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平成11年(行ケ)第58号 審決取消請求事件
平成11年7月29日口頭弁論終結
判決
 原      告    つるや株式会社
代表者代表取締役【A】
 訴訟代理人弁理士 【B】
 同    【C】
 同    【D】
同【E】
 被      告    株式会社ツルヤ
代表者代表取締役【F】
 訴訟代理人弁護士小林幸夫
同    弁理士 【G】
主文
 特許庁が、平成9年審判第3685号事件について平成10年12月21日にし
た審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 主文と同旨
2 被告
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 被告は、別紙商標目録(1)記載の構成からなり、指定商品を旧第24類「おもち
ゃ、その他本類に属する商品」とする商標登録第2521231号商標(平成2年
10月17日出願、平成5年3月31日設定登録。以下「本件商標」という。)の
商標権者である。
 原告は、平成9年3月6日、被告を被請求人として、本件商標の登録無効の審判
を請求し、特許庁は、これを平成9年審判第3685号事件として審理した結果、
平成10年12月21日に「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求
人の負担とする。」との審決をし、平成11年2月1日、原告にその謄本を送達し
た。
2 審決の理由
 別紙審決書の理由の写しのとおり
第3 原告主張の審決取消事由の要点
1 取消事由1(手続的取消事由)
 審決が、その結論を導くために証拠として引用した、日本電信電話株式会社が平
成5年3月1日に発行した「ハローページ50音別企業名 東京都23区全区版・
下巻(た~ん)」(以下「甲第6号証刊行物」という。)は、審判官が職権で探知
して証拠調べをしたものである。このように審判において職権で証拠調べをしたと
きには(商標法56条1項で準用する特許法150条1項)、その結果を当事者に
通知し、相当の期間を指定して、意見を申し立てる機会を与えなければならない
(同5項)。ところが、当事者である原告は、本件審判において、上記職権による
証拠調べの結果の通知を受けていない。
 このように、審決は、甲第6号証刊行物についての職権による証拠調べの結果を
原告に通知せず、意見を申し立てる機会を与えずにされたものであって、手続違背
があり、しかもこの手続違背は審決の結論に大きな影響を及ぼすものであるから、
取り消されるべきである。
2 取消事由2(実体的取消事由)
(1) 別紙商標目録(2)記載の構成からなり、指定商品を旧第24類「おもちゃ、そ
の他本類に属する商品」とする商標登録第1367329号商標(昭和49年12
月29日出願、昭和53年12月22日設定登録。以下「引用商標」という。)と
本件商標とは、その構成中の「TSURUYA」の欧文字部分を共通にし、また、
この欧文字部分から生ずる「ツルヤ」の称呼、観念においても共通している。
 そして、「TSURUYA」の欧文字部分から生ずる「ツルヤ」の称呼は、決し
てありふれたものではないため、取引の実情において自他商品識別力を有するか
ら、上記文字部分は、引用商標、本件商標のいずれにおいてもその要部をなすもの
というべきであり、たとい、両商標を全体観察したときその図形部分に顕著な相異
があるとしても、取引者、需要者は、「TSURUYA」の欧文字部分をとらえて
その外観、称呼、観念を記憶することになる。したがって、両商標は、その外観、
称呼及び観念のいずれにおいても類似し、時と所を異にしてその指定商品の取引に
当たる取引者、需要者は、両商標を識別することが困難であり、同一又は類似の商
品に使用する場合、商品の出所を混同するおそれがある。両商標を同一または類似
の商品について使用しても商品の出所について混同を生じさせるおそれはないとし
た審決の判断は誤っており、取り消されるべきである。
(2) 審決は、甲第6号証刊行物の記載を根拠に、「TSURUYA」の欧文字やこ
れから生ずる「ツルヤ」の称呼の識別力が弱いと認定しているが、同刊行物の記載
自体、上記認定の根拠となるものではないうえ、原告が使用している「つるや」及
びその欧文字表記の「TSURUYA」は、原告の商号略称、あるいは、原告取扱
商品の識別標識として周知となっており、「TSURUYA」の欧文字及びこれか
ら生ずる「ツルヤ」の称呼は、市場において自他商品識別力を十分発揮しているか
ら、この点からも、審決の上記認定は、誤っている。
第4 被告の反論
1 取消事由1(手続的取消事由)について
 審決には、それを取り消すべき事由となるほどの手続的暇疵はない。
 第1に、そもそも審決が取り消されるような審判の手続的瑕疵とは、登録が無効
か否かに関する専属的判断機関である特許庁において審判を受ける利益を奪うに等
しいような重大な瑕疵をいうものであり、仮に本件審判において原告主張の手続的
瑕疵が存在していたとしても、審決を取消すべき重大な瑕疵には該当しない。
 第2に、審判手続においては職権探知主義が採用されており、当事者の提出した
証拠に限定されず証拠を採用することができる。
 第3に、本件審判において採用した甲第6号証刊行物は、審判において被告が提
出した日本電信電話株式会社発行「ハローページ東京都港区版」(審決の乙第4号
証、本訴の甲第7号証の16。以下「甲第7号証の16刊行物」という。)と同種
の文書であって、当該書証の採否、取調べにおいて何ら当事者の不意打ちとなるも
のではなく、証拠の採否、取調べをして当事者とりわけ原告の意見を聞く必要のな
い証拠である。
 第4に、甲第6号証刊行物の立証趣旨は、「ツルヤ、つるや、鶴屋、鶴家」とい
う文字が自他商品識別力を有しない、ありふれた名称であることにあり、原告にお
いて、すでに十分に主張立証の機会が与えられた事項である。
 第5に、原告において、意見を申し立てる機会を与えたとしても「ツルヤ、つる
や、鶴屋、鶴家」という文字に自他商品識別力がないことは明らかであって、審決
には全く影響を与えない。
2 取消事由2(実体的取消事由)について
 「TSHURUYA」なる文字は、ありふれた名称であるため、どのような商品
との関係においても、その自他商品識別力は一般に極めて弱いから、取引者、需要
者が当該文字のみをもって自他商品を識別することはない。審決は、この事実を前
提として、本件商標と引用商標の構成、とりわけ図形部分を含めた構成全体のそれ
ぞれの特異性を考慮し、両商標が商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれ
はないと判断したのである。この判断は、正当であり、何ら違法となるものではな
い。なお、「つるや」あるいは「TSHURUYA」が原告の商号略称あるいは原
告取扱商品の識別標識として周知となっているとして行う原告の主張は、商標法4
条1項10号や15号でなく、同項11号を問題とする本件にとって、無意味であ
る。
第5 当裁判所の判断
1 商標法56条において準用する特許法150条1項は、「審判に関しては、当
事者若しくは参加人の申立により又は職権で、証拠調をすることができる。」と、同
条5項は、「審判長は、第1項又は第2項の規定により職権で証拠調又は証拠保全を
したときは、その結果を当事者及び参加人に通知し、相当の期間を指定して、意見
を申し立てる機会を与えなければならない。」と規定しているから、特許庁は、審
判手続において、職権で証拠調べをすることができるが、その場合、必ず、その結
果を当事者等に通知して意見を申し立てる機会を与えなければならない。
2 甲第7号証の1ないし36によれば、特許庁は、本件の審判手続において、甲
第6号証刊行物について職権により証拠調べをしたものの、審判長は、その結果を
当事者である原告に通知して意見を申し立てる機会を与えなかったことが認められ
る。
3 審決が、「ツルヤ」の称呼を生ずる店舗数が多数に上ることを認定し、この認
定を根拠に、「ツルヤ」の称呼自体の自他商品識別力は極めて弱いとしたうえ、そ
れを前提にして、両商標の図形部分の相異を根拠に両商標は類似していないとの結
論を導いたものであることは、審決の理由自体で明らかである。そしてまた、審決
が「ツルヤ」の称呼を生ずる店舗数が多数に上るとの上記認定を行ううえで、甲第
6号証刊行物が具体的証拠としては唯一のものとして用いられていることも、審決
の理由自体で明らかである。
4 そうすると、本件審判手続には瑕疵があり、その瑕疵は、審判の結果である審
決の結論に一般的にみて影響を及ぼすものであったものというべきであり、審決の
結論に影響を及ぼさないことが明らかであると認めさせる特別の事情は、本件の全
資料によっても認められないから、審決は、取消しを免れない。
5 この点に関する被告の主張はいずれも採用できない。
 被告は、審決が取り消されるような審判の手続的瑕疵とは、登録が無効か否かに
関する専属的判断機関である特許庁において審判を受ける利益を奪うに等しいよう
な重大な瑕疵をいうものであり、仮に本件審判において原告主張の手続的瑕疵が存
在していたとしても、審決を取り消すべき重大な瑕疵には該当しない旨主張する。
 しかし、審判における手続的瑕疵は、一般的にみて審決の結論に影響を及ぼすも
のと認められる場合には、審決の結論に影響を及ぼさないことが明らかであると認
めさせる特別の事情がない限り、審決取消事由となると解すべきである。被告の見
解は採用できない(最高裁判所第1小法廷昭和51年5月6日判決判例時報819
号35頁参照)。
 被告は、甲第6号証刊行物は、審判において被告が提出した甲第7号証の16刊
行物と同種の文書であって、当該書証の採否、取調べにおいて何ら当事者の不意打
ちとなるものではなく、証拠の採否、取調べをして当事者とりわけ原告の意見を聞
く必要のない証拠である旨主張する。
 甲第7号証の1ないし36によれば、被告が、「ツルヤ」の称呼の生ずる名称が
屋号、商号としてありふれたものであることを立証するために甲第7号証の16刊
行物を提出していたところ、原告から、上記証拠に「ツルヤ」ないし「つるや」の
文字を含む名称が合計15件掲載されているとしても、最近の飛躍的な電話の普及
状況よりしたときは、この程度の件数が掲載されていることによっては、ありふれ
た名称であるとはいえない旨の反論がなされ、審決は、このような双方の主張を踏
まえて、職権で取り調べた甲第6号証刊行物の合計220店舗の掲載によって、「つ
るや」、「ツルヤ」、「鶴屋」あるいは「鶴家」という「ツルヤ」の称呼を生ずる名称
が、屋号、商号としてありふれたものであると認定したものであることが認められ
る。そして、甲第7号証の16刊行物によれば、港区の電話帳に、「ツルヤ」の称
呼の生ずるものとして掲載されているのは、「ツルヤ」ないし「つるや」の文字を
含む名称が合計15件であるから、「ツルヤ」の称呼を生ずる名称が、屋号、商号
としてありふれたものであるか否かを認定するうえで、これによる場合と甲第6号
証刊行物による場合とでは、両者が電話帳である点では同じとはいえ、証拠として
の意味に格段の差があり、原告にとって不意打ちとなることは明らかである。した
がって、被告の上記主張も採用することができない。
 被告は、原告において、意見を申し立てる機会を与えたとしても、「ツルヤ」、
「つるや」、「鶴屋」、「鶴家」という文字に自他商品識別力がないことは明らか
であって、審決には全く影響を与えない旨主張する。
 しかし、甲第6号証刊行物の証拠としての評価判断を離れて、上記各文字に自他
商品識別力がないことは明らかであると認めさせる資料は、本件全資料を検討して
も見出せない。被告の上記主張も採用できない。
 その余の被告の主張も、前説示に照らし、採用の限りでない。
6 そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、審決の取消しを求める原
告の請求は、理由があることが明らかである。そこで、これを認容することとし、
訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文
のとおり判決する。
  東京高等裁判所第6民事部
   裁判長裁判官  山  下  和  明
   裁判官  山  田  知  司
     裁判官宍  戸      充

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