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平成25年2月28日判決言渡
平成24年(行コ)第124号更正及び加算税賦課決定取消請求控訴事件
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
1本件は,被控訴人らが,平成▲年▲月▲日にA(以下「亡A」という。)が
死亡したことによって開始した相続(以下「本件相続」という。)に係る相続
税を申告したところ,処分行政庁江東東税務署長から,平成19年2月13日
付けで原判決別紙A「処分目録」記載1ないし5の各(1)記載の各相続税に係
る更正処分及び同各(2)記載の各過少申告加算税賦課決定処分(同別紙記載1
ないし5の各括弧書内の一部取消し及び減額の前後を問わず,上記の各相続税
に係る更正処分を以下「本件各更正処分」と,上記の各過少申告加算税賦課決
定処分を以下「本件各賦課決定処分」といい,こられを併せて以下「本件各処
分」という。)を受けたことにつき,①本件各更正処分は,本件相続に係る相
続財産中の株式会社B(以下「B」という。)及びC株式会社(以下「C」と
いい,Bと併せて「本件各会社」という。)の各株式の価額の評価を誤ってさ
れたもので,相続税法22条に違反する,②仮に①が認められなかったとして
も,被控訴人らは申告に係る納付すべき相続税額が過少であったことにつき国
税通則法65条4項にいう正当な理由があったなどと主張し,本件各更正処分
及び本件各賦課決定処分の取消しを求める事案である。
本件においては,本件各会社の各株式がいずれも取引相場のない株式である
ことからその評価方式が問題とされ,相続財産の時価の算定方式等について定
めた財産評価基本通達(評価通達)において,取引相場のない大会社(評価通
達178)の株式の価額の算定については,原則として類似業種比準方式によ
って評価することとしているが,株式保有割合が一定以上の会社を「株式保有
特定会社」と定義して,その会社の株式の価額につき,いわゆる純資産評価方
式又はS1+S2方式という特別の評価方式によって評価するとしていること
から,Bが評価通達にいう「株式保有特定会社」に該当するか否かが主要な争
点となっている。
原審は,Bが株式保有特定会社とするものとして特別の方式でその株式を評
価するのは相当ではなく,その評価について原則的評価方式である類似業種比
準方式によるべきであり,これを特別の方式で評価することを前提とした本件
各更正処分における各株式の評価は誤りであるとして,被控訴人らの①の主張
を認め,被控訴人らの請求をいずれも認容した。そこで,控訴人がこれを不服
として控訴した。
2本件における関係法令等の定め,判断の前提となる事実,本件各処分の根拠
及び適法性に関する控訴人の主張,相続税額に関する被控訴人らの主張並びに
本件の争点及びこれに関する当事者の主張の要点は,当審における当事者の補
足主張を3のとおり加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案
の概要等」の2ないし6に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,
上記引用部分中,「原告」とあるのを「被控訴人」と,「被告」とあるのを
「控訴人」と,「別紙」とあるのを「原判決別紙」とそれぞれ読み替える。以
下の引用部分において同じ。)。
3当審における当事者の補足主張
(1)控訴人の主張
ア評価通達189の(2)の定めのうち,大会社につき株式保有割合が2
5%以上である評価会社を一律に株式保有特定会社とする部分(本件判定
基準)が本件相続開始時においても合理性があることについて
(ア)評価通達の平成2年改正により株式保有特定会社の株式について特
別の評価方式が定められた趣旨は,従前から,資金構成が類似業種比準
方式における標本会社に比して著しく株式等に偏っている評価会社の株
式の価額は,その保有する株式等の価値に依存する割合が高いものと考
えられていたものの,取引相場のない株式の評価に用いられる類似業種
比準方式(評価通達180)は,評価会社の保有資産を時価評価するこ
となく株式の価額を評価するもので,比準要素の一つである簿価純資産
価額にも株式等の含み益が反映されていないため,評価通達179所定
の会社の規模区分に応じた原則的評価方式である類似業種比準方式によ
っては,それによる評価額と適正な時価との間に看過できない開差が生
じ,適正な株式価額の評価が困難であるという問題があったため,課税
の公平の観点から,そのような開差の是正及び株式の価額の評価の一層
の適正化を図ることを目的としたものである。そして,同改正において
は,資産構成が類似業種比準方式における標本会社に比して著しく株式
等に偏っている会社を株式保有特定会社と定義し,その株式の価額につ
き,①当該会社の有する資産の価値を的確に反映できる評価方式である
純資産価格方式又は②株式保有特定会社の事業の実態を株式の価額の評
価に反映されるために部分的に類似業種比準方式を取り入れた評価方式
であるS1+S2方式によるべきこととした。このS1+S2方式は,
S2の金額(保有株式等のみを純資産価額方式により評価した金額)の
計算において保有株式等の含み益も評価の対象としつつ,S1の金額
(保有株式等の影響を排除した上で原則的評価方式により評価した金
額)の計算において当該会社の事業の実態を株式の価額の評価に反映さ
せるために,部分的に類似業種比準方式を取り入れるという合理的なも
のである。
(イ)ところで,評価の対象となる会社が保有する株式等に係る含み益を
当該会社の発行株式の評価に可能な限り反映させるべきであるとの立場
からすれば,株式保有割合の多寡にかかわらず,全ての会社について評
価通達189-3所定の方式(純資産価額方式又はS1+S2方式)で
評価すべきことになるが,他方,株式等を僅かに保有する会社を含め,
全ての評価会社の株式を上記の方式で評価することを要求することは煩
瑣であり,画一的で簡便な評価基準を定め納税者の事務負担を軽減する
という評価通達に求められる簡便性の要請という観点からは相当ではな
い。そこで,評価通達189の(2)は,取引相場のない株式について,
評価会社の資産構成がよほど株式等に偏った会社でない限り,評価の画
一性・簡便性(納税者の便宜)の要請を重視して,その株式の価額を簡
便な方法(類似業種比準方式)により評価することを認めるものとした
上で,その資産構成が平均的な会社に比べ著しく株式等に偏っていると
認められる一部の例外的な会社については,適正評価の要請を重視し,
その保有株式等の含み益を反映させた純資産価額方式又はS1+S2方
式により評価すべきものとした。また,取引相場のない株式のうち大会
社の株式については,平成2年当時の法人企業統計等によれば,資本金
10億円以上の会社の株式保有割合が平均約7.88%であったことか
ら,一般的な会社の保有株式割合の数値の3ないし4倍以上の数値とな
る株式保有割合25%以上の会社の株式を,その資産構成が平均的な会
社に比べ著しく偏っている会社の株式として,例外的に純資産価額方式
又はS1+S2方式により評価すべきとした。
(ウ)法人企業統計(乙第12号証の2,第13号証)に基づき,平成2
年度及び平成15年度の全ての業種の営利法人(ただし,金融業及び保
険業を除く。)における株式保有割合等を詳細に分析してみると,その
結果は,本判決別表1-1及び同1-2のとおりであり,まず,概ね資
本金5000万円以上に属する会社が評価通達の指標を満たす大会社に
相当する会社とみることができ(同別表1-1及び1-2の「⑦1社当
たりの総資産」欄,「⑨1社当たりの従業員数」欄参照。),平成2年
度における資本金5000万円以上の法人数5万5402社のうち,資
本金5000万円以上10億円未満の法人数5万1597社が占める割
合は約93.1%であり,平成15年度における資本金5000万円以
上の法人数8万3883社のうち,資本金5000万円以上10億円未
満の法人数7万8197社が占める割合は約93.2%であって,いず
れの年度においても,資本金5000万円以上10億円未満の法人が,
大会社に相当する会社の大部分を占めていることがわかる。そして,そ
のうち,資本金5000万円以上1億円未満の会社における株式保有割
合をみると,平成2年度が4.8%であるのに対し,平成15年度が5.
5%となっており,資本金1億円以上10億円未満の会社における株式
保有割合も,平成2年度及び平成15年度のいずれも5.8%となって
いる(同別表1-1及び1-2の各「⑩株式の保有割合(②/③)」欄
参照)。すなわち,評価通達上の大会社に相当する会社の大半(約9
3%)を占める資本金5000万円以上10億円未満の会社の株式保有
割合については,いずれの年度においても5%前後となっており,平成
2年度と平成15年度との比較において,有意な差異は認められない。
さらに,資本金10億円以上の会社を含めてみた場合であっても,平成
15年度の資本金5000万円以上の会社に係る株式保有割合は13.
1%であり(同別表1-2の「⑩株式の保有割合(②/③)」欄),こ
の数値は,平成2年度の株式保有割合である8.6%(同別表1-1の
「⑩株式の保有割合(②/③)」欄)と比較して上昇しているものの,
本件判定基準である25%のほぼ半分程度にとどまっている。
(エ)評価通達上,大会社の株式に適用される原則的評価方式は類似業種
比準方式とされているところ(評価通達179の(1)),類似業種比準
価額計算上の類似業種の株価等の計算の基となる標本会社は,金融商品
取引所に株式を上場している全ての会社であり,株式会社Dデータベー
ス営業部が上場企業の有価証券報告書に記載される財務情報をとりまと
めデータベース化した「E(確報版)」によれば,上場会社の株式保有
割合の平均は,それぞれ平成2年度が12.2%,平成15年度が13.
6%となっており(本判決別表2-1,2の各「平均」欄),また,株
式保有割合の会社数の分布をみると,15%未満の会社の割合は,平成
2年度は70.6%であり,平成15年度は69.0%であって,いず
れの年度においても上場会社全体の約70%を占めているし,株式保有
割合が10%未満の会社の割合も,平成2年度は47.8%であり,平
成15年度は52.1%であって,いずれの年度においても上場会社全
体の約50%を占めている。これらの結果からしても,本件相続開始時
において,大会社で株式保有割合が25%以上であるような評価会社は,
類似業種比準方式において標本会社となる通常の上場会社に比べて,資
産構成が著しく偏ったものといえる。
(オ)以上のとおりであるから,株式保有割合が25%以上である大会社
を一律に株式保有会社とする本件判定基準は,本件相続開始時において
もなお合理性を有するものであり,これを否定した原判決の判断は誤り
である。
イ独占禁止法上の規制は本件相続開始時における本件判定基準の合理性を
否定する根拠とならないことについて
(ア)独占禁止法は,その1条(目的)において,「私的独占,不当な取
引制限及び不公正な取引方法を禁止し,事業支配力の過度の集中を防止
して,結合,協定等の方法による生産,販売,価格,技術等の不当な制
限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより,公正且つ
自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させ,事業活動を盛んにし,
雇傭及び国民実所得の水準を高め,以て,一般消費者の利益を確保する
とともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とす
る」と規定しているとおり,事業支配力の過度の集中を防止して,公正
かつ自由な競争を促進し,国民経済の民主的で健全な発達を促進するこ
とを目的とするものである。したがって,独占禁止法が子会社株式の保
有に関して一定の基準を設け,特別な規制をしているとしても,それは
同法の趣旨・目的を実現するためのものであって,その規制の基準や内
容をもって,それとは異なる趣旨・目的の下に定められた株式保有割合
25%という本件判定基準の合理性の有無を判断することができないこ
とは明らかである。
(イ)また,独占禁止法9条4項1号における「子会社」とは,同条5項
により「会社がその総株主の議決権の過半数を有する他の国内の会社」
に限定されており,株式の持合関係のある会社間であっても議決権の有
無又は割合によって上記規制の対象にならないものであるのに対し,評
価通達における「株式保有特定会社」とは,課税時期において評価会社
の有する各資産をこの通達の定めるところにより評価した価額の合計額
のうちに占める株式及び出資の価額の合計額の割合が25%である評価
会社(評価通達189の(2))であり,その該当性を判断するに当たっ
ては,議決権の有無や割合にかかわらず,全ての株式の保有割合をもっ
て判定するものであるから,独占禁止法において持株会社とされる基準
の割合と株式保有特定会社に係る本件判定基準の割合とでは,その判定
の対象となる会社が異なっており,これらを同列に並べて比較すること
に意味はない。
(ウ)以上のとおり,独占禁止法上の規制の内容は,本件相続開始時にお
ける本件判定基準の合理性を否定する根拠となるものではなく,その合
理性を否定する根拠の一つとして,独占禁止法上,子会社の株式の取得
価額の合計額の当該会社の総資産の額に対する割合が100分の50を
超える会社が持株会社とされ,特別な規制がされていること(同法9条
4項1号)を挙げる原判決の判断は誤りである。
ウBが株式保有特定会社に該当するか否かの判断において原判決が掲げる
企業規模・事業実態等はその考慮要素とならないことについて
原判決がBの事業実態等として掲げる諸点のうち枢要なものは,①資本
金の額,②総資産価額(帳簿価額),③従業員数,④直前期末以前1年間
における取引金額,⑤業界内での市場シェア,及び⑥株式時価総額である
ところ,②ないし④については,評価通達178における会社の規模
(大・中・小会社)の判定に用いられる基準と同じものであり,これらの
基準により大会社と判定された上で株式保有特定会社に該当するか否かが
判定されるべきBについて,会社規模を判定する基準である上記各基準を
もって重ねて株式保有特定会社の該当性を判定する意義は認められないと
ころ,①については,②及び④と同様に会社規模を量る基準であり,株式
保有特定会社該当性を判断するに当たって独自の意義を有するものではな
い。⑤についても,これが株式保有特定会社該当性の判断,換言すると,
類似業種比準方式を用いることが適切か否かの判断について,いかなる意
味を有するか不明であり,さらに,⑥についても,原判決は,本件裁決に
おいて認定されたB株式の価額及び本件申告に係るB株式の価額と,甲第
6号証によって認定した「(類似業種比準価額の計算において用いられ
る)標本会社たる上場会社(平成16年3月31日時点における)株式の
時価総額の大部分」を比較すると,前者が後者を上回っていることから,
Bの企業としての規模や事業の実態等は上場会社に匹敵するものであった
と結論づけているが,評価通達178所定の基準により大会社と判定され
たBが株式保有特定会社に該当するか否かという本件における争点を検討
する際には,Bの企業規模や事業実態は,何ら独自の意義を持つものでは
ない。Bは非上場の同族会社であり,同社の発行株式は公開の市場で自由
に取引される上場株式とは純然たる相違があるから,事業規模やその実態
がいわゆる上場企業と同様であることのみをもって,B株式につき上場株
式の取引価額に準じた価額(類似業種比準方式によって評価した価額)で
評価されるべきとの結論が導かれるものではない。
以上のとおり,Bが株式保有特定会社に該当するか否かを判断するに当
たり,本件判定基準に加えて,上記①ないし⑥のような評価会社の事業実
態等を考慮要素とすることには意味がなく,このような考慮要素を判断基
準に取り込むことは,かえって,いたずらに判断基準を複雑にし,課税処
分を迅速に行うことを困難にさせることになり,相当ではない。
エ租税回避行為の弊害の有無を主たる考慮要素として株式保有特定会社に
該当するか否かを個別的に判断することが誤りであることについて
原判決は,租税回避行為の弊害を考慮要素として挙げた上で,B株式の
価額の評価に関して,原則的評価方式による評価額と適正な時価との間の
開差を利用したいわゆる租税回避行為の弊害を危惧しなければならないも
のとはいい難いとして,Bの事業実態等を踏まえ,同社はその株式の価額
の評価において株式保有特定会社に該当するものとは認めるに足りないと
結論づけているが,評価通達の平成2年改正の趣旨は,あくまで株式取引
等の実態に照らし,株式及び出資の評価の適正化を図ったものであって,
租税回避を封じることを主たる目的としたものではなく,このことは,国
税庁が定める平成2年12月27日付け直評23ほか「取引相場のない株
式(出資)の評価明細書の記載方法等」通達(平成18年12月22日課
評2-31ほかによる改正前のもの)の「第5表1株当たりの純資産価
額(相続税評価額)の計算明細書」の2(1)ヘ(イ)において,株式保有特
定会社該当性の判断に係る同評価明細書第5表「株式及び出資の価額の合
計額」欄の(<イ>)の金額に記載する株式等の相続税評価額の合計額につい
て,「所有目的又は所有期間のいかんにかかわらず,すべての株式等の相
続税評価額を合計します。」(乙第4号証)と記載され,本件判定基準に
おいて保有株式に係る所有目的や所有期間は考慮されていないことからも
明らかである。確かに,評価通達の平成2年改正時において,上場株式等
をいわゆる持株会社に移転させて,類似業種比準方式の適用によって評価
額の引き下げを図るという手法が問題化していたという背景はあったもの
の,そのことは評価通達改正のきっかけにすぎず,株式保有特定会社に該
当するか否かを判断するに当たって租税回避行為の弊害を考慮要素として
重視することは,上記評価通達改正の趣旨を離れて新たに独自の要件を付
加することになり,相当ではない。
また,原判決の判断を前提とすれば,相続財産である取引相場のない株
式については,評価通達が定める会社の規模区分や株式保有割合等の客観
的な基準によって財産の評価方式を定めることができず,当該会社の企業
としての規模,事業実態等を踏まえ,原則的評価方式と適正時価との開差
を利用した租税回避行為の弊害を危惧しなければならない事案であるか否
かを個別事案ごとに判定し,原則的評価方式によるべきか評価通達189
-3が定める評価方式によるべきかを決することが必要となるが,その考
慮要素は,基準として曖昧であり,その基準に従った場合は,客観的交換
価値の把握がそもそも困難な取引相場のない株式について,公正で適切な
評価を迅速に行うことが困難となる事態を招きかねない。
以上のとおり,Bが株式保有特定会社に該当するか否かを判断するに当
たり,租税回避行為の弊害の有無を考慮要素とした原判決の判断は誤りで
ある。
オCと極めて高い割合で株式を持ち合っているBが発行する株式の価額を
類似業種比準方式により適正に評価することはできないことについて
(ア)株式の価額は,会社全体の資産に対する割合持分的な価値を表する
ものであるが,極めて高い割合で株式を持ち合っている2社の個人株主
の相続の場合には,相続した株式の価額に持合株式の価額を反映させる
必要がある。すなわち,このような場合,当該個人が当該2社を実質的
に支配しているにもかかわらず,当該2社の発行済株式数に対する当該
個人株主が保有する株式の割合が低い水準にとどまっている結果,当該
個人株主の所有株式を評価するに当たっては,計算上は持合株式に帰属
することとなる両社の企業価値についても,当該個人株主の保有する株
式の価額に適正に反映されるように評価する必要がある。
(イ)これを本件についてみると,Bの発行済株式864万株のうち64
5万3400株(約74.7%)をCが保有し,その余の株式を亡A及
び本件相続人ら(以下,これらを併せて「本件同族関係者」という。)
並びにF株式会社ほか1社(以下,この2社を「本件関係会社」といい,
これと本件同族関係者とを併せて「本件個人等株主」という。)が保有
しているが,本件個人等株主が保有する株式は218万6600株にす
ぎず,さらに,そのうちの206万8600株を本件同族関係者が保有
している。この場合において,C株式の全てを本件個人等株主が保有し
ていれば,Bの企業価値のうちCの保有する株数に相当する価値もC株
式の価額を通して本件個人等株主の株式の価額に反映されるから課税上
の問題は生じないが,本件の場合,Cの発行済株式198万株のうち1
65万9240株(83.8%)をBが保有し,それ以外の株主(いず
れも本件同族関係者)が保有する株式は32万0760株にすぎない
(議決権についてみれば,Bの議決権の94.6%,Cの議決権の10
0%を本件同族関係者が保有している。)から,本件各会社は,B株式
218万6600株(発行済株式総数に占める割合は25.3%)とC
株式32万0760株(同割合は16.2%)を保有する本件個人等株
主により実質的に支配されているのであり,本件個人等株主は,本件各
会社の企業価値の全部を保有しているといえる。したがって,本件各会
社の企業価値は,結局,本件個人等株主が保有する株式の価値に収斂さ
れるものというべきであり,相続税の課税においては,本件各会社の企
業価値全体が,本件個人等株主の保有する株式の価額の総額として適正
に反映されるよう評価されるべきである。
(ウ)原判決は,B株式を類似業種比準方式で評価した1株当たり465
3円が相当であると判示しており,このことからすれば,原判決もB株
式の時価総額,すなわち企業としての価値は,上記評価額に発行済株式
数864万株を乗じた402億0192万円と見積もっているものと解
される。しかるに,本件各会社株式の1株当たりの価額について原判決
が判示した金額によれば,本件個人等株主が保有する株式の総額は,①
B株式については,1株当たり4653円に本件個人等株主の保有株式
数218万6600株を乗じた101億7424万9800円となり,
また,②C株式については,1株当たり3万1189円に本件同族関係
者の保有株式数32万0760株を乗じた100億0418万3640
円となり,その合計額は約202億円にとどまるが,この価額は,上記
B株式の時価総額である402億0192万円に遠く及ばない。このこ
とは,本件各会社株式1株当たりの価額について原判決が判示する評価
額が相当でないことを端的に裏付けるものである。
(エ)以上のとおり,本件各会社が,それぞれの発行株式の極めて高い割
合を相互に持ち合い,その余の株式を保有する本件個人等株主により支
配されているという特殊な事情がある本件においては,その持合株式の
価額に相当する価値が本件個人等株主の保有する株式の価額に包含され
ているということができ,その評価においては,その価値が適正に反映
されるべきであるから,B株式の評価について原判決が採用した類似業
種比準方式は,上記の持ち合い状態を踏まえた本件各会社株式の価額を
適正に評価できないものであって,同方式による評価額は著しく不当に
低いものとなり,課税上の弊害が大きい。
カ本件判定基準は,本件相続開始時においてなお合理性を有するものであ
ることは明らかであり,B株式については,評価通達189-3の定めに
よって評価するのが相当である。控訴人が原審以来主張する本件各会社株
式の評価額は,上記評価通達が掲げるS1+S2方式によって評価したも
のであり,その結果としての価額は,相続財産たる株式の客観的交換価値
を表するものとして合理的なものである。
(2)被控訴人らの主張
ア本件判定基準を一律に適用することが不合理であることについて
(ア)類似業種比準方式は,それ自体では市場取引価格がない株式につき,
これを上場株式と比較することとして上場株式の取引所での取引価格を
基に評価する方法であって,上場会社の企業価値が市場で評価された結
果として,当該上場会社の株式の時価が取引所市場での取引価格に示さ
れていることからすれば,そのような比較を適切に行えない事情がない
限りは優れた評価方式であるといえる。そして,上場会社との比較にお
いて,評価会社が負債と差引でどれだけの資産を保有しているかも比較
の要素とはなるが,評価会社が保有している資産が取得後どれだけ値上
がりして含み益が生じているのかということは,当該資産を保有し続け
ている以上は,直ちに評価会社が企業として生み出す利益,ひいては評
価会社の企業としての価値に影響するものではない。したがって,評価
会社の保有資産の含み益が類似業種比準方式によって評価に直ちに反映
されないことにより,類似業種比準方式による評価会社の株式の評価と
当該株式の適正な時価との間に開差が一般的に生じているとはいえない。
それにもかかわらず,評価通達の平成2年改正で,保有資産中に株式や
土地が占める割合が高い会社(株式保有特定会社・土地保有特定会社)
の株式につき,純資産価額方式等によりそれらの会社が保有する株式や
土地自体の評価額を反映された評価を行うようにしたのは,その当時,
株式や土地を保有させる目的で用意した持株会社や土地保有会社に保有
する株式や土地を譲渡して,その譲渡された株式や土地の時価が持株会
社や土地保有会社の株式の評価額に反映されないような状態を作出する
ことによる節税ないし租税回避行為が横行したことに対応する必要があ
ったためという経緯がある。したがって,節税ないし租税回避行為が横
行に対応するために行われた改正であるならば,節税でも租税回避行為
でもない行為は,改正により設けられた制度の対象とならないと考える
のが当然である。
(イ)仮に,このような改正の経緯からは直ちに株式保有特定会社等に係
る評価方式の適用範囲を決めることができないとしても,適正な時価評
価の観点から,保有資産中に株式等の占める割合が高い会社の株式につ
いて類似業種比準方式の適用を制限することの合理性を考えると,その
制限の合理性は,事業を営むことよりも資産を保有することが主たる目
的の会社の場合に類似業種比準方式の適用の前提が満たされなくなるこ
とによって,初めて基礎づけられるものである。すなわち,類似業種比
準方式は,評価会社の事業を営む企業としての実態を前提として,企業
全体の価値を評価する手法であるから,個々の資産の含み益を反映させ
なくても問題はないわけであるが,事業を営むことよりも資産を保有す
ることが主たる目的である会社の場合には,このような前提が当てはま
らないのであるから,類似業種比準方式の適用を制限する合理性が生じ
てくる。
以上のとおり,株式保有特定会社に係る評価方式を適用する合理性は,
事業を営むことよりも株式を保有することが主たる目的の会社の場合に
は,類似業種比準方式の適用の前提が満たされなくなることによって初
めて基礎づけられるものであって,評価会社が保有する株式の含み益に
より類似業種比準方式による評価会社の株式の評価と当該株式の適正な
時価との間に一般的に生じている開差が,高い株式保有割合により無視
できなくなるからというようなことが理由となるものではない。そして,
本件においては,Bは,事業を営むことを主たる目的とする会社であっ
て,実際には持株会社でありながら事業をカムフラージュで営むような
会社ではないから,B株式について,類似業種比準方式適用の前提が満
たされなくなるというようなことはなく,株式保有特定会社に係る評価
方式を適用するのは合理的ではない。
(ウ)株式保有特定会社に係る評価方式を適用すべき評価会社か否かの判
断は,株式保有特定会社に係る評価方式が導入された平成2年の評価通
達改正の経緯や,いかなるときに株式保有特定会社に係る評価方式を適
用する合理性があるかという点からすれば,株式保有目的の持株会社で
あるか,評価会社の株主が本来直接保有しているはずの株式を間接保有
に切り替えるために用意した持株会社であるのか,事業を営むことより
も株式を保有することを主たる目的とする会社であるのか,というよう
な基準で行うのが合理的である。もっとも,評価会社の株式保有割合が
「非常に異常な数値」(評価通達の平成2年改正における立案担当者の
発言。甲第5号証)であるということならば,そのような持株会社ない
し株式保有を主たる目的とする会社である蓋然性が高くなるから,その
ような数値を株式保有特定会社の該当性に関する指標として考慮するこ
とも合理性がないわけではないが,「非常に異常な数値」といえるため
には,単に平均値から大きく乖離しているというだけでなく,母集団の
値の分布や偏差なども考慮した上で,減多にないといえる数値である必
要がある。
ところが,株式保有特定会社の分類に係る評価通達の株式保有割合2
5%という数値基準は,法人企業統計の調査対象会社など一定の範囲の
会社における株式保有割合の平均値を考慮して定められたものであるが,
それらの会社における株式保有割合の分布や偏差が考慮された形跡はな
いのであり,平均値だけを根拠として設定された評価通達の基準は,そ
れだけでも合理性を欠いている。
控訴人が当審において援用した株式会社Dの「E」は,株式保有割合
25%という数値が平均値よりは高い数値(ただし,簿価に基づくもの
にすぎない。)ではあるものの,次のような上場会社における株式保有
割合の分布からすれば,「非常に異常な数値」などではないことを示し
ている。すなわち,乙第32号証で控訴人が各会社毎に計算した株式保
有割合のデータを基に,その標準偏差を計算すると14.2%となるこ
とから,それら控訴人が抽出し計算した平成15年度の上場会社のサン
プルにおける株式保有割合の中で株式保有割合25%を偏差値で示すと
58.1となる(甲第59号証)。したがって,偏差値58.1に相当
する株式保有割合25%という数値は「非常に異常な数値」に該当する
とはいえない。また,本判決別表2-2に示されているように,平成1
5年度においては,控訴人が抽出した上場会社の中でも全体の15%に
相当する会社において株式保有割合が25%以上となっているのであっ
て,この点からも株式保有割合25%以上ということが「非常に異常な
もの」とはいえない。しかも,乙第32号証で控訴人が抽出したデータ
は,金融業又は保険業を営む会社を除外しているが,比較対象の母集団
の設定においてこれらの会社を除外する理由はなく,これらの会社を含
めた母集団を基に株式保有割合25%という数値が「非常に異常な数
値」といえるか否かを判定すべきである。そして,これらの会社の株式
保有割合は明らかに高くなる傾向があるから,これらの会社を除外せず
に同様のデータ抽出を行えば,株式保有割合の平均値は高くなり,株式
保有割合25%の偏差値が,平成15年分において58.1よりも更に
低くなり,株式保有割合25%以上である上場会社の割合も平成15年
において15%よりも高くなることは明らかである。
以上から,株式保有割合25%という数値は「非常に異常な数値」と
は到底いえないのであって,株式保有割合25%をもって異常と判定す
るのは合理性を欠いている。
(エ)控訴人は,資本金5000万円以上10億円未満の法人に係る統計
上の数値を根拠に,株式保有割合25%という一律の数値基準の適用を
正当化している。しかし,原審において企業統計上の数値を用いるに当
たり,資本金10億円以上の法人に係る数値を用いることを選択したの
は控訴人に他ならず,それを当審において,突然,資本金5000万円
以上10億円未満の法人に係る数値を用いることを主張し出すのは,自
らの都合による恣意的な統計使用といわざるをえない。しかも,評価通
達には資本金5000万円以上であれば大会社に該当するといった基準
はなく,資本金と関連性のある指標を基としては,卸売りで帳簿価額に
よる総資本価額20億円以上,それ以外の業種で帳簿価額による総資産
価額10億円以上という基準はあるものの,それ以外は取引金額という
フローの金額及び従業員数という,およそ資本金とは直接関係するもの
ではない指標を基にした基準である。したがって,評価通達の指標を満
たす大会社に相当する会社が概ね資本金5000万円以上に属する会社
であるなどと断ずることはできず,確実に大会社に該当すると思われる
資本金10億円以上の法人に係る数値を用いることとした原審における
控訴人の選択の方が比較的に合理的である。さらに,本件では株式保有
割合25%という基準をBのような会社にも一律に適用することが合理
的か否かが争われているのであるから,資本金5000万円以上の法人
が評価通達における大会社に相当するとしても,資本金10億円以上の
法人の平均値等を基に株式保有割合25%という数値が「非常に異常な
数値」といえるのでなければ,株式保有割合25%という数値を「非常
に異常な数値」と位置づけるべきではない。すなわち,法人企業統計上
の区分をみると,法人企業統計上資本金5000万円以上10億円未満
の区分に属する法人の集団と,10億円以上の区分に属する法人の集団
とでは,明らかに平均的な株式保有割合に有意の差が認められるところ
(前者の集団における株式保有割合の平均値はいずれの年度においても
5%前後であるのに,後者の集団のそれは平成2年度で10.1%,平
成15年度で16.2%である。),本件相続開始時の直前期末である
平成15年5月31日時点におけるBの総資産価額(帳簿価額)が21
20億円余であったことからすれば,1法人当たり帳簿価額による総資
産額の平均値が1000ないし1300億円程度である法人企業統計上
資本金10億円以上の区分に属する法人が,Bのような会社といえるの
であって,Bのような大規模な会社にも株式保有割合25%という基準
により株式保有特定会社に係る評価方式を一律に適用することの合理性
は,法人企業統計上資本金10億円以上の区分に属する法人の集団にお
いて株式保有割合25%が「非常に異常な数値」であるといえなければ
認められない。
以上のとおりであり,資本金5000万円以上10億円未満の法人に
係る株式保有割合が低いことを根拠にBのような大規模な会社に株式保
有割合25%という基準を一律に適用することを合理化しようとする控
訴人の主張は失当である。
イ独占禁止法等における基準について
控訴人は,独占禁止法上の規制は本件相続開始時における本件判定基準
の合意性を否定する根拠とならない旨主張する。しかし,株式保有特定会
社に係る株式保有割合25%以上という基準が,租税法以外の法令におけ
る基準とは異なる租税に関する法令上の独自の基準として定められている
のであればともかくとして,法令に株式保有割合25%以上という数値の
定めはなく法令に直接の根拠がない基準となっている以上,租税法以外の
基準ではあっても,同じように総資産のうちに占める株式の割合を対象と
して法令上設けられている基準を参考とするのは当然であり,それと異な
る基準を採用するのであれば,よほど強い根拠が必要である。しかも,他
の法分野において用いられている概念が租税法で用いられる場合には,借
用概念として他の法分野におけるのと同じ意義に解するのが原則であって,
「持株会社」という概念で対象となる会社が想定されていた株式保有特定
会社の株式に係る評価方式が,他の法分野において既に確立していた「持
株会社」という概念とは敢えて異なる範囲の会社を対象とすることは,強
度の必要性に裏付けられなければ合理的とはいえない。評価基準において
「持株会社」という用語が用いられなかったのは,平成2年当時,独占禁
止法上の「持株会社」に該当すれば,同法において禁止されていたからで
あると思われ,評価通達の平成2年改正における立案担当者の説明でも,
「いわゆる持株会社」,「巷間言われております持株会社」などのフレー
ズで株式保有特定会社にされるべき会社を説明しているのであって,株式
保有特定会社の株式に係る評価方式について「持株会社」という概念で対
象となる会社が想定されていたことは明らかである。
ウBの株式保有特定会社該当性を判断するに当たって同社の企業規模・事
業実態等を考慮要素とすることの相当性について
原判決がその判断において考慮した事項のうち,従業員数,総資産価額
及び直前期末以前1年間における取引金額が大きい会社であることは,評
価通達も原則的にはその株式の評価に類似業種比準方式を適用することの
適正を裏付ける事実として認めているのであるから,それらを類似業種比
準方式を適用の可否を判断するに当たって考慮することは妥当である。ま
た,評価会社の株式時価総額が類似業種比準価額の計算において用いられ
る標本会社である上場会社の株式の時価総額の大部分を上回っている事実
は,企業規模の面における類似業種比準方式適用の適性を推認される事実
であり,本店の外に全国各地に工場ないし研究施設を有している事実や業
界内の市場シェアについても評価会社の事業に実態があることを示す事実
であり,これらを株式保有特定会社該当性の判断の考慮要素とするのは当
然である。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,被控訴人らの請求はいずれも理由があると判断する。その理由
は,2のとおり加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の第3,1ないし4
に記載のとおりであるから,これを引用する。
2当審における当事者の主張に鑑み,争点2(Bが株式保有特定会社に該当す
るか否か)について付言しておく。
(1)相続税法22条は,相続により取得した財産の価額は,特別の定めがあ
るものを除き,「当該財産の取得の時における時価による」と定めており,
この時価とは,相続開始時における当該財産の客観的交換価値をいうものと
解されるところ,その評価については,租税負担の実質的な公平を確保し,
安定した課税手続を実現させる観点から,評価通達を定め,それが評価方式
として合理的なものである限り,全ての納税者に当該評価方式を適用すべき
である。そして,特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ評価通
達の定める評価方式以外の評価方式によって行うことは,たとえその評価方
式による評価額がそれ自体としては相続税法22条の定める時価として許容
できる範囲内のものであったとしても,その評価通達が定める評価方式によ
った場合にはかえって実質的な租税負担の公平を害することが明らかな場合
を除き,納税者間の実質的負担の公平に欠けることとなり,許されないとい
うべきである。
相続財産である株式の「時価」について,一般に市場を通じて不特定多数
の当事者間における自由な取引により市場価格が形成されている場合には,
これを時価とするのが相当である。しかし,取引相場のない株式については
市場価格が形成されていないから,その時価を容易に把握するのは困難であ
り,したがって,こうした取引相場のない株式にあっては,合理的と考えら
れる評価方式によってその時価を評価するほかなく,その評価方式が合理性
を有する限り,それによって得られた金額をもって「時価」と評価すべきこ
とになる。
(2)評価通達は,評価会社をその事業規模に応じて大会社,中会社及び小会
社に区分し(同通達178),それぞれの区分に属する評価会社の株式の価
額に用いるべき原則的評価方式を定めているところ(同通達179),大会
社の株式の価額の評価において用いるべき原則的評価方式である類似業種比
準方式は,それ自体では市場取引価格がない株式について,これを上場会社
の比較することとして上場会社の取引所での取引価格を基に評価する方法で
あって,上場会社の企業価値が市場で評価された結果として当該上場会社の
株式の時価が取引所市場での取引価格に示されていることからして,大会社
の株式の評価方式としては十分合理性を有しているものといえる。控訴人は,
類似業種比準方式について,いずれは上場されるような会社の株式の評価に
おいては最適である反面,大会社であっても上場を予定していない会社の株
式の評価については適切とはいえない旨主張する。しかし,もともと類似業
種比準方式は,評価の対象となる株式が上場されておらず取引相場のない株
式であることを前提として,上場会社の株式との比較により現時点での株式
の時価を評価する方式であるから,実際に将来上場するか否かにかかわらず,
相応の合理性を有するということができる。控訴人の主張は採用できない。
(3)しかるところ,評価通達の平成2年改正で資産構成が著しく株式等に偏
っている会社の株式について特別な評価方式(現行の評価通達189の(2)
及び189-3)が置かれた経緯等は前記(原判決引用部分)のとおりであ
り,同改正において資産構成が著しく株式等に偏っている会社を株式保有特
定会社等として定義し,その株式の評価方式を純資産価額方式又はS1+S
2方式によるべきこととしたこと,及び評価通達の平成2年改正時点におい
て,評価通達189の(2)の定めのうち,大会社につき株式保有割合が2
5%以上である評価会社を一律に株式保有特定会社とし(本件判定基準),
その株式を上記の特別な評価方式によって評価すべきものとしたことに合理
性が認められることも前記(原判決引用部分)のとおりである。
(4)そこで,評価通達189の(2)の定めのうち,大会社につき株式保有割合
が25%以上である評価会社を一律に株式保有特定会社と定める本件判定基
準が,本件相続開始時においてもなお合理性を有しているか,以下検討する。
ア評価通達の平成2年改正における立案担当者の説明(甲5,乙11)及
び弁論の全趣旨としての控訴人の主張によれば,大会社において株式保有
特定会社に分類される基準として規定される株式保有割合25%という数
値は,平成2年当時の法人企業統計等に示された資本金10億円以上の会
社の株式保有割合の平均値が7.8%であり,これを実際の相続税評価額
ベースに直すと,土地の含み益もあり,それを若干下回ることになると考
えられ,25%は一般会社の株式保有割合の3倍から4倍という数字にな
るということから決定されたものと認められ,そうであるとすると,当時
においては,一般に,株式保有割合25%以上であることは,資産構成が
著しく株式に偏っているものと認識されていたといえる。
イしかし,本件判定基準が本件相続開始時である平成16年においても合
理性を有しているというためには,この時点においても株式保有割合2
5%以上であることをもって当該会社の資産構成が著しく株式に偏ってい
ると評価できなければならない。
しかるところ,評価通達の平成2年改正時と本件相続開始時の上場会社
における株式保有状況を比較してみると,前記(原判決引用部分)のとお
り,評価通達の平成2年改正の後,平成9年の独占禁止法の改正によって
従前は全面的に禁止されていた持株会社が一部容認されることになるなど,
会社の株式保有に関する状況は大きく変化しており,また,本件相続開始
時を調査期間に含む平成15年度の法人企業統計を基に算定された資本金
10億円以上の全ての業種の営利法人(金融業及び保険業を除く。)の株
式保有割合の数値は,16.31%であり,本件判定基準とされている2
5%と比して格段に低いとまではいえないし,さらに,独占禁止法9条4
項1号では,子会社の株式の取得金額(最終の貸借対照表において別に付
した価額があるときはその価額)の合計額の当該会社の総資産額に対する
割合が100分の50を超える会社が持株会社とされ,特別な規制がされ
ているという状況にある。
控訴人は,上記第2,3(1)ア(ウ)のとおり,資本金5000万円以上
10億円未満の法人に係る統計数値を根拠に,本件判定基準が本件相続開
始時においても合理性がある旨主張するが,①上記アのとおり,本件判定
基準の25%という数値は,法人企業統計等に示された資本金10億円以
上の会社の株式保有割合を根拠として定められたものであるから,本件判
定基準が本件相続開始時にも合理性を有するか否かの判断においても,同
様の会社の株式保有割合を検討するのが相当であること,②法人企業統計
上の区分をみると,法人企業統計上資本金5000万円以上10億円未満
の区分に属する法人の集団と,10億円以上の区分に属する法人の集団と
では,前者の集団における株式保有割合の平均値はいずれの年度において
も5%前後であるのに,後者の集団のそれは平成2年度で10.1%,平
成15年度で16.2%であって,平均的な株式保有割合に明らかに有意
の差が認められること,③本件相続開始時の直前期末である平成15年5
月31日時点におけるBの総資産価額(帳簿価額)が2120億円余であ
ったことからすれば,1法人当たり帳簿価額による総資産額の平均値が1
000ないし1300億円程度である法人企業統計上資本金10億円以上
の区分に属する法人がBのような会社といえる(資本金5000万円以上
10億円未満の区分に属する法人の総資産額は,資本金10億円以上の法
人のそれを更に下回ることは明らかである。)。そうすると,資本金50
00万円以上10億円未満の法人に係る統計数値を採ることが合理的であ
ることを前提とする控訴人の主張は採用できない。
控訴人は,独占禁止法上の規制は本件相続開始時における本件判定基準
の合理性判断の根拠とはならない旨主張するが,平成9年の同法改正に伴
って会社の株式保有に関する状況が評価通達の平成2年改正時から大きく
変化していることに照らすと,同法において持株会社と規定される株式保
有割合は,本件相続開始時においてその資産構成が著しく株式に偏ってい
る会社といえるか否かの判断における指標として有意というべきである。
控訴人の主張は採用できない。
以上に加え,乙第32号証の調査報告書において控訴人が各会社毎に計
算した株式保有割合のデータを基に,その標準偏差を計算すると14.
2%となることから,それら控訴人が抽出し計算した平成15年度の上場
会社のサンプルにおける株式保有割合の中で株式保有割合25%を偏差値
で示すと58.1となること(甲第59号証),本判決別表2-2のとお
り,平成15年度においては,控訴人が上記調査報告書において抽出した
上場会社の中で全体の15%に相当する会社において株式保有割合が2
5%以上となっていることに照らすと,本件相続開始時においては,株式
保有割合25%という数値は,もはや資産構成が著しく株式に偏っている
とまでは評価できなくなっていたといわざるを得ない。
ウそうすると,評価通達189の(2)の定めのうち,大会社につき株式保
有割合が25%以上である評価会社を一律に株式保有特定会社と定める本
件判定基準が本件相続開始時においてもなお合理性を有していたものとは
いえない。
(5)以上によれば,控訴人の主張によっても株式保有割合が約25.9%に
とどまるBについて,本件判定基準をそのまま適用して株式保有特定会社に
該当するものとすることできないから,Bが株式保有特定会社に該当するか
否かは,前記(原判決引用部分)のとおり,その株式保有割合に加えて,そ
の企業としての規模や事業の実態等を総合考慮して判断するのが相当である。
控訴人は,上記第2,3(1)ウ,エのとおり主張し,このような個別事情
を株式保有特定会社該当性の判断の考慮要素とすることはいたずらに判断基
準を複雑にし,課税処分を迅速に行うことを困難にするなどと批判するが,
その主張は本件判定基準に合理性が認められることを前提とするものであり,
その前提に欠ける本件において,控訴人の批判は当てはまらない。さらに,
控訴人が相当性を欠くとして指摘する考慮要素についてみると,従業員数,
総資産価額及び直前期末以前1年間における取引金額が大きい会社であるこ
とは,評価通達も原則的にはその株式の評価に類似業種比準方式を適用する
ことの適正を裏付ける事実として認めているものであり,それらを類似業種
比準方式を適用の可否を判断するに当たって考慮することは妥当である。ま
た,評価会社の株式時価総額が類似業種比準価額の計算において用いられる
標本会社である上場会社の株式の時価総額の大部分を上回っている事実は,
企業規模の面における類似業種比準方式適用の適性を推認される事実であり,
業界内の市場シェアについても,本店の外に全国各地に工場ないし研究施設
を有しているという事実とともに評価会社の事業に上場の大企業と同様の実
態があることを示す事実であるから,これらを株式保有特定会社該当性の判
断の考慮要素とするのは妥当かつ当然である。また,評価通達の平成2年改
正の趣旨が,課税の公平の観点から,原則的評価方式による評価額と適正の
時価との開差の是正と株式の価額の評価の一層の適正化を図ることを目的と
したものであるとしても,控訴人も自認するとおり上記開差が租税回避行為
に利用されるケースがあったことが同改正の契機となったことからすれば,
租税回避行為の弊害の有無を株式保有特定会社該当性の考慮要素とすること
も妥当かつ当然であるといわざるを得ない。
(6)しかして,前記(原判決引用部分)のとおり,Bの企業としての規模や
事業の実態等は上場企業に匹敵するものであり,B株式の価額の評価に関し
ては,租税回避行為の弊害を危惧しなければならないというような事情はう
かがわれないことからすれば,本件相続開始時におけるBが,その株式の価
額の評価において原則的評価方式である類似業種比準方式を用いるべき前提
を欠く株式保有特定会社に該当するとは認められない。
控訴人は,Cと極めて高い割合で株式を持ち合っているBが発行する株式
の価額を類似業種比準方式により適正に評価することはできないとして上記
第2,3(1)オのとおり主張するが,控訴人の主張を考慮したとしても,株
式保有特定会社であるとは認められない大会社であるBにあって,その株式
の評価は,評価通達に定めるとおり原則的評価方法である類似業種比準方式
を用いるべきであるから,これによって得られた金額をもって「時価」と評
価すべきであることは上記(1)のとおりである。
3したがって,被控訴人らの請求をいずれも認容した原判決は相当であり,本
件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判
決する。
東京高等裁判所第24民事部
裁判長裁判官三輪和雄
裁判官小池喜彦
裁判官松村徹

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