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平成11年(行ケ)第375号 審決取消請求事件
平成13年2月20日口頭弁論終結
          判      決
       原      告     イーオーエス ゲゼルシャフト ミッ
ト ベシュレンクテル ハフツング イレクトロ オプティカル システムズ
       代表者          A
       訴訟代理人弁理士 後 藤 洋 介
       同            池 田 憲 保
       同            山 本 格 介
       被      告     ボード・オブ・リージェンツ・ザ・ユ
ニバーシティー・オブ・テキサス・システム
       代表者          B
       訴訟代理人弁護士     大 野 聖 二
       同            社 本 一 夫
            主      文
    1 特許庁が平成10年審判第35217号事件について平成11年
6月30日にした審決を取り消す。
    2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を
30日と定める。
      事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 主文1、2項と同旨
2 被告
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
  被告は、発明の名称を「選択的焼結によって部品を製造する方法」とする特
許第2620353号の特許(1986年10月17日及び1987年10月5日
にアメリカ合衆国においてした出願に基づく優先権を主張して1987年10月1
4日に国際出願、平成9年3月11日に設定登録。以下「本件特許」といい、その
発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
  原告は、平成10年5月22日、本件特許を無効にすることについて審判を
請求し、特許庁は、この請求を平成10年審判第35217号事件として審理した
結果、平成11年6月30日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を
し、その謄本を同年7月24日に原告に送達した。なお、出訴期間として90日が
付加された。
2 特許請求の範囲1の項
  粉末第1層を目標表面に分与し;
  前記粉末第1層における部品の第1断面に対応する部分に、その部分の前記
粉末を焼結させるべくレーザビームを選択的に指向させ;
  前記レーザビームの選択的指向の後に前記粉末第1層上に粉末第2層を分与
し;
  前記粉末第2層における部品の第2断面に対応する部分に、その部分の前記
粉末を焼結させるべく、また前記粉末第2層のその部分において焼結した粉末を前
記第1層中の焼結した粉末に接合させるべくレーザビームを選択的に指向させ;
  以後必要な回数だけ連続して、直前の粉末層についてのレーザビームの選択
的指向の後に前記直前の粉末層上に次の粉末層を分与し、分与したその粉末層にお
ける部品の断面に対応する部分に、その部分のその粉末層の粉末を焼結させるべ
く、またその粉末層のその部分において焼結した粉末を前記直前の層中の焼結した
粉末に接合させるべくレーザビームを選択的に指向させる工程を反復し、
  そして、全工程を通じて目標区域の粉末を焼結温度より低い温度に加熱する
ことにより、焼結したおよび非焼結の粉末の温度を制御し、
  部品が製造された後、非焼結の粉末を取り除く、
  各工程を含む、粉末から部品を1層ずつ積層的に製造する方法。
3 審決の理由
  別紙審決書の理由の写しのとおり、①本件発明は、C「層状選択焼結による
部品生成」(テキサス大学理学修士学位論文(1986年5月発行)1頁~50
頁)(審決の甲第1号証、本訴の甲第3号証。以下「引用例1」という。)、米国
特許第4247508号明細書(審決の甲第2号証、本訴の甲第4号証。以下「引
用例2」という。)、特開昭57-160975号公報(審決の甲第3号証、本訴
の甲第5号証。以下「引用例3」という。)、特開昭58-57916号公報(審
決の甲第4号証、本訴の甲第6号証)、特開昭61-52373号公報(審決の甲
第5号証、本訴の甲第7号証)、「1987SMEManufacturingTechno1ogy
Review,Vo1ume2」(1987年5月発行、636頁~641頁)(審決の甲第6号
証、本訴の甲第8号証。以下「引用例6」という。)、溶接学会編「改訂3版 溶
接便覧」(丸善株式会社昭和52年3月31日発行、1314頁~1323頁)
(審決の甲第7号証、本訴の甲第9号証。以下「引用例7」という。)記載の発明
から当業者が容易に発明をすることができたものである(無効理由1)、②本件特
許は、その特許明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の欄に
不備があり、また、その特許請求の範囲は、本件発明の構成に欠くことができない
事項のみを記載したものではない(無効理由2)との原告主張をいずれも排斥し、
そのようにいうことはできない、と認定判断した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
  審決の理由1(本件発明)、2(当事者の主張)は認める。同3(当審の認
定・判断)の1)(無効理由1について)の(1)(甲各号証について)は認める。同
3の1)の(2)(対比・判断)は、20頁18行(「そうすると」から)~21頁2
行、21頁19行(「甲」から)~22頁11行、23頁8行(「本件発明の」か
ら)~9行(「示すものではない。」まで)、同頁10行(「本」から)~15行
(「ものは、」まで)、同頁16行(「本件発明」から)~24頁18行までを争
い、その余は認める。同3の2)(無効理由2について)の(1)(請求人の具体的主
張)は認める。同3の2)の(2)(請求人の主張の検討)の「前記aについて」は認
める。同3の2)の(2)の「前記bについて」は、28頁14行~29頁15行、3
1頁2行(「このヨーロッパ特許庁」から)~4行(「認められない。」まで)、
同頁16行(「との課題」から)~17行(「実施態様において」まで)、32頁
1行(「また、」から)~19行を争い、その余は認める。同5(むすび)は争
う。
  審決は、①無効理由1に関し、本件発明と引用例1、2、6記載の発明との
相違点についての判断を誤ったものであり(取消事由1)、②無効理由2に関し、
本件発明の特許請求の範囲の記載は、本件発明の構成に欠くことができない事項の
みを記載したものではないことを看過したものであって(取消事由2)、これらの
誤りが、それぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として
取り消されるべきである。
1 取消事由1(無効理由1に関する、相違点についての判断の誤り)
  審決は、当業者が、本件発明の「そして、全工程を通じて目標区域の粉末を
焼結温度より低い温度に加熱することにより、焼結したおよび非焼結の粉末の温度
を制御し、」(以下「工程6」という。)との構成に想到することが容易とは認め
られないと判断したが、誤りである。
(1) 物体中に温度の不均一があると、その物体は、歪(ひずみ)を起こし、変
形や割れを生じることはよく知られている事実である。このような温度の不均一に
よる歪の発生を避けるためには、温度の不均一を解消すればよく、そのためには物
体全体を加熱するか、あるいは、低温部分を加熱し高温部分を冷却すればよいこと
は、常識である。
 物体を局部加熱する際、局部加熱により生じる温度の不均一による歪を避
けるために、局部加熱前から物体を、局部加熱温度付近の温度に予備加熱(主たる
局部加熱に対するものであるから「補助加熱」ということもできる。)することも
常識である。
 例えば、グラスに湯を注ぐ際に、あるいは、熱いグラスに冷水を注ぐ際
に、湯あるいは冷水の当たる部分と当たらない部分との間に温度の不均一による歪
が生じ、グラスが割れることは日常経験することで、このグラスの割れを避けるた
めには、湯を注ぐ前に、グラスをあらかじめ温める(予備加熱)か、反対に湯を冷
まして注ぐかすればよいこと、あるいは、冷水を注ぐ前に、グラスを冷ますか反対
に冷水を温めて注ぐかすればよいことは、一般常識に属する事項である。
 溶接における予熱処理に関する引用例7の記載は、そのような常識の工業
的利用の最も典型的な例を示しているものであって、予熱すなわち予備加熱が溶接
技術に特有のものであるわけではない。
(2)工程6は、「粉末から部品を1層ずつ積層的に製造する方法」において、
「レーザービームによってまだ走査されていない粒子の温度と、すでに走査された
粒子の温度との間に差異があり、このため製造中の製品に望ましくない収縮が生じ
るという課題を解決するため」(審決20頁3行~7行)である。
 しかし、引用例1、2、6記載の発明である「粉末から部品を1層ずつ積
層的に製造する方法」において、「まだ走査されていない粒子」は、レーザー照射
を受けておらず加熱されていないから、レーザー照射を受けて加熱された「すでに
走査された粒子」との間に温度の差異があることは当然である。したがって、製造
中の製品に温度の不均一の部分が生じ、これにより製品に望ましくない歪が生じる
ことも当然の結果である。
 このような温度の不均一を回避するために、新たに分与される低温の粉末
層を予備加熱することによって、「既に焼結された粉末と非焼結の粉末との温度
差」を小さくすることは、当業者にとっては、技術常識にすぎない。本件発明と同
様の粉末から部品を1層ずつ積層的に製造する方法に関する文献である、引用例6
の637頁右欄7項で言及されている「レーヤーグレーズ法」も、温度差による熱
膨張の差に基づく歪、すなわちひび割れを解消するために基板を予備加熱する技術
である。
 以上のとおり、引用例1、2、6記載の発明に工程6を付加することは、
引用例7に典型的に示される技術常識としての予備加熱を採用したにすぎず、格別
な発明力を要するものではないのである。
(3) 審決は、相違点に係る本件発明の構成について、「粉末から部品を1層ず
つ積層的に製造する方法において、レーザービームによってまだ走査されていない
粒子の温度と、すでに走査された粒子の温度との間に差異があり、このため製造中
の製品に望ましくない収縮が生じるという課題を解決するため」(20頁2行~7
行)と認定したうえで、引用例3の「補助加熱」について、レーザーのエネルギー
の適正条件幅を広くするためであり、単層のみを対象としたもので、本件発明のよ
うに、粉末から部品を1層ずつ積層的に製造する際の積層されていく各粉末層を対
象とし、上記課題を解決しようとするものではないと判断した。上記課題の認定は
認めるが、これに基づく判断は誤りである。
ア 局部加熱による材料の加工を行う場合、材料を予熱(予備加熱)してお
くことは、慣用技術である。予備加熱の目的は、材料とその加工の方法によってい
ろいろあるものの、共通するところは、①予備加熱により、加工時の熱変形を極力
少なく押さえ、加工後における、周囲の加工されていない部分による冷却を少なく
する、② 材料が予備加熱されていると、加工に要する熱量が少なくてすみ、加工
の速度も上げられ、制御もしやすくする、ということである。
 引用例3でいう「補助加熱はレーザーエネルギーの適正条件幅を広くす
る」という意味は、上記①、②の両方の意味を包含したものと理解すべきである。
これらはいずれも慣用技術であることから、引用例3の「補助加熱」の意味内容
は、当業者には、本件発明の目的とするところと同義であるものと理解できるので
ある。
(4) 審決は、引用例3について、「粉末材料をペースト化した単一の層を乾
燥した試料を対象とするものであり、本件発明のように、粉末から部品を1層ずつ
積層的に製造する際の積層されていく各粉末層を対象とし、上記課題を解決するも
のではない」(20頁13行~18行)と認定した。
 しかし、レーザー焼結は、それにつき、引用例3自体に、「レーザー光
の浸入深さには限度があるため、本質的に膜状素子の焼結に適したものである」
(4頁左下欄19行~右下欄1行)とあるとおり、本来、薄い層を形成してその層
を局部的に焼結する方法に適しているのであるから、本件発明に密接に関係する内
容の技術である。したがって、レーザー焼結に関するものである引用例3の技術
を、粉体から部品を1層ずつ積層的に製造する方法において、一つずつの層に適用
出来ることは明らかである。
 引用例3における補助加熱の技術を、仮にその記載された目的(レーザ
ーエネルギーの適正条件幅を広くすること)のみを意図して、公知の積層法におい
て分与される各粉末層に対して適用した場合にも、本件発明と同じ構成を有するこ
とになることは、明らかである。しかも、公知の積層法において分与される各粉末
層に対して引用例3の「補助加熱」を適用することに困難性があるとする、何らの
理由もないのである。
(5) 被告は、本件発明の工程6の技術的課題について、「レーザービームに
より、走査された粉末の上に、新たに粉末を分与した際に、走査された粉末層の両
端がカールすることにより生じるもの」であると主張するが、本件明細書の記載に
基づかない主張である。
 むしろ、被告は、本件出願の審査段階において、拒絶理由通知を受けて
「粉末の温度制御」を請求項1に導入する補正を行った際、平成7年5月15日付
けの意見書(以下「本件意見書」という。)を提出して、「粉末の温度制御の目
的」は、①焼結の際の融合に伴う収縮、②焼結の際の体積熱(バルク熱)による製
品の非焼結物中への成長、を防止することであると主張しており、被告の本訴にお
ける主張は、これと矛盾する。
(6) 審決は、「上記課題を解決するには、『レーザビームによってまだ走査
されていない粒子の温度と既に走査された粒子の温度との差異』を加熱して小さく
すればよいこと・・・は当業者において自明なことである。」(32頁1行~10
行)と認定している。この認定は、「技術常識」を根拠とするものであることは明
らかである。そうだとすれば、「粉末から部品を1層ずつ積層的に製造する方法」に
「技術常識」に従って「加熱」を適用することは、当業者には自明なことになるはず
である。ところが、審決は、進歩性判断において、本件発明が、進歩性を有すると
認定している。すなわち、本件発明の進歩性の判断と、出願明細書に開示された事項
から自明の範囲であるか否かの判断において、審決は矛盾しているのである。
2 取消事由2(明細書の記載不備等)
  審決は、本件発明の「特許請求の範囲の第1項には、発明の詳細な説明中に
記載された発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載したものではないとす
ることはできない」(29頁12行~15行)と認定したが、誤りである。
(1) 本件明細書に開示された発明は、「温度制御された空気の下降流を目標区
域に通すこと」という解決手段により、一方では「未だ走査されていない粒子」と
の熱交換によってその温度を上昇させ、他方では「すでに走査された粒子」との熱
交換によってその温度を低下させ、両者の温度を平均化させることで、「まだ走査さ
れていない粒子の温度とすでに走査された粒子の温度との間にある差異」を解消す
るものである。このことは、「雰囲気気体を温度調整して下降流として目標区域に
通すことにより、上記のような好ましくない温度素を解消し、製品の望ましくない
収縮を避けることができることがわかった」(本件明細書9欄29行~32行)の
記載から明らかである。
  この解決手段からは、単に「加熱する」との広義の技術手段によって同じ解
決、すなわち、「まだ走査されていない粒子の温度」を上昇させ、「すでに走査され
た粒子の温度」を低下させ、「平均化させる」ことが達成されるか否かは不明であ
る。
 したがって、単に「加熱する」ことを技術手段としている本件発明の特許請
求の範囲は、本件明細書に開示された発明ではない。
 なお、本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、特許請求の範囲に記載の
文言と同一の記載があることは認めるが、これは、特許請求の範囲の記載の補正に
基づいて挿入されたもので形式的な一致にすぎない。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(無効理由1に関する、相違点についての判断の誤り)について
(1) 本件明細書で問題としている「レーザビームによってまだ走査されていな
い粒子の温度と、すでに走査された粒子の温度との間に差異があり、このため製造
中の製品に望ましくない収縮が生じることが観察された」(9欄24行~27行)
とは、具体的には、レーザービームにより走査された粉末の上に、新たに粉末を分
与した際に、走査された粉末層の両端がカールすることにより生じるものである。
すなわち、第1層がレーザービームにより走査された後、その上に粉末を第0層と
して分与するに際し、これをまんべんなくスムーズに行うには、粉末の温度を軟化
点以下にして分与する必要がある。ところが、このような温度の低い粉末を分与す
ると、第1層中の既に走査された粉末層の両端がカールし、製造中の製品に歪みを
生じる。これを防止しようとするのが、本件発明の温度制御の目的であり、そのた
め「温度調整は、粉末の軟化点以上であるが、十分な焼結の起る温度以下に加熱し
て行う」(9欄32行~34行)のである。
 以上のとおり、本件発明の工程6の技術的課題は、局部加熱をした際の加
熱された部分と他の部分との歪の問題とは全く異なるのである。
(2) 前記(1)のとおり、本件発明の温度制御は、部品を1層ずつ積層的に製造
する方法に特有の問題を解決するためのものである。したがって、溶接に関する技
術である引用例7の予備加熱は、本件発明の温度制御とは関係がない。レーヤーグ
レーズ法も、異なる物質の熱膨張の差によるひび割れの問題を解決するものである
から、これまた、本件発明の温度制御とは関係がない。
(3) 引用例3記載の発明について
ア 前記(1)のとおり、本件発明の温度制御は、粉末から部品を1層ずつ積層
的に製造する方法(積層法)に特有の問題を解決するためのものであり、このよう
な目的の温度制御は、引用例3記載の発明のような単層法の技術では全く問題とな
らない事柄である。このようなとき、引用例3の補助加熱を積層法に適用すること
を容易とすることはできない。
イ 引用例3記載の発明の補助加熱は、レーザー光の吸収率を高める効果を
得る目的でなされるものであり、その内容も、単に、材料を室温よりも高くするも
のであって、原告が主張するような局部加熱による材料の加工を行う場合の予備加
熱とは、目的も内容も全く異なる技術である。
(4) 本件意見書には、焼結の際の体積熱(バルク熱)による製品の非焼結物中
への成長が起こることに関する記載があるが、このような記載があるからといっ
て、本件発明がその対象範囲を温度制御された下降流を目標区域に指向した場合に
意識的に限定しようとしたものではないことは明らかである。その証拠に、特許請
求の範囲にはそのような限定を付していないし、本件明細書も、本件発明の技術的
課題を、「レーザービームによってまだ走査されていない粒子の温度と、すでに走
査された粒子の温度との間に差異があり、このため製造中の製品に望ましくない収
縮が生じることが観察された」ことの解決にあるとしているからである。
2 取消事由2(明細書の記載不備)について
  審決が正当に認定しているとおり、本件明細書には、本件発明が開示されて
いるから、原告の主張は、失当である。本件明細書のように技術的課題と具体的実
施態様が記載されていれば、当業者であれば、本件発明の内容を理解できるのであ
る。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(無効理由1に関する相違点についての判断の誤り)について
(1) 甲第5号証(引用例3)によれば、引用例3には、審決書10頁10行な
いし12頁4行認定のとおりの記載があることが認められる。
(2) 上記記載によれば、引用例3には、審決認定のとおり「レーザー光照射に
よって粉末材料層を焼結する際に、レーザーエネルギーの適性条件幅を広くするた
めに焼結されるべき粉末材料層を補助加熱すること」(20頁9行~12行)が記
載されていることが認められる。したがって、引用例3に接した当業者は、レーザ
ー光照射によって粉末材料層を焼結する際に、焼結されるべき粉末材料層を補助加
熱すれば、「レーザーエネルギーの適性条件幅が広く」なり、有利な効果が得られ
ることを知るものと認められる。
(3) 甲第3(引用例1)、第4(引用例2)、第8(引用例6)号証によれ
ば、引用例1、2、6記載の発明は、レーザー光照射によって粉末材料層を焼結す
る技術であることが認められる。
 そうである以上、レーザー光照射によって粉末材料層を焼結する際におけ
る前記有利な効果を得ることを意図して、引用例1、2、6記載の発明に引用例3
記載の発明の補助加熱を適用することは、当業者が容易に想到することができたも
のというべきである。
(4) 被告は、本件明細書で問題としている工程6の技術的課題は、レーザービ
ームにより走査された粉末の上に、新たに粉末を分与した際に、走査された粉末層
の両端がカールすることにより生じるものであると主張する。
  しかし、そうだとしても、当業者が、レーザー光照射によって粉末材料層
を焼結する際における前記有利な効果を得る目的で、引用例1、2、6記載の発明
に引用例3記載の発明の補助加熱を適用することの妨げとなるものではない。なぜ
なら、当業者は、被告主張に係る技術的課題を認識しなくても、他の目的で、引用
例1、2、6記載の発明に引用例3記載の発明の補助加熱を適用することは可能だ
からである。
  のみならず、甲第2号証(本件特許公報)によっても、本件明細書に、被
告主張に係る技術的課題が記載されていると認めることはできない。かえって、甲
第17号証(本件意見書)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件出願の審査段
階において、拒絶理由通知を受けて「粉末の温度制御」を特許請求の範囲請求項1
に導入する補正を行った際、審査官に対して本件意見書を提出し、「明細書中に詳
細に記載したように、積層的に部品を製造するにあたっては、熱勾配により望まし
くない収縮が生起し、又部品の過剰バルク熱に起因して焼結融合部分の非焼結部分
への生長がおこる。このため、本願第1発明では、これらの現象を避けるため、構
成要件④として分説した、目標表面で焼結した及び非焼結の粉末を温度制御するた
めの加熱装置を備えなければならない。」(5頁4行~8行)、「この結果前述し
た製品の望ましくない収縮、成長などを避けることができる。審査官殿ご指摘の問
題点は、この補正により解消したものと信ずる。」(6頁2行~4行)と述べたこ
と及びこれを前提として本件特許が査定されたことが認められる。上記のように、
被告でさえ、本件意見書を提出した段階では、工程6の技術的課題を、レーザービ
ームにより走査された粉末の上に、新たに粉末を分与した際に、走査された粉末層
の両端がカールすることにより生じるものであるとは述べておらず(単なる「熱勾
配により望ましくない収縮」から、「カール」を読みとることはできない。)、こ
れとは関係のない部品の過剰バルク熱をも問題としているのであるから、当業者
が、本件明細書から上記技術的課題を認識することはなかったものと認められる。
(5) 前記(1)認定の引用例3の記載によれば、引用例3記載の発明は、粉末材
料をペースト化した単一の層を乾燥した資料を対象とするものであることが認めら
れる。しかし、本件全証拠によっても、①焼結されるべき粉末材料層を補助加熱す
れば、「レーザーエネルギーの適性条件幅が広く」なることは、粉末材料をペース
ト化した単一の層を乾燥した資料に限られる特殊な事情であるとか、②同じレーザ
ー光を用いても、粉末から部品を1層ずつ製造する際の積層されてゆく各粉末層に
は当てはまらないとか、という事実を認めることはできない。そうである以上、引
用例3記載の発明が、粉末材料をペースト化した単一の層を乾燥した資料を対象と
するものであることは、引用例1、2、6記載の発明に引用例3記載の発明の補助
加熱を適用することの妨げとなるものではない。
(6) また、引用例3記載の発明の補助加熱が、全工程を通じて、レーザー光照
射によって焼結しようとする粉末材料層の焼結温度よりも低い温度に加熱するもの
であることは自明である。なぜなら、焼結温度以上の温度に補助加熱をしたので
は、粉末材料層が補助加熱によって焼結されてしまい、レーザー光照射によって焼
結する際に支障を来すため、当業者が、焼結温度以上の温度に補助加熱をすること
はあり得ないからである。
(7) なお、甲第5号証によれば、引用例3において、実施例として記載されて
いるのは、任意の温度(例えば350℃)に加熱した熱板上に試料を置くという方
法で、下方から予備加熱するものであることが認められる。そして、この方法を、
そのまま粉末から部品を1層ずつ製造する際の積層されてゆく各粉末層に適用しよ
うとしても、上方に積層される粉末を加熱することが困難であることは、自明であ
る。しかし、前記(1)認定の引用例3の記載によれば、引用例3の補助加熱は、「電
熱器、赤外線加熱器、高周波加熱、渦電流加熱、温水加熱、軽油・石油・重油・ガ
ソリン・石炭・ガス等の燃焼による加熱等があり、これらを併用したものであって
も良いし、これらに限定されるものではない」から、当業者が、引用例3記載の発
明の補助加熱を、引用例1、2、6記載の発明の、粉末から部品を1層ずつ製造す
る方法に適用する際に、引用例3の開示に従い、例えば赤外線加熱器、高周波加熱
等により上方から加熱する等、積層される粉末を加熱するのに適した方法を適宜採
用することができたことは明らかである。
(8) したがって、引用例3記載の発明の補助加熱を、引用例1、2、6記載の
発明に適用することが、当業者といえども困難であるとした審決の判断は、誤りと
いうべきである。
2 以上のとおり、その余について判断するまでもなく、審決取消事由1に係る
審決の認定判断は誤りであることが明らかであって、この誤りが審決の結論に影響
を及ぼすことも明らかである。審決は、違法であって取消しを免れない。
第6 よって、原告の本訴請求は、理由があるから認容することとし、訴訟費用の
負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の付与について行政事件訴
訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
      東京高等裁判所第6民事部
            裁判長裁判官   山  下  和  明
        
               裁判官    山  田  知  司
 
               裁判官   阿  部  正  幸

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今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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