弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破毀する。
     本件を東京高等裁判所に差戻す。
         理    由
 弁護人杉崎安夫の上告趣意について。
 本件の公訴事実は、被告人はA外四名と共謀の上(一)昭和二三年二月二七日頃
長野県上伊那郡a町b所在のB専売局支局倉庫内から同局所有の煙草ピース五四〇
〇〇本その他を窃取し、(二)同年四月二二日甲府市c町d番地C農業会D倉庫内
から同農業会保管中の綿織物四三九反その他を窃取したという事実である。そして
記録によると、被告人は、昭和二三年四月二四日窃盗の嫌疑で逮捕され、翌二五日
司法警察官の訊問、翌二六日強制処分による判事の訊問を受けて勾留され、同年五
月四日甲府地方裁判所に起訴され、同月二一日第一審の公判が開かれ、同月二八日
懲役四年の判決の言渡を受けた。その間、被告人は司法警察官並びに判事の訊問に
対しても、第一審公判の取調に対しても、終始犯行を否認した。次いで、被告人は、
原審である東京高等裁判所に控訴したのであるが、原審えは同年一〇月一四日に至
つてようやく記録が送付されたので、原審は同年一一月二日に公判を開いて即日審
理を終結し、同月一三日被告人に対し懲役二年六月の有罪判決を言渡し、その証拠
理由中に被告人の原審公判廷における自白を採用したのである。被告人は、昭和二
三年四月二六日勾留されてから同年一一月一三日原審判決が言渡されるまで引き続
き勾留されていたが、同年六月上旬から食道部の通過障碍食後嘔吐胸内悶等を訴え
て拘置所内の病舎に収容され、同年一一月二日原審公判廷にも病舎から出頭したの
であつて、原審公判廷における最終陳述の際には「病気を一日も早くなおすために
家庭に帰して下さい」と訴えているが、その後病症が悪化したので同年一一月一八
日保釈釈放された。
 以上のように、記録によつて明らかにされたところによると、本件は、単純な二
個の窃盗事件であつて、その取調にも記録の整理にも多くの日数を要するほどの困
難な事件ではない。そして、被告人は逮捕されてから原審の公判が開かれるまで六
ケ月一〇日間引き続き拘禁されていたのであつて、その間終始犯行を否認していた
のが、右の公判廷で始めて自白するに至つたのである。しかも、被告人は、拘禁の
途中から拘置所内の病舎に収容されるほどの病気になつたが、これがために公判の
審理が延期されて長引いたというようなこともなく、原審は一回の公判で審理を終
つている。そして、被告人は、その公判に病舎から出頭して自白した上、身柄の釈
放を求めているのである。このような事情を綜合して判断すると、被告人が原審公
判廷でした自白は、まさに憲法第三八条第二項にいわゆる不当に長く拘禁された後
の自白に当るものというべきであつて、これを証拠とすることは、憲法の右の条規
に違反するものである。しかるに、原判決は、被告人に対する原判示の窃盗の事実
を認定するに当り、被告人の原審公判廷における自白を証拠として採用したのであ
るから違法であつて、論旨は理由があり原判決は破毀を免かれない。
 よつて、旧刑訴第四四七条第四四八条ノ二第一項に従い、主文の通り判決する。
 以上は、裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 長谷川瀏関与
  昭和二四年一一月二日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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