弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役7年に処する。
未決勾留日数中100日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成22年1月18日午後4時30分ころ,大阪府大阪狭山市ab丁
目c番地のd・A店駐車場において,運転開始前に飲んだ酒の影響により正常な運
転操作が困難な状態で乗用車の運転を開始し,同車を相当速度で走行させ,アルコ
ールの影響により正常な運転が困難な状態で自車を走行させたことにより,そのこ
ろ,同所において,自車後方を南から北に向け歩いていたB(当時84歳)に自車
後部を衝突させて路上に転倒させ,さらに,同人を自車車底部に巻き込んだまま自
車を走行させてその身体を引きずり,よって,同人に左右肋骨多発多重骨折の傷害
を負わせ,即時同所において,同傷害に基づく呼吸不全により,同人を死亡させた。
(法令の適用)
罰条刑法208条の2第1項前段(人を死亡させた場合)
宣告刑懲役7年(求刑・懲役10年)
未決勾留日数の算入刑法21条(100日算入)
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1本件は,被告人が,運転開始前に多量に飲んだ酒の影響により,正常な運転操
作が困難な状態にあったのに,自宅に帰ろうとして,コンビニエンスストア前の
駐車場にとめた乗用車(トヨタ・イプサム)の運転を開始し,道路に出ようと自
車を後退させた際,たまたまその後ろを歩いていた被害者に自車後部を衝突させ
て路上に転倒させ,自車の底部に同女を巻き込んだまま走行させたことによって,
同女を即死させた事案である。
2被告人の量刑について判断する前提として,本件犯行に至る経緯や犯行状況等
についてみると,関係証拠によれば,次の事実が認められる。
(1)被告人は,家庭内の事情(約20年前に妻が蒸発し,幼少の二人の息子を
育てることになったこと)等により飲酒を始め,やがてアルコール依存症とな
り,病院で入院治療を受けるなどしたが,断酒には至らず,自動販売機で焼酎
を買い,その場で飲み干すことを続けていて,本件犯行場所であるコンビニエ
ンスストアでもよく焼酎を買っていた。
(2)被告人は,長年勤務していた会社を退職後,Cの嘱託職員として働くよう
になったが,本件犯行当日(平成22年1月18日。以下同じ)は発熱のため
に職場を欠勤し,午前中,病院に行こうとしたが途中で気が変わり,パチンコ
店で遊んだが負けてしまった。被告人は,いったん自宅に戻ったが,パチンコ
店で自分が遊んでいた台の隣りの客がよく当たっており,帰りそうなそぶりを
していたことから,負けを取り返そうと考え,午後2時ころ,自車でパチンコ
店に行って遊ぶうち,午後2時45分ころから,自動販売機で購入した200
ミリリットル入りの日本酒を2本飲み,午後3時56分ころにも同じ日本酒1
本を飲んだ。
(3)被告人は,そのまま自車を運転し,自宅に帰ろうとしたが,途中で犯行現
場のコンビニエンスストアに寄ることとし,同店前の駐車場に前部を店側にす
る形で自車をとめ,午後4時15分ころから午後4時26分ころにかけて,2
20ミリリットル入りの芋焼酎2本を購入して飲んだ。その後,被告人は,自
車に乗り込み,いったん歩道の上まで後退させた後,車道に出るために前進し
ようとしたが,タイヤが歩道の縁石にぶつかって前進することができなかった
ため,そのまま自車を後退させた。
(4)被害者は,たまたまコンビニエンスストア前を歩いていたが,歩道上に被
告人の車があったことから,これを避けて同車の後ろを通過しようとしたとこ
ろ,後退してきた同車と衝突,転倒した。被告人は,それまでの飲酒により前
後不覚の状態にあって,被害者に自車を衝突させ,その底部に巻き込んだこと
に全く気付かないまま自車を走行させたが,車道上を蛇行した挙げ句,路外の
駐車場に入り込んで,駐車車両2台と衝突した後,同駐車場奥の民家の柵等を
なぎ倒して同家屋に衝突,停止した。被告人は,途中で被害者が離れるまでの
間,約47.7mにわたり同女を引きずったまま走行し,同女は,判示の傷害
を負って即死した。
(5)被告人は,その後臨場した警察官の職務質問を受け,自動車運転過失傷害
の容疑で現行犯逮捕されたが,その際,強い酒の臭いをさせ,ふらつきながら
直立することができない状態にあり,自動車免許証を提示するにも手間取るほ
どであった。また,午後5時24分ころに行われた飲酒検知では,呼気1リッ
トル当たり0.7ミリグラムのアルコールが検出された。
3そこで,被告人の量刑事情を検討すると,被告人は,自身がアルコール依存症
に罹患していることを十分認識していながら,車に乗って出かけたパチンコ店で
飲酒し,その状態で運転を続けて,更に飲酒した挙げ句,本件犯行に至っており,
その飲酒量は多く,飲酒運転の態様としては非常に悪質であり,飲酒運転に対す
る認識も希薄である。本件犯行以後の被告人車両の状況をみても,民家に衝突し
て停止することがなければ,そのまま逃走し,あるいは,更に重大な事故を引き
起こしたかもしれず,危険性の高い運転行為であったといえる。
被害者は,何の落ち度もないのに,このような被告人が運転する車に衝突され,
その底部に巻き込まれた上,路上を引きずられたことにより,左右肋骨多発多重
骨折等の傷害を負い,呼吸不全により即死したのであって,その結果は誠に重大
といわなければならない。被害者は,苦労して長男を育てるなどし,被害に遭っ
た当時は友人らとサークル活動などの趣味を楽しんでいて,本件事故前日も友人
とコンサートに行きたいなどと話していたのに,突然その命を奪われたもので,
被害者と同居していた長男が,被告人に厳しい処罰感情を抱いているのは十分理
解することができる。
これらの諸事情を併せると,被告人の刑事責任は重いというべきである。
他方,被告人は,遺族(被害者の長男)に謝罪の手紙を送付し,被告人にでき
る限度で誠意を示すとともに,自分の行為を反省している。また,被告人は,改
めて,酒を断ち,アルコール依存症の治療を受け,車の運転をしないとも述べて
いて,その覚悟のほどは評価することができる。そして,被告人の二男が,社会
復帰後の被告人の監督を約束し,アルコール依存症の治療に協力する旨述べてい
ること,被告人が加入している任意保険から相応の損害賠償金が支払われる見込
みがあること,家屋及び自動車に対する物損の賠償は終了していること,勤務先
から懲戒免職処分を受けたこと,社会人としては普通に生活し,まじめに仕事を
していたこと等の事情も認められる。
したがって,これらの被告人にとって有利な事情を十分考慮し,被告人に対し
ては,懲役7年の実刑に処するのが相当と判断した。
4よって,主文のとおり判決する。
平成22年7月2日
大阪地方裁判所堺支部
裁判長裁判官石川恭司
裁判官川上宏
裁判官長尾崇

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