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令和2年6月30日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成30年(ワ)第31428号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日令和2年2月4日
判決
原告X
被告東海旅客鉄道株式会社
上記訴訟代理人弁護士宍戸一樹10
同吉川景司
同首藤聡
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。15
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,10万円及びこれに対する平成30年10月25日(訴状
送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等20
1本件は,発明の名称を「座席管理システム」とする特許権(特許第39951
33号。以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」といい,その特許
出願の願書に添付されたとみなされる明細書と図面を「本件明細書」という。)を
有する原告が,被告が運営等する東海道新幹線で使用されている車内改札システ
ム(以下「被告システム」という。)は本件特許の請求項1及び2の発明の技術的25
範囲に属するものであると主張して,被告に対し,民法709条に基づき損害賠
償金(一部請求)及び遅延損害金の支払を求める事案である。
2前提事実(当事者間に争いがない事実及び後掲各証拠及び弁論の全趣旨によっ
て容易に認められる事実)
当事者
原告は,後記の本件特許権を有する個人である。5
被告は,旅客鉄道事業等を営むことを目的とする株式会社であり,東海地方
を中心に新幹線及び在来線による旅客鉄道を運営している。
原告の有する本件特許権
原告は,以下の本件特許権を有している。
特許番号第3995133号10
出願日平成12年5月8日
公開日平成13年11月16日
登録日平成19年8月10日
発明の名称座席管理システム
発明の内容等15
ア本件特許の請求項1の発明
本件特許の請求項1の記載は以下のとおりである(以下,同請求項に記載
された発明を「本件発明1」という。)。
「カードリーダで読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で発券
された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備えられるホス20
トコンピュータと,該ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席
を設置管理する座席管理地に備えられる端末機とから成る,指定座席を管理
する座席管理システムであって,前記ホストコンピュータが,前記券情報と
前記発券情報とを入力する入力手段と,該入力手段によって入力された前記
券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定25
座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する作成手段と,
該作成手段によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該
記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,前記
端末機が,前記伝送手段によって伝送された前記座席表示情報を入力する入
力手段と,該入力手段によって入力された前記座席表示情報を記憶する記憶
手段と,該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を表示する表示手5
段と,を備えて成ることを特徴とする座席管理システム。」
イ本件発明1の分説
本件発明1を分説すると,以下のとおりである(以下,分説された各構成
を「構成要件1A」又は「1A」などと表記することがある。他の発明につ
いても同様である。)。10
1A1カードリーダで読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で
発券された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備えら
れるホストコンピュータと,
1A2該ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理
する座席管理地に備えられる端末機と15
1A3から成る,指定座席を管理する座席管理システムであって,
1B前記ホストコンピュータが,前記券情報と前記発券情報とを入力する
入力手段と,
1C該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報とに基づ
き,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づい20
て表示する座席表示情報を作成する作成手段と,
1D該作成手段によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手
段と,
1E該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手
段と,25
1F前記端末機が,前記伝送手段によって伝送された前記座席表示情報を
入力する入力手段と,
1G該入力手段によって入力された前記座席表示情報を記憶する記憶手
段と,
1H該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を表示する表示手
段と,5
1Iを備えて成ることを特徴とする座席管理システム。
なお,原告は,請求原因事実の一部訂正として,構成要件1Gを「前記端
末機が,該入力手段によって入力された前記座席表示情報を記憶する記憶手
段と」と,構成要件1Hを「該記憶手段によって記憶された前記座席表示情
報を前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて前記端10
末機が表示する表示手段」とそれぞれ訂正する旨主張する。
ウ本件特許の請求項2の発明
本件特許の請求項2の記載は以下のとおりである(以下,同請求項に記載
された発明を「本件発明2」といい,本件発明1と本件発明2を併せて「本
件発明」ということがある。)。15
「カードリーダで読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で発券
された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備えられるホス
トコンピュータと,該ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,複数の座
席管理地に備えられる端末機とから成る,指定座席を管理する座席管理シス
テムであって,前記ホストコンピュータが,前記券情報と前記発券情報とを20
入力する入力手段と,該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券
情報とを,複数の前記座席管理地又は前記端末機を識別する座席管理地識別
情報又は端末機識別情報別に集計する集計手段と,該集計手段によって集計
された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置
される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する25
作成手段と,該作成手段によって作成された前記座席表示情報を記憶する記
憶手段と,該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送
手段と,前記端末機が,前記伝送手段によって伝送された当該座席管理地識
別情報又は端末機識別情報の前記座席表示情報を入力する入力手段と,該入
力手段によって入力された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶
手段によって記憶された前記座席表示情報を表示する表示手段と,を備えて5
成ることを特徴とする座席管理システム。」
エ本件発明2の分説
本件発明2を分説すると,以下のとおりである。
2A1カードリーダで読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で
発券された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備えら10
れるホストコンピュータと,
2A2該ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,複数の座席管理地に
備えられる端末機と
2A3から成る,指定座席を管理する座席管理システムであって,
2B1前記ホストコンピュータが,前記券情報と前記発券情報とを入力す15
る入力手段と,
2B2該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報とを,複
数の前記座席管理地又は前記端末機を識別する座席管理地識別情報又
は端末機識別情報別に集計する集計手段と,
2C該集計手段によって集計された前記券情報と前記発券情報とに基づ20
き,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づい
て表示する座席表示情報を作成する作成手段と,
2D該作成手段によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手
段と,
2E該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手25
段と,
2F前記端末機が,前記伝送手段によって伝送された当該座席管理地識別
情報又は端末機識別情報の前記座席表示情報を入力する入力手段と,
2G該入力手段によって入力された前記座席表示情報を記憶する記憶手
段と,
2H該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を表示する表示手5
段と,
2Iを備えて成ることを特徴とする座席管理システム。
なお,原告は,請求原因事実の一部訂正として,構成要件2Cを「該集計
手段によって集計された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,複数
の前記座席管理地に設置されるそれぞれの指定座席のレイアウトに基づい10
て表示するそれぞれの座席表示情報を作成する作成手段と」と,構成要件2
Fを「複数の前記端末機が,前記伝送手段によって伝送されたそれぞれの当
該座席管理地識別情報又は端末機識別情報により識別され集計された前記
座席表示情報を入力する入力手段と」と,構成要件2Gを「複数の前記端末
機が,該入力手段によって入力された前記座席表示情報を記憶する記憶手段15
と」と,構成要件2Hを「複数の前記端末機が,該記憶手段によって記憶さ
れた前記座席表示情報をそれぞれの指定座席のレイアウトに基づいて表示
する表示手段と」とそれぞれ訂正する旨主張する。
被告の行為
被告は,被告が運行等する東海道新幹線において,業として被告システムを20
使用している。
構成要件の充足
被告システムは,構成要件1A2,1A3,2A2,2A3を充足する。(構
成要件1A2,1A3については争いがなく,構成要件2A2,2A3につい
ては弁論の全趣旨)25
3争点
被告システムが本件発明1,2の技術的範囲に属するか否か(争点1)
ア「該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報とに基づき,
かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示す
る座席表示情報を作成する作成手段と」(構成要件1C),「該集計手段によ
って集計された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理5
地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を
作成する作成手段と」(構成要件2C)等の充足性(争点1-1)
イ被告システムは,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして特
許発明の技術的範囲に属するか否か(予備的主張)(争点1-2)
損害の発生の有無及びその額(争点2)10
4争点に関する当事者の主張
「該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報とに基づき,か
つ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座
席表示情報を作成する作成手段と」(構成要件1C),「該集計手段によって集
計された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置15
される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する作
成手段と」(構成要件2C)等の充足性(争点1-1)について
(原告の主張)
ア被告システムの構成は,以下のとおりである。
1a1自動改札機で読み取られた座席指定券の自動改札通過データを管20
理する管理センターに備えられる自動改札機通過情報サーバーと,券売
機等で発券された座席指定券の発売実績データを管理するマルスサーバ
ーと,
1a2該自動改札機通過情報サーバー及びマルスサーバーと通信回線で
結ばれて,指定座席を設置管理する複数の新幹線の車内に備えられる車25
掌携帯端末と,
1a3から成る,車内改札システムであって,
1b1前記改札機通過情報サーバーが,前記自動改札通過データを入力
する入力手段と,並びに,マルスサーバーが,前記発売実績データを入力
する入力手段と,
1b2該入力手段によって改札情報サーバー及びマルスサーバーにそれ5
ぞれ入力された前記自動改札通過データと前記発売実績データとを,複
数の新幹線列車に備えられた端末機を識別する新幹線列車識別情報別に
集計する集計手段と,
1c該集計手段によってそれぞれ新幹線列車識別情報別に集計された自
動改札通過データと発売実績データとを,各改札情報サーバー及びマル10
スサーバーにおいて,当該列車の指定座席のレイアウト(座席レイアウト
情報)に基づいて,各指定座席の利用状況(前記自動改札通過データによ
る乗車の有無及び前記発売実績データによる座席発売の有無)を表示す
るための座席表示データ(座席表示情報)を各作成する作成手段と,
1d該作成手段によって作成された前記座席表示データ(座席表示情報)15
を記憶する記憶手段と,
1e該記憶手段によって記憶された前記座席表示データ(座席表示情報)
を伝送する伝送手段と,
1f前記車掌携帯端末が,前記伝送手段によって伝送された前記座席表
示データ(座席表示情報)を入力する入力手段と,20
1g該入力手段によって入力された前記座席表示データ(座席表示情報)
を記憶する記憶手段と,
1h該記憶手段によって記憶された前記座席表示データ(前記自動改札
通過データによる乗車の有無及び前記発売実績データによる座席指定券
発売の有無という各指定座席の利用状況)を,前記端末内に設置される指25
定座席のレイアウトに基づいて表示する表示手段と,
1ⅰを備えて成ることを特徴とする車内改札システム。
イ本件発明における「座席表示情報」は,本件明細書の記載や技術常識に照
らせば,券情報と発券情報に基づき,かつ,指定座席のレイアウトに基づい
て作成されるものであり,日付,列車番号,号車番号,座席番号等から構成
される券情報や発券情報などの文字情報であって,端末機のディスプレイに5
表示される画像情報そのものではない。
被告システムで2つのサーバーが使用されているとしても,それらは本件
発明における「ホストコンピュータ」に該当する。被告システムにおけるセ
ンターサーバー(改札情報サーバー及びマルスサーバー)は,それらに入力
された自動改札通過データと発売実績データに基づき,各データを列車番号10
(識別情報)別に集計する集計手段と,その集計手段によって集計された自
動改札通過データと発売実績データを,指定座席のレイアウト(座席レイア
ウト情報)に基づき各指定座席の利用状況(自動改札通過データと発売実績
データとの有無)を表示するための基となる座席データ(座席表示情報)を
作成する作成手段を有するものであるから,被告システム(上記1c)は構15
成要件1C,2Cを充足する。
ウ上記と同様の理由から,被告システム(上記1dないし1h)は,構成要
件1Dないし1H,構成要件2Dないし2Hを充足する。
(被告の主張)
ア本件発明の構成要件1C,2Cは,「ホストコンピュータ」において券情20
報,発券情報及び指定座席のレイアウトを統合処理し,座席表示情報を作成
することを内容とするものである。これに対し,被告システムは,自動改札
機からの自動改札通過データが伝送される先のサーバーと券売機等からの
発売実績データが伝送される先のサーバーはそれぞれ別々のものであり,セ
ンターサーバー(ホストコンピュータ)において全ての列車の自動改札通過25
データと発売実績データを一括管理し,号車番号や座席番号順に並べるなど
して座席表示情報を作成し,これを車掌携帯端末に伝送するという処理はし
ていない。
したがって,被告システムの構成は構成要件1C,2Cを充足しない。
イまた,同様の理由から,被告システムは,構成要件1Dないし1H,構成
要件2Dないし2Hを充足しない。5
被告システムは,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして本件
発明の技術的範囲に属するか否か(予備的主張)(争点1-2)について
(原告の主張)
本件発明は,券情報と発券情報を,1つのホストコンピュータに集約して情
報を処理し,それらの両情報を1回線の通信回線を使用して端末機に伝送する10
ものである。
他方,被告システムは,自動改札通過データと発売実績データを,2台のサ
ーバーに別々に集約して情報を処理し,それらの両情報を2回線の通信回線を
使用して車掌携帯端末に伝送する構成を有している。
本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と被告システムの構成は,上記15
のとおり異なる部分が存在するが,そのように異なる部分が存在する場合であ
っても,①対象製品等との相違部分が特許発明の本質的部分ではないこと(第
1要件),②相違部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の
目的を達成することができ,同一の作用効果を奏することができること(第2
要件),③相違部分を対象製品等におけるものと置き換えることが対象製品等20
の製造等の時点において容易に想到できたこと(第3要件),④対象製品等が
特許発明の出願時における公知技術と同一でなく,又は公知技術から容易に推
考できたものではないこと(第4要件),⑤対象製品等が特許発明の出願手続
において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の
事情がないこと(第5要件)の各要件を満たす場合には,当該対象製品等は特25
許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして特許発明の技術的範囲に
属することになる。
ア第1要件について
本件発明は各指定座席の座席指定券の発券情報と自動改札機で読み取ら
れた券情報の両情報をサーバーによって適宜整序処理し,それらの整序処理
された両情報をサーバー側から指定座席を管理する列車車内の携帯可能な5
端末機に伝送し,伝送された各指定座席の両情報を上記端末機に表示し,そ
の表示を車掌が目視で確認できるようにしたものであり,これが本件発明の
本質的部分である。本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と被告シス
テムの構成の異なる部分は,上記のとおりサーバーと通信回線の個数に関す
る相違であって,本件発明の本質的部分に関係するものとはいえない。した10
がって,第1要件を満たす。
イ第2要件について
本件発明の作用効果は,車掌が携帯する端末機に表示される各指定座席の
利用状況(自動改札通過情報及び発売実績情報の有無)を車掌が目視で確認
できるようにして,車内改札を本来空席であるはずの座席に座っている乗客15
に対して従来のように切符の提示を求めるだけで足りるようにしたもので
あり,これにより車内改札の省略化を図るというものである。本件発明の構
成要件の「ホストコンピュータ」を,被告システムの構成の「自動改札通過
情報サーバー」と「マルスサーバー」に置き換えた場合であっても,全く同
一の作用効果を実現することができる。したがって,第2要件を満たす。20
ウ第3要件について
上記のとおり本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と被告システ
ムの構成の異なる部分に関して,本件発明の特許請求の範囲に記載された構
成を被告システムの構成に置き換えることは,当業者は容易に想到すること
ができた。したがって,第3要件を満たす。25
エ第4要件,第5要件について
被告システムの構成は本件発明の出願時における公知技術と同一又は公
知技術から容易に推考できたものではなく,被告システムが本件発明の出願
手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものであるともいえ
ない。したがって,第4要件,第5要件を満たす。
オ以上によれば,被告システムは,本件発明に係る特許請求の範囲に記載さ5
れた構成と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属する。
(被告の主張)
本件発明はホストコンピュータにおいて券情報,発券情報及び指定座席のレ
イアウトといった情報を統合処理し,座席表示情報を作成することを構成要件
の一つ(構成要件1C,2C)とする発明であるのに対し,被告システムは本10
件発明のホストコンピュータに相当しうる各サーバーにおいて自動改札通過
データや発売実績データといった個々の情報を1つの情報に統合するという
処理等を行っていない点で相違する。
ア第1要件について
本件発明は,従来の座席指定席利用状況監視装置で券情報と発券情報の両15
情報を管理センターから受ける場合は,伝送される情報量が2倍になるため,
通信回線の負担が2倍になり,端末機の記憶容量と処理速度を2倍にしなけ
ればならなかったという課題について,この課題を解決するための手段とし
て,管理センターに備えられるホストコンピュータで券情報と発券情報の両
情報に基づいて座席表示情報を作成した後,当該座席表示情報をホストコン20
ピュータから座席管理地に備えられる端末機へ送信することにより,端末機
に伝送される情報量や,通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度を半
減することを可能にした発明であり,これらの部分が本件発明の本質的部分
であるといえるから,上記の相違点は本件発明の本質的部分に関するもので
ある。したがって,第1要件を満たさない。25
イ第2要件について
本件発明は,ホストコンピュータにおいて,券情報,発券情報及び指定座
席のレイアウトといった情報を統合処理して座席表示情報を作成するとい
う構成によって,ホストコンピュータから端末機へ伝送される情報量や,通
信回線の負担と端末機の記憶容量及び処理速度を半減するという効果を生
じさせている。これに対し,被告システムは,自動改札機から自動改札通過5
データが伝送される先のサーバーと,券売機等から発売実績データが伝送さ
れる先のサーバーは別々であるため,各データはそれぞれ異なる送信元サー
バーから異なるタイミングで車掌携帯端末に伝送される。本件発明の構成を
被告システムの構成に置き換えても同一の作用効果を奏することはない。し
たがって,第2要件を満たさない。10
ウ第3要件について
上記イのとおり,本件発明と被告システムの構成の相違部分には置換可能
性がなく,異なる課題及び解決手段並びに作用効果を持つ発明間では当業者
には置換の動機付けが生じないから,第3要件を満たさない。
エ以上のとおり,本件においては,均等論の第1要件ないし第3要件を満た15
さないから,第4要件,第5要件について検討するまでもなく,均等侵害が
成立しないことは明らかである。
損害の発生の有無及びその額(争点2)について
(原告の主張)
被告は,平成28年3月から被告システムの使用を開始し,現在も被告シス20
テムを使用している。被告が被告システムを使用することにより,原告の特許
権を侵害した期間は,平成28年3月から平成30年9月までの約2年7か月
である。本件発明は,座席を管理するシステムとして,極めて高い価値を有す
るものであるから,本件特許権を実施するための正当な権利を得るためには高
額な実施料を要することになる。25
原告は,被告に対し,民法709条に基づき,上記実施料についての一部請
求として10万円を請求する。
(被告の主張)
否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1本件発明の概要5
本件明細書の記載(甲2)
ア従来の技術及び発明が解決しようとする課題
「従来,指定座席を管理する座席管理システムとしては,カードリーダで
読取られた座席指定券の券情報及び券売機等で発券された座席指定券の発
券(座席予約)情報等を,例えば列車車内において,端末機(コンピュータ)10
で受けて記憶し表示して,指定座席の利用状況を車掌が目視できるようにし
て車内検札を自動化する座席指定席利用状況監視装置(特公H5-4788
0号公報)が発明されている。」(【0002】)
「図2は,前記座席指定席利用状況監視装置に備えられる端末機の概略図
を示すもので,券情報入力15で受けたカードリーダで読取られた座席指定15
券の券情報と,発券情報入力16で受けた券売機等で発券された座席指定券
の発券情報等の情報をCPU17に記憶して情報処理して,各指定座席の使
用及び空席等の利用状況をディスプレイ18に表示して,該表示を車掌が目
視できるようにして,車内検札を自動化した座席管理装置である。」(【00
03】)20
「このように,前記座席指定席利用状況監視装置は,共に指定座席の使用
及び空席等の利用状況を表示する座席表示情報となり,かつ,車内検札を自
動化するのに絶対不可欠な前記券情報或いは前記発券情報を用いて,列車車
内において各指定座席の利用状況を表示するようにしたことで,初めて車内
改札を自動化した画期的な発明である。さらにともに表示情報として作用す25
る前記券情報と前記発券情報との両情報を独立して表示できるとともに,前
記発券情報による表示を前記券情報による表示に優先して表示して発券さ
れていない例えば変造や偽造の座席指定券の使用を防止できるようにして
いるが,例えばこれ等の両情報を地上の管理センターから受ける場合,伝送
される情報は2種になるために通信回線の負担を1種の場合に比べて2倍
にするとともに端末機の記憶容量と処理速度とをともに2倍にするなどの5
問題がある。」(【0004】)
「本発明が解決しようとする課題は,上記発明の座席指定席利用状況監視
装置は上記券情報と上記発券情報とに基づいて各座席指定席の利用状況を
表示するにはこれ等の両情報を地上の管理センターから受ける場合,伝送さ
れる情報量が2倍になるために,該情報を伝送する通信回線の負担を2倍に10
するとともに端末機の記憶容量と処理速度とをともに2倍にするなどの点
にある。」(【0005】)
イ課題を解決するための手段及び作用
「上記問題を解決するために,本発明は,上記管理センターに備えられる
ホストコンピュータが,カードリーダで読取られた座席指定券の券情報と券15
売機等で発券された座席指定券の発券情報とを入力して,これ等の両情報に
基づいて表示する座席表示情報を作成して,作成された前記座席表示情報を,
前記ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座
席管理地に備えられる端末機へ伝送して,該端末機が,前記座席表示情報を
入力して表示してするように構成したことを主要な特徴とする。」(【00020
6】)
「本発明は,これ等の構成によって,上記ホストコンピュータから上記端
末機へ伝送される情報量が上記券情報と上記発券情報との両表示情報から
1つの表示情報となる上記座席表示情報にすることで半減され,これによっ
て通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度とを半減する。」(【00025
7】)
ウ実施例
「ホストコンピュータ1において,券情報入力3は前記券情報を受けてこ
れをCPU6へ入力して,さらに発券情報入力4は前記発券情報を受けてこ
れをCPU6へ入力して,制御情報入力5は端末機2から情報の伝送を指令
する伝送指令情報或いは前記座席管理地において発券された座席指定席の5
発券情報等を受けてこれ等の情報をCPU6へ入力する。」(【0009】)
「CPU6は,券情報入力3から入力された前記券情報及び発券情報入力
4から入力された前記発券情報それに制御情報入力5から入力された前記
発券情報等を記憶するとともに,これ等の情報に基づき,かつ,前記座席管
理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて,例えば前記券情報及び10
前記発券情報の両情報又は前記券情報若しくは前記発券情報が存在すると
きは「1」(使用席)とし,両情報が存在しないときは「0」(空席)として,
各指定座席の利用状況を表示する座席表示情報を作成して,これを記憶する
とともに,該座席表示情報を,制御情報入力5から前記伝送指令情報が入力
されたとき表示情報出力8へ出力する。」(【0010】。なお,訂正審決(訂15
正2009-390150)により訂正された後のものを記載した。)
「ディスプレイ7はCPU6に記憶された前記座席表示情報を受けて表示
し,さらに表示情報出力8は,制御情報入力5が前記伝送指令情報を受けて
CPU6に入力したときCPU6から出力された前記座席表示情報を通信
回線に乗せて端末機2へ伝送する。また操作部9は,CPU6のプログラム20
のシーケンスを制御して,前記した各種情報の入力の受付や,前記座席表示
情報を受けて表示されるディスプレイ7の画像をスクロールする等の操作
をする。」(【0011】)
「次に,端末機2において,表示情報入力10は,ホストコンピュータ1
と通信回線で結ばれて,伝送された前記座席表示情報を受けてこれをCPU25
11へ入力する。」(【0012】)
「CPU11は表示情報入力10から入力された前記座席表示情報を受け
てこれを記憶するとともに,ホストコンピュータ1へ情報の伝送を指令する
伝送指令情報を記憶する。さらにディスプレイ12はCPU11に記憶され
た前記座席表示情報を受けて,当該座席管理地に設置される指定座席のレイ
アウトに基づいて各指定座席の利用状況を表示する。」(【0013】)5
「これ等のことから,本発明の座席管理システムは,カードリーダ(改札
機等)で読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で発券された座席指
定券の発券情報等を管理する管理センターに備えられるホストコンピュー
タ1が,前記券情報と前記発券情報,それに,ホストコンピュータ1と通信
回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管理地に備えられる端末機210
からの,当該座席管理地で発券された座席指定券の発券情報等を受けて,こ
れ等の情報に基づいて,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイ
アウトに基づいて座席表示情報を作成して,これを表示するとともに,作成
された座席表示情報を,端末機2からの前記座席表示情報の伝送を指令する
伝送指令情報を受けて伝送して,さらに,端末機2が,ホストコンピュータ15
1から伝送された前記座席表示情報を受けてこれを表示するとともに,当該
座席管理地において,座席指定券が発券されたときの発券情報によって前記
座席表示情報及びその表示が更新されて,座席管理者が各指定座席の利用状
況を目視できるようにしている。」(【0016】)
「さらに,端末機2でする前記座席表示情報の表示は,当該座席管理地に20
設置される指定座席の各座席ごとの着席されているか否かに係る着席情報
を入力して,該着席情報と前記座席表示情報とに基づいて新たな座席表示情
報を作成して表示して,各指定座席の利用状況の表示をより正確にするとと
もに,例えば座席指定券が発券されていない座席が占有されるような場合で
あっても,これを表示して座席管理者がリアルタイムに目視確認できるよう25
にして,指定座席の間違え又は不正占有等の発見をリアルタイムに,かつ,
迅速にできるようにするとよい。」(【0018】)
エ発明の効果
「以上説明したように本発明の座席管理システムは,上記管理センターに
備えられるホストコンピュータが,カードリーダ(改札機等)で読取られた
座席指定券の券情報と券売機等で発券された座席指定券の発券情報とを入5
力して,これ等の両情報に基づいて表示する座席表示情報を作成して,作成
された前記座席表示情報を,前記ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,
指定座席を設置管理する座席管理地に備えられる端末機へ伝送して,該端末
機が前記座席表示情報を入力して表示してするようにしたことで,該端末機
がする各指定座席の利用状況の表示を前記券情報と前記発券情報との両表10
示情報から1つの表示情報となる前記座席表示情報で実現できるようにな
り,これによって前記ホストコンピュータから前記端末機へ伝送する情報量
が半減され,通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度等を軽減すると
ともに,端末機のコストダウンが計られて,本発明のシステムの構築を容易
にする。」(【0020】)15
本件発明の課題,解決手段及び効果
本件発明は,指定座席を管理する座席管理システムに関するものである。
従来,指定座席を管理する座席管理システムとして,カードリーダで読み取
られた座席指定券の券情報及び券売機等で発券された座席指定券の発券(座席
予約)情報等を,例えば列車車内において,端末機(コンピュータ)で受けて20
記憶し表示して,指定座席の利用状況を車掌が目視できるようにして車内検札
を自動化する座席指定席利用状況監視装置が発明されていた。
しかし,上記の発明では,券情報と発券情報の両情報を地上の管理センター
から受ける場合,伝送される情報が2種類になるため,通信回線の負担は情報
が1種類の場合と比べて2倍になり,それにより端末機の記憶容量と処理速度25
を2倍にする必要があるなどの課題があった。
本件発明は,管理センターに備えられるホストコンピュータが,券情報と発
券情報を入力して,これらの両情報に基づいて表示される座席表示情報を作成
し,その作成された座席表示情報を車掌が携帯する端末機へ伝送し,端末機が
座席表示情報を入力してそれを表示するように構成したことにより,ホストコ
ンピュータから端末機へ伝送される情報量が半減され,また,通信回線の負担5
と端末機の記憶容量及び処理速度が半減されるという効果を奏するものであ
る。
2後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
被告システムは,自動改札機で読み取った座席指定券の駅改札通過情報(自
動改札通過データ)と,券売機等で発券された座席指定券の予約状況に関する10
情報(発売実績データ)を,東海道新幹線の車内で乗務する車掌が持つ携帯端
末(車掌携帯端末)に表示するものであり,以下の機能等を有する(なお,被
告システムは平成30年3月に仕様変更がされており,その前後で,下記のと
おり機能等が一部異なっている。)。(乙1,2,弁論の全趣旨)
ア仕様変更前の被告システムの機能等15
自動改札通過データ及び発売実績データは,自動改札通過データは改札情
報サーバーから,発売実績データはマルスサーバーから,それぞれ車掌携帯
端末に送信される。
車掌は,乗務開始時前に車掌携帯端末を操作し,乗務する列車の運用を表
す数字や記号(例えば「のぞみ1号」であれば「1A」と表記される。)を設20
定し,車両の形式・車種などの対象列車の編成パターンを設定する。車掌が
乗務を開始した後,「号車指定席情報」を取得したい停車駅を指定して車掌
携帯端末上で読み込み操作を行うと,車掌携帯端末は,改札情報サーバーか
ら対象列車の号車ごとの自動改札通過人数の情報を取得し,車掌携帯端末の
画面に表示する。続いて,車掌が「座席詳細情報」を取得したい「号車」を25
指定して読み込み操作を行うと,車掌携帯端末は,改札情報サーバーから対
象列車の指定された号車の指定席の自動改札通過データを取得し,当該号車
の指定座席のレイアウトに沿って画面表示する。
車掌は,当該号車の指定座席のレイアウトに沿って,自動改札通過データ
と発売実績データを重ね合わせて画面表示することを選択することもでき
る。車掌が,上記のように重ね合わせて画面表示することを選択した場合に5
は,車掌携帯端末上で発売実績データを取得しようとする号車を指定してそ
の読み込み操作を行い,車掌携帯端末がマルスサーバーから発売実績データ
を取得し,先に取得していた自動改札通過データと重ね合わせる処理を行っ
た上で,当該号車の指定座席のレイアウトに沿って画面表示する。
イ仕様変更後の被告システムの機能等10
車掌が,車掌携帯端末において停車駅及び号車を選択し,情報を取得する
操作を行うと,上記アとは異なり,車掌携帯端末は,最初にマルスサーバー
から発売実績データを取得し,その後,車掌が改めて操作を行わなくても自
動的に改札情報サーバーから自動改札通過データを取得し,それらの情報を
重ね合わせて画面上に車内改札用のシートマップを表示する。その他の機能15
等は,上記アと基本的に同じである。
によれば,被告システムは,以下の構成を有すると認められる。
a1自動改札機で読み取られた座席指定券の駅改札通過情報(自動改札通過
データ)を管理する管理センターに備えられた改札情報サーバーと,
a2券売機等で発券された座席指定券の予約状況に関する情報(発売実績デ20
ータ)を管理する管理センターに備えられたマルスサーバーと,
a3前記改札情報サーバー及び前記マルスサーバーと通信回線で結ばれて,
指定座席を設置管理する複数の新幹線の車内に備えられる車掌携帯端末
と,
a4から成る,東海道新幹線の指定座席を管理する車内改札システムであっ25
て,
b1前記改札情報サーバーが,駅の自動改札機で読み取られた前記駅改札通
過情報(自動改札通過データ)を入力する第1の入力手段と,
b2前記第1の入力手段によって入力された駅改札通過情報(自動改札通過
データ)を記憶する第1の記憶手段と,
b3前記第1の記憶手段によって記憶された駅改札通過情報(自動改札通過5
データ)を特定の列車番号ごとに集計し,前記携帯端末の要求に応じて,
特定の列車番号の号車に関する駅改札通過情報(自動改札通過データ)を
抽出する第1の抽出手段と,
b4前記第1の抽出手段によって抽出された駅改札通過情報(自動改札通過
データ)を前記携帯端末に伝送する第1の伝送手段と,を有し,10
c1前記マルスサーバーが,券売機等で発券された前記座席指定券の予約状
況に関する情報(発売実績データ)を入力する第2の入力手段と,
c2前記第2の入力手段によって入力された座席指定券の予約状況に関す
る情報(発売実績データ)を記憶する第2の記憶手段と,
c3前記第2の記憶手段によって記憶された座席指定券の予約状況に関す15
る情報(発売実績データ)を特定の列車番号ごとに集計し,前記携帯端末
の要求に応じて,特定の列車番号の号車に関する座席指定券の予約状況に
関する情報(発売実績データ)を抽出する第2の抽出手段と,
c4前記第2の抽出手段によって抽出された座席指定券の予約状況に関す
る情報(発売実績データ)を前記携帯端末に伝送する第2の伝送手段と,20
を有し,
d1前記携帯端末が,前記第1の伝送手段によって伝送された駅改札通過情
報(自動改札通過データ)と,前記第2の伝送手段によって伝送された座
席指定券の予約状況に関する情報(発売実績データ)を各入力する各入力
手段と,25
d2前記各入力手段によって入力された駅改札通過情報(自動改札通過デー
タ)と座席指定券の予約状況に関する情報(発売実績データ)を記憶する
第3の記憶手段と,
d3前記第3の記憶手段によって記憶された駅改札通過情報(自動改札通過
データ)と座席指定券の予約状況に関する情報(発売実績データ)とを重
ね合わせた情報を作成する手段と,5
d4前記作成手段により作成された情報を記憶する第4の記憶手段と,
d5前記第4の記憶手段によって記憶された情報を,前記特定の列車の号車
の指定座席のレイアウトに沿って前記携帯端末の画面に表示する手段と,
eを備えて成ることを特徴とする車内改札システム。
3「該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,10
前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表
示情報を作成する作成手段と」(構成要件1C),「該集計手段によって集計され
た前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指
定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する作成手段と」
(構成要件2C)等の充足性(争点1-1)について15
構成要件1Cは「該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報
とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づ
いて表示する座席表示情報を作成する作成手段と」であり,構成要件2Cは「該
集計手段によって集計された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前
記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表20
示情報を作成する作成手段と」である。そして,「ホストコンピュータ」におい
て,上記の「座席表示情報」が作成され(構成要件1C,2C),記憶され(構
成要件1D,2D),伝送される(構成要件1E,2E)。また,「端末機」にお
いて,その伝送された「座席表示情報」を入力,記憶,表示する(構成要件1
Fないし1H,2Fないし2H)。25
ここで,「座席表示情報」は,「前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,
前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する」(構
成要件1C,2C)ものであるから,座席表示情報は,特許請求の範囲の文言
上,少なくとも「券情報と発券情報と」に基づいて作成されるものであり,ま
た,ホストコンピュータにおいて作成され,端末機に伝送されるものである。
本件明細書をみると,従来の技術について,「前記座席指定席利用状況監視5
装置(判決注:特公H5-47880号)は,共に指定座席の使用及び空席等
の利用状況を表示する座席表示情報となり,かつ,車内検札を自動化するのに
絶対不可欠な前記券情報或いは前記発券情報を用いて,列車車内において各指
定座席の利用状況を表示するようにしたことで,初めて車内改札を自動化した
画期的な発明である。…例えばこれ等の両情報(判決注:券情報と発券情報)10
を地上の管理センターから受ける場合,伝送される情報は2種になるために通
信回線の負担を1種の場合に比べて2倍にするとともに端末機の記憶容量と
処理速度とをともに2倍にするなどの問題がある」(【0004】
「…座席指定席利用状況監視装置は上記券情報と上記発券情報とに基づいて
各座席指定席の利用状況を表示するにはこれ等の両情報を地上の管理センタ15
ーから受ける場合,伝送される情報量が2倍になるために,該情報を伝送する
通信回線の負担を2倍にするとともに端末機の記憶容量と処理速度とをとも
に2倍にする」(【0005】前記ア)などの課題があった。これに対し,
本件発明の構成をとることで,「該端末機がする各指定座席の利用状況の表示
を前記券情報と前記発券情報との両表示情報から1つの表示情報となる前記20
座席表示情報で実現できるようになり,これによって前記ホストコンピュータ
から前記端末機へ伝送する情報量が半減され,通信回線の負担と端末機の記憶
容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機のコストダウンが計られて,本
発明のシステムの構築を容易にする。」(【0020】前記エ)と記載され
ている。25
これらの記載に照らしても,従来の技術においては,券情報と発券情報の2
つの情報をそれぞれ端末機に対して伝送しており,そのため,1つの情報が伝
送される場合に比べて情報量が2倍になり通信回線の負担が2倍になるなど
していたところ,本件発明は,これと異なり,「ホストコンピュータ」におい
て,少なくとも券情報と発券情報という2つの情報に基づいて1つの座席表示
情報を作成するものであり,そのように作成された座席表示情報を端末機に伝5
送することによって,端末機へ伝送される情報量が半減されて通信回線の負担
が軽減されるという効果を奏するものである。このような本件明細書の発明の
詳細な説明に照らしても,本件発明において,「座席表示情報」は,「ホストコ
ンピュータ」において少なくとも券情報と発券情報の2つの情報に基づいて作
成され,端末機に伝送される情報であると認められ,「ホストコンピュータ」10
は,少なくとも券情報と発券情報との2つの情報に基づいて「座席表示情報」
を作成する作成手段を備え,また,そのように作成された「座席表示情報」を
伝送する伝送手段を備えるものである。
には改札情報サーバーとマルスサーバーが
あり(構成a1,a2),改札情報サーバーは自動改札機で読み取られた駅改札15
通過情報を入力して記憶し,必要な情報を抽出し,その抽出された情報を車掌
携帯端末に伝送する(構成b1ないし4)。マルスサーバーは発券機等で発券
された座席指定券の予約情報を入力して記憶し,必要な情報を抽出し,その抽
出された情報を車掌携帯端末に伝送する(構成c1ないし4)。そして,新幹線
の車内に備えられる車掌携帯端末において,駅改札通過情報と座席指定券の予20
約状況に関する情報を重ね合わせた情報が作成される(構成d3)。
被告システムの駅改札通過情報は本件発明の券情報に相当し,被告システム
の座席指定券の予約情報は本件発明の発券情報に相当する。ここで,被告シス
テムでは,改札情報サーバーにおいては駅改札通過情報に基づく情報が作成さ
れ,マルスサーバーにおいては座席指定券の予約情報に基づく情報が作成され25
る。これらのいずれのサーバーにおいても,駅改札通過情報と座席指定券の予
約情報という2つの情報に基づいて1つの情報が作成されることはなく,また,
被告システムにおいては,駅改札通過情報と座席指定券の予約情報という2つ
の情報に基づいて作成された1つの情報が,車掌携帯端末に伝送されることは
ない。
そうすると,ける「座席表示情報」とは,「ホ5
ストコンピュータ」において少なくとも券情報と発券情報の2つの情報に基づ
いて作成され,端末機に伝送される情報であるところ,被告システムにおいて
は,改札情報サーバーにおいてもマルスサーバーにおいても,このような本件
発明における「座席表示情報」が作成されているとはいえず,その作成手段が
あるとはいえないから,被告システムは構成要件1C,2Cを充足しない。ま10
た,被告システムにおいては,本件発明における「座席表示情報」が作成され,
その「座席表示情報」を記憶し,伝送する「ホストコンピュータ」があるとは
いえないから,被告システムは,少なくとも,構成要件1D及び1E,2D及
び2Eを充足しない。
ア原告は,本件発明における「座席表示情報」は,本件明細書の記載や技術15
常識に照らせば,券情報と発券情報に基づき,かつ,指定座席のレイアウト
に基づいて作成されるものであり,日付,列車番号,号車番号,座席番号等
から構成される券情報や発券情報などの文字情報であって,端末機のディス
プレイに表示される画像情報そのものではないと主張する。そして,被告シ
ステムにおけるセンターサーバー(改札情報サーバー及びマルスサーバー)20
は,それらに入力され,集計された自動改札通過データと発売実績データを,
指定座席のレイアウト(座席レイアウト情報)に基づき各指定座席の利用状
況(自動改札通過データと発売実績データとの有無)を表示するための基と
なる座席データ(座席表示情報)を作成する作成手段を有することを挙げて,
被告システムは構成要件1C等を充足する旨主張する。25
確かに,本件発明において「座席表示情報」が画像情報である旨の限定は
ない。しかし,上記のとおり,本件発明における座席表示情報は,少なくと
も「券情報と発券情報と」に基づいて作成された情報であるところ,被告シ
ステムの改札情報サーバーにおいて作成される情報は券情報に基づくもの
であり,マルスサーバーにおいて作成される情報は発券情報に基づくもので
ある。これらのサーバーにおいて作成される情報は,券情報又は発券情報の5
いずれか1つの情報に基づいて作成されるものであるから(構成b3,c3),
「券情報と発券情報と」に基づいて作成されるものではく,本件発明の「座
席表示情報」には該当しない。
イ原告は,被告システムで2つのサーバーが使用されているとしても,それ
らは本件発明における「ホストコンピュータ」に該当すると主張し,被告シ10
ステムが本件発明の構成要件を充足すると主張する。
本件明細書に「ホストコンピュータ」を構成するサーバーの個数について
の記載はなく,サーバーの個数自体が1つに限定される理由はない。しかし,
本件発明における「ホストコンピュータ」は,前記のとおり,少なくとも券
情報と発券情報とに基づき座席表示情報を作成する作成手段やその座席表15
示情報を記憶する記憶手段,伝送する伝送手段を備えるものである。これに
対し,被告システムの改札情報サーバーとマルスサーバーは,券情報に基づ
く情報又は発券情報に基づく情報を作成する作成手段を備えるとしても,い
ずれも,券情報と発券情報という2つの情報に基づく「座席表示情報」を作
成する作成手段を備えるものではなく,また,そのような2つの情報に基づ20
く「座席表示情報」を記憶する記憶手段や伝送する伝送手段を備えるもので
はないから,少なくとも構成要件1Cないし1E,2Cないし2Eを充足す
るものではない。
ウ以上によれば,被告システムは,少なくとも構成要件1Cないし1E,2
CないしEを充足しない。25
4被告システムは,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして特許発
明の技術的範囲に属するか否か(予備的主張)(争点1-2)について
上記3のとおり,本件発明では「ホストコンピュータ」において「座席表示
情報」が作成され,それが伝送されるなどする(構成要件1Cないし1E,2
Cないし2E)。これに対し,被告システムでは改札情報サーバーとマルスサ
ーバーにおいて,それぞれ情報が作成等されるのであり,それぞれのサーバー5
は券情報と発券情報とに基づく「座席表示情報」(構成要件1C,2C)の作成
手段等を備えず,「車掌携帯端末」において「駅改札通過情報と座席指定券の予
約状況に関する情報を重ね合わせた情報」が作成される(構成d3)などの構
成の相違がある。
原告は,被告システムは本件発明と均等であるとして均等侵害の主張をする。10
特許請求の範囲の記載の文言を充足せず,特許請求の範囲に記載された構成
中に,相手方が製造等をする製品等(以下「対象製品等」という。)と異なる部
分が存する場合であっても,①同部分が特許発明の本質的部分ではなく,②同
部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達すること
ができ,同一の作用効果を奏するものであって,③上記のように置き換えるこ15
とに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)
が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであ
り,④対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業
者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,⑤対象製品
等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外され20
たものに当たるなどの特段の事情もないときは,同対象製品等は,特許請求の
範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するも
のと解される(以下,上記①ないし⑤の要件をそれぞれ「第1要件」ないし「第
5要件」という。)。
ア第1要件にいう特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請25
求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する
特徴的部分であり,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明
の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲
の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部
分が何であるかを確定することによって認定される(知的財産高等裁判所平
成27年(ネ)第10014号同28年3月25日判決)。5
ここで,本件明細書をみると,従来の技術においては,券情報と発券情報
の2つの情報をそれぞれ端末機に対して伝送していたため情報量が2倍に
なり通信回線の負担が2倍になっていた。本件発明は,このような従来の技
術と異なり,「ホストコンピュータ」において,券情報と発券情報という2つ
の情報に基づいて1つの座席表示情報を作成するものであり,それによって,10
端末機へ伝送される情報量が半減されて通信回線の負担が軽減されるとい
う効果を奏するものである(【0002】~【0007】,【0020】)。
このような本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らせば,本件発明に
おいて,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であ
る本質的部分は,「ホストコンピュータ」が券情報と発券情報との2つの情15
報に基づいて1つの「座席表示情報」を作成する作成手段を有し,そのよう
にして作成された「座席表示情報」が「ホストコンピュータ」から端末機に
伝送される点にあるといえる。
被告システムにおいては,券情報と発券情報との2つの情報に基づいて1
つの情報が作成されるサーバーはなく,したがって,それらの2つの情報に20
基づいて作成された1つの情報を端末機に伝送するサーバーもない。そうす
ると,本件発明の本質的部分において,本件発明の構成と被告システムの構
成は異なる。したがって,被告システムが均等侵害の第1要件を充足するこ
とはない。
また,被告システムは,端末機に対して券情報と発券情報という2つの情25
報に基づいて作成された1つの情報が伝送されるものではないから,券情報
と発券情報がそれぞれ端末機に伝送されるシステムに比べて通信回線の負
担と端末機の記憶容量及び処理速度を半減するものではない。したがって,
本件発明と同一の作用効果を奏するものではなく,第2要件を満たさない。
イ原告は,第1要件について,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成
と被告システムの構成の異なる部分は,サーバーと通信回線の個数に関する5
相違であって,本件発明の本質的部分に関係するものとはいえない旨主張す
る。しかし,上記アのとおり,券情報と発券情報とに基づく情報が作成され,
そのようにして作成された情報が伝送されるサーバーがあることは,均等侵
害の第1要件にいう本件発明の本質的部分であるといえ,被告システムは,
その本質的部分において,本件発明と異なる。10
また,原告は,本件発明の作用効果は,車掌が携帯する端末機に表示され
る各指定座席の利用状況(自動改札通過情報及び発売実績情報の有無)を車
掌が目視で確認できるようにして,車内改札を本来空席であるはずの座席に
座っている乗客に対して従来のように切符の提示を求めるだけで足りるよ
うにしたものであり,これにより車内改札の省略化を図るというものであり,15
被告システムの作用効果と同じである旨主張する。しかし,前記のとお
り,本件明細書の記載に照らせば,従来技術と比較した本件発明の効果は,
券情報と発券情報がそれぞれ端末機に伝送されるシステムに比べて通信回
線の負担と端末機の記憶容量及び処理速度を半減するところにある。したが
って,被告システムが本件発明と同じ作用効果を有するとはいえない。20
上記のとおり,被告システムは,少なくとも均等侵害の第1要件,第2要
件を充足せず,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして本件発明
の技術的範囲に属するものであるということはできない。
5小括
以上によれば,被告システムが本件発明の技術的範囲に属すると認めることは25
できない。
第4結論
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決す
る。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官柴田義明
裁判官佐藤雅浩
裁判官安岡美香子は転勤のため署名押印できない。15
裁判長裁判官柴田義明

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