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平成28年6月29日判決言渡
平成28年(行コ)第14号印紙税過怠税賦課決定処分取消請求控訴事
件(原審・東京地方裁判所平成27年(行ウ)第28号)
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2高崎税務署長が平成25年7月5日付けでした控訴人の平成21年
12月から平成24年3月までに作成された原判決別表1記載の各文
書に係る印紙税の過怠税の賦課決定処分を取り消す。
3高崎税務署長が平成25年7月5日付けでした控訴人の平成24年
4月から同年11月までに作成された原判決別表2記載の各文書に係
る印紙税の過怠税の賦課決定処分を取り消す。
4訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要等
1事案の要旨
本件は,控訴人が,高崎税務署長(行政処分庁)から,控訴人の作
成した「お客様返金伝票」と題する伝票綴りが印紙税法に規定する課
税文書である「判取帳」(同法別表第一課税物件表の20号)に該当
するとして印紙税の過怠税の各賦課決定処分を受けたことにつき,当
該伝票綴りは「判取帳」に該当しないとして,被控訴人に対し,当該
各賦課決定処分の取消しをそれぞれ求めた事案である。
原判決は,控訴人の各請求を全部棄却したので,これを不服とする
控訴人が,原判決を取り消し,上記各賦課決定処分を取り消すことを
求めて,控訴した。
2印紙税法の定め,前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主

(1)印紙税法の定め,前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の
主張は,下記(2)のとおり原判決を補正し,下記(3)のとおり控訴人
の当審における補充主張及び追加主張を摘示するほかは,原判決の
「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の2及び3並びに「第
3争点及び争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるか
ら,これを引用する。
(2)原判決の補正
ア4頁24行目の「本件賦課決定処分等」を「本件各賦課決定処
分等」に改める。
イ14頁23行目の「すぎないことことから」を「すぎないこと
から」に改める。
(3)控訴人の当審における補充主張及び追加主張
控訴人は,当審において,重ねて次のとおり主張する。
ア原判決の争点1について
(ア)本件各文書が「判取帳」であるか否かを判断するに先立ち,そ
れらが「一の文書」に該当する否かを判断する必要はない。この
点,課税物件表20号には,「一の文書」との記載はない。また,
原判決が論拠とする別表通則2及び3は,「一の文書」中に課税
物件表の二以上の課税事項が記載されている場合のものであっ
て,本件各文書には当てはまらない。
少なくとも,「一の文書」が何であるかの判断の前に,本件各
文書が帳簿に該当するか否かを判断すべきである。
(イ)原判決は,本件各文書の物理的形状のみをもって,それぞれ「一
の文書」に該当するとしているが,記載内容も検討すべきであり,
誤っている。
イ原判決の争点3について
(ア)原判決は,証書と帳簿の区別について,単に紙数の単複による
ものではなく,課税事項を1回限り記載証明する目的で作成され
るか,又は継続的若しくは連続的に記載証明する目的で作成され
るかという文書作成の目的により判断すべきであるとしており,
控訴人はその解釈自体を争うものではない。しかし,それだけで
は不十分である。
現行印紙税法における「証書」と「通帳等」との区別の基準は,
旧印紙税法における「証書」と「帳簿」のそれと同じと解すべき
である。本件各文書は,帳簿のうち,家賃通帳のように「一つの
契約」から継続的に発生する課税事項を記載証明するものではな
く,単に反復して発生する同種の取引を付込証明するものであり,
せいぜい「連続的に」記載証明する目的で作成された文書として
帳簿に該当する余地があるにすぎない。そして,旧印紙税法の解
釈によると,そのような文書については,個々の証明部分を切り
離した場合においても,それぞれが独立して証書としての効用を
有すると認められるものは,それぞれが各別に証書に該当すると
いうべきである。したがって,本件各文書は帳簿ではない。
(イ)帳簿の解釈は,印紙税法と所得税法,法人税法若しくは消費税
法等又は会社法とで同一であるべきである。
(ウ)いわゆる手形の耳や集金票は判取帳とされていないが,原判決
の解釈によると,それも帳簿として判取帳に該当することになっ
てしまう。
また,原判決の「帳簿」の解釈によると,業者が,得意先ごと
に市販の複写式の領収書(控)を使用した場合の使用済み冊子が,
帳簿として課税物件表の19号文書(受取通帳)に該当すること
になり,業者は交付する領収書1枚ごとに印紙を貼付するととも
に,領収書(控)の冊子にも印紙を貼付しなければならなくなり,
これは極めて不合理である。
(エ)以上からは,印紙税における帳簿の意義についての原判決の解
釈は誤っており,本件各文書は帳簿に該当せず,本件お客様返金
伝票(売場控)の1枚1枚が,証書に該当するというべきである。
ウ原判決の争点2について
(ア)本件各伝票(お客様返金伝票(売場控))について,商品の等
価交換の際は,現実に金銭の授受はなく,顧客による金銭受領の
事実の証明目的は達成されていない。
(イ)売価が異なる商品との交換について,差額の金額が本件各伝票
に明記されておらず,上記証明目的は達成できない。
(ウ)上記(ア)及び(イ)を考慮すると,特定された額の金銭の受領が確
認でき,かつ受領者の氏名が明らかなものは,全体の19パーセ
ント程度にすぎない。
(エ)以上からは,本件各文書が「二以上の相手方から付込証明を受
ける目的をもって作成」されたとはいえない。
なお,前記目的の達成のためには,むしろ「お客様返金伝票(事
務所控)」の方が重要である。
エ原判決の争点4について
(ア)原判決は,帳簿については,その背後に担税力があることを要
件としていないと判示しているが,誤りである。印紙税法の課税
根拠は,課税文書が各種の経済的取引の表現であり,担税力の間
接的表現であることであるから,本件各文書についても,その背
後に担税力があることが課税の要件であると解すべきである。
そして,本件各文書において,返金については,売上げの取消
し段階で生じるものであり,いわばマイナスの営業活動であるか
ら,担税力は認められない。商品の交換についても,金銭の授受
はないから,そこに担税力を見出すことはできない。
なお,証拠(甲2)によると,付込証明があるといえる返金額
3万9840円に対し,印紙税額は4000円であって10パー
セントを超える。これは,例えば課税物件表17号の税率である
0.02~0.4パーセントに比し,著しく高額である。
(イ)控訴人は,本件各文書に係る返品に先立つ売上げにおいて,受
取書(課税物件表17号の1)を作成して印紙を貼付しており,
商品を売り上げたことについては既に課税されている。
商品の売上げとその返品において2回印紙税を課されること
は,不合理な二重課税である。
オ本件各賦課決定処分ないし印紙税法の過怠税制度の違憲性
(ア)憲法29条違反
前記のとおり,本件各文書には,その背後にある経済取引に全
く担税力はないから,本件各賦課決定処分は,憲法29条に違反
する。
(イ)憲法14条1項違反
印紙税法では,印紙納付方式と申告納付方式(同法11条1項)
を定めている。そして,前者における過怠税の税率(本来の税額
に加え,200パーセントの附帯税が課されている。)は,後者
における加算税の税率(10パーセント)と比較して20倍と著
しく高額である。なお,これは,重加算税(40パーセント)と
比較しても,5倍にもなる。
また,申告納付方式の場合には,所得税や法人税に関し,その
本税の部分の損金算入が認められるが,印紙納付方式における過
怠税は,本税の部分についてもそれができない(所得税法45条
1項3号,法人税法38条1項)。
したがって,印紙税法における過怠税は,その立法目的(印紙
税の適正な納付を担保する。)は正当であるとしても,上記の各
点において著しく不合理であるから,本件各賦課決定処分は,租
税公平主義(憲法14条1項)に違反する。
(ウ)憲法31条又は13条違反
印紙税法の過怠税は,行政上の秩序罰に該当するところ,それ
についても憲法31条及び13条は適用ないし準用される。そし
て,行政上の制裁についても,罪刑の均衡,本件に即していうと
義務違反行為との均衡が保障されるべきである。
そうすると,印紙税法20条1項の過怠税は,故意過失を問わ
ず課されるものであること,不納付印紙額の3倍もの額であり,
経済的に懲罰的損害賠償を負わされるようなものであること,さ
らに,前記のとおり申告納付方式における附帯税と比較して著し
い不均衡があることに照らすと,憲法31条又は13条に違反す
るものである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,原審と同様,控訴人の各請求はいずれも理由がないと
判断する。その理由は,下記2のとおり原判決を補正し,下記3のと
おり当審における控訴人の補充主張及び追加主張に対する判断を付加
するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第4当裁判所の判断」
に説示するとおりであるから,これを引用する。
2原判決の補正
(1)34頁26行目冒頭から38頁13行目末尾までを削り,同14
行目の「3争点2」を「2争点2」に,43頁20行目の「4
争点3」を「3争点3」に,48頁5行目の「5争点4」を「4
争点4」に,49頁17行目の「6」を「5」に,同26行目の「7」
を「6」にそれぞれ改める。
(2)42頁13行目末尾の次に,以下のとおり加える。
「この点,仮に顧客の特定まで要するとしても,控訴人と顧客との間で,
一般的に商品の返品及びそれに係る代金の返還の有無が争いとなる場合
を想定すると,まず,顧客が購入した商品と購入日時,返品をした日時
等をある程度特定することになり,控訴人は,それに基づき,必要に応
じて電子ジャーナル化されたレシートを参照するなどして,当該返品に
係るお客様返金伝票(売場控)を確認することになるから(甲3),結
局のところ顧客の特定まで含めた返金の事実の証明は十分可能といえ
る。」
(3)45頁2行目の「①」の次に以下のとおり加え,同6行目の「②」
を「④」に,同10行目の「③」を「⑤」に,それぞれ改める。
「本件各伝票は,3枚1組300枚から成る一体の文書である本件伝票綴
りの一部であり,本件伝票綴りから切り離して使用することが予定され
ているお客様返金伝票(事務所控)及びお客様返金伝票(商品貼付用)
と異なり,切取り線がなく,その使用態様が,複数の顧客との関係にお
いて返金が生じた場合に当該事実を記録し,集積し,保管するものとさ
れていることから,使用の前後を通じて本件伝票綴りから切り離されて
行使されたり保存されたりすることは予定されておらず,本件各文書は,
その物理的形態ないし形式において,連続する本件各伝票(お客様返金
伝票(売場控))100枚を一体として作成された冊子であること,②
本件各文書は,その外形的な記載においても,その中の本件各伝票に連
続番号が付され,冊子の表紙には,同冊子に含まれる伝票の連続番号の
範囲及び当該伝票綴りの使用開始日及び終了日を記載する欄が設けられ
てその記載がされていること,③」
(4)同17行目冒頭から18行目末尾までを,以下のとおり改める。
「したがって,本件各文書は,文書の形態及び記載内容等から,
個々の本件各伝票(1枚)が「証書」に当たるのではなく,その全
体が「一の文書」として「帳簿」に該当するものと認めるのが相当
である(なお,前記で述べたところからは,本件各文書が一体とし
て1冊の帳簿であるということはできない。)。」
(5)46頁9行目の「判断することとし」から同11行目末尾までを
「判断することとしている(旧印紙税法基本通達13条)。」に改
める。
(6)同12行目の「しかしながら,」の次に,以下のとおり加える。
「そもそも控訴人が指摘する旧印紙税法基本通達208条ないし210条
は,預金通帳,貯金通帳又は積金通帳以外の通帳の一部(貸付金通帳等,
受取通帳等,注文請書帳等など)に関するものであり,すなわち帳簿の
一種である通帳の更にその一部のものに関する解釈にとどまり,同じく
帳簿の一種ではあっても通帳ではない判取帳に関するものではなく,ま
た,同通達の判取帳に関する部分にはそのような記載はないから,前提
において失当である。さらに,本件各文書中の本件各伝票が,それぞれ
独立して特定の顧客による金銭の受領を証明し得るとしても,それは,
判取帳の性質上当然のことであり,控訴人の主張のように解すると,不
特定多数の顧客からの金銭受領の事実を連続的に証明するために作成さ
れる判取帳は,帳簿に該当しないから判取帳でないとされ,旧印紙税法
基本通達215条自体が自己矛盾した規定ということにもなりかねない。
要するに,印紙税法上,「通帳」ないし「帳簿」といっても様々なもの
があり,その全てについて,旧印紙税法が,控訴人の主張のように限定
して解していたとはそもそも認められない。
また,」
(7)同22行目末尾の次に改行の上,以下のとおり加える。
「なお,仮に控訴人の解釈を採用するとして,本件各伝票が,そ
れぞれ独立して返金の事実を証明し得るとしても,前記認定のとお
り,本件お客様返金伝票(売場控)は,本件伝票綴りが作成された
時に,それから切り離されて使用されることは予定されていないも
のであるから,これを一体とみて帳簿と解することが妨げられるも
のではない。」
(8)47頁1行目の「独自の観点」の次に「,すなわち,印紙税にお
ける帳簿の一種としての判取帳として担税力が現れているか否かと
いう観点」を加える。
(9)同13行目から14行目にかけての「あるところ,これらの点を」
を「あり,仮に純然たる商品の交換についての記載が混入している
としても,上記返品等に係る返金の事実を連続的に把握することに
特段支障があるとは認められないことをも」に改める。
3控訴人の当審における補充主張及びこれに対する判断
(1)前記第2の2(3)アの主張について
ア当裁判所は,本件において,「一の文書」の範囲(本件各文書
が,それぞれ「一の文書」に該当するか否か)を最初に判断するの
は相当でなく,直截に本件各文書が「帳簿」に該当するか否かを判
断すべきであり,その際,物理的な形状や記載内容を考慮して,「一
の文書」が何であるか判断するのが相当であると思料する。その理
由は下記イないしエのとおりであり,また,本件各文書がそれぞれ
1冊の帳簿として判取帳に該当することは,前記補正に係る原判決
及び後記(2)及び(3)のとおりである。
イ印紙税法基本通達(乙1)3条は,課税文書に該当するか否か
の判断は,「文書の全体を一つとして判断するのみでなく,その文
書に記載されている個々の内容についても判断する」ものとされ,
すなわち「文書の全体」が何であるかを確定することが前提となっ
ており,それは「一の文書」と実質的に同義であると解される。
また,前記補正に係る原判決のとおり,印紙税法は,課税物件
表において課税する文書(課税物件)を定義し,別表通則1で,文
書の所属の決定は,課税物件表の各号の規定によるとしつつ,当該
各号の規定により所属を決定することができないときは,別表通則
2及び同3に定めるところによるとし,別表通則2及び3において,
「一の文書」でこれに記載されている事項が課税物件表の二以上の
号に掲げる文書により証されるべき事項に該当するもの」について
の所属の決め方について列挙している。そうすると,別表通則1に
「一の文書」という記載がないとしても,別表通則2及び同3の検
討の要否のために,「一の文書」が何であるかの判断をすることが
一般的に想定されていると解される(結果的に,別表通則2及び同
3の適用がないとしても,「一の文書」であるか否かの判断を経た
ことは否定されない。)。
さらに,印紙税法基本通達4条(「他の文書を引用している文
書の判断」)が,課税文書該当性の判断において,当該文書が引用
しているにすぎない文書の内容を参酌できるとしていることは,裏
を返せば,引用文書が「一の文書」に該当するか否かの判断を課税
文書該当性の判断において行っているともいえる。
以上からは,課税単位についてのみならず,そもそも課税文書
に該当するか否かの判断の一部としても「一の文書」とは何かを確
定する判断が含まれていることは明らかである。
そして,上記のように,課税文書であるか否かの判断の一部と
して,「一の文書」が何であるかの判断をする以上,それは,当該
文書の性質と無関係ではなく,証書であるか通帳であるかの判断に
基本的に包含されるものであるというべきであるから,必ずしも証
書か帳簿かの判断に先行して判断されるべきものとはいえない。少
なくとも,本件のように物理的形状としては複数の紙片が1冊(1
束)に綴じられている外観を有する文書については,複数の証書が
(便宜上一時的に)束ねられたもの,又は1冊の帳簿の両方に該当
し得るのであり,本件ではそれが最重要の争点として争われている
のであるから(なお,理論的には,本件各文書が併せて1冊の帳簿
であるということもあり得るが,本件ではそのような主張はなく,
また,前記補正に係る原判決のとおり,そうであるとは認められな
い。),本件各文書が複数の証書(の集合体)であるか,1冊の帳
簿であるか否かをまず判断すべきであって,その際の判断要素とし
て本件各文書の物理的な一体性や連番の存在等を考慮するのが相
当である。
ウなお,印紙税法が,文書の客観的な形状を基準として,物理的
に切り離して行使され,又は保存されることが予定されているか否
かによって,「一の文書」,すなわち課税の単位を確定することと
しているとしても(乙1),それは,複数の紙片から成る冊子が,
帳簿又は通帳のいずれかに該当するとの判断を経た上で,なお課税
単位たる1冊の範囲を画する必要がある場合や,あるいは,外観上
1枚の紙片が,証書に該当し得ることを前提に,それが複数の紙片
に切り離されて保存され,又は行使されることが予定されている場
合に,課税上複数の証書として課税すべきか否かの判断基準の趣旨
を含むものと解される。そして,その際には,文書の形状のみなら
ず,内容等も考慮するものとされているから,やはり,物理的形状
のみから「一の文書」の判断をすることが必ずしも先行するとはい
えない。
本件においても,課税単位たる「一の文書」が何であるかを確
定するために,本件各伝票が本件各文書から切り離して行使され,
又は保存されることが予定されていたか否かを判断するとしても,
それを,本件各文書がそれぞれ1冊の帳簿か,それとも,(便宜上
一時的に束ねられていた複数の)証書であるかの判断に先行して,
又はそれから独立してすることはできないというべきである。
エ以上のとおりであるから,この点についての控訴人の主張は理
由がある。
(2)前記第2の2(3)イの主張について
控訴人の主張する旧印紙税法の解釈は,そもそも帳簿全般に当て
はまるものではなく,まして判取帳に当てはまるものでもないこと,
仮に上記解釈を採用しても,本件各伝票が本件各文書の作成時点で
それから切り離して使用することが予定されていないことを考慮す
ると,本件各文書が,各冊子毎に一体のものとして,顧客との間の
返品と返金の事実を連続的に証明するものとして帳簿に該当するこ
とは,前記補正に係る原判決のとおりである。
なお,手形の耳は,そもそもその体裁上手形の受領者からの付込
証明を受けることを予定しているものではないこと,また,集金票
は,現金を受領したことの付込証明を受けることがあるとしても,
それは頻度が低いものであり,継続的ないし連続的に証明する目的
があるとまではいえないから,判取帳として扱われておらず,それ
には合理的な理由があるといえることからすると,これらが判取帳
とされていないことが,本件各文書が帳簿に該当するとの判断を左
右するものではないことも,前記補正に係る原判決のとおりである。
さらに,控訴人は,一般に市販されている複写式の領収書につい
て指摘するが,その使用後に残る領収書(控)の綴りは,発行した
領収書の控えにすぎず,金銭の受領の事実を付込証明する目的で作
成されるものとはいえないから,帳簿の一種たる通帳には該当しな
いものである。
したがって,控訴人の前記第2の2(3)イの主張は理由がなく,採
用することができない。
(3)前記第2の2(3)ウの主張について
ア控訴人は,本件各文書の一部(甲2)について,その記載から
金額欄記載の金銭の授受があったと認められ,かつ,顧客のサイン
のあるものは全体の19パーセントにすぎないことから,本件各文
書作成の主たる目的が金銭授受の付込証明にあったということは
できない旨主張する。
確かに,本件各文書に,等価交換や売価違いの交換など,返品
に係る返金とは異なるものも多く記載されていることは,控訴人の
指摘のとおりである。しかし,印紙税法における課税文書に,課税
事項ではない取引等が記載されることは世上よくあることであっ
て,課税事項でない取引等が記載されていることは,それが判取帳
であると認定することを当然に妨げるものではない。そして,本件
各文書は,その体裁に照らすと,専ら返品に係る顧客に対する返金
の受領を付込証明する目的で作成されたものということができ(そ
の点で手形の耳や集金票とは異なる。),現に返金に係る金銭の受
領が相当数付込証明されていることからは,それが判取帳に該当す
ることは明らかである。
なお,本件のように複数の同種文書が繰り返し作成されて使用
される場合には,先に作成された文書の実際の使用態様も考慮して,
後の同種文書の作成目的を認定することが可能であるところ,顧客
の氏名や住所等その特定に必要な事項が一部明らかでなくても,本
件各文書が実際に機能する場面で上記付込証明の目的を果たし得
ることは,前記補正に係る原判決のとおりであり,そうすると,金
銭受領の事実についての付込証明の目的を達成していると解され
る本件各伝票の割合が,控訴人が主張するような低いものであると
はいえない。
イまた,控訴人は,返品レシートと返金を示すマイナスレシート
が貼付された本件お客様返金伝票(事務所控)の方が,本件各文書
の作成目的の達成のためにはより重要であると主張する。しかし,
お客様返金伝票(事務所控)に,直接顧客が署名することはなく,
また,同控は本件伝票綴りから切り離され,レジの状差しに刺され
るのであるから,顧客への返金を連続して付込証明するという目的
のためには,本件各伝票(お客様返金伝票(売場控))がより重要
であることは明らかである。
ウしたがって,控訴人の前記第2の2(3)ウの主張は理由がなく,
採用することができない。
(4)前記第2の2(3)エの主張について
ア印紙税法は,課税物件表所定の各号の文書の作成に対して課税
するものであり,その課税根拠は,それらが各種の経済取引の表現
であり,担税力の間接的表現であることであると解される。そして,
判取帳の課税標準及び税率は,1冊につき4000円とされており,
付込証明に係る証明額の総額や証明件数について何ら制限はない
(なお,印紙税法4条2項において,1冊当たりの付込みをする期
間については,1年を限度とするとされており,また同条4項にお
いて,一定額以上の高額の付込みがされた場合,当該部分について
は,判取帳への付込みがなく,記載に係る事項に該当する課税物件
表所定の号に規定する課税文書の作成が新たにあったものとされ
ている。すなわち,判取帳としては課税しないものである。)。
以上からは,判取帳に係る印紙税の課税根拠は,個々の付込証
明に係る個別の取引ないしそれによる収益ではなく,判取帳により
間接的に把握される経済取引全体であると解すべきである。そう解
したとしても,判取帳により顧客が金銭を受領した事実を複数証明
できることは納税者にとって経済的に利益のあるものであり,印紙
税の額も低額であると認められるから,何ら不合理ではない。
そうすると,本件各伝票に記載された返品と返金それ自体が,
直接的には利益を生じるものではないとしても,それによって間接
的に把握される経済取引全体に担税力がないということはできな
い。
イなお,顧客の住所等が記載されていなくても,返金の事実を付
込証明するという目的が達成できることは前記補正に係る原判決
のとおりであり,そうすると,控訴人の,付込証明ができる本件各
伝票の割合が低いことを根拠に,付込証明される金額に比して税額
が著しく高額であるとする主張は,その前提において失当である。
ウまた,前記アで述べたところからは,受取書と本件各文書では
課税根拠が異なるのであるから,それぞれについて印紙税を課税す
ることが二重課税に該当するとはいえない。
エ以上のとおりであるから,控訴人の前記第2の2(3)エの主張は
理由がなく,採用することができない。
(5)前記第2の2(3)オの主張について
ア前記のとおり,判取帳には担税力が認められるから,控訴人の
憲法29条違反の主張は理由がない。
イ控訴人は,①印紙納付方式と申告納付方式とで,過怠税の税率
が異なり,前者の税率は著しく高いこと,②印紙納付方式では,過
怠税のうち本税に該当する部分について損金算入ができないこと
から,本件各賦課決定処分は憲法14条1項に違反する旨主張する。
しかし,申告納付方式は課税文書が限定されていること(様式
又は形式が同一であり,かつ,作成の事実が後日明らかとされるも
ので,毎月継続して作成されるか,特定の日に多量に作成されるも
の),税務署長の事前の承認も必要であること,所定の申告がされ
ること等の要件があり(印紙税法11条),印紙納付方式と比較し
て不納付の危険性が少なく,その発見も容易であると解される。そ
のことと,判取帳1冊当たりの印紙税額が高額とはいえないことを
併せ考慮すると,印紙納付方式における過怠税の税率が著しく高く,
明らかに不合理であるとはいえない。
また,上記のとおり,申告納付方式においては,その適用を受
けるために相応の事務負担があること,印紙納付方式における不納
付の場合は,それに係る事務負担が考えられないことを考慮すると,
後者について本税部分の損金算入を認めないことが,著しく不合理
であるとはいえない。
ウ印紙納付方式における納付は,第一次的に納税者が自主的にす
るものであること,印紙税の税率は法人税等と比較して低いことか
らは,過怠税が本税を含めて3倍であるとしても,それが著しく均
衡を欠き明らかに不合理であるとは認められない。
エしたがって,控訴人の前記第2の2(3)オの各主張は理由がなく,
採用することができない。
(6)その他,控訴人が主張するところは,前記1の判断を左右するも
のではない。
第4以上のとおりであるから,控訴人の各請求を認めなかった原判決は
正当として是認することができる。
よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官杉原則彦
裁判官渡邉和義
裁判官高瀬順久

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