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令和2年7月29日判決言渡
令和元年(行ケ)第10099号審決取消請求事件
口頭弁論終結日令和2年6月17日
判決
原告ハンドヘルドプロダクツインコーポレーティッド
同訴訟代理人弁護士根本浩
高山大蔵
同訴訟代理人弁理士稲葉良幸
佐藤睦
澤井光一
被告特許庁長官
同指定代理人小田浩
辻本泰隆
藤原直欣
西出隆二
小出浩子
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2017-11744号事件について平成31年3月4日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告の特許拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決に対する取消訴訟
である。争点は,進歩性の有無(引用発明の認定誤りに伴う相違点の看過)につい
ての認定判断の当否である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「グローバル電子シャッター制御を持つイメージ読み取り
装置」とする発明について,平成18年3月7日を国際出願日とする特許出願(特
願2008-500844号。優先権主張:平成17年3月11日[以下「本件優
先日」という。],優先権主張国:米国)をし,平成25年1月11日,上記特願2
008-500844号の一部を特願2013-003616号として分割出願し,
平成26年3月10日,上記特願2013-003616号の一部を特願2014
-046409号として分割出願し,平成27年11月20日,上記特願2014
-046409号の一部を特願2015-227211号として分割出願したが,
平成29年4月5日付けで拒絶査定を受けた。
原告は,平成29年8月7日,拒絶査定不服審判(不服2017-11744号)
を請求する(甲8)とともに,同日付け手続補正書(甲9)により特許請求の範囲
を変更する手続補正を行い,その後,平成30年7月13日付け手続補正書(甲1
2)及び平成31年1月18日付け手続補正書(甲15)により,それぞれ特許請
求の範囲を変更する手続補正を行った。
特許庁は,平成31年3月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決
(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月14日,原告に送達された。
2本願発明の要旨(甲15)
前記1の平成31年1月18日付け手続補正書による補正後の本願の請求項1に
係る発明(以下「本願発明」という。)の要旨は,以下のとおりである(以下,本願
の願書に添付した明細書及び図面の翻訳文[甲3の2]を「本願明細書」という。)。
【請求項1】
「バーコードを読み取る際に使⽤するための装置であって,該装置が,
2次元イメージセンサアレイであって,前記2次元イメージセンサアレイは相補
型⾦属酸化物半導体からなり,前記2次元イメージセンサアレイは行のピクセルを
包含する,2次元イメージセンサアレイと,
前記2次元イメージセンサアレイに光を焦点合わせする撮像レンズと,
サポートアセンブリであって,前記サポートアセンブリは前記撮像レンズをサ
ポートするためのレンズホルダーを包含する,サポートアセンブリと,
照明パターンを投射するのに使⽤するための照明光源であって,前記照明光源が,
発光ダイオードからなる,照明光源と,
露光期間中に同時に,前記2次元イメージセンサアレイの複数の行のピクセルを
露光するように配置されたグローバル電⼦シャッター制御モジュールであって,2
次元イメージセンサアレイにおける複数の行のピクセルの露光が同時に開始される
ように,グローバル電⼦シャッター制御モジュールが2次元イメージセンサアレイ
を制御するように構成される,グローバル電子シャッター制御モジュールと
を有し,
該装置が,照明期間の間に,前記発光ダイオードを同時に駆動することができ,
露光期間と照明期間との間の調整が少なくとも部分的に時間がオーバーラップする
照明期間と露光期間とによって特徴づけられることを特徴とする装置。」
3本件審決の理由の要点
(1)甲1(特開2003-132301号公報)に記載されている発明(以下
「引用発明」という。)について
甲1には,以下の引用発明が記載されている。
「バーコード読み取り装置であって,
光電変換により2次元画像を生成するためのCMOS型のイメージセンサーで
あって,m行×n列の画素S11~Smnから成る撮像素子部のイメージセンサー
6と,
被写体像をセンサー面に結像するためのレンズ部1と,
撮影対象物を十分な光量で均一に照らすための赤色発光ダイオード(LED)2
~5と,
タイミング信号発生部に送る光電変換時間の情報を決定するシステム制御部8と,
イメージセンサー6に駆動クロックを供給するタイミング信号発生部のタイミン
グ信号発生器(TG)7と,
を有し,
各画素の増幅MOSトランジスタM3のゲートとフォトダイオードPDが電圧V
Rに,垂直信号線V1~Vnが電圧VVRにリセットされ,
LEDを点灯し(t1),
全ての画素S11~Smnにおいて,同時に,フォトダイオードPDのカソード
側に光信号電荷が蓄積され,その後,蓄積された光信号電荷が,同時に増幅MOS
トランジスタM3のゲートに転送され,その後,同時に光信号電荷の増幅MOSト
ランジスタM3への転送が終了し(t2~t5),
電荷転送終了後にLEDを消灯し(t6),
第1行目の画素S11~S1nの光信号電圧が光信号保持容量CTSに読み出さ
れ(t7~t8),
ノイズ電圧がノイズ信号保持容量CTNに読み出され(t11~t12),
ノイズ信号保持容量CTNと光信号保持容量CTSに保持されていた電圧が順次
差動回路ブロックに読み出され,光信号とノイズ信号との差がとられ,出力端子V
OUTに順次出力され(t14~t15),
以下同様に,垂直走査回路ブロックVSRからの信号によって,第2行目~第
m行目に接続された画素S21~Smnの信号が順次読み出され,全画素の読み出
しが完了する装置。」
(2)本願発明と引用発明の対比及び相違点についての判断
ア対比
(一致点)
バーコードを読み取る際に使用するための装置であって,該装置が,
2次元イメージセンサアレイであって,前記2次元イメージセンサアレイは相補
型金属酸化物半導体からなり,前記2次元イメージセンサアレイは行のピクセルを
包含する,2次元イメージセンサアレイと,
前記2次元イメージセンサアレイに光を焦点合わせする撮像レンズと,照明パ
ターンを投射するのに使用するための照明光源であって,前記照明光源が,発光ダ
イオードからなる,照明光源と,
露光期間中に同時に,前記2次元イメージセンサアレイの複数の行のピクセルを
露光するように配置されたグローバル電子シャッター制御モジュールであって,2
次元イメージセンサアレイにおける複数の行のピクセルの露光が同時に開始される
ように,グローバル電子シャッター制御モジュールが2次元イメージセンサアレイ
を制御するように構成される,グローバル電子シャッター制御モジュールと
を有し,
該装置が,照明期間の間に,前記発光ダイオードを同時に駆動することができ,
露光期間と照明期間との間の調整が少なくとも部分的に時間がオーバーラップする
照明期間と露光期間とによって特徴づけられることを特徴とする装置。
(相違点)
本願発明が「サポートアセンブリであって,前記サポートアセンブリは前記撮像
レンズをサポートするためのレンズホルダーを包含する,サポートアセンブリ」を
有しているのに対して,引用発明は対応する構成を備えているのか定かでない点。
イ相違点についての判断
バーコードを読み取る光学読取装置は,レンズを介してイメージセンサーにバー
コードの画像を撮像するものであるから,光学読取装置においてレンズを保持する
構成を備えていることは自明である。そして,バーコードを読み取る光学読取装置
のレンズを保持する具体的構成として,甲2(⽶国特許出願公開第2005/00
01035号明細書)に記載されているように,複数のレンズを保持するものとし
て「レンズアセンブリ40」を備え,レンズアセンブリ40を包含するものとして
「保持部82と有する支持体80」を備えることで,撮像レンズをサポートするた
めのレンズホルダー及びレンズホルダーを包含するサポートアセンブリを備えこと
は公知技術と認められる。
そうすると,「バーコード読み取り装置」である引用発明においても,「レンズ部
1」のレンズを保持するための構成は必要であることから,該保持するための構成と
して甲2に記載の公知技術を採用して,相違点に係る構成を備えるようにすること
は,当業者が適宜なし得る事項である。
したがって,本願発明は,引用発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者
が容易に発明できたものであり,特許法29条2項により特許を受けることができ
ない。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(引用発明の認定の誤り)
(1)本件審決は,引用発明は,「全ての画素S11~Smnにおいて,同時に,
フォトダイオードPDのカソード側に光信号電荷が蓄積され,その後,蓄積された
光信号電荷が,同時に増幅MOSトランジスタM3のゲートに転送され,その後,
同時に光信号電荷の増幅MOSトランジスタM3への転送が終了し(t2~t5)」
という構成を備えていると認定したが,以下の(2)~(4)のとおり,これは誤りであ
る。
(2)甲1には,以下のとおり,全ての「画素S11~Smn」において,同時に,
フォトダイオードPDに光信号電荷が蓄積及び転送されること並びにリセットが解
除されることは開示も示唆もされていないから,本件審決の引用発明の認定には誤
りがある。
ア甲1の段落【0020】には,「図3の転送MOSトランジスタTXの
ゲートを一行目からm行目までの全ての画素について同時に選択する信号TXaが,
各行ごとに全ての画素を選択する信号の転送パルスTX1~TXn(原告注:TX
nはTXmの誤記)とのOR回路を通して各転送MOSトランジスタTXに接続さ
れている。」ことが開示されており,また,【図3】には,行ごとの画素に対応し
てOR回路が設けられている。
下記図に示すように,信号TXaがローレベルであったとしても,信号TX1が
ローレベルで,信号TX2がハイレベルであった場合には,画素S11~S1nに
おけるトランジスタTXはオフとなりフォトダイオードPDに電荷が蓄積される一
方で,画素S21~S2nにおけるトランジスタTXはオンとなりフォトダイオー
ドPDに電荷は蓄積されない。
甲1には,上記OR回路に入力される二つの入力信号について,「次に,φTXa
がローレベルになりフォトダイオードPDには光に応じた電荷の発生が可能になる
(t2)。」(段落【0022】)と記載されているにすぎず,t2の時点で,他方の
入力信号である「TX1~TXm」の信号の状態は一切記載も示唆もされていない
から,甲1には,全ての「画素S11~Smn」において,同時に,「電荷転送スイッ
チTX」がオフとなることが開示されているとはいえない。仮に,引用発明におい
て,信号TXaによって全ての「画素S11~Smn」の選択が制御されるとする
と,【図3】に記載された「φTX1~TXm」の信号が引用発明の動作に関係しな
いこととなってしまう上,各行において,信号TXaと信号TX1~TXmの二つ
を入力とするOR回路が敢えて図示されていることの技術的説明がつかない。また,
段落【0020】に「各行ごとに全ての画素を選択する信号の転送パルスTX1~
TXm」と明記されているTX1~TXmの目的とも矛盾する。
また,甲1の段落【0021】~【0023】の記載は,第1行目の行に接続さ
れた画素に対して行われる処理であるから,段落【0022】の記載が示唆すると
ころは,第1行目の行の画素に対応するOR回路の他方の入力信号である「TX1」
がt2の時点においてローレベルになることのみで,第2行目以降の行の画素に対
応するOR回路の他方の入力信号である「TX2~TXm」がローレベルになるこ
とについては記載も示唆もない。同様に,甲1の段落【0023】では,【図5】の
t5の時点において,第1行目の行に接続された画素に対してフォトダイオードP
Dの電荷転送が終了になること,すなわち,第1行目の行の画素に対応するOR回
路の他方の入力信号である「TX1」がローレベルになることが示唆されているに
とどまり,第2行目以降の行の画素に対応するOR回路の他方の入力信号である「T
X2~TXm」がローレベルになることは記載も示唆もされていない。
本件審決は,OR回路の一方の入力信号である「φTXaがローレベルになる」
という構成をもって,他方の入力信号である「TX1~TXm」信号の状態につい
ていかなる開示があるかの検討を行うことなく,【図5】のt2の時点で,全ての「画
素S11~Smn」において,同時に,フォトダイオードPDに光信号電荷が蓄積
されると認定しており,引用発明の認定に誤りがある。
イ甲1の段落【0020】には,「一行目からm行目までの全ての画素のリ
セットMOSトランジスタM1のゲートを同時に選択する信号RESaが,各行ご
とに全ての画素をリセットするパルスRES1~RESn(原告注:RESnはR
ESmの誤記)とのOR回路を通して各リセットMOSトランジスタM1に接続さ
れている。」ことが開示されており,また,【図3】には,行ごとの画素に対応して
OR回路が設けられている。
前記アと同様,下記図に示すように,信号RESaがローレベルでありかつ信号
RES1がローレベルであったとしても,他方で,信号RES2がハイレベルであっ
た場合には,画素S11~S1nにおけるトランジスタM1はオフとなりリセット
が解除される一方で,画素S21~S2nにおけるトランジスタM1はオンとなり
リセットは解除されない。
甲1の段落【0022】には,上記OR回路に入力される二つの入力信号につい
て,「リセットMOSトランジスタM1のゲートへのパルスφRESa,垂直信号線
リセットMOSトランジスタM8のゲートパルスφVRES,がローレベルとなり,
M1(原告注:M1はM3の誤記)のゲートと垂直信号線のリセットが解除される
(t3)。」と記載され,【図5】のタイミング図においてt3の時点においてφR
ES1がローレベルとなっていることが開示されているにすぎず,2行目以降の行
に対応するOR回路の他方の入力信号である「RES2~RESm」の信号の状態
は記載も示唆もされていない。甲1の段落【0020】に「各行ごとに全ての画素
をリセットするパルスRES1~RESm」と記載されているように,各行ごとに
リセットするか否かを個別に制御するために用いられることが説明されている。
本件審決は,OR回路の一方の入力信号である「RESa」が「ローレベルとな」
るという構成をもって,2行目以降の行に対応するOR回路の他方の入力信号であ
る「RES2~RESm」の信号の状態についていかなる開示があるかの検討を行
うことなく,【図5】のt3の時点で,全ての「画素S11~Smn」において,同
時に,リセットMOSトランジスタM1がオフとなって,リセットが解除されると
認定したものであり,引用発明の認定に誤りがある。
ウ甲1からは,t2までの動作において,OR回路の一方の入力となるφ
RESa及びφTXaがハイレベルとなり,その時点において,全画素のリセット
MOSトランジスタM1及び転送MOSトランジスタTXがオン状態となって,こ
れにより増幅MOSトランジスタM3のゲート及びフォトダイオードPDがそれぞ
れ電圧VRとなることは理解できる。
しかし,φRESa及びφTXaがt2の時点でハイレベルとなる以前において,
全画素のトランジスタが一括してオフ状態でなければならないことについては甲1
に記載も示唆もないから,t2の時点以前において,全画素のトランジスタが一括
してオフ状態であること(すなわち,全てのOR回路の出力がローレベルであるこ
と)が,被告の主張するとおり自明であるとはいえない。
(3)甲1の記載事項に基づくと,以下のとおり,引用発明は,各行ごとに,異な
るタイミングで,フォトダイオードPDに光信号電荷が蓄積される構成を備えてい
ると解される。
ア甲1の段落【0019】~【0025】及び【図3】~【図5】による
と,引用発明は,概ね,下記①~⑦の順番に行われる処理を備えている。
①MOSトランジスタM3のゲートとフォトダイオードPDをリセットし,かつ,
垂直信号線V1~Vnをそれぞれリセットする(【図5】のt2まで。段落【00
21】)。
②フォトダイオードPDへの電荷蓄積(【図5】のt2~t4。段落【0022】)
を行う。この間,MOSトランジスタM3のゲート及び垂直信号線V1~Vnをそ
れぞれリセット解除する(【図5】のt3。段落【0022】)。
③フォトダイオードPDの電荷をMOSトランジスタM3のゲートに転送し(【図
5】のt4~t5。段落【0022】及び【0023】),その後,垂直信号線V
1~Vnを介して光信号電圧を光信号保持容量CTSに読み出す(【図5】のt8
まで。段落【0023】)。
④MOSトランジスタM3と垂直信号線V1~Vnのそれぞれとをリセットし(【図
5】のt9~t10。段落【0023】),その後,MOSトランジスタM3のゲー
ト及び垂直信号線V1~Vnをそれぞれリセット解除し(【図5】のt10。段落
【0023】),その後,垂直信号線V1~Vnを介してノイズ電圧をノイズ信号
保持容量CTSに読み出す(【図5】のt12まで。段落【0023】)。
⑤ノイズ信号保持容量CTS及び光信号保持容量CTSに保持された電圧を差動回
路ブロックに読み出し,光信号とノイズ信号の差に基づく出力を出力端子VOUT
に出力する(【図5】のt15まで。段落【0023】)。
⑥ノイズ信号保持容量CTS及び光信号保持容量CTSをそれぞれリセットする
(段落【0024】)。
⑦垂直走査回路ブロックVSRからの信号によって,第2行目~第m行目の行に接
続された画素についての読み出しを順次行う(【段落0025】)。
イ上記の処理⑥について,甲1に「以上で,第1行目に接続された画素セ
ルの読み出しが完了する。この後,第2行目の読み出しに先立って,ノイズ信号保
持容量CTNおよび光信号保持容量CTSのリセットスイッチM9,M10のゲー
トへのφCTRがハイレベルとなり,VRCTにリセットされる。」(段落【00
24】)と記載されているとおり,処理⑥よりも前の処理①~⑤は,第1行目の行
に接続された画素に対して行われる処理であり,また,処理⑥は,第2行目の行の
読み出しに先立って行われる処理である。
他方で,処理⑦における第2行目~第m行目の各行に接続された画素については,
甲1に「以下同様に,垂直走査回路ブロックVSRからの信号によって,第2行目
~第m行目に接続された画素セルC21~Cmn(原告注:C21~CmnはS2
1~Smnの誤記)の信号が順次読み出され,全画素セルの読み出しが完了する。」
(段落【0025】)と記載されているところ,第2行目~第m行目の各行に接続
された画素の信号について,甲1において,画素の信号の「読み出し」の定義や記
載がないこと及び甲1の段落【0025】に第1行目の行に接続された画素につい
ての処理①~⑥の説明を受けて,「以下同様に」と記載されていることからすると,
段落【0025】の「以下同様に・・・順次読み出され,全画素セルの読み出しが
完了する」とは,フォトダイオードPDへの電荷蓄積及びトランジスタM3への電
荷転送を含む,画素を読み出すために行われる読み出し全体の処理,すなわち,処
理①~⑥を繰り返すことを示すものといえる。
ウ上記イの解釈は,甲1において開示された画素の読み出し動作とも整合
する。
(ア)上記アの処理①~⑤のとおり,画素の光信号を垂直信号線V1~Vn
を介して光信号保持容量CTSに読み出すためには,【図5】の最初からt2のと
おり,パルスφVRESをハイレベルにして,垂直信号線V1~Vnをそれぞれリ
セットし(処理①),【図5】のt3のとおり,パルスφVRESをローレベルに
して,それらのリセットを解除する(処理②)という一連の動作が必要である。そ
して,第2行目の行に接続された画素の処理においても,上記第1行目の行と同様
に,画素の光信号を垂直信号線V1~Vnを介して光信号保持容量CTSに読み出
すことが行われるから,第2行目の行に接続された画素の処理においても,垂直信
号線V1~Vnをそれぞれリセットし,それらのリセットを解除するという一連の
動作が必要である。
甲1の開示内容に接した当業者は,第2行目の行に接続された画素についての処
理⑦は,第1行目の行に接続された画素についての処理①~⑥を終えた後,パルス
φVRESをハイレベルにして,垂直信号線V1~Vnをそれぞれリセットし(【図
5】の最初からt2まで),その後,パルスφVRESをローレベルにして,垂直
信号線V1~Vnのリセットを解除するという(【図5】のt3),【図5】のタ
イミングチャートの最初に戻って行われると理解するから,ここからしても引用発
明は,各行ごとに,異なるタイミングで,フォトダイオードPDに光信号電荷が蓄
積される構成を備えていると解されるべきである。
(イ)甲1の段落【0025】には,「以下同様に,垂直走査回路ブロック
VSRからの信号によって,第2行目~第m行目に接続された画素セルC21~C
mn(原告注:C21~CmnはS21~Smnの誤記)の信号が順次読み出され,
全画素セルの読み出しが完了する。」と記載されている。ここで,「垂直走査回路
ブロックVSR」からの信号とは,【図3】に示すとおり,「SEL1~SELm」,
「RES1~RESm」及び「TX1~TXm」を指すものである。そして,前記
のとおり,段落【0025】における「以下同様に・・・順次読み出され,全画素
セルの読み出しが完了する」とは,フォトダイオードPDへの電荷蓄積及びトラン
ジスタM3への電荷転送を含む,画素を読み出すために行われる読み出し全体の処
理を繰り返すことを示すにすぎないものであること,甲1には,各行において,信
号TXaと信号TX1~TXmの二つを入力とするOR回路が敢えて図示されてお
り,段落【0020】において「各行ごとに全ての画素を選択する信号の転送パル
スTX1~TXm」と明記されていることからすると,引用発明においては,第2
行目~第m行目の各行に接続された画素の読み出し処理において,「垂直走査回路
ブロックVSR」からの「TX1~TXm」信号によって,各行ごとに,異なるタ
イミングで,フォトダイオードPDに光信号電荷の蓄積を制御すると解される。
(4)ア本願発明は,従来,CMOS(相補型金属酸化物半導体)ベースのイメー
ジリーダーは,伝統的に,各行ごとに,異なるタイミングで,露光及び読み出しを
行う回転式シャッター(ローリングシャッター)を用いてきたところ(本願明細書
の段落【0005】),回転式シャッターでは,①各行のピクセルが露出される時
間が異なることによって生じるイメージ歪及び②長い時間露光に曝されることによ
るイメージぼやけが生じるという欠点があったことに鑑みて(段落【0006】~
【0008】),そのような欠点を克服するために,「グローバル電子シャッター
制御モジュール」について,「露光期間中に同時に,前記2次元イメージセンサア
レイの複数の行のピクセルを露光するように配置されたグローバル電子シャッター
制御モジュールであって,2次元イメージセンサアレイにおける複数の行のピクセ
ルの露光が同時に開始されるように,グローバル電子シャッター制御モジュールが
2次元イメージセンサアレイを制御するように構成される,グローバル電子シャッ
ター制御モジュールと」という構成(以下,この構成のことを「特定事項F」とい
う。)を採用したというものである。
これに対し,引用発明は,従来,CCDを用いたバーコード読み取り装置におい
ては,リセット動作に1画面分の走査時間を必要とし,これによりバーコードを読
み取るまでの立ち上がり時間が長時間かかっていた等の問題に鑑みて(甲1の段落
【0002】~【0010】),イメージセンサをスリープ状態から画像取り込み
可能な状態へとより高速に変換し,かつ,そのような変換を低消費電力で行うこと
を発明の目的又は課題とするものであり(段落【0011】及び【0026】),
本願発明のようにバーコードの取り込み及び復号を改善することを目的又は課題と
するものではなく,甲1の従来の問題や発明の課題の記載を見ても,上記CMOS
ベースの各欠点については示唆されておらず,甲1において,全ての「画素S11
~Smn」において,同時に,フォトダイオードPDに光信号電荷が蓄積される「グ
ローバル電子シャッター」の構成を想起し得る記載又は示唆はない。
イまた,被告が引用発明認定の根拠とする甲1の段落【0020】~【0
025】の記載は,前記アのような引用発明の課題からして,バーコード読み取り
の前段階である「センサの早期立ち上げ」という動作(従来の回転式シャッターを
採用したCMOSセンサの立ち上げ動作を改善したもの)に関わる開示をしている
ものにすぎず,実際に画像のキャプチャを要する,バーコードを読み取る動作に関
する何らかの機能を示唆するものではない。このことは,甲1の段落【0026】
~【0029】で初めてバーコードを読み取るときの本露光時に行う動作(通常モー
ド)が説明されていることからも明らかである。
ウ本件優先日において,CMOS2次元イメージセンサアレイを用いた
バーコード読み取り装置には,通常,回転式シャッターが使用されていた(甲18
[特開2003-233806号公報],甲19[特開2003-32541号公
報])上,甲19は,段落【0049】及び【0050】において,CCDセンサ
と対比して,従来のCMOSセンサは,回転式シャッターを使用する必要があるこ
とを述べている。
被告は,「露光後に一行毎の読み出しを順次行うことで全画素の読み出しとする」
ことが甲1に記載されていると主張するが,これは,甲19の上記段落で説明され
ている問題を引き起こすものであるから,仮に引用発明が,被告が主張するとおり
の動作を行うものであるとすると,甲19に記載される技術常識に基づく回転式
シャッターが必要となる。
2取消事由2(相違点の看過)
本件審決は,前記1のとおり,引用発明が,「全ての画素S11~Smnにおいて,
同時に,フォトダイオードPDのカソード側に光信号電荷が蓄積され,その後,蓄
積された光信号電荷が,同時に増幅MOSトランジスタM3のゲートに転送され,
その後,同時に光信号電荷の増幅MOSトランジスタM3への転送が終了し(t2
~t5)」という構成を備えていることを前提として,本願発明と引用発明の一致点
について,「露光期間中に同時に,前記2次元イメージセンサアレイの複数の行のピ
クセルを露光するように配置されたグローバル電子シャッター制御モジュールで
あって,2次元イメージセンサアレイにおける複数の行のピクセルの露光が同時に
開始されるように,グローバル電子シャッター制御モジュールが2次元イメージセ
ンサアレイを制御するように構成される,グローバル電子シャッター制御モジュー
ルと」(特定事項F)という構成が一致点であると誤って認定し,この構成に係る相
違点を看過した。
そして,この相違点は,引用発明及び甲2に記載された事項から当業者が容易に
想到し得たものではない。
3本願発明の実施品の商業的成功
本願発明の技術的特徴である「グローバル電子シャッターモジュール」を備えた
実施品は,市場において販売されるや否や,急激にその売上げを伸ばし,原告のシェ
ア拡大に大きく貢献したものである(甲17)。このような本願発明の実施品の商業
的成功は,本願発明がこれまで解決されていなかった課題を解決するものとして市
場に受け入れられたこと及び競合他社が本願発明と同様の設計思想に想到して具現
化することが容易ではなかったことを示すものであり,進歩性の存在を肯定的に推
認する間接事実として大いに参酌されるべきである。
4被告の主張に対する反論
(1)乙1(特表平10-508133号公報),乙2(特開2002-368
201号公報),乙3(特開2004-77633号公報)に基づく主張について
ア乙1~3に基づく周知例は,審決の理由においては挙げられておらず,
審決の理由を構成するものではないから,本件訴訟の段階となって審決の理由の根
拠として追加して主張することは許されるべきでなく,被告による乙1~3に基づ
く周知例に関する主張は全て排斥されるべきである。
イ乙1~3の開示内容は,以下のとおりであるから,乙1~3の開示内容
を踏まえても,引用発明が本願発明の特定事項Fに相当する構成を備えるとはいえ
ないし,本願発明が引用発明に基づいて容易に想到できるともいえない。
(ア)乙1は,15頁18行目~末行目及び【図3】~【図5】にあるとお
り,1次元画像のみをキャプチャ対象とするもので,2次元イメージセンサアレイ
に関するものではない。乙1には,2次元画像をキャプチャするための「2次元セ
ンサーアレイ」や「2次元イメージセンサアレイにおける複数の行のピクセルの露
光が同時に開始されるように制御する」ことは記載も示唆もされておらず,グロー
バル電子シャッターに相当する構成は開示されていない。乙1記載の装置は,個々
の画素ごとに固有の選択信号によって画素を選択するもので(乙1の3頁6行目,
7行目,10頁24行目~末行目,12頁13行目~13頁8行目,24頁末行目
~25頁1行目,28頁17行目,30頁21行目~22行目,31頁8行目~1
4行目,【図16】),「多方向パターン」と「非破壊読み取り」を容易にするた
めに各画素に追加ハードウェアを設けるものである(乙1の31頁8行目~14行
目)。
(イ)乙2には,グローバルシャッターやグローバル電子シャッターモ
ジュールに関する記載は何ら含まれておらず,本願発明のようなグローバル電子
シャッターを開示するものではない。また,乙2の装置は,転送ゲート電極19の
電位を三つの異なる電位レベルに設定する構成を採用することによって,「信号蓄
積動作の開始,終了タイミングは全画素同時となるため,ゆがみのない画像を得る
ことができる」ものである(乙2の段落【0012】,【0015】~【0022】)。
また,乙2は,本願発明のようなバーコードスキャンに関するものでもない。
(ウ)乙3には,「固体撮像素子回路部32」の回路構成やタイミングチャー
トなどの具体的な記載が一切ないから,本願発明に係る「2次元イメージセンサア
レイ」として記載された特定の構成は記載も示唆もされていない。また,乙3は,
引用発明が属する技術である「バーコード読み取り技術」に関するものでもない。
乙3の発明は,銀塩カメラと電子カメラを組み合わせた撮像装置という,極めて特
殊な用途の技術分野において,従来,双方のカメラによって得られる画像のイメー
ジが一致しない場合があること等の問題点に鑑み,双方のカメラによって得られる
画像の一致性を高めるとともに,このような撮像装置を安価に提供するということ
を発明の課題としたもの(乙3の段落【0001】~【0010】)であり,その
ような極めて特殊な用途又は目的を達成するために,乙3では段落【0055】及
び【0056】に記載された構成が採用されているにすぎない。乙3には,「露光
後に一行毎の読み出しを順次行うことで全画素の読み出しとする」ことは何ら記載
も示唆もされていない。
(2)消費電力及びバーコード読み取り時間について
消費電力やバーコード読み取り時間は,LEDの強度や照射時間などその他の
様々な要因によって決まるものであり,引用発明の目的又は課題が,消費電力の低
下及びバーコードを読み取るまでの時間を短縮するというものであるからといって,
そのことから直ちに,引用発明が,回転式シャッターであるか,グローバル電子
シャッターであるかが特定できるものではない。
甲1の段落【0026】によると,引用発明は,「一括リセットのみで立ち上がり
完了」としたことで,「低消費電力駆動」及び「バーコード読み取りまでのセンサの
早期立ち上げ」を可能としたものである。そして,引用発明において,「一括リセッ
トのみで立ち上がり完了」とするための構成は,「全ての画素の増幅MOSトランジ
スタM3のゲートを同時にリセットするために,一行目からm行目までの全ての画
素のリセットMOSトランジスタM1のゲートを同時に選択する信号RESa」(段
落【0020】)であって,被告が主張するようなグローバル電子シャッターで動作
することではないから,消費電力やバーコード読み取り時間からグローバル電子
シャッターで動作することが基礎付けられるものではない。
第4被告の主張
1引用発明について
(1)乙3の段落【0055】,【0066】には,CMOSイメージセンサにお
いて,全画素を電気的に一旦リセットし,全画素の同時露光を開始するとともに,
全画素の同時露光を終了することが記載されているから,全画素リセットの後に全
画素の同時露光とすることは,本件優先日前に周知であった。
そして,甲1には,全画素を一括リセットすることに加え,露光後に一行毎の読
み出しを順次行うことで全画素の読み出しとすることが記載されているから,全画
素リセットと順次読み出しとの間の露光を,全画素同時の露光として引用発明を認
定することに何ら誤りはない。
(2)引用発明の動作
ア全画素リセット
(ア)甲1の段落【0021】によると,φRESaがハイレベル(橙)と
なることにより,RESaを一方の入力(【図3】)とし,かつRES1~RES
mを他方の入力とする全てのOR回路の出力がハイレベル(【図3】)となり,各
画素を構成するリセットMOSトランジスタM1(【図4】中央)がオン状態とな
ることが分かる。また,この動作により,【図4】のM1の電圧VRにより「増幅
MOSトランジスタM3のゲート」が「電圧VR」になる(【図4】水色)ことか
ら,それ以前は,増幅MOSトランジスタM3(【図4】右下)のゲートの電圧は
VRでないことが分かり,このためには,OR回路の一方の入力となるφRESa
がハイレベルとなる以前は,全てのOR回路の出力をローレベルとし,各画素を構
成するリセットMOSトランジスタM1をオフ状態とする必要があり,OR回路の
他方の入力となるRES1~RESm(【図3】)はローレベルであることが分か
る。なお,甲1の【図5】の3行目には,φRESaがハイレベルとなる前後では,
他方の入力であるRES1をローレベルとすることが明示されている。
(イ)同様に,甲1の段落【0021】によると,φTXaがハイレベル(黄)
となることにより,TXaを一方の入力(【図3】左)とし,かつTX1~TXm
を他方の入力とする全てのOR回路の出力がハイレベル(【図3】左)となり,各
画素を構成する転送MOSトランジスタTX(【図4】左)がオン状態となること
が分かる。また,この動作により,「フォトダイオードPDが電圧VR」になる(【図
4】水色)ことから,それ以前は,フォトダイオードPDは電圧VRでないことが
分かり,このためには,OR回路の一方の入力となるφTXaがハイレベルとなる
以前は,全てのOR回路の出力をローレベルとし,各画素を構成する転送MOSト
ランジスタTXをオフ状態とする必要があり,OR回路の他方の入力となるTX1
~TXm(【図3】)はローレベルであることが分かる。
さらに,φVRESがハイレベル(【図3】左下)となることにより,垂直信号
線V1~Vn(【図3】)の下端部に接続された垂直信号線リセットMOSトラン
ジスタM8(【図3】拡大図)がオン状態となり,垂直信号線V1~Vnが,垂直
信号線の下端部M8の電圧VVRにリセットされる。これらの動作により,各画素
S11~Smn及び垂直信号線V1~Vnはリセットされる。
【図3】拡大図
イフォトダイオードPDのカソード側での光信号電荷の蓄積開始
甲1の段落【0022】の記載からすると,以下の動作が行われる。
(ア)φLEDをハイレベルとし,LEDが点灯する。
(イ)φTXa(TX(1))がローレベルになることにより,転送MOSト
ランジスタTX(【図4】左)がオフ状態となり,フォトダイオードPDのカソー
ド側に光信号電荷の蓄積を開始する。
(ウ)φRESa(RES(1))及びφVRES(VRES)がローレベルと
なり,リセットMOSトランジスタM1(【図4】中央)及び垂直信号線リセット
MOSトランジスタM8(【図3】拡大図)のリセット状態を解除する。
ウ蓄積された電荷の転送
甲1の段落【0022】及び【0023】の記載からすると,以下の動作が行わ
れる。
(ア)φTXaがハイレベルになることにより,転送MOSトランジスタT
X(【図4】左)がオン状態となり,フォトダイオードPDのカソードに蓄積され
た光信号電荷が増幅MOSトランジスタM3(【図4】右下)のゲートに転送され
る。そして,十分な時間を経てφTXaをローレベルとして,転送MOSトランジ
スタTX(【図4】左)をオフ状態とする。
(イ)φTXaをローレベルとした後,φLEDをオフ状態としLEDを消
灯する。
エ光信号電圧の読み出し
甲1の段落【0023】の記載からすると,以下の動作が行われる。
(ア)φSEL1がハイレベルとなることにより,1行目の全ての画素S1
1~S1nの選択MOSトランジスタM2(【図4】右上)がオン状態となり,増
幅MOSトランジスタM3(【図4】右下)のゲートに転送された光信号電荷に応
じた電圧が,増幅MOSトランジスタM3(【図4】右下)を通じて,対応する垂
直信号線V1~Vnに読み出される。
(イ)φTSがハイレベル(【図3】左下)となることにより,垂直信号線
V1~Vnの下端部に接続された各光信号転送MOSトランジスタM5(【図3】)
がオン状態となり,垂直信号線V1~Vnに読み出された電圧が,光信号保持容量
CTS(【図3】)に読み出される。
オ光信号電圧が読み出された画素のリセット
甲1の段落【0023】の記載からすると,以下の動作が行われる。
(ア)φRES1がハイレベルとなることにより,1行目の全ての画素S11
~S1nのリセットMOSトランジスタM1(【図4】中央)がオン状態となり,
1行目の全ての画素S11~S1nの増幅MOSトランジスタM3(【図4】右下)
のゲートがVRとなる。
(イ)φVRESがハイレベル(【図3】左下)となることにより,垂直信号
線V1~Vnに接続された垂直信号線リセットMOSトランジスタM8(【図3】)
がオン状態となり,垂直信号線V1~VnがVVR(【図3】)にリセットされる。
カノイズ信号の読み出し
甲1の段落【0023】の記載からすると,以下の動作が行われる。
(ア)φRES1とφVRESがローレベルとなることにより,1行目の全
ての画素S11~S1nのリセットMOSトランジスタM1(【図4】中央)及び
垂直信号線V1~Vnに接続された垂直信号線リセットMOSトランジスタM8
(【図3】)がオフ状態となり,リセット状態が解除される。
(イ)φSEL1がハイレベルとなることにより,1行目の全ての画素S1
1~S1nの選択MOSトランジスタM2(【図4】右上)がオン状態となり,増
幅MOSトランジスタM3(【図4】右下)のゲートに電圧VRがセットされた状
態の電圧が,増幅MOSトランジスタM3(【図4】右下)を通じて,対応する垂
直信号線V1~Vnに読み出される。
(ウ)φTN(【図3】左)がハイレベルとなることにより,垂直信号線V
1~Vnに接続された各ノイズ信号転送MOSトランジスタM4(【図3】)がオ
ン状態となり,垂直信号線V1~Vnに読み出された電圧が,ノイズ信号保持容量
CTN(【図3】)に読み出される。
キ光信号とノイズ信号との差の出力
甲1の段落【0023】の記載からすると,「水平走査回路ブロックHSRから
の信号H1~Hnが順次ハイレベルとなり,各列に対応するノイズ保持容量CTN
及び光信号保持容量CTSに保持されていた電圧が順次差動回路ブロックに読み出
され,光信号とノイズ信号との差が差動回路ブロックから順次出力される。」とい
う動作が行われる。
クノイズ信号保持容量CTS及び光信号保持容量CTSのリセット
甲1の段落【0024】の記載からすると,φCTRがハイレベル(左端中央「C
TR」)となることにより,リセットスイッチM9,M10をオン状態とし,各列
のノイズ信号保持容量CTN及び光信号保持容量CTSをVRCTにリセットする
という動作が行われる。
ケ第2行目~第m行目に接続された画素セルS21~Smnの読み出し
甲1の段落【0025】の記載からすると,第2行目~第m行目に接続された画
素セルS21~Smnの信号の順次読み出しについて,前記エの光信号電圧の読み
出し以降の動作のφSEL1及びφRES1のそれぞれ対応する行の信号に読み替
えて順次実行すればよいことは,当業者にとって自明である。
コリセットについて
甲1の【図5】を参照すると,前記カのノイズ信号の読み出しに係るt11~t
12の後のt13においてφVRESがハイレベルとなっているから,垂直信号線
V1~Vnに接続された垂直信号線リセットMOSトランジスタM8がオン状態と
なり,垂直信号線V1~VnがVVRにリセットされる。
このノイズ信号の読み出し後のリセットは,光信号電圧が読み出された後のリ
セット及びリセットの解除(段落【0023】)からも理解できるとおり,次の信
号のためのものであるから,ノイズ信号の読み出しの後のリセットにおいても,垂
直信号線V1~VnがVVRにリセットされた後,φVRESをローレベルとして
リセットを解除する必要があることは,当業者にとって自明である。
2取消事由1(引用発明の認定の誤り)について
(1)前記1のとおり,甲1に記載された発明は,本願発明の「2次元イメージセ
ンサアレイにおける複数の行のピクセルの露光が同時に開始される」に相当する動
作を行っているから,本件審決の引用発明の認定に誤りはない。
そして,上記の動作を行うためには,前記1(2)アのとおり,リセットMOSトラ
ンジスタM1(橙)及び転送MOSトランジスタTX(黄)のそれぞれのゲートに
接続される「OR回路RES1~m」及び「OR回路TX2~m」の出力が,「O
R回路RES1~m」及び「OR回路TX2~m」入力であるRESa(橙)及び
TXa(黄)の状態の変化と同じになるために,リセットMOSトランジスタM1
(橙)及び転送MOSトランジスタTX(黄)のそれぞれのゲートに接続される「O
R回路RES1~m」及び「OR回路TX2~m」の他方の入力である「φRES
2~m」及び「φTX1~m」の信号は,ローレベルのままとなることは,当業者
にとって自明であり,引用発明の動作に関係しないレベル変化のない信号について,
詳細に説明する必要がないから,甲1において特に明示されていないだけである。
(2)甲1の段落【0020】の「図3の転送MOSトランジスタTXのゲートを
1行目からm行目までの全ての画素について同時に選択する信号TXaが,各行ご
とに全ての画素を選択する信号の転送パルスTX1~TXnとのOR回路を通して
各転送MOSトランジスタTXに接続されている。」の記載は,転送MOSトラン
ジスタTXのゲートにOR回路を通して信号TXaと信号TX1~TXnが接続さ
れている甲1の【図3】に示されたセンサーの構成図を単に説明したものにすぎず,
この記載と引用発明の動作とは何ら矛盾することはない。
(3)甲1の段落【0025】の「以下同様に,垂直走査回路ブロックVSRから
の信号によって,第2行目~第m行目に接続された画素セルC21~Cmnの信号
が順次読み出され,全画素セルの読み出しが完了する。」の記載における「読み出
され」るの語に対応する記載は,「次に,選択MOSトランジスタM2のゲートパ
ルスφSEL1および,光信号転送MOSトランジスタM5のゲートパルスφTS
がハイレベルとなる(t7)。これによって光信号電圧が光信号保持容量CTSに
読み出される(t7~t8)。」(段落【0023】)の「読み出される」である
ことは明らかであり,また,この「読み出される」を行うために必要な動作も段落
【0023】及び【0024】に記載されている。
(4)甲1の段落【0047】には,「以上述べてきた本実施形態の概念図を図1
0にて述べる。これは図2の従来例と対比してある。読み取り動作は,プリ露光動
作1011及び本露光動作1012からなる。プリ露光動作1011は,リセット
1001,蓄積1002及び転送1003を含む。本露光動作1012も,リセッ
ト,蓄積及び転送を含む。」と記載され,【図10】の本露光では,【図5】のt
2までで行われるリセット動作を行った後,フォトダイオードでの電荷蓄積を1回
行い,その1回の電荷蓄積の後に,転送動作が行われており,このことからも被告
の技術の理解は裏付けられる。
(5)甲1の段落【0025】の「読み出され」るは,「光信号電圧が光信号保持
容量CTSに読み出される(t7~t8)」の「読み出される」であるから,t1
3でハイレベルとなったφVRESは,t7に対応するタイミングの前にローレベ
ルとなればよいことは明らかであり,原告の「パルスφVRESをローレベルにし
て,垂直信号線V1~Vnのリセットを解除するという(図5のt3),図5のタ
イミングチャートの最初に戻って行われると理解する」との主張は,甲1の記載に
基づいたものではなく,失当である。
(6)原告は,甲1において「グローバル電子シャッター」の構成を想起し得る記
載又は示唆がないと主張するが,乙1~3の記載からすると,CMOSイメージセ
ンサにおいて,2次元イメージセンサアレイにおける複数の行のピクセルの露光が
同時に開始されるように制御する,いわゆるグローバル電子シャッターは,本件優
先日前に周知技術となっていた。
また,乙2にあるように,CMOSイメージセンサにおいて,2次元イメージセ
ンサアレイにおける複数の行のピクセルの露光が同時に開始されるように制御する
ことにより,「フォトダイオードの蓄積タイミングは全画素について同じとなるの
で,高速で動く被写体を撮像してもゆがみのない像を得ることができる」ことは周
知の事項であった。
そして,乙1には,CMOSイメージセンサをグローバル電子シャッターとして
用いることに加え,【図20】に示されるとおり「バーコードラベル611」の「光
学読み取り器600」であることについても記載されており,当該記載からみても,
本件審決の引用発明の認定に誤りない。
(7)引用発明は,バーコードを読み取るまでに長時間要していたことを解決す
る従来技術として,「リセット期間だけを高速のパルスで駆動し,立ち上がり時間
を早くするアイデア」について「消費電力が増大するという問題」があるとして(甲
1の段落【0008】),それに対する解決手段を提供するものである。
仮に,引用発明のCMOSイメージセンサが,原告の主張する回転式シャッター
で動作するものであると,「装置全体でみた場合,最も電力消費が大きいのは照明
用の光源(一般的にはLEDが用いられる)」(段落【0005】)であるところ,
LEDの発光を行の数分だけ行う必要があり,消費電力が増大してしまい,引用発
明の目的又は課題と矛盾する。
また,引用発明が原告の主張のとおりに動作すると,引用発明は,【図5】の「t
2からt5の光電変換時間」(段落【0023】)を,「CMOS型イメージセン
サー」の行の数分だけとる必要があり,バーコードを読み取る時間が長くなるから,
バーコードを読み取るまでの時間を短くするという,引用発明の目的又は課題と矛
盾する。
3取消事由2(相違点の看過)について
前記1,2のとおり,本件審決の引用発明の認定には誤りはないから,本願発明
と引用発明との間の一致点及び相違点についての認定にも誤りはない。
4本願発明の実施品の商業的成功について
一般に製品の売上げの増加及び高い市場シェアの維持は,その製品に対応する発
明の技術的特徴以外にも,例えば製品の品質,寿命,サイズ,消費電力,コスト,
営業努力,納期,市場規模の大小等々にも影響されるものである。
本願発明の実施品が,原告の従来製品との比較で売上げが伸びたとしても,市場
特有の事情によるとも考えられるし,比較対象が引用発明とは構造が異なる原告の
従来製品であるから,そのことは引用発明に基づく容易想到性の判断に関係するも
のではない。
第5当裁判所の判断
1本願発明について
(1)本願明細書(甲3の2)には,以下の記載がある。
【背景技術】
【0003】
ハンドヘルドで,かつ固定してマウントされたバーコードおよび機械コードリー
ダー,等の多くの伝統的なイメージャーリーダーは,CCD(電荷転送素子)ベースの
イメージセンサを用いている。CCDベースのイメージセンサは,入射光エネルギー
を電荷のパケットに変換する電気的に結合された光感受性フォトダイオードのアレ
イを含む。動作において,電荷パケットは,以下の処理のために,CCDイメージセ
ンサの外にシフトされる。
【0004】
いくつかのイメージリーダーは,CMOSベースのイメージセンサを代替的な撮像技術
として用いる。CCDでは,CMOSベースのイメージセンサは,入射光エネルギーを電
荷に変換する光感受性フォトダイオードのアレイを含む。しかしながら,CCDと異
なり,CMOSベースのイメージセンサは,2次元アレイ内の各ピクセルが,直接アド
レスされることを許す。これの1つの利点は,フルフレームのサブ領域を,独立に
アクセスすることができることである。CMOSベースのイメージセンサのもう1つの
利点は,一般に,それらは,ピクセル当たりのより低いコストを持つことである。
これは主に,CMOSイメージセンサが,マイクロプロセッサ等の共通集積回路を製造
する高体積ウェハ製造施設内で,標準CMOSプロセスにより作られることによる。よ
り低いコストに加えて,共通製造プロセスは,CMOSピクセルアレイを,クロックド
ライバ,デジタルロジック,A/Dコンバータ等の他の標準的な電子デバイスととも
に単一回路上に集積できることを意味する。これは,次に,空間的要件を低減し,
電力の使用を低下させるさらなる利点を有する。
【0005】
CMOSベースのイメージリーダーは,伝統的にピクセルをセンサアレイ内に露出させ
るために,回転式シャッターを使ってきた。回転するシャッターアーキテクチャに
おいては,行ピクセルが活性化され,順に読み出される。1ピクセルのための露光
あるいは積分時間は,ピクセルがリセットされるのと,その値が読み出されるのと
の間の時間である。この概念は,図2Aに表される。図2Aにおいて,行「a」か
ら「n」の各行のための露光は,バー4a…4n(一般に,4)で表現される。各バー
の水平の伸び8は,特定の行のための露光期間に対応することが意図される。各バー
4の水平配置位置は,各行のピクセルが露出されるシフト時間期間を示唆するもの
である。図2Aに見られるように,順次の行の露光期間は,重なり合う。これは図
2Bに示される回転シャッターアーキテクチャのためのタイミング図に関してより
詳細に示される。該タイミング図の,第2の12ライン,および第3の16ライン
は,それぞれ,行aのためのリセットタイミング信号,および読み出しタイミング
信号を表している。第4の20ライン,および第5の24ラインは,それぞれ,行
bのための,リセットタイミング信号,および読み出しタイミング信号を表してい
る。両図2Aおよび2Bにおいて示されるように,行bのための露光は,行aにつ
いて値が読み出される前に開始される。隣接する行ピクセルのための露光時間は,
代表的に,数百行のピクセルを,1フレームのデータの捕獲の間に露出し,読み出
さなければならないため,実質的にオーバーラップする。第1のライン28上の照
明タイミングにより示されるように,そのオーバーラップする露出期間を持つ回転
シャッターアーキテクチャは,照明がすべての行に対して与えられるよう,照明源
が1フレームのデータを獲得するのに必要とされる実質的にすべての時間の間中
残っていることを要求する。
【0006】
動作において,回転するシャッターアーキテクチャは,少なくとも2つの不利を受
ける;イメージ歪と,イメージぼやけ,である。イメージ歪は,各行のピクセルが
露出される時間が異なることによる結果物である。イメージ歪の効果は,速く動く
物体が見られるように記録されるとき,最も顕著である。その効果は,バスのイメー
ジピクセル50が,視野のフィールドを右から左へ通過するのを回転するシャッ
ターで撮ったイメージを表す図3に示されるイメージにおいて証明される。上端行
のバスイメージピクセル54は,底の行のピクセル58より早くにとられ,かつバ
スは左に進んでいるので,底の行のバスイメージピクセル58は,上端行のバスイ
メージピクセル54に対し,左に変位される。
【0007】
イメージぼやけは,イメージリーダーでの回転するシャッターアーキテクチャにお
いて代表的に要求される長い露出時間の結果物である。上記したように,回転する
シャッターアーキテクチャにおいては,照明源は,1フレームのデータを獲得する
のに必要とされる実質的にすべての時間の間,残っていなければならない。バッテ
リー,および/または照明源の限界により,1全フレームのデータの獲得の間に与
えられる光は,短い露出時間では通常充分ではない。短い露出時間なしでは,ぼや
けを起こす効果が顕著となる。ぼやけを起こす効果の共通の例は,例えば,ハンド
ヘルドイメージリーダーの手ぶれによるイメージセンサの変位を含む。
【0008】
イメージ歪およびイメージぼやけを含む,現在のCMOSイメージリーダーの欠点を
克服するイメージリーダーが必要とされる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は,目標の鋭い歪んでいない像を獲得するためのイメージリーダー,および
対応する方法を特徴づける。1つの実施形態において,該イメージリーダーは,す
べて互いに電気的に通信する,2次元CMOSベースイメージセンサアレイ,タイミン
グモジュール,照明モジュール,および制御モジュールよりなる。該照明モジュー
ルは,反射された光が,該イメージセンサアレイにより集められて処理されるよう
に,1次元,または2次元バーコードのようなシンボロジーのような目標上に,光
を照射する。その間に目標が照明される時間は,照明期間といわれる。イメージセ
ンサアレイによるイメージの捕獲は,1つの実施形態においては,アレイ内のすべ
ての,または実質的すべてのピクセルを同時に露出させることのできるタイミング
モジュールにより駆動される。センサアレイでのピクセルの同時の露出は,イメー
ジリーダーをしてひずみのない像を獲得することを可能とする。ピクセルが集合的
に活性化されて,入射光を電荷に光変換する時間は,センサアレイのための露出期
間を定義する。該露出期間の終わりに,集められた電荷は,データが読み出される
まで,シールドされたストレージ領域に転送される。1つの実施形態において,露
出期間,および照明期間は,制御モジュールの制御の下にある。1つのそのような
実施形態において,該制御モジュールは,少なくとも露出期間の一部を,照明期間
内に起こらせる。照明期間,あるいは低い雰囲気照明の環境における露出期間,あ
るいは高い雰囲気照明の環境における露出期間を十分に短くすることにより,本発
明のイメージリーダーは,実質的にかすみのない像を,獲得することが可能である。
【0059】
・・・該プロセス300は,目標を照明光162で照らすよう,照明源を活性化す
る(ステップ304)ことを含む。1つの実施形態において,照明源の活性化は照
明制御タイミングパルス350に応答して起こる。活性化された照明源による目標
の照明は,照明制御タイミングパルス350の期間の間起こる。1つの実施形態に
おいて,照明源は,光源160であり,照明制御タイミングパルス350は,照明
モジュール104内の照明制御モジュール164によって生成される。プロセス3
00はまた,グローバル電子シャッターを作動させて,イメージセンサアレイにお
ける複数の行の複数のピクセルを,(ステップ312で)同時に露出させ,入射する
放射を電気エネルギーに変換することを含む。複数のピクセルの同時の起動は,露
出制御タイミングパルス354に応答して起こる。1つの実施形態において,複数
のピクセルの同時の起動は,露出制御タイミングパルス354のスタート位置36
0に応答して起こる。さらなる実施形態において,露出制御タイミングパルス35
4は,センサアレイ制御モジュール186のグローバル電子シャッター制御モ
ジュール190(図5B)によって生成される。
【0069】
・・・リセットゲート(RG)をもつリセットトランジスタ,転送ゲート(TG),信号
トランジスタ(SIG),行選択ゲートをもつ行選択トランジスタ(RSEL),光検出器(P
D),および浮遊拡散(FD)。グローバルシャッターの動作は,図11に示される実
施形態,およびここで図12として再生されるタイミング図に関して,米国特許No.
6,552,323のカラム3,25-45行に記述されている。その開示は,読
み出しが,センサの各ピクセルにおける,集められた信号電荷の光検出器30a,
30bから浮遊拡散10a,10bへの転送が同時になされることにより始まるこ
とを示している。次に,行選択1(15)は,オンされ,浮遊拡散1(10a)の
信号レベルは,SS1にパルスを与えることにより,列回路20aによりサンプルさ
れ,保持される。行選択1(15)は,そののちオフされ,行選択2(25)が
オンされ,浮遊拡散2(10b)の信号レベルは,SS2にパルスを与えることによ
り,カラム回路20bによりサンプルされ,保持される。読み出しされている行に
おける浮遊拡散10a,10bは,そののち,RGにパルスを与えることにより,リ
セットされる。次の行選択2(25)はオフされ,行選択1(15)はオンされ,
浮遊拡散1(10a)のリセットレベルは,SRlにパルスを与えることにより,列
回路20aによりサンプルされ,保持される。行選択1(15)は,そののちオフ
され,行選択2(25)は,オンされ,浮遊拡散2(10b)のリセットレベルは,
SR2にパルスを与えることにより,サンプルされ,保持される。列回路20a,2
0bによりサンプルされ,保持された信号の読み出しは,そののち,イメージセン
サの次の行において始まるサンプルピクセル読み出しに先立ってなされる。
(2)本願発明の概要
ア技術分野・背景技術
本願発明は,CMOSベースのイメージセンサを撮像技術として用いる,ハンド
ヘルドで,かつ固定してマウントされたバーコードおよび機械コードリーダー等の
イメージリーダーに関するものである(段落【0003】,【0004】)。
イ課題
回転式シャッターを使う伝統的なCMOSベースのイメージリーダーは,各行の
ピクセルが露出される時間が異なることによる「イメージ歪」及び照明源によって
与えられる光が充分でないことから要求される長い露出時間における手ぶれ等によ
る「イメージぼやけ」が生じるという課題があった(段落【0005】~【000
7】)。
ウ課題を解決するための手段
本願発明は,「露光期間中に同時に,前記2次元イメージセンサアレイの複数の行
のピクセルを露光するように配置されたグローバル電子シャッター制御モジュール
であって,2次元イメージセンサアレイにおける複数の行のピクセルの露光が同時
に開始されるように,グローバル電子シャッター制御モジュールが2次元イメージ
センサアレイを制御するように構成される,グローバル電子シャッター制御モ
ジュール」を有することにより前記課題を解決するものである(【請求項1】)。
エ効果
回転式シャッターに代えてグローバル電子シャッター制御を行うことによって,
複数の行でタイミングが異なっていた露光が同時に開始されることにより「イメー
ジ歪」が起こらなくなり,また,照明期間,あるいは低い雰囲気照明の環境におけ
る露出期間,あるいは高い雰囲気照明の環境における露出期間を十分に短くするこ
とにより,実質的にかすみのない像を獲得することが可能となる(段落【0022】)。
2取消事由1(引用発明の認定の誤り)について
(1)甲1には,以下の記載がある。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,バーコード読み取り技術に関し,特にイメー
ジセンサによるバーコード読み取り技術に関するものである。
【0005】このように,携帯端末に一体化されたバーコード読み取り装置では,
一般的に2次電池をバッテリーとするため,連続動作時間延長のためにも,各部の
消費電力は極力抑えなければならず,それはセンサーにとっても例外ではない。ま
た,装置全体でみた場合,最も電力消費が大きいのは照明用の光源(一般的にはLED
が用いられる)であり,この光源の電力を削減することは最も有効な手段の1つで
もある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】そのような背景を鑑みて,世の中のバーコード読
み取り装置を調べたところ,CCDを用いて読み取りを行っているものの多くが図2
に示したようなタイミング概念図で駆動している。まず読み取りのトリガーがONさ
れるまで,センサ駆動はスリープ状態にあり,電源を始めクロック(CLK)やセンサー
駆動に必要なパルスは入力されていない。この状態で,トリガーが与えられると,
まずセンサは装置の電源オフ時にフォトダイオードに貯まっていた不必要な電荷を
捨て,同時に垂直転送路の不必要な電荷を排除するためのリセット動作を行う。
【0007】次にリセットが終了した段階で,任意の露光時間でフォトダイオード
の電荷蓄積を行う。この電荷蓄積の終了した段階で,垂直,水平転送路に電荷を運
びセンサ外部に伝えていた。
【0008】しかし,このリセット動作には1画面分の電荷をリセットする必要が
あるため,時間としては1画面分の走査時間を必要する。そのためトリガースイッ
チが押されてからバーコードを読み取るまでの立ち上がり時間が長時間かかってい
た。この問題を解決するために特開平08-044812では,リセット期間だけを高速の
パルスで駆動し,立ち上がり時間を早くするアイデアが出されている。しかしこの
アイデアは消費電力が増大するという問題が残っている。
【0009】また,バーコード読み取り装置は図2のように,3フレーム分動作さ
せ,1回目は上記説明によるリセット動作,2回目はプリ露光,3回目に本露光と
同時に,2回目のプリ露光で決定されたゲインをかけ出力している。
【0010】この一連の動作の中で,露光時間は一定であり,本露光はゲイン調整
だけで行っているため,光量が十分取れない状況下では,2値化が十分行えないこ
とも考えうる。
【0011】本発明は,静止画撮像可能なバーコード読み取り装置において,確実
に,且つ高速にバーコード読み取りを行い,低消費電力でセンサを駆動することを
目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明の一観点によれば,イメージ画像及びバーコー
ドが読み取り可能なバーコード読み取り装置であって,光電変換により2次元画像
を生成するためのイメージセンサと,バーコードを読み取る際,前記イメージセン
サのプリ露光動作において水平及び垂直方向の両方で間引いた画素の信号だけを読
み出し,該プリ露光動作にて読み出した信号に応じて本露光動作を行って全ての画
素の信号を読み出す制御手段とを有することを特徴とするバーコード読み取り装置
が提供される。
【0014】プリ露光動作において間引いた画素信号を読み出すことにより,読み
出し時間を短くすることができる。また,プリ露光動作にて読み出した画素信号に
応じて本露光動作を行って画素信号を読み出すことにより,読み取りエラーを防止
することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】図1は,本発明の実施形態によるバーコード読み取り装置の
ブロック構成図である。
【0016】図1において,1は一般的な被写体像や,白黒のパターンで記載され
たバーコードの被写体像をセンサー面に結像するためのレンズ部である。2から5
はバーコードを照明するための赤色発光ダイオード(LED)で,イメージセンサー1
の周囲に撮影対象物を十分な光量で均一に照らすために,高輝度型のものを上,下,
右,左,各4個ずつ合計16個配置してある。6は撮像素子部であり,光電変換に
より2次元画像を生成するためのCMOS型のイメージセンサーを用いる。7はイメー
ジセンサー6に駆動クロックを供給するタイミング信号発生器(TG)で,システム
制御部8で演算された露光時間の情報を受け,それに従ってイメージセンサー6の
露光時間を可変する。10は,イメージセンサー6の画像出力信号を増幅する増幅度
可変の増幅器(AGC)で,システム制御部8で演算された増幅度の情報を受け,それに
従って増幅度を可変する。増幅器10で増幅された画像信号は11のA/D変換器で
量子化されて,12の信号処理部(回路)に入る。ここでは,バーコード信号の2値
化,解読などを行うと共に画像信号の平均値を演算し,そのしきい値をシステム制
御部8に送る。システム制御部8はLED駆動部9を通してLEDのオン,オフを制御
し,また信号処理部12からのしきい値により,タイミング信号発生部に送る光電変
換時間の情報と増幅器に送る増幅度情報を決定する。また露光時間の初期設定や,
システム制御部8の初期設定はROM18に格納されている。次に13は信号処理のた
めの画像メモリである。またこれらの解読が終わった状態でその情報を外部のパー
ソナルコンピュータ(パソコン)14に伝えたり,またモニター15に表示したり,解
読終了や解読ミスを伝えるためのブザー16に伝える。また記録媒体17を用意し,
今までの解読した情報を蓄えることも可能である。
【0017】図3は本実施形態におけるCMOS型のイメージセンサーのブロック図
で,センサはm行×n列の画素S11~Smnから成るが,m行×n列に限定されるもの
ではない。
【0018】図4は画素の詳細図で,この図で光信号電荷を発生するフォトダイオー
ドPDはアノード側が接地されている。フォトダイオードPDのカソード側は,電荷
転送スイッチTXを介して,増幅MOSトランジスタM3のゲートに接続されている。
また,上記増幅MOSトランジスタM3のゲートには,これをリセットするためのリ
セットMOSトランジスタM1のソースが接続され,リセットMOSトランジスタM1の
ドレインは,リセット電圧VRに接続されている。さらに,上記増幅MOSトランジス
タM3のドレインは,動作電圧VDDを供給するための行選択MOSトランジスタM2に
接続されている。
【0019】次に,本実施形態の固体撮像装置の駆動方法を図3,図4と,図5の
タイミング図で説明する。
【0020】図3の転送MOSトランジスタTXのゲートを一行目からm行目までの
全ての画素について同時に選択する信号TXaが,各行ごとに全ての画素を選択する
信号の転送パルスTX1~TXn(判決注:「TXm」の誤記と認める。)とのOR回路を通し
て各転送MOSトランジスタTXに接続されている。また,全ての画素の増幅MOSト
ランジスタM3のゲートを同時にリセットするために,一行目からm行目までの全
ての画素のリセットMOSトランジスタM1のゲートを同時に選択する信号RESaが,
各行ごとに全ての画素をリセットするパルスRES1~RESn(判決注:「RESm」の誤記
と認める。)とのOR回路を通して各リセットMOSトランジスタM1に接続されてい
る。
【0021】このイメージセンサにおいて,まずリセットMOSトランジスタM1の
ゲートへのパルスφRESa,転送MOSトランジスタTXのゲートパルスφTXaおよび,
垂直信号線リセットMOSトランジスタM8のゲートへのパルスφVRESがハイレベル
となる。これによって,増幅MOSトランジスタM3のゲートとフォトダイオードPD
が電圧VRに,垂直信号線V1~Vnが電圧VVRにリセットされる(図5のt2まで)。
【0022】次に,φTXaがローレベルになりフォトダイオードPDには光に応じた
電荷の発生が可能になる(t2)。LEDを点灯するモードではt2に先行して,制御信
号φLEDがハイレベルになりLEDを点灯する(t1)。続いて,リセットMOSトランジ
スタM1のゲートへのパルスφRESa,垂直信号線リセットMOSトランジスタM8の
ゲートパルスφVRES,がローレベルとなり,M1のゲート(判決注:「M3のゲート」
の誤記と認める。)と垂直信号線のリセットが解除される(t3)。時刻t3から所定の
時間後,φTXaを再度ハイレベルにしてフォトダイオードPDの電荷を増幅MOSトラ
ンジスタM3のゲートに転送する(t4)。
【0023】転送に十分な時間を経て,φTXaを再度ローレベルにしてフォトダイ
オードPDの電荷転送を終了する(t5)。このとき,t2からt5の間が光電変換時間
となる。LEDを点灯するモードでは,転送終了後にLEDを消灯する(t6)。次に,選
択MOSトランジスタM2のゲートパルスφSEL1および,光信号転送MOSトランジス
タM5のゲートパルスφTSがハイレベルとなる(t7)。これによって光信号電圧が光
信号保持容量CTSに読み出される(t7~t8)。容量CTSに読み出した後,リセット
MOSトランジスタM1のゲートへのパルスφRES1,垂直信号線リセットMOSトランジ
スタM8のゲートパルスφVRESがハイレベルとなり,M1のゲート(判決注:「M3の
ゲート」の誤記と認める。)と垂直信号線がリセットされる(t9)。続いてφRES1と
φVRESがローレベルとなり(t10),M1のゲート(判決注:「M3のゲート」の誤記と
認める。)と垂直信号線のリセットが解除された後,選択MOSトランジスタM2のゲー
トパルスφSEL1および,ノイズ信号転送MOSトランジスタM4のゲートパルスφTN
がハイレベルとなる(t11)。これによってノイズ電圧が光信号保持容量CTN(判決
注:「ノイズ信号保持容量CTN」の誤記と認める。)に読み出される(t11~t12)。こ
の後,水平走査回路ブロックHSRからの信号H1~Hnによって,各列の水平転送ス
イッチM6,M7のゲートが順次ハイレベルとなり(t14~t15),ノイズ保持容量CTN
(判決注:「ノイズ信号保持容量CTN」の誤記と認める。)と光信号保持容量CTSに
保持されていた電圧が順次差動回路ブロックに読み出される。差動回路ブロックで
は,光信号とノイズ信号との差がとられ,出力端子VOUTに順次出力される。
【0024】以上で,第1行目に接続された画素セルの読み出しが完了する。この
後,第2行目の読み出しに先立って,ノイズ信号保持容量CTNおよび光信号保持容
量CTSのリセットスイッチM9,M10のゲートへのφCTRがハイレベルとなり,VRCT
にリセットされる。
【0025】以下同様に,垂直走査回路ブロックVSRからの信号によって,第2行
目~第m行目に接続された画素セルC21~Cmn(判決注:「S21~Smn」の誤記と認め
る。)の信号が順次読み出され,全画素セルの読み出しが完了する。
【0026】以上の動作説明から,このようなCMOSイメージセンサは,センサのス
リープ状態から復帰する時に,一画面分の走査を必要とせず,一括リセットのみで
立ち上がり完了となり,高速なパルスを必要とすることなく,低消費電力駆動が可
能となり,なおかつバーコード読み取りまでのセンサの早期立ち上げを可能とする。
【0027】次に本実施形態の間引きモードについて説明する。図6は図3で述べ
たセンサ回路図のうちの間引きモードを行うための水平走査回路ブロックHSRの回
路構成図であり,図7は間引きモードを説明するためのタイミング図である。
【0028】なお,構成としては垂直走査回路ブロックVSRも同じであるのでここ
では水平走査回路ブロックHSRのみで説明していく。
【0029】ここで述べる通常モードは,バーコードを読み取る時の本露光時に行
う動作である。ここで図解してはいないが,通常モードのおけるHSRの動作につい
て説明する。このときφHMODEは常にローレベル(LOW)である。これにより,フ
リップフロップFF2やFF5の入力についているAND回路がスルー状態になる。また,
それ以外のAND回路は常に不通状態となる。このような状態で,まずHSRのスター
トパルスとしてφPHSTが入力される。その後,φPHに同期してそのスタートパル
スが遅延しながら走査されていく。それと同時に出力としてH1~Hnが出力されて
いく。次に図7のタイミングと共に間引きモードについて述べていく。
【0030】この間引きモードはプリ露光期間中に行う動作である。まずt1で
φHMODEをハイレベル(High)にする。その状態でφPHSTによりスタートパルスを
フリップフロップFF1に入力し(t2),φPHSTがHighの時にφPHを入力し(t3),そ
の情報を遅延させて次のフリップフロップに伝播させていく。その後,t4でφPH
が入力されるとFF1からの出力と同時にH1に出力され,それとともにFF2の入力
にあるAND回路に入力される。しかしここでφHMODEがHighなっていると,2入力
AND回路の片側の入力がLOWになっているため,もう片方の入力に何が入力されて
もLOWが入力される。次のφPHでFF2が駆動してもH2からはLOW,つまり0しか
出力されない。また,これと同時に,FF2の上に配置してあるAND回路にもFF1の
出力が伝えられる。このときφHMODEがHighの時にだけこのAND回路はFF1から
の出力をスルーするようになっている。これにより,FF1の出力はFF2を超えてFF3
に伝播していく。このためt5でFF3からの出力と同時にφH3の出力となる。この
出力と同時にFF4,FF5を飛び越えて,FF6に伝播していく。t6でφPHにパルスが
入力されるとFF6から出力と同時にφH6の出力となる。ここでは便宜上,FF6まで
しか記載してないが,このままFFnまで伝播していき,最終的にはφHnまでの出力
となる。この時飛ばしたいフリップフロップは上記で述べた方法で行うことが可能
である。
【0031】最後にt7でφHMODEをLOWにし,t8でφHRSTaを入力し,フリップ
フロップのリセットを一括で行う。以上がHSRで間引きモードを行う一連の動作で
ある。
【0032】なお,ここではフリップフロップでスタートパルスを遅延させながら
伝播させていく回路を述べたが,これだけに止まらず,例えば,スイッチング回路
で情報を伝播させても良いし,またカウンターで構成し,その値でH1~Hnを出力す
るような回路を構成しても良い。
【0033】このような間引き回路により,例えば図9に示すように,全画素領域
901において黒点の位置の読み取り画素902のみ読み取ることによって行う。これ
は中央の被写体の割合が大きくなるようなところを細かく読み出し,それ以外のと
ころは水平,垂直方向で読み取り間隔を広げて読み取る。以上のことにより,プリ
露光期間中は間引きモードで画素を読み出し,読み出し転送時間を短くする。これ
により本露光までの時間を短くすることが可能となり,バーコード読み取りのため
のトリガースイッチが押された後,短時間で読み取ることが出きる。
【0034】図8は,本実施形態のバーコード読み取り装置の動作を説明するため
のフローチャートである。
【0035】まず,バーコード読み取りのためにトリガースイッチがONされる
(S801)。その直後に上記で述べたようにセンサの画素部で一括リセットされる
(S802)。また装置そのものにはバーコード読み取りか,静止画読み取りのための撮
像モードかの2種類の設定があり,その条件判断により各モードに切り替わる
(S803)。
【0036】まずここで,撮像モードである場合,照明用のLEDがオフ(OFF)にな
る(S805)。これはある特定の色であるLEDを照明光として用いると,被写体の色と
して,ある特定の色だけ強調され,また別の特定の色は感度が得られなくなるから
である。またバーコード読み取りモードの時は照明用のLEDをオン(ON)する(S804)。
【0037】その後,プリ露光となる間引きデータを読み込む(S806)。このときバー
コード読み取りモードでは,このLEDがONされている照明時間を,本露光で用いる
照明時間よりも短くしても構わない。その後,これらのデータを図1のA/D変換器
11でディジタル変換し,処理回路12で積分し平滑化することで平均値を算出する
(S807)。この平均値が,予め設定された基準値よりも大きいか,小さいかでその後
の本露光における処理を変える。またその基準値からどのくらい離れているかでそ
れぞれの設定量を変えていく。
【0038】まず,この平均値が基準値よりも小さい場合について述べる。この状
況は被写体が暗い場合である。このようなときにまずセンサの電子シャッターの
シャッター時間などにより露光時間を長くするために,露光時間を算出する(S809)。
それと共にバーコード読み取りモードのときにはLEDの点灯時間も長くする(S810)。
またこの時間を算出するには先で述べた平均値が,基準値よりどのくらい離れてい
るかで変化させる。撮像モードのときは既にLEDはOFFされているのでLEDの点灯
時間に関しては省略する。またこの露光時間はバーコード読み取り装置を手で持つ
際の手ぶれに影響するため,露光時間の最大値として1/120秒ぐらいを予め図1に
述べたROM18に書き込んでおく。次のステップS811でこの露光時間の最大値を基
準判断とし条件分岐する。
【0039】ここで,露光時間算出結果が最大値を超えてなければ,算出された露
光時間の設定で全データを読み込む(S821)。最大値を超えそうならば次のステップ
に進み,省電力モードかどうかを判断する(S812)。これはユーザーが予め設定する
ことが可能である。この省電力モードの場合,次のステップS814でどのくらいゲイ
ンを与えればよいか計算し,その所望の値で全データ読み取り動作に入る(S821)。
このとき露光時間と与えるゲインの兼ね合いで最適なものを選ぶように調整される。
また撮像モードのときは無条件にYESが選択されるように処理する。
【0040】次に省電力モードでない場合,照明用LEDの発光強度を強くする(S813)。
ここではどのくらい強度を強めたらよいかを計算する。例えば電圧を上げるなどし
て発光強度を強めるわけだが,このとき用いるLEDの特性や,装置全体のシステム
電圧などにより一意的に最大値が決まる。この最大値を図1のROM18に予め書き込
み,この値を超えるようならば次のステップでアナログゲインを調整する(S814)。
このように露光時間と,発光強度,ゲイン量の兼ね合いで最適なものを選ぶように
調整され,その設定で本露光のために全データを読み取る(S821)。最大値を超えな
い場合にはゲインは変化させずに露光時間,発光強度だけで調整し全データを読み
込む。
【0041】次に先に述べた,間引きデータの平均値を算出した後の基準値よりも
大きい場合,つまり被写体が明るい場合について述べる。
【0042】ここではまずセンサの電子シャッターなどを用いた露光時間を短くす
るために,露光時間を算出する(S815)。それと共にバーコード読み取りモードのと
きにはLEDの点灯時間も短くする(S816)。またこの時間を算出するには先で述べた
平均値が,基準値よりどのくらい離れているかで変化させている。撮像モードのと
きは既にLEDはOFFされているのでLEDの点灯時間に関しては省略する。またこの
露光時間はセンサの感度や,LEDの明るさに応じて,露光時間の最小値は変化する。
この最小値を予め図1に述べたROM18に書き込んでおく。次のステップS817でこ
の露光時間の最小値を基準判断とし条件分岐する。
【0043】ここで,露光時間算出結果が最小値を超えてなければ,その算出され
た露光時間の設定で全データを読み込む(S821)。計算結果が最小値を超えそうなら
ば次のステップに進み,省電力モードかどうかを判断する(S818)。この省電力モー
ドでない場合,次のステップS820でどのくらいゲインを与えればよいか計算し,そ
の算出された値で全データ読み取り動作に入る(S821)。このとき露光時間と与える
ゲインの兼ね合いで最適なものを選ぶように調整される。また撮像モードのときは
無条件にNOが選択されるように処理する。
【0044】次に省電力モードの場合,照明用LEDの発光強度を弱くする(S819)。
ここではどのくらい弱めたらよいかを計算する。例えば電圧を下げるなどして発光
強度を弱めるわけだが,最終的にはLEDのOFFが最小値となる。この状態でもまだ
調整が必要であるなら,次のステップS820でアナログゲインを調整する。このよう
に露光時間と,発光強度,ゲイン量の兼ね合いで最適なものを選ぶように調整され,
その設定で本露光のために全データを読み取る(S821)。LEDがOFFでない場合には
ゲインは変化させずに露光時間,発光強度だけで調整し全データを読み込む。
【0045】以上のような動作で本露光である全データを読み取り,図1のA/D変
換器11でディジタルに変換された後に処理回路12で2値化,デコード処理を行
いバーコードの解読を行う(S822)。これにより解読OKならば(S823),そのデコー
ド結果を出力し(S825),エラーの場合,エラーであることをユーザーに伝えるため
に例えば図1のブザー16にエラー音を出力する(S824)。
【0046】このフローチャートでは記載してないが,撮像モードの場合,全デー
タを読み取った後に,A/D変換器11でディジタル変換した後に,処理回路12で,
エッジ強調や,モニターの特性に合わせたガンマ特性を掛けるなどする。なお,撮
影モード時には,ステップS810,S816,S821~S824が省略される。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
(2)引用発明の認定
ア各画素における光信号電荷の蓄積及び蓄積された光信号電荷の増幅MO
SトランジスタM3のゲートへの転送について
前記(1)で認定した甲1の段落【0021】~【0023】及び【図5】には,「転
送MOSトランジスタTX」が,段落【0021】に「まず」と記載された時点か
らt2まで及びt4からt5までの各期間に,「各行ごとに全ての画素を選択する
信号の転送パルスTX1~TXm」ではなく,「転送MOSトランジスタTXのゲー
トを一行目からm行目までの全ての画素について同時に選択する信号TXa」に
よって制御されることが記載されている。
また,甲1の段落【0021】,【0022】,【0026】及び【図5】には,段
落【0021】に「まず」と記載された時点からt3までの期間に,「増幅MOSト
ランジスタM3のゲートを同時にリセットするためリセットMOSトランジスタM
1」が,「各行ごとに全ての画素をリセットするパルスRES1~RESm」ではな
く,「一行目からm行目までの全ての画素のリセットMOSトランジスタM1のゲー
トを同時に選択する信号RESa」によって制御されることが記載されている。
従来の回転式シャッターでは,各行ごとに露光がされるから,リセットについて
も各行ごとにされればよいところ,甲1の段落【0026】で「一括リセット」と
記載されているように,甲1がTXa及びRESaで一括してリセット動作をして
いることは,引用発明が従来の回転式シャッターではなく,全画素同時露光,すな
わち,本願発明にいうグローバル電子シャッターと同じ構成を備えていることを推
認させる。
以上からすると,上記のようにTXa及びRESaによって制御される,①t2
の時点で開始されるフォトダイオードPDのリセットを解除してフォトダイオード
PDのカソード側に光信号電荷を蓄積する動作,②t4の時点で開始される蓄積さ
れた光信号電荷を増幅MOSトランジスタM3のゲートへ転送する動作,③t5の
時点で上記転送を終了する動作は,各行ごとの画素について行われるものではなく,
1行目からm行目までの全ての画素について同時に行われるものであると認めるの
が相当である。
イ画素セルの読み出しについて
甲1の段落【0023】には,「これによって光信号電圧が光信号保持容量CTS
に読み出される(t7~t8)」,「これによってノイズ電圧がノイズ信号保持容量C
TNに読み出される(t11~t12)」,「差動回路ブロックでは,光信号とノイズ
信号との差がとられ,出力端子VOUTに順次出力される。」などとして,t7から
t15までの時間に垂直走査回路ブロックVSRからの信号の制御により1行目に
接続された画素セルからの光信号が光信号保持容量CTSに,ノイズ信号がノイズ
信号保持容量CTNにそれぞれ読み出された後,差動回路ブロックが両信号の差を
とり,出力端子VOUTに出力する動作が記載されており,それを受けて,段落【0
024】では「以上で,第1行目に接続された画素セルの読み出しが完了する。」と
記載され,さらに同段落の直後にある段落【0025】には「以下同様に,垂直走
査回路ブロックVSRからの信号によって,第2行目~第m行目に接続された画素
セルS21~Smnの信号が順次読み出され,全画素セルの読み出しが完了する。」
と記載されている。
上記のような各段落の記載内容からすると,前記アのとおりt5までの時点で全
画素セルにおいて同時的に蓄積され,増幅MOSトランジスタM3のゲートへ転送
された光信号が各行ごとに画素セルから読み出されるとともに,各行ごとに画素セ
ルからノイズ信号も読み出され,最終的にその差が出力端子VOUTに出力される
ことを意味しているものと認められる。
ウなお,前記ア,イの認定を前提とすると,段落【0022】に記載され
たt3時点のφVRESによる垂直信号線V1~Vnのリセット解除は1行目の画
素セルから光信号を読み出す際の動作として記載されたものであると認められ,2
行目以降の画素セルからの光信号の読み出しに関し,垂直信号線V1~Vnのリ
セットの解除がどの段階で行われるのかは,甲1の各段落や【図5】のタイミング
図には明示されていないこととなる。
しかし,φVRESがハイレベルのままだと光信号の読み出しができず,遅くと
も2行目以降の画素セルから光信号を読み出す直前までのタイミングにφVRES
をローレベルにしてリセット解除する必要があることは当業者には自明であり,そ
のために甲1に2行目以降の画素セルから光信号を読み出す際にφVRESをロー
レベルにするタイミングが明示的に記載されなかったものと推認できるから,垂直
信号線V1~Vnのリセット解除について,t3以外に甲1に明示的な記載がない
からといって,前記ア,イの認定は左右されないというべきである。
また,前記ア,イの引用発明の認定を前提とすると,引用発明では,TX1~T
Xmが何ら用いられていないことになり,甲1の段落【0020】に「各行ごとに
全ての画素を選択する信号の転送パルスTX1~TXm」としてTX1~TXmに
ついての説明があり,【図3】でTXaとTX1~TXmによるOR回路が図示され
ていることの技術的意義は必ずしも明らかではないといえるが,これまで検討して
きたところに照らすと,そのことのみで,前記ア,イの認定は左右されるものでは
ない。
エ小括
以上からすると,本件審決が認定したとおり,引用発明は,「全ての画素S11~
Smnにおいて,同時に,フォトダイオードPDのカソード側に光信号電荷が蓄積
され,その後,蓄積された光信号電荷が,同時に増幅MOSトランジスタM3のゲー
トに転送され,その後,同時に光信号電荷の増幅MOSトランジスタM3への転送
が終了し(t2~t5)」という構成を備えているものと認められ,本件審決の引用
発明の認定に誤りはない。
(3)原告の主張について
原告は,①t2時点,t5時点におけるTX2~TXmの信号の状態について甲
1に開示がないことからすると,上記各時点で,共にOR回路の入力となるTXa
による制御がされているからといって,全ての「画素S11~Smn」で同時露光
がされているとはいえない,②t3時点におけるRES2~RESmの信号の状態
について甲1に開示がないことからすると,t3時点で,共にOR回路の入力とな
るRESaによる制御がされているからといって,全ての「画素S11~Smn」
においてリセットが解除されるとは認められず,全画素で同時露光がされていると
はいえない,③φRESa及びφTXaがハイレベルとなる以前において,全画素
のトランジスタが一括してオフ状態でなければならないことについて,甲1には記
載も示唆もない,④画素セルからの光信号の読み出しに先立って行われる垂直信号
線V1~Vnのリセットの解除について,甲1にはt3時点でφVRESをローレ
ベルにする動作しか明示されていないことや甲1の段落【0025】に垂直走査回
路ブロックVSRからの信号によって2行目~m行目の画素セルか信号を読み出す
ことが記載されていることから,引用発明では,2行目以降の画素セルについて,
【図5】のタイミング図の最初に戻って順次処理がされることが裏付けられる,⑤
引用発明の課題は,グローバル電子シャッターとは無関係であるし,本件で問題に
なっている甲1の段落【0020】~【0025】の記載は,センサの立ち上げモー
ドについて記載したものであり,バーコードを読み取る動作に関する何らかの機能
を示唆するものではない,⑥本件審決が認定する引用発明の構成は甲18,19か
ら認められる技術常識に反すると主張する。
ア上記①~③について
t2時点,t5時点におけるTX2~TXmの信号の状態について甲1に開示が
なく,上記各時点で,TXaによる制御がされており,また,t3時点におけるR
ES2~RESmの信号の状態について甲1に開示がなく,t3時点で,RESa
による制御がされていることから,前記(2)アのとおり,全画素セルで同時露光がさ
れていると認められる。
仮に,原告が主張するとおり,引用発明において,各行ごとに,画素セルの露光
が行われるとすると,上記の各時点における制御は,TXa及びRESaではなく,
TX1~TXm及びRES1~RESmによってされるのが合理的であるところ,
甲1には,そのような記載はない。
また,仮に原告が主張するとおり,t2及びt5の時点でTXaがローレベルに
なる一方で,TX2~TXmがハイレベルになっている(なお,t2以前からハイ
レベルとなっている場合も含む。)と,2行目以降の画素セル内で電荷の蓄積が開始
されないし,電荷転送も終了しないことになるが,電力消費という観点からは無駄
であり,そのような不合理な動作が引用発明において行われるとは考え難い。
同様に,t3の時点でRESaがローレベルになる一方で,RES2~RESm
がハイレベルになっている(なお,t2以前からハイレベルの場合を含む。)と,2
行目からm行目に接続された画素セル中の増幅トランジスタM3のゲートのリセッ
トは解除されないが,これも露光を行わない画素についてリセットMOSトランジ
スタを駆動することになり,電力消費の点で無駄があるという点では上記と同様で
あり,やはりそのような不合理な動作が引用発明において行われるとは考え難い。
イ上記④について
上記④のうち,画素セルからの光信号の読み出しに先立って行われる垂直信号線
V1~Vnのリセットの解除について,甲1にはt3時点でφVRESをローレベ
ルにする動作しか明示されていないことについては,前記(2)ウのとおりである。
また,垂直走査回路ブロックVSRからの信号によって2行目以降の画素セルか
らの信号が読み出されるとの甲1の段落【0025】の記載についても,前記(2)イ
で検討したとおり,垂直走査回路ブロックVSRからの信号SEL1~SELm及
びRES1~RESmによる制御によって画像セルからの信号の読み出しがされる
ことを指すものと解されるのであり,原告の主張を裏付けるものとはいえない。
ウ上記⑤について
(ア)甲1の段落【0020】~【0025】の記載について,原告は,
センサ立ち上げモードに関連する記載であり,バーコード読み取り動作に関する何
らかの機能を示唆するものではないと主張する。
しかし,①甲1の段落【0019】に「次に,本実施形態の固体撮像装置の駆動
方法を図3,図4と,図5のタイミング図で説明する。」とあり,それに続けて段落
【0020】~【0025】が記載されていること,②引用発明のバーコードを読
み取る時の本露光時に行う動作である「通常モード」と,プリ露光期間中に行う動
作である「間引きモード」について説明した段落【0027】~【0033】では,
段落【0020】~【0025】で説明されているような露光動作の詳細は記載さ
れず,「通常モード」が,φHMODEを常にローレベルにすることにより水平走査
ブロックHSRから,信号φH1~φHn全てを順次出力するのに対して,「間引
きモード」が,φHMODEをハイレベルにすることにより水平走査ブロックHS
Rから間引かれた信号φH1,φH3,φH6を順次出力すること及び垂直走査回
路ブロックVSRも上記HSRと同じ構成であることについてのみ記載されている
ことからすると,段落【0020】~【0025】は,「通常モード」及び「間引き
モード」の双方の動作モードにおける引用発明の基本的な駆動方法を説明したもの
であると解される。甲1の段落【0026】の記載は,バーコード読み取り装置に
従来用いられていた,リセット動作に1画面分の走査時間を必要とするCCDイ
メージセンサーに代えて,引用発明が段落【0020】~【0025】に記載され
た「転送MOSトランジスタTXのゲートを一行目からm行目までの全ての画素に
ついて同時に選択する信号TXa」及び「一行目からm行目までの全ての画素のリ
セットMOSトランジスタM1のゲートを同時に選択する信号RESa」により制
御可能なCMOS型のイメージセンサーを用いることにより,立上げ時に全画素で
同時にリセットがかかるために早期に立上げ動作の完了が可能となることを説明し
ているもので,段落【0020】~【0025】がセンサ立ち上げ動作のみを基礎
付けるものではないというべきである。
(イ)引用発明の課題について,甲1には,「静止画撮像可能なバーコード
読み取り装置において,確実に,且つ高速にバーコード読み取りを行い,低消費電
力でセンサを駆動する」(段落【0011】)との課題やその課題を解決するため
の手段として,プリ露光動作において間引いた画素信号を読み出し,プリ露光動作
にて読み出した画素信号に応じて本露光動作を行って画素信号を読み出すこと(段
落【0014】,【0034】~【0046】,【図8】)は記載されているもの
の,回転式シャッターに起因するイメージゆがみ等についての課題は記載されてい
ない。
しかし,これまで検討してきたとおり,甲1の段落【0019】~【0026】
及び【図3】~【図5】には,転送MOSトランジスタTXのゲートを一行目から
m行目までの全ての画素について同時に選択する信号TXa及び一行目からm行目
までの全ての画素のリセットMOSトランジスタM1のゲートを同時に選択する信
号RESaによって光電変換時間(t2からt5の間)が制御され,露光が全ての
画素「S11~Smn」で同時に開始されかつ同時に終了するという,グローバル
電子シャッターと相違しない動作が記載されている。そうすると,これらの記載は,
グローバル電子シャッターと無関係とはいえず,前記(2)のとおり引用発明を認定
することができるというべきである。
エ上記⑥について
原告は,本件発明において,CMOS2次元イメージセンサ―アレイを用いたバー
コード読み取り装置には,通常,回転式シャッターが使用されており,CMOS2
次元イメージセンサ―アレイに回転式シャッターを使用しないと問題を引き起こす
と認識されていたと主張するので,以下判断する。
(ア)前記1の本願発明の概要(甲3の2)及び証拠(甲19,乙2)並び
に弁論の全趣旨によると,初期のCMOSイメージセンサアレイは,甲19の【図
4】,乙2の【図4】,【図5】のように,遮光された電荷保持領域を有さず,露
光によってフォトダイオードで蓄積し,転送した電荷を保持することができなかっ
たため,順次各行ごとに画素データを読み出す際に,露光(蓄積)時間が各行ごと
に一定になるように,読み出しタイミングに先行して各行ごとに露光(蓄積)が開
始されるという,いわゆる回転式シャッター(ローリングシャッター)方式が行わ
れていたが,回転式シャッターの場合,各行ごとに電荷の蓄積開始と終了のタイミ
ングがずれるために高速度で動く被写体のイメージがゆがんでとらえられるなどの
課題があったことが認められる。
(イ)a乙2には,次のような記載がある。
【0002】
【従来の技術】従来,固体撮像装置としてはそのSN比の良さからCCDが多く使
われてきた。一方,消費電力の少なさや使い勝手の良さを長所とするいわゆる増幅
型固体撮像装置の開発も行われてきた。増幅型固体撮像装置とは,フォトダイオー
ドに蓄積された信号電荷を画素に備わったトランジスタの制御電極に導き,信号電
荷量に応じた出力を前記トランジスタの主電極から増幅して出力するものである。
特にトランジスタとしてMOSトランジスタを使ったいわゆるCMOSセンサはC
MOSプロセスとのマッチングが良く,駆動回路,信号処理回路をオンチップ化で
きることから,開発に力が注がれている。
【0003】図4はCMOSセンサ画素の典型的な例を示す回路図である。1は単
位画素,2は入射光によって発生した信号電荷を蓄積するためのフォトダイオード,
3は信号電荷量に応じた増幅信号出力を出す増幅手段としての増幅用MOSトラン
ジスタ,4は信号電荷を受けMOSトランジスタ3のゲート電極に接続するフロー
ティングディフュージョン部,5はフォトダイオード2に蓄積した信号電荷をフ
ローティングディフュージョン部4に転送するための転送手段としてのMOSトラ
ンジスタ,6はフローティングディフュージョン部4をリセットするためのMOS
トランジスタ,7は出力画素を選択するためのMOSトランジスタである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記従来例においては,読み出しの
ための行を順次選択する。画素のフォトダイオードの蓄積開始,終了のタイミング
は信号電荷転送時で決まるため,行毎にフォトダイオードの蓄積開始,終了のタイ
ミングがずれることになる。二次元固体撮像装置においては,1画面すなわち1
フィールドの信号は全行の画素信号によって形成されるので,行毎の蓄積タイミン
グがずれると,高速度で動く被写体の形状がゆがんでとらえられるという問題が
あった。
【0010】そこで本発明は,信号蓄積動作の開始,終了タイミングを全画素同時
に可能とすることにより,動く被写体でもゆがみのない画像を得ることができる固
体撮像装置を提供することを目的とする。
【0020】(3)電荷保持領域21における信号電荷の保持,という動作に移る。
この動作においては転送ゲート電極19の電位はVHよりも低いVMに設定され,
その時のポテンシャルが図1(b)に示されている。この時,領域17と領域21
とを隔てる転送ゲート下のチャネル電位は領域17の電位よりも低く,しかし電荷
保持領域21の電位は領域22の電位よりも高くなるようにVMの値が決められる。
電荷保持領域21における信号電荷は,その両端に存在するポテンシャル障壁に
よって孤立し,また遮光層23のために,光励起によって発生する電子が領域21
に入り込むこともおさえられているため,信号電荷の保持動作ができる。
【0022】上記の構成,動作を持つ画素によって二次元センサが形成されるなら
ば,「フォトダイオードに蓄積された信号電荷を電荷保持領域21に転送する」と
いう動作は全画素同時に行うことができ,したがって信号蓄積動作の開始,終了タ
イミングは全画素同時となるため,ゆがみのない画像を得ることができる。また,
図1からわかるように,フローティングディフュージョン領域18は転送ゲート1
9と接していないので,フローティングディフュージョン部4の全寄生容量は,従
来構成のように転送ゲートとの容量を含まない。その分従来よりもフローティング
ディフュージョン部の全寄生容量が小さくでき,電荷変換係数が大きくしたがって
感度が高くなるという効果がある。
【図1】
b以上の記載によると,乙2には,読み取り対象をバーコードに限定
しない2次元CMOSイメージセンサアレイを用いた画像読み取り装置において,
回転式シャッター方式によって高速度で動く被写体がゆがむという課題に対して,
遮光した保持手段に電荷を保持することにより信号蓄積動作の開始,終了タイミン
グを全画素同時として当該課題を解消するという,本願発明にいうグローバル電子
シャッターに相当する構成が記載されていることが認められる。
(ウ)a乙3には,以下の記載がある。
【0055】
固体撮像素子回路部32は,第2の制御手段7の一部として機能するもので,例え
ば,CMOS(ComplementaryMetalOxideSemi
conductor)やCCD(ChargeCoupledDevice)
によって構成されている。なお,固体撮像素子回路部32は,CMOSならグロー
バルシャッタ方式,CCDならプログレッシブ方式を採用している。
【0056】
ここで,グローバルシャッタ方式およびプログレッシブ方式とは,固体撮像素子の
全画素を電気的に一旦リセットし,全画素の同時露出を開始するとともに,全画素
の同時露出を終了することができる,いわゆる,電子シャッタ方式である。
b以上の記載によると,乙3には,固体撮像素子回路部32をCMO
Sイメージセンサとした場合に,信号蓄積動作の開始,終了タイミングを全画素同
時とするグローバルシャッタ方式を採用することが記載されていることが認められ
る。
(エ)以上の(ア)~(ウ)からすると,本件優先日当時,CMOSイメージセン
サにおいて,回転式シャッターを採用した場合に,各行の画素セルが露光されるタ
イミングが異なり,高速で動く被写体について画像がゆがむなど課題があったとこ
ろ,遮光した電荷保持領域を有することにより,全画素で同時に露光を開始して終
了するという本願発明のグローバル電子シャッターに相当する構成を採用すること
によって同課題を解決できることは公知になっていたと認められる。したがって,
当業者は,本件優先日当時,CMOSイメージセンサには回転式シャッターを採用
しなければならないと認識することはなかったから,原告の上記主張は理由がない。
(オ)なお,原告は,乙2,3は,審決の理由に挙げられていないから,こ
れを本件訴訟において追加して主張することは許されないと主張するが,上記のと
おり,乙2,3を,本件優先日当時の技術常識を認定するために用いることは,審
決取消訴訟の審理範囲を超えるものではないというべきである。
また,原告は,①乙2,3は本願発明のようなバーコードスキャンに関するもの
ではない,②乙2,3には,グローバル電子シャッターに関する記載は含まれてい
ない,③乙3に記載された発明は特殊な装置に関するものである,④乙3に「露光
後に一行毎の読み出しを順次行うことで全画素の読み出しとする」ことは記載も示
唆もされていないと主張するが,上記のとおり,乙2,3には,グローバル電子シャッ
ターに相当する技術思想が記載されているのであって,乙2,3がバーコードスキャ
ンに関するものではないことや乙3が特殊な装置であること,乙3に「露光後に一
行毎の読み出しを順次行うことで全画素の読み出しとする」ことが記載されていな
いことが,上記認定を左右するものではない。
オ以上からすると,原告の主張は,前記(2)の認定を左右するものとはいえ
ず,いずれも採用することができない。
(4)小括
以上からすると,原告が主張する取消事由1は理由がない。
3取消事由2(相違点の看過)について
前記1(2)で認定したとおり,本願発明の「グローバル電子シャッター」は,「全
画素において同時に露光を開始するとともに,かつ,同時に露光を終了する」もの
であるところ,引用発明の「全ての画素S11~Smnにおいて,同時に,フォト
ダイオードPDのカソード側に光信号電荷が蓄積され,その後,蓄積された光信号
電荷が,同時に増幅MOSトランジスタM3のゲートに転送され,その後,同時に
光信号電荷の増幅MOSトランジスタM3への転送が終了し(t2~t5)」との構
成は,全画素において同時に露光を開始するとともに,同時に露光を終了すること
を表したものであるといえるから,同構成は本願発明の「グローバル電子シャッター」
に相当するものであると認められる。引用発明は,本願発明の「露光期間中に同時
に,前記2次元イメージセンサアレイの複数の行のピクセルを露光するように配置
されたグローバル電子シャッター制御モジュールであって,2次元イメージセンサ
アレイにおける複数の行のピクセルの露光が同時に開始されるように,グローバル
電子シャッター制御モジュールが2次元イメージセンサアレイを制御するように構
成される,グローバル電子シャッター制御モジュールと」という構成(特定事項F)
に相当する構成を備えているものであると認められる。
したがって,本件審決の一致点及び相違点の認定に誤りはなく,原告が主張する
取消事由2は理由がない。
4本願発明の容易想到性について
(1)これまで検討してきたところに照らすと,本願発明と引用発明の間には,
本件審決で認定された前記第2の3(2)記載の相違点以外の相違点は存在しないと
ころ,同相違点は,甲2から容易想到なものであり,これについては特に原告も特
に争っていない。
したがって,本願発明は,引用発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者
が容易に発明できたものである。
(2)原告は,本願発明の実施品の商業的成功から本願発明の進歩性が基礎付けら
れると主張するが,本願発明が進歩性を欠くのは既に判示したとおりである。実施
品の商業的成功には,本願発明の技術的特徴以外に,ブランド力,広告宣伝力,営
業努力,市場の環境,実施品の価格や品質など様々な要因が関係しているものであ
るから,商業的成功から直ちに進歩性を認めることはできない。
第6結論
よって,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森義之
裁判官
眞鍋美穂子
裁判官
熊谷大輔

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