弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び証拠
別紙のとおり。
       理   由
一、原告が別紙第一目録記載の登録意匠(登録第一二〇八七四号)の権利者である
こと、被告が別紙第二目録(一)ないし(三)記載の金銭登録機を原告主張の期間
製造、販売していたことは、当事者間に争いがない。
二、そこでまず別紙第二目録(一)記載の金銭登録機の意匠が原告の登録意匠と類
似するかどうかについて判断すると、成立に争いのない乙第九号証の一から四ま
で、同第一〇号証、被告製品であることに当事者間に争いのない検甲第一号証と鑑
定人【A】の鑑定の結果を総合すれば、次のように認定することができる。
 本件登録意匠は別紙第一目録表示のとおり、角台形の台箱の上に、後部を高く、
前部を低く構成し、前部の上面を前下りにしてこれと後部にまたがつてラツク状の
キー列をやゝ右寄りに設けたキヤビネツトを載せ、かつ同キヤビネツトは全体を横
三段階に形成し、第二段上面を前下りに傾斜させて前部とし、後部をカマボコ状に
最上段として載置した形体をなしている。これに反して、別紙第二目録(一)記載
の物件の意匠は、角台形の台箱上に前部と後部との縦二列に構成し、後部を高く、
前部を低くしてこれを前下りの傾斜面としたキヤビネツトを載せ、その傾斜面のや
ゝ右寄りにラツク状の刻みのあるキー列を設けた形体となつていて、両者はキヤビ
ネツトの形体の構成方法に差異がある。のみならず、本件登録意匠のキヤビネツト
後部最上段の高さは前部上段の高さの約一・五倍であるのに対して、別紙第二目録
(一)物件のそれは約一・七倍であり、しかも本件登録意匠のキー列が後部前壁の
ほゞ全部にまたがつているためキー列の後は前壁を残さないのに対して別紙第二目
録(一)物件の意匠では後部前壁がキー列の後に高く壁面となつている。これらの
差異の結果本件登録意匠が全体として低く安定しやゝ繁雑な感じを与えるのに対
し、別紙第二目録(一)物件の意匠は、立体的で軽快かつ簡明な印象を与えてお
り、両者の意匠は見る者にそれぞれ別異のものとの印象を与える。したがつて、両
者の意匠は類似していないということができる。
 以上の認定に反する甲第四号証、同第五号証の見解は、前掲諸証拠と対比すると
きはとうてい採用することができない。
三、つぎに別紙第二目録(二)(三)記載の物件の意匠は同(一)物件の意匠と比
較してほとんど同一で、その差異が極めて僅かなものであることは、当事者間に争
いがない。そして、その差異は意匠構成の上で問題にするに当らないものと認めら
れるから、(一)物件の意匠が本件登録意匠と類似しない以上、(二)(三)物件
の意匠もまた本件登録意匠とは類似しないものというべきである。
四、よつて、別紙第二目録(一)ないし(三)記載の物件の意匠が本件登録意匠と
類似するものであることを前提とする原告の本訴請求は、その余の判断をするまで
もなく、失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八
九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 古関敏正 吉井参也 宇井正一)
(別紙)
第一、原告の申立
一、被告は原告に対し金二、五〇〇万円とこれに対する昭和四一年七月六日から支
払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決と仮執行の宣言を求める。
第二、請求原因
一、訴外【B】は次の意匠権を取得した。
出願 昭和三一年四月七日
登録 昭和三一年七月二三日
登録番号 一二〇八七四号
名称 金銭登録機の形状
登録請求の範囲 別紙第一
目録記載のとおり
 【B】は昭和三七年九月三〇日原告に対してこの意匠権を譲渡し、昭和三八年五
月一七日その旨の登録をした。原告はその後この権利を実施して来た。
二、被告は昭和三八年五月一八日から昭和四一年七月二三日までの間、別紙第二目
録(一)ないし(三)記載の手動式金銭登録機(NCR八〇号レジスター五型、同
二型、同七型)を合計一一、一〇〇台製造販売した。
三、本件登録意匠の構成は、次のとおりである。
(一) 下底に設けられた台箱1の形状は、平面形が奥行の長いほぼ矩形で、高さ
が横巾の約三分の一の角台形をなし、前面に矩形の枠縁10が形成されている。
(二) その台箱の上に載置されたキヤビネツト2の外形は、a、奥行の約三分の
一の後部21で、その高さがキヤビネツトの前面26の高さの約三倍の高さに形成
され、
b、その後部21の付根部分から前方が前下りの約二〇度弱の傾斜面25をなし、
c、両側面2324が台箱1の両側面より少し内方に位するほぼ垂直面をなし、
d、背面22が略矩形の僅かに前方に傾斜した垂直面をなしている。
(三) キヤビネツト2の前記傾斜面25のやや右寄りに矩形のかなり厚みのある
枠を形成し、枠の両側部4142の上緑が孤状をなし、その両側部41、42間に
キー列3が現われている。
(四) キー列3の各上縁は孤状の鋸歯形段階をなし、前記枠の両側部4142の
上縁より僅かに突出している。
(五) キヤビネツト2の傾斜面25の右方端部に小さいだ円形穴7が設けられ左
方部にはかなり大きな矩形の区画部8が設けられている。
(六) キヤビネツト2の右側方23に長い板状の腕をもつ大きなハンドル5と、
短い腕をもつ小さなハンドル6が突設されている。
(七) キヤビネツト2の左側面24には、大きな不等辺四辺形の区画部(蓋板)
11が形成され、そのほぼ中央に円形摘み12が突設され、かつ小円形部13と斜
線部14が表示されている。
(八) 縁枠左側部42に接してハンドル15が設けられている。
(九) キヤビネツト2の前方に接して台箱1の上面に薄い矩形の板9が設けられ
ている。
四、一方被告の製造販売した別紙第二目録(一)の金銭登録機(NCR八〇号レジ
スター五型)の意匠の構成は、次のとおりである。
(一)’ 下底に設けられた台箱1の形状は、平面形が奥行のやや長い矩形で、高
さは横巾の約三分の一の角台形をなし、前面に抽出が入るように矩形の枠縁10が
形成されている。
(二)’ 台箱1の上に載置されたキヤビネツト2の外形は、
a’、奥行の約三分の一の後部21でその高さがキヤビネツトの前面26の高さの
約三倍弱の高さに形成され、
b’、
その後部21の付根部分から前方を前下りの約二〇度弱の傾斜面25となし
c’、両側部2324が台箱1の両側面より少し内方に位する僅かに傾斜した垂直
面をなし、
d’、背22がほぼ矩形の僅かに前方に傾斜した垂直面をなしている。
(三)’キヤビネツト2の前記傾斜面25の中央よりやや右寄りに、矩形のかなり
厚みのある枠4を形成し、枠4の両側部4142の上縁が孤状をなし、その間にキ
ー列3が現われている。
(四)’キー列3の各上縁は孤状の鋸歯形段階をなし、前記枠4の両側部4142
の上縁より僅かに突出している。
(五)’キヤビネツト2の傾斜面25の右方部には、二つの小さい矩形の穴7が設
けられ、左方部にはかなり大きい矩形の区画部8が設けられている。
(六)’キヤビネツト2の右側面23には長い板状腕をもつ大きいハンドル5が設
けられ押上げ式の小さいハンドル6aがキヤビネツト2の前面26の左方部に設け
られている。
(七)’キヤビネツト2の左側部24には、大きな不等辺四辺形の蓋板11が蝶着
され、その一側部に小円形をなす錠孔13が設けられている。
(八)’傾斜面52の前方部に矩形孔から突出したハンドル6の先端とだ円形の機
械番号表示板17が設けられている。
(九)’キヤビネツト2の後部の前面21と背面22には各矩形の窓孔1618が
(本機による積算数値を表わすように)穿たれている。
五、また、被告の製造販売した別紙第二目録(二)の金銭登録機(NCR八〇号レ
ジスター二型)の意匠構成は、同目録(一)の図面正面図中16の長方形の窓を欠
くのみでその他は前記五型と同一である。また、同目録(三)の金銭登録機(NC
R八〇号レジスター七型)の意匠構成は、同目録図面左側面図中12の直線状枠の
突設されているほかは、前記五型と同一である。
六、そこで本件登録意匠と被告製品とを対比すると、本件登録意匠の要部である前
記(一)ないし(七)は、別紙第二目録表示の各意匠の要部である(一)’ないし
(七)’に対応し、それぞれその主要部が同一である。
 ただ、微細な点では被告主張のように差異があるとしても、それらはいずれも意
匠構成の要部ではなく、金銭登録機全体の形状、模様として視覚による美感上の区
別を与えるものではない。したがつて、別紙第二目録表示の各意匠は、本件登録意
匠と類似する。
七、(一) 被告は、昭和三八年五月一八日から昭和四一年七月二三日まで別紙第
二目録(一)ないし(三)の金銭登録機を合計一一、一〇〇台販売し、その売上金
額は五億七二〇〇万円に達するものであるが、利益率は販売額の五%であるから、
被告は販売により二八六〇万円の利益を得た。
(二) 被告は前記金銭登録機の製造販売により故意または過失をもつて本件意匠
権を侵害するものであり、原告はこの侵害により被告のあげた利益二八六〇万円の
得べかりし利益を喪失し、同額の損害を被つたことになる。そこで、原告は被告に
対して、損害賠償として内金二五〇〇万円を請求するとともに、これに対する本件
訴状送達の翌日である昭和四一年七月六日から支払ずみまで年五分の割合による遅
延損害金の支払を求める。
第一、被告の申立
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
第二、答弁
一、認める。
二、認める。
(一) 認める。但し正確に表現すれば、
a、奥行が横巾の一・二倍強高さは横巾の〇・三六倍弱である。
b、前壁は両側から略四分の一位まで彎曲させて出張らせ、その出張つた頂点を直
線で結んだ形状となつている。
a、高さの点を除き認める。高さは約三倍ではなく約二・六五倍であり、又キヤビ
ネツトは三段階に横に区画された状態に形成され、その区面線36、37も直線を
もつてなされており、後高部21の前面屈折線も直線をもつてなされ、屈折も鋭角
である。
b、認める。ただし、第三段階21の台箱1からの高さが前面の高さの二・六倍で
第二段階の前方傾斜部は第三段階の高さの台箱からの高さの約三分の二強の高さを
基点として前下りの側斜面となつている。
c、ほぼ垂直面たる点を除き認める。ほぼではなく垂直である。すなわち、第三段
階の両側面は前方傾斜部の両側面2324より少し内側に位した垂直面をなしてい
る。
d、認める。
(三) 認める。しかし、両側枠4142とその前部43とが一体ではなく、組合
わされ、両側枠4142の形状は一つの大きな孤状を形成してある。又、キー3の
前部において、その半分を櫛状に形成し、上面を孤状に形成してなる枠体45を該
櫛状部をキー間に挿入し、他半分を前枠43に載置した如く設けその後方部におい
て第三段階21の前面の上部屈折面に横長の窓孔20aを有する横長方形の枠体2
0がその上縁を折曲げて第三段階の上面に載置された如く取付けてある。
(四) 認める。
(五) だ円形穴及び区画部の点を除き認める。だ円形穴ではなく、両側が円孤状
をなす長穴であり、又区画部ではなく窓孔を有する区枠部である。なお、キヤビネ
ツト2の傾斜面25のキー枠の左に残した部分において、その中央部に縦長方形の
窓孔8を形成し、その窓孔に縁枠が設けてあり、該窓孔の後部に直立板28を斜め
に取付けてある。
(六) 認める。しかし、これを詳記すれば、
a、第一段階と第二段階との境界線のほぼ中央部にハンドル5を軸着し、
b、ハンドル5の形状は腕部を平たく軸部から先端に行くに従つて漸次巾狭く形成
し、その先端部を屈曲させその先端部に先太りの握手を付した形状に形成し、
c、第三段階の屈折上面下方位置にホイール32’を取付け
d、第二段階の前方部に、扁平な腕部でその先端部に握手を取付けたハンドル6を
軸着してある。
(七) 斜線部の点を除き認める。斜線部ではなく、縦斜状の狭い間隙である。し
かしこれを詳記すれば、
a、第二段階と第一段階に跨り、傾斜部の側面に不等辺四辺形の区画板11を設け
てあり、該区画板も第一段階と第二段階との境界線に沿つた区画線が設けられてお
り、上縁の突出片35は第二段階の傾斜縁に沿わせており、区画板の略中央部にホ
イール12を取付け、ホイールの右下寄りに鍵穴のある円形座盤13を設け、区画
板の左側部に縦斜状の狭い間隙14が設けられその間隙に直立板28が挿入されて
おり、
b、第三段階の屈折下面の側面には小さい丸窓孔32’が形成されている。
(八) 認める。
(九) 認める。ただし、キヤビネツトの前方台箱の上面において横巾が台箱の
〇・七倍強、
奥行が台箱の〇・二倍高さが台箱の高さの〇・〇六倍強の台板9が載置された如く
取付けてある。
(一)’認める。しかし、奥行は横巾の約一・二倍弱、高さは横巾の約〇・三二倍
弱であり、前壁は扁平面である。
a’、奥行の約三分の一の点を除き認める。後高部21と前方の傾斜部52とが、
縦に区画された状態に形成され、その区画線が孤状に出張つた線となつており、後
高部21の高さが、前面の高さの三倍で、前方傾斜部が後高部21の前面26の約
二分の一強の高さを基点として前下りの傾斜面となつている。
b’、約二〇度弱の点を除き認める。二〇度弱ではなく二〇度強である。
c’、認める。ただし、後高部21の両側面は前方傾斜部の両側面2324より少
しはみ出し、台箱1の両側面より少し内方に位し、上方に行くに従つて孤状に傾斜
した面をなしている。
d’、認める。
(三)’ 枠4の両側部4142の上縁が弧状をなしている点を除き認める。枠4
の両側部4142の上縁は単なる弧状ではなく大小二個の連続弧状である。しかも
本件意匠が両側枠4142と前枠43とが一体ではなく組合わされているのに反し
て一体に形成されているのみならず、キー列3の間にはその前部において前枠43
と一体となつた薄い隔壁がキーより低く設けてある。
(四)’ 認める。
(五)’ 認める。しかし、後高部21の前面でキーの右側上部に細長い横長方形
の窓孔16が形成され、キヤビネツト2の傾斜面25のキー枠4の左に残した部分
において縦長方形の窓孔を形成し、これに押枠86が横設されている。又矩形穴7
と云つてもこれはキー枠4の右に残つた傾斜面に横長方形の小さい窓孔とホイール
を四分の一位顕出させて並置させたものである。
(六)’ 認める。詳細には、
a、後高部21の下方端にハンドル5を軸着し、
b、ハンドル5の形状は腕の部分を平たく少々先細りでしかも弧状に彎曲させ、そ
の先端に先端部を膨出させた握手を直角に取付けてあり、
c、後高部21の上部には小さい丸窓31が形成され、
d、キヤビネツト前低部右側面のほぼ中央部に鍵穴のある円形座盤33が形成され
ている。
(七)’ 認める。
しかし、
a、傾斜部にその側面により少々小さ目の不等辺四辺形の扉板11をその後縁にお
いて蝶番をもつて取付け、前縁の近くに鍵穴のある円形座盤13とその上下に一つ
づつ鋲を設けてある。
b、しかし、本件登録意匠のような丸窓32’はない。
(八)’ 認める。しかし、本件登録意匠のように、キー枠4左側枠42の下方部
には小形のハンドル15は設けられていない。
(九)’ 認める。更に、キヤビネツト2の前壁下方に扁平で屈折した操作枠6a
が設けられ、その頂部に前高傾斜状の握部を取付けてある。又本件登録意匠の如
く、キヤビネツトの前方の台箱の上面において台板9が設けられてはいない。
五、認める。
六、原告の本件登録意匠のうち、(1)恰も安楽椅子をなすように長方形の角台形
の台箱の上に後部をかなり高く形成し、前部を一段低く、前部の上面を前下りの傾
斜面に形成した形状と(2)更に前下りになつた傾斜面に設けたキーが、上縁部が
段階をなして側壁の上縁よりも弧状に高くなつていて、少しずつ間隔を置いて並列
した形状、模様の二点については金銭登録機において本件登録出願前すでに当業者
間において公知、公用の形態であるが、本件登録意匠と被告製品とを審美感の点よ
り比較してみる。
(一) 正面からみた場合
 本件登録意匠は台箱の前壁が両側から略四分の一位まで彎曲させて出張らせ、そ
の出張つた頂点を直線で結んだ形状になつていて、該台箱の上にキヤビネツトを三
段階に構成し、第三段階は第二段階の約三分の一後方部に設置し、台箱からの高さ
が前壁の高さの二・六五倍でその前面は「く」の字状に届折させて出張つた面にし
てあるので、前壁も段状になつており、第三段階も段状の感じを与え、キヤビネツ
トの第二段階の傾斜面に第三段階に接してキー枠とキーを配設し、キーの高いとこ
ろは第三段階の高さに近くなつており、しかもキーの後方部で第三段階の屈折上面
に横長窓孔を有する横長方形の枠体がその上縁を折曲げて第三段階の上面に載置し
たように取付けられてあり、キー枠の左には先太りの握手を直角に取付けた扁平の
ハンドルが取付けられ、第三段階の屈折下面の左側部には横長の窓孔が、第二段階
の斜面左側部が縦長の窓孔を有する枠体が取付けられ、その後方部に直立板が装設
されてあり、右側部には縦長で両端が丸形をなす窓孔を設け、キヤビネツトの左右
両側面にホイールが取付けられ、又第二段階と第一段階の境界線の路中央にはその
先端部を先太にした握手を取付けた扁平の大きいハンドルが、第二段階の前方部に
は扁平でその先端部に先太りの握手を取付けた小型ハンドルが、それぞれ軸着され
ており、キヤビネツトの前方の台箱の上には台板が載置された如く取付けられてい
るのであり、このように多数の部品と窓孔が取付け配設され、段階稜線及びこれら
の縁、線の鋭角などと相まつて複雑なしかもずんぐりとした粗野で男性的かつ野暮
つたい感を与えている。これに対して被告の意匠は、台箱の抽出枠が一種の模様を
構成し、該台箱の上に約二分の一後方部を前面の高さの三倍に、しかも前面を弧状
に前に出張つた面とし、その弧状は前面の側面に続いた段状の稜線をなして台箱ま
で下降させ、その側面もやや上細りの傾斜をもたせ、前部は後高部の約二分の一の
高さから前下りの傾斜面として形成したキヤビネツトを載置し、その傾斜面に後高
部に接してキー枠キーを配設し、また傾斜面の左前部に縦長方形の窓孔が穿設さ
れ、その窓孔には大小のプラスチツク製窓が間隔を設けて配設されており、左傾斜
面に横長方形の小さい窓孔とホイールをその上部を僅かに顕出させて並設し、キヤ
ビネツトの前部傾斜面の部に菱形長方形状の押扞が設けられ、後高部の前面でキー
の右側上部に細い横長方形の窓孔が、キヤビネツトの前壁の左側下方に扁平で屈折
した操作扞が、その頂部に前高傾斜状の握部を取付けてあり、キヤビネツトの右側
に先端部を膨出させた握手を直角に取付けて成る扁平なハンドルを取付けてある程
度で、複雑かつ多数の部品及び窓孔が施されておらず、台箱、キヤビネツト、キー
枠等の円味と相まつてスマートでふつくらとした女性的暖か味があり、かつ明るく
近代的な単純化された美しさを感じさせる。
(二) 平面的に見た場合
 原告の本件登録意匠は前方に出張りを有する縦長方形の中に段階式に形成し、し
かも傾斜区画線が明瞭な構成をもつキヤビネツトを配設し、数多くの部品が至ると
ころに取付けられ、また数多くの窓孔が穿設され、これに窓枠が設けられているの
で平面から見た感じと同様繁雑で野暮つたい感じである。
 これに対し被告の意匠は縦長方形の中に下から上方に従つて少々細くなつている
キヤビネツトを配設し、これに取付けられた部品も少く、穿設された窓孔なども少
ないので平面から見た感じと同様簡素ですつきりした落着いた感じを与える。
(三) 右側方から見た場合
 原告の本件登録意匠は右側辺に出張りのある横長方形上に段状のキヤビネツトが
載置され、第三段階の屈折下面から大きく弧状に彎曲し下方が流れたような形状の
キー枠が設けられ、この彎曲線状に段状のキーを配設し、その下方に弧状に彎曲し
た前枠が配置され、第三段階の屈折上面下方部にホイールが、第二段階の左方部に
小ハンドルがそれぞれ取付けられ、第一段階と第二段階の境界線上の略中央部に先
細りでその先端部が屈曲しこれに握手が取付けられているハンドルが軸着され、キ
ヤビネツトの左方の横長方形上に平板が載置された如く配設されているので、キヤ
ビネツトの各段階線が明瞭であり、かつその線が直線で屈曲点などと結ばれている
如くなつており、その模様を形成する部品の数が多く、したがつて繁雑でずんぐり
した感じを与える。被告の意匠は横長方形の上にキヤビネツトが載置され、これが
その約二分の一右方部をキヤビネツトの高さの三倍の高さに形成し、その右側線が
上方に従つて内側に傾斜し、左側線が弧状に出張つた線となつていて上縁が右下り
になつており、後高部の該弧状線の約二分の一の高さの位置から左傾した傾斜線と
なり、該斜線上に大小二つの弧状輪廓があつて、その大きい輪廓線上に段状の線廓
が配置され、後高部の下辺部中央に少々先細りで弧状に彎曲したハンドルを軸着
し、該後高部の上部に小さい丸窓孔を、傾斜部の略中央部に鍵穴のある円型座盤を
それぞれ設け、キヤビネツトの前壁の左側下方に扁平で屈折した操作扞がその頂部
に握部を取付けて装設されていて、それぞれの輪廓線が脹らみを持つており、しか
も模様を形成するような部品、穴などが少く、清楚にしてスマートな落着いた印象
を与える。
(四) 左側面から見た場合
 ともに台箱、キヤビネツト、キーおよびキー枠の形状は同じであるが、原告の本
件登録意匠は、キヤビネツトの第二段階と第一段階に跨り、その境界線に沿つた区
画線を設けた不等辺四辺形の区画板をその上縁を第二段階の傾斜線に沿わせて取付
け、右区画板の略中央にホイールを取付けて、その右下寄りに鍵穴のある円形座盤
を設け左側部に縦斜状の狭い間隙を設けてこれに直立板を挿入し、キー枠の側面に
取付けられた小型ハンドルが右直立板の向側にあつて、第二段階の前方側面に取付
けられた小型ハンドルの三分の一上部を眺見でき、キヤビネツトの明瞭な段階線、
屈曲点間が直線で結ばれていて数多い部品などと相まつて複雑かつ野暮つたい印象
を受ける。
 これに対して被告の意匠は傾斜部にこれより少々小さめの不等辺四辺形の扉板が
その左辺において蝶着され、右辺の近くに鍵穴のある円型座盤を設け、右側面に取
付けられているハンドルが後高部の左にその三分の一位上部を眺見でき、前壁の操
作扞も右側面から見た場合と同様に眺見されて、その感じも清楚な中に暖か味のあ
る印象を受ける。
(五) 背面から見た場合
 原告の本件登録意匠は、横長方形の台箱の上に、三段階にしかも上部第三段階
は、下方第一、第二段階よりも巾狭く構成したキヤビネツトを載置し、各段階の境
界線が明瞭であり、第二段階の下方右側と第三段階の上方左側にはホイールが突出
した如く取付けられ、第一段階と第二段階の境界の右側には先太りの握手を直角に
取付けてある大きいハンドルが軸着されてあり、また第二段階の右側にも同様形状
の小さいハンドルが軸着され、第三段階の上面にはキー後方部の窓孔枠の上縁が屈
曲して載置してあるので、その複雑な形状及び模様から野暮つたい印象を受ける。
 これに対し被告の意匠は、横長方形の台箱の上に少々丸味を持つた略梯形状のキ
ヤビネツトの後高部が載置され、その上面が前高傾斜状になつているため該上面が
少少眺見でき、その背面は扁平で右上部には横長方形の窓孔が穿設されており、左
側部には先端の膨出している握手を直角に取付けたハンドルが軸着されていて、こ
のほかには何らの模様もなく、簡潔にしてスマートな中にふつくらとした暖か味の
ある印象を受ける。
 以上のような各方向より見た差異と相まつて、両者を全体的に見た印象は、原告
の本件登録意匠が繁雑で野暮つたい印象を受けるとともに、ずんぐりとしていて男
性的で、粗野な感じを受けしかもスマートさがないのに反して、被告の意匠は清楚
かつ簡潔な印象の中にふつくらとした女性的な暖か味を感じさせ、しかも洗練され
近代的なスマートさの中に落着きのある審美的趣味感をいだかせるものである。こ
のように、意匠構成と美感において格段の差異を有するものであるから、別紙第二
目録表示の金銭登録機の意匠は原告の本件登録意匠に類似するものではない。
七、(一)認める。
(二) 否認する。
証拠(省略)
 第一目録
添付図面A・B及び説明書に示すごとき金銭登録機の形状、模様の結合(但しB図
は便宜上A図の部分に番号を付したもの。)
<11534-001>
<11534-002>
 説明書
 機の下に設けられた台箱の形状を、平面形が奥行の長い略長方形で高さが横巾の
約3分の1の角台形とし、その前面に枠縁を設け、その台箱の上に、台面の前部を
広く左右部と後部とを少し残してキヤビネツトを載置し、キヤビネツトは奥行の約
3分の1の後部において、その高さをキヤビネツトの前面の高さの約3倍弱の高さ
に形成し、傾斜面部より高く出ている部分の付根部から上の周囲を一段小さくし、
その付根部から下方に、横状の線を表わし、その線はキヤビネツトの周側まで続い
て表わし、キヤビネツトの後部の高くなつた部分の前方(キヤビネツトの奥行の約
3分の2の部分)を前下りの傾斜面(約二十度弱)とし、その傾斜面において前部
と右部を稍広く残し、左部をより広く残し、後部に接して、キーとキーを囲んだ枠
を設け、その枠の両側壁をかなり厚味のあるものとし、その上縁部を弧状に形成
し、両側壁の間には間隔を少しずつ置いて、七列にキーを並列し、そのキーの上縁
部を段階状として側壁の上縁部よりも少し高く弧状に形成し、前枠の側面を小さい
弧状とし、その前枠にはキーの間に入りこんだ隔壁を突設し、キーの枠部の高くな
つている傾斜面に、横長の区画部を設け、キーの側壁の右に残した傾斜面には小さ
いだ円形部を表わし、キーの側壁の左に残したかなり広い傾斜面には、大きい長方
形の区画部等を設け、キヤビネツトの右側面においては、中央稍下と左方上部に軸
を設けて、これにハンドルを取り付け、ハンドルの腕部は平たく先を漸次せまく形
成しその先端に先が太くなつた握棒を取り付け、キヤビネツトの左側面において
は、大きな不等辺四辺形の区画部を設け、区画部の面には円形突出部と円形部並び
に斜線等を表わし、キヤビネツトの前に接して台箱の上に、低い台盤を設けたもの
 第二目録の(一)
 添付図面及び説明書に示すごとき形状、模様をなした金銭登録機
<11534-003>
<11534-004>
<11534-005>
 説明書
 機の下に設けた台箱の形状を、奥行の稍長い略長方形で、高さが横巾の3分の1
位の角台形とし、その前面に枠縁を設け、その台箱の上に、台面の前部を広く、左
右部と後部を少し残してキヤビネツトを載置し、キヤビネツトは、奥行の約3分の
1後方部を、キヤビネツトの前面の高さの約3倍弱の高さに形成し、その高い部分
の上面を稍前高とし、高い部分の前面を稍弧状に反つた面とし、その弧状はキヤビ
ネツトの側面に続いて段状のリヨウ線をなして台箱まで下降し、後部の高い部分の
背面は、上方に至るに従つて漸次前方に稍傾斜した扁平面とし、その上部に横長の
窓を設け、キヤビネツトの後部の高くなつた部分の前方(キヤビネツトの奥行の約
3分の2の部分)を前下りの傾斜面(約二十度弱)とし、その傾斜面において前部
と右部を稍広く残し、左部をかなり広く残して、キーとキーを囲んだ枠を設け、そ
の枠の両側壁をかなり厚味のあるものとし、その上縁部を大きい弧状部から続いて
その前方に小さい弧状部を形成した態様とし、両側壁の間に、間隔を少しずつ置い
て七列にキーを並列し、そのキーの上縁部を段階状として側壁の上縁部よりも少し
高く弧状に形成し、キーの間には前枠から突出した隔壁を、後方まで通して設け、
キーの枠部の後方の高い部分の面の右上に、横長形の窓を設け、キーの側壁の右に
残した傾斜面には、小さい長方形の区画を設け、側壁の左に残した傾斜面には稍大
きい長方形の区画を設け、前に残した傾斜面には左に小さい長方形輪廓の窓を、中
央に両端が丸形をなす長い形状のプレートを取り付け、キヤビネツトの右側面にお
いては、後方の高くなつた部分の下寄りに軸を設けて、これにハンドルを取り付
け、そのハンドルは腕の部分を平たく、先に至るに従つて弧状をなして細く形成
し、その先端に先が太くなつた握棒を取り付け高い方の上部と傾斜面部の方の中央
に丸形の孔を設け、キヤビネツトの左側面においては、大きな不等辺四辺形に区画
部を設け、その後辺にそつて蝶番を設け、前辺の近くに円形の座板等を設けたもの
 第二目録の(二)
添附図面および説明書に示す形状、模様をなした金銭登録機
<11534-006>
<11534-007>
<11534-008>
 説明書
 第二目録の(一)における「キーの枠部の後方の高い部分の面の右上に設けた横
長形の窓」に相当するものを欠くだけで、その他の形状、模様は第二目録の(一)
と同じ。
 第二目録の(三)
 添附図面および説明書に示す形状、模様をなした金銭登録機
<11534-009>
<11534-010>
<11534-011>
 説明書
 第二目録の(一)の左側面の大きな不等辺四辺形の区画部に更に領収証紙又は認
証伝票の差込口を有する斜めの直線状枠が突設されている。
その他の形状、模様は第二目録の(一)と同じ。

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