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平成19年5月16日判決言渡
平成18年(行ケ)第10241号審決取消請求事件
平成19年4月25日口頭弁論終結
判決
原告北海道ニチモウ株式会社
訴訟代理人弁理士中尾俊輔
同伊藤高英
同畑中芳実
同大倉奈緒子
同玉利房枝
同鈴木健之
同磯田志郎
被告森下株式会社
被告Y
被告ら訴訟代理人弁理士染谷伸一
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2005−80232号事件について平成18年4月11日に
した審決中,特許第3222107号の請求項1に係る発明についての特許に
つき「本件審判の請求は,成り立たない」とした部分を取り消す。,。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
被告らは,発明の名称を「貝類中間育成篭」とする特許第3222107号
の特許(平成10年7月16日出願,平成13年8月17日設定登録。請求項
の数は3である)の特許権者である。。
被告らは,平成16年12月17日,上記特許に係る明細書(特許請求の範
囲を含むの記載を訂正以下この訂正を本件訂正と本件訂正後の特。)(,「」,
許を「本件特許」と,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」と,そ
れぞれいうする審判を請求し特許庁はこの請求を訂正2004−392。),,
88号事件として審理した上,平成17年2月24日,本件訂正を認める旨の
審決をし,平成17年3月8日,上記審決は確定した。
原告は,平成17年7月27日,本件特許の請求項1及び3に係る発明につ
いての特許を無効とすることについて審判を請求し,特許庁は,この請求を無
効2005−80232号事件として審理した上平成18年4月11日本,,「
件審判の請求は,成り立たない」との審決(以下,単に「審決」という)を。。
し,同年4月21日,その謄本を原告に送達した。
なお,原告は,本訴の第2回弁論準備手続期日(平成18年10月17日)
において,審決中,特許第3222107号の請求項3に係る発明についての
特許につき「本件審判の請求は,成り立たない」とした部分の取消を求めた,。
部分について,訴えを取り下げ,被告らはこれに同意した。
2特許請求の範囲
,(,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである以下
この発明を「本件発明1」という。。)
請求項1略正方形状の網地を一側縁部に蓋片が突出するように折り曲「【】
げられており,この折り曲げ部に対して直角方向の両側短辺部が重ね合わせ
た状態で連結されており,上記折り曲げ部が正方形状の底部の一方の対角線
となるように拡げられて上記両連結部が上記対角線上に沿うと共に二つ折り
した蓋片が閉じた状態となるように折り畳まれている網袋であって,底面部
の外縁部より上方に至るに従い,次第に外方に傾斜するように起こされて皿
状に形成された底部,この底部の上方に続く四角錐状部,この四角錐状部の
稜部において口部を開放可能に閉塞し得る蓋片を有する網袋と,前記網袋の
折り畳み状態の底部の外形より小さい正方形状の外枠を有し,上記網袋の皿
状の底部内側における底面部上に設けられて上記網袋の底面部と連結される
枠体と,上記網袋の底面部中央部と四角錐状部の頂部に挿通され,上記網袋
を吊下げることができる吊綱とを備え,上記蓋片が一方を他方の内方に潜ら
せるように構成された貝類中間育成篭」。
3審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件発明1は,本件特許の出願
日前の他の特許出願であって,その出願後に出願公開された特願平10−63
836号の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下「先願明細書」とい
う甲3の2に記載された発明以下先願発明というと同一というこ。)(「」。)
とはできないから,特許法29条の2の規定に違反してされたものではなく,
本件発明1に係る特許を無効とすることはできない,というものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した先願発明の内容,本件発明1と先願
発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
(先願発明の内容)
「編地3を一側縁部に片開き網袋30の開口縁32,32が位置するように
折り曲げられており,この折り曲げ部に対して直角方向の片口開き網袋30
の両端縁31,31が重ね合わせた状態で連結されており,上記折り曲げ部
が正方形状の底部の一方の対角線となるように拡げられて上記両連結部が上
記対角線上に沿うと共に二つ折りした片開き網袋30の開口縁32,32が
閉じた状態となるように折り畳まれている網袋であって,底部,この底部の
上方に続く四角錐状部,この四角錐状部の稜部において口部を開放可能に閉
塞し得る片開き網袋開口縁32,32を有する網袋と,前記網袋の折り畳み
状態の底部の外形より小さい正方形で,上記網袋の底部に設けられて上記網
袋の底部上に設けられる正方形枠体1と,上記網袋の底部中央部と四角錐状
部の頂部に挿通され,上記網袋を吊下げることができる垂下綱2とを備え,
上記片開き網袋開口縁32,32が一方を他方の内方に潜らせるように構成
された帆立貝の中間育成篭」。
(一致点)
「網地を一側縁部に蓋片が位置するように折り曲げられており,この折り曲
げ部に対して直角方向の両側短辺部が重ね合わせた状態で連結されており,
上記折り曲げ部が正方形状の底部の一方の対角線となるように拡げられて上
記両連結部が上記対角線上に沿うと共に二つ折りした蓋片が閉じた状態とな
るように折り畳まれている網袋であって,底部,この底部の上方に続く四角
錐状部,この四角錐状部の稜部において口部を開放可能に閉塞し得る蓋片を
有する網袋と,前記網袋の折り畳み状態の底部の外形より小さい正方形状の
外枠を有し,上記網袋の底部に設けられて上記網袋の底部上に設けられる枠
体と,上記網袋の底部中央部と四角錐状部の頂部に挿通され,上記網袋を吊
下げることができる吊綱とを備え,上記蓋片が一方を他方の内方に潜らせる
ように構成された貝類中間育成篭」である点。。
(相違点1)
本件発明1の網地が「ほぼ正方形状」であるのに対し,先願発明は明確で
ない点審決書8頁24行に網地がほぼ正方形状あるとあるのは網(「『』」,「
地が『ほぼ正方形状』である」の誤記と認める。。)
(相違点2)
網地を一側縁部に蓋片が位置するように折り曲げられており,この折り曲
げ部に対して直角方向の両側短辺部が重ね合わせた状態で連結されており,
上記折り曲げ部が正方形状の底部の一方の対角線となるように拡げられて上
記両連結部が上記対角線上に沿うと共に二つ折りした蓋片が閉じた状態とな
るように折り畳まれ,上記蓋片が一方を他方の内方に潜らせるように構成す
る際に,本件発明1が「略正方形状の網地を一側縁部に蓋片が突出するよう
に折り曲げられており,上記蓋片が一方を他方の内方に潜らせるように構成
された」ものであるのに対し,先願発明は,蓋片が一方を他方の内方に潜ら
せるように構成されたものではあるが,網地を一側縁部に蓋片が突出するよ
うに折り曲げられる旨の限定はない点。
(相違点3)
底部は,本件発明1が,底面部の外縁部より上方に至るに従い次第に外方
に傾斜するように起こされて皿状に形成されたものであるのに対し,先願発
明は,明確でない点。
(相違点4)
本件発明1が「上記網袋の皿状の底部内側における底面部上に設けられて
上記網袋の底面部と連結される枠体」であるのに対し,先願発明は,明確で
ない点。
第3取消事由に係る原告の主張
審決は,本件発明1が先願発明と同一ということはできないと誤って認定判
断したものであるから審決中本件発明1についての特許につき本件審判,,,「
,。」,。の請求は成り立たないとした部分は違法として取り消されるべきである
1相違点2の認定判断の誤り
審決は以下のとおり先願発明の認定を誤ったことにより本件発明1と,,,「
先願発明とは少なくとも相違点2を有し,その点が先願明細書に記載されてい
るに等しいともいうことができない」と誤って認定判断したものであり,この
誤りが審決中本件発明1についての特許につき本件審判の請求は成り,,,「,
立たない」とした部分の結論に影響することは明らかである。。
(1)審決は,先願明細書には「網地を折り曲げる段階で,網地を一側縁部に,
蓋片が突出するように折り曲げることまでは記載されていない」と認定した
が,以下のとおり,誤りである。
ア先願明細書の図2には,後面側の編地が前面側より突出することが図示
されている。すなわち,編地の加工前の説明図である同図においては,二
つ折りされた編地3は,後面側の半部の編地が,前面側の半部の編地の下
端部から,一旦下方に湾曲し,その後上方に延びるように図示され,その
上端の開口縁32は前面側の半部の編地の上端の開口縁32より上側に若
干突出している。
イ先願明細書の図1も,上記アの突出を前提としている。すなわち,組立
状態にある篭体の説明図である同図においては,四角錐状の篭体4の4つ
の稜線部分のうち,篭体4の最前側の1つの隅1Cと頂部の結節部2Aと
の間の収納口5部分の稜線部分についてのみ,一方の開口縁と他方側の開
口縁が所定幅をもって重なっていることが図示され,その余の稜線部分に
は,開口縁が所定幅をもって重なっていることは図示されていない。この
ように篭体4の最前側の1つの隅1Cと頂部の結節部2Aとの間の収納口
,,5部分の稜線部分についてのみ開口縁が所定幅をもって重なるためには
当該重なり部分に相当する一方の開口縁32が他方の開口縁32よりも二
つ折りした場合に突出していなければならない。
ウ先願明細書の段落00140015にはその一方の正方形枠【】,【】,「
体1の隅1Cから結節部2Aに亘る開口縁32相互が適宜の幅で接合され
縫合されている反面その他方の正方形枠体1の隅1Cから結節部2A。」,「
に亘る開口縁32については図4に示す如く一方側開口縁32Aを下面と
し且他方側の開口縁32Bを上面としてその接合する幅が1乃至5cmの
(。)」,,範囲で接合させるとの記載があるが上記のとおりとなるためには
図2において,当該重なり部分に相当する編地3の一方の開口縁32が他
方の開口縁32よりも二つ折りした場合に突出している必要がある。
また先願明細書の段落0015には上面の開口縁32Bを形成,【】,「
する編地長が下面の開口縁32Aを形成する編地長に比べて3乃至10%
の範囲で短かく形成されるよう接合両端33が縫合されて収納口5が形成
されているとの記載があり上記のとおりとなるためには篭体4の最。」,,
前側の1つの隅1Cと頂部の結節部2Aとの間の全長に亘って上下の開口
縁32A,32Bが図4に示されるように重なっていないと,接合両端3
3を縫合することは不可能であるから,編地3を二つ折りする際,編地3
の一方の開口縁32が他方の開口縁32よりも突出するように折り曲げら
れる必要がある。
(2)審決は「先願明細書の【図2】の網地を折り曲げる段階で網地を一側縁,
部に蓋片が突出するようにせずとも,先願明細書の【図3】の段階でも,開
口縁32A及び32Bを互いに重ね合わせて接合両端33で縫合することも
可能である」とするが,以下のとおり,誤りである。
ア先願明細書の図3の状態から2つの開口縁32同士を一方の開口縁32
Aと他方側の開口縁32Bとが所定幅をもって重なるようにすると,篭体
4の最前側の1つの隅1Cと頂部の結節部2Aとの間の収納口5部分の稜
線部分のみではなく,当該最前側の1つの隅1Cと対角位置にある他の隅
1Cと頂部の結節部2Aとの間の稜線部分においても同様に一方の開口縁
32Aと他方側の開口縁32Bとが所定幅をもって重なることとなり,篭
体4の最前側の1つの隅1Cと頂部の結節部2Aとの間の収納口5部分の
稜線部分のみが重なることを示している図1に示す篭体4とは,異なる構
成となる。
イまた,編地の開口縁を無理矢理引き寄せて重ね合わせると,網目を不自
然に引っ張り合って網目が斜めに交錯した状態にして重ねることとなり,
先願明細書の図4に示されるように網目の正方形を保持した状態で重ねる
ことは不可能であるしまして接合する幅が1乃至5cmの範囲で網,,「」
目の正方形を保持した状態で重ねることは不可能である。
ウ被告は,先願明細書の図2に図示されている後面側の半部の編地の上端
の開口縁32が前面側の半部の編地の上端の開口縁32より上部へ突出し
ている突出量が,図1及び図4に図示されている重複部分の重なり合いの
量と相違する旨主張する。しかし,図1及び図4は,いずれも図2より拡
大されており,しかも,重複部分について多少誇張して図示しているもの
であり,何ら矛盾するものではない。
2相違点1,3,4の認定の誤り
仮に上記1の誤りが直ちに審決中上記部分の結論に影響するものでないとし
ても,審決には,上記相違点2の認定判断の誤りに加え,本件発明1と先願発
明の対比において,相違点1,3,4を認定したという誤りがあるから,審決
中上記部分は取り消しを免れないというべきである。
第4取消事由に係る被告らの反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1相違点2の認定判断の誤りについて
(1)ア先願明細書の図2には二つ折りされた編地3は後面側の半部の編地,,
の上端部だけでなく左端縁部も,前面側の半部の編地より若干突出してい
るように表現されているが,このように編地3を二つ折りする際に後面側
と前面側をずらして重ね合わせて両端緑部を縫製することは,後面側と前
面側にずれが生じるので当業者にとってはあり得ないことである。二つ折
りされている編地を示す場合に,前面側の半部を後面側の半部よりも若干
ずらして図面に表現することは通常行われていることであり,図面上後面
側の半部が若干突出するように見えても,実際に突出することを意味する
ものではない。
イ先願明細書の図2において,二つ折りされた編地3が,後面側の半部の
編地の上端の開口縁32の方が,前面側の半部の編地の上端の開口縁32
より若干突出するように折り曲げられていると解すると,先願明細書の段
落【0014【0015】及び図1,図3,図4の各記載と矛盾する。】,
また,図2に図示されている後面側の半部の編地の上端の開口縁32が
前面側の半部の編地の上端の開口縁32より上部へ突出している突出量
が,図1及び図4に図示されている重複部分の重なり合いの量と相違する
点で矛盾がある。
(2)先願明細書の図3において対角線位置の半分に前面側の編地の上端の,,
開口縁32が重なり合わず,単に向き合った状態で位置している部分の編地
が引き寄せられて重なり合わされ,適宜の幅で接合され縫合されていること
は,明らかである。編地の引き寄せにより1ないし5cmの接合幅で開口縁
を重ねることは不可能であるとの原告の主張は,編地のずれや伸張を考慮す
れば,失当であることが明らかである。
2相違点1,3,4の認定の誤りについて
審決が相違点1,3,4を認定したことに誤りはない。
第5当裁判所の判断
1相違点2の認定判断の誤りについて
当裁判所は先願明細書には網地を折り曲げる段階で網地を一側縁部に,,「,
蓋片が突出するように折り曲げる」との構成は記載されていないと認められる
ので,本件発明1と先願発明とは,少なくともこの点(相違点2)において相
違するものと判断する。
原告は,先願明細書に上記の構成が記載されている根拠として,概要2点を
指摘するが,そのいずれも理由がない。以下順に述べる。
(1)先願明細書の図2に係る原告の主張
原告は,先願明細書の図2には,二つ折りされた編地3は,後面側の半部
の編地が,前面側の半部の編地の下端部から,一旦下方に湾曲し,その後上
方に延びるように示され,その上端の開口縁32は前面側の半部の編地の上
端の開口縁32より上側に若干突出している図が示されていることに照らす
ならば,後面側の編地が前面側より突出するとの構成が記載されていると主
張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
ア先願明細書(甲3の2)の「発明の詳細な説明」欄の記載内容
先願明細書の発明の詳細な説明欄には,以下の記載がある。
(ア)0014かかる要請に本発明は次の如き技術手段で対処してい「【】
る。即ち図2は編地3の張設に際しての前加工の説明図であって,予め
正方形枠体1の寸法及び正方形枠体1から結節部2Aまでの高さ寸法に
より篭体4が展開された場合の展開表面積を算出のうえ,その適合する
幅と且適宜目合に角目編成させてなる編地原反を適合する長さで切断し
二つ折してそれぞれの両端縁31を縫合することにより,上部に開口縁
32を有する片口開き編袋30を作成する。而して該片口開き編袋30
をA−A線方向に開口させたうえ図3に示す如く,片口開き編袋30の
開口縁32が正方形枠体1の任意の隅1Cの対角線上に位置するよう正
方形枠体1をその内部に挿入する。そしてかかる開口縁32をその中央
に配位されてなる垂下綱2の上部適宜位置に設けた結節部2Aに集束縫
合のうえ固定されるとともに,その一方の正方形枠体1の隅1Cから結
。」節部2Aに亘る開口縁32相互が適宜の幅で接合され縫合されている
(イ)0015反面その他方の正方形枠体1の隅1Cから結節部2A「【】
に亘る開口縁32については図4に示す如く一方側開口縁32Aを下面
とし且他方側の開口縁32Bを上面としてその接合する幅が1乃至5c
mの範囲で接合させ,而も上面の開口縁32Bを形成する編地長が下面
の開口縁32Aを形成する編地長に比べて3乃至10%の範囲で短かく
形成されるよう接合両端33が縫合されて収納口5が形成されている。
即ちかかる構成を用いることにより多数の篭体4が連結され垂下展張さ
れると,垂下展張に係る張力が連結される垂下綱2はもとより,篭体4
の正方形枠体1の四隅1Cと結節部2Aを結ぶ編地面に付加される。そ
して正方形枠体1の四隅1Cの中の対照的位置2ヶ所の隅1Cと結節部
2Aとを結ぶ編地面は,編地3の包被展張に際して予め形成させた片口
開き編袋30の開口縁31で形成されるものであるから角目方向に配さ
れ,従って張力が付加された状態では変形伸長することなく緊張状に保
持されることとなる」。
(ウ)0016かくして緊張状に保持される編地面にはその一方側「【】,
の開口縁32Aを形成する編地3を下面とし且他方側の開口縁32Bを
,,形成する編地3を上面としてその接合する幅が1乃至5cmの範囲で
而も上面の開口縁32Bを形成する編地長が下面の開口縁32Aを形成
する編地長に比べて3乃至10%の範囲で短かく形成されるよう,その
接合両端33が縫合されて収納口5が形成されてなるため,垂下展張に
係る張内の付加時には常に収納口5を形成している編地長の短かい上面
の開口縁32Bを形成する編地3に強く張力が付加され,下面の編地3
を圧着して収納口5が閉塞された状態となる。かかる場合において,該
収納口5の長さは稚貝の収納や育成した成貝の取出しに支障の無いよ
う,好ましくは正方形枠体1の隅1Cより結節部2Aに亘って形成され
ることが望まれ,而も該収納口5が十分長く形成される場合には,該収
納口5を形成させるための上面の編地3と下面の編地3との接合の幅も
大きく形成させることが稚貝の逃散や脱落防止のうえから望まれる。そ
して収納口5を形成する相互の編地3の接合の幅の範囲が1乃至5cm
に制限される事由は,1cm以下では垂下展張時における潮流や波浪等
の外力が加重された場合に篭体4の変形等により開口し稚貝の逃散や脱
落の危険があり且5cmを超えると取出時に支障が生ずることによる。
更に収納口5を形成する上面の編地長が下面の編地長に比べて3乃至1
0%の範囲に制限される所以は,編地自体並びに張設される篭体自身も
,,多少の変形を有するため3%以下では張力付加時に圧着作用が働かず
而も10%をこえると収納口5に緩みや弛みが発生し稚貝の逃散や脱落
の危険が生ずることによる。かくしてなる本発明の収納口より所要数の
帆立稚貝を収納させたうえ,それぞれに延出されてなる垂下綱2の端部
2Cを連結させたうえ図5に示すように海中に垂下展張し育成をおこな
う」。
イ先願明細書の図面の記載内容
先願明細書の図2は編地原反を適合する長さで切断し二つ折してそれ,「
ぞれの両端縁31を縫合することにより,上部に開口縁32を有する片口
開き編袋30を作成する」過程を示すために描かれた図であり,その内容
は,以下のとおりである。
同図には片口開き編袋30を開口する方向を左右端部からほぼ中,「」,
,(),,央を基点として2本の矢印AA−A線で示しているがその矢印は
前面側半部の編地の開口方向については右下に向けて,後面側半部の編地
の開口方向については左上に向けて,それぞれ図示している。また,同図
では,二つ折りされた前面側,後面側それぞれの編地の形状を示すに当た
り前面側半部の編部について右側下端部から上端部を経て左側下,,()(
端部)までをそれぞれ直線で図示し,僅かな円弧で結んだ後,後面側半部
の編地について,左側(下端部)から上端部を経て左側(下端縁)までを
それぞれ直線で図示している。さらに,同図は,前面側半部と後面側半部
における上端部及び左端縁部の各直線の間隔について,ほぼ同一幅で表示
している。
ウ小括
「」,上記先願明細書の発明の詳細な説明欄の記載及び図2を総合すれば
同図は二つ折りされた編地3の立体形状を左上方視した斜視図であ,「」,
ると理解するのが相当である。
ところで,同図では,二つ折りされた編地3の後面側半部の編地の上端
部が前面半部の編地の上端部より上方に描かれている。しかし,後面側半
部の編地の左端縁部についても,前面側半部の編地よりも左側に描かれて
いること,上端部の間隔と左端縁部の各間隔は,ほぼ等しく描かれている
ことに照らすならば後面側半部の編地の上端部が前面半部の編地の上端,「
部より上方に描かれていること」は,編地の厚みを表現するか,あるいは
僅かに開口された様子を表現する等の目的から,立体図形を斜視方向から
描いた図法上に由来するものにすぎず,これをもって,同図において,後
面側の編地の上端部が前面側の編地の上端部より突出させるとの構成が開
示されたものと理解することは到底できない。
以上のとおりであり,この点の原告の主張は採用することができない。
(2)先願明細書のその他の記載部分に係る主張について
ア原告は,先願明細書において,図3に示される状態を経て,図1,4に
示される組立状態を実現するためには,編地の一方が突出するように「片
口開き網袋30」を折り曲げることが必然である旨を主張する。
しかし前記(1)ア(イ)(ウ)で述べた先願明細書の記載によれば先願,,,
発明を構成する編地や篭体は,素材の性質により若干伸縮や変形すると考
えられ,しかも,先願発明において,上面の開口縁32Bを形成する編地
長は,下面の開口縁32Aを形成する編地長に比べ,3ないし10%短か
く形成されるよう縫合されるのであるから,目数を減らすなどの処置を採
ることによって,無理矢理開口縁を引き寄せることによって重ね合わせる
ことなく,図1,4に示される組立状態を実現することは可能であると考
えられる。以上のように,図4で示すとおり,正方形枠体1の一つの隅1
Cと頂部の結節部2Aとの間を結ぶ一つの稜線部分において,所定幅をも
って互いに重ね合わせて接合両端33で縫合することは開口縁32A下,(
面)と開口縁32B(上面)とを,少なくとも一方を他方に向けて引き寄
せることによって,組み立てることは可能であるから,図3で示す,編地
を折り曲げる段階で,編地を一側縁部に蓋片が突出するようにすることが
必要不可欠であるとはいえない。
イこの点について,原告は,編地の開口縁を無理矢理引き寄せて重ね合わ
せると,網目を不自然に引っ張り合って網目が斜めに交錯した状態にして
重ねることとなり,先願明細書の図4に示されるように網目の正方形を保
持した状態で重ねることは不可能であるし接合する幅が1乃至5cmの,「
範囲で」網目の正方形を保持した状態で重ねることは不可能である旨主張
する。
しかし,特許出願の願書に添付される図面は,発明の内容を説明する目
的で,その趣旨に添って作図される性質を有するものであるから,図4に
おいて,網目が正方形を保持した形状に描かれているとしても,この点を
捉えて直ちに,編地が一側縁部に蓋片が突出するように折り曲げられてい
る構成が開示されていると認定することは到底できない。また,育成篭全
体の大きさを考慮すれば先願明細書の段落0011には正方形枠(【】,「
体1が略35乃至50cm平方程度のものが好都合」であることが記載さ
れている,接合幅が1cmないし5cm程度であれば,開口縁を無理矢。)
理引き寄せて重ね合わせなければならないということもできない。
以上のとおりであり,この点の原告の主張は採用することができない。
(3)したがって「本件発明1と先願発明とは少なくとも相違点2を有し,こ,
の点が先願明細書に記載されているに等しいともいうことができない」とし
た審決の認定判断に誤りはない。
2結論
原告は,その他,審決における相違点2の認定判断の誤りについて縷々主張
するが,いずれも先願明細書の記載に基づくものではなく,理由がない。
以上のとおり,審決における相違点1,3,4の認定の当否にかかわらず,
本件発明1が先願発明と同一ということはできないとした審決の認定判断は正
当である。よって,原告のその余主張について検討するまでもなく,原告の本
訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

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激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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