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平成22年8月31日判決言渡
平成22年(行ケ)第10115号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年6月15日
判決
原告X
被告特許庁長官
指定代理人草野顕子
同山口由木
同紀本孝
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2008−17162号事件について平成22年3月1日にした
審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成16年4月1日,発明の名称を「回転ドアに手足や身体が挟ま
ったとき,ドア枠が折れ曲がる回転ドア」とする発明について,特許出願(特
願2004−134885号。)をし(甲7。特開2005−290954号),
平成20年2月18日提出の手続補正書(同年2月17日付け。甲9の2)に
より特許請求の範囲を補正したが,同年5月2日に拒絶査定がされ(甲3),
これに対し,平成20年6月12日,不服の審判(不服2008−17162
号事件)を請求した(甲10)。
特許庁は,平成22年3月1日,「本件審判の請求は,成り立たない。」と
の審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月13日,原告に送達
された。
2特許請求の範囲
平成20年2月18日提出の手続補正書(甲9の2)による補正後の特許請
求の範囲(請求項の数1)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,こ
の発明を「本願発明」という。別紙「本願明細書図面」参照)。
「【請求項1】
ドアが回転中,回転ドア縦外枠に必要以上の力が加わった時回転ドア縦中
枠から回転ドアの進行方向の反対方向にドアが折れ曲がり,回転ドア縦外枠
とそと枠との隙間に大きな空間を設ける事を特徴とする回転ドア」
3審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。審決の判断の概要は,以下
のとおりである。
(1)審決は,特開2002−194959号公報(以下「刊行物」という。
甲6。別紙「刊行物参考図」参照)に記載された発明の内容,及び本願発明
と刊行物記載の発明(以下「引用発明」という場合がある。)との一致点及
び相違点を以下のとおり認定した。
ア刊行物記載の発明の内容
「通常運転において,袖パネルとドアパネルが所定の方向に回転してい
る状態で,袖パネルの外方端部側フレームに通行者が衝突した時,袖パネ
ルが,袖パネルの内方端部側フレームの軸の周りに上記所定方向と反対方
向に回転する回転ドア」(審決書4頁3行∼6行)
イ一致点
「ドアが回転中,回転ドア縦外枠に必要以上の力が加わった時回転ドア
縦中枠から回転ドアの進行方向の反対方向にドアが折れ曲がる回転ドア」
(審決書4頁21行,22行)である点。
ウ相違点
「ドアが折れ曲がった際に,本願発明が,回転ドア縦外枠とそと枠との
隙間に大きな空間を設けるのに対し,刊行物記載の発明はこの(注審決
原文のまま)どのような空間ができるか不明な点。」(審決書4頁25行
∼27行)
(2)相違点に係る容易想到性について以下のとおり判断した。
「刊行物記載の発明においてドアが折れ曲がるのは,本願発明と同様に,
通行者が衝突したときにドアに挟まれないようにするため・・・である。そ
して,両者ともに,ドアの折れ曲がりによって,回転ドア縦外枠とそと枠と
の間に空間を形成して,手足や身体が挟まれても,大きな事故につながらな
い様にするものであり,そのための空間を,どの程度の大きさにするかは,
ドアの大きさや想定する通行者等に応じて適宜決定し得る的事項(注審決
原文のまま)である。また,本願発明の効果も,刊行物記載の発明から,当
業者が予測しうる範囲のものであり,格別のものではない。したがって,本
願発明は,刊行物記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることが
できたものである。なお,審判請求人の,本願発明と刊行物記載の発明との
相違,及び刊行物記載の発明の実現不可能性についての主張は,ともに,本
願発明の上記構成に基づかないものであるから,採用することができない。」
(審決書4頁29行∼5頁7行)
第3当事者の主張
1取消事由に係る原告の主張
審決には,以下のとおり,(1)引用発明の「袖パネルの内方端部側フレー
ム」が本願発明の「回転ドア縦中枠」に相当するとした一致点の認定の誤り(取
消事由1),(2)引用発明において,回転ドアが折れ曲がるとした一致点の
認定の誤り(取消事由2),(3)相違点に係る容易想到性判断の誤り(取消
事由3),がある。
(1)取消事由1(「袖パネルの内方端部側フレーム」が「回転ドア縦中枠」
に相当するとした一致点の認定の誤り)
「袖パネルの内方端部側フレーム」が「回転ドア縦中枠」に相当するとし
て,「回転ドア縦中枠」を有する点について一致するとした点には,誤りが
ある。すなわち,本願発明の「回転ドア縦中枠」は,回転軸中心に近い方の
ドア縦中枠に,外側のドアが折れ曲がるように上端と下端にヒンジを組み込
み,ヒンジの中心部に軸を設けて,外側のドアが軸を支点にして折れ曲がり
回転できるようにした上,ドア縦中枠の進行方向側の縦枠は手前の縦枠より
長く延ばした不均等な構造の縦枠とすることにより,回転ドア縦中枠軸を回
転中心軸として,進行方向には折れ曲がるドアが動かない構造としている。
「回転ドア縦中枠」は,平常時のドアの回転では,折れ曲がる側のドアが動
かないよう,弾性体により数ヶ所のストッパーで直線状態を維持できるよう
に取り付け,必要以上の力が加わればストッパーの弾性体と回転ドア縦中枠
の摩擦係数値を超えることにより折れ曲がり,また,折れ曲がる側のドア縦
中枠の進行方向側から,反対方向に向かって縦中枠を1/4半円の形状に切
り込むことにより,スムーズに弾性体のストッパーによる静止状態からドア
縦中枠が回転ドア縦中枠軸を中心として折れ曲がる構造で構成された回転ド
ア縦中枠である。
他方,刊行物(甲6)の段落【0006】には「・・・本発明の回転ドア
は,回転中心から放射線状に配置される複数の扉体を備えている。これら扉
体は,回転中心から離れた位置に軸部を有している。・・・この軸部を中心
として戸先側において,揺動自在となる袖パネルが,各扉体に設けられてい
る。」と記載されているように,本願発明と刊行物記載の発明とは,明らか
に違う構造,又は構成である。
よって,刊行物記載の発明の「袖パネルの内方端部側フレーム」が本願発
明の「回転ドア縦中枠」に相当するとした審決の認定には誤りがある。
(2)取消事由2(回転ドアが折れ曲がるとした一致点の認定の誤り)
回転ドアが折れ曲がるとした審決の一致点の認定には,誤りがある。すな
わち,本願発明の回転ドアは,ドアの途中から折れ曲がる回転ドアである。
これに対し,刊行物記載の回転ドアは,回転中心から離れたところに天井部
より回転する構造材として,天井壁を貫通して伸延した角柱状の柱に回転中
心方向側にドアパネル,側壁方向側に袖パネルがフランジにより取り付けら
れた構造で構成される回転ドアであるため,角柱状の柱に取り付けられた袖
パネルは,ドアが回転中,回転ドア縦外枠に必要以上の力が加わった時,回
転ドア縦中枠からドアが折れ曲がる回転ドアでなく,角柱状の柱を軸にして,
フランジに取り付けられた袖パネルが開く構造で構成された回転ドアである
点で異なる(甲6,【請求項1】,段落【0016】)。
(3)取消事由3(相違点に係る容易想到性判断の誤り)
前記のとおり,①引用発明は,角柱状の柱に取り付けられた側壁側の袖パ
ネルが揺動する(開く)構造であり,本願発明の,ドアの途中から折れ曲が
る回転ドアとは明らかに異なること,②引用発明は,揺動した袖パネルを自
動的に復帰させる自動復帰機構が設けられているので,引用発明において段
落【0022】において「この回転ドアでは,正常運転している状態,即ち,
袖パネル10とドアパネル6とが同一直線上に位置して回転中心の回りに所
定方向に回転している状態において,いずれかの袖パネル10に誤って通行
者が接触すると,図2に示すように,その袖パネル10が軸26の回りにス
トッパー38側に向かって揺動する。従って,通行者に大きな衝撃を与えた
り,側壁2と袖パネル10との間に通行者の身体の一部や携帯品が挾まれる
ことを防止できる。」と記載されているように,回転ドアと固定外枠との間
に空間を形成して,手足や身体が挟まれても大きな事故につながらないよう
にする想定ではなく,その空間を適宜決定し得るものではないことに照らせ
ば,相違点に係る本願発明の構成は,引用発明に基づき容易に想到すること
ができたとはいえない。
2被告の反論
(1)取消事由1(「袖パネルの内方端部側フレーム」が「回転ドア縦中枠」
に相当するとした一致点の認定の誤り)に対し
アまず,本件出願の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,本願発明
における回転ドアの折れ曲がる構造は,「回転ドア縦中枠から回転ドアの
進行方向の反対方向にドアが折れ曲がり」と特定されるのみであって,縦
中枠の形状,構造については何らの限定もされていない。よって,縦中枠
の形状,構造が特定のものに限定されることを前提とする原告の主張は,
本件出願に係る明細書(以下,願書に添付した図面も併せて,「本願明細
書」という。)の記載に基づかないものとして,失当である。
イまた,本願明細書の発明の詳細な説明においても,「回転ドア縦中枠」
については,「ドアが回転中の緊急時,回転ドア縦外枠④に必要以上の力
が加わった時,回転ドア縦中枠⑤から回転ドアの進行方向の反対方向にド
アが折れ曲がり,回転ドア縦外枠④とそと枠③との隙間に臨時的な大きな
空間を設ける」(甲7,段落【0004】)と記載されているのみである
から,本願発明における「回転ドア縦中枠」とは,図面において符号⑤が
付されている部分,すなわち,回転ドアのうち,回転中心から離れた外側
のドア(実施例における,面積が小さい方のドア)における,回転中心に
近い方のドア(実施例における,面積が大きい方のドア)側に設けられた
枠を指していることが明らかである。よって,「回転ドア縦中枠から・・
・ドアが折れ曲がり」とは,回転ドア縦中枠から外側(外枠側)のドアが
折れ曲がることを特定しているにすぎず,回転ドア縦中枠よりドアの折れ
曲がらない部分側の詳細な構造については,何ら特定されていないから,
原告が本願発明について,折れ曲がる部分にヒンジを組み込み,ヒンジの
中心部に軸を設けて,外側のドアが軸を支点にして折れ曲がり回転できる
ようにした構造であると主張する点は,本願明細書の記載に基づかないも
のとして,失当である。
ウ他方,刊行物(甲6)には,「通常運転において,袖パネルとドアパネ
ルが所定の方向に回転している状態で,袖パネルの外方端部側フレームに
通行者が衝突した時,袖パネルが,袖パネルの内方端部側フレームの軸の
周りに上記所定方向と反対方向に回転する回転ドア」(審決書4頁3行∼
6行)との発明が記載されている。上記の袖パネルは,ドアパネル側に内
方端部側フレームを有しており,該袖パネルは,該内方端部側フレームか
ら回転ドアの進行方向の反対方向に回動する構造となっていることから,
引用発明は,「袖パネルの内方端部側フレームからドアが折れ曲がる」構
造を有するものであるといえる。
エそうすると,「袖パネルの内方端部側フレーム」と本願発明の「回転ド
ア縦中枠」は,同等のものであり,引用発明の「袖パネルの内方端部側フ
レーム」が本願発明の「回転ドア縦中枠」に相当するとした審決の認定に
誤りはない。
オなお,仮に,本願発明の「回転ドア縦中枠から・・・ドアが折れ曲が」
る構造が,原告主張のとおり,「回転軸中心に近い方のドア縦中枠に,外
側のドアが折れ曲がるように上端と下端にヒンジを組み込み,ヒンジの中
心部に軸を設けて,外側のドアが軸を支点にして折れ曲がり回転できるよ
う」な構造であるとしても,引用発明は,このような構造を備えるもので
ある。すなわち,刊行物(甲6)の段落【0025】ないし【0028】,
【図5】ないし【図8】の記載によれば,第2の実施の形態として示され
た扉体111は,ドアパネル106と袖パネル110とからなり,袖パネ
ル110が回動する構造は,回転軸中心に近い方の各ドアパネル106の
外側縦枠から上端部の水平部材112,及び下端部の水平部材114が,
各袖パネル110の内方端部側フレーム内に設けた別の水平部材116と
平行に配置され,水平部材112,114に鉛直に取り付けた軸118,
120により回転自在に結合され,当該軸118,120を中心軸として
袖パネル110が回転する。したがって,第2の実施の形態として示され
た扉体111は,原告が主張する本願発明の「回転軸中心に近い方のドア
の外側縦枠の上端と下端にヒンジを組み込み,ヒンジの中心部に軸を設け
て,外側のドアが軸を支点にして折れ曲がり回転できるようにした構造」
と同様のものである。
カさらに,原告は,ドアの折れ曲がる部分の構造について,上記ヒンジ構
造以外にも,例えばストッパーを設けている点や,縦中枠を1/4半円の
形状に切り込んだ点など,図面の記載に基づいたと思われる詳細部分につ
いて主張する。しかし,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づ
かないものであって,失当である。
(2)取消事由2(回転ドアが折れ曲がるとした一致点の認定の誤り)に対

審決は,刊行物には,「袖パネルが,袖パネルの内方端部側フレームの軸
の周りに上記所定方向と反対方向に回転する回転ドア」(審決書4頁4行∼
6行)が記載されていると認定したものであって,刊行物(甲6)の段落【0
016】記載の角柱状の柱を有する回転ドアと本願発明とを対比したもので
はないから,角柱状の柱を有する回転ドアとの対比を前提とする原告の主張
は,理由がない。
そして,引用発明は,ドアの途中から折れ曲がる回転ドア,すなわち,扉
体111の途中から袖パネル110が折れ曲がるものであるから,審決の一
致点の認定に,誤りはない。
(3)取消事由3(相違点に係る容易想到性判断の誤り)に対し
ア前記のとおり,引用発明の回転ドアは,ドアの途中から折れ曲がるもの
といえるから,ドアが途中から折れ曲がらない構成であることを前提とし
て審決の容易想到性判断に誤りがあるとする原告の主張は,理由がない。
イ引用発明は,自動復帰機構を設けた構成に限定されないから,自動復帰
機構を設ける構成に限定されることを前提とする原告の主張は,誤りであ
る。
ウ本願発明の目的と,引用発明の目的は,同一であり,想定する事故も同
一である。
引用発明は,袖パネルが揺動(回転)することによって,側壁と袖パネ
ルとの間に通行者の体の一部が挾まれたりしないように,一時的な空間を
設けることにより通行者の安全性を確保するものであるから(甲6,段落
【0005】,【0007】),回転ドアのドアの途中が折れ曲がって,
外枠との間に緊急的な空間ができることにより,怪我や圧死事故などを防
ぐとの本願発明の目的と同じであり(甲7,【請求項1】,段落【000
1】,【0004】,【0006】),想定する事故にも相違がない。
エまた,刊行物記載の自動復帰機構は,ドアに衝突した通行者が袖パネル
から離れた場合に働く機構であるから(甲6,段落【0019】),回転
ドアと外枠との間に空間を形成して手足や身体が挟まれても大きな事故に
つながらないようにしており,発明の目的達成の妨げにはならない。
そして,引用発明において,ドア(袖パネル)が折れ曲がるのは,本願
発明と同様に,通行者が衝突したとき,すなわち,必要以上の力が加わっ
た時であることが明らかである。また,引用発明においてドア(袖パネル)
が揺動(回転)することによって生じる「臨時的な空間」の具体的な大き
さについては規定されていないが,前記のとおり本願発明と同じ目的を有
している以上,空間の大きさを本願発明と同程度とすることは,当業者で
あれば適宜決定し得る事項である。よって,これと同旨の審決の判断に誤
りはない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(「袖パネルの内方端部側フレーム」が「回転ドア縦中枠」に相
当するとした一致点の認定の誤り)について
原告は,本願発明の「回転ドア縦中枠」には,①ヒンジの組込み,②不均等
な構造の縦枠,③弾性体による数ヶ所のストッパー及び④縦中枠の1/4半円
の形状の切込みがあることを理由として,引用発明の「袖パネルの内方端部側
フレーム」が本願発明の「回転ドア縦中枠」に相当するとした審決の一致点の
認定には,誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,採用の限りでない。すなわち,本願の特許請求の範
囲においても,上記の①ヒンジの組込み,②不均等な構造の縦枠,③弾性体に
よる数ヶ所のストッパー及び④縦中枠の1/4半円の形状の切込みに係る記載
はないから,原告の上記主張は,本願の特許請求の範囲の記載にも基づかない
本願発明の構成を前提とするものであって,採用の限りでない。
2取消事由2(回転ドアが折れ曲がるとした一致点の認定の誤り)について
原告は,刊行物記載の回転ドアは,ドアが回転中,回転ドア縦外枠に必要以
上の力が加わった時,回転ドア縦中枠からドアが折れ曲がるのではなく,角柱
状の柱を軸にして,フランジに取り付けられた袖パネルが開く構造であるため,
回転ドアが折れ曲がる点を本願発明との一致点として認定した審決には,誤り
がある,と主張する。
しかし,原告の主張は採用の限りでない。すなわち,刊行物には,「袖パネ
ルが,袖パネルの内方端部側フレームの軸の周りに上記所定方向と反対方向に
回転する回転ドア」が記載され,同記載によれば,袖パネルが,その内方端部
側フレーム8の軸の回りに回転することにより,扉体11,111の途中から
袖パネル10,110が折れ曲がるものであるから,審決が,引用発明では,
回転ドアが折れ曲がると認定した点に誤りはない。刊行物(甲6)の段落【0
016】には,角柱状の柱16を有する回転ドアに関する技術的事項(別紙「刊
行物参考図」【図3】,【図4】参照。)が記載されているが,審決は,その
部分を引用発明としたものではないから,その角柱状の柱16を有する回転ド
アとの対比を前提とする原告の主張は,主張自体失当であり,採用の限りでな
い。
3取消事由3(相違点に係る容易想到性判断の誤り)
原告は,①引用発明は,角柱状の柱に取り付けられた側壁側の袖パネルが揺
動する(開く)構造であり,本願発明の,ドアの途中から折れ曲がる回転ドア
とは明らかに異なること,②引用発明は,揺動した袖パネルを自動的に復帰さ
せる自動復帰機構が設けられているので,引用発明において段落【0022】
に記載されているように,回転ドアと外枠との間に空間を形成して手足や身体
が挟まれても大きな事故につながらないように想定したものではなく,その空
間を適宜決定し得るものではないことに照らせば,相違点に係る本願発明の構
成は引用発明に基づき容易に想到することができたものとはいえないと主張す
る。
しかし,原告の主張は,採用の限りでない。すなわち,
(1)前記のとおり,本願発明と引用発明との相違点は,審決が認定したと
おり,「ドアが折れ曲がった際に,本願発明が,回転ドア縦外枠とそと枠と
の隙間に大きな空間を設けるのに対し,刊行物記載の発明はこの(注審決
原文のまま)どのような空間ができるか不明な点」に尽き,原告主張に係る
相違点は認められない。したがって,相違点があることを前提として,容易
想到性判断の誤りがあるとする原告の主張は,主張自体失当であり,採用の
限りでない。
(2)念のため,原告の主張について,判断する。
本願発明と引用発明は,以下のとおり,想定する事故について相違がある
とはいえない。
すなわち,本願明細書には,「【請求項1】回転ドアが回転中,回転ドア
縦外枠に必要以上の力が加わった時回転ドア縦中枠から回転ドアの進行方向
の反対方向にドアが折れ曲がり,回転ドア縦外枠とそと枠との隙間に大きな
空間を設ける事を特徴とする回転ドア」,「【0001】この発明は,ドア
が回転し人が通過しようとする時にドア枠と外枠との隙間に手足や身体が挟
まった時,センサーが作動し,回転ドアが止まるまでの間に,ドア枠と外枠
との隙間に手足や身体が挟まり,事故になるのをドアの途中が折れ曲がって,
外枠との間に緊急的な空間ができる事により,怪我や圧死事故などを防ぐ為
の事に関するものである。」「【発明が解決しようとする課題】【0003】
これまでは,次のような欠点があった。回転ドアが回転時に,ドア枠と外枠
との隙間に手足や身体が挟まった時,センサーが感知して回転ドアが止まる
まで,ドア枠と外枠の隙間に手足や身体が挟まったり,引込まれていたので,
本発明は,この欠点を取り除く為に考えられたものである。【0004】【課
題を解決する為の手段】ドアが回転中の緊急時,回転ドア縦外枠④に必要以
上の力が加わった時,回転ドア縦中枠⑤から回転ドアの進行方向の反対方向
にドアが折れ曲がり,回転ドア縦外枠④とそと枠③との隙間に臨時的な大き
な空間を設ける事で,手足や身体が挟まれる事故を防ぎ,解決するように構
成された構造の回転ドアである。」,「【0006】【発明の効果】回転ド
アのドアが,途中から折れ曲がる事で,ドア外枠と外枠の小さな隙間が大き
な空間に広がり,手足や身体が挟まれても,大きな事故につながらない様に
なる。」との記載がある。これらの記載によれば,本願発明の目的は,回転
ドア縦外枠と固定された外枠との間の小さな隙間に人の身体の一部や物が挾
まれても回転ドア縦中枠からドアが折れ曲がることにより,上記小さな隙間
が大きな空間に広がり,大きな事故になることを防止することにあると認め
られる(別紙「本願明細書図面【図1】∼【図4】参照」)。
他方,刊行物(甲6)には,「【0005】本発明は,通行者の安全性を
確保した上に,通行者の円滑な通行を図ることができる回転ドアを提供する
ことを目的とする。」,「【0007】この回転ドア装置によれば,袖パネ
ルのいずれかに通行者が接触すると,その袖パネルが,揺動する。従って,
側壁と袖パネルとの間に通行者の体の一部が挟まれたり,通行者が袖パネル
に跳ね飛ばされることもない。」「【0033】【発明の効果】以上のよう
に,本発明による回転ドアによれば,袖パネルが回転自在に構成されている
ので,袖パネルに通行者が接触しても,袖パネルが揺動し,かつ,回転ドア
が停止または減速後の停止が行われるので,通行者に大きな衝撃を与えるこ
とがなく,通行者の体の一部や携帯品が側壁と袖パネルとの間に挟まれるこ
ともない。」との記載がある。これらの記載によれば,引用発明の目的の1
つは,袖パネルが揺動(回転)して側壁と袖パネルとの間に空間ができるこ
とにより通行者の安全性を確保することにあるといえる(別紙「刊行物参考
図【図2】,【図4】参照」)。
そうすると,本願発明と,引用発明は同じ目的を有するものであり,想定
する事故についての相違はないといえる。
なお,ドアが折れ曲がる端緒となる事象について,本願明細書においては,
小さな隙間に通行者の身体の一部が「挟まった」ときなどと記載されている
のに対し,刊行物においては,袖パネルに通行者が「接触」したときなどと
記載されている上,身体の一部が「挾まれない」などと明記されているが,
それらはいずれも回転ドア縦外枠(袖パネル)が折れ曲がるに足りる外力が
通行者の身体又はその携帯品により回転ドアに加えられるという同一の事象
を表現しているのであってその表現に差があるにすぎないものと認められ,
最終的には身体の一部が固定ドア枠と回転ドア縦外枠との間の隙間に挟まっ
て重大な事故になることを防止しようとする点では,同じ目的を有するもの
であるといえるから,上記表現上の相違は,想定する事故が同一であるとす
る認定を左右するに足りない。
また,刊行物の「【0007】・・・袖パネルのいずれかに通行者が接触
すると,その袖パネルが,揺動する。」との記載によれば,引用発明におい
て,回転ドア縦外枠(袖パネル)が折れ曲がるのは,袖パネルを「揺動」さ
せるに足る力が加えられたときであることを前提としているから,本願発明
と同様に,「回転ドア縦外枠に必要以上の力が加わった時」であるといえ,
この点でも両発明の想定する事故に相違はない。
(3)また,引用発明の自動復帰機構は,ドアに衝突した通行者が袖パネル
から離れた場合に初めて働く機構であるから,引用発明に基づいて本願発明
の相違点に係る構成に想到するための阻害要因になるものではない。すなわ
ち,刊行物(甲6)には,「【0019】袖パネル10のフレーム内には,
軸30と結合されて自動復帰機構,例えばオートドアヒンジ32が設けられ
ている。・・・このオートドアヒンジ32を設けているので,袖パネル10
は,例えば通行者が衝突することによってドアパネル6と一直線状の位置か
ら揺動しても,その通行者が袖パネル10から離れると,自動的に元の位置,
即ちドアパネル6と同一直線上の位置に復帰する。」,「【0033】【発
明の効果】・・・さらに,自動復帰機構とセンサとを設けているので,袖パ
ネルに接触していた通行者が袖パネルと離れて,袖パネルが元の位置に復帰
すると,自動的に回転ドアの運転が再開され,保安要員がわざわざ運転を再
開するために,駆けつける必要もない。」と記載されていることに照らせば,
上記自動復帰機構は,ドアに接触した通行者が袖パネルから離れた場合,す
なわち,回転ドア縦外枠と固定外枠との間に空間が形成されて手足や身体が
挟まれても大きな事故につながらないようにするとの目的が達成された後に,
停止していた回転ドアを自動的に再開させるための付加的な機能に係るもの
であって,事故防止の目的と両立するものであるから,設ける空間の大きさ
に係る本願発明の構成に想到するための妨げとなるものではない。
(4)そして,引用発明においては,袖パネルが揺動(回転)することによ
って生じる「空間」の大きさについての記載がされていないが,前記認定の
とおり本願発明と同じ事故防止の目的を有している以上,そのための空間の
大きさを本願発明と同程度の「大きな空間」とすることは,当業者であれば
適宜決定し得る事項であるといえる。
よって,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
4結論
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は
縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がない
から,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
齊木教朗
裁判官
武宮英子
(別紙)「本願明細書図面」
【図1】【図2】
【図3】【図4】
(別紙)「刊行物参考図」
【図1】【図2】
【図3】【図4】
(別紙)「刊行物参考図」
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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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