弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士久保田美英の上告理由第一点について。
 しかし、所論の各主張の趣旨は原判決に網羅掲記されており、且つ右につきとに
かく判断がなされていることは原判文上明らかであるから原判決には所論の違法あ
りというを得ず。故に所論は採用できない。
 同第二点について。
 しかし、原判文によつても明らかなとおり、原判決は所論債務が一旦有効に発生
したことを前提とし、それがすでに履行ずみである趣旨を判示しているにすぎず、
上告人主張のような経過で右債務が初めから存在しない、あるいは消滅した等の法
律関係を是認しているのではないから上告人の本訴請求を棄却する趣旨において、
本件控訴を棄却したのは当然であり、そこに所論の違法ありというを得ない。それ
故所論は採用できない。
 同第三点について。
 しかし、原判示のような関係あるにおいては、原判決が所論確認の利益がないと
判断したのは当然であり、この場合、所論のような諸点について審究しなければな
らないわけのものではない、故に原判決には所論の違法ありというを得ず所論は採
用できない。
 同第四点について。
 しかし、所論前段の主張の理由のないことは前記第三点における説示において述
べたとおりであるから原判決には所論違法なく、また所論後段指摘の原判示は無用
の説示にすぎないものと認められるから、その部分に所論の違法ありとするも判決
の結論に影響を及ぼすものではない。それ故所論はすべて採るを得ない。同第五点、
第六点、第六点の一、第九点ないし第一一点について。
 所論はひつきよう原審の専権に属する証拠の取捨選択並びにこれに基いてなされ
た原審の自由な事実認定を誤認と攻撃し、あるいはその誤認たることを前提として
独自の法律論をる述しているに外ならないものであつて、すべて「最高裁判所にお
ける民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)
一号ないし三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重
要な主張を含む」ものと認められない。
 同第七点について。
 所論の点に関する原判示はいささか簡に失するきらいがないでもないが、原判決
は所論主張のような無効事由を事実摘示の中に掲げ、そしてそのような事由で本件
取引が木材統制法上無効のものとは認められないという趣旨を判示しているものと
認められるから、原判決には所論理由不備等の違法ありというを得ない。そして、
木材統制法二条には「行政官庁木材ノ需給調整上必要アリト認ムルトキハ勅令ノ定
ムル所ニヨリ立木ノ所有者ニ対シ価格ヲ指定シ其ノ所有スル立木ヲ地方木材株式会
社ニ売渡スヘキコトヲ命スルコトヲ得」とあり、そして木材統制法施行規則五条に
は「木材統制法第二条ノ命令ハ左ニ掲クル事項ヲ記載シタル売渡令書ヲ発シ当該立
木ノ所有者ニ交付シテ之ヲ為ス(後略)」同六条には「農商大臣前条ノ売渡令書ヲ
発シタルトキハ其ノ旨ヲ当該立木ノ買入ヲ為スヘキ地方木材株式会社ニ通達ス地方
木材株式会社前項ノ通達ヲ受ケタルトキハ遅滞ナク当該立木ニ付買入ノ申込ヲ為ス
ヘシ」同七条には「木材統制法第二条ノ命令ヲ受ケタル立木ノ所有者売渡スヘキ立
木ニ付前条ノ地方木材株式会社ヨリ受渡令書ニ定ムル価格受渡時期其ノ他ノ取引条
件ニ依リ買入契約ノ申込アリタルトキハ遅滞ナク契約ヲ締結スルコトヲ要ス前項ノ
立木ノ所有者ハ前項ノ契約ニ従ヒ地方木材株式会社ニ対シ立木ノ引渡ヲ為スコトヲ
要ス」とあるによつてみれば当時上告人のような立木の所有者は木材統制法二条所
定の命令のない以上は(本件においてそのような命令のあつた事実は主張且立証が
ない)これが売渡の相手方を所論のように限定されていたものとは認め難いばかり
でなく、木材統制法施行令一条には「地方長官軍需其ノ他戦力増強上必要ナル需要
ニ充ツル為特ニ必要アリト認ムルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ立木ノ所有者ニ対シ
其ノ所有スル立木ニ付必要ナル事項ヲ指示シ伐採ヲ勧奨スルコトヲ得」同三条に「
立木ノ所有者カ第一条ノ勧奨ニ従ハサルトキハ農商大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ木
材統制委員会ノ議ヲ経テ立木ノ所有者ニ対シ価格其ノ他譲渡ニ関シ必要ナル事項ヲ
指定シ其ノ立木ヲ地方木材株式会社ニ売渡スヘキコトヲ命スルコトヲ得」とあるに
よつてみれば、上告人においてその所有の立木につき所論のような勧奨を受けてい
たとしてもそのことだけでこれが売渡の相手方を所論のように限定されていたもの
とも認められないから本件立木の取引は所論にいわゆる闇行為による無効なものと
は即断し得ないものと云わざるを得ない。所論る述の要旨はひつきよう右に反する
独自の見解に座するものであつて、採るを得ない。
 同第八点について。
 所論の点に関する原判示も簡略に過ぎるが、その要旨とするところは、原判示の
ような事実関係の下では所論の諸点について表示と意思との間にくいちがいがなか
つたとの趣意を正当に判示しているものと認められないこともないから、原判決に
は所論の違法ありというを得ず所論もまた採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎

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