弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主    文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
   被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であ
る平成12年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
 1 事案の概要
 本件は,不安神経症等のため外出することができないとする原告が,被告に対
し,(1)国会が,①昭和49年6月3日に公職選挙法を改正し,身体障害者手帳を有
する者等に限り,現在する場所において郵便による投票の方法を認める制度を設け
たこと,②その後この制度の対象者を拡充する立法をしなかったこと,(2)内閣が,
同制度の対象者を拡充する法律案を国会に提出しなかったことが,いずれも選挙権
の行使という憲法が保障する国民の基本的人権を実質的に制限するものであり,そ
の結果,原告も現実に3回の選挙において投票することができず,精神的損害を被
ったとして,国家賠償法1条1項に基づき,100万円の損害賠償金(90万円の
慰謝料及び10万円の弁護士費用)並びにこれに対する民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支
払を求めている事案である。
 2 前提となる事実(証拠の記載のない事実については当事者間に争いがな
い。)
  (1) 原告について
   ア 原告は,昭和54年★月★日生まれの男性であり(甲1),精神発育遅
滞等のため,平成10年1月26日付けで,大阪府から総合判定「A」と判定され
た療育手帳の交付を受け,両親とともに大阪府茨木市に居住しているが,平成11
年★月★日に成年に達し選挙権を取得した。
  イ 原告は,平成12年3月6日時点において,精神発育遅滞及び不安神経症
のため加療中であるものの,主として後者が原因で外出できない状態にあると医師
により診断されており,以後も同様の状態が継続している(甲2,5)。
ウ 原告は,平成12年2月に実施された大阪府知事選挙においては,強い関心を
示しながらも,上記不安神経症等のため投票所まで出かけることができなかったこ
とから,結果的に選挙権を行使することを諦め,その後,同年4月に実施された茨
木市長選挙においても,同様に選挙権の行使を断念した(甲5)。
  また,原告は,平成12年6月に実施された衆議院議員総選挙においても,予
め原告の父を代理人として,茨木市選挙管理委員会に郵便投票証明書の交付申請を
行ったが,身体障害者手帳が添付されていないことを理由に,郵便投票証明書交付
申請書を受理してもらえなかったため,郵便による投票をすることができず,この
際も選挙権の行使をしていない(甲3,5,以下,これら3つの選挙を「本件各選
挙」という。)。
  (2) 現行の投票制度について
   ア 選挙当日投票所自書主義の原則
     公職選挙法(以下,特に断りのない限り,現行のものを指す。)のもと
では,原則的な投票の方法として,選挙人は,選挙の当日,自ら投票所に行き,投
票所において,投票用紙に当該選挙の公職の候補者1人の氏名を自書して,これを
投票箱に入れなければならないものとされ(同法44条1項,46条1項),いわ
ゆる選挙当日投票所自書主義を採用している。そして,自書主義の例外として代理
投票制度を,選挙当日投票所投票主義(本件で問題とされているのは専らこちらの
原則である。)の例外として不在者投票制度を設けており,不在者投票制度のなか
には,一般的な不在者投票制度(以下,これを指して単に「一般不在者投票制度」
という。)と郵便による不在者投票制度(以下「郵便投票制度」という。)とがあ
る。
   イ 一般不在者投票制度
     一般不在者投票制度とは,「選挙人で選挙の当日」「職務若しくは業務
又は総務省令で定める用務に従事すること。」(公職選挙法49条1項1号),
「疾病,負傷,妊娠,老衰若しくは身体の障害のため若しくは産褥にあるため歩行
が困難であること又は監獄,少年院若しくは婦人補導院に収容されていること。」
(同項3号)などの「いずれかに該当すると見込まれるものの投票については,政
令で定めるところにより・・・(中略)・・・不在者投票管理者の管理する投票を記載す
る場所において行わせることができる。」(同条本文)というものであり,選挙当
日の前に,あらかじめ,投票所において投票させる制度である。
     公職選挙法施行令(以下,特に断りのない限り,現行のものを指す。)
は,これを受けて,「不在者投票管理者」につき,一定の選挙管理委員会の委員長
のほか,都道府県の選挙管理委員会が指定する病院や老人ホーム等に入院,入所等
している者の不在者投票については,当該施設の長が上記「不在者投票管理者」と
なる旨規定していることから(55条1項ないし3項),それらの選挙人は,入
院,入所中の当該施設(そこが投票を記載する場所になる。)で選挙当日の前にあ
らかじめ投票できることとなる。
   ウ 郵便投票制度及びその制度の対象となる選挙人
     郵便投票制度とは,「選挙人で身体に重度の障害があるもの(身体障害
者福祉法(昭和24年法律第283号)第4条に規定する身体障害者又は戦傷病者
特別援護法(昭和38年法律第168号)第2条第1項に規定する戦傷病者である
もので,政令で定めるものをいう。)の投票については,前項の規定によるほか,
政令で定めるところにより,・・・(中略)・・・,その現在する場所において投票用紙
に投票の記載をし,これを郵送する方法により行わせることができる。」(公職選
挙法49条2項)というものであり,選挙人の自宅等その現在する場所において投
票用紙に投票の記載をし,これを郵送する方法である。
     なお,公職選挙法施行令59条の2は,上記公職選挙法49条2項に規
定する政令で定めるものとして,①身体障害者福祉法4条に規定する身体障害者に
ついては,同法15条第4項の規定により交付を受けた身体障害者手帳に,両下
肢,体幹,心臓,じん臓,呼吸器,ぼうこう若しくは直腸若しくは小腸の障害若し
くは移動機能の障害(以下「両下肢等の障害」という。)の程度が,両下肢若しく
は体幹の障害若しくは移動機能の障害にあっては一級若しくは二級,心臓,じん
臓,呼吸器,ぼうこう若しくは直腸若しくは小腸の障害(下記②においては,「内
臓機能の障害」という。)にあっては,一級若しくは三級である者として記載され
ている者又は両下肢等の障害の程度がこれらの障害の程度に該当することにつき身
体障害者福祉法施行令4
条1項に規定する身体障害者手帳交付台帳を備える都道府県知事若しくは指定都市
若しくは地方自治法252条の22第1項の中核市の長が書面により証明した者,
②戦傷病者特別援護法2条1項に規定する戦傷病者については,同法4条の規定に
より交付を受けた戦傷病者手帳に,両下肢等の障害の程度が,両下肢若しくは体幹
の障害にあっては恩給法別表第1号表の2の特別項症から第2項症まで,内臓機能
の障害にあっては同表の特別項症から第3項症までである者として記載されている
者又は両下肢等の障害の程度がこれらの障害の程度に該当することにつき戦傷病者
特別援護法施行令5条に規定する戦傷病者手帳交付台帳を備える都道府県知事が書
面により証明した者と規定している(以下,これらの者をあわせて「身体障害者手
帳を有する者等」と
いう。)。
   エ 原告は,都道府県の選挙管理委員会が指定する病院等の施設に入院,入
所しておらず,また,身体障害者手帳を有する者等にもあたらないため,現行の投
票制度のもとでは,選挙の投票をするには投票所に出頭することが不可欠となる。
 (3) 公職選挙法及び公職選挙法施行令の改正の経緯について
   ア 昭和27年法律第307号公職選挙法の一部を改正する法律(以下「昭
和27年改正法」という。)により改正される前の公職選挙法(以下「旧法」とい
う。)及びその委任を受けた公職選挙法施行令(以下「旧施行令」という。)の規

    (ア) 旧法49条は,「疾病,負傷,妊娠,不具若しくは産褥にあるため
歩行が著しく困難であるべきこと・・・」(3号)等の事由により「選挙の当日自ら投
票所に行き投票することができない旨を証明するものの投票については,・・・(中
略)・・・,政令で特別の規定を設けることができる。」と規定していた。
    (イ) これを受けて旧施行令は,「選挙人は,法第49条に掲げる事由に
因つて選挙の当日自ら投票所に行って投票をすることができないと認められる場合
においては,・・・(中略)・・・,その旨を証明して,投票用紙及び不在者投票用封筒
の交付を請求することができる。」(50条1項)と定め,「疾病,負傷,妊娠若
しくは不具のため,又は産褥にあるために歩行が著しく困難であるべき選挙人は,
その現在する場所において投票の記載をしようとする場合においては,同居の親族
によって,第1項の選挙管理委員会の委員長に対し,文書をもって同項の請求及び
前2項の申立をすることができる。」(同条4項)と規定し,その際には,上記の
ような歩行が著しく困難な選挙人については,医師,歯科医師若しくは助産婦の証
明書を提出す
ることなどを要求していた(52条)。そして,旧施行令58条1項においては,
そのようにして投票用紙及び投票用封筒の交付を受けた選挙人は,「その現在する
場所において投票の記載をしようとする場合においては,前2条の規定にかかわら
ず,投票用紙に自ら当該選挙の候補者1名の氏名を記載し,これを投票用封筒に入
れて封をし,・・・(中略)・・・,選挙の前日までに到達するように郵便をもって送付
し,又は同日までに同居の親族によって提出させなければならない。」としてい
た。
    (ウ) 以上のように,旧法下においては,一定の要件を満たす選挙人につ
いては,郵便等を利用することによって,投票所に行かずにその現在する場所にお
いて投票することができる制度(このように投票所に行って投票できない者が在宅
のまま投票することができる制度を,以下「在宅投票制度」という。)が存在し
た。
   イ 昭和27年改正法による改正
     しかし,昭和26年4月に行われた統一地方選挙で在宅投票制度が悪用
されたため,昭和27年改正法により,旧法49条が,各号の事由により選挙の当
日自ら投票所に行き投票をすることができない旨を証明するものの投票について
は,「政令で特別の規定を設けることができる。」としていた部分を「政令で定め
るところにより,・・・(中略)・・・,不在者投票管理者の管理する投票を記載する場
所において行わせることができる。」と改められ,これを受けた改正公職選挙法施
行令は,旧施行令58条を削除し,在宅投票制度が廃止された。
   ウ 昭和49年法律第72号公職選挙法の一部を改正する法律(以下「昭和
49年改正法」という。)による改正(以下,この改正行為を「本件立法行為」と
いう。)
     その後,在宅投票制度の復活を希望する声が高まったことから,昭和4
9年改正法により,現行の公職選挙法49条2項の規定が新設され,それに伴っ
て,現行公職選挙法施行令59条の2等が新設され,前記(2)ウ記載のとおり,一定
の範囲の選挙人に郵便による投票制度が認められるようになった。
     なお,この改正の際,衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会に
おいて,「在宅投票制度については,政府は,その実施状況の推移を勘案して今後
さらに拡充の方向で検討すること。」という附帯決議がなされ(甲22の7),参
議院公職選挙法改正に関する特別委員会でも,「政府は,本法施行後の状況に基づ
き,さらに,在宅投票制度の拡充について検討すること。」という附帯決議がなさ
れた(甲23の4)。
エ その後,国会において,在宅投票制度の対象者を拡充することについて審議が
行われたが,現在まで同制度の対象者を拡充する内容の法律改正はなされていない
(以下,これを「本件立法不作為」という。)。
 3 争点
  (1) 国会の行為の違法性(争点1)
    国会の本件立法行為及び本件立法不作為が国家賠償法上違法といえるか。
  (原告の主張)
   ア 現行投票制度の違憲性
(ア) 憲法上の選挙権の保障
a 選挙権の憲法上の位置づけ
 憲法は,人類普遍の原理として国民主権をその基本原理とすることを宣言し,1
5条1項において,公務員の選定罷免権が国民固有の権利であることを定め,同条
3項において,公務員の選挙については,成年者による普通選挙を保障し,93条
2項は,地方公共団体の長,その議会の議員についても,その地方公共団体の住民
が直接これを選挙するものとしている。
 このことから,憲法の保障する選挙権は,憲法の最も基本的な原理である国民主
権に基礎をおくもので,憲法上,国民が有する権利のうち最も基本的な権利であ
り,議会制民主主義の根幹又は地方自治の基礎をなすものといえる。
 そして,投票の機会の保障なくして選挙権の保障などあり得ず,直接にか間接に
かは別として,その手が投票箱に届くことが憲法上保障されているものといわなけ
ればならない。
b 投票の機会付与の平等
 また,憲法は,すべて国民は個人として尊重される(13条前段)として,14
条1項において,「すべて国民は,法の下において平等であり,人種,信条,性
別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において差別され
ない。」と規定し,特に,両議院の議員及びその選挙人の資格については,44条
ただし書において,「人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入
によって差別してはならない。」と規定している。
 このことから,憲法上,選挙権は,成年に達した国民のすべてに保障されてお
り,選挙権の保障に投票の機会の保障が含まれていることからすれば,憲法上,選
挙権行使としての投票の機会は,成年に達した国民のすべてに平等に保障されてい
なければならないとするのが民主主義の要請である。
 しかも,法の下の平等原則は,形式的な平等ではなく,実質的な平等を意味する
以上,国民各自における身体的,肉体的,社会的条件に基づく相違に対しては,当
該相違に応じた合理的差別を許容するのみならず,進んで当該相違に応じた合理的
差別取扱いを命じる原理でもある。
c 憲法47条について
 ところで,憲法上,地方選挙に関しては特別の定めはないが,憲法47条は,
「投票の方法」については,「両議院の議員の選挙に関する事項」の一つとして,
法律でこれを定めると規定していることから,国会には,選挙に関する事項の一つ
として「投票の方法」をどのように定めるか,ある一定の投票方法を採用するか否
かについて,一定の裁量を有することは否定できない。
 ただ,憲法が成年に達した国民のすべてに選挙権ないしその行使を平等に保障し
ていることからすれば,選挙権を有する国民が,まず,直接・間接を問わず,その
手が投票箱に届くことが憲法上保障されていることが前提であって,その上で,い
かにして選挙が正当,公正に行われるべきか,選挙の自由のための投票の秘密の保
障をいかにして実現するかを検討すべきであり,両者は全く次元を異にする問題
で,前者が後者に優先するものである。
 したがって,憲法が「投票の方法」に関する定めを法律にゆだねているとして
も,国会がこれを定めるにあたっては,国民各自において身体的,肉体的,社会的
条件に基づく相違が存在することを前提に,選挙権を有する国民に等しく投票の機
会が保障されていなければならず,また,国会はそのような立法を定立するよう憲
法によって義務づけられている。
(イ) 現行公職選挙法の違憲性
 公職選挙法は,選挙当日投票所投票主義を原則とし,疾病等のために投票所に行
くことができない者のための規定としては,一定の要件を具備する身体障害者,す
なわち身体障害者手帳を有する者等にのみ郵便投票制度を認め,郵便投票制度を利
用することのできる者をいたずらに制限して,その他の投票所に行くことができな
い者の投票の機会を奪っているばかりか,さらに,疾病等のため投票所に行くこと
ができないという意味では同じであるにもかかわらず,身体障害者と知的障害者,
精神障害者を差別し,後者にはこれを一切認めていないという点において,国民各
自において身体的,肉体的,社会的条件に基づく相違が存在することを前提とし
て,選挙権を有する国民のすべてに投票の機会を平等に保障した憲法13条,14
条1項,15条1項,
3項,44条ただし書,47条に違反するといえ,違憲,無効である。
イ 本件立法行為の違憲・違法性
 本件立法行為当時,在宅投票制度の復活を求める運動,世論,訴訟等によって,
疾病等のため投票所に行くことができない者のために,投票の機会を保障する適切
な投票制度(例外規定)を設けることが,憲法上の要請であることが十分に認識さ
れうる状態であり,また,従前の在宅投票制度の弊害防止については十分な議論が
なされて対策を取り得たことや,選挙管理委員会の選挙管理能力の向上等により,
種々の投票制度に対応できる状況であったから,投票所に行くことができない者の
各事情に応じて,その投票の機会を保障するための適切な投票制度を設けることが
可能であった。
 それにもかかわらず,昭和49年改正法は,身体障害者手帳を有する者等につい
てのみ在宅投票制度を復活するに止まり,それ以外の投票所に行くことができない
者については投票の機会が奪われた状態のままにしたのであり,これは,身体障害
者手帳を有する者等以外の「投票所に行くことができない者」の選挙権を無視し,
また,同じく投票所に行くことができない者のなかで明らかな差別を生じさせるも
のであり,憲法13条,14条1項,15条1項,3項,44条ただし書,47条
に違反した違憲な立法であり,国家賠償法上違法なものであった。
ウ 本件立法不作為の違憲・違法性
 本件立法行為当時,政府立案・国会審議の中では,身体障害者手帳を有する者等
以外の投票所に行くことができない者についても投票の機会を確保すべきことが論
議され,また,「巡回投票制度」や「立会人制度」などの改善策も検討されていた
が,取り敢えずは身体障害者手帳を有する者等のみの郵便投票制度を採用し,今後
の実施状況を見てその拡充について検討すべき旨の衆参両議院の附帯決議が付され
ていた。
 また,昭和53年になされた在宅投票制度に関する訴訟に関する控訴審判決や昭
和56年に国際連合が提唱した「障害者年」を契機として,翌昭和57年から10
年間は「国連障害者の10年」という世界的な行動が「完全参加と平等」というス
ローガンの下で国際連合によって押し進められ,各国で自国の諸制度をこのスロー
ガンに沿って見直すこととされ,日本でも各省庁で見直し作業が展開された。
 ところが,国会は,現在に至るも,投票制度を上記視点で見直すことなく,投票
所に行くことができない者の投票の機会を奪ったまま漫然と放置してきたのであっ
て,国会の裁量の範囲を明らかに大きく逸脱したものというほかなく,かかる立法
不作為は,国民の選挙権を保障する憲法の趣旨に反する上,国家賠償法上違法なも
のである。
エ 国家賠償法上の違法性の意義,判断基準について
(ア) 最高裁判所昭和60年11月21日第1小法廷判決(民集39巻7号151
2頁,以下「昭和60年判決」という。)の非妥当性
a 原告は,国会議員の立法行為についてその法的責任を追及するものであるが,
この点に関し,昭和60年判決は,立法内容の違憲性と立法行為ないし立法不作為
の国家賠償法上の違法性とを切り離した上で,「国会議員の立法行為は,立法の内
容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行
うというごとき,容易に想定し難いような例外的な場合でない限り,国家賠償法1
条1項の規定の適用上,違法の評価を受けない」とし,原則として,裁判所が立法
行為及び立法不作為を国家賠償法上違法と判断し得ないものと解し,その理由とし
て,①議会制民主主義,その担保としての②言論の自由と③選挙による政治的評
価,議会制民主主義の背後にある④憲法解釈等の多様性を挙げ,これら4つの場合
には立法過程における
国会議員の行動は法的規制の対象になじまないとしている。
 したがって,①議会制民主主義が機能していない場合,②国民の自由な言論が封
じられている場合,③選挙による政治的評価にゆだねることができない場合,④憲
法解釈が多様であり得ない場合(立法の内容が憲法の一義的な文言に違反している
場合)には,昭和60年判決の上記論理は妥当せず,例外的に,裁判所は当該立法
行為ないし立法不作為について国家賠償法上の違法性を積極的に判断すべきであ
る。
  本件においては,①現行公職選挙法のもとでは原告のような者に選挙権を与え
ないことに等しく,これでは議会制民主主義が根底から覆っているといわざるを得
ないし,②原告は選挙権を行使できないから,本件立法行為及び本件立法不作為に
対し,政治的評価を示す機会を奪われている上,④憲法15条3項,44条ただし
書,47条は,国会に対し,選挙権を有する者がすべて選挙権を行使できる制度を
立法せよと命じているにもかかわらず,現行公職選挙法は,疾病等により投票所に
行けない者のうち身体障害者手帳を有する者等に該当しない者には在宅投票制度を
認めていないので,現行公職選挙法は,憲法の一義的文言に反するのであるから,
本件立法行為及び本件立法不作為について,裁判所は国家賠償法上の違法性を積極
的に判断するべきで
ある。
b 審査基準について
 立法行為が国家賠償法上違法となるのは,立法内容が違憲となる場合であり,そ
の基準は,国が考慮した政策目的にやむにやまれぬ程の必要性が存し,国が採った
制度がその目的達成に事実上不可欠かどうかという基準でなされるべきである。
 立法不作為が,国家賠償法上違法となるのは,立法不作為が違憲の場合であり,
その要件は,立法義務が憲法上明示されているか,解釈上導き出され,かつ,是正
のための相当期間が経過していることである。
c 本件立法行為の違法性
 被告が主張する政策目的は,①選挙の公正確保,②選挙の秘密保持,③時間的,
人的・物的設備からの制約であるが,これらは単なる選挙の質の問題に過ぎない。
憲法14条1項,15条などにより,国民は選挙権行使の機会を保障されていると
ころ,これは選挙の公正や管理執行体制の問題よりも優越する利益であるから,上
記の選挙の公正等にやむにやまれぬ程の強度の必要性は認められない。
また,上記の政策目的達成手段としては,医師の診断書を添付すること,親族によ
る投票用紙請求などを認めないこと,不正行為者を厳格に処罰することなどで足り
るから,在宅投票制度を利用できる者を身体障害者手帳を有する者等に限定する制
度は,その目的を達成するために不可欠であるとはいえない。旧法下において発生
した不正は,混乱した戦後間もない時期に,管理執行体制が脆弱であった当時の選
挙管理委員会による管理執行の下で,ともすれば競争が激化する地方選挙において
発生した,立候補者側が犯した不正であり,現在の我が国の状況下においては全く
妥当しないものである。
よって,本件立法行為は,国家賠償法上違法である。
d 本件立法不作為の違法性
(a) 憲法15条3項,44条ただし書は,成年者であればすべての者が選挙権を
有し,選挙権を行使できるという一義的・絶対的命題を定めており,これを受けて
憲法47条は,この一義的・絶対的命題を実現できる選挙制度を立法することを国
会に義務付けている。
(b) 相当期間の経過
  昭和49年本件立法行為当時,衆参両議院において附帯決議がなされ,国会
は,現行公職選挙法が憲法に違反しており,このような違憲な法律を改正する義務
があることを明確に認識しながら,その後これを放置してきた。
  昭和51年には,障害者の選挙権行使に関する請願が採択され,内閣に送付す
べきことが決せられ,国民からも現行公職選挙法の不十分さを指摘されていたにも
かかわらず,国会は,是正のための実質的な議論を行わず,これを放置してきた。
また,平成6年8月,与党政治改革協議会が設置され,在外投票制度の議論が本格
化し,その後3年足らずで在外投票法案が提出され,その1年後には国会で可決さ
れるに至った。よって,国会において,在宅投票制度の対象者を拡充する気があれ
ば4,5年で立法化が可能であるといえる。
これらのことから在宅投票制度の不備を是正するための立法可能な相当期間が経過
していることは明らかであり,本件立法不作為は国家賠償法上違法である。
e 被告の主張する憲法47条との関係について
  憲法47条の国会の裁量権は,完全なる自由裁量ではなく,憲法上の要請たる
選挙権の保障を実現するための制度であることが強く要請されており,具体的選挙
制度は,当該観点から検討されなければならない。
(イ) 昭和60年判決の基準を前提とする判断
     本件立法行為及び本件立法不作為は,昭和60年判決の基準を前提にし
ても違法である。
  昭和60年判決は,立法内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわ
らず国会があえて当該立法を行う場合あるいはそれと同視しうるような容易に想定
し難い例外的場合に,当該立法行為ないし当該立法不作為が国家賠償法上違法とな
るとしている(なお,被告は,昭和60年判決の理解として,国家賠償法上の違法
性に関し立法行為と立法不作為とを区別して捉えているが,昭和60年判決は「国
会議員の立法行為(立法不作為を含む。以下同じ。)」と判示しており,立法行為
と立法不作為を厳密に区別していないから,立法不作為についても上記の規範が適
用されるものである。)。
   本件では,以下の各事実が存在するから,昭和60年判決にいう「例外的場
合」にあたるというべきである。
a 憲法14条1項,15条1項,3項,44条ただし書等により成年普通選挙,
投票の機会,その実質的平等が保障されていること
b 投票の機会の保障は選挙権の核心をなすところ,選挙権は国民主権原理を実現
するための唯一絶対の権利であり,その保障が蔑ろにされるようなことはおよそあ
ってはならないこと
c aを受けて,憲法47条は,国会に対し,選挙権を有する者がすべて選挙権を
行使できる制度を立法せよと命じているにもかかわらず,現行公職選挙法は,身体
障害者手帳を有する者等以外の者は,たとえ疾病等により投票所に行けない状態で
あったとしても,投票の機会が保障されておらず,憲法の一義的文言に反すること
d 原告を含む投票所に行くことが困難な者のための選挙制度は,旧法の改正によ
り廃止された後,約50年にわたって放置されてきたこと
e 日本が国際人権規約を批准した昭和54年以来,市民的及び政治的権利に関す
る国際規約(いわゆるB規約)は国内法的効力を有しており,公職選挙法49条2
項は,同規約に違反し,無効であったのであり,それを長年放置してきたこと
f 原告を含む投票所に行くことが困難な者は投票することができないのであるか
ら,選挙を通じて立法内容の当否を評価できず,選挙による政治的評価にゆだねら
れないし,現在の国会議員は原告らを代表していないからこの問題を議員各自の政
治的判断にゆだねるべきものでもないこと
g 現行在宅投票制度は,その立法目的がやむにやまれぬほど強度の必要性がある
とはいえず,その手段・制度がその目的達成のために不可欠ともいえないこと
h 選挙の公正確保の観点から問題となる,①在宅投票事由に該当するか否かの医
師の証明段階での不正は,医師の診断書等を要求することや診断書等に虚偽の記載
をした医師には罰則を科すことにより対処すれば良く,②投票用紙の請求段階での
不正,③投票用紙に記載し投票する段階での不正については,在宅投票制度が一部
復活された際に解決済みであること
i そもそも,上記①ないし③の各段階における不正により,一票を他人が不正に
取得して投票した場合,これにより不利益を受けるのは,一票を奪われた在宅投票
の対象者自身であり,かかる不正が起こりうることをもって,在宅投票の対象者か
ら在宅投票をする機会を奪う理由にはなり得ないこと
j 行政機関が巨大化・発達した我が国では在宅投票制度を実施できないことはあ
り得ず,また,国会や行政は,選挙こそが自らが依って立つ基盤であり,何をおい
てもまず選挙を本来あるべき形で実施することに国の有する時間的・人的・物的資
源を投じなければならないのであって,時間的・人的・物的設備による制約は理由
にならないこと
k 在宅投票事由の認定については,障害者等に関する専門的知見を有する医師等
の専門家にゆだねるのが適当であり,選挙管理委員会において上記専門的知見を有
する職員を全国あまねく常時一定数確保する必要はなく,仮に行政官がともに認定
作業に参加する必要があるならば,我が国には障害者等に関わっている行政機関や
職員が多数存在するのであるから,それらを活用すればよいのであって,管理執行
体制面での課題は在宅投票の対象者の拡充を認めない理由にならないこと
l 昭和27年に在宅投票制度を廃止した国会の議論は極めて形式的なものであ
り,また,現在の状況は同制度を復活させるに十分な条件と時代背景を有している
こと
m 昭和49年の本件立法行為の際,衆参両議院において,身体障害者手帳を有す
る者等以外にも投票所に行くことが困難な者が多数存在し,これらの者に対しても
投票の機会を保障すべきことが認識され,今後における在宅投票制度拡充の附帯決
議が満場一致で決議されたこと
n その直後の昭和51年には,国民から「障害者の選挙権行使に関する請願」が
なされ,これが衆議院において採択され,内閣に送付すべきとされたこと
o 昭和50年に国連総会において「障害者の権利宣言」が決議され,昭和56年
の「国連障害者年」及び昭和58年から平成4年までの「国連・障害者の10年」
において「完全参加と平等」が目標とされ,国連アジア太平洋経済社会委員会総会
において,平成5年から平成14年までを「アジア太平洋障害者の10年」とする
ことが決議され,加盟国等に対し,障害者の参加促進のための国内政策・計画策定
等を要請していること
p これらを受けて,我が国では,平成5年に「新長期計画」が決定され,「完全
参加と平等」の理念を基礎とした障害者基本法が制定されたこと
q 平成10年に在外投票制度が創設されたが,原告を含む投票所に行くことが困
難な者の投票の機会を保障するための在宅投票制度の拡充は,在外投票制度の創設
等と比較してもそれより容易であり,現行の投票所外投票制度の活用等によって行
いうること
r アメリカ合衆国における郵便投票制度・巡回投票制度・アクセシビリティ(投
票所に容易にアクセスできること)の向上を図った選挙制度,イギリスにおける郵
便投票制度・代理人における投票制度,フランスにおける委任状による代理投票制
度,カナダにおける郵便投票制度・代理投票制度,スウェーデンにおける郵便投票
制度・代理投票制度の弾力的活用,デンマークにおける自宅投票制度(巡回投票制
度),オーストラリアにおける郵便投票制度,ドイツにおける郵便投票制度・委託
投票制度・巡回投票制度等,諸外国特に先進諸国においては参政権保障を実質化す
る制度が確立されており,我が国においても当然このような制度を創設できるはず
であること
s しかも,これらの諸外国においては,投票所に行くことが困難であるか否かに
ついて,厳格な証明を要求していないこと
t 障害者の数は,その調査を開始した昭和26年以降,総数でも人口比でも増加
の一途を辿っていること
u 難病の患者団体,日本弁護士連合会等の各関係機関や都道府県選挙管理委員会
連合会が在宅投票制度の対象者拡充に向けた要望書を提出していること
v それにもかかわらず,昭和49年以降現在までの25年間以上,選挙制度につ
いて国会で真摯に検討された跡すら見られず,「今後検討していく」との決まり文
句に終始していること
w 原告を含む投票所に行くことが困難な者は,投票の機会を剥奪され,選挙人資
格を有するにもかかわらず,選挙の結果に対する影響力を全く及ぼすことができな
いのであり,これらの者が受ける被害は,一票の重みの問題であるいわゆる定数不
均衡問題における被害以上に重大かつ深刻であること
したがって,本件立法行為及び本件立法不作為は,昭和60年判決の定める国家賠
償法上の違法性の判断基準によったとしても,いずれも国家賠償法上違法となる。
(被告の主張)
ア 国家賠償法上の違法性(昭和60年判決の妥当性)
   昭和60年判決は,国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の
行使に当たる公務員が個別に国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当
該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずること
を規定するところ,国会議員の立法行為(立法不作為を含む。)が同項の適用上違
法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う
職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容の違憲の問
題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反する廉れが
あるとしても,その故に国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものでは
ないとして,国会議員は,立法に関しては,原則として国民全体に対する関係で政
治的責任を負うにと
どまり,個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないという
べきであって,国会議員の立法行為は,立法の内容が憲法の一義的な文言に違反し
ているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき,容易に想定し難
いような例外的な場合でない限り,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評
価を受けないと判示した。
 原告は,立法内容が違憲であれば,国会の立法行為は,国家賠償法上違法である
として,また,昭和60年判決の前提を欠くから本件においては昭和60年判決は
妥当しない旨主張するが,昭和60年判決が示した国会議員の立法行為と国家賠償
法1条1項の違法に関する判断基準は,その後の判例もこれを踏襲しており,立法
行為についての国家賠償法の違法性判断基準に関する判例の枠組みは確立されたも
のである。
  イ 本件立法行為及び本件立法不作為の違法性
   (ア) 憲法上の要請
      憲法47条は,選挙の方法その他選挙に関する事項の具体的決定を原
則として国会の裁量的権限に任せる趣旨である。本件請求に係る精神発育遅滞及び
不安神経症の者などに関して在宅投票制度等特別の投票方法を定める旨の具体的規
定が憲法に存しない以上,本件は昭和60年判決がいう「例外的場合」にあたらな
い。
 原告は,現行の選挙制度が「普通・平等選挙の保障という一義的かつ絶対的命
題」に反するため,憲法の一義的な文言に反している旨主張するが,昭和60年判
決のいう「例外的場合」とは,憲法上,具体的な法律を立法すべき作為義務が,そ
の内容のみならず,立法の時期を含めて明文をもって定められているか,又は,憲
法解釈上,上記作為義務の存在が一義的に明白な場合でなければならないというべ
きである。
(イ) 選挙の公正等との調整
 昭和27年に廃止された在宅投票制度のもとでは,医師の証明段階で
の不正事例及び選挙無効が多発したことから,現行在宅投票制度においては,明確
な判断基準がなく,医師の診断に頼らざるを得ないものについては対象から外し,
身体障害等が公的かつ客観的に証明されうる者のみ対象としたものであり,これは
選挙の公正を確保するための合理的な制度である。また,在宅投票制度を広く疾病
等により投票所に行けない者に認めた場合,選挙管理委員会において障害者に関す
る専門的知見を有する職員を全国に一定数確保したうえで,多様な態様の対象者に
ついて公平・公正に取り扱うことが困難ではないかという課題がある(管理執行体
制面の問題)。
(ウ) 立法不作為に関して
 昭和60年判決は,「例外的な場合」について,立法不作為の場合に関しては,
具体的に言及していない。これは,憲法が「国会は,国権の最高機関であって,国
の唯一の立法機関である。」(41条)と規定しているのみで,いつ,いかなる内
容の立法を行うか又は行わないかを国会の裁量にゆだねているところ,裁判所が国
会議員の立法不作為に対する法的責任を問うことは,裁判所が個々の国会議員に対
し,特定内容の法律を特定時期までに立法すべき義務を課すことにほかならず,憲
法が採用する三権分立の基本理念に抵触するからである。立法不作為につき,昭和
60年判決のいう「容易に想定し難いような例外的な場合」を想定してみると,憲
法上,具体的な法律を立法すべき作為義務が,その内容のみならず,立法の時期を
含めて明文をもって
定められているか,又は,憲法解釈上,当該作為義務の存在が一義的に明白な場合
でなければならないというべきところ,憲法上,そのような作為義務を定めた規定
は存在しないし,憲法解釈上もそのような作為義務を肯定することは困難である。
     これらのことなどから,本件立法行為及び本件立法不作為は,国会の立
法裁量の範囲内であり,国家賠償法上違法でない。
  (2) 国会の故意・過失(争点2)
  (原告の主張)
ア 国会は本件立法行為当時,広く疾病等により投票所に行けない者に投票
の機会を保障する制度を設けることが憲法上の要請であることを認識できた。
     したがって,国会は,本件立法行為の際,本件立法行為が憲法に違反し
ていることにつき故意又は過失があった。
  イ 国会は,遅くとも昭和56年には,広く疾病等により投票所に行けない
者に投票の機会を保障する立法をする必要があることを認識できた。
     しかし,国会は,現在まで,実質的な審議をすることもなく,上記立法
をしていないので,本件立法不作為が憲法に違反していることにつき故意又は過失
がある。
  (被告の主張)
争う。
本件立法行為及び本件立法不作為の違法性を論じる余地はなく,故意・過失を観念
する余地もない。
(3) 内閣の行為の違法性(争点3)
  (原告の主張)
  ア 義務の発生根拠
    (ア) 答弁・説明義務
      内閣は,国会が立法行為において必要とする点について答弁や説明を
求められたときには,国会で真摯に答弁・説明を行う義務を負っており(憲法63
条),これを受けて,国会法においては,内閣が,国会の立法活動において,国会
の求めに応じて,調査,検討,説明,答弁等を行う義務があることを具体的に規定
している(国会法71条,74条,75条)。
    (イ) 法案提出義務
      また,内閣は,法案提出権を有することはもちろんであるが,施行中
の法律の内容が憲法に違反していたり,法の欠缺により違憲状態が存在する場合に
は,これを解決するための法案を提出する義務があると解すべきである。この義務
は,内閣における国務を総理する職務,法律を誠実に執行する職務(憲法73条1
号)又は憲法を尊重擁護する義務(同法99条)から導かれる。
    (ウ) 請願についての処理・報告義務
      さらに,立法化を要する内容の請願について,各議院が,採択の上,
内閣において措置するを適当と認めて内閣に送付したときには,内閣には,法案提
出を含めた検討を行って請願を処理し,その処理の経過を議院に報告する義務があ
る(国会法80,81条)。
イ 義務の具体的内容
     内閣は,昭和49年改正法の立法経緯から,本件立法行為が一部の者
(身体障害者手帳を有する者等)のみに投票の機会を保障したものに過ぎず,憲法
上の選挙権の保障としては不十分なものであることを認識していたし,衆参両議院
において,今後政府が在宅投票制度の拡充について検討することを求める附帯決議
が満場一致でなされていることから,同年以降,在宅投票制度の拡充について真摯
に検討し,拡充のための法案を作成,提出する義務を負っていた。
 また,昭和51年10月には,公職選挙法改正に関する調査特別委員会におい
て,「障害者の選挙権行使に関する請願」について検討を要するものと認め,衆議
院において採択の上,内閣に送付されたのをはじめとして,その後,度々,在宅投
票制度の拡充を求める請願が送付されたのであるから,内閣は,これらを受け止
め,真摯に検討し,その処理につき毎年議院に報告する義務を負っていた。
 さらに,内閣は,在宅投票制度拡充についての度重なる国会議員の質疑に対し
て,調査のうえ,真摯に答弁・説明する義務を負っていた。
 ところが,内閣は,昭和49年から現在に至るまで25年以上にわたり,在宅投
票制度の拡充について真摯に検討をしていないし,法案作成・提出もしておらず,
前記請願について真摯に検討,報告したことがなく,国会議員の質疑に対しては
「検討すべき課題がありまして」という趣旨の答弁を25年以上繰り返してきた。
 このように,内閣は,在宅投票制度の拡充について何ら実質的な検討をせず,障
害等のために投票所に行くことができない者につき,投票の機会が保障されていな
いという違憲状態を放置してきた。
   ウ 国家賠償法上違法となる要件
     法律の内容が憲法に反している場合,内閣は,迅速に違憲状態を解消す
べく法案提出義務を負い,この義務を履行しない場合には,国家賠償法上違法とさ
れる余地がある。その国家賠償法上違法となる具体的要件は,次のとおりである。
(ア) 法律の内容が憲法に違反し,又は法の欠缺による違憲状態が出現しているこ

(イ) それにより,特定の個人の重要な権利が侵害されていること
(ウ) 法改正すべき命題が明らかであり,法改正の方向性も明らかであること
(エ) 国会の自主的な法案作成等を期待できないか,国会が内閣に対して法案提出
を委託していることが明らかであること
(オ) 内閣が法案を提出して法改正をすれば,特定の個人の権利侵害状態が解消さ
れること
(カ) 内閣は法案を提出できたにもかかわらず,法案提出に必要と認められる期間
を超えて長時間にわたり放置したこと
 内閣の国会における答弁・説明義務,請願の処理・報告義務も上記と同じ要件で
考えるべきである。
  エ 本件では,上記各要件をいずれも充たすので,内閣が,在宅投票制度の
対象者を拡充すべく公職選挙法を改正する法案を提出しなかったことは国家賠償法
上違法といえる。
オ また,内閣の国会における答弁・説明義務,請願の処理・報告義務についても
上記各要件を満たすので,それらの義務違反は国家賠償法上違法となる。
カ 内閣の違法行為と原告の損害との因果関係
  国会は,昭和49年に満場一致で附帯決議を行っており,その後も前記請願を
内閣に送付しているのであるから,内閣が真摯な検討を行った上,疾病等のために
投票所に行くことができない者の投票の機会を保障する法律案を作成・提出すれ
ば,国会において審議され,法案内容が深まり,立法に至るはずであったし,そう
すれば原告に対する選挙権侵害状態が解消されているはずであった。
  したがって,内閣の義務違反行為と原告の損害との間には,相当因果関係が認
められる。
  (被告の主張)
   ア 現行公職選挙法は,上記のとおり,そもそも違憲ではないので,原告の
主張はその前提を欠くものである。また,内閣には,原告が主張するような法案提
出義務はなく,国会の本件立法不作為について国家賠償法上の違法性を肯定できな
い以上,内閣が同様の法律案を提出しなかったことについても,国家賠償法上の違
法性を論ずる余地はないというべきである。
イ 三権分立の原理などから内閣には違憲審査権が認められないので,内閣
が違憲審査権を有することを前提に,内閣に違憲是正法案提出義務があるとする原
告の主張はその前提からして失当である。
ウ 附帯決議は,国会の委員会が,付託された本案の議決と別個に,それに
附帯して,法律施行についての希望や,解釈の基準など,種々の意見を表明する決
議であって,法律上の効果を伴わないものであり,これにより,内閣の法案作成・
提出義務が生じることはない。
     また,請願は,単なる希望の表明に過ぎず,内閣はこれを受理する義務
はあるが,これに対して一定の措置をとる法的義務はない。よって,内閣は,請願
を誠実に処理すべきではあるが,そのことをもって,法律案提出を含めた検討を行
う義務を導くことはできない。なお,内閣は,昭和51年の請願について,処理経
過を報告している。
   エ 内閣は,国会における質疑について調査のうえ,真摯に答弁・説明を行
ってきていることは,これまでの議事録から明らかである。
   オ 上記(原告の主張)ウの「国家賠償法上違法となる要件」記載の(ア)な
いし(カ)の各要件は,いずれも原告独自のものであって,本件に妥当しない。
  (4) 損害(争点4)
  (原告の主張)
 原告は,日頃からテレビや新聞などの報道に関心を持っており,戸外に出ること
はできないものの,社会における様々な出来事に関心を示し,原告なりの方法で社
会との関わりを持とうとしており,本件各選挙(平成12年2月の大阪府知事選
挙,同年4月の茨木市長選挙,同年6月の衆議院議員総選挙)において,在宅投票
にて選挙権を行使しようとしたが認められず,結果的に選挙権を行使することがで
きなかった。このことによる原告の精神的苦痛は計り知れず,本来原告自身が選挙
権を行使することによってしか癒されることはないものであるが,敢えて金銭をも
って慰謝するとすれば,その額は少なくとも,選挙1回につき30万円,3回分と
して合計90万円を下ることはない。そして,原告は,弁護士費用として,10万
円を被告に請求する。
(被告の主張)
 争う。
 そもそも,十分な合理性を有する現行制度の適正な運用の結果であり,法的に損
害と認められるものではない。
 また,原告は,選挙権を有しており,更に選挙当日における投票所での投票又は
各種不在者投票管理者の管理する投票を記載する場所での投票などの方法により投
票を行うことが不可能ではないのであるから,そもそも原告には損害が生じていな
い。
第3 争点に対する判断
 1 争点1について
(1) 選挙権及び投票の機会の保障
ア 憲法は,国政は,国民の厳粛な信託に基づき,国民の代表者がこれを行うもの
とし(前文),国権の最高機関である国会は,全国民を代表する選挙された議員で
組織する衆議院及び参議院で構成するものと定め(41条,42条,43条1
項),国会の両議院の議員をはじめ,公務員を選挙する権利は,国民固有の権利と
してすべての成年者に保障しており(15条1項,3項),両議院の議員及び選挙
人の資格は,法律で定めるものとするが,人種,信条,性別,社会的身分,門地,
教育,財産又は収入によって差別してはならないと定めており(44条),また,
地方公共団体の長やその議会の議員についても,その地方公共団体の住民が直接こ
れを選挙する旨定めている(93条2項)。
イ これらの憲法の規定から明らかなとおり,憲法は,国民主権をその基本原理と
しつつ,議会制民主主義を採用するとともに,国民主権及び議会制民主主義の根幹
をなすものとして,選挙権を国民の最も重要な基本的人権の一つとして保障してお
り,選挙に関しては,成年者による普通選挙を保障するとともに,選挙人の資格に
おける不合理な差別を禁止している。
  そして,成年者による普通選挙の保障とは,単に形式的に選挙資格を付与する
ことの保障のみならず,これを現実に行使することによって実質的に選挙結果に影
響を及ぼしうることが重要であるから,そのための投票の機会の保障も含まれてい
ると解すべきであり,また,憲法が定める法の下の平等原則(14条1項)及びこ
れを選挙権に関して適用した前記の15条1項,3項,44条ただし書の各規定
は,選挙権に関しては,国民はすべて政治的価値において平等であるべきであると
する徹底した平等化を志向するものと認められることから,選挙人の資格における
不合理な差別の禁止についても,選挙資格の付与の場面のみならず,選挙権行使の
場面においても同様に妥当するものと解すべきである。
したがって,憲法は,成年に達したすべての国民に等しく選挙権を保障しており,
かつ,選挙権行使としての投票の機会もまた,成年に達したすべての国民に対して
平等に保障しているものというべきである。そして,憲法は,投票の方法に関する
事項は法律でこれを定める旨規定しているが(47条),投票という行為を通して
主体的に政治に参加し,自らの政治的意思を表明する機会を実質的に保障するた
め,すべての選挙人にとって,可能な限り,特別の負担なく,自由かつ容易に選挙
権を行使することができる投票制度が憲法の趣旨に最もよく適合するものであると
いうことができる。
(2) 原告による選挙権行使の可能性
ア 原告は,不安神経症等のため,外出することが困難であることから,投票所に
赴くことができず,現行選挙制度の下では選挙権を行使することができないとし
て,国会が,本件立法行為により身体障害者手帳を有する者等にのみ在宅投票制度
を認める立法をしたこと,その後,原告が選挙権を行使しうるように在宅投票制度
を拡充しなかったことが原告に対する権利侵害である旨主張する。
そこで,原告の現行選挙制度下での選挙権行使の可能性について検討する。
原告が提出した平成12年3月6日付の診断書(甲2)には,「①精神発育遅滞,
②不安神経症,①および②について現在加療中であるが,②により不安が著しく,
そのため外出不能な状態であること,および①に関しては一定の判断力(選挙投票
行為を含む。)は保たれていることを認める。」旨の記載が存する。また,原告の
父であるAの陳述書(甲5,45)によれば,原告は,身体的能力に何ら問題はな
いものの,平成11年夏ころから対人恐怖症がひどくなり,引きこもり状態が続
き,平成12年初めころ以降,見知らぬ人と顔を合わせると恐怖を感じ,身体を硬
直させたり,パニックを起こしたりするため,自動車でドライブのために外出する
ことはあるものの,他人と接触するような場所への外出は事実上不可能であるとい
う。
したがって,上記の事実を前提とすれば,原告が現行選挙制度の下で選挙権を行使
することは,(例えば,人と直接的な接触をする機会がないような工夫することや
各種不在者投票管理者の管理する投票を記載する場所での投票などの方法を利用す
ることなどによって,)全く不可能であるとまではいえないにしても,一般的な投
票所における通常の投票を行うことは事実上極めて困難な状況にあるものと認めら
れる。そして,原告の主張は,投票所における投票が物理的に完全に不可能である
とまではいえないとしても,それが極めて困難な状態にある場合には,他の方法に
より選挙権の行使の機会を保障されるべきであるというものと認められる。
イ なお,原告は,国会が旧法下の在宅投票制度を昭和27年改正法によって廃止
し,その後,これを完全復活しないことが不当である旨の主張をもしているが,旧
法下において在宅投票制度を利用することができた者は,「疾病,負傷,妊娠,不
具若しくは産褥にあるため『歩行が著しく困難であるべきこと』」(旧法49条3
号)等の「事由によって選挙の当日自ら投票所に行って投票することができないと
認められる場合」(旧施行令50条1項)であるから,歩行が可能な原告にあって
は,旧法下の在宅投票制度によっても,これを利用することはできなかったもので
ある。
  したがって,原告の主張は,単に国会が旧制度を復活しないことを問題として
いるものではなく,原告のような事情を有する者をも含めた,広く,投票所に行っ
て投票することができず,事実上選挙権の行使を制限されている者に対する投票の
機会を保障するための在宅投票制度を確立すべきであるのに,国会及び内閣がこれ
に十分対応していないことを問題としているものと解する。
(3) 本件立法行為の違憲性ないし違法性
ア 前記第2,2(3)アないしウ記載のとおり,国会は,旧法下において認められて
いた在宅投票制度を,昭和27年改正法によりすべて廃止してしまったことから,
その後,障害等のため投票所に行くことができない人達を中心として,在宅投票制
度の復活を求める声が高まったため,昭和49年改正法による改正,すなわち本件
立法行為により,投票所に行くことができない者のうち身体障害者手帳を有する者
等にのみ郵便による投票を認めるという現行の在宅投票制度を法制化した。
  原告は,国会は,本件立法行為当時,投票所に行くことができない者の各事情
に応じて,その投票の機会を保障するための適切な投票制度を設けることが可能で
あったにもかかわらず,身体障害者手帳を有する者等とそれ以外の者を区別し,後
者の選挙権を無視するとともに,両者間に差別を生じさせたとして,昭和49年改
正法を違憲の立法である旨主張し,本件立法行為が国家賠償法上違法なものである
旨主張する。
そこで,以下,本件立法行為の違憲性ないし違法性について検討する。
イ 上記(2)ア及びイ記載のとおり,原告の場合は,旧法下の在宅投票制度において
も,現行の在宅投票制度においても,いずれの投票制度においても在宅投票制度を
利用することができないのであって,本件立法行為はもちろん昭和27年の法改正
ですら,原告の権利関係に何ら具体的な影響を及ぼしていないことは明らかであ
る。また,本件立法行為により新設された公職選挙法49条2項に定める在宅投票
制度は,選挙権行使の方法をそれまでの投票制度に比べて拡大したものであり,選
挙権行使を何ら制約するものではないし,選挙権の内容に何らの消長を来すもので
もないから,原告が,本件立法行為によって何らかの法律上の制約を受けたとは認
められない。
ウ そのうえ,原告は,前記第2,2(1)記載のとおり昭和54年★月★日に生まれ
たものであり,選挙権を取得したのが平成11年★月★日である。したがって,昭
和49年6月の本件立法行為当時において,原告は,選挙権を有していないばかり
か,いまだ出生していないのであるから,その点からしても,本件立法行為が原告
に対する関係で違法なものであったということはできないのである。
エ したがって,本件立法行為は,少なくとも原告に対する関係で,何ら違法性を
有するものではなく,現行の在宅投票制度下においては選挙権を行使することがで
きないとする原告にあっては,むしろ端的に本件立法不作為の違法性を問題にすれ
ば足りるものというべきである。
(4) 本件立法不作為の違憲性ないし違法性
ア 昭和60年判決の内容
  原告及び被告のいずれもがその主張に取り上げている昭和60年判決は,事故
により歩行困難となっていた男性が,昭和27年改正法により在宅投票制度を廃止
し,その後これを復活しなかったという国会の立法行為により,選挙権の行使が妨
げられたとして,国家賠償法1条1項の規定に基づき,国に対して,精神的損害の
賠償を求めた事件に関するものである。
  昭和60年判決において,最高裁判所は,立法過程における国会議員の行動す
なわち国会の立法行為と国家賠償法1条1項の違法性との関係について,以下のと
おり判示し,国会が在宅投票制度を廃止しこれを復活しなかったことは国家賠償法
1条1項にいう違法な行為にあたらないと判断した。
 「国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別
の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたとき
に,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。した
がって,国会議員の立法行為(立法不作為を含む。以下同じ。)が同項の適用上違
法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う
職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容の違憲性の
問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反する廉が
あるとしても,その故に国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものでは
ない。
  そこで,国会議員が立法に関し個別の国民に対する関係においていかなる法的
義務を負うかをみるに,憲法の採用する議会制民主主義の下においては,国会は,
国民の間に存する多元的な意見及び諸々の利益を立法過程に公正に反映させ,議員
の自由な討論を通してこれらを調整し,究極的には多数決原理により統一的な国家
意思を形成すべき役割を担うものである。そして,国会議員は,多様な国民の意向
をくみつつ,国民全体の福祉の実現を目指して行動することが要請されているので
あって,議会制民主主義が適正かつ効果的に機能することを期するためにも,国会
議員の立法過程における行動で,立法行為の内容にわたる実体的側面に係るもの
は,これを議員各自の政治的判断に任せ,その当否は終局的に国民の自由な言論及
び選挙による政治的評
価にゆだねるのを相当とする。さらにいえば,立法行為の規範たるべき憲法につい
てさえ,その解釈につき国民の間には多様な見解があり得るのであって,国会議員
は,これを立法過程に反映させるべき立場にあるのである。憲法51条が,『両議
院の議員は,議院で行った演説,討論又は表決について,院外で責任を問われな
い。』と規定し,国会議員の発言・表決につきその法的責任を免除しているのも,
国会議員の立法過程における行動は政治的責任の対象とするにとどめるのが国民の
代表者による政治の実現を期するという目的にかなうものである,との考慮による
のである。このように,国会議員の立法行為は,本質的に政治的なものであって,
その性質上法的規制の対象になじまず,特定個人に対する損害賠償責任の有無とい
う観点から,あるべき
立法行為を措定して具体的立法行為の適否を法的に評価するということは,原則的
には許されないものといわざるを得ない。ある法律が個人の具体的権利利益を侵害
するものであるという場合に,裁判所はその者の訴えに基づき当該法律の合憲性を
判断するが,この判断は既に成立している法律の効力に関するものであり,法律の
効力についての違憲審査がなされるからといって,当該法律の立法過程における国
会議員の行動,すなわち立法行為が当然に法的評価に親しむものとすることはでき
ないのである。
  以上のとおりであるから,国会議員は,立法に関しては,原則として,国民全
体に対する関係で政治責任を負うにとどまり,個別の国民の権利に対応した関係で
の法的義務を負うものではないというべきであって,国会議員の立法行為は,立法の
内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を
行うというごとき,容易に想定し難いような例外的な場合でない限り,国家賠償法
1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けないものといわなければならない。」
イ 昭和60年判決の本件に対する妥当性の有無
  昭和60年判決の示した「国会議員の立法行為は,立法の内容が憲法の一義的
な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき,
容易に想定し難いような例外的な場合でない限り,国家賠償法1条1項の規定の適
用上,違法の評価を受けない。」とする上記の判断基準は,その後の最高裁判所の
判断においても踏襲されており(最高裁判所昭和62年6月26日第2小法廷判決
〈昭和58年(オ)第1337号〉,同平成2年2月6日第3小法廷判決〈昭和62
年(オ)第168号〉),当裁判所も,昭和60年判決が詳細に摘示する国家賠償法
の規定の性質,国会議員の公務員としての特殊性及び立法過程における国会議員の
行動の多様性,政治性のほか,個々の国会議員の立法過程における具体的行動とそ
の結果である立法内
容とは必ずしも直結するものではないことなどの諸点を考慮した結果,昭和60年
判決の示した上記判断と同一の判断をするものである。
  原告は,昭和60年判決の論理は,①議会制民主主義が機能していない場合,
②国民の自由な言論が封じられている場合,③選挙による政治的評価にゆだねるこ
とができない場合,④憲法解釈が多様であり得ない場合(立法の内容が憲法の一義
的な文言に違反している場合)には妥当しないとして,本件の場合には上記判断基
準によるべきでない旨主張する。
  確かに,昭和60年判決の論理は,議会制民主主義が十分機能していることが
前提となるところ,選挙権の行使ができない場合には,立法行為を行う国会議員の
選出行為たる選挙に参加することができず,国政に自らの意思を反映させることが
困難となるのであるから,その前提が揺らぐのではないかという問題が生じうる。
そして,選挙権は,国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として,議会
制民主主義の根幹をなすものであるから,かかる選挙制度の根幹に係わる立法行為
の違法性の判断に当たっては,他の立法行為の違法性の判断とは異なった側面を有
することは否定できない。
  しかしながら,本件立法行為及び本件立法不作為は,特定の者の選挙権の行使
を制限する趣旨でなされているものではなく,また,原告にとって,仮に現行選挙
制度下での選挙権の行使が事実上困難であったとしても,請願権(憲法16条)を
行使することや議員に対する陳情を行うこと,マスコミに対して投書することな
ど,在宅投票制度の拡充の必要性を訴えるという政治活動をすることは何ら妨げら
れていないばかりか,後記のとおり,現に在宅投票制度の拡充について国会におい
て審議が重ねられてきたことに照らしても,現行選挙制度下において,議会制民主
主義が機能していないとは到底いえないし,選挙による政治的評価にゆだねること
ができない事態に立ち至っているともいえない。また,現在の社会が国民の自由な
言論が封じられている
ような状況にあるとも認められない。
  よって,原告の上記主張は採用できない(なお,立法の内容が憲法の一義的な
文言に違反している場合に該当するか否かについては,後記ウにおいて検討す
る。)。
ウ 本件立法不作為の国家賠償法上の違法性の検討
  原告は,昭和60年判決が定める国家賠償法上の違法性判断基準に従ったとし
ても,国会が,昭和49年改正法制定以降,在宅投票制度の対象を拡大することな
く放置した本件立法不作為は,国家賠償法上違法である旨主張する。
(ア) そこで,まず,本件立法不作為の内容が,憲法の一義的な文言に違反してい
るか否かを検討する。
憲法には,原告が主張するような在宅投票制度を定める法律の制定を国会に命じる
ような具体的な明文の規定は存在しない。
原告は,憲法14条1項,15条1項,3項,44条ただし書等により成年者によ
る普通選挙,投票の機会及びその実質的平等という一義的・絶対的命題が定められ
ており,これを受けて,憲法47条が,国会に対し,この一義的・絶対的命題の実
現のため,選挙権を有する者がすべて選挙権を行使できる制度を立法せよと命じて
いる旨主張する。しかしながら,憲法47条は,「投票の方法」については,「両
議院の議員の選挙に関する事項」の一つとして,法律でこれを定めると規定してい
ることから,国会が,選挙に関する事項の一つとして「投票の方法」をどのように
定めるかについて裁量を有していることは原告自身も認めているところであって,
当該条文から,投票所に行くことができない者について,どのような範囲の者に対
し,いかなる投票の
方法を採用すべきかを一義的に導くことは困難であるというほかない。
(イ) さらに,昭和60年判決は,「立法の内容が憲法の一義的な文言に違反す
る」ということを例示として挙げているにすぎず,それと同視しうるような容易に
想定し難いような例外的な場合には国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価
を受けうる可能性を判示しており,前記のとおり,当裁判所もこれと同一の立場に
立つものであるから,本件立法不作為が,憲法の一義的な文言に違反しているとは
いえないとしても,それと同視しうるような容易に想定し難いような例外的な場合
に当たるか否かを検討する。
 この点に関し,原告は,昭和49年の本件立法行為前後及びそれ以降の国会の審
議,社会の動きや国民の要望,国際的な動向や他国の選挙制度との比較等の様々な
点から,法改正すべき命題が明らかであり,法改正の方向性も明らかとなっていた
にもかかわらず,国会がこれに対応すべき立法を行わないまま放置しているのであ
って,遅くとも原告が選挙権を取得した平成11年9月当時には,在宅投票制度の
不備を是正するための立法可能な相当期間が経過していたから,かかる本件立法不
作為は,憲法の一義的な文言に違反するのと同視しうる容易に想定し難いような例
外的な場合に該当する旨主張するので,以下,この点について検討する。
a 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(a)旧法下の在宅投票制度のもとでは,在宅投票事由に該当するか否かの医師の
証明段階での不正,投票用紙の請求段階での不正,投票用紙に記載し投票する段階
での不正などが多発し,その結果選挙無効ないし当選無効の訴えが多数発生したこ
とから,昭和27年改正法において一旦在宅投票制度は廃止されたものの,その
後,身体障害者や寝たきり老人などを対象として在宅投票制度の復活を求める声が
高まり,本件立法行為による昭和49年改正法によって,現行の在宅投票制度が制
定された。
  その際,旧法下において多発した不正事案にかんがみ,在宅投票制度の対象者
及びその認定方法については,一時的な歩行困難者や寝たきり老人など,制度上明
確な統一基準がなく,医師の認定,診断に頼らざるを得ないものについては,公正
な認定を期し得ないと判断して対象から除外し,身体の障害等が公的かつ客観的に
証明され得る者に限定する観点から,明確な基準のもとに,専門の指定医の診断等
の手続を経て交付される身体障害者手帳などによって,対象者を認定することが適
当と判断された。さらに,不正投票を防止するため,①対象者となる選挙人に対し
て事前に証明書を交付し,投票用紙の請求のたびに添付させること,②本人が自ら
投票用紙の請求を行い,本人に直接郵送し,本人が自書で投票を行うこと,③投票
用紙の提出の段階で
署名を求めること,④不正投票の防止を罰則により担保することなどが定められ
た。
  また,その際,巡回投票制度の可能性についても議論されたが,同制度は選挙
の公正確保という点では優れた面もあるものの,短い選挙期間中に,選挙管理委員
会の職員が多忙な中で多数の該当者を対象に巡回投票を実施することは非常に困難
であること,選挙事務は複雑かつ厳正な手続であって,これに従事する者は手続に
習熟している者でなければならず,また公正中立な立場になければならない以上,
他部局の職員や民間人を起用することにも限界があること,途中で事故等があって
巡回できなかった場合の選挙の取扱いをどうするかという問題もあることなどから
その採用は見送られた。
  なお,本件立法行為時には,衆参両議院の委員会において,在宅投票制度につ
いては,政府は,その実施状況の推移を勘案して今後さらに拡充の方向で検討する
こととする附帯決議がなされた。
  (乙1ないし4)
(b) 昭和51年10月29日衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会にお
いて,「障害者の選挙権行使に関する請願」が採択され,内閣に送付すべきとされ
たが(甲31),これに対して,内閣は,後記2(2)記載のとおり処理し議院に対し
てその報告を行った(乙19)。
(c) 昭和52年3月2日衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会におい
て,在宅投票制度の拡充問題について,B政府委員は,在宅投票制度について昭和
49年に重度身体障害者に限り復活する改正をしたばかりであり,今後の選挙にお
ける執行の状況,公正確保の状況を見たうえで検討して行きたい旨答弁した(甲3
1)。
(d) 昭和55年3月19日,衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会にお
いて,当時の国務大臣は,寝たきり老人に投票の機会を与えるようにしたいが,寝
たきり老人についての法制的な明確な基準がない状況でそれぞれの地方公共団体で
これを統一的に扱うことが可能かという基本的問題があり,またその公的証明方法
についても研究をしているところであると答弁した(甲31)。
(e) 平成6年1月10日,参議院政治改革に関する特別委員会において,当時の
国務大臣は,20床以上の病院,老人ホーム,身体障害者施設では,例外的に不在
者投票の指定をしており,全体の73.2パーセントになるが,20床未満の施設
については,選挙の公正の観点から慎重に検討する必要がある,ハンディキャップ
を持っている方の参政権の具体的な在り方として便宜をいろいろと図っていきたい
と考えているが,選挙の公正ということも考える必要があると発言した(甲24の
2)。
  さらに,同月14日,参議院政治改革に関する特別委員会において,C委員
は,都道府県選挙管理委員会連合会から自治省に対し,常時臥床の状態にある者に
も選挙権を保障するべきであり,老人福祉手当の支給に関する基準によれば,在宅
投票制度の該当者を把握する技術的な困難性は少ないのであるから,寝たきり老人
については,臥床の状態などに関して全国一律の基準を定め,市町村長の認定によ
り一定基準以上の者は郵便投票制度の対象となるように改正することを求める要望
書が提出されていると指摘した(甲24の3)。
(f) 平成8年5月31日,衆議院決算委員会第三分科会において,D委員は,A
LS患者を例に挙げ,ALS患者は全国に4000人存在し,うち500ないし6
00人は入院しているが,手の筋肉が動かないため病院における不在者投票制度を
利用できないこと,残りの3000人余は在宅患者であり,その半数の者が病状が
重いため事実上投票できないことを指摘した。これに対し,E政府委員は,在宅投
票制度の対象になっておらず,かつ投票に行く意思を持ちつつ投票に行けない者の
数については,実態の把握が困難であり,把握していないと答弁した(甲24の
8)。
(g) 平成9年11月26日,参議院選挙制度に関する特別委員会において,F政
府委員は,平成7年参議院通常選挙において,郵便投票による投票は,比例代表選
挙で2万7748票,選挙区選挙で2万7768票であったと説明し,G理事は,
平成7年の調査によると,65歳以上の寝たきり老人の数は約86万人,2000
年には120万人,2010年には170万人,2025年には230万人となる
が,この者達は,投票したくても自ら投票所に行けないため選挙権を行使すること
が不可能であり,実質上選挙権を剥奪していると言わざるを得ないと発言した(甲
24の11)。
  さらに,同年12月11日,衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会に
おいて,F政府委員は,代理投票制度を導入することについての質問に対し,現行
では代理記載という制度はあるが,投票を委任したり代理したりする制度は全くな
く,代理人投票制度は現在の公職選挙法の世界に全く新しい血を注ぐものという認
識であると答弁した(甲24の14)。
(h) 平成12年4月13日,衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する
特別委員会において,自治省行政局選挙部長は,平成12年4月から施行された介
護保険制度における要介護基準を活用して寝たきり老人等にも在宅投票制度を認め
ることができないかという問題について,要介護状態の認定基準は,介護を要する
時間数を基準にして区分が設けられているところ,在宅投票制度の必要性の判定は
投票所に出向くことが可能かどうかという観点から判定されるべきものである以
上,過去に不正事案が多発した経緯を考慮し,要介護基準を直ちに在宅投票制度の
対象者判定基準として使うことは困難であると答弁した(甲24の24,乙6)。
  同年8月4日,衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会
において,H政務次官は,寝たきり老人や難病の人に対して投票の機会を与えてい
くことは重要な問題であると認識しているが,どのような人を在宅投票制度の対象
にするかについて全国的に均一な取り扱いが可能か,公的な証明方法はどうするの
かなど選挙の公正を確保する観点からの課題があると発言した(甲24の25)。
(i) なお,上記の国会等における議論においては,身体障害者や寝たきり老人,
ALS患者などの難病患者などが想定され,身体の障害や疾患などのため投票所に
行くことが困難な者の選挙権行使の機会をどのように保障するかという形で議論が
なされてきたが,引きこもり症や対人恐怖症といった精神的原因によって投票所に
行くことが困難な者についてはほとんど議論はされなかった。
(j) この間,新聞をはじめとするマスコミにおいても,現行選挙制度下における
身体障害者や寝たきり老人,難病患者らの選挙権行使の困難性に関する問題が多数
回にわたって取り上げられた(甲8,9,16ないし21,28ないし30,32
ないし35,)。
  また,日本弁護士連合会から内閣総理大臣や衆参両議院の議長,中央選挙管理
会委員長等に対し,障害者の選挙権行使の機会確保に関する要望書が提出された
(甲25の1ないし5)。
(k) 昭和50年に国連総会において「障害者の権利宣言」が決議され,昭和56
年の「国連障害者年」及び昭和58年から平成4年までの「国連・障害者の10
年」において「完全参加と平等」が目標とされ,国連アジア太平洋経済社会委員会
総会において,平成5年から平成14年までを「アジア太平洋障害者の10年」と
することが決議され,加盟国等に対し,障害者の参加促進のための国内政策・計画
策定等を要請しており,これらを受けて,我が国では,平成5年に「新長期計画」
が決定され,「完全参加と平等」の理念を基礎とした障害者基本法が制定された。
(l) アメリカ合衆国においては郵便投票制度・巡回投票制度・アクセシビリティ
(投票所に容易にアクセスできること)の向上を図った選挙制度,イギリスにおい
ては郵便投票制度・代理人における投票制度,フランスにおいては委任状による代
理投票制度,カナダにおいては郵便投票制度・代理投票制度,スウェーデンにおい
ては郵便投票制度・代理投票制度の弾力的活用,デンマークにおいては自宅投票制
度(巡回投票制度),オーストラリアにおいては郵便投票制度,ドイツにおいては
郵便投票制度・委託投票制度・巡回投票制度等が採用されるなど諸外国において,
参政権保障を実質化するための様々な制度が定められている(甲21,44の1な
いし7,乙12)。
b 当裁判所は,前記(1)イ記載のとおり,憲法は,成年に達したすべての国民に等
しく選挙権を保障しており,かつ,選挙権行使としての投票の機会もまた,成年に
達したすべての国民に対して平等に保障しているものというべきであり,投票とい
う行為を通して主体的に政治に参加し,自らの政治的意思を表明する機会を実質的
に保障するため,すべての選挙人にとって,可能な限り,特別の負担なく,自由か
つ容易に選挙権を行使することができる投票制度が憲法の趣旨に最もよく適合する
ものであると解するものである。
  したがって,上記aにおいて認定した国会における在宅投票制度の拡充に関す
る度重なる審議の経過によれば,これに関する議論は概ね尽くされた感がありその
問題点はすでに明らかになっていること,様々な障害者や寝たきり老人等投票所に
行けないために選挙権の行使が不可能か事実上極めて困難な状況にある者は増加傾
向にあり,その権利行使のための制度確立の要請が一段と高まっていること,障害
者に対する権利保護の要請は国際的潮流であること,外国においては投票所に行く
ことができない者のために,様々な投票制度が採用されていることなどの事実が認
められ,これらの諸事由にかんがみれば,原告が主張するとおり,現行の在宅投票
制度は,上記の憲法の趣旨に照らして必ずしも完全なものとは認められず,その対
象の拡大や投票方法
の簡略化などの方向での改善が図られて然るべきものであると認められる。
c しかしながら,憲法47条は,「選挙区,投票の方法その他両議院の議員の選
挙に関する事項は,法律でこれを定める。」と規定しており,他方それ以上に選挙
に関する細則にわたる規定を置いていないことから,憲法は,選挙に関する事項の
具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねる趣旨であると解される。これは,選
挙に関する事項は,その国の実情や時代背景に即して具体的に決定されるべきもの
であって,そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではないから
と考えられる。
  そして,憲法の授権に基づく国会の上記裁量の中には,短期間に極めて多数の
選挙人によって行われる選挙を,混乱なく,公正かつ能率的に執行するために必要
な措置を採ることも,当然に含まれているというべきである。
  本来,法律で定める投票の方法は,全選挙人において等しく特別の負担なく容
易に投票することができるものであることが望ましいことはいうまでもない。しか
し,他方,選挙制度が議会制民主主義の根幹をなすものであるから,選挙の自由と
公正を保持し,国民の意思が正当に選挙の結果に反映されるようにすることもま
た,極めて重要なことである。さらに,投票の方法については,一方において,選
挙の公正を確保し,憲法15条4項で保障された投票の秘密を保護する必要がある
とともに,選挙の執行には,おのずと一定の時間的,人的・物的設備からの制約を
伴うものであるから,そのような制約の中で選挙の施行を可能にするものであるこ
とが要請される。特に,在宅投票は,不在者投票管理者の管理下で行われる不在者
投票と異なり,投票の
記載が選挙管理委員会の管理が行われていない自宅等で行われるため,選挙人以外
の者が不正に選挙人に代わって投票するなどの選挙の自由・公正を害する事態を誘
発しやすく,また,投票の秘密が害されるという弊害も伴うおそれが高いものとい
わざるを得ない。
 そうであるとすれば,上記bのとおり,一般的・抽象的に,国会が在宅投票制
度を拡充する方向での立法をなすことが期待されるとしても,昭和27年に廃止さ
れた在宅投票制度のもとで医師の証明段階での不正などが多発したことがきっかけ
で在宅投票制度が廃止されたという経緯からして,その対象者について,どのよう
な要件の下にどの範囲の者まで在宅投票制度の利用を認めるのか,対象者に該当す
ることの証明方法はどうするのか,どうような仕組みでどのような時期からこれを
実施するのかなどの具体的決定は,国会の裁量にゆだねられていると解すべきであ
り,原告主張のような在宅投票制度を設けること以外に立法の選択が許されていな
いとまではいえない。
  現に,前記a(l)のとおり,各国の立法例をみても,投票所に行くことができ
ない者の選挙権行使の機会をどのように保障するかについては,それぞれの国情に
応じた多様なものであり,一定不変なものではない。
d したがって,原告が主張する事由を最大限考慮したとしても,これをもって,
本件立法不作為の事態が憲法の一義的文言に違反するのと同様な容易に想定し難い
例外的場合には該当しない。
(5) 小括
  以上の結果,国会における,本件立法行為も本件立法不作為も,いずれも国家
賠償法1条1項の適用において,違法なものと認めることはできない。
 2 争点3について
  (1) 原告は,法律の内容が憲法に違反している場合,内閣は,迅速に違憲状態
を解消すべく法案提出義務を負うとして,この義務違反が国家賠償法上違法となり
得る旨主張する。
 内閣法5条は,内閣の法案提出権を規定しているが,内閣の法案提出義務を定め
た規定は,わが国の憲法及び法律のどこにも存在しない。
 そもそも,国会が制定した法律は,裁判所によって違憲と判断された場合のほか
は一応合憲と推定され,有効として扱われるべきであり,憲法に内閣が違憲立法審
査権を有することの定めがない以上,内閣が国会の制定した法律を違憲であると判
断することは認められないのであるから,原告が主張するような内閣の法案提出義
務を想定することは困難である。
 原告は,本件立法行為時の附帯決議の存在を内閣の法案提出義務の根拠の一つと
するが,附帯決議は,国会の委員会が,付託された本案の議決とは別に,それに附
帯して,法律施行についての希望や解釈の基準など種々の意見を表明する決議であ
って,法律上の効果を伴わないものであるから,これにより内閣に法案提出義務が
生じることはあり得ないというべきである。
 以上のように,原告が主張するような内閣の法案提出義務を想定することは困難
である上,法案の発議権は,本来的には国の唯一の立法機関である国会にあること
はいうまでもないから(憲法41条),内閣の法案提出権自体も国会における立法
行為に対していわば補充的な立法準備行為とでもいう性質のものにすぎないのであ
って,立法について固有の権限を有する国会の本件立法不作為につき,上記のとお
り国家賠償法1条1項の適用上違法性を肯定することができないものである以上,
国会に対して法案提出権を有するにとどまる内閣の法案不提出についても同条項の
適用上違法性を肯定する余地はないものというべきである。
(2) また,原告は,各議院から送付された請願について,内閣には法案提出を含め
た検討を行う義務があると主張する。
    まず,各議院において採択した請願で内閣において措置するのを適当と認
めたものは内閣に送付されることとなる(国会法81条1項)。そして,請願が内
閣に送付された場合,内閣は,当該請願の処理の経過について毎年(1年単位で)
議院に報告しなければならないこととされている(国会法81条2項)。しかしな
がら,内閣において,それ以上に法案提出を検討するなど一定の措置をとる法的義
務はないものと解される。したがって,内閣が各議院から請願の送付を受けたから
といって,これによって内閣に法案提出について何らかの検討を行うべき義務が生
じることはあり得ないものというべきである。
    なお,証拠(甲31,乙19)及び弁論の全趣旨によれば,内閣は,昭和
51年10月29日に第78回国会衆議院(公職選挙法改正に関する調査特別委員
会)において採択され内閣に送付された「障害者の選挙権行使に関する請願(第6
09号)」に関し,「1,『在宅投票制度』について 郵便による不在者投票制度
は,当日投票所投票主義の原則に対する例外措置であり,しかも不在者投票管理者
のいない場所での投票であること及び過去のいわゆる在宅投票制度において種々の
弊害があって廃止された経緯にかんがみ,重度の身体障害者であって,公的に証明
された書面によって公正に認定することができる者に限定することとしているが,
これは,選挙の公正を確保するため,やむを得ない措置であると考えている。この
制度は昭和50年か
ら実施されたものであるため,現段階では,この制度が円滑に,かつ,過去のよう
な不正を惹起することなく実施されるよう指導していくことが重要であると考えて
おり,制度の改善をどうするかについては,その実施状況の推移をみながら検討し
てまいりたい。また,郵送料の取扱いについては,今後の検討課題と考えている。
2,『点字公報』,『手話通訳』,『字幕』について これらについては,全国的
に円滑な実施を期するために必要な諸条件が必ずしも整っていないと考えられる現
状からすれば,選挙の適正な管理執行を確保する上で種々の問題があるので,慎重
に検討する必要があると考えている。」とする内容の処理経過を衆議院に報告した
ことが認められる。
    よって,請願の処理に関し,内閣を構成する大臣等が職務上の法的義務に
違反したとは認められない。
(3) さらに,原告は,内閣が国会において真摯に答弁・説明をする義務に違反し
た,この義務違反がなければ上記法律案が作成・提出され,国会において立法化さ
れるはずであったと主張する。
  しかし,内閣が国会において真摯に答弁・説明をする義務に違反した事実を認
めるに足りる証拠は存しないし,内閣のなした具体的な答弁・説明内容と国会の本
件立法不作為との間にいかなる因果関係が存するものかは全く不明である。
(4) 以上のとおり,内閣の構成員たる大臣などが何らかの職務上の法的義務に違反
した事実は認められず,内閣の行為が国家賠償法上の違法性を有することを前提と
する原告の請求は,その余の点について検討するまでもなく理由がないものという
べきである。
 3 結論
  以上の次第で,原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく理由
がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
  
   大阪地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官  村   岡       寛  
          裁判官小   堀       悟
裁判官辻   井   由   雅・

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時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛