弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
1 1審原告及び1審被告の各控訴をいずれも棄却する。
2 1審原告の控訴により生じた費用は1審原告の負担とし,1審被告の控訴によ
り生じた費用は1審被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求める裁判
(1審原告の控訴につき)
1 1審原告
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 1審被告は,1審原告に対し,1567万0700円及びこれに対する平成4
年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 1審被告は1審原告に対し,原判決別紙目録記載の謝罪文を,国土交通省広報
紙「国土交通・コミュニケーション」及び国土交通省中部地方整備局広報紙「あっ
と中部」の各1面右上部に,12ポイント活字で各1回掲載せよ。
(4) 訴訟費用は,第1,第2審とも,1審被告の負担とする。
(5) 仮執行の宣言
2 1審被告
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は1審原告の負担とする。
(1審被告の控訴につき)
1 1審被告
(1) 原判決中,1審被告の敗訴部分を取り消す。
(2) 1審原告の請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,第2審とも,1審原告の負担とする。
2 1審原告
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は1審被告の負担とする。
第2 事実関係
 事実関係は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第二 事
案の概要」の記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決5頁2行目の「平成4年12月16日」を「平成4年12月15日に準
職員を退職して,同月16日」と改める。
2 同6頁5行目の「建設省」を「,国家賠償法4条,民法709条,723条,
715条による原状回復請求権に基づき,国土交通省」と改める。
3 同13頁6行目と7行目の間に次のとおり付加する。
「4 債務不履行(適正処遇義務違反)による損害賠償請求の成否(当審における
1審原告の主張)」
4 同22頁6行目の「文書の受理」から9行目の「上申もされたりするが」まで
を「文書を受理し,必要に応じて,書類を起案し,係長,課長の審査,決裁を受
け,関係各課と協議し,副所長,所長の決裁を受けて,事柄によっては,その結果
が上級庁に上申されたりもするが,」と改める。
5 同30頁8行目と9行目の間に次のとおり付加する。
「 そもそも,組織法上,その職務内容が明確にされている役職者については,前
任者と後任者という概念は想定され得るとしても,担当職員については,その職務
はその時点ごとの上司の職務命令によってその内容が決まるのであり,効率的な行
政運営において,担当職員の職務は流動するものであるから,担当職員に前任者・
後任者という概念は該当しない。」
6 同36頁5行目と6行目の間に次のとおり付加する。
「 仮に,昭和55年10月1日の段階では,未だ1審原告を行(一)職員に任用す
べき程度の違法状態に達していなかったとしても,昭和57年7月1日までに,1
審原告と同時に昭和55年の職転研修を受けた職員のうち,行(一)職員への任用を
希望しなかった者を除く全員が行(一)職員として任用されており,遅くともこの段
階では,既に1審被告が1審原告を行(一)職員に任用する義務を負う程度の違法状
態が発生している(当審における1審原告の主張)。
  また,仮に,昭和57年7月1日の段階では,未だ1審原告を行(一)職員に任
用すべき程度の違法状態に達していなかったとしても,平成2年7月,人事院中部
事務局A給与第1課長から1審原告に,準職員でも定員内の行(一)職員に異動する
ことができる旨のメモ(甲2の13の3)(以下「Aメモ」という。)が交付さ
れ,1審原告が準職員であることは行(一)職員に任用することの妨げにならないこ
とが明らかになっており,遅くともこの段階に至っては,既に1審被告が1審原告
を行(一)職員に任用する義務を負う程度の違法状態が発生している(当審における
1審原告の主張)。」
7 同48頁9行目と10行目の間に次のとおり付加する。
「d また,行(一)職員の職務を行う1審原告他の準職員の行(一)職員への任用
は,これらの者及び1審原告が加入する全建設省労働組合からも強く要求されてい
た。」
8 同48頁10行目の「d」を「e」と改める。
9 同57頁10行目と11行目の間に次のとおり付加する。
「エ 仮に,昭和55年10月1日の段階では,未だ1審原告を行(一)職員に任用
しないことが人事裁量権の逸脱,濫用にあたらないとしても,1審原告は同日以降
も行(一)表適用職務に従事しており,その間1審原告は1審被告から行(一)職員へ
の任用は暫く待って欲しい旨言われ,また,その際,1審原告及び全建設省労働組
合は1審被告から「暫く静かにしていてもらいたい。」とも要請されて事態を見守
ってきたが,最早静観すべき期間は経過しており,また,昭和57年7月1日まで
に,1審原告と同時に昭和55年の職転研修を受けた職員のうち,行(一)職員への
任用を希望しなかった者を除く全員が行(一)職員として任用されており,遅くとも
この段階では,1審原告を行(一)職員に任用しないことは,人事裁量権の逸脱,濫
用にあたる(当審における1審原告の主張)。
 また,仮に,昭和57年7月1日の段階では,未だ1審原告を行(一)職員に任用
しないことが人事裁量権の逸脱,濫用にあたらないとしても,1審原告は同日以降
も行(一)表適用職務に従事しており,昭和63年11月には第2回目の行政措置要
求を提出し,その後,平成2年7月,Aメモが1審原告に交付され,1審原告が準
職員であることは行(一)職員に任用することの妨げにならないことが明らかになっ
ているのであるから,遅くともこの段階では,1審原告を行(一)職員に任用しない
ことが人事裁量権の逸脱,濫用となることが決定的になった(当審における1審原
告の主張)。」
10 同92頁2行目と3行目の間に次のとおり付加する。
「 d 1審原告は,1審被告の人事裁量権の逸脱,濫用を基礎付ける事実の1つ
として,全建設省労働組合から要求があったことを主張するが,本件は1審原告と
1審被告との問題であって,職員団体は無関係である(1審原告の当審における主
張に対して)。
エ 1審原告は,遅くとも,平成2年7月にAメモが1審原告に交付された段階で
は,1審原告を行(一)職員に任用しないことは,人事裁量権の逸脱,濫用にあたる
と主張するが,1審被告が平成4年12月16日まで1審原告を行(一)職員に任用
しなかったのは前記イ,ウの各事情を総合勘案したためであって,人事裁量権の逸
脱,濫用がないことは明らかであるが,そもそも,準職員の行(一)職員への異動が
法的に可能であるということと,それが容易であるかどうかは区別されるべき問題
であるし,また,複数の法的見解がある場合に,その1つを採ったからといって直
ちにそれが違法となるものではなく,したがって,Aメモの存在をもって,1審被
告の人事裁量権の逸脱,濫用が決定的になったとはいえない。さらに,Aメモを,
1審原告の第2回目の行政措置要求の判定も出ていない段階での人事院の見解とと
らえることも誤りである。」
11 同92頁6行目と7行目の間に次のとおり付加する。
「a 仮に,1審原告が担当していた業務が行(一)表適用職務であったとしても,
給与の根本基準たる職務給の原則は,国家公務員法の目的である公務の民主的かつ
能率的な運営に資するための各般の根本基準(任免,給与,能率,分限・懲戒,保
障,服務等)の1つに位置付けられるものであり,この給与の根本基準が官職の分
類に応じて平等な労働条件を保障するところにもあるとしても,それは,公務の民
主的かつ能率的な運営や他の各般の根本基準と整合する限りにおいて保障されるべ
きものであるところ,1審原告に行(一)表適用職務を命じたことは,行(二)表適用
職務の減少や厳しい定員状況の中で,公務の効率的運用のためにやむを得ないこと
であったこと,任免の根本基準である成績主義からいって,準職員から行(一)職員
への任用は極めて例外的な措置であったこと等を総合考慮すれば,1審原告を行
(一)職員に任用しないまま行(一)表適用職務を命じたことは違法にはならない。
b また,給与決定の前提である俸給表の適用は,任命権者による官職への任用を
待たなければならないところ,1審原告に行(一)表適用職務を命じながら行(一)職
員に任用しなかったことに人事裁量権の逸脱,濫用はないから,給与の根本基準に
対する違反はない。
c 原判決は,行(二)職員にその担当職務として行(一)表適用職務を恒常的に命ず
ることは国公法に違反するとして慰謝料請求を認めているのであるが,国賠法上の
違法は,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務違反であるから,国公法が
職務命令の名宛人である公務員の精神的安寧なり「人格,名誉」を法益として保護
していなければ,国公法違反を理由とする慰謝料請求は認められないところ,国公
法には担当職務の内容そのものに関わる職務命令発出の場面において職務命令の名
宛人である公務員の精神的利益を保護していると目される規定はないから,仮に本
件職務命令が国公法違反であるとしても,そのことから直ちに国賠法上の違法ひい
ては慰謝料請求が認められるものではない。」
12 同92頁7行目の「仮に」を「イ 仮に」と改める。
13 同94頁7行目の「イ」を「ウ」と改める。
14 同95頁3行目の「a及びb」を「aないしc」と改める。
15 同95頁4行目と5行目の間に次のとおり付加する。
「a 1審原告に命じた職務が行(一)表適用職務であるにしても,定型的な業務が
多く,判断,調整を必要とする場面は比較的少なく,行(二)表適用職務である事務
見習と同様の定型的な業務を命じていたものである。」
16 同95頁5行目の「a」を「b」と,10行目の「b」を「c」とそれぞれ改
める。
17 同97頁4行目の「原告は」を「a 原告は」と改める。
18 同98頁9行目と10行目の間に次のとおり付加する。
「b 仮に,昭和55年10月1日までにではなく,昭和57年7月1日までに行
(一)職員に任用されなければならなかったとすれば,1審原告の被った経済的損害
となる行(一)職員として得べかりし給与と行(二)職員として得べかりし給与との差
額は別紙「B損害額計算書」により算出される991万5360円(平成4年まで
の差額累計から昭和57年6月までの差額累計を控除した金額)となり,さらに,
昭和57年7月1日までにではなく,平成2年7月までに行(一)職員に任用されな
ければならなかったのであるとすれば,1審原告の被った経済的損害となる行(一)
職員として得べかりし給与と行(二)職員として得べかりし給与との差額は別紙「B
損害額計算書」により算出される304万3000円(平成4年までの差額累計か
ら平成2年7月1日までの差額累計を控除した金額)となる(当審における1審原
告の主張)。」
19 同100頁4行目と5行目の間に次のとおり付加する。
「イ 経済的損害(積極的損害)(当審における1審原告の主張)
 3次的主張にかかる損害は,消極的損害としての期待権の侵害による損害の他
に,実際に提供した労働力に見合う賃金が支給されなかったことによる積極的損害
があり,この損害は,行(二)職員でありながら,違法な行(一)表適用職務を行わせ
る職務命令により,同職務を恒常的に行ってきたことによるものであり,行(一)表
適用職務に対する正当な対価として支払われるべき給与と実際に支払われた給与の
差が損害となる。ここでの核心は,1審原告が本来行うことが法律上予定されてい
ない行(一)表適用職務を行ってきたことから生じた損害であることにある。1審原
告の提供した労働力は行(一)表適用職務であるところ,給与法の原則は,官職の職
務と責任に応じて給与の根本基準を定めることとされているから,上記提供にかか
る職務は,その複雑,困難,責任の度合が行(二)表適用職務と決定的に異なってい
るのであり,上記職務に対して行(二)表適用職務としての給与しか支給されなかっ
たことにおいて財産的差額が生じている。そして,上記提供にかかる職務の労働力
の価値は,1審原告が,昭和55年10月以降平成4年12月までの間行(一)表適
用職務にあったなら支給されたであろう賃金額がこれに当たると推認することがで
きる。」
20 同100頁5行目の「イ」を「ウ」と改める。
21 同102頁9行目と10行目の間に次のとおり付加する。
「 また,前記(一)(2)③アcのとおり,国公法上,公務員の精神的利益を保障する
規定がないことから,精神的損害の発生は認められない。」
22 同103頁5行目の「請求第2項」を「第1(1審原告の控訴につき)1(3)記
載の」と改める。
23 同122頁9行目と10行目の間に次のとおり付加する。
「4 債務不履行(当審における1審原告の主張)
(一) 1審原告の主張
 国家公務員とその使用者である国民を代表する政府との間の法律関係において,
国は公務員を適正に処遇する義務がある。これは法令により直接任用者に課された
債務ではあるが,同時にそのような法律上の債務を負っている者との間に任用関係
が存在することによって,そこから生ずる公務員に対する債務であるというべきで
ある。
 1審被告は1審原告を行(二)職員のまま行(一)表適用職務に恒常的に従事させて
きたが,これは職務と俸給が一致せず,給与の根本基準に違反する違法な処遇であ
ったから,任命権者たる1審被告はこうした状態を速やかに是正し,担当職務に応
じた正当な報酬を支給するべく,1審原告を行(一)職員に任用すること等,適正に
処遇を行うべき義務があった。
 しかるに,1審被告は,上記違法状態を熟知していて是正する必要があることを
承知しながら,1審原告を行(一)職員に任用すべき措置を何らとることなく漫然と
放置し続け,上記適正処遇の債務の履行を懈怠した。
 この債務不履行による損害は,前記2(二)(1)①アと同様である。
(二) 1審被告の主張
 公務員の任用関係は,国公法上の関係であって一般私人間を規律する雇用関係と
異なり,およそ債務不履行を考える余地はない。
 しかも,本件における1審原告の主張は,俸給の差額相当額の支払い請求であ
り,もっぱら国家公務員関係における任用ないし職務命令の領域の問題である。」
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,1審原告の請求は100万円の慰謝料及びこれに対する平成4年
12月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
求める限度で理由があり,その余は理由がないものと判断するが,その理由は,次
のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第三 争点に対する判
断」記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 同159頁2行目及び5行目の「前任者」をそれぞれ「前担当者」と改める。
(2) 同159頁9行目と10行目の間に次のとおり付加する。
「 1審原告は,後記のとおり昭和48年4月1日から担当事務が給与関係事務に
変わったが,この配置換えに伴い,それまで1審原告が担当していた共済関係事務
は,行(一)職員の建設事務官であるCが引継いだ。」
(3) 同161頁4行目の「事務のうち」から6行目の「引継ぎをした。」までを
「給与関係事務は,行(一)職員の建設事務官であるDに引継ぎをした。」と改め
る。
(4) 同162頁7行目及び8行目,163頁6行目及び7行目,168頁10行目
並びに169頁1行目の「前任者」をそれぞれ「前担当者」と改める。
(5) 同176頁11行目の「前任者又は後任者」を「前担当者又は後担当者」と改
める。
(6) 同177頁8行目の「前任者」を「前担当者」と改める。
(7) 同177頁11行目及び178頁5行目の「前任者及び後任者」を「前担当者
及び後担当者」と改める。
(8) 同179頁7行目と8行目の間に次のとおり付加する。
「 なお,1審被告は,1審原告の従事していた職務が外形的には行(一)職員と同
内容であっても,上司は,1審原告が準職員であって組織法上の権限と責任が異な
り,個々の職務執行にその差異が反映することを認識の上業務を命令していたので
あるから,1審原告の行っていた職務は行(二)表適用職務であると主張する。
 しかしながら,前記のとおり,1審原告の従事していた職務が行(一)表適用職務
か行(二)表適用職務かを区別する上で,権限や責任の度合いが問題となってくると
すれば,それは,職務遂行に関与する度合いとしてであるところ,上司が1審原告
の行(二)職員としての権限と責任の認識に基づいて業務を命令しているとしても,
それだけでは1審原告の当該職務の遂行に関与する度合いに差異を生じさせるもの
ではなく,上記1審被告の主張は,なお行(一)表適用職務と行(二)表適用職務の区
別とは次元を異にする議論という他ない。
 また,1審被告は,原判決が,1審原告の担当事務が行(一)表適用職務であるこ
との論拠として,他に行(一)職員の主務者がいなかったことを挙げているのは,行
(二)職員の行う職務が行(一)表適用職務の補助といえるのは,係長以外に行(一)職
員が主務者としている場合でなければならないとの認識を前提としてのことと考え
られるところ,定型的で実質的な判断を必要としない単純な業務に主務者を置いて
さらに補助者を付けるというのは,行政の効率的運用から到底是認されないことで
あって,上記前提となった認識には誤解があると主張する。
 しかしながら,1審被告の主張するような前提をとらなくとも,前記のとおり,
1審原告が担当していた職務は,定型的な業務が多く,判断,調整を必要とする場
面は比較的少なかったとはいうものの,それでも特別の習熟,ある程度の専門知
識,経験を必要とするものであって,なお,判断や調整を必要とする余地を残すも
のであったのであるから,そのような職務を1審原告が他に主務者がいない状態で
行(一)職員から引き継いでいるということは,前担当者が行(一)職員としておこな
っていた判断や調整も1審原告が引き継いで行っていると考えることができるので
あり,他に行(一)職員の主務者がいないことは1審原告の職務が行(一)表適用職務
であることの論拠となるのであって,1審被告の上記主張も採用できない。」
(9) 同180頁6行目の「しかしながら,」の次に「給与の根本基準に違反する違
法状態が生じている場合に,1審被告にはその違法状態を是正すべき義務が生じる
としても,これを是正する方法としては,1審原告を行(一)職員に任用することの
他に,1審原告に命じる職務を行(二)表適用職務にすることや,1審原告の雇用を
打ち切ることもあるのであって,上記違法状態を是正するということは,必ずしも
行(一)表適用職務に従事する職員を行(一)職員に任用することを意味するものでは
ない上,」と付加する。
(10) 同182頁4行目と5行目の間に次のとおり付加する。
「 なお,1審原告は,職転研修は,希望者全員が受けられるものではなく,行
(一)表適用職務に従事している職員の中から当局が選別して受講させ,受講者の殆
どは行(一)職員に任用されるのであるから,行(一)表適用職務に従事する行(二)職
員を行(一)職員に任用するために行うものであると主張するが,職転研修が事実上
そのような目的で実施されているとしても,いまだ,任用の可否を検討する資料を
準備したにすぎないというべきものであるから,1審被告に職転研修を受講した者
を行(一)職員として任用すべき法的義務が生ずるものではない。」
(11) 同182頁6行目と7行目の間に次のとおり付加する。
「 以上は,昭和55年10月1日の段階までの判断であるが,1審原告が予備的
に主張する昭和57年7月1日の段階や平成2年7月の段階でも,給与の根本基準
に違反する違法状態があるからといって直ちに1審被告に1審原告を行(一)職員に
任命すべき法的義務が生じるものでないことは変わりないし,昭和55年の職転研
修を受けた職員のうち,1審原告と行(一)職員への任用を希望しなかった者を除く
全員が行(一)職員として任用されたことや,Aメモが1審原告に交付されたこと
も,1審被告が1審原告を行(一)職員に任命すべき法的義務を負う理由とはならな
い。」
(12) 同189頁4行目の「前記第三の二」を「前記第三の一」と改める。
(13) 同192頁11行目と同193頁1行目の間に次のとおり付加する。
「 1審原告は,給与の根本基準に反する違法状態を是正する必要に,定員事情が
優越するものではないと主張するが,前記のとおり1審原告を行(一)職員に任用し
なければ,上記違法状態を是正できないわけではないから,1審原告を行(一)職員
に任用しないことが人事裁量権の逸脱,濫用に当たるか否かを判断するのに定員事
情を考慮することが妨げられる理由はない。
 また,1審原告は,昭和37年閣議決定は,定員枠を超えない限り,準職員を定
員内職員に組み入れることを禁じるものではないと主張する。たしかに,上記閣議
決定は,昭和33年度以来行ってきた定員外職員の定員繰入れを昭和37年度を最
後に終了するというもので,直接個々の定員外職員を定員の枠内で定員内職員に任
用したり異動したりすることを禁じているものではない。しかしながら,前記第三
の一1(一)ないし(九)記載の経緯からすれば,昭和37年閣議決定の存在は,定員
外職員の安易な定員内職員への流入を差し控えさせるものであって,これも1審原
告を行(一)職員に任用しないことが人事裁量権の逸脱,濫用に当たらないことの根
拠となり得るものである。
 さらに,1審原告は,昭和55年以降の中部地建管内の定員内職員の実数は殆ど
常時定員数以下であり,定員事情が1審原告を定員内職員に採用することの妨げに
はなっていないとも主張するが,前記第三の一1(一一)記載のとおり昭和37年7
月10日の「欠員の不補充等について」という閣議決定がされてから,平成3年7
月5日に第8次定員削減計画が閣議決定されるまで,定員事情は次第に厳しさを増
していったものであるところ,定員管理は,年度末に向けて定員削減を念頭に,定
員を超過しないように管理するものであって,単に定員内職員の実数が定員数を下
回っているからといって,それだけで1審原告の定員内職員への任用や異動が可能
になるというものではなく,1審原告を行(一)職員に任用しなかったことが人事裁
量権の逸脱,濫用に当たるか否かは,このような定員事情全般から判断されるべき
ものである。」
(14) 同193頁7行目の「説明しているところ,」を「説明しており,」と改
め,8行目から10行目の「明白であり,」まで削除する。
(15) 同199頁7行目と8行目の間に次のとおり付加する。
「 なお,1審原告は,行(一)表適用職務に従事する準職員の行(二)職員が行(一)
職員に任用された実例が三例あるとして,いずれも平成7年4月1日発令のE,F
及びGの各例を挙げるが,任命権者を異にする他の部局の事例が本件における中部
地方建設局長の裁量権の逸脱,濫用を基礎付けるものとはいえない。」
(16) 同200頁4行目から5行目にかけての「原告が昭和55年に実施された職
転研修及び試験を受け,その」を「1審被告が1審原告の行(一)職員への任用を検
討するため昭和55年に実施された職転研修及び試験を受けさせ,1審原告の同研
修及び試験の」と変更する。
(17) 同200頁9行目と10行目の間に次のとおり付加する。
「 以上は,昭和55年10月1日の段階までの判断であるが,1審原告が予備的
に主張する昭和57年7月1日の段階や平成2年7月の段階でも,その事情は変わ
らず,また,昭和55年の職転研修を受けた後,1審原告が1審被告から「行(一)
職員への任用は暫く待って欲しい」とか「暫く静かにしていてもらいたい。」とか
要請されて事態を見守ってきたことや昭和55年の職転研修を受けた職員のうち,
1審原告と行(一)職員への任用を希望しなかった者を除く全員が行(一)職員として
任用されたこと(昭和57年7月1日までの段階),1審原告が昭和63年11月
に第2回目の行政措置要求を提出したことやAメモが1審原告に交付されたこと
(平成2年7月の段階)も,1審被告が1審原告を行(一)職員に任命しないことを
人事裁量権の逸脱,濫用とする事情には当たらない。」
(18) 同206頁11行目と207頁1行目の間に次のとおり付加する。
「 なお,1審被告は,上記給与の根本基準は,公務の民主的かつ能率的な運営や
他の各般の根本基準と整合する限りにおいて保障されるべきものであるところ,1
審原告を行(一)職員に任用しないまま行(一)表適用職務を命じたことは,行(二)表
適用職務の減少や厳しい定員状況,準職員から行(一)職員への任用は極めて例外的
な措置であったこと等から採られたやむを得ない措置であるから,違法にはならな
いと主張する。
 しかしながら,公務の民主的かつ能率的な運営や他の各般の根本基準との整合の
要請から,職務給の原則が制約されるべき場合がないとはいえないとしても,職務
給の原則が給与の根本基準とされる所以は前記のとおりであるから,それが制約さ
れるのは極めて例外的な場合に限られるというべきであって,1審被告の主張する
ような事情だけでは,未だ職務給の原則の制約が是認されるものではない。
 次に,1審被告は,給与決定の前提である俸給表の適用は,任命権者による官職
への任用を待たなければならないところ,1審原告を行(一)職員に任用しなかった
ことに人事裁量権の逸脱,濫用はないから,1審原告に行(一)表適用職務を命じる
ことは給与の根本基準に対する違反にならないと主張するが,行(二)職員である1
審原告に行(一)表適用職務を命じることと行(一)表適用職務を担当する1審原告を
行(一)職員に任用しないことは別個の問題であって,後者の行為が人事裁量権の逸
脱,濫用に当たらないからといって,前者の行為が給与の根本基準に違反しないと
する理由にはならない。
 さらに,1審被告は,1審原告に行(一)表適用職務を恒常的に命ずることが国公
法に違反するとしても,国賠法上の違法は,個別の国民に対して負担する職務上の
法的義務違反であるから,国公法が職務命令の名宛人である公務員の精神的安寧な
り「人格,名誉」を法益として保護していないのであるから,国賠法上の違法性は
なく,慰謝料請求は認められないと主張する。
 しかしながら,前記のとおり,国公法,職階法,給与法及び人事院規則に基づく
職務給という給与の根本基準は,公務の民主的で能率的な運営を実現するため人事
行政の公正を確保すると同時に,職員に対して官職の分類に応じて平等な勤務条件
を保障しているものであるところ,1審被告が行(二)職員である1審原告に行(一)
表適用職務を恒常的に命じてきたことは,上記国公法等によって保護されている1
審原告の平等な勤務条件を享有する法益を侵害するものであるから,国賠法上の違
法性も備えるものということができ,その法益侵害によって1審原告に精神的苦痛
が生ずれば,1審被告はその精神的苦痛を填補すべき損害賠償責任を負うものとい
うべきである。
 1審被告が,給与の根本基準違反があっても,国公法が公務員の精神的安寧なり
「人格,名誉」を法益として保護していないので,国賠法上の違法性はないとする
のは,上記国公法等によって保護されている平等な勤務条件を享有する法益を無視
するものであって,損害として捉えるべき精神的苦痛を上記法益侵害と混同したこ
とによって生じた誤った立論であり,これを採用することはできない。」
(19) 同207頁9行目と10行目の間に次のとおり付加する。
「 なお,1審被告は,原判決は,1審被告が違法性評価障害事実として主張する
上記各事由を慰謝料算定要素に追いやり,これについて勘案することなく人事裁量
権の逸脱,濫用の判断を行い,違法と認定してしまっているのであって,その判断
手法は,裁量行為に対する司法審査の在り方を外れるものであると主張するが,原
判決は,上記各事由につき,強行法規である給与の根本基準に関する法規に違反し
た違法性を阻却するに足りる事由とは認められないとの判断を加えた上で,これを
慰謝料算定要素として斟酌しているのであって,原判決に,1審被告が主張するよ
うな判断手法の誤りはない。」
(20) 同209頁9行目と10行目の間に次のとおり付加する。
「(一)(1) 経済的損害(期待的利益の侵害)」
(21) 同209頁10行目の「(一)」を削除する。
(22) 同210頁5行目と6行目の間に次のとおり付加する。
「(2) 経済的損害(積極的損害)
 1審原告は,3次的主張にかかる損害には積極的損害があるとし,実際に提供し
た労働力に見合う賃金が支給されなかったことによる損害がこれに当たるとして,
前記第二の三2(二)(1)①アaと同額の損害を主張するが,その主張するところは,
消極的損害に他ならず,主張自体失当である。」
(23) 同212頁2行目と3行目の間に次のとおり付加する。
「 なお,1審原告は,公務員の給与についても,同一労働同一賃金の原則は適用
されると主張するが,仮にそうであるとしても,それは一般的な原則にとどまるも
のであって,1審原告の提供した労務の価額が同一労働同一賃金の原則から直接確
定できるわけではなく,行(一)表によって1審原告の被った損害を評価することは
相当でないとする上記判断が左右されるものではない。」
(24) 同213頁7行目と8行目の間に次のとおり付加する。
「 1審被告は,1審原告の3次的主張に基づく精神的損害の主張は,1審原告が
行(二)職員としての処遇を受けたまま行(一)表適用職務を命じられたため,行(一)
表適用職務に従事する職員として正当な取扱いを受けず,昇給昇格の機会や上級業
務に就く機会を奪われ労働生活上も社会的評価においても人格権を傷つけられ回復
しがたい精神的苦痛を負ったとするものであって,1審原告は,より重い職務に従
事したことによる精神的及び肉体的苦痛を精神的損害として主張したことはないの
に,これを損害として認定した原判決は弁論主義に反すると主張する。
 しかしながら,行(二)職員の官職のまま,行(一)表適用職務を恒常的に命じられ
てきたとの主張には,行(二)表適用職務より複雑で責任の重い行(一)表適用職務を
遂行したことによる精神的負担の主張が含まれているということができるし,1審
原告自身,行(二)職員であれば行(二)表適用職務を本務として遂行することになる
のに,これより複雑,困難,責任の度が強度の行(一)表適用職務を恒常的に命じら
れてきたことは過重な労務負担になることは明白であると主張している(当審1審
原告平成13年3月23日付け第2準備書面)のであるから,1審被告の弁論主義
違反の主張は当たらない。
 また,1審被告は,1審原告は行(一)表適用職務に従事することを自ら希望し,
行(二)表適用職務に従事することは望んでいなかったのであるから,1審原告には
上記のような精神的苦痛は生じていないとも主張する。
 たしかに,1審原告は行(一)表適用職務に就くことを望んでいたもので,1審原
告が直接感じていたのは,行(一)職員として処遇されない精神的苦痛であるという
ことができる。しかしながら,その苦痛は,単に自己が行(一)職員に任用されない
というだけのことではなく,担当職務と処遇が一致していないという不遇感を意味
するものであることは明らかであるから,自己の官職に比し,複雑,困難及び責任
の度において,より重い職務に従事したことによる精神的苦痛があると認定するこ
とには不合理さはない。
 したがって,この点の1審被告の主張も採用できない。」
(25) 同218頁4行目と5行目の間に次のとおり付加する。
「五 債務不履行の成否について
 1審原告は,国は公務員を適正に処遇する法令上の義務があるが,これは同時に
国と公務員との任用関係において国が公務員に対して負担する債務でもあるとこ
ろ,1審被告は1審原告が行(二)職員のまま行(一)表適用職務に恒常的に従事する
という給与の根本基準に反する状態を漫然と放置し,担当職務に応じた正当な報酬
を支給するべく,1審原告を行(一)職員に任用すること等,適正に処遇を行うべき
債務の履行を懈怠したと主張する。
 1審原告が主張するように,国が公務員を適正に処遇する法令上の義務が,国と
公務員との任用関係においては,国が公務員に対して負担する債務の内容をなすと
しても,前記第三の三1のとおり,1審原告が行(二)職員のまま行(一)表適用職務
に恒常的に従事することが給与の根本基準に違反するからといって,1審被告に1
審原告を行(一)職員に任用する法的義務が生ずるものでないから,1審被告と1審
原告の任用関係においても,1審被告が1審原告を行(一)職員に任用する債務を負
担する理由はないことになる。そして,1審原告が,1審被告と1審原告の任用関
係において1審被告が1審原告に対し負担する適正に処遇すべき債務の内容として
主張するところは,1審原告を行(一)職員に任用することに尽きており,他に1審
原告を適正に処遇すべき債務として具体的に主張するものはないから,1審被告の
債務不履行を認めることはできない。」
(26) 同218頁5行目の「五」を「六」と改める。
2 結論
 したがって,1審原告の請求は,慰謝料100万円及びこれに対する損害発生後
の平成4年12月16日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金
の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないから,その旨の原判決は相
当であり,1審原告及び1審被告の各控訴はいずれも理由がないからそれぞれ棄却
することとし,控訴費用の負担につき民事訴訟法67条,61条を適用して,主文
のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第2部
裁判長裁判官    大  内  捷  司
裁判官    島  田  周  平
裁判官    川  添  利  賢

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