弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人山崎信義の上告理由について。
 本上告理由中、原判決は、本件農地買収基準日である昭和二〇年一一月二三日と
その遡及買収計画樹立の日とにおいて、自作農創設特別措置法第六条の五第一項所
定の権原に基いて耕作を営む者が異るに至つたとするものであるか或は右基準日と
右遡及買収計画樹立の日との間において、同項所定のその他の変動を生じたとする
ものであるか説示不明であるから、原判決に理由不備がある旨主張するものの如き
論旨がある。
 しかしながら、論旨は、原判沢を正解しない所から出て居る。原判決の引用する
第一審判決は、本件土地につき所論基準日以前よりその後に至るまで、同法第六条
の五第一項所定の権原に基いて耕作する者のあつた蔬菜裁培用小作地であつたが、
所論遡及買収処分計画樹立の日においては、既に耕作者より所有者であつた上告人
に返還せられて居つたとの事実を認定して居るものであること明かであつて、所論
の如く不明の迹なく、原判決に所論の違法はない。
 また本上告理由中、上告人は原審において、本件農地遡及買収処分の無効を主張
したのであるから、所管行政庁たる被上告人においては、右買収処分を適法、正当
ならしめる一切の法律要件について主張立証をなすべき責任を負担するにも拘らず、
原判決は、所轄農地委員会が右買収処分に関し同法第六条の五第三項により可とす
る議決をしたことにつき何等説示する所がなく、ただ漫然右買収処分を適法として
居るに過ぎないのであつて、これは、被上告人をして右主張立証の責任をつくさし
めなかつたことに起因する違法であり、しかも右買収処分の要件である右審議の存
在につき説示する所のないのは、右法条の適用そ遣脱した違法がある旨主張するも
のの如き論旨がある。
 しかしながら主張立証の責任ある事項についても、争ある限度においてこれを尽
せば足るのであつて、相手方よりその存在に関し争う態度を示さない事項について
までも主張立証の責任はない。本件記録、原判決並にその引用する第一審判決によ
れば、原審において、上告人が、本件農地遡及買収処分の無効確認を訴求する理由
とした所は、右買収計画樹立につきこれを可とする所轄農地委員会の適法なる議決
がなかつたとのことに在つたのではなくして、上告人が本件農地の不在地主でなか
つたとのこと、その他に在つたものであり、しかも当事者間には、かかる議決のあ
つたことを前提として訴訟手続が進行せしめられたものであつて、この点につき上
告人より何等争う態度を示さなかつたことを認め得られる。
 したがつて、被上告人が右議決の所論の点につき主張立証をすることなくまた原
判決にこれに関する説示のないことは当然である。
 論旨は要するに、上告人が右議決につき争う態度を示したか否かとは全く無関係
に、所管行政庁たる被上告人において本件農地遡及買収処分の要件たる一切の事実
につき主張立証をなすべきものであるとの見解に立ち、これを前提として展開せら
れたものの如くであつて、その前提において既に失当である。
 更に本上告理由中、本件農地の内約二反歩は、本件農地遡及買収基準日当時、福
岡市立D国民学校(D小学校)がこれを生徒の園芸実習用地として耕作使用して居
つたのであるから、公共団体が公用に供すろ農地に当るのであつて、これを本件買
収処分の対象とすべきものでないこと、小作農創設特別措置法第五条第一号により
明かであるにも拘らず、原判決は、本件農地の内右園芸実習地地に属する部分をも
同法による買収処分の対象となるとしたのは、法律の適用を誤つたものである旨主
張する論旨がある。
 しかしながら、本件農地の内約二反歩が単に市立国民学校生徒の園芸実習用地と
して耕作使用せられて居つたことのみで、直に同法第五条第一号に当る土地である
とは断定し難い。それのみならず記録、原判決並にその引用する第一審判決によれ
ば、市立国民学校生徒の園芸実習用地として耕作使用せられて居つた云々のことは、
本件農地が本件遡及買収基準日当時、小作地であつたか否かを決するための事情と
して述べられた事項であつたに過ぎないのであり、しかも上告人は却つて原審にお
いて、昭和一九年末既に所論園芸実習用地の返還を受けたと主張して居つたのであ
つて、右基準日当時、右土地が同条第一号に当る土地であつたとの事項については、
原審において何等の主張もなく、したがつて判断もない。
 何れにせよ原判決に所論の違法があるものとはいえない。
 本土告理由中その余の論旨はすべて、その事由とする所について原審において主
張せられた迹なく、したがつて判断もない。したがつて上告適法り論旨とならない。
 論旨はすべてこれを採用し得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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