弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A本人の上告趣意(1)総論について。
 所論は、原判決の事実誤認ないし法的判断の誤をいう総括的主張であつて、これ
をその余の論旨と綜合してみても刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 論旨(2)(イ)について。
 原判決が弁護人諫山博、同谷川宮太郎の連名の控訴趣意第一点の事実誤認の主張
に対する判断の(一)において認めたB巡査の被告人らに対する所論写真撮影行為
は原判示のとおり違法行為ではないから、被告人らが原判示同(二)のように同巡
査の腕や襟首を押えたり、一〇米位引きずつた上その右手を掴み後襟と左袖や身体
を掴えたり、その両手を後え捻じあげるようにしたりして同巡査の反抗を完全に抑
圧してその着衣をさがしそのズボン右ポケツトにあつたフイルム在中の判示カメラ
を抜き取つた行為が刑法上許された行為でないことはいうまでもない。所論は違憲
をいうが、その実質は被告人らの判示所為の適法性を主張し原判決の単なる法令違
反を主張するもので刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 論旨(2)(ロ)は訴訟法違反およびこれを前提とする違憲の主張であつて上告
適法の理由とならない。(原判決の引用する第一審判決挙示の証拠によれば原判示
被告人らの共謀の事実を認めるに足るから原判決には所論の訴訟法違反は認めるこ
とができない。)
 論旨(3)は論旨(2)(イ)、(ロ)の繰返えしにすぎず(イ)、(ロ)と同
旨の理由により論旨は採用できない。
 論旨(4)(イ)は事実誤認の主張に帰し上告適法の理由とならない。(第一審
判決が認定した罪となるべき事実の証拠として挙示し、また原判決がその事実認定
の証拠とした押第四号の本件写真ネガフイルム一本のうちには特に女だけを対象と
して撮影したものの如く現われている陰画は認められない。)
 論旨(4)(ロ)は(2)(ロ)の繰返しであつて(2)(ロ)説示の理由によ
り上告適法の理由とならない。
 論旨(5)は何ら違憲、違法、判例違反の主張を含まないから上告適法の理由と
ならない。
 弁護人諫山博、同谷川宮太郎の上告趣意第一点について。
 所論は判例違反、法令違反を主張する。原判決が第一審判決挙示の証拠により認
めた事実は、原判示の如き情況の下において、判示日時、判示道路上で被告人らは
互に意思相通じて判示B巡査の所持する写真機に装填されているフイルムを取得す
るのを主たる目的として写真機を取上げることとし、同巡査の左右から腕を押え、
前から襟首を押えて口々に「写真機をとれ」等と呼び合いながら右道路を横断して
約一〇米位引きずつた上、同所附近において、被告人Cは同巡査の右前から右手を
掴み、被告人Aは後から後襟と左袖を掴え、かくして両腕を後方に捻じ上げる等し
て暴行を加え同巡査の反抗を抑圧し、被告人Dにおいて同巡査のズボンの右ポケツ
トにあつたフイルム在中の佐伯市警察署所有スプリングカメラ一台(時価五万円相
当)を抜き取つたものである、というのである。なお原判決は被告人らが奪取した
写真機は装填されていたフイルムを取除いて一〇日後第三者を通じて大分県臼杵警
察署に提出された事実を認め、この経緯にも照らし、被告人らはB巡査の所持を侵
害して右写真機全部につき所有者の如く振舞う意思があつたものというべきである
から右写真機全部につき強盗罪の成立を認むべきであると判示し、弁護人らの不法
領得の意思或は故意は認められないという主張を排斥した。右認定事実によれば、
被告人らはB巡査の所持する右フイルムの装填された写真機(いわゆる写真機全部)
を不法領得の意思をもつて通謀の上これを共同暴行により強取したものであるとい
うことがてきる。フイルムの装填されている写真機を右の如き所為によつてその所
持者から被告人らの支配に移しフイルムを勝手に取出すことは所有者でなければで
きない使用処分行為に属するといえるから、原判決が証拠により判示事実から被告
人らに写真機の所有者の如く振舞う意思があつたものと認め不法領得の意思を肯定
したのは相当であり、右は必ずしも引用の各判例と相反する判断をしたものという
ことができない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は事実誤認および単なる法令違反の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由に
当らない。(原判決が弁護人諫山博、同谷川宮太郎連名の控訴趣意第一点の事実誤
認の主張について認定判示した(一)のB巡査の被告人らに対する所論写真撮影行
為は違法行為ではなく、従つて被告人らが原判示(二)のように意思相通じて同巡
査に対しそれぞれ判示の暴行を加え同巡査の反抗を完全に抑圧し同巡査の着衣をさ
がし同巡査のズボン右ポケツトにあつたフイルム在中の判示スプリングカメラ一台
を抜き取つた行為は刑法上許された行為でないこというまでもないから、原判決に
は所論の刑法三六条の解釈適用を誤まつた違法はない。)
 同第三点について。
 論旨中段において「被告人らがとつた方法は、違法に被告人らを撮影したフイル
ムをぬき取るための手段として、一時カメラを預つたというだけのことである」と
いう点は事実誤認の主張であり、その余の所論は、原判決は超法規的違法性阻却ま
たは責任阻却事由の解釈適用を誤まつたものであるとの主張であつて単なる法令違
反の主張に帰し上告適法の理由とならない。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官垂水克己の補足意見があるほか裁判官全員一致の
意見で主文のとおり判決する。
 裁判官垂水克己の補足意見は次のとおりである。
 一、弁護人諫山博外一名の上告理由第一点について。
 被告人らに不法領得の意思があつたという原判決の認定について検討する。被告
人らが原判示のとおり昭和二八年六月三〇日共謀の上共同してB巡査に対し判示暴
行を加えその意思の自由を完全に抑圧した上被告人Dの手によつて抜き取つた同巡
査所持の佐伯市警察署所有にかかるフイルム在中のスプリングカメラ一台はその後
どうなつたか。
 第一審昭和三二年一月一六日の第二二回公判調書(記録一〇七〇丁)によれば、
同公判廷において、被告人らの主任弁護人から写真フイルムが提出され取調べられ
た、現像済のもの、押第四号がそれである。その立証の趣旨は要するに「B巡査の
撮影行為は違憲違法の侵害行為であり、被告人らの判示所為はこれに対する防衛行
為で違法性が阻却されるべきものである」、というにあり、被告人Dは同公判廷に
おいて右フイルムを示されて「これはB巡査の持つていたカメラの中に這入つてい
たもので、自分が知人に頼んで取出してもらい現像して貰つて自分の手に返つてか
らは、ずつと自分が保管していた」との趣旨の陳述をしている。原判決は引用挙示
の証拠により、「右写真機は(装填フイルムは取除かれて)十日間を経過して本件
事案に直接関係のないEから大分県臼杵警察署に提出された」旨認定した。原判決
はこの経緯からもみて、「被告人らはB巡査の所持を侵害して右写真機全部につき
所有権者の如く振舞う意思があつたものというべきであるから、右写真機全部につ
き強盗罪の成立を認むべきである。」と判示した。(原判決は「写真機全部」とい
うが、装填されたフイルムは写真機の従物でもなく、別物である。)
 さて、たとえ、写真機を廃棄する意思でも、これに装填したフイルムを不法に領
得する意思をもつてフイルムを写真機もろとも抜取つても、フイルム奪取罪の成立
することは疑ない。(封筒を廃棄する意思で封筒と在中の現金を自己の所持に移す
行為は実際よくある行為であるが、現金のみについて領得の意思に出でたものとし
て起訴、認定されることが多い。この場合その判決が確定すれば後に至つて封筒の
窃盗又は毀棄について起訴し又は有罪判決することは一事不再理として許されない。)
 右原判決の認定によれば次のように解することができる。
 被告人らは、「判示共同暴行の際、自分らの仲間が同巡査の撮影したフイルムに
写つているかも知れないとすると、これは警察その他の官憲が将来自分らに対し不
利な措置をとる材料(証拠)とするかも知れないけれども、また、自分らが彼等を
非難追及するに役立つ、自分らに有利な証拠ともなりうるであろう。いずれにせよ、
フイルムは決して警察ないしB巡査に返さず、利用させず、終局的に、自分らのも
のにして終つた方がよい。」と、かような意思をもつて判示共同暴行に出でたもの
と推認しうる。被告人らはこの写真機とフイルムを毀棄することができた(フイル
ムを役に立たないものにする意思があるなら、被告人らはこれを入取した時から早
速日光その他の強い光線に曝らして無効なものにすることができた)のに、これを
していない。右によれば、被告人Dがフイルムを他人に頼んで現像させた行為はフ
イルムの使用行為であり、これをその後本件第一審公判に至るまで警察署に返還せ
ず久しい歳月の間これを自己の支配下に置き最後に本件で起訴されるや弁護人を通
じて公判でこれを自己に利益な証拠として法廷に顕出したが、その間警察署若しく
は警察員には何ら被告人がこれを占有している旨の通知もしなかつたことが窺がわ
れ、そして写真機についても、被告人Dは判示抜取り後、これを抜取つた写真機で
あることを告げずして自己の仲間Eに預けておき、Eは本件で同被告人が検挙され
て後約一〇日を経てこれを警察署に提出したが被告人Dは別段右写真機を自分らの
支配外に隠匿し又は破壊するようなことはしょうとしなかつたことが窺われる。従
つて、遡つて、Dその他の被告人らは本件写真機抜取の際在中のフイルムは勿論写
真機についても結局原判決にいわゆるその所有者の如く振舞う意思すなわち領得の
意思をもつて一括してフイルム及び写真機を抜取つたものと推認判断することがで
きる。原審の判断は相当である。
 二、被告人A本人の上告趣意(4)(イ)について。
 押収の前記フイルムをみても、撮影者が女性を対象として撮影したとみられるよ
うな女性像は写つていない。ただ撮影者が向うからこちらえやつて来る男性を撮影
している際、撮影者のすぐ左横側から(すなわち、撮影者が写そうとする男性を写
真機からのぞいている際に、撮影者が見ることのできない視界外から)、偶然、急
におばさんらしい女性が自転車に乗つて撮影者の写真機の前を左から右に(撮影者
からいつて)横断しようとしている如き姿勢で写つているフイルムの一コマがある
だけである。
 論旨はすべて採用できないと考える。
  昭和三八年七月九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊

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