弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は、原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、東京都東村山市に対し、九四二万三七〇六円及びこれに対する平成元
年九月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 (当事者)
原告ら及び選定者Aは、東京都東村山市(以下「東村山市」という。)の住民であ
り、被告は、東村山市長である。
2 (固定資産税を賦課しなかった事実)
東村山市は、同市内に所在する別紙借用地一覧表の借用地欄記載の各土地(以下
「本件各土地」という。)を同表の施設名欄記載の体育施設用地としてその所有者
らから借り受けていたが、被告は、本件各土地が地方税法三四八条二項一号の非課
税用途に供されている固定資産に該当するとして、本件各土地に対する昭和六三年
度の固定資産税(以下「本件固定資産税」という。)をその所有者らに賦課しなか
った。
3 (違法性)
しかしながら、本件各土地が地方税法三四八条二項一号の非課税用途に供されてい
る固定資産に該当するとしても、同項ただし書は、「固定資産を有料で借り受けた
者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合においては、当該固定資産の所
有者に課することができる。」と定め、右規定を受けて東村山市税条例(以下、単
に「条例」という。)四〇条の六は、「固定資産を有料で借り受けた者がこれを法
第三四八条二項各号に掲げる固定資産として使用する場合においては、当該固定資
産の所有者に対し固定資産税を課する。」(右規定中「法」とは地方税法を指
す。)としているのであるから、東村山市が本件各土地を有料で借り受けている場
合には、その所有者らに対し固定資産税を賦課しなければならないところ、東村山
市は、本件各土地を借り受けるについてその所有者らに対して報償費の名目のもと
に三・三平方メートル当たり月額五〇円の使用料を支払っていたのであるから、本
件各土地を有料で借り受けていたものというべきであり、したがって、被告が本件
固定資産税を未だ賦課していないことは、条例四C条の六に違反し違法である。
4 (損害の発生)
本件固定資産税の額は、別紙借用地一覧表の固定資産税額欄記載のとおりであり、
その合計額は九四二万三七〇六円であるから、東村山市は、被告が違法に本件固定
資産税を賦課しないことにより、右の金額と同額の損害を被った。
5 (監査請求)
原告らは、平成元年六月一二日付けで東村山市監査委員に対し、被告が違法に固定
資産税を賦課しなかった事実による東村山市の損害の補填及び違法行為の防止の措
置を求めて監査請求をしたところ、同監査委員は、同年八月一〇日付けで、原告ら
の請求は理由があると認め、東村山市長に対し、原告らが請求した措置のうち、違
法行為の防止について勧告をしたが、東村山市の損害の補填については、何らの勧
告もしなかった。
6 よって、原告らは、右の監査結果に不服であるから、地方自治法二四二条の二
第一項四号に基づき、東村山市に代位して、被告に対し、右損害金九四二万三七〇
六円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年九月一六日から支払済み
まで年五分の割合による遅延損害金を東村山市に対して支払うよう求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1(当事者)及び同2(固定資産税の賦課をしなかった事実)は認め
る。
2 同3(違法性)のうち、東村山市が本件各土地を借り受けるについてその所有
者らに対して報償費の名目のもとに三・三平方メートル当たり月額五〇円を支払っ
ていたことは認め、その余は争う。
3 同4(損害の発生)は争う。
4 同5(監査請求)は認める。
5 同6は争う。
三 被告の主張
1 条例四〇条の六にいう「有料で借り受けた」とは、固定資産を有償で借り受け
たこと、すなわち賃貸借契約のような有償契約に基づいて固定資産を借り受けたこ
とを意味する。
しかしながら、本件各土地の周辺土地の賃料額は、一平方メートル当たり月額一五
一円ないし五一八円であるのに対して、東村山市が本件各土地の所有者らに支払っ
た報償費は一平方メートル当たり月額約一五円(三・三平方メートル当たり月額五
〇円)にすぎないのであるから、本件各土地の賃借契約に有償性はなく、東村山市
は使用貸借契約に基づいて本件各土地を借り受けていたにすぎないというべきであ
る。
したがって、本件各土地については同条の適用はなく、被告が地方税法三四八条二
項本文に基づいて本件固定資産税を賦課しなかったのは適法である。
2 被告には、固定資産を有料で借り受けた者がこれを地方税法三四八条二項各号
に掲げる固定資産として使用する場合において、当該固定資産の所有者に対して固
定資産税を賦課するか否かについて裁量があり、仮に、東村山市が本件各土地を有
料で借り受けていたとしても、被告が本件固定資産税を賦課しなかったことは右裁
量の範囲内であるから適法である。
すなわち、同項ただし書は、固定資産を有料で借り受けた者がこれを同項各号に掲
げる固定資産として使用する場合においては、固定資産税を「当該固定資産の所有
者に課することができる。」旨規定しており、このような場合に固定資産税を課す
るか否かについて市町村に裁量を認めているところ、条例四〇条の六は、文言上は
地方税法三四八条二項ただし書によって与えられた右の裁量の範囲を制限したよう
にもみられるが、条例が地方税法を受けて制定されていることからすれば、条例四
〇条の六にいう「固定資産税を課する」とは、地方税法三四八条二項ただし書の
「固定資産税を課することができる」と同趣旨に解すべきであり、したがって、東
村山市が本件各土地を有料で借り受けていたとしても、被告はこれに対して固定資
産税を賦課するか否かの裁量を有するというべきである。
そして、地方税法三四八条二項が一定の用途に供した固定資産について固定資産税
を非課税とした趣旨は、無料で固定資産の提供を受けた者が当該固定資産を非課税
用途に供している場合には、提供した固定資産の所有者自身が、いわば犠牲的精神
でもって当該固定資産を非課税用途に供しているということかできるので、当該固
定資産に係る固定資産税を非課税とする十分な理由があるという点にあると解すべ
きところ、本件各土地の所有者らのようにわずかな報償費を受けることによって土
地を非課税用途に提供している者も犠牲的精神に基づいているという点では同様で
あるから、本件固定資産税を非課税とする十分な理由があるというべきである。し
たがって、被告が本件固定資産税を賦課しなかったことがその裁量の範囲内にある
ことは明らかである。なお、仮に、条例四〇条の六の「固定資産税を課する」との
規定が地方税法三四八条二項ただし書の「固定資産税を課することができる」との
規定より裁量の範囲を制限したものであるとしても、本件各土地については右のと
おり非課税とする十分な理由があるので、被告が本件固定資産税を賦課しなかった
ことは、やはり被告の裁量の範囲内にあるというべきである。
3 被告が本件固定資産税を賦課しなかったことは、地方税法六条により適法であ
る。すなわち、東村山市は、市民のスポーツ振興、健康の増進のため、昭和四九年
一〇月一〇日にスポーツ都市宣言をし、さらに昭和四九年度に市内一三町体力つく
り推進委員会の組織づくりを行って、市民総ぐるみのスポーツ行事参加を促進して
いるが、その結果、スポーツ人口が増加し、現状では、市内のゲートボール場、少
年野球場及びテニスコートが不足している。そこで、東村山市としては、これらの
体育施設を確保する必要があるが、地価の高騰により財政上これらの施設用地を取
得することが困難となっているために本件各土地をその所有者らから借り受けて右
用途に当てているのである。このように、東村山市が本件各土地について報償費を
支払いながら固定資産税を賦課しなかったのは、市民のスポーツ振興、健康の増進
という公益上の目的を達成するためであるから、地方税法六条にいう「公益上その
他の事情により課税を不適当とする場合」に該当するというべきである。
なお、地方税法六条による非課税の範囲は条例をもって規定することが望ましいと
しても、そのような条例がない場合に直接同条に基づいて非課税とすることが不適
法ということはできない。
4 右3のとおり、東村山市は、本件各土地に係る体育施設を確保する必要があっ
たところ、仮に、本件各土地の借受けについて、所有者らに報償費を支払いながら
固定資産税を賦課しなかったことが違法であるとすれば、東村山市としては、本件
各土地の所有者らが固定資産税が非課税となるとしても無料で本件各土地を貸すこ
とは期待できなかったから、本件各土地を確保するためには、結局、固定資産税を
賦課しながら、有料で借り受ける方法をとる以外にはなかったことになるが、この
方法による場合には、本件各土地の所有者らと賃貸借契約を締結して通常の水準の
賃料を支払わざるを得なかったものである。
そうすると、被告が本件固定資産税を賦課しなかったことにより東村山市に損害が
発生したというためには、東村山市が本件各土地を通常の賃貸借契約によって借り
受けたとした場合に昭和六三年度中に支出しなければならなかったはずの賃料額
が、現実に同市が本件土地について同年度中に支出した報償費と非課税とされた本
件固定資産税相当額との合計額よりも低額でなければならないはずである。
しかるに、本件各土地の周辺土地の賃料額は、最も低額な廻田町第一ゲートボール
場用地の周辺土地においてさえ三・三平方メートル当たり月額約四九八円(一平方
メートル当たり月額一五一円)であるから、東村山市が本件各土地を賃貸借契約に
よって借り受けたとすれば、少なくとも三・三平方メートル当たり月額四九八円以
上の賃料を支払わなければならなかったのに対し、本件固定資産税相当額は、これ
を三・三平方メートル当たりの月額に換算すると、別紙借用地一覧表の三・三平方
メートル当たり月額欄記載のとおりであり、最も高額な本町第一ゲートボール場用
地においても二二七円にすぎず、これに報償費を加算しても三・三平方メートル当
たり月額二七七円にしかならないのである。
したがって、被告が本件固定資産税を賦課しなかったことにより東村山市には何ら
損害が発生していない。
四 被告の主張に対する原告もの認否及び反論
1 被告の主張1ないし4は争う。
2 (被告の主張1について)
固定資産を借り受けた者がこれを地方税法三四八条二項各号の固定資産として使用
する場合に、同項本文により固定資産税が非課税とされるのか、あるいは同項ただ
し書、条例四〇条の六により固定資産税が課されるのかは、当該固定資産の借受け
の基礎となる契約が賃貸借契約であるか使用貸借契約であるかといった契約の法的
性格によって決定されるのではなく、当該固定資産を借り受けた者が、その所有者
らに対し、金額の多少にかかわらず使用料たる金員を支払ったか否かによって決定
されるというべきである。そして、本件各土地については、報償費の名目のもとに
三・三平方メートル当たり月額五〇円の使用料が支払われていたのであるから、
「有料で借り受けた」場合に当たることは明らかである。
また、本件各土地は農地であるところ、本件各土地について支払われた三・三平方
メートル当たり月額五〇円の使用料は、宅地の賃貸借契約における賃料としては低
廉であるとしても、農地の賃貸借契約における賃料としては適正額である。
3 (被告の主張2について)
本件各土地の所有者らが本件各土地を体育施設用地として東村山市に貸したのは、
犠牲的精神に基づくといったような理由によるものではなく、農地である本件各土
地を貸すことによって、貸借期間中は、三・三平方メートル当なり月額五〇円の報
償費が支払われ、固定資産税が賦課されないことになることに加えて、東村山市が
本件各土地の管理責任を負担し、また、借受けに際して農地転用許可手続が必要と
されないために貸借契約の終了による返還後も、長期営農継続農地としての認定を
受けうるといった十分な利益があったからである。
4 (被告の主張4)について
仮に、昭和六三年度中に東村山市が本件各土地に固定資産税を賦課した上、これを
賃借していたとしても、これまでの報償費支出の経緯からすれば、三・三平方メー
トル当たり月額五〇円の報償費相当額に本件固定資産税相当額を加えた金額以上の
賃料を、本件各土地の所有者らに対して支払わなければならなかったとする理由は
ない。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
一 請求原因1(当事者)、同2(固定資産税を賦課しなかった事実)及び同5
(監査請求)は当事者間に争いがない。
二 固定資産税を賦課しなかった事実の違法性について
1 (一) 東村山市が本件各土地を借り受けるについてその所有者らに対して報
償費の名目のもとに三・三平方メートル当たり月額五〇円を支払ったことは当事者
間に争いがないところ、原告らは、右の金員の支払いがあったから、東村山市は、
本件各土地を有料で借り受けたものであり、被告が本件固定資産税を賦課していな
いことは、条例四〇条の六に違反し違法であると主張するのに対し、被告は、同条
にいう「有料」とは「有償」と同義であり、東村山市は、本件各土地を使用貸借契
約に基づいて借り受けていたのであって、有償で借り受けていたものではないか
ら、本件土地の借受けについては同条の適用はなく、被告が本件固定資産税を賦課
しなかったのは地方税法三四八条二項本文により適法であると主張する。
(二) そこでまず、地方税法三四八条二項ただし書及び条例四〇条の六の「有
料」の意義につき考えるに、この「有料」とは、固定資産の貸借契約において、借
主が貸主に対しその貸借に牽連性を有する一定の金員を支払う旨の合意をし、その
合意に基づいて契約上の債務としてその金員が支払われれば足り、その金員の額が
その貸借に見合うものとはいい得ないときであっても、有料と解することに妨げは
ないというべきである。
この点に関し、被告は、この「有料」とは、民法上の有償契約の「有償」と同義に
解すべき旨の主張をしている。ところで、民法は、或る物の貸借契約について、借
主が貸主に対しその貸借に牽連する金員を支払っていたとしても、それだけで、当
該契約を当然に有償の貸借契約であるとするわけではなく、その金員の額のほか、
貸借に至る事情をも考慮して、当該金員が或る物の貸借に見合うものといえる場合
すなわち対価といい得る場合に初めて、当該契約を有償の貸借契約すなわち賃貸借
契約をしているのであるが、これは、賃貸借契約と使用貸借契約との間における規
律の相当の相違、ことに賃貸借契約においては使用貸借契約に比べて借主が受ける
保護が極めて手厚いことによるものである。そして、固定資産税の賦課について民
法上の規律の違いを当然に考慮すべきであるとはいえないこと、また、前記の地方
税法や条例の規定ではわざわざ「有料」と規定し、「有償」という用語を用いてい
ないことに鑑みると、被告の右主張は採用し難い。
そして、地方税法は、固定資産税を、固定資産を所有する事実に担税力を認めてそ
の所有者に課するのを原則とし、収益の多寡にかかわらず、固定資産の価格を課税
標準とする租税と構成していることからすれば、有料の意義を、先に述べたように
解したからといって合理性を欠くものではない。
(三) 本件では、右(一)のとおり、東村山市は、本件各土地を借り受けるにつ
いてその所有者らに対し報償費の名目のもとに三・三平方メートル当たり月額五〇
円を支払っていたことは当事者間に争いがなく、この事実と弁論の全趣旨によれ
ば、この報償費の支払は、本件各土地の貸借に牽連性を有するものであって、契約
上の債務の履行としてされたものということができる。
そうすると、右報償費の額が本件各土地の固定資産税額を相当に下回っており、ま
た、通常の賃料を大幅に下回っているとしても、東村山市が本件各土地を有料で借
り受けていたものというに妨げはなく、したがって、右(一)の被告の主張は、そ
の前提を欠き失当である。
2 被告は、地方税法三四八条二項各号に掲げる固定資産が有料で借り受けられて
いる場合にも、当該固定資産の所有者に対し、固定資産税を賦課するか否かについ
ては、被告に裁量があり、仮に、東村山市が本件各土地を有料で借り受けていたと
しても、本件固定資産税を賦課しなかったのは右裁量の範囲内であるから適法であ
ると主張する。
同項ただし書が、固定資産を有料で借り受けた者がこれを同項各号の固定資産とし
て使用する場合について「固定資産税を課することができる。」と規定している趣
旨は、市町村に対し、固定資産税を賦課するか、賦課しないか、賦課するとした場
合にどの範囲で賦課するかの裁量を認めたものと解されるが、それはあくまでも、
市町村が条例によって決めるべきものであって、条例をまたずに、賦課権者に裁量
を認めたものと解すべきではない。そして、東村山市では、条例四〇条の六を設
け、「固定資産を有料で借り受けた者がこれを地方税法第三四八条二項に掲げる固
定資産として使用する場合においては、当該固定資産の所有者に対し固定資産税を
課する。」と規定しているのであるから、条例によって、具体的事情を問わず一律
に固定資産税を課することとしているのである。
そうすると、固定資産税を賦課するか否かについて被告に裁量がないことは明らか
であり、被告の主張は失当である。
3 また、被告は、本件固定資産税を賦課しなかったことは、地方税法六条により
適法であると主張する。
地方税法六条一項は、個々の地方団体に対し、公益上その他の事由があるときはそ
の独自の判断により、一定の範囲で課税しないことを認めているが、他方におい
て、同法三条一項は、地方団体が、その地方税の税目、課税客体、課税標準、税率
その他賦課徴収について定めをするには、当該地方団体の条例によらなければなら
ないと規定しているから、地方団体が地方税法六条一項に基づいて固定資産税を非
課税とするには、条例をもってその旨を定めなければならないというべきである。
しかるに、東村山市が本件固定資産税を課税しないことを是認する旨の条例の規定
を設けていないことは被告の自認するところであるから、被告の右主張はそれ自体
失当である。
4 以上によれば、東村山市は、本件各土地を有料で借り受けていたものであり、
条例四〇条の六に基づき本件各土地についてはその所有者に固定資産税が賦課され
るべきところ、被告が本件固定資産税につき、その法定納期限(右三参照)を経過
しているにもかかわらず、なおこれを賦課していないことを適法であるとする根拠
は見出し難いから、被告が本件固定資産税を賦課していないことは、違法であると
いわなくてはならない。
三 損害の発生について
原告らは、被告が本件固定資産税を賦課しなかったことにより、東村山市は本件固
定資産税の額九四二万三七〇六円と同額の損害を被ったと主張する。
被告が本件固定資産税を賦課していないことが違法であることは、右二のとおりで
あるが、そうであるからといって直ちに東村山市に本件固定資産税の額と同額の損
害が発生したということはできない。すなわち、仮に、被告が今後において本件固
定資産税を賦課徴収したとすれば、結局、東村山市に本件固定資産税の額に相当す
る損害は発生しないのであり、現時点では、被告が本件固定資産税を賦課徴収する
につき法令上格別の支障があるわけではないから、被告が本件固定資産税を賦課し
ないままの状態が今後も継続し、本件固定資産税の賦課決定をすることのできる期
間が経過してしまわない限り、東村山市には本件固定資産税の額と同額の損害が発
生したものということはできないのである。
しかるところ、固定資産税の賦課決定は、法定納期限の翌日から起算して五年を経
過した日の前日まですることができるところ(地方税法一七条の五第三項)、固定
資産税の法定納期限は、当該年度の第一期分の納期限(四月中において当該市町村
の条例で定める納期の納期限)であり(同法一一条の四第一項、三六二条一項)、
東村山市においては条例四八条一項により四月三〇日が第一期分の納期限と定めら
れている。したがって、本件固定資産税の賦課決定をすることができる期間は、平
成五年四月三〇日までであるが、未だこの期間を経過していないことは明らかであ
る。
もっとも、原本の存在及び成立に争いのない乙第七号証、証人Bの証言によれば、
昭和六三年度当時、東村山市が本件各土地を借り受けるについて各所有者と締結し
ていた貸借契約には、東村山市は本件各土地に係る契約期間内の固定資産税及び都
市計画税を減免するものとする旨の条項が存在していたことが認められる。しかし
ながら、租税債権は法律、条例等の定めるところに基づいて当然に成立し、又は消
滅するのであって、特段の事情のないかぎり課税主体と納税義務者との合意により
その内容を左右することはできないというべきところ、本件において右特段の事情
については何らの主張も立証もないから、右契約条項の存在によって、被告が本件
各土地の所有者らに対して本件固定資産税を賦課することが妨げられることにはな
らないというべきである。
そうすると、被告が本件固定資産税を賦課していないことは違法ではあるが、この
ことにより東村山市に本件固定資産税の額と同額の損害が発生したものということ
はできない。
したがって、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由が
ない。
四 よって、原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件
訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決す
る。
(裁判官 鈴木康之 石原直樹 深山卓也)

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