弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は、控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決中被控訴人関係部分を取り消す。被控訴人は控訴人に対
し金三五〇万円及びこれに対する昭和三九年一月一日以降右金員支払いずみに至る
まで年一割五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の
負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却
の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の提出、援用及び認否は、控訴代理人が
当審における控訴人本人Aの供述を採用したことを附加するほか、原判決事実摘示
のとおりであるから、これを引用する(但し、被告B関係部分を除く)。
         理    由
 一 成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証、原審証人B(一部)、原審及び
当審における控訴人本人の各供述に弁論の全趣旨をあわせると、Cは、Dに対し昭
和三七年四月二三日から同年六月二九日までの間に四回にわたり、いずれも利息月
五分、弁済期昭和三八年一二月末日の約定で合計四〇〇万円を貸し渡し、右同額の
貸金債権を有していたところ、控訴人に対し昭和四一年三月二三日右債権を譲渡
し、同月二八日付内容証明郵便をもつて債務者たるDに対し右債権譲渡を通知し、
右郵便はその頃Dに到達したこと、Dの夫であり、被控訴会社の代表取締役でもあ
つたBは、控訴人との間において昭和四一年四月二一日、前示Dの債務元本のうち
三五〇万円を限度とし、Dと連帯して履行をする責に任ずる旨の連帯保証契約を、
個人としてとともに被控訴会社を代表して、締結したことが認められる。原審証人
Bの供述中右認定に反する部分はたやすく信用し難く、ほかにこれを動かすだけの
証拠はない。
 そこで、Bが被控訴会社を代表してした前記連帯保証契約が商法二六五条にいう
取引として無効となるか否かにつき判断する。
 <要旨第一>控訴人は、右契約は控訴人と被控訴会社との間の取引であつて、被控
訴会社とその代表取締役Bとの間の取引でないから、商法二六五条にい
う取引に該当しないと主張するが、同条にいう取引には取締役と会社との間の直接
の取引に限らず、第三者と会社との間の取引で取締役個人の利益となり会社に不利
益を与える行為をも包含されると解すべきであるところ、前認定事実のように妻の
債務につき個人として保証をしようとするBにとつて被控訴会社がさらに保証をす
ることは会社の不利益において、利益を受けるものであること明らかであり、そう
とすればBが被控訴会社を代表して控訴人と本件連帯保証契約を締結することは同
条の取引に該当し被控訴会社取締役会の承認を必要とするといわなければならな
い。しかるに、前顕乙第一号証、原審証人B、原審における被控訴会社代表者E本
人の各供述に弁論の全趣旨をあわせると、その頃被控訴会社取締役は、B、E、F
の三名であつたが、控訴人との本件連帯保証契約の締結につき被控訴会社取締役会
の承認を受けた事実はないことが認められる。
 <要旨第二>もつとも、商法二六五条に違反する取引のうち取締役と会社以外の第
三者との間の取引については、右第三者が会社取締役会の承認を受けて
いないことにつき悪意または重過失があるときに限り、会社はその無効を主張する
ことができると解するのが相当である。ところが、前認定事実に前顕乙第一号証、
原審証人Bの証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果ならびに弁論の全
趣旨をあわせると、本件連帯保証契約締結当時控訴人は弁護士成毛由和に相談し、
同弁護士立会の上でBと交渉したのであるが、Bのほかになお二名の取締役の在任
することが登記簿上明白であるのに、とくに被控訴会社取締役会の承認を求めるこ
ともなかつたことが認められるが、それは右契約の締結が商法二六五条にいう取引
には該当せず、従つて取締役会の承認は不要であるとの法律的見解によつたものと
考えられる(現に本件で控訴人はそのように主張している)から、この点からして
控訴人は、被控訴会社の連帯保証に取締役会の承認を得ていないことを知つていた
かまたは知りうべかりしであつたのに重大な過失により知らなかつたと推認するこ
とができる。控訴人はBが会社側としては連帯保証につき内部的に異論も問題もな
いものとして本件契約をしたと主張するが、これを認めるだけの的確な証拠はな
く、ほかに前記推察を妨げるに足る証拠はない。
 してみれば、本件連帯保証契約は、被控訴会社取締役会の承認を得ないで締結さ
れたものであり、しかもこれにつき右契約の相手方である控訴人には悪意またはこ
れを知らなかつたことにつき重大な過失があるから、無効であるというべく、した
がつて、右契約に基づく控訴人の被控訴会社に対する請求は失当であるといわなけ
ればならない。
 二 よつて、本件請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は、理由がな
いから、民訴法三八四条一項に従いこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき同法
八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 園部秀信 裁判官 森綱郎)

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