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平成26年11月18日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成25年(ワ)第14214号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成26年9月30日
判決
静岡市駿河区<以下略>
原告有限会社トレナージュアカデミー
同訴訟代理人弁護士大澤一記
東京都渋谷区<以下略>
被告A
同所
被告B
上記両名訴訟代理人弁護士杉山直人
同補佐人弁理士白銀博
主文
1被告らは,原告に対し,連帯して635万6652円及びこれ
に対する平成25年7月10日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを8分し,その7を原告の,その余は被告ら
の各負担とする。
4この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告に対し,連帯して5000万円及びこれに対する平成25年
7月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,「音叉型治療器」に関する特許の特許権者である原告が,被告らに
対し,被告らが役員を務めていた二つの株式会社が上記特許に係る発明の実施
品の販売等をしたことに関し,被告らが会社法429条1項に基づく責任を負
うとして,損害賠償金のうち5000万円及びこれに対する請求の日の翌日か
ら支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
1争いのない事実等(後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事
実を含む。)
(1)当事者等
ア原告は,平成13年4月17日に設立されたエステティック業務の請負
等を業とする特例有限会社(設立当時の商号は有限会社ユー・エル・ディ
ー)である。C(以下「C」という。)は,原告の取締役である。(乙2
の1~4)
イ昭和57年4月16日に設立された株式会社インターフェイス(以下
「本件旧会社」という。)は,健康美容器具・用品の製造販売等を業とす
る株式会社であったが,平成22年7月30日に解散し,同年12月23
日に清算を結了した。(甲1)
平成18年8月1日に設立された株式会社インターフェイス(設立時の
商号は株式会社トレナージュ。以下「本件新会社」という。)は,健康・
美容器具の製造販売等を業とする株式会社である。(甲2)
ウ被告A(以下「被告A」という。)及び被告B(以下「被告B」とい
う。)は,平成17年4月1日から平成24年3月31日までの間,次の
とおり,本件旧会社及び本件新会社の役員を務めていた。(甲1,2)
(ア)本件旧会社
被告Aは,平成18年5月21日に取締役に就任し,同年7月31日
から本件旧会社の解散まで代表取締役を務めた。
被告Bは,平成18年5月21日から本件旧会社の解散まで取締役を
務め,同日から同年7月31日まで代表取締役を務めた。
(イ)本件新会社
被告A及び被告Bは平成18年8月1日から平成23年6月30日ま
で取締役を務め,被告Bはこの間代表取締役も務めた。
(2)原告の特許権(甲14,20)
ア原告は,次の特許(以下「本件特許」といい,本件特許に係る特許権を
「本件特許権」という。また,その優先権主張に係る出願を「本件基礎出
願」という。)の特許権者である。原告は本件特許出願及び本件基礎出願
の出願人であり,特許公報上はCが発明者とされている(真の発明者につ
いては争いがある。)。
特許番号特許第4539810号
出願日平成14年4月23日(特願2002-584842
号)
国際出願番号PCT/JP2002/004015
国際公開日平成14年11月7日
登録日平成22年7月2日
優先権主張番号特願2001-124261号
優先日平成13年4月23日
優先権主張国日本国
イ本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(以下,
同項に記載された発明を「本件発明」という。)。
「U字状の振動子と,該振動子のU字基部に延設した伝導杆と,該伝導杆
の先端部に取り付けられる押当部材から構成される音叉型治療器において,
該押当部材の先端の押し当て部分が,多少尖った或いは扁平な丸み,扁平
状あるいは凹みの各形状から選択される1の形状を有すると共に,腫れや
凝り,頭痛,筋肉痛などの症状のある顔面,頭部,背中,肩,腰,手
(腕),足(脚)の患部に押し当てられるように構成されることを特徴と
する音叉型治療器。」
(3)本件発明の実施
ア本件旧会社は,本件特許権の設定登録前である平成17年4月1日から
平成19年3月31日までの間,本件発明の実施品である音叉型治療器
(商品名・マイアンサー)を販売し,これを使用したセラピーを提供して
いた。
イ本件新会社は,本件特許権の設定登録後である平成23年4月1日から
平成24年3月31日までの間,本件発明の実施品である音叉型治療器
(商品名・マイアンサーないしエクセラー。以下,上記ア及びこれらの治
療器を併せて「本件治療器」という。)を販売し,これを使用したセラピ
ーを提供していた。
2争点に関する当事者の主張
(1)本件旧会社についての責任(争点1)
(原告の主張)
ア特許法65条1項の補償金についての責任(主位的請求)
(ア)本件旧会社は,本件特許の出願公開後である平成17年4月1日か
ら平成19年3月31日までの間,特許出願に係る発明であることを知
りながら本件発明を実施していたから,本件旧会社には特許法65条1
項に基づく補償金支払義務がある。
(イ)本件旧会社は同族会社であり,被告らは本件旧会社の役員として,
また,役員でない期間もD一族のトップとして実権を行使していたから,
被告らは,会社法429条1項に基づき,上記補償金を支払う義務を負
う(なお,平成18年4月30日までの行為については,平成17年法
律第87号による改正前の商法266条ノ3第1項に基づく請求をする
ものと解する。以下同じ。)。
イ債務不履行についての責任(予備的請求)
(ア)原告と本件旧会社の間には,本件治療器を用いた事業を行うに際し,
本件旧会社が原告の従属的立場として事務的作業を行うという契約関係
が成立した。また,原告及びCは,被告ら及び本件旧会社に対し,本件
特許権の取得に関する手続を委任した。
このような契約関係に照らせば,本件旧会社は,原告ないしCの許諾
を得ることなく特許出願に係る本件発明を実施してはならない契約上の
義務を負っていた。
(イ)本件旧会社は,上記(ア)の義務に反して特許出願に係る本件発明を
実施していたのであるから,原告に対する債務不履行責任を負う。
(ウ)被告らは,本件旧会社の役員として,また,役員でない期間はD一
族のトップとして実権を行使し,本件旧会社が債務不履行に及ばないよ
うにする注意義務を負っていたものであるから,会社法429条1項に
基づき,上記(イ)の債務不履行による原告の損害を賠償する責任を負う。
(被告らの主張)
アCと被告Aは,平成13年頃,本件治療器を用いた共同事業を行うこと
を合意した。
イその際,原告と本件旧会社は,本件旧会社が本件治療器を無償で使用す
ること,本件旧会社が本件治療器を販売した場合にはその数量に応じてロ
イヤリティを支払うことを合意し,特許権専用実施権設定契約書(乙3
7)を作成した。
ウ被告らが取締役でない期間D一族のトップとして実権を行使していたこ
とは否認し,会社法上の責任を負うことは争う。
(2)本件新会社についての責任(争点2)
(原告の主張)
ア本件新会社は許諾を得ないで本件発明を実施したものであり,特許権侵
害の不法行為に当たる。
イ被告らは,本件新会社の役員として,また,役員でない期間はD一族の
トップとして実権を行使しており,本件新会社が特許権侵害をしないよう
にする注意義務を負っていたのであるから,会社法429条1項に基づき,
上記アの不法行為による原告の損害を賠償する責任を負う。
(被告らの主張)
アCと被告Aは,前記(1)(被告らの主張)アのとおり,平成13年頃,
共同事業の合意をしたが,当該合意には,本件特許が成立したときは原告
が本件発明の実施を許諾するという停止条件付き実施許諾が含まれていた。
また,当該許諾の相手方は,本件旧会社ばかりではなく,被告Aが実質的
に経営する会社を含むものであり,本件新会社も許諾の相手方に含まれる。
したがって,本件新会社による本件発明の実施は原告の許諾に基づくも
のであり,特許権侵害に当たらない。
イ被告らが取締役でない期間D一族のトップとして実権を行使していたこ
とは否認し,会社法上の責任を負うことは争う。
(3)本件特許の無効理由の有無(争点3)
(被告らの主張)
本件特許には以下のとおり無効理由があるから,原告は本件特許権を行使
できない。
ア冒認出願
(ア)本件発明の発明者は被告Aであり,Cではない。被告Aと原告及び
Cは,本件治療器を用いた共同事業のために,Cを発明者,原告を出願
人とすることを合意したが,Cと被告Aの関係が悪化し共同事業関係が
解消されたため,当該合意も効力を失った。
(イ)したがって,原告は特許を受ける権利を有しないのであるから,本
件特許は,特許を受ける権利のない出願人による出願に係る特許であっ
て,無効理由がある。
イ新規性欠如
書籍「TuningForkTherapyLevelThreeManual」(SecondEdition
2007)(乙32,41。以下「乙32文献」という。)には,本件発明と
同じ構成が開示されているところ,上記書籍の初版にも同様の記載がある。
上記書籍の初版は遅くとも平成12年12月31日までに頒布されてい
たから,本件発明は,優先日前に外国において頒布された刊行物に記載さ
れた発明であって,新規性を欠く(特許法29条1項3号)。
(原告の主張)
ア本件発明の発明者はCであり,原告は,本件基礎出願に先立って,Cか
ら本件発明についての特許を受ける権利を承継した。
イ乙32文献には「押当部材」及び「押当部材を患部に押し当てる」こと
の開示はなく,本件発明が新規性を欠くとはいえない。
(4)損害額(争点4)
(原告の主張)
ア本件旧会社5099万2923円
本件旧会社の平成17年4月1日から平成19年3月31日までの本件
治療器の販売及び使用による利益は5099万2923円であり,同額が
原告の損害である。
イ本件新会社2549万6461円
本件新会社の平成23年4月1日から平成24年3月31日までの本件
治療器の販売及び使用による利益は,前記アの2年間の利益の平均である
2549万6461円を下回ることはなく,同額が原告の損害である(特
許法102条2項)。
(被告らの主張)
ア本件旧会社
争う。
イ本件新会社
(ア)本件発明は治療器の発明であり,本件治療器の販売に当たっては,
使用方法等に関する知識や理解が不可欠であり,一般的な販売方法によ
って販売実績を上げられるものではなく,使用方法に関するノウハウの
提供が必要であるから,本件発明が売上げに寄与した程度は5%である。
(イ)セラピーの提供による売上げは,セラピストが提供する施術行為に
対する売上げであって,本件発明の使用に対する対価ではないから,特
許法102条2項の「利益」に当たらない。
また,セラピーの提供による売上げについては,施術を担当するセラ
ピストの有する知識や技術によって効果の程度が大きく異なり,この点
が顧客の獲得や維持に大きく影響する。本件新会社がセラピストの団体
を組織してセラピストの活動の便宜を図っていたことも売上げ向上の要
因であったから,セラピーの提供による売上げに本件発明が寄与した程
度は2.5%である。
第3当裁判所の判断
1本件旧会社についての責任(争点1)について
(1)原告は,本件旧会社が原告に対し主位的には補償金支払義務を,予備的
には債務不履行による損害賠償義務を負うことを前提に,被告らが会社法4
29条1項に基づく損害賠償義務を負うと主張する。
(2)そこで判断するに,前記争いのない事実等に加え,証拠(個別に掲記し
たもののほか,甲32,乙1。ただし,以下の認定に反する部分を除く。)
及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
アCと被告Aは,平成13年頃,本件発明の実施品である本件治療器を用
いた事業を行うことを計画し,同年4月,C及びCの関係者であるEがそ
れぞれ本件旧会社の取締役及び監査役に就任するとともに,上記Eが代表
取締役,C及び被告Aが取締役となって原告を設立した。そして,原告が
本件特許の出願人となり,本件旧会社が本件治療器の製造販売及び本件治
療器を使用したセラピーを提供する事業を行うこととした。
原告は,被告Aが紹介したF弁理士(以下「F弁理士」という。)を代
理人として,同月に本件基礎出願を,同年5月に「MYANSER」の文
字から成る商標の登録出願をした。上記商標は原告を商標権者として平成
14年12月13日に商標登録された。(甲1,20,乙2の1,18,
19)
イ本件旧会社は,平成13年9月頃,株式会社老子製作所(以下「老子製
作所」という。)に本件治療器の製造を委託し,老子製作所が製造した本
件治療器を原告及びその他の顧客に販売するとともに,セラピストにより
本件治療器を使用したセラピーを提供する事業(以下「本件事業」とい
う。)を開始した。原告と本件旧会社は,本件旧会社が本件事業において
得た利益の分配方法を明示的に定めていなかったが,本件旧会社は,原告
に対し,本件治療器の販売数に応じて「ロイヤリティ」という名目で金銭
を支払った。(乙3~14,38,39)
ウ原告は,平成17年3月24日に本件特許の国内出願について審査請求
をしたが,同年ないし平成19年頃には,本件特許権の設定登録の見込み
は立っていなかった。Cは,平成18年6月頃,本件事業に係る利益の管
理状況や分配方法に疑問を覚えるようになり,被告Aに説明を求め,老子
製作所にも,本件治療器はCの発明であるから本件旧会社のためにこれを
製造しないよう申し入れた。これに対し,被告Aは,本件発明には法的権
利はない旨の回答をした。
原告は,同年7月3日,本件旧会社に対し,本件治療器の製造数,原価,
販売金額等を開示するよう求めるとともに,以後の本件治療器の製造,販
売,使用等は商標権に関わるので禁止することを通知した。原告から本件
旧会社に対し,本件発明の実施が原告と本件旧会社の間の契約上の義務に
反する旨の指摘がされたことはなかった。
(甲20,43,乙23)
(3)上記認定のとおり,原告及びCは,本件旧会社が本件事業を開始してか
ら約5年間,本件旧会社による本件発明の実施に異議を述べたことはなく,
かえって本件旧会社からロイヤリティ名目で金銭を受領していたというので
ある。また,本件治療器の製造等の中止を求めるに際しても,商標権侵害に
は言及したが,本件発明の実施が原告及び本件旧会社の間の合意に反する旨
の指摘はしていない。そうすると,本件旧会社による本件発明の実施は,原
告と本件旧会社の間の本件事業に係る合意に基づくものであったと認めるこ
とが相当であって,原告が本件旧会社に対し補償金請求権を有するとも,債
務不履行による損害賠償請求権を有するとも認めることはできない。
したがって,本件旧会社に係る原告の請求は理由がない。
2本件新会社についての責任(争点2)について
(1)本件新会社の不法行為責任
ア本件新会社が本件治療器の製造販売及びこれを使用したセラピーを業と
して行ったこと,本件治療器が本件発明の実施品であることは当事者間に
争いがない。
イ被告らは,Cと被告Aは,平成13年頃,本件特許権の設定登録がされ
ることを停止条件として,被告Aが実質的に経営する会社が本件発明を実
施することを許諾する合意をし,その効力は原告及び本件新会社に及ぶの
で,本件新会社による本件発明の実施は本件特許権の侵害にならないと主
張する。
しかし,本件特許権が平成22年7月2日に設定登録された後,原告な
いしCと被告Aの間で,本件治療器を用いた事業に関して本件発明の実施
許諾を含む契約を締結する交渉が行われていること,その際,本件新会社
が原告から既に停止条件付きで許諾を受けているとの指摘もされていない
こと(乙24~27,30,31)に照らすと,被告らの主張する合意が
存在していたとは認められない。
ウしたがって,本件新会社による平成23年4月1日から平成24年3月
31日までの間の本件治療器の製造,販売及び使用は,本件特許権を侵害
する不法行為に当たる。
(2)被告らの責任
ア平成23年4月1日から同年6月30日まで
前記争いのない事実等及び弁論の全趣旨によれば,上記不法行為期間の
うち平成23年4月1日から同年6月30日までの間,被告Bは代表取締
役として本件新会社の本件治療器に係る業務を執行し,被告Aも取締役と
して同業務についての意思決定に関わっており,特許権侵害につき悪意又
は重過失であったと認められる。
したがって,被告らは,この間の本件新会社による特許権侵害の不法行
為につき,会社法429条1項に基づく責任を負う。
イ平成23年7月1日から平成24年3月31日まで
原告は,本件新会社は同族会社であり,被告らは役員でない期間もD一
族のトップとして実権を行使していたことなどから,本件新会社の不法行
為につき責任を負う旨主張する。しかし,事実上の取締役について会社法
429条1項の類推適用を認める余地があるとしても,本件において,被
告らが取締役でなかった期間における本件新会社の経営の実態等について
は何ら具体的な主張がない。したがって,被告らが同項による責任を負う
とは認められない。
3本件特許の無効理由の有無(争点3)について
(1)冒認出願
被告らは,本件発明の発明者が被告Aであることを前提に,出願人である
原告は特許を受ける権利を有しないと主張する。
そこで判断するに,Cが本件発明に至る経過について具体的に陳述してい
ること(甲32,33)に加え,証拠(甲20,乙25,27,30)及び
弁論の全趣旨によれば,被告Aは,F弁理士に,Cが発明者,原告が出願人
であると説明して本件基礎出願等の手続を依頼したこと,設定登録後の本件
発明の実施許諾に関する交渉に際しても,新規性欠如については言及してい
るのに,被告Aが発明者であることには言及しなかったことが認められる。
以上によれば,本件発明の発明者はCであり,原告はCから本件発明に係
る特許を受ける権利を承継したものと認めるのが相当である。
(2)新規性欠如
被告らは,平成12年に頒布された「TuningForkTherapyLevelThree
Manual」の初版に,その第2版(SecondEdition)である乙32文献と同じ
内容の記載があることを前提に,本件発明が新規性を欠くと主張する。しか
し,書籍が改訂された場合には記載内容が一部改められるのが通常であり,
上記初版の記載内容と乙32文献の記載内容が同じであったことを認めるに
足りる証拠はない。したがって,被告らの主張は前提を欠くというほかない。
(3)以上によれば,本件特許に無効理由があるとの被告らの主張は採用でき
ない。
4損害額(争点4)について
(1)前記2(2)アのとおり,被告らは,本件新会社による平成23年4月1日
から同年6月30日までの特許権侵害の不法行為により生じた原告の損害に
つき会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負うから,同期間の原告の
損害額を検討する。
ア証拠(甲6~11)及び弁論の全趣旨によれば,本件旧会社が本件事業
により得た利益は年間平均2549万6461円であったことが認められ
る。そして,本件新会社は本件旧会社と同様に本件治療器に係る業務を行
っていると解されるところ,被告らは本件新会社の利益につき原告の主張
に対して具体的な反論をせず,積極的な反証もしていない。そうすると,
本件新会社が本件治療器を販売し,これを使用したセラピーを提供したこ
とによる年間の利益は上記と同額であると推認されるから,平成23年4
月1日から同年6月30日までの利益は635万6652円(2549万
6461円×91÷365)であると認めることができる。
イ原告は,本件治療器の販売をし,本件治療器を使用した施術を提供して
いると認められるから(甲32),本件新会社が本件発明の実施により得
た利益の額は原告が受けた損害の額であると推定される(特許法102条
2項)。
なお,被告らは,セラピーに係る利益は同項の「利益」に当たらないと
主張するが,実施品の使用(同法2条3項1号)という特許権侵害行為に
より得た利益であることは明らかであり,被告らの主張は採用できない。
ウ被告らは,本件治療器の販売及びセラピーにおける使用により利益を得
るためには,使用方法のノウハウの提供及びセラピストの技術等が寄与す
る程度が大きく,上記利益に対する本件特許の寄与度は,販売について5
%,セラピーについて2.5%であると主張する。
そこで検討するに,本件発明は音叉型治療器の発明であり,実施品の販
売やセラピーでの使用に際して,使用方法の説明やセラピストの知識及び
技術が必要なのは当然であり,本件新会社に特有の事情ではない。そして,
被告らの主張によっても,本件新会社における使用方法の説明,セラピス
トの知識及び技術,セラピストの団体等の具体的内容は明らかでなく,本
件において,上記イの推定を覆滅するに足りる事情があるとは認められな
い。
(2)したがって,本件新会社の上記期間の特許権侵害の不法行為による原告
の損害額は635万6652円であると認められ,被告らは,会社法429
条1項に基づき,各自同額の損害賠償義務を負う。
5結論
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官長谷川浩二
裁判官清野正彦
裁判官髙橋彩

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