弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人堀家嘉郎の上告理由第一点および同外池簾治の上告理由第二点、第三
点、第五点について。
 清掃法一五条一項が、特別清掃地域内においては、その地域の市町村長の許可を
受けなければ、汚物の収集、運搬または処分を業として行なつてはならないものと
規定したのは、特別清掃地域内において汚物を一定の計画に従つて収集、処分する
ことは市町村の責務であるが(同法六条、地方自治法二条三項七号、同法別表第二
の一一参照)、これをすべて市町村がみずから処理することは実際上できないため、
前記許可を与えた汚物取扱業者をして右市町村の事務を代行させることにより、み
ずから処理したのと同様の効果を確保しようとしたものであると解せられる。かか
る趣旨にかんがみれば、市町村長が前記許可を与えるかどうかは、清掃法の目的と
当該市町村の清掃計画とに照らし、市町村がその責務である汚物処理の事務を円滑
完全に遂行するのに必要適切であるかどうかという観点から、これを決すべきもの
であり、その意味において、市町村長の自由裁量に委ねられているものと解するの
が相当である。
 これを本件についてみるのに、原判決の確定するところによれば、
 (一) 平塚市においては、昭和三七年当時まで、し尿浄化槽内の汚物は清掃法三
条の汚物に含まれないとの解釈に基づき、同法一五条の許可を受けていない清掃業
者も自由に浄化槽汚物の収集、運搬等を行なつていたが、同年五月にいたり、浄化
槽汚物の取扱業についても、他の汚物取扱業と同じく市町村長の許可を必要とすべ
き旨の厚生省通知が発せられ、昭和三八年一月一日からこれが実施されることとな
つた。そこで、従来から同市内等において浄化槽清掃業に従事していたDは、昭和
三七年一一月二日被上告会社を設立し、同会社において同三八年一月八日上告人市
長に対し浄化槽汚物取扱業の許可を申請したところ、同月一二日付をもつてこれが
不許可とされた。
 (二) 上告人市長が右不許可処分をした理由は、平塚市では、当時、同市内にお
いて収集される汚物を処理するため、同市の人口とその増加の割合に応じうる程度
の規模を有する汚物処理場を建設中であつたが、被上告会社は、同市以外において
も汚物の収集を行なつていたので、他地域の汚物が右処理場に持ち込まれ、同市の
処理作業に支障をきたすおそれがあつたこと、被上告会社は同市内に汚物処理場を
有せず、右市営処理場が完成するまでの間同会社の汚物処理状況を十分に調査、監
督することができないこと、同市内の浄化槽汚物を収集、運搬するには、すでに許
可を得ている六人の清掃業者で十分であり、新規業者を加えると、かえつて無用の
摩擦を生ずるおそれがあつたこと、被上告会社が浄化槽汚物以外の汚物を無許可で
取り扱うのを防ぐための監督が困難であること、の四点にあつた、
というのである。
 以上の事実関係のもとにおいては、右(二)の不許可事由が真実と認められるかぎ
り、上告人市長がこれらの事由を考慮して被上告会社に浄化槽汚物取扱業の許可を
与えなかつたことは、同市長の前記裁量権行使の正当な範囲内にとどまるものとい
うべきであり、右不許可処分により、被上告会社ないしD個人の浄化槽清掃に関す
る過去の営業実績が無に帰することになつたとしても、その一事をもつてしては、
いまだ同処分に裁量権の範囲を逸脱した違法があるものと断ずることはできない。
 してみれば、本件不許可処分が被上告会社ないしD個人の営業上の地位、利益を
不当に侵害するものであるとし、上告人市長の裁量権の濫用にあたるとした原判決
には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背があるものというべく、この点
の論旨は理由がある。
 よつて、その余の論旨につき判断するまでもなく、原判決を破棄し、さらに審理
をつくさせるため、本件を原審に差し戻すこととし、行政事件訴訟法七条、民訴法
四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    岸       盛   一

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