が特に注目する,全体的な美感に影響を及ぼす部分において,視
覚的な印象を異にするといえる。
(ウ)結論
以上のとおり,被告新プレート意匠は,切り込み部周辺の形状や,
外周面における切り込み部の形状において,本件登録意匠1や,これ
と類似すると認められる被告旧プレート意匠とは異なる,特徴的な構
成態様を有している。そして,この差異点から受ける印象は,本件登
録意匠1との共通点から受ける印象を凌駕していると認められるか
ら,被告新プレート意匠は,本件登録意匠1が視覚を通じて起こさせ
る全体としての美感を共通にしているとはいえない。
なお,原告プレートも被告新プレートも,どのような意匠を採用す
るにせよ,ICタグの情報を読み取り可能であることが前提とされて
おり,差異点に係る意匠が機能とは無関係な装飾的なものであること
によって,上記結論が左右されるものではない。
したがって,被告新プレート意匠は,本件登録意匠1と類似すると
は認められない。
2争点1-2(本件意匠登録1は,新規性欠如ないし容易創作の無効原因を
有しており,意匠登録無効審判により無効にされるべきものか)について
被告は,サンプル75ないしサンプル50を引用して,本件登録意匠1の
新規性欠如を主張し,さらに,乙4ないし6を引用して容易創作を主張する
ので,以下,順に検討する。
(1)サンプル75(甲10,乙3)
アサンプル75の構成態様
サンプル75は,本件登録意匠1の出願日(平成18年1月6日)よ
り前である平成17年7月21日に国土地理院に設置され,上面のみが
地表に露出していたものであるところ,設置状態において,次のような
構成態様が認識可能であった。
(ア)円形の本体の外周に接して,円形の孔を設け,そこからICタグを
露出させている。
(イ)孔の外周の一部が,本体の外周の一部と重なっており,重複部分に
おいて外周が欠けている。
(ウ)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
イ新規性について
(ア)差異点
,,サンプル75は設置時において上面以外は認識することができず
類否判断が可能な程度にその構成が明らかになっているとは言いがた
いが,認識可能であった前記アの態様に限っても,本件登録意匠1と
は,次のような差異点がある。
a孔の位置
孔の位置が,本件登録意匠1では外周面に近接しているものの接
してはいないが,サンプル75では外周に接している。
b切り込み部の有無
前記aの結果,本件登録意匠1では,収容孔から外周面へ細溝状
の切り込み部が形成されているが,サンプル75では形成されてい
ない。
(イ)類否
本件登録意匠1は,サンプル75とは,前記(ア)の差異点を有する
ところ,これを微差ということはできないから,本件登録意匠1が新
規性を欠如するとはいえない。
ウ容易創作について
前記1(4)イのとおり,乙4ないし6には,周壁に細溝状の切り込み
部を設ける構成が開示されているだけであり,外周面に近接した収容孔
,。,や収容孔から外周面への切り込み部は開示されていないしたがって
サンプル75に乙4ないし6を組み合わせることにより,本件登録意匠
1を容易に創作することができたとは認められない。
また,乙4の図6には,マーカー本体(1)の変形(9)の外周面に近接
して,マーカー本体(1)を装着し,外周面との間に切り込み部分を設け
た構成が開示されている。しかし,マーカー本体(1)はICタグそのも
のではなく,本体(1)の上部を凹状にくり抜いて,その中に四角形のI
Cタグを装着したものであって(しかも,金属物と推測される,金。)
属物の本体に,ICタグを収容するための略円筒状にくり抜かれた収容
孔を設ける構成が開示されているとはいえない。したがって,本件登録
意匠1が,乙4の図6における四角板状のマーカー本体9を,円盤状の
ものに置換したものに過ぎないということもできない。
(2)サンプル50(乙3,8∼10)
アサンプル50の構成態様
サンプル50は,サンプル75と共に国土地理院に設置され,上面の
みが地表に露出していたものであるところ,設置状態において,次のよ
うな構成態様が認識可能であった。
(ア)円形の本体の外周と中心との中間部に,ICタグが露出する円形の
孔を設け,孔から外周へ細溝状の切り込み部を形成している。
(イ)切り込み部は,幅が孔の口径より狭く,長さが同口径より長い。
(ウ)上面の中心に,十字状の線模様を施している。
イ新規性について
前記ア(ア)のとおり,サンプル50は,円形の孔と,孔から外周への
。,,細溝状の切り込み部とを備えているそしてサンプル50においては
孔の位置が本件登録意匠1よりもやや中心寄りであり,これに伴い切り
込み部の長さも本件登録意匠1よりもやや長いという差異はあるもの
の,これらは微差に過ぎないといえる。
しかしながら,サンプル50は,設置時において上面以外は認識する
ことができず,類否判断が可能な程度にその構成が明らかになっていた
とは言いがたい。特に,本件登録意匠1は,上下面を貫通してICタグ
を収容する,略円筒状にくり抜かれた収容孔,収容孔から外周面への縦
の細溝状の切り込み部,収容孔の上面における縮径を要部としていると
ころ(前記1(4)ウ,この要部は,サンプル50の上面の態様から必)
然的に導かれる構成ではない。実際,後に明らかになったサンプル50
の構成(乙8,9,甲18の1∼3)を見ても,上下面を貫通して略円
筒状にくり抜かれた収容孔はなく(途中から,プレートと同心円を描く
帯状の孔につながっている,本件登録意匠1の要部は備わっていな。)
い。
したがって,サンプル50により本件登録意匠1の構成が公知になっ
ていたとはいえず,本件登録意匠1が新規性を欠如するとはいえない。
ウ容易創作について
前記(1)ウのとおり,本件登録意匠1が,乙4の図6における四角板
状のマーカー本体9を,円盤状のものに置換したものに過ぎないという
ことはできない。
(3)結論
以上のとおりであるから,本件意匠登録1について,新規性欠如ないし
容易創作の無効理由があり,意匠登録無効審判において無効にされるべき
ものとは認められず,被告の抗弁には理由がない。
3争点2-1(被告各座金意匠は,本件登録意匠2と類似するか)について
(1)本件登録意匠2構成態様(甲2の1)
ア基本的構成態様
(ア)全体を,略短円柱状としている。
(イ)上下面の中央を貫通して略円筒状にくり抜かれたI
Cタグの収容孔を形成している。
(ウ)収容孔の一端から外側面へ通じる垂直状の細幅の切り込み部を形成
している。
イ具体的構成態様
,。(ア)外側面の上寄りに略コ字状に凹む細溝を水平状に周回させている
(イ)収容孔は,底面の口径より上面の口径を小さくし,内側に,段差を
形成している。
(ウ)切り込み部は,幅が収容孔の口径よりやや狭く,外周
面から収容孔上面までの距離が同口径より長く,上面に
おいて,収容孔と一体となって鍵穴をイメージさせる形
状となっている(平面図のとおり。)
斜視図
平面図
しかし,収容孔本体の口径(底面の口径)と収容孔上
面の口径の比率は1:0.47であるため(甲4,外周)
(),面から収容孔本体までの距離切り込み部分の深さは
上面と比べ短くなる(底面図のとおり。)
(2)被告旧座金意匠の構成態様
ア基本的構成態様
(ア)全体を,略短円柱状としている。
(イ)上下面の中央を貫通して略円筒状にくり抜かれたICタグの収容孔
を形成している。
(ウ)収容孔の一端から外側面へ通じる垂直状の細幅の切り込み部を形成
している。
イ具体的構成態様
,。(ア)外側面の下寄りに略コ字状に凹む細溝を水平状に周回させている
(イ)収容孔は,底面の口径より上面の口径を小さくし,内側に,段差を
形成している。
(ウ)切り込み部は,収容孔上面の口径に比して,幅・長さ
共にわずかである(平面図のとおり。)
なお,収容孔本体の口径(底面の口径)と収容孔上面
,.(),の口径との比率は約073:1の割合であり甲4
外周面からの深さは収容孔上面とあまり変わらない。
(3)被告新座金意匠の構成態様
ア基本的構成態様
(ア)全体を,略短円柱状としている。
(イ)上下面の中央を貫通して略円筒状にくり抜かれたICタグの収容孔
を形成している。
(ウ)収容孔の一端から外側面へ通じる垂直状の細幅の切り込み部を,上
底面図
平面図
面からやや下部に達する位置まで設けている。
イ具体的構成態様
(ア)外側面において,切り込み部の縦溝下端と同じ高さに,略コ字状に
凹む細溝を水平状に周回させている。
(イ)収容孔は,底面の口径より上面の口径を小さくし,内側に,段差を
形成している。
(ウ)上面において,切り込み部の両側に並行に沿って,2本の浅い細溝
を形成している。
(エ)切り込み部の縦溝下端から左右横に,それぞれ縦溝よ
り短い細溝状の切り込み部を,逆T字となるよう形成し
ている(側面図のとおり。)
(4)本件登録意匠2の要部
登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断にあたり採用され
るべき手法は,前記1(4)で述べたとおりである。
以下,本件登録意匠2の要部を検討する。
ア測量地点記憶タグ収容座金の性質,用途,使用態様
測量地点記憶タグ収容座金は,測量地点に設置して位置情報を明示す
る金属標に使用されるものであり,その需要者及び観察方法は,測量地
点明示プレートについて述べたところと同様である(前記1(4)ア。)
イ公知意匠
本件登録意匠2の出願日(平成18年2月6日)より前に存在してい
たICタグなどを装着する金属物(マーカー,データネイルなど)に関
する公知意匠としては,前記1(4)イ記載のものがある。
ウ要部
前記イの公知意匠によれば,本件登録意匠2の構成態様のうち,乙4
ないし6に見られる,周壁に細溝状の切り込み部を設けることは,本件
側面図
登録意匠2の出願日より前に公知であったと認められる。
もっとも,これら公知意匠には,ICタグなどを装着する金属物(座
金)の上下面の中央を貫通して略円筒状にくり抜かれた収容孔や,収容
孔の一端から外側面へ通じる垂直状の細幅の切り込み部は表現されてい
ないところ,これらの形状は,斜め上方から見た場合に,上面から外側
面にかけて視認され,視覚的に目立ち,かつ,本件登録意匠2の出願日
より前において,測量地点記憶タグ収容座金の分野では見られなかった
特徴的な態様であるから(甲4,需要者の格別の注意を惹くものとい)
える。
,,また座金の上面に形成される収容孔と切り込み部分からなる形状は
座金を道路に埋設した後も上方から観察することができる部分であり,
需要者の注意を惹くものといえる。
さらに,略短円柱状の外側面に,略コ字状に凹む細溝を水平状に周回
させている点も,視覚的に目立ち,かつ,本件登録意匠2の出願前にお
いて,測量地点記憶タグ収容座金の分野では見られなかった特徴的な態
様であるから(甲4,需要者の格別の注意を惹くものといえる。)
一方,全体を略短円柱状としていることは,単純でありふれたもので
あって,需要者の注意を惹く特徴的な構成態様とはいえない。さらに,
収容孔の内側に段差を形成している点については,ICタグが収容孔か
ら上に抜け出てしまわないよう,口径を変えて段差を設けていると考え
られ,その段差をどのように設けるかは,機能的にはICタグが収容孔
から上へ抜け出ないようにするための手段の選択に過ぎず,収容孔の内
側の段差や口径の比率自体が需要者の注意を直接的に惹くものとは認め
がたい。
したがって,本件登録意匠2の要部は,上下面の中央を貫通して略円
筒状にくり抜かれた収容孔,上下面を貫通して設けられた収容孔の一端
から外側面へ通じる垂直状の細幅の切り込み部,収容孔の上面,外側面
の溝の各形状であると認められる。
(5)本件登録意匠2と被告旧座金意匠との類否判断
,,前記(4)ウの要部について本件登録意匠2と被告旧座金意匠を対比し
共通点及び差異点を抽出して類否判断を行うと,次のようになる。
ア共通点
(ア)収容孔の位置及び態様
両意匠とも,上下面の中央を貫通して略円筒状にくり抜かれたIC
タグの収容孔を形成している。
(イ)切り込み部の形成
両意匠とも,収容孔の一端から外側面へ通じる垂直状の細幅の切り
込み部を形成している。
(ウ)収容孔と切り込み部分の形状(上面側)
両意匠とも,収容孔の上面は,収容孔に段差を設け,収容孔底面の
口径に比べ小さい口径の円形をなし,これに切り込み部分が外周面に
向かって伸びている。切り込み部分の幅はほぼ同じである。
(エ)外側面の溝
両意匠とも,外側面に,略コ字状に凹む細溝を水平状に周回させて
いる。
イ差異点
(ア)収容孔の縮径の程度
収容孔の上面側と底面側との口径比が,本件登録意匠2では約0.
,,47:1であるのに対し被告旧座金意匠では約0.73:1であり
本件登録意匠2の方が,被告旧座金意匠よりも縮径の程度が大きい。
(イ)収容孔と切り込み部の形状(上面側)
前記(ア)の結果,収容孔本体の位置と切り込み部分の形成の点で共
通しているにもかかわらず(前記ア(ア),(イ),本件登録意匠2の)
上面では,収容孔の口径が,被告旧座金意匠のそれより小さく,切り
込み部分と一体となって鍵穴をイメージさせるのに対し,被告旧座金
意匠の上面では,鍵穴はイメージされない。
(ウ)外側面の溝の位置
外側面の細溝が,本件登録意匠2では上寄りに形成されているのに
対し,被告旧座金意匠では下寄りに形成されている。
なお,被告は,溝より上の部分,溝,溝より下の部分の長さの比も
差異点として主張するが,上記溝の位置に係る差異点に収斂されると
いうべきである。
ウ類否判断
(ア)共通点について
前記アのとおり,本件登録意匠2と被告旧座金意匠は,上下面の中
央を貫通して略円筒状にくり抜かれたICタグの収容孔を形成してい
る点,収容孔の一端から外側面へ通じる垂直状の細幅の切り込み部を
形成している点,収容孔の上面の口径を小さくしている点,外側面に
略コ字状に凹む細溝を水平状に周回させている点で共通している。
そして,これらの共通点は,いずれも本件登録意匠2を特徴づける
ものであり,その視覚的効果は,意匠全体として,両意匠に共通した
美感を起こさせるものである。
(イ)差異点について
一方,前記イのとおり,両意匠は,収容孔の縮径の程度(差異点
(ア),上面側における収容孔と切り込み部分からなる形状(差異点)
(イ),外側面の溝の位置(差異点(ウ))を異にする。)
しかしながら,差異点(ア)は,視覚的に十分識別できる程度の違い
であるとはいえ,上面と底面を同時に見ることはできないから,看者
はこれを,収容孔の縮径として捉える以上に,上面における収容孔と
切り込み部の形状,底面における収容孔と切り込み部の形状として,
それぞれ独立して認識すると考えられる。そうすると,前者は差異点
(イ)に収斂されるし,後者は,通常の観察方向である斜め上方から観
察た場合に得られる印象と比べ,看者に与える印象の度合いが小さい
ため,全体的な美感に影響を及ぼさないといえる。
そして,差異点(イ)は,結局のところ,上下面を貫通する収容孔に
おいてICタグが上に抜け出ないように段差を設けた結果,収容孔上
面における口径の大きさを異にし,切り込み部との組み合わせにおけ
る大きさの比率を異にしているものに過ぎず,むしろ,上下面の中央
を貫通して略円筒状にくり抜かれた収容孔を形成している点(共通点
(ア))や,収容孔の一端から外側面へ通じる垂直状の細幅の切り込み
部を形成している点(共通点(イ))が,その新規性と相まって,看者
に強い印象を与えているといえ,収容孔と切り込み部の大きさの比率
及びその結果としての上面における形状の差異(鍵穴型をイメージす
るか否か)が,この印象を凌駕するほど大きなものであるとは認めが
たい。
さらに,差異点(ウ)も,視覚的に識別できる程度の違いとはいえ,
外側面に細溝を水平状に周回させるという点(共通点(エ))の方がよ
り特徴的で,需要者の注意を惹く態様であり,この共通点を超えて,
上記差異点(ウ)が格別異なる印象を看者に与えるものではない。
なお,被告が主張する,ICタグの存在により,原告座金と被告旧
座金の混同が生ずるおそれがないとの点は,意匠自体の類否を判断す
るにあたって考慮されるべき要素ではない。
(ウ)結論
以上のとおり,被告旧座金意匠においては,本件登録意匠2との共
通点から受ける印象が,差異点に係る具体的な形状の違いから受ける
印象を凌駕しており,両意匠が視覚を通じて起こさせる全体としての
美感を共通にしているということができる。
したがって,被告旧座金意匠は,本件登録意匠2と類似すると認め
られる。
(6)本件登録意匠2と被告新座金意匠との対比
,,前記(4)ウの要部について本件登録意匠2と被告新座金意匠を対比し
共通点及び差異点を抽出して類否判断を行うと,次のようになる。
ア共通点
被告旧座金意匠と同じである(前記(5)ア。)
イ差異点
被告旧座金意匠に係る差異点(前記(5)イ)に加え,次の差異点が認
められる。
(ア)切り込み部周辺の形状(上面側)
切り込み部は,本件登録意匠2では1本の線状であるのに対し,被
告新座金意匠では,切り込み部の両側に並行に沿って,2本の浅い細
溝が形成されている。
(イ)切り込み部の形状(側面側)
切り込み部の外側面における形状が,本件登録意匠2では直線状で
あるのに対し,被告新座金意匠では,やや下部で左右に分岐する逆T
字状である。
ウ類否判断
(ア)共通点について
前記アの共通点をみる限り,前記(5)ウ(ア)で述べたとおり,前記
アの共通点は,両意匠に共通した美感を起こさせるといえる。
(イ)差異点について
しかし,被告新座金意匠では,本件登録意匠2とは異なり,切り込
み部の両側に並行に沿って2本の浅い細溝が設けられているため前,(
記イ(ア),深さこそ異なるものの,斜め上方から見た場合は,あた)
かも3本の切り込み部が形成されているかのような印象を看者に与え
る。
また,切り込み部形成箇所の外側面を,斜め上方あるいは側面から
見た場合,本件登録意匠2における直線状と,被告新座金意匠におけ
るやや下部で左右に分岐する逆T字状とでは,看者に与える印象が大
きく異なる。
したがって,両意匠は,本件登録意匠2において特徴的であり,需
要者が特に注目する,全体的な美感に影響を及ぼす部分において,視
覚的な印象を異にするといえる。
(ウ)結論
以上のとおり,被告新座金意匠は,切り込み部周辺の形状や,側面
における切り込み部の形状において,本件登録意匠2や,これと類似
すると認められる被告旧座金意匠にはない,特徴的な態様を有してい
る。そして,この差異点から受ける印象は,本件登録意匠2との共通
点から受ける印象を凌駕していると認められるから,被告新座金意匠
が,本件登録意匠2が視覚を通じて起こさせる全体としての美感を共
通にしているとはいえない。
,,,なお原告座金も被告新座金もどのような意匠を採用するにせよ
ICタグの情報を読み取り可能であることが前提とされており,差異
点に係る意匠が機能とは無関係な装飾的なものであることによって,
上記結論が左右されるものではない。
したがって,被告新座金意匠は,本件登録意匠2と類似するとは認
められない。
4争点2-2(本件意匠登録2は,容易創作の無効原因を有しており,意匠
登録無効審判により無効にされるべきものか)について
被告は,本件登録意匠2の構成は,単なる円筒状の本体に,電磁波を利
用したICタグとのデータ通信のために必要とされる切り込み部を設けた
だけのものであり,乙4ないし6にも記載された,ありふれた手法に過ぎ
ず,容易創作であると主張する。
しかしながら,乙4ないし6には,周壁に細溝状の切り込み部を設ける
構成が開示されているだけであり,上下面の中央を貫通して略円筒状にく
り抜かれた収容孔や,収容孔の一端から外側面へ通じる切り込み部は開示
されていない。また,外側面に略コ字状に凹む細溝を水平状に周回させて
いる構成や,収容孔の上面の口径を小さくしている構成もまた,本件登録
意匠2の要部であるところ,これらがありふれた形状であることを認める
に足りる証拠もない。
以上のとおりであるから,本件意匠登録2が,容易創作の無効理由があ
り意匠登録無効審判において無効にされるべきものとは認められず,被告
の抗弁には理由がない。
5争点3(原告の損害)について
原告は,意匠法39条1項に基づく請求を行っているところ,被告旧製品
の販売数量については,被告旧プレートが4251個,被告旧座金が133
7個であることに争いがない(なお,上記4251個の被告旧プレートはI
Cタグ付きのものであり,被告は,ICタグなしの被告旧プレートを99個
販売しているが,原告は,損害の計算において,この99個を主張していな
い。。)
また,原告製品1個あたりの限界利益については,被告旧製品との競合期
間が少ない平成18年度(平成18年5月1日から平成19年4月30日)
における売上に基づき計算することをもって相当と考える。
(1)平均販売単価
ア原告プレート(ICタグ付き)2671.14円
平成18年度において,原告は,ICタグ付きの原告プレート372
6個を,合計995万2700円で販売していると認められるから(甲
22,甲41の1,甲43の1・3・4,その平均販売単価は,26)
71.14円(小数点第2位未満切り捨て。以下同じ)となる。。
イ原告座金1535.58円
平成18年度において,原告は,原告座金(全てICタグ付き)22
90個を合計351万6500円で販売していると認められるから甲,(
25,甲41の2,甲43の6,その平均販売単価は,1535.5)
8円となる。
(2)1個あたりの変動経費
ア材料費
(ア)原告プレート(ICタグ付き)644.24円
(内訳)
真鍮(本体)157円(甲23の1・2)
ICタグ480円(甲24の1・2,甲32の2)
頭部キャップ0.27円(甲33の2,甲34,甲35の1)
下部キャップ0.65円(甲33の2,甲34,甲35の1)
梱包ビニール2.94円(甲33の2,甲34,甲35の3)
ビニール用シール1.29円(甲33の2,甲34,甲35の3)
小箱1.12円(甲33の2,甲34,甲35の4)
大箱0.27円(甲33の2,甲34,甲35の5)
接着用資材0.05円(甲33の2,甲35の6)
文字色入れ塗料0.65円(甲37の1・2・13・14)
(イ)原告座金546.03円
(内訳)
真鍮(本体)60円(甲26の1・2)
ICタグ480円(甲24の1・2,甲32の2)
頭部キャップ0.27円(甲33の2,甲34,甲35の1)
下部キャップ0.65円(甲33の2,甲34,甲35の1)
梱包ビニール2.60円(甲33の2,甲34,甲35の3)
ビニール用シール1.29円(甲33の2,甲34,甲35の3)
小箱0.90円(甲33の2,甲34,甲35の4)
大箱0.27円(甲33の2,甲34,甲35の5)
接着用資材0.05円(甲33の2,甲35の6)
(ウ)材料費の価格変動について
,(),被告は原告製品の材料のうち真鍮本体及びICタグについて
価格変動があったはずであると主張する。
しかしながら,ICタグについては,証拠上,平成18年3月の仕
入価格しか明らかでないものの(甲32の1・2,価格変動があっ)
た事実は特に窺われないし,仕入価格が480円であった平成18年
3月27日の仕入個数が2300個に及ぶことからしても(甲24の
1・2,この時期の仕入個数はかなり多かったと考えられ,平成1)
8年度の平均的な仕入額が480円を超えるとは認めがたい。
また,真鍮(本体)のうち原告座金分については,価格変動の事実
が認められない(甲32の1・2。)
さらに,真鍮(本体)のうち原告プレート分については,仕入単価
が,平成18年8月は157円であったところ,同年10月25日に
は188円に高騰しているものの,133円と安価な時期も存在して
いること(甲32の1・2)や,上記のとおり,同じ真鍮材料であり
ながら,原告座金分は変動がないことなどからして,平成18年度の
平均的な仕入額が,157円を超えるとまでは認めがたい。
イ運賃(甲33の2)
(ア)原告プレート2.5円
(イ)原告座金2.5円
ウ工賃
原告は,追加生産に係る工賃について,固定従業者の給与の範囲内で
まかなえるものであり,限界利益の算定にあたり控除されるべきもので
はないと主張する。
しかしながら,原告製品の生産にあたっては,各工程に工員の手作業
が必要なのであって(甲36,甲37の1・2,被告旧製品の販売個)
数5588個を追加生産する労力は,決してわずかなものではない。ま
た,原告と被告が基準点鋲等のシェアを二分していることは,原告自身
,,が主張するところであるから被告の販売数量を追加生産するためには
原告において,およそ2倍量の生産を行う必要があったといえ,約2倍
の労力を必要としたことになる。
これらのことからすれば,追加生産に係る工賃を,固定費の範囲でま
かなえたものとは認めがたいから,工賃を変動経費から除外すべきとの
原告の主張は採用できない。
以下,平成18年度における原告製品に係る工賃を算定する。
(ア)原告における全工賃3375万8074円(甲38)
,(),なお決算報告書甲40の5の労務費3996万8679円は
研究員の賃金を加えたものである。
(イ)原告製品の売上高(前記(1)のとおり)
原告プレート(ICタグ付き)995万2700円
原告座金351万6500円
(ウ)工場人員に係る売上5億2643万4427円(下記①−②)
①総売上高6億3596万8031円(甲40の3)
②①のうち工場人員が携わらない売上
1億0953万3604円(甲42の1)
(エ)前記(イ)に係る工賃((ア)×(イ)÷(ウ))
原告プレート(ICタグ付き)63万8225.70円
〔計算式〕33,758,074×9,952,700÷526,434,427=638,225.70
原告座金22万5498.67円
〔計算式〕33,758,074×3,516,500÷526,434,427=225,498.67
(オ)原告製品の販売個数(前記(1)のとおり)
原告プレート(ICタグ付き)3726個
原告座金2290個
(カ)1個あたりの工賃((エ)÷(オ))
原告プレート(ICタグ付き)171.29円
原告座金98.47円
エ広告費
被告は,原告製品には,出展による宣伝,雑誌広告,総合カタログの
制作などのため,通常の範囲を遥かに超える金額の費用が投じられてい
るところ,これを限界利益の算定にあたって控除すべきと主張する。
しかしながら,出展による宣伝については,原告製品の販売開始前か
ら,販売開始後と変わらない程度の規模と頻度で行われていたもので
あって(甲39の3,原告製品のために特に行われたものではない。)
また,雑誌広告(乙14の2∼11)については,原告製品をアピール
する内容のものではあるが,販売数量の増加に伴って費用が増加すると
いう性質のものではない。特に,被告が主張するように,既に通常の範
囲を遥かに超える金額の広告費が投じられていたのであればなおさら,
販売数量の増加に伴って,さらに広告費を増やす理由はなかったといえ
る。
以上のとおりであるから,広告費は,原告の限界利益を算定するにあ
たり控除すべき変動経費であるとは認められない。
オ特許実施料
被告は,原告はICタグの使用について特許実施料を支払っているは
ずであり,これも変動経費として控除されるべきと主張する。
しかしながら,原告は,特許実施品であるICタグを有償で購入して
おり,その代金には実施料が含まれていると主張する一方,ICタグの
,。代金とは別に実施料を支払っていることを認めるに足りる証拠はない
また,原告が,平成19年1月5日以降,実施料の支払義務を負いつ
つ,その支払を免除されていたのであれば(甲44,やはり,実施料)
を経費として控除する理由はない。
しかも,被告の主張によれば,上記特許には無効理由があることが判
明し,被告は特許権に基づく請求を免れたというのであるから,結局の
ところ,原告が実施料を支払う必要はなかったといえ,この点において
も,実施料を経費として控除する理由はないといえる。
以上のとおりであるから,特許実施料は,原告の限界利益を算定する
にあたり控除すべき変動経費であるとは認められない。
(3)原告の実施能力
被告は,原告の実施能力に疑問があると主張するが,平成18年11月
と12月の2か月だけを見ても,原告は,3394個の原告プレートと1
939個の原告座金を販売しており(甲41の1・2,この販売数量に)
対応できるだけの製造能力を有していたといえるから,被告が約1年の間
に販売した,4251個の被告旧プレートと1337個の被告旧座金を,
。必要な期間中に追加生産する能力を有していなかったとは認められない
(4)販売することができないとする事情(意匠法39条1項ただし書)
被告は,被告旧製品の販売数量を原告が販売することができない事情と
して,他社製品が存在すること,本件登録意匠1及び2の寄与率が低いこ
と,意匠が購入時の選択基準になっていないこと,被告新製品でも被告旧
製品と同様の売上があったことを挙げるので,以下検討する。
ア他社製品の存在について
被告は,被告旧製品がなければ,特定の他社がその分のシェアを獲得
していたと考えられると主張するが,同他社が(被告は,同他社は自社
製品の製造販売を積極的には行っていなかったという,現実に被告。)
旧製品と同程度のシェアを獲得できたかは不明といわざるを得ず,この
ような事情を考慮することはできない。
イその他の事情について
仮に,原告製品の購入にあたり意匠が選択基準とはならない,被告新
製品でも被告旧製品と同程度の受注があるなどの事情があったとして
も,他方で,被告旧製品の売上が,原告製品との大きな価格差や,原告
製品とは異なる特別な販路,原告製品にはない形状や機能など,被告旧
製品独自の要因によって獲得されたものであるとは認めがたい。
したがって,これらの事情を理由に,被告旧製品の販売数量を原告が
販売することができなかったということはできない。
なお,原告製品の売上に対する本件登録意匠1及び2の寄与率につい
ては,次に検討する。
(5)寄与率
測量地点明示プレートや測量地点記憶タグ収容座金に係る需要者の着目
部分は,前記1(4)のとおり,設置時の表示状態やICタグのデータの読
み取り方法等であるが,ICタグを組み込むことを前提とした場合は,I
Cタグの読み取りに係る性能が重要であるといえる。したがって,需要者
である設置業者は,取引にあたり,機能面に対し,より重点を置くと考え
られ,この機能を離れた意匠を重視して取引を行うとは考えにくい。その
一方で,これらの測量地点明示プレートは,国土交通省に仕様等(機能を
含む)が定められているため(甲9∼11,製品間の相違点は比較的。)
少ないといえる。
ところで,ICタグ及びその収容部分がどのようになっているかという
,,,点は価格面以外では各社の製品における主要な相違点のひとつであり
上記相違点は,機能に関連するとともに,それぞれの意匠として現れてい
るのであって,上記意匠が測量地点明示プレートや座金の売上に及ぼす影
響を否定することはできない。
なお,原告は,本件登録意匠1及び2は,上記機能を発揮するために創
意工夫されたデザインであると主張し,本件登録意匠1及び2と意匠が類
似するといえない被告新製品は,十分な機能を発揮できないことを示す比
較実験結果を提出するが(甲30の1・2,上記比較実験は,現実の設)
置状態の下で行われたものではなく,その結果をもって直ちに,被告新製
品が十分な機能を発揮することはできないと認めることはできないし,購
入者がその違いを認識した上で購入していたとは認められない(被告は,
被告新製品を製造・販売しているが,機能面が販売数量に影響を及ぼした
ということを窺わせる事情は見あたらない。。)
以上の事情を総合考慮すると,本件登録意匠1及び2が原告製品の購買
動機となる程度は低いというべきであり,その売上に係る本件登録意匠1
及び2の寄与率は,2割と認めるのが相当である。
(6)原告の損害181万3120円(下記ア+イの1円未満切り捨て)
以上を前提に,原告の損害を計算すると,次のようになる。
ア原告プレート(ICタグ付き)157万5514.12円
〔計算式〕
限界利益:2,671.14−644.24−2.5−171.29=1,853.11
逸失利益:1,853.11×4,251=7,877,570.61
本件意匠権1に係る部分:7,877,570.61×0.2=1,575,514.12
イ原告座金23万7606.29円
〔計算式〕
限界利益:1,535.58−546.03−2.5−98.47=888.58
逸失利益:888.58×1,337=1,188,031.46
本件意匠権2に係る部分:1,185,036.58×0.2=237,606.29
第5結論
以上のとおりであるから,原告の請求は,主文記載の限度において理由が
ある(なお,主文2項にかかる仮執行宣言は相当でないからこれを付さない
こととする。。)
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官山田陽三
裁判官達野ゆき
裁判官北岡裕章
(別紙)
被告物件目録1
製品の名称ICタグ搭載金属標
製品の表示真鍮製φ50×8㎜
品番DK50Z
コード番号0916-0162(2007-2008カタログ)
なお,外観は,写真及び図面のとおりである。
背面図と右側面図は正面図と同一である。
以上
(別紙)
被告物件目録2
製品の名称ICタグ搭載金属標
製品の表示真鍮製φ50×8㎜
品番DK50Z
コード番号61096(2008-09カタログ)
なお,外観は,写真及び図面のとおりである。
(別紙)
被告物件目録3
製品の名称ICタグ搭載金属標(後付用)
製品の表示真鍮製φ15×8㎜
品番DK15Z
コード番号0916-0163(2007-2008カタログ)
なお,外観は,写真及び図面のとおりである。
背面図と右側面図は正面図と同一である。
以上
(別紙)
被告物件目録4
製品の名称ICタグ搭載金属標(後付用)
製品の表示真鍮製φ15×8㎜
品番DK15Z
コード番号61096(2008-09カタログ)
なお,外観は,写真及び図面のとおりである。
以上
(別紙)
本件登録意匠1目録
【意匠に係る物品の説明】本物品は,測量点,境界等に打設して地点を明示する
測量地点明示プレートである。厚さ数㎜,直径数㎝,素材は金属製である。本体
中央にはアンカーボルトの螺着孔が形成され,周縁の一部にはRFIDタグを収
容する陥没部分が形成されている。使用時にはRFIDタグを装着した後,本物
品をコンクリート等の地面に嵌めこみ,またはアンカーボルトに螺着固定する。
【正面図】【左側面図】【A-A断面図】
【平面図】【斜視参考図】
【底面図】
【背面図】【右側面図】
(別紙)
本件登録意匠2目録
【意匠に係る物品の説明】本物品は測量地点明示プレートにRFIDタグを取り
付ける際にタグを固定する座金である。RFIDタグは測量地点の各種情報を記
憶している。本物品の陥没部分にRFIDタグを嵌着して一体収容し,その一体
収容した座金を測量地点明示プレートに取り付ける。座金の取り付け対象として
は測量地点明示プレートに限らず,壁面,地面等に直接取り付けることも可能で
ある。本物品によってRFIDタグが保護されると共に,陥没部分の切り込みを
介してRFID読み取り装置との通信が確実に行われる。
【意匠の説明】底面図にあらわした幅Eは15㎜である。
【正面図】【左側面図】【斜視参考図】
【右側面図】
【平面図】
【背面図】
【底面図】
【A-A断面図】【B-B断面図】【C-C断面図】

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