弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成13年(行ケ)第476号 特許取消決定取消請求事件(平成14年9月11
日口頭弁論終結)
          判        決
       原    告   松下電器産業株式会社
       訴訟代理人弁理士池 内 寛 幸
       同          中 原 健 吾
       被    告     特許庁長官太田信一郎
       指定代理人      鈴 木 法 明
       同          藤 井 俊 明
       同          蓑 輪 安 夫
       同          山 口 由 木
       同          高 木   進
       同          宮 川 久 成
          主        文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が異議2001-70030号事件について平成13年9月4日にし
た決定を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、名称を「異方性導電テープの圧着方法」とする特許第306085
0号発明(平成6年9月30日特許出願、平成12年4月28日設定登録)の特許
権者である。
   上記特許につき特許異議の申立てがされ、異議2001-70030号事件
として特許庁に係属したところ、原告は、平成13年7月16日に明細書の特許請
求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載を訂正する旨の訂正請求をした(以下、こ
の訂正を「本件訂正」という。)。
   特許庁は、同特許異議の申立てにつき審理した上、同年9月4日、「訂正を
認める。特許第3060850号の請求項1に係る発明についての特許を取り消
す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は同月25日原告に
送達された。
 2 本件訂正後の明細書(甲第4号証添付、以下「本件明細書」という。)の特
許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件発明」という。)の要旨
   基板を位置決めする位置決めテーブルと、前記位置決めテーブルに位置決め
された基板の上に、下面に異方性導電テープが貼着されたリーダテープを送り方向
に繰り出すリーダテープ繰出機構と、繰り出された異方性導電テープのみを所定長
さでカットするカッタと、リーダテープを介してカットされた異方性導電テープを
基板に圧着する加圧ツールと、圧着された異方性導電テープからリーダテープを剥
離するリーダテープ剥離機構と、剥離されたリーダテープを送り方向へ送るリーダ
テープ送り機構とを有する異方性導電テープの圧着装置を用いた異方性導電テープ
の圧着方法であって、
   前記加圧ツールの前記送り方向上流側の端部を基準位置とし、前記リーダテ
ープ繰出機構から繰り出されたリーダテープの下面の異方性導電テープを前記カッ
タにより所定の貼着長さに切断した後、前記カッタで切断された異方性導電テープ
の端部が前記基準位置にほぼ一致するまでリーダテープを前記送り方向へ送り、そ
こで前記加圧ツールにより異方性導電テープを基板に圧着することにより、異方性
導電テープの長さが変更されても加圧ツールの交換を不要にしたことを特徴とする
異方性導電テープの圧着方法。
 3 本件決定の理由
   本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、本件訂正を認めた上、本件発
明は、特開平6-3690号公報(本訴甲第3号証、以下「引用刊行物」とい
う。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特
許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、拒絶の査定をしなけ
ればならない特許出願に対してされたものとして、特許法の一部を改正する法律の
施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定によ
り取り消すべきものとした。
第3 原告主張の取消事由
   本件決定の理由中、本件訂正の適否の判断(決定謄本2頁1行目~27行
目)、本件発明と引用刊行物記載の発明との相違点A、Cの認定(同5頁33行目
~36行目、6頁3行目~5行目)、上記相違点Aについての判断(同6頁6行目
~8行目)は認める。
 本件決定は、引用刊行物の記載事項の認定を誤った結果、その記載の発明と
本件発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、また、両者の相違点B、Cにつ
いての各判断を誤り(取消事由2、3)、本件発明が、引用刊行物記載の発明に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものである
から、違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
 (1) 本件決定は、引用刊行物の「第7図(B)及び第8図(D)からは、ヒー
タヘッド71の搬送方向上流側の端部より若干搬送方向下流側で異方性接着剤層片
13の位置が検知されているのを見ることが出来る」(決定謄本4頁22行目~2
4行目)との認定に基づいて、本件発明と引用刊行物記載の発明とは、「前記接着
するツールの前記送り方向上流側を基準位置とし・・・異方性導電テープの端部が
前記基準位置にほぼ一致するまでリーダテープを前記送り方向へ送り、そこで前記
接着するツールにより異方性導電テープを基板に接着することを特徴とする異方性
導電テープの接着方法」(同5頁26行目~31行目)である点で一致すると認定
するが、誤りである。
 (2) 引用刊行物(甲第3号証)には、第7図に関して、「図7(A)に示すよ
うに・・・光センサ77が下側からこの異方性接着剤層片13と対向するように配
設されており、この光センサ77により異方性接着剤層片(注、異方性接着剤とあ
るのは誤記と認める。)13の位置が検知されている」(段落【0029】)と記
載されているから、光センサ77によって異方性接着剤層片13の位置を検知して
いるのは、図7(A)ないしはその直後の工程である。このことは、上記記載に続
いて「このため、異方性接着剤層片13が図7(B)に示す所定位置まで搬送され
ると、この位置で異方性接着剤層テープ10の搬送が停止される」(段落同上)と
記載されていることからも明らかである。
    そうすると、引用刊行物記載の光センサ77が検知するのは、異方性接着
剤層片13の搬送方向下流側の端部、すなわち図面上の右端部(以下、単に「右端
部」といい、搬送方向上流側の端部を同様に「左端部」という。)であると解する
のが相当である。現に、液晶パネル2の異方性接着剤層片13をヒーターヘッド7
1により熱圧着する状態を示す図8(D)では、ヒーターヘッド71の右端部と異
方性接着剤層片13の右端部とが一致することが示されている。
    すなわち、引用刊行物記載の発明は、ヒーターヘッド71の右端部を「基
準位置」として、異方性導電性テープの右端部がこの「基準位置」と一致するまで
送るものであるから、「ヒータヘッド71の送り方向上流側の端部(注、左端部)
より若干搬送方向下流側」で異方性接着剤層片13の位置が検知されているとする
本件決定の上記認定は誤りというべきであるし、これを前提に、「接着するツール
の前記送り方向上流側を基準位置とし・・・異方性導電テープの端部が前記基準位
置にほぼ一致するまでリーダテープを前記送り方向へ送り」との点を一致点とした
認定も誤りに帰する。なお、機械工学の分野において、「基準位置」を設ける場合
には、物体によって特定しやすい端面などを設定するのが当業者の常識であり、
「端部より若干搬送方向下流側を基準位置とし」などというような中途半端で特定
しにくい位置を基準位置とすることは、当業者の常識に反するものである。
 (3) 被告は、図8(F)、図7(A)、(B)から見て、光センサ77はヒー
ターヘッド71の左端部の下側に対向配置されており、異方性接着剤層片13の存
在を継続して検知していると主張するところ、確かに、光センサ77はヒーターヘ
ッド71の左端部の下側に位置しているということはできる。しかし、この場合に
おいて光センサ77で検知しているのは、異方性接着剤層片13からキャリアテー
プ11への切り替わりであるから、異方性接着剤層片13の左端部が通り過ぎた後
でなければ停止できず、上記の位置で異方性接着剤層片13の左端部の位置を検知
したときには、すでに異方性接着剤層片13の左端部はヒーターヘッド71の左端
部を通過した後ということになる。さらに、キャリアテープ11を搬送するには、
物理的又は機械的な慣性力が働いているから、検知と同時にキャリアテープ11を
停止することは困難であり、異方性接着剤層片13の左端部とヒーターヘッド71
の左端部の位置合わせをすることはできない。
    被告は、後記乙第1、第2号証を援用して、物品を位置決めする際、検出
器が作業機の上流側にあれば投入される物品の上流側端部を、検出器が作業機の下
流側にあれば投入される物品の下流側端部をそれぞれ検出して搬送を停止するのが
通常である旨主張するが、乙第1号証記載のものは、検出位置で物品を停止させる
ことが示されているものではなく、乙第2号証のものは投入される物品の下流側端
部を検出するものであるから本件発明と何らの関連もない。
 2 取消事由2(相違点Bについての判断の誤り)
 (1) 本件決定は、本件発明と引用刊行物記載の発明との相違点Bとして、「本
件発明においては、前記接着するツールの送り方向上流側の端部を基準位置として
いるのに対し、刊行物1(注、引用刊行物)に記載された発明では、前記接着する
ツールの前記送り方向上流側の端部より若干搬送方向下流側を基準位置としている
点で一応相違する」(決定謄本5頁37行目~6頁2行目)点を挙げた上、当該相
違点について、「特許請求の範囲に、『端部を基準位置とし、』と記載されてはい
るが、実際の接着に当たっては余裕を持って接着するため基準位置を若干下流側に
ずらすのが常識で、本件発明においても、図1及び図2を見ると、正確な接着位置
が端部から若干下流側にずれる事実が見られることから、上記相違点は実質的なも
のではなく、表現上の相違にすぎない」(同6頁9行目~13行目)と判断する
が、誤りである。
 (2) まず、本件決定の上記認定判断は、引用刊行物記載の発明における基準位
置が接着するツールの送り方向上流側(左端部)であるという前記1で指摘した誤
った認識を前提とする点で失当である上、「実際の接着に当たっては余裕を持って
接着するため基準位置を若干下流側にずらすのが常識」との点は、根拠を欠くもの
というべきである。すなわち、本件特許公報(甲第2号証)の図1、2を見ても、
本件決定のいうような「接着位置が端部から若干下流側にずれる事実」は示されて
おらず、むしろ、本件明細書(甲第4号証添付)では、図1の説明として、「本実
施例では、加圧ツール9の送り方向Mの上流側の端部を基準位置Sとし、基板2に
貼着されようとする異方性導電性テープ5(カット済み)の送り方向Mの上流側の
端部の位置を基準位置Sに一致するようにしている」、「カッタ8で異方性導電テ
ープ5を所定の貼着長さに切断した後、リーダーテープ送り機構6により切断され
た異方性導電テープ5の送り方向Mの上流側の端部5aが基準位置Sに一致する位
置までリーダーテープ4を送り方向Mへ送る」(段落【0013】)と記載されて
いるとおり、リーダーテープ送り機構6により、上流側の端部5aが
基準位置Sに一致する位置までリーダーテープ4を送ることが明確に記載されてい
る。加えて、本件特許公報図1、図2にはリーダーテープ送り機構6が示されてお
り、この図面を見れば、機械式でリーダーテープ4を所定の長さ送っていることが
明白に理解できる。
    なお、被告は、基準位置を加圧ツールの上流側端部と一致させたか、若干
下流側にずらしたかに、実質的な差異はないと主張するが、本件明細書(甲第4号
証添付)の「若干ずらしても差し支えない」(段落【0015】)との記載は、
「異方性導電テープの長さが変更されても加圧ツールの交換を不要にした」という
構成を達し得る範囲に制限されることは当然のことであるところ、引用刊行物記載
の発明の異方性導電テープの左端部の位置は、上記「若干」の範囲を超えており、
その差異が単なる表現上の差異であるとした本件決定の判断は誤りである。
 3 取消事由3(相違点Cについての判断の誤り)
 (1) 本件決定は、本件発明と引用刊行物記載の発明との相違点Cとして、本件
発明の「異方性導電テープの長さが変更されても加圧ツールの交換を不要にした」
ことが引用刊行物には明記されていない点(本件決定6頁3行目~5行目)を挙げ
た上、当該相違点について、「Cの点に関しても、光センサ77を所定位置に突出
させること自体が、異方性導電テープの長さの違いに対応するものであることは明
白であるから、該点も単なる表現上の相違にすぎない」(同頁15行目~17行
目)と判断するが、誤りである。
 (2) 引用刊行物(甲第3号証)記載の発明において、光センサ77を所定位置
に突出させ、あるいは引き込むように動作させる理由は、「図7(C)に示すよう
に、光センサ77が左方に引き込められた後、第4および第5アクチュエータ7
4、76により両ガイドローラ73、75が下動され」(段落【0030】)と記
載されているとおり、上下動するガイドローラ73、75との衝突を避けるために
すぎない。本件決定のいうように、「光センサ77を所定位置に突出させること自
体が、異方性導電テープの長さの違いに対応する」などという記載はどこにもな
く、その示唆もない。
    被告は、本件発明の「異方性導電テープの長さが変更されても加圧ツール
の交換を不要にした」との点は、必然的に得られる作用効果を示すにすぎないと主
張するが、当該構成は、本件発明の目的に関わる特徴的構成要件であり、必然的に
得られる作用効果ではない。被告の主張するように、これが必然的に得られる作用
効果を示すものとすれば、意図的な選択を許さないということであるが、加圧ツー
ルの左端部と異方性導電テープの左端部を一致させたとしても、加圧ツールを交換
する場合もあれば、交換しない場合もあるのであるから、必然的な作用効果ではな
い。重要なことは、加圧ツールの交換を不要にするという目的意識がなければ、本
件発明には到達できないことである。
第4 被告の反論
   本件決定の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
 (1) 引用刊行物の記載事項に関する原告の主張は、光センサ77による異方性
接着剤層片13の位置の検知を瞬間的なものとしてとらえ、その時点を、図7
(A)ないしはその直後で図7(B)より前であると断定しているが、引用刊行物
(甲第3号証)の段落【0029】の「位置が検知されている」の記載及びその技
術的性格からして、当該検知は一定時間継続したものと見るべきものであり、原告
の上記主張は失当である。さらに、引用刊行物の段落【0033】の「キャリアテ
ープ11から異方性接着剤層片13が剥がれると、図8(F)に示すように、左側
のガイドローラ73も上動され、光センサ77が次の検出のため所定位置まで突出
する」との記載に照らしても、光センサ77は、ガイドローラ73、75が上動
し、異方性接着剤テープが熱圧着台の上方に位置している間、図8(F)、図7
(A)、(B)に示される異方性接着剤層片13と対向する決められた位置に配設
され、異方性接着剤層片13の存在を継続して検知していると見るのが相当であ
る。
    他方、本件発明は「加圧ツールの送り方向上流側の端部を基準位置」とし
「異方性導電テープの端部が基準位置にほぼ一致するまでリーダテープを送り方向
へ送る」ものであり、本件発明との対比において問題となるのは「ヒーターヘッド
71」に対する「光センサ77」の位置である。このような観点から、引用刊行物
の図8(F)、図7(A)、(B)を見ると、光センサ77は、ヒータヘッド71
の中央部でもなく、右端部でもなく、ヒーターヘッド71の左端部近傍に対向配置
されて、異方性接着剤層片13の位置を検知していることが明らかである。そし
て、図8(D)においては、押し付けられた異方性接着剤層片13の左端部がヒー
ターヘッド71の左端部より若干下流側にずれていることが示されている。
    したがって、本件決定の「第7図(B)及び第8図(D)からは、ヒータ
ヘッド71の搬送方向上流側の端部より若干搬送方向下流側で異方性接着剤層片1
3の位置が検知されているのを見ることが出来る」(決定謄本4頁22行目~24
行目)とした認定に誤りはない。
 (2) 原告は、引用刊行物(甲第3号証)の図8(D)において、ヒーターヘッ
ド71の右側と異方性接着剤層片13の下流側を一致させることが示されていると
主張するが、引用刊行物にはその趣旨を具体的に示す記載はなく、「ヒーターヘッ
ド71の右側と異方性接着剤層片13の下流側を一致させる」技術的思想が示され
ているということはできない。
 (3) 原告は、検出器の位置と検出する端部との関係を無視し、あえて逆側の端
部検知を主張しているが、その場合には複雑な装置及び制御を必要とするから、引
用刊行物のようなピッチが変化する可能性のある装置においては無理というほかな
い。一般に、物品を位置決めする際、検出器が作業機の上流側にあれば投入される
物品の上流側端部を検出して搬送を停止し、検出器が作業機の下流側にあれば投入
される物品の下流側端部を検出して搬送を停止するのが通常であり(前者の例とし
て特開昭52-1116号公報〔乙第1号証〕、後者の例として実願昭61-12
4841号(実開昭63-32108号)のマイクロフィルム〔乙第2号証〕参
照)、引用刊行物記載の発明もこのことを前提とするものと解される。
 (4) 原告は、さらに、光センサ77の位置と検知に関し、慣性力を考慮すると
位置合わせをすることはできない旨主張しているが、本件発明の機械も引用刊行物
記載の機械も接着及び剥離機構を有するものであるから、慣性力を考慮するほどの
速度を有する機械でないことは、明白であり、また、多少の慣性力があったとして
も早めにスローダウンすれば定位置に位置決めして停止できるから、上記主張は失
当である。
 2 取消事由2(相違点Bについての判断の誤り)について
   本件明細書(甲第4号証添付)の段落【0010】【作用】には「加圧ツー
ルの送り方向上流側の端部は、カットされた異方性導電テープの送り方向上流側の
端部付近に位置するので」と、段落【0015】には「本実施例では、加圧ツール
9の送り方向Mの上流側端部を基準位置Sに完全に一致させたが、必要に応じて、
若干ずらしても差し支えない」と、それぞれ記載されており、基準位置を若干ずら
しても支障のないことが示されている上、本件明細書には具体的な基準位置設定手
段が開示されておらず、図面を中心に認定せざるを得ないところ、図1、2におい
ても、基板2の左端部は、加圧ツール9の左端部の位置と一致していないことが明
らかである。
   したがって、相違点Bが「実質的なものではなく、表現上の差異にすぎな
い」とした本件決定の判断に誤りはない。
 2 取消事由3(相違点Cについての判断の誤り)について
 (1) 相違点Cに係る「異方性導電テープの長さが変更されても加圧ツールの交
換を不要にした」との事項は、「加圧ツールの前記送り方向上流側の端部を基準位
置とし、異方性導電テープの端部が前記基準位置にほぼ一致するまでリーダテープ
を前記送り方向へ送り、そこで前記加圧ツールにより異方性導電テープを基板に圧
着する」ことに基づく作用効果をいうにすぎない。このことは、本件明細書(甲第
4号証添付)の段落【0010】に、「異方性導電テープの貼着長さが変更された
場合、加圧ツールをそのまま使用しても、加圧ツールの送り方向上流側の端部は、
カットされた異方性導電テープの送り方向上流側の端部付近に位置するので、カッ
トされていない異方性導電テープが、押圧される恐れはない。したがって、異方性
導電テープの貼着長さが変更されても、加圧ツールを交換せずに対応することがで
き」ると記載されている一方、これ以外に、加圧ツールの交換を不要にするための
事項は記載されていないことから明らかである。
    他方、引用刊行物記載の発明は、光センサ77が加圧ツール(ヒーターヘ
ッド71)上流端近傍の決まった位置に突出して、異方性導電テープ(異方性接着
剤層片13)の位置を検出し、その上流側端部を加圧ツールの上流側端部近傍の基
準位置と一致させるものであるから、本件発明と同様に、隣接する異方性導電テー
プが押圧されるおそれはなく、異方性導電テープの貼着長さの違いに対応できるこ
とは明らかであって、相違点Cが表現上の相違にすぎないとした本件決定の判断に
誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
 (1) 原告は、本件決定が、本件発明と引用刊行物記載の発明との一致点とし
て、「接着するツールの前記送り方向上流側を基準位置とし・・・異方性導電テー
プの端部が前記基準位置にほぼ一致するまでリーダテープを前記送り方向へ送」る
点を認定した誤りを主張するので、この点について判断する。
   ア 引用刊行物(甲第3号証)には、「【0029】・・・異方性接着剤テ
ープは、図7(A)に示すように・・・熱圧着台81の上の液晶パネル2と対向す
るように延びている。このとき、光センサ77が下側からこの異方性接着剤層片1
3と対向するように配設されており、この光センサ77により異方性接着剤層片1
3の位置が検知されている。このため、異方性接着剤層片13が図7(B)に示す
所定位置まで搬送されると、この位置で異方性接着剤層テープ10の搬送が停止さ
れる。【0030】そして、図7(C)に示すように、光センサ77が左方に引き
込められた後・・・異方性接着剤層片13が液晶パネル2の所定位置に正確に押し
付けられる・・・【0031】次いで、図8(D)に示すように・・・異方性接着
剤層片13が液晶パネル2の所定位置に仮熱圧着される。・・・【0032】この
ようにして仮熱圧着がなされると、図8(E)に示すように、ヒーターヘッド71
が上動され、ついで、右側のガイドローラ75のみが上動される。この右側ガイド
ローラ75の上動により、キャリアテープ11は右側から上方に持ち上げられ、仮
熱圧着された異方性接着剤層片13は右端部から徐々にキャリアテープ11から剥
がれる。・・・【0033】このようにしてキャリアテープ11から異方性接着剤
層片13が剥がれると、図8(F)に示すように、左側のガイドローラ73も上動
され、光センサ77が次の検出のため所定位置まで突出する」との記載が認められ
る。
     そして、光センサ77が上記「所定位置」に配設された状態を示す図7
(A)、(B)及び図8(F)において、光センサ77は、下側から異方性接着剤
層片13と対向するように配置され、かつ、その図面上の左右方向(搬送方向)の
位置は、ヒーターヘッド71の左端部とおおむね一致していることが認められる。
   イ 上記の認定によれば、キャリアテープ11によって搬送される異方性接
着剤層片13の位置の検知を行うのは、ヒーターヘッド71の左端部付近下側に位
置する光センサ77であり、この検知により異方性接着剤層片13は停止するので
あるから、上記各図の図示に照らせば、引用刊行物に接した当業者において、異方
性接着剤層片13の搬送及び停止の基準位置となるのが、光センサ77の「所定位
置」とされているヒーターヘッド71の左端部付近であって、異方性接着剤層片1
3の左端部が当該基準位置にほぼ一致するまでキャリアテープ11を送り方向へ送
ることが開示されているものとして、当然に理解、把握されるというべきである。
     そうすると、上記の点を本件発明と引用刊行物記載の発明との一致点と
して認定した本件決定に誤りはないというべきである。
 (2) この点に関して、原告の主張するところを、以下検討する。
   ア まず、原告は、引用刊行物(甲第3号証)の段落【0029】の記載文
言からして、光センサ77によって異方性接着剤層片13の位置を検知しているの
は、図7(A)ないしその直後の工程であると理解されるから、検知されるのは異
方性接着剤層片13の右端部である旨主張する。しかし、同段落の「図7(A)に
示すように・・・光センサ77が下側から異方性接着剤層片13と対向するように
配設されており、この光センサ77により異方性接着剤層片13の位置が検知され
ている。このため、異方性接着剤層片13が図7(B)に示す所定位置まで搬送さ
れると、この位置で異方性接着剤層テープ10の搬送が停止される」との記載及び
図7(A)、(B)の図示から理解されるのは、光センサ77が、同図に示された
位置(ヒーターヘッドの左端部付近下側であることは上記のとおりである。)で異
方性接着剤層片13の位置を検知していることであって、原告の主張するように、
光センサ77が異方性接着剤層片13の右端部を検知していることを示す記載であ
ると解することには無理があるというほかない。むしろ、図7(B)が、ヒーター
ヘッド71の左端部、異方性接着剤層片13の左端部及び光センサ77が搬送方向
において同じ位置で並んだ状態を図示するとともに、「この位置で異方性接着剤層
テープ10の搬送が停止される」と明記されていることは前示のとおりであり、光
センサ77による異方性接着剤層片13の検知位置はその左端部と理解するのが相
当である。
   イ 次に、原告は、引用刊行物記載の光センサ77が異方性接着剤層片13
の左端部を検知した場合、慣性力等により、ヒーターヘッド71の左端部を通過し
てしまう旨主張するが、引用刊行物の図8(D)において、異方性接着剤層片13
の左端部がヒーターヘッド71の左端部よりもわずかに搬送方向下流側にずれてい
ることが示されているところ、このずれが原告の主張する慣性力等によるものと解
する余地もあり、いずれにせよ、原告の主張する上記の点のみから、前記「基準位
置」となるのがヒーターヘッド71の右端部であると判断することはできない。
   ウ さらに、原告は、本件決定が、光センサ77による異方性接着剤層片1
3の検知位置を「ヒータヘッド71の搬送方向上流側の端部より若干搬送方向下流
側」と認定した点(決定謄本4頁22行目~24行目)の誤りを主張するところ、
確かに、引用刊行物(甲第3号証)の図7(A)、(B)及び図8(F)の図示か
ら、「若干搬送方向下流側」を検知位置とすることを読み取ることは困難といわざ
るを得ない。この点について、被告は、引用刊行物(甲第3号証)の図8(D)
で、異方性接着剤層片13の左端部がヒーターヘッド71の左端部より若干下流側
にずれていることが示されていることを指摘するが、光センサによる検知位置と実
際の停止位置との間には自ずとずれが生じ得ることは明らかであるから、同図に示
されている異方性接着剤層片13の位置は、その「停止位置」を示すものと理解さ
れるべきものであって、光センサ77による「検知位置」を示すものと解すること
はできない。そうすると、光センサ77による異方性接着剤層片13の検知位置
を、ヒーターヘッド71の搬送方向上流側の端部(左端部)より「若干搬送方向下
流側」とした本件決定の認定は、根拠を欠くといわざるを得ないが、本件決定は、
本件発明と引用刊行物記載の発明との一致点として、異方性導電テープを搬送及び
停止させる「基準位置」を「接着するツールの前記送り方向上流側」と認定し、こ
の認定自体に誤りがないことは上記のとおりであるから、この点に関する原告の上
記主張は、本件決定の結論に何ら影響を及ぼすものではない。
 (3) したがって、原告の取消事由1の主張は理由がない。
 2 取消事由2(相違点Bについての判断の誤り)について
   原告は、本件決定が、その認定に係る相違点B、すなわち、「本件発明にお
いては、前記接着するツールの送り方向上流側の端部を基準位置としているのに対
し、刊行物1(注、引用刊行物)に記載された発明では、前記接着するツールの前
記送り方向上流側の端部より若干搬送方向下流側を基準位置としている点」(決定
謄本5頁37行目~6頁2行目)について、この相違点は実質的なものではなく、
表現上の相違にすぎないと判断した誤りを主張する。
   しかし、光センサ77による検知位置に関する本件決定の認定に根拠を欠く
部分があることは、前記1(2)ウのとおりであるところ、上記相違点Bの認定自体、
この認定に基づくものであることは明らかである。そうすると、そもそも相違点B
を本件発明と引用刊行物記載の発明との相違点と認めることはできず、この両者
で、異方性導電テープ(異方性接着剤層片)を搬送及び停止させる「基準位置」に
ついて、相違点を見いだすことはできないというべきであるから、結論的に相違点
Bを実質的なものではなく表現上の相違にすぎないとした判断に、少なくとも、本
件決定の結論に影響を及ぼすべき誤りがあるということはできない。
 3 取消事由3(相違点Cについての判断の誤り)について
 (1) 原告は、本件決定が、相違点C、すなわち、本件発明の規定する「異方性
導電テープの長さが変更されても加圧ツールの交換を不要にした」ことが引用刊行
物には明記されていない点に関し、単なる表現上の相違にすぎないとした判断の誤
りを主張するので、まず、上記規定の技術的意義について検討する。
    本件発明が、その特許請求の範囲に記載されているとおり、「異方性導電
テープの圧着方法であって・・・前記加圧ツールの前記送り方向上流側の端部を基
準位置とし・・・異方性導電テープの端部が前記基準位置にほぼ一致するまでリー
ダテープを前記送り方向へ送り・・・圧着することにより、異方性導電テープの長
さが変更されても加圧ツールの交換を不要にした」と規定されるものであることは
前示のとおりであるところ、相違点Cに係る事項に関し、本件明細書(甲第4号証
添付)の段落【0010】には「【作用】上記構成により、異方性導電テープの貼
着長さが変更された場合、加圧ツールをそのまま使用しても、加圧ツールの送り方
向上流側の端部は、カットされた異方性導電テープの送り方向上流側の端部付近に
位置するので、カットされていない異方性導電テープが、押圧される恐れはない。
したがって、異方性導電テープの貼着長さが変更されても、加圧ツールを交換せず
に対応することができ、それだけ、作業効率を向上できる」と、段落【0016】
には「【発明の効果】本発明の異方性導電テープの圧着方法によれば、異方性導電
テープの貼着長さが変更されても、加圧ツールの交換無しに作業を継続することが
でき、作業効率を向上できる」と、それぞれ記載されている。
    これによれば、相違点Cに係る「異方性導電テープの長さが変更されても
加圧ツールの交換を不要にした」点は、本件発明の効果に相当するものと解され、
かつ、この効果は、本件請求項1の「前記加圧ツールの前記送り方向上流側の端部
を基準位置とし・・・異方性導電テープの端部が前記基準位置にほぼ一致するまで
リーダテープを前記送り方向へ送り・・・圧着する」という構成によって奏される
ものと解するほかない。
 (2) 他方、引用刊行物記載の発明も、「前記加圧ツールの前記送り方向上流側
の端部を基準位置とし・・・異方性導電テープの端部が前記基準位置にほぼ一致す
るまでリーダテープを前記送り方向へ送り・・・圧着する」点で本件発明に相当す
る構成を備えることは、前記1(1)アの認定から明らかであるから、「異方性導電テ
ープの長さが変更されても加圧ツールの交換を不要にした」点を明示する記載がな
いとしても、相違点Cに係る上記効果を奏するものというべきである。
    したがって、相違点Cについて、本件決定が、単なる表現上の相違にすぎ
ないとした判断に誤りはないというべきである。
 4 以上のとおり、原告主張の取消事由は理由がなく、他に本件決定を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担に
つき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠 原 勝 美
    裁判官 長 沢 幸 男
    裁判官 宮 坂 昌 利

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛