弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人C、同D、同Eの弁護人河西善太郎の上告趣意第一点について。
 原判決末尾における裁判長の署名は判読に困難なところがないではないが、その
署名自体も岡村連と判読できないこともないのみならず、その名下の押印と対照す
れば、それが原審公判審理に関与した裁判長判事岡村連の署名であることがわかる。
よつて、論旨はこれを採用することができない。
 同第二点について。
 所論原審公判調書の末尾における裁判長の署名は同公判に列席した裁判長判事岡
村連の署名であることは、同公判調書の記載に徴し明瞭である。論旨は理由がない。
 同第三点及び被告人F、同Eの弁護人宮城実の上告趣意第七点について。
かりに裁判が迅速を欠き、憲法第三七条第一項に違反するとしても、そのこと自体
は判決に影響を及ぼす事項と認めることはできないのであるから、これをもつて、
判決を破毀する理由とすることのできないことは、当裁判所判例の示すところであ
る。(昭和二三年(れ)第一〇七一号同年一二月二二日大法廷判決)また、被告人
等に対する拘禁が不当に長かつたとしても、これに対しては、別途に救済の手続を
践むべきであつて、それだけでは、原判決に対する上告の理由とすることのできな
いことは、これまた既に当裁判所の判例とするところである。(昭和二二年(れ)
第二二五号同二三年三月二〇日第二小法廷判決)論旨は理由がない。
 被告人C、D、Eの弁護人河西善太郎の上告趣意第四点について。
 所論被害物件は、愛媛県宇摩郡A組合代表者Bの保管していたものであることは、
原判決の確定するところである。所論刑法第二四四条親族相盗に関する規定は、窃
盗罪の直接被害者たる占有者と犯人との関係についていうものであつて、所論のご
とくその物件の所有権者と犯人との関係について規定したものではないのであるか
ら、原審が右組合に関して、それが法人格を有するか否かを明らかにせず、従つて、
右物件の所有権関係については、単に「組合所有」とのみ判示して、真の所有権の
帰属者を明らかにしなかつたとしても、所論のごとき違法ありとすることはできな
い。また、右物件の保管者Bと被告人等との間には、親族関係の存在を疑わしめる
ような事情は少しもあらわれていないのであるから、原審が公判において、この点
について審訊をしなかつたからといつて、所論のごとき違法ありとはいえない。(
昭和二三年(れ)第九九二号、同年一二月二七日大法廷判決参照)論旨は理由がな
い。
 被告人F、Eの弁護人宮城実の上告趣意第一点について。
 原判決は、その第七の事実において、被告人はG郵便局物置において、柳行李四
個を窃取した旨判示しているのであつて、右物件は同物置内に在り、同郵便局の保
管にかゝることを表示しているのであるから、所論のごとく、原判決は、窃盗の要
件たる他人の物に対する所持、即ち事実上の支配関係の説明を欠くものとすること
はできない。その他原判決は右第七の事実について、特定の時、場所において、特
定の者の所有に属する柳行李四個およびこれに在中する衣類を窃取した事実を摘示
しているのであるから、たとい右柳行李在中の衣類につき逐一、その種類、数量、
価格を表示していないとしても、所論憲法第三九条、旧刑訴法第三六三条第一号の
適用に必要な犯罪事実の同一性を認識するに必要な要件の記載を欠くものというこ
とはできない。(殊に、原判決挙示のH作成の盗難届中の記載と対照すれば、右被
害物件の種類、数量時価等を知ることができるのである。)論旨は理由がない。
 同第二点について。
 被告人Eが、同日同所において、柳行李四個を窃取した事実は、原判決挙示にか
かる被告人の原審公判における供述により明かであり、これと所論盗難届書を対照
すれば、判示のごとく、右柳行李には衣類の在中していたことを認めることができ
る。論旨は理由がない。
 同第三点について。
 しかし、本件公判請求書記載の第二の(二)及び第三の事実と原判決認定の第六
の事実とは、別異の事実でなく、結局同一の事実であつて、要は、被害物件の所在
した倉庫がI製布工場のものであるか又は、J工業所のものであるかについて、公
訴を提起した検察官と原審裁判所との間に見解の相違を生じたに過ぎないことは、
本件記録にあらわれた事件審理の経過に徴し、明白である。また、判決認定の事実
が公訴事実と同一であるかどうかのごときことは、これを判決において説明するを
要しないところであるから論旨はいづれも理由がない。
 同第四点について。
 所論司法警察官の聴取書についても、原審が適法に証拠調を施行したことは、原
審公判調書(記録第二一八丁、第二七一丁)に各関係人に対する司法警察官の聴取
書について証拠調を施行した旨の記載があることにより、明瞭である、論旨は理由
がない。
 同第五点について。
 所論原審公判調書には弁護人等の証人申請の記載につづいて、「各弁護人申出の
証拠は何れも却下する」との記載があり、その用語にやや正確を欠くとしても、右
は、弁護人等の証人調の申請を却下する裁判を言渡したものであることは、十分こ
れを推知することができる。論旨は理由がない。
 同第六点について。
 被告人等が原審公判において、原判決第六及び第七の事実について原判示同趣旨
の供述をしたことは、原審公判調書により明らかである。また原審は、右供述の外、
第六の事実については、Kに対する司法警察官の聴取書(これについて適法な証拠
調を経たことは、同第四点において説明したとおりである)第七の事実については、
Hの盗難届書を証拠に挙げているのであつて、所論のごとく被告人の自白を唯一の
証拠としたものではない。論旨は理由がない。
 同第八点について。
 少年法第六四条の適用については、原審は公判において、相当の調査をしている
ことが公判調書上窺い知ることができる(昭和二二年(れ)第三一三号、同二三年
四月一七日第二小法廷判決参照)。また、同法第六八条、第六九条は少年の刑事々
件を取扱う者に対する訓示的の規定と解すべきであり、同法第六七条の違反につい
ては、別途にその救済の手段を採るべきであつて、如上、所論のごとき手続上の瑕
疵は結局原判決に影響を及ぼさないものというの外なく、原判決を破毀すべき理由
とするに足りない。
 よつて、刑訴施行法第二条、旧刑訴法第四四六条に従い主文のごとく判決する。
 右は全裁判官一致の意見である。
 検察官 岡本梅次郎関与
  昭和二四年五月二一日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
 裁判官藤田八郎は出張中につき、署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    霜   山   精   一

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