弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人池辺甚一郎の上告趣意第一、二点について。
 物価統制令は憲法二五条の精神に反し無効であるといえないこと及び価格の統制
が廃止されたからといつて、その廃止前にした価格統制違反の犯行を目して既に無
罪とされた行為であつて、これを処罰した判決をば憲法三九条の精神に反するとい
えないことは昭和二五年(あ)第二一〇六号同二六年一二月五日大法廷判決の趣旨
に徴して明らかである。されば、論旨第一、二点はいずれもその理由がない。
 同第三、四、五、八、九点について。
 論旨第三点は超過額認定の証拠は不充分であるというのであり、同第四点は公定
価格を判示していない理由不備の違法あるというのであり、同第五点は被告人に証
人を尋問する機会を充分に与えず、また、審問すべき証人を喚問しなかつた審理不
尽の違法があるというのであるから、すべて単なる訴訟法違反の主張に帰する。次
に同第八点は違憲であるとはいつているがその実質は量刑を不当とする主張に帰す
る。また、同第九点は理由齟齬の違法があるという単なる訴訟法違反(原判決は被
告人が、もと、判示の漁業会の事務員をしていた経歴を利用して本件犯行をなした
趣旨を判示しているのであつて、判示の漁業会が本件鮮魚の取引をしたとは認定判
示をしていないことは判文上明らかなところであつて所論は判示にそわない事実を
前提とするものでとるをえない)の主張である。さればいずれも明らかに刑訴四〇
五条に定める上告の理由にあたらない。
 同第六点について。
 憲法三七条二項(論旨には三七条とあるが三七条二項の趣旨と解する)の規定は
裁判所の職権により又は訴訟当事者の請求により喚問した証人につき反対尋問の機
会を充分に与えなければならないと言うのであつて、被告人に反対尋問の機会を与
えない証人其の他の者(被告人を除く)の供述を録取した書類に代わるべき書類(
所論A外十数名の提出した顛末書)は絶対に証拠とすることを許されないという意
味を含むものでないことは昭和二三年(れ)第八三三号同二四年五月一八日大法廷
判決(判例集三巻六号七八九頁以下)の趣旨に徴して明らかなところである。そし
て所論の顛末書を提出した者の中原審で証人として喚問の申請をされたのはA、B
の両名だけであつて、その余の者については証人の喚問申請がなされなかつたこと
記録上明らかであるから、A、Bを喚問し、被告人に尋問の機会を与え、その余の
者を喚問しないで被告人に尋問の機会を与えず、その提出した顛末書を証拠とした
からといつて、原判決を目して所論憲法の規定に違反するものとはいえない。論旨
は理由がない。
 同第七点について。
 論旨は原判決は本件鮮魚の公定価額の算定をあやまり、公定より多額に認定した
というに帰する。されば事実誤認のしかも被告人に不利益な主張に帰し上告適法の
理由とならぬ。そして記録を精査するも本件には刑訴四一一条を適用すべきものと
は認められない。
 よつて刑訴施行法三条の二、刑訴四〇八条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は真野裁判官の本件は原判決を破棄し免訴の判決言渡をするのを相当と
するとの意見(判例集第四巻一〇号一九八三頁以下参照)を除く外裁判官全員一致
の意見によるものである。
  昭和二六年一二月二〇日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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